明治42年11月11日大阪朝日新聞
○薩可林(サッカリン)問題
▲有害ならず 東京帝国医科大学 林医学博士談
いま仮に『サッカリンは有害であるか?』との問題を出されると『有害である』と答えることは出来ない。但しこれは程度問題にして平素から多量に飲用すれば人身すなわち腸胃を害し腎臓を害するは事実なり。されど未だこれがため中毒した者または他の病気を引き起こした者等実際に聞いたことはない。ドイツにおける甘味素取締規則(ジュース・スットプ)はサッカリン並びにドユルチンその他腹中に入り変性せず原型のまま排泄されるものにして栄養無き物はすべてその飲用を禁止して居れど有害なるがゆえはこれを禁止すると言う条文はない。これはいわゆる使用程度の如何に関するがゆえわが国の社会衛生上多少とも消化機能を害しかつ栄養分なきものとしてこれを飲食物の使用に禁じたるはけだし当然の処置であるけれど醤油のごときものに混入される時はたとえば一斗樽の醤油を家族5人にて3~4ヶ月間に使用するにつき体内に入りて栄養とならないが害を及ぼすようなことはないことは明らかである。
▲ 有害無害の断定
サッカリンの有害無害については前後3日にわたり専門家の説を糺して記載した通りであるが何れの諸説も大同小異にしてサッカリンは決して有害物となるものでないがその容量が多ければ消化機能に多少の害を与えるという。学者の頭が国法という観念を離れて露骨に薬物その物のみの解釈を与えることに躊躇するむきがあるのは遺憾であるけれどこれはやむなき事情もあるべし。要するに政府が産業保護と一般衛生取締の必要上法を以ってこれが使用を禁止しているものを密かに使用するごときは罪悪なれど酒・醤油・菓子のごとき物に甘味を助けるために使用するとしても直ちに害を与えるものではないことは明らかである。
因みに片山京都医科大学付属医院薬局長より『御記載の一節は小生のお答えしたことと相違のかどあり、ことにその人体内における効力に関する説のごときは小生の専門外にしてこうも言及した記憶がない』旨申し来たので訂正いたします。
○薩可林(サッカリン)問題
▲有害ならず 東京帝国医科大学 林医学博士談
いま仮に『サッカリンは有害であるか?』との問題を出されると『有害である』と答えることは出来ない。但しこれは程度問題にして平素から多量に飲用すれば人身すなわち腸胃を害し腎臓を害するは事実なり。されど未だこれがため中毒した者または他の病気を引き起こした者等実際に聞いたことはない。ドイツにおける甘味素取締規則(ジュース・スットプ)はサッカリン並びにドユルチンその他腹中に入り変性せず原型のまま排泄されるものにして栄養無き物はすべてその飲用を禁止して居れど有害なるがゆえはこれを禁止すると言う条文はない。これはいわゆる使用程度の如何に関するがゆえわが国の社会衛生上多少とも消化機能を害しかつ栄養分なきものとしてこれを飲食物の使用に禁じたるはけだし当然の処置であるけれど醤油のごときものに混入される時はたとえば一斗樽の醤油を家族5人にて3~4ヶ月間に使用するにつき体内に入りて栄養とならないが害を及ぼすようなことはないことは明らかである。
▲ 有害無害の断定
サッカリンの有害無害については前後3日にわたり専門家の説を糺して記載した通りであるが何れの諸説も大同小異にしてサッカリンは決して有害物となるものでないがその容量が多ければ消化機能に多少の害を与えるという。学者の頭が国法という観念を離れて露骨に薬物その物のみの解釈を与えることに躊躇するむきがあるのは遺憾であるけれどこれはやむなき事情もあるべし。要するに政府が産業保護と一般衛生取締の必要上法を以ってこれが使用を禁止しているものを密かに使用するごときは罪悪なれど酒・醤油・菓子のごとき物に甘味を助けるために使用するとしても直ちに害を与えるものではないことは明らかである。
因みに片山京都医科大学付属医院薬局長より『御記載の一節は小生のお答えしたことと相違のかどあり、ことにその人体内における効力に関する説のごときは小生の専門外にしてこうも言及した記憶がない』旨申し来たので訂正いたします。