日常のなんということもない一場面を切り取り、魅力的な一句に仕立て上げる作者にはいつも脱帽です。
泉さん:ぬるぬるしている里芋、お箸を使うのが上手くない人は大変。
里芋のぬめり取りの方法として下茹でしたり塩でもんだりするやりかたもありますが、普通の家庭料理ではそこまで丁寧に下処理なく煮っころがしになるケースが多いですね。あのぬめり成分には、消化管の粘膜を保護したり、脳細胞を活性化させて、免疫力を高める効果があると言われているので栄養という点からもそのままがいいかもしれません。
句会では、逃げゆくという擬人化がいいですねという意見がありました。つるつる滑って取りにくい里芋さんは「食べられてなるものか」と必死で逃げ回っているのでしょうか。作者の穏やかな暮らし、くすっと笑える温かい食卓風景が浮かびます。
七輪の芋田楽や父の味 佐保子
こちらもまた美味しそうな里芋です。
能登さん:美味しそう。いい趣味をお持ちのお父さんですね。
蒸した里芋を七輪で炙り、田楽みそをつけて食べる芋田楽。味噌も手づくりの秘伝のあじでしょうか。作者佐保子さんは急な発熱でいらっしゃいませんでしたが、お父さまご自慢の芋田楽は有名と伺いました。
世間には、それほど料理にマメではなくとも七輪、土鍋となるとはりきるお父さんはいらっしゃいますね(笑)腕まくりして「アレつくるぞ」と七輪に火をおこし、子どもたちを集めてとっておきの芋田楽をふるまうお父さん。羨望の眼差しの中、ちょっとしたヒーローになる瞬間です。まさに思い出の父の味ですね。フーフーアチチ 賑やかな家族の笑い声も聞こえそうです。
二句ともに、里芋をとおして、周りの情景や人間像まで浮かび上がらせる良句だと思いました。
私の父の味は つぶれたアンパン
料理ではありませんが、夜勤がえりの父が茶封筒にいれて持って帰る夜食のアンパンです。不器用な父らしくいつも脇にはさんでもってくるので、帰るまでにつぶれてしまうのですがこれが結構美味しい。今でもアンパンは最初につぶしてしまう癖があります。 郁子