ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「生き心地の良い町  この自殺率の低さには理由(わけ)がある」(講談社; 岡 檀(まゆみ) 著)

2022-10-06 20:45:54 | 読む


「住み心地の良い町」というのなら分かるが、「生き心地の良い」という表現にはひかれるものがあった。
「生き心地の良い町」に続いて、「この自殺率の低さには理由(わけ)がある」と書いてあるから、なんとなく内容の想像がつくと言う訳だ。

著者が、調査した結果、全国で最も自殺率の低い自治体を調べたら、次のようであった。



これらを見ると、島しょ部では自殺率は低いと言える。
だが、率の低さで8位に入っている徳島県海部町は、島ではない。
そして、すでに平成の大合併で別な町になってもいる。
それなのに、新たな町となっても、この海部町の地域だけが自殺率は低いことに、著者は着目した。
自殺を予防する因子が、当町にはあるのではないか、と。

実際に、著者は、海部町に移り住んで暮らし、調査を進めた。
その町に足を踏み入れて調査し、なぜ率が低いのかをまとめたのが、本書である。

同町で、著者が見つけたいわゆる「自殺予防因子」には次のようなものがあった。

その1 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
その2 人物本位主義をつらぬく
その3 どうせ自分なんて、と考えない
その4 「病」は市に出せ
その5 ゆるやかにつながる


別な言葉で言い換えていくと、

☆ 個人の多様性を重視する
☆ 職業上の地位や学歴、家柄や財力などにとらわれることなく、その人の問題解決能力や人柄を見て評価する
☆ 自己効力感をもつ
☆ やせ我慢しないで、助けを求める
☆ 破ったら制裁を加えるような厳しいルールはもたないで、寛容性を持つ

このようになるだろうか。

自殺を予防する因子、とは着眼点がすばらしいと思う。
人間として生きていくうえで生きづらさを感じることは多いのだが、それが多いと、生きる意欲を失うことはあるだろう。

読んでいて、自分の子どものころを思い出した。
いじめられて、孤立無援だった時代のことだ。
子どもの社会の間ではあったが、
硬直化した人物評価で、序列が決まっていた。
みんなと同じであることを求められた。
できないことがあると、はじかれた。
一度の失敗を許してくれなかった。
ボロクソに言われて、立ち直れないほど責められたり暴力を受けたりと、いじめられた。
人に助けを求めると、「弱虫!」とさらにひどい目にあった。
…一人で耐えるしかなかった。

とてもじゃないが、自殺予防因子ではなく、「推進因子」だらけだった。
だから、よくないどころか「生き心地」はしなかった。
毎日毎日生きていくのがつらい経験ばかりだった。
そんな経験をしてきたから、なおさら本書の自殺予防因子の効力について、うなずけるところがあった。

現代のSNS上での炎上も、予防因子と逆のことばかりだから起こるのだよなあ、と確かに思う。
こういう世の中は、生きづらい。
本書を読んで、どういうことができれば、生き心地の良い集団、生き心地の良い社会になるのかが分かった思いがする。
そんなコミュニティをつくりたいものだ。

コメント
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