9時に学校へ到着すると、玄関前で、たも網とケースを持った子ども達に出会った。
2年生が、これから幼稚園との交流授業で「生き物探し」に行くと、元気に答えてくれた。
今朝、新聞でB小学校の「緑の少年団」結成の記事を見た。同校が緑化推進活動や環境学習に力を入れると言った記事に触れたばかりだった。
今回の出前授業もそのお手伝いになればと思った。
校長室に案内され、しばし授業時間を待つ。開け放たれた窓から、秋のさわやかな風が入ってきた。
窓に広がる田園風景に、磐越西線上り列車2両が音もなく通過していく。こんな静かな空間で子ども達と毎日過ごせる教員を羨ましく思った。
2校時は9:25の始まり、5年生の教室へ入ると8名の生徒がきちんとした姿勢で迎えてくれた。一緒に町の報道の方が、カメラを手に教室の後ろに入った。
まず自己紹介を兼ねて、昆虫少年だったころからの虫との関わり、今絶滅が危惧されるチョウやトンボを守る活動をしていることを話した。
50年も前のチョウの標本を取り出すと、生徒の反応は一変した。中にはルリタテハだ、と叫ぶ昆虫少年もいた。
標本についてはいろいろ心配して持参したが、不安は吹き飛んだ。チョウの保護を訴えながらの採集標本であり、昆虫採集や標本の意義を添えた。
授業のテーマ「貴重なヒメシロチョウを守る」を板書した。
【貴重とは ① 絶滅が心配される(絶滅危惧第1類) ② この地で細々生息している。】
先ず、カラー両面刷りの資料をもとに、地元で撮った多くのチョウやトンボの写真(A4)を見せながら昆虫の話をした。
次に目的のヒメシロチョウに関わる内容を、カラーの自作パンフレット「絶滅危惧種 ヒメシロチョウ -その生態と保護-」をもとに簡単に解説、
これから実際に野外へ出て観察する期待を膨らませた。
10:10 長袖、長ズボンに紅白帽、資料と課題の「観察メモシート」を携えた生徒8人と担任のE先生と学校を出発。
時間の都合もあり、当初の計画の観察フィールドを近くの土手に変更した。道すがらトンボ、チョウ、植物を観察できた。
途中見た昆虫は、ヤマトシジミ♂、キタキチョウ、モンキチョウ♂♀、ナツアカネ♂、ノシメトンボ♀、シオカラトンボ♂♀、シオヤトンボ♂、など。
ナガメの幼虫の群れやウラナミシジミ、オツネントンボも見つけた。
植物はクズ、ツリフネソウ、クサノオウ、クサネムなどを解説。子ども達はそれぞれに観察メモシートに記録していた。
曇り空、微風、学校から300mほど上ったソバ畑の土手一帯にヒメシロチョウが数頭舞っていた。
この土手にはツルフジバカマが繁茂し、生徒全員がツルフジバカマの葉に産まれた卵を見つけルーペで観察した。
無事に蛹まで育ち、来春の無事の羽化を願った。
美しく咲くツルフジバカマの花や葉を観察した。葉の付き方や花の形をスケッチした。
何名かの生徒はヒメシロチョウがお腹を曲げて産卵する様子を見ることが出来、飛び去ったあとの紡錘形の白い卵を確認出来た。
また、生徒が手のひらで静かにしているシジミチョウを持ってきた。ウラナミシジミだった。
このチョウはこの辺りで越冬はできないが、発生を繰り返し秋に見られる。
帰りには農道を横切るタヌキを見かけ生徒が追いかけたり、ひとときの思い出の野外観察授業となった。
先生に聞くと、野外に出ての授業はないようで、生徒は歩きながらの虫や植物の話が楽しかったようだ。
現物に触れることができるこんな環境の良いところでの授業を勧めた。
わずかなふれあいだったが、楽しかった。こんなに近づくことができるのか、物怖じせず、積極的に質問する生徒が愛おしかった。
教室へ戻り、まとめとして「昆虫と自然のしくみ」、一つ一つの生き物はばらばらでなくつながっていることを確認した。
もう一つ、ふるさとのチョウを守るため、ツルフジバカマの移植やヒメシロチョウの飼育、観察ができたらとの希望を述べた。
しっかり終わりの挨拶をした後、E先生が記念撮影をしてくれた。
皆が手に手に写真や図鑑、標本箱を持ってカメラに収まった。
このような授業の機会を設けてくれた学校、教育委員会に感謝したい。
これからも地域の子ども達に、局地的にこの地に細々生きるヒメシロチョウに関心を持ち見守って欲しいと思う。
そんな願いを抱きながら学校を後にした。 2016.9.16