ちょっと古くなったが、今年の日本シリーズは、福岡ソフトバンクホークスが、4勝0敗で巨人を圧倒した。
投手陣をしっかりリードして、巨人打線にいいところを全く出させなかったのが、甲斐拓也選手だ。
打つ方でも、効果的なホームランを2本打ったし、攻守にすばらしい力を発揮した。
その甲斐選手が、今年からホークスの「19」番を付けるようになった。
ホークスの19番、といえば、南海ホークスの野村克也氏が強烈な印象を与えた選手だった。
ノムさんこと野村克也氏が入団し、選手として輝かしい実績を残したのは、南海ホークス時代だった。
打者としても、パ・リーグ初の三冠王を獲得したし、捕手としても江夏や江本など多くの投手をよみがえらせるなどした。
ノムさんは、その後監督としても、南海を優勝に導いたり、弱小ヤクルトを日本一にまで引き上げたり、阪神、楽天がその後優勝する下地を作ったりと、手腕は素晴らしかったと思う。
残念なことに、ノムさんは、今年19番を付けた甲斐選手の活躍は見ないまま2月に亡くなってしまったのだった。
ところが、2018年に出された本の中に、甲斐哲也選手にあてた文章もあった。
その本の名前が、「野村克也からの手紙」。
最近、ネットの記事でその本のことを扱っていたので、読んでみたくなり、借りて読んだ。
この本は、ノムさんが野球人生の中で出会った印象的な人々一人一人にあてて書いた手紙で構成されている。
出版された時期は、野村沙知代夫人が亡くなってからおよそ半年後のことだった。
だから、やがて自分も…というような思いで書いたことも伝わってくる。
本の構成は、
① リーダーへ 助言の手紙
宮本慎也様 稲葉篤紀様 伊藤智仁様
② 挑戦者へ 激励の手紙
田中将大様 大谷翔平様 甲斐拓也様 清宮幸太郎様
③ 個性派へ 忠告の手紙
江本孟紀様 門田博光様 江夏豊様 古田敦也様 新庄剛志様
④ 恩師、友へ 学んだことへのお礼の手紙
鶴岡一人様 杉浦忠様 稲尾和久様 長嶋茂雄様 王貞治様
⑤ 家族へ 愛の手紙
母ちゃんへ 克則へ 沙知代へ
⑥ 遺言 日本プロ野球にかかわる人たちへ リーダーの皆さんに
…というような6章21通の手紙でできている。
甲斐選手に対しての手紙では、テスト生≒育成選手、母子家庭、反省する捕手ということで、共感・好意を持ち、「感謝の気持ちをもつ人間は強い」と表記しながら、
「失敗と書いて、せいちょうと読む」
「準備野球、実践野球、反省野球の1日3試合のススメ」
「功は人に譲れ」
などの言葉でエールを送っている。
それ以外の20の手紙も、今までのふれあいや付き合いで起こった事実をもとに、ノムさん自身の学びとしながら、感謝と励ましの言葉を各人に送っている。
印象深かったのは、仕えた鶴岡監督からただ一度、「お前、ようなったな」というたった一言に、大きな自信を抱くことができたことができたということ。
だけど、鶴岡氏からは好かれていなかったということ。
それは、少し悲しかった。
だが、「監督のさり気ないひと言が、選手の自信とやる気を育てる」という言葉は、私自身の人生経験から、心にずしりと響くものがあった。
そして、「家族へ」の章は、夫人との永訣があり、やはり切ないものがあった。
ノムさんの著した本は何冊も読んだし、どれも「ハズレ」がなく、説得力がある。
これからも読むかもしれないが、この本がやはり「遺書」的な存在なのだろうなと実感した。