(ケニアの牧場でバッタの大群を追い払おうとしている男性(2020.2.22)【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】 とても対応できる状況には思えませんが・・・)
【昆虫食は人類を救うが・・・・】
日本でもイナゴを食べる地域がありますが、中東・クウェートでもイナゴが“冬の味覚”だそうです。
****クウェートの冬の味覚「イナゴ」、栄養豊富なたんぱく源****
中東クウェートでは栄養価の高いイナゴが珍味とされ、焼いたり乾燥させたりして食べられている。だが、消費量は徐々に減ってきており、とりわけ若者たちの中にはイナゴを食べることに嫌悪感を抱く人が多い。
ジャーナリストのモウディ・ミフタフさん(64)は、「あの風味が好き。子ども時代の思い出の一つだし、祖父や父を思い出す」と熱っぽく語る。
ミフタフさんは毎年、冬の到来を待ってイナゴを買いだめし、自分で料理する。キッチンに立ち、沸騰しただし汁の中に1袋分のイナゴを投入する。イナゴはすぐに赤くなり、羊肉のシチューのような香りがキッチンを満たす。30分ゆでれば完成だ。
カリカリとした食感を加えたい場合にはイナゴを焼いてもいいし、乾燥させれば1年中楽しめる。だが、ミフタフさんの家族の大半は、かなり前からイナゴを食べなくなってしまったという。
イナゴは世界各地で消費されており、一部の地域では主食になっている。専門家らは、イナゴはエネルギー効率の良い優れたたんぱく源だと説明する。
クウェートでは毎年1月になると、サウジアラビアから届くその冬最初のイナゴが市場に並ぶ。イナゴは独特の赤い袋に入れられ、250グラム単位で販売されている。
イランのアフワズ出身のアブ・モハメドさん(63)は、普段はクウェート市北西部のライ市場で魚を売っているが、この時期になるとイナゴとトリュフを売る。「イナゴは(飛ばずにじっとしている)冬の夜に捕獲される」といい、味は「エビ」に似ていて「新鮮なものは非常に美味で、特に卵を抱えた雌の味は格別」だと言う。
モハメドさんは1月から4月までのシーズン中、約500袋を販売する。1袋の価格は、3~5クウェート・ディナール(約1100~1800円)だ。
一方、当局はイナゴが汚染されている懸念があることから消費を禁止しようと模索しているが、今のところ実現していない。またイナゴは繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与えるため、一部の国々では殺虫剤を使った処分を余儀なくされている。【3月7日 AFP】
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昆虫食が人類の将来の食糧難を救うという話はときおり聞きますので、イナゴはその代表格でしょう。
【東アフリカから中東、更には南アジアへ】
ただ、「繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与える」ということで、逆に人間の食糧を食い尽くしてしまう「蝗害」も起きています。
イナゴではなくバッタになると、その被害も更に大規模になり、古くは、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれ旧約聖書「出エジプト記」にも出てきます。
東アフリカで(イナゴではなく)バッタが大発生し、農作物を食い荒らし、深刻な食糧危機の恐れがあるという話は、2月10日ブログ“東アフリカ 拡大するバッタの「蝗害」 食糧難に拍車”で取り上げましたが、その後もバッタ(正確にはサバクトビバッタ)は風に乗って海を渡り、インド・パキスタンでも被害が広がっています。
サバクトビバッタは「1日150キロメートルの移動が可能で、毎日自分の体重に相当する約2グラムを食べる」そうで、被害は「今年6月まで続く見通し。その頃、群れの規模は現在の500倍になっている可能性がある」とも。【3月5日 レコードチャイナより】
****パキスタンでバッタ大量発生 過去30年で最悪の作物被害****
パキスタンでバッタが大量発生し、国内の農業地帯では過去30年間近くで最悪の被害が出ている。特に農業の中心地で作物が壊滅的な打撃を受け、食料価格の急騰を招いている。
国連は、アラビア半島を昨年襲った豪雨とサイクロンが「前例のない」バッタの繁殖を促したと指摘している。
このバッタの大群は、東アフリカからインドにかけて広がり農地に大きな被害をもたらした後、イランを通ってパキスタン南西部の砂漠地帯から同国へ侵入。パキスタン政府は深刻な被害を受けて全土に緊急事態を宣言し、国際社会に緊急援助を要請した。
