正月休みの締めに、散歩を兼ねて公園内の小ホールまで出かけて、新春寿囃子をたのしむ。當地の夏祭りでも演じられる獅子舞を中心に、愛嬌に富んだ同時解説ありの樂しい三十分。まずは白狐が現れて場を清めると、若い男性による清廉な獅子舞が見物人の多幸を寿ぎ、そこへおかめとひょっとこも絡んで笑ひを誘ふ。ひょっとこの着付けは慌て者の可笑しさを表現するため、わざと左前に着ることを、解説を聞いて初めて知る。そしてお獅子 . . . 本文を読む
叔母と会ふ。手に職を持ち、傅統藝能の知識も深く、常に樂しみを見つけては年中あちこちを飛び回ってゐる叔母の姿に、「自分も数十年後はあのやうでありたい」と、いつも将来への明るい展望を抱く。忘月忘日、背中を丸めて肩を落とし、ボソボソと食事をする老人の姿を目にして、生き續けてゐる限り必ず遭遇する老後といふ将来に、不安を覺えたことがある。しかし、そんなものはおのれの心持ち次第だと教へられたのも、叔母の姿から . . . 本文を読む
昨年の大晦日までには読了する予定だった「東電OL殺人事件」を、やうやく読み終へる。京王井の頭線「神泉驛」そばの古びたアパートの一室で、東電の管理職を本職とする賣春婦が遺体となって発見された平成九年三月八日當時、私は国立劇場で傅統藝能の基礎を學びながら東急沿線の町で初めての一人暮らしをしてゐた、その一年目にあたる。そして事件から三年後、容疑者のネパール人男性に無罪判決が言ひ渡され、結局真犯人はわから . . . 本文を読む
買ひ物で食料品賣場を覗く。正月三日目の、まだいくらか浮やかな雰囲気が残ってゐるそこで、北國の所在地を記すシールが貼られた海産加工物の数々に、ふと、雪が舞ふ厳冬の漁港風景を思ひ浮かべる。行ってみたいな……。まだ見ぬ土地へ、私は心のなかで瞬時の旅をする。空気が落ち着ひたら、今年も計画を立てやう。遠い近いではなく、樂しい発見を期待出来さうなところへ。 . . . 本文を読む
お墓参りに行く。祖父母と伯父たちに、新年の挨拶。驛ビルでは福袋待ちの行列。最上階の飲食店街も行列で停滞。無用の雑踏にいつまでも身をおく必要はない。さっさと帰宅したはうが利口のやうだ。全車指定の特急列車は滑り込みで切符がとれる。『お客様には、今年も幸せな一年でありますやうに』そんな気の利いた放送をする車掌さんの聲が、耳に心地良い。車窓からの暖かい日差しにウトウトしながら、心のどこかで早く通常の気持ち . . . 本文を読む
日中は陽差しも穏やかな、令和二年の初日。道行く人々に家族連れが多いのは、この日ならではの光景なり。新年の景気づけにと、謡本を開ひて聲を嗄らせど、そこから新たな手猿樂づくりへの取っ掛かりを得たるは、吉祥と心得るべし。初詣に訪れた神社の、「厄除獅子」の“厄”が不思議な字体なるも吉例なり。新たな年も「常の如し」を心得つつ、よく浮世を見ながら歩まん。おのれの目で見た景色こそが、何にも勝る真實なるぞ。 . . . 本文を読む