明治42年11月25日大阪朝日新聞
○ 飲食物と衛生
▲ 本年一月以来の検査
近頃科学の進歩につれ天然の産物でなく種々なる化合物を配して食う物飲む物を造るようになった。飲食物には滋養を目的にする物と嗜好を目的にするものとの別があるから一概に言うことは出来ないが、例え嗜好を目的に物でも滋養分がないよりは少しでも含んでいたほうがよいということは今更言うことではない。然るに人工化合物の使用がさかんとなるに連れて只その形なり色なり味なりを天然産物に真似るというにすぎない物が多くなった。それも只滋養分がないだけならまだしもだが中には人体にとんでもない害を与えるものがある。これを取り締まるためその筋にて(警察のこと)は絶えず専門の人を派して『有害性着色料』『飲食物器具』『人工甘味質』『清涼飲料水』『氷雪』『飲食物防腐剤』等の検査をやっているが西洋などのように商売人の道徳が発達して居らぬと、需要者の知識が進歩しないので容易に改善しない。試みに府下の本年一月より十月までのこれらの物の検査した統計を調べてみると総件数8794件、人体に危害のある規則に抵触した物と認められて廃棄若しくは改造を命じられた物946件、すなわち総件数の一割がよからぬ物ということになる。中でも例の使用を禁止されている鉛を使った飲食物容器は検査件数の4割を占めている。只割合によくなったのは子供のおもちゃの着色料でこれは案外有害着色料を使っていない。サッカリンを使っているのが多いと思われる菓子類は比較的少なく百中の二(2%)くらいに過ぎないが野菜果実類の製品(缶詰・ジャムの類)には百中六(6%)くらい使っている。清涼飲料水ではラムネが一番成績が悪く第一原料水の選択が悪くしているのが多い。氷は人造が盛んになって今年の検査では一つも出なかった。それから防腐剤を適量以上使用しているのはもちろん清酒で約二割七分はいけないものであったという。とにかく飲食物の取締はいつまでも緩めることは出来ない。
明治末期の食品の取締の状況で今とは時代が違って内容が異なる。明治時代の基本的考えの中に『富国強兵』があって,身体に害があったり栄養を与えないものは嫌われた。
○ 飲食物と衛生
▲ 本年一月以来の検査
近頃科学の進歩につれ天然の産物でなく種々なる化合物を配して食う物飲む物を造るようになった。飲食物には滋養を目的にする物と嗜好を目的にするものとの別があるから一概に言うことは出来ないが、例え嗜好を目的に物でも滋養分がないよりは少しでも含んでいたほうがよいということは今更言うことではない。然るに人工化合物の使用がさかんとなるに連れて只その形なり色なり味なりを天然産物に真似るというにすぎない物が多くなった。それも只滋養分がないだけならまだしもだが中には人体にとんでもない害を与えるものがある。これを取り締まるためその筋にて(警察のこと)は絶えず専門の人を派して『有害性着色料』『飲食物器具』『人工甘味質』『清涼飲料水』『氷雪』『飲食物防腐剤』等の検査をやっているが西洋などのように商売人の道徳が発達して居らぬと、需要者の知識が進歩しないので容易に改善しない。試みに府下の本年一月より十月までのこれらの物の検査した統計を調べてみると総件数8794件、人体に危害のある規則に抵触した物と認められて廃棄若しくは改造を命じられた物946件、すなわち総件数の一割がよからぬ物ということになる。中でも例の使用を禁止されている鉛を使った飲食物容器は検査件数の4割を占めている。只割合によくなったのは子供のおもちゃの着色料でこれは案外有害着色料を使っていない。サッカリンを使っているのが多いと思われる菓子類は比較的少なく百中の二(2%)くらいに過ぎないが野菜果実類の製品(缶詰・ジャムの類)には百中六(6%)くらい使っている。清涼飲料水ではラムネが一番成績が悪く第一原料水の選択が悪くしているのが多い。氷は人造が盛んになって今年の検査では一つも出なかった。それから防腐剤を適量以上使用しているのはもちろん清酒で約二割七分はいけないものであったという。とにかく飲食物の取締はいつまでも緩めることは出来ない。
明治末期の食品の取締の状況で今とは時代が違って内容が異なる。明治時代の基本的考えの中に『富国強兵』があって,身体に害があったり栄養を与えないものは嫌われた。