今日の定置網漁で網を絞って行くと何と驚く事にテングノタチが目の前に浮いてくる。最初は横帯もあり体を丸めていたのでウナギギンポの様に見えたが、華麗な赤い鰭で直ぐにテングノタチであると確信。体を傷付つけないようにとっさに手が出て、テングの部分を指で掴み取り上げる。尾鰭まで全ての部分が存在し完璧な状態であり、しかもサイズが小さく標本には一番理想的な状態である。テングノタチはここでは以前に漁協の定置網に入り、水族館に引き取られ、その後魚ボラの方へ標本として登録された事がある。それだけでうちの定置網では久し振りの初入網である。ところがこんな日に限って同時に型の良いシマアジがたくさん入網している。シマアジは値段がよく、直ぐに丁寧に締めないといけなく、とりあえずテングノタチは活かしておく為、活け間に入れておく。全ての漁獲物を船に積み込み、テングノタチが気になるが私はブリッジに上がり舵を握り港へと向かう。途中で親方がテングノタチの様子を覗き込むと、活け間内にいたカサゴがテングノタチを食べているとの事。カサゴがテングノタチを尾の方からくわえ、口から頭部の方が出ていたそうで、直ぐに引き離してくれる。うちの従業員がプライベートでカサゴを釣り、活け間に活かしていたのである。体は前方半分しか残っておらず、無残な姿に変貌。その姿を見て物凄いショックを受ける。活け間に入れてしまった事を凄く後悔する。だが、テングノタチの体は特殊でリュウグウノツカイの様に簡単にポキポキと折れてしまう。体を丸めていた状態で氷水に着ければそのままの状態で死んでしまい、後で体を伸ばそうとすると折れてしまう恐れがあった。とりあえず活かしておいて後で丁寧に体を伸ばした状態にしようと考えていた。その考えが仇となってしまう。今日は漁協の仕事があり、それが終わってから夕方から大学へ走ろうか、それとも学生に連絡して取りに来てもらうかと悩んでいたが、こんな状態の標本では直ぐに大学へ持ち込む理由が無くなり、一応、魚ボラの標本用に冷凍保存する。今日は更に漁協の定置網の方からシマガツオ科の幼魚も頂く。
無残な姿の初入網テングノタチ
シマガツオ科幼魚