明治42年11月6日大阪朝日新聞
一面トップ記事
日本醤油会社の大失態
近年産業の進歩は、機械力を応用して自然力に打ち勝とうとしている。一個人の出資としないで数千人、数万人より出資を求め、大仕掛けの会社組織と事業経営を為そうとしている。かかるがゆえにあらゆる産業が古式をそのまま踏襲し、一子相伝的に経営するものは、徐々に敗北者になるような観ある。しかし、静かに考えてみると、科学の大進歩とてここ百年来のことであり、軍事上、政治上、ことに産業上に学問の応用が旺盛となったのはここ三四十年のことである。しかもなお日進月歩の途上にある。日進月歩とは昨日採算が取れていたものが今日は不採算となる、今日の経営状態が良好であっても来月は大改革を要する状態となっていて油断もすきもない世の中のたとえでもある。うっかり生半熟の試作を信頼して、大仕掛けの経営を為そうとして、とんでもない大失態の素となるものである。数日にわたり本紙に連載した60日醤油の醸造元である日本醤油醸造株式会社(資本金1千万円)の大失敗、すなわちこのたとえの例となっている。同社は明治40年に創立した新会社で、従来二年余の時日を費やせねば完全なる醸造を得難かった醤油をわずか二ヶ月に短縮し。内地の醤油需要を一手で充たすのみならず、海外に輸出して日本醤油をあまねく世界の津々浦々に味あわせようと凄まじき意気込みと目論見をもって出資株主を募集し、あっという間に集まった大会社であった。
大阪朝日新聞の旧来の産業と新しい産業に対する見方。明治末期の資産運用として株式会社という制度で未公開株(現在の言葉で)を昭和バブル期のゴルフ会員権のように小分けして公開して行ったのだろうか。
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日本醤油会社の大失態
近年産業の進歩は、機械力を応用して自然力に打ち勝とうとしている。一個人の出資としないで数千人、数万人より出資を求め、大仕掛けの会社組織と事業経営を為そうとしている。かかるがゆえにあらゆる産業が古式をそのまま踏襲し、一子相伝的に経営するものは、徐々に敗北者になるような観ある。しかし、静かに考えてみると、科学の大進歩とてここ百年来のことであり、軍事上、政治上、ことに産業上に学問の応用が旺盛となったのはここ三四十年のことである。しかもなお日進月歩の途上にある。日進月歩とは昨日採算が取れていたものが今日は不採算となる、今日の経営状態が良好であっても来月は大改革を要する状態となっていて油断もすきもない世の中のたとえでもある。うっかり生半熟の試作を信頼して、大仕掛けの経営を為そうとして、とんでもない大失態の素となるものである。数日にわたり本紙に連載した60日醤油の醸造元である日本醤油醸造株式会社(資本金1千万円)の大失敗、すなわちこのたとえの例となっている。同社は明治40年に創立した新会社で、従来二年余の時日を費やせねば完全なる醸造を得難かった醤油をわずか二ヶ月に短縮し。内地の醤油需要を一手で充たすのみならず、海外に輸出して日本醤油をあまねく世界の津々浦々に味あわせようと凄まじき意気込みと目論見をもって出資株主を募集し、あっという間に集まった大会社であった。
大阪朝日新聞の旧来の産業と新しい産業に対する見方。明治末期の資産運用として株式会社という制度で未公開株(現在の言葉で)を昭和バブル期のゴルフ会員権のように小分けして公開して行ったのだろうか。