明治42年12月19日東京朝日新聞
醤油早醸造について
日本醤油醸造会社が醤油早造りの方法を案出し法で禁止していたサッカリン又はホルマリンを混入し大頓挫を招いたがこれに関して世に醤油王として知られる千葉県葛飾郡野田町茂木啓三郎氏(キッコーマン)の談話によれば同会社の今回のことは斯業発展の例より見るとき、むしろ大いに悲しむべきことなりと言う。由来醤油の早造りは斯業多年の宿題にてこのため幾多の研究を重ね失敗また失敗ついには再起することが出来なかった例が多い。然れどもなお研究を重ねる余地を存することは勿論余等は国家経済上より公衆衛生上より、また斯業進歩の上より常にこの研究を怠らず、而して予は器械よりも製麹(せいきく)及びこれが発酵熟成の原理に向かって研究を進め従来熟成期間3年の気候を一年間に短縮し、一年の温度を一日に短縮し種々の試験をなしたる結果一日の間に春(午前3時より同10時まで)夏(午前11時より午後2時半まで)秋(午後2時半より同8時半まで)冬(午後8時半より翌午前3時まで)の四期あるのを発見しこの間において製麹上におけるバイキンの発生及びその活動作用・もろみの熟成作用を研究せしにバイキンは一昼夜にて発生し、発酵は三ヵ月間にて良く、空気乾燥及び融和作用を完成し得ることを発見せし。而して、その風味は主として製麹は原料及びその限度の如何に因し熟成作用によって五味(酸・甘・渋・辛・苦)を備えて初めて人口に美味を生じせしむるものを発見し、これを従来のゆっくりと熟成してその五味の自然作用を完全するものなるを知れリ。由来世に五穀と称する大豆・米・小麦・大麦・粟の五種はよく上記の五味を備えて醸造に適しているものであるが稗のごときは甘にあらずば腐・小豆・インゲン・エンドウのごときもまた甘と腐との二つを出でず全く五味を欠きて醸造に適せざる物なり。而して麹を養うにはその温度・人体の温度を平温にしてバイキンまた人体より以上の温度を要求せずしてよく発生活動をし炭酸ガスと空気の配分によりよりよく五味を備え熟成の後は圧搾によって苦味を去り火入れによって渋を去ることによって始めて人の口に上るを得るものなれば予はこの方法によって早造りを試み良好なる成績を収めつつあれど尚より以上有益なる発明の出でんことを待ち望むものなり云々。
醤油早醸造について
日本醤油醸造会社が醤油早造りの方法を案出し法で禁止していたサッカリン又はホルマリンを混入し大頓挫を招いたがこれに関して世に醤油王として知られる千葉県葛飾郡野田町茂木啓三郎氏(キッコーマン)の談話によれば同会社の今回のことは斯業発展の例より見るとき、むしろ大いに悲しむべきことなりと言う。由来醤油の早造りは斯業多年の宿題にてこのため幾多の研究を重ね失敗また失敗ついには再起することが出来なかった例が多い。然れどもなお研究を重ねる余地を存することは勿論余等は国家経済上より公衆衛生上より、また斯業進歩の上より常にこの研究を怠らず、而して予は器械よりも製麹(せいきく)及びこれが発酵熟成の原理に向かって研究を進め従来熟成期間3年の気候を一年間に短縮し、一年の温度を一日に短縮し種々の試験をなしたる結果一日の間に春(午前3時より同10時まで)夏(午前11時より午後2時半まで)秋(午後2時半より同8時半まで)冬(午後8時半より翌午前3時まで)の四期あるのを発見しこの間において製麹上におけるバイキンの発生及びその活動作用・もろみの熟成作用を研究せしにバイキンは一昼夜にて発生し、発酵は三ヵ月間にて良く、空気乾燥及び融和作用を完成し得ることを発見せし。而して、その風味は主として製麹は原料及びその限度の如何に因し熟成作用によって五味(酸・甘・渋・辛・苦)を備えて初めて人口に美味を生じせしむるものを発見し、これを従来のゆっくりと熟成してその五味の自然作用を完全するものなるを知れリ。由来世に五穀と称する大豆・米・小麦・大麦・粟の五種はよく上記の五味を備えて醸造に適しているものであるが稗のごときは甘にあらずば腐・小豆・インゲン・エンドウのごときもまた甘と腐との二つを出でず全く五味を欠きて醸造に適せざる物なり。而して麹を養うにはその温度・人体の温度を平温にしてバイキンまた人体より以上の温度を要求せずしてよく発生活動をし炭酸ガスと空気の配分によりよりよく五味を備え熟成の後は圧搾によって苦味を去り火入れによって渋を去ることによって始めて人の口に上るを得るものなれば予はこの方法によって早造りを試み良好なる成績を収めつつあれど尚より以上有益なる発明の出でんことを待ち望むものなり云々。