都内では、先日の性悪台風によって被害を受けた家屋の復旧作業が、まだまだ行はれてゐる。
学校では、浸水して運び出された用具や什器の運び込みが、やうやく始まったところもある。
指揮する教師の、
「消毒の済んだものから順々に……」
といふ言葉が、私には重く聞こえる。
東日本大震災のとき、
誰が言ひ出したものやら、
『絆』
などといふ言葉が大流行し、
実際には被害のなかった輩が、
その言葉の響きに、
勝手に酔ひしれてゐた。
まうひとつ、これは時の政治屋が使ひ始めたものだが、
『寄り添ふ』
などといふ言葉も頻発した。
今回、しょせん口だけだったと証明するかのごとく『絆』は忘れ去られたが、『寄り添ふ』につひては、あちこちの見るからに肚にも無い輩が、至る所で再び口にして、言葉の価値をすっかり下げてゐる。
『寄り添ふ』──
口にしてゐる人種のせいなのだらうが、得体の知れないのがヘラヘラと『すり寄ってくる』、そんな気色悪さを覺える。
傳へ聞くところによると、今年就任したミカドも、御所における所信表明演説のなかで、『寄り添ふ』を口にしたらしい。
どこかの女運動屋が「自分を褒めてあげたい」と宣って以来、自分への褒め言葉として猫も杓子も用ゐるやうになった風潮を皮肉った雑俳に、
『あれ以来 自分を褒める バカが増え』
といふのがあるが、そこで私も一句詠まん。
『あれ以来 寄り添ひたがる ヤツが増へ 李閑』
……イマイチじゃの。