パキスタン南部シンド州では、換金作物である綿の壊滅的被害が懸念されている。州都カラチ付近では全体の半分の作物が被害を受けている。
また北東部パンジャブ州の当局は、被害を受けた地区に殺虫剤を散布するなど「駆除対策を開始」したと明らかにした。
有害な煙霧が広がる中、毎日村人らは1キロ当たり20パキスタン・ルピー(約13円)の報奨金のために農地でバッタの死骸を集めている。しかしこの作業は時間がかかる上、1か所の農地でバッタを駆除している間に、別の農地の作物が壊滅していることも多い。
また当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない。殺虫剤の散布の順を待つ間、苦肉の策として鍋を叩いて叫びながらバッタを追い出そうとする農家もある。
ムハンマド・ハシム・ポパルザイ食料安全保障・研究相は、中国の専門家らによるチームが今回の危機を調査するためにパキスタンに到着したとAFPに明らかにした。
中国はより迅速で効果的な害虫駆除方法として、殺虫剤の空中散布を申し出る可能性もあり、またパキスタンが中国から殺虫剤を輸入する可能性もある。
パキスタンの農業は長い間干ばつや水源の縮小に直面してきた。経済は12年連続で高インフレ率にあえいでおり、過去1年間では砂糖の値段が2倍近く、小麦粉の値段は15%上昇した。
パンジャブ州ピプリ・パハール村の農業従事者らの多くは、バッタの駆除対策を講じるには遅すぎると感じている。ラフィヤ・ビビさんは牛と一緒に小麦畑の隅に座り、周囲に殺虫剤がまかれるのを眺めていた。
ビビさんは政府から4万5000パキスタン・ルピー(約3万円)を借り入れ、菜種、ヒマワリ、トウガラシ、タバコなどを購入したが、バッタの大群はすでにこれらの作物を台無しにしてしまった。収穫できなければ借金を返す方法はないという。 【3月8日 AFP】
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“当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない”・・・だったら、農民は何のために殺虫剤を散布するのでしょうか?
【中国のパキスタン「蝗害」支援 単に「一帯一路」の問題ではなく、中国の水際作戦でも】
その疑問はともかく、記事にもあるようにパキスタンとの関係を近年強めている中国が支援を申し出ています。
****中国、蝗害に見舞われたパキスタンを緊急支援へ*****
中国のバッタ防止・制御の専門家チームがこのほど、パキスタン・カラチでの記者会見で、中国はこのたび、サバクトビバッタの大量発生(蝗害)に見舞われているパキスタンに対し、包括的な緊急支援を実施したことを発表した。
バッタの大群は、これまでに農地数百万エーカーに被害をもたらし、パキスタンの食料安全保障に対する深刻な脅威となっている。
この状況に対し、同チームの首席専門家の王鳳楽氏は、中国政府は非常に重視し、状況分析と対応策を講じたうえ、緊急支援を行ったと述べた。(中略)
(国連食糧農業機関(FAO)でパキスタンにおけるバッタ対策を担当するム)アフマド氏はまた、「昨年10月末から11月にかけて、バッタの大群がタルパカール砂漠に舞い戻り、卵を産んだ。卵は今後数か月のうちに大きな脅威となる恐れがある。なぜなら、卵がふ化すれば、バッタの数は数十倍以上に膨れ上がるからだ。そうしたら、パキスタンは大きな課題に直面することになる」と警鐘を鳴らすように述べた。
パキスタンの公式統計によると、この9か月の間に、3000万エーカーの土地が蝗害に見舞われたが、殺虫剤が散布できたのはその100分の1しかなかった。
東部パンジャブ州と南西部バルチスタン州、北西部カイバル・パクトゥンクワ州も蝗害の影響を受け、パキスタンのイムラン・カーン首相は今月、国家非常事態を宣言した。中国に支援を求めるよう食料安全保障研究省に命じた。
中国農業農村部国際協力局の徐玉波氏は記者会見で、中国のバッタ防止・制御に関する技術と経験は、パキスタンのニーズに十分に応えると語った。さらに中国には、最先端の予防・制御技術や器具、人員のトレーニング、早期警戒プラットフォームなどの分野で協力する用意があると説明した。【3月6日 Xinhua News】
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中国の世界戦略「一帯一路」にとってパキスタンは要となる国ですから、中国のパキスタン支援は当然の対応でもありますが、中国にとっても他人事ではないようです。
****バッタの大群が中国に侵入?当局が緊急通知―仏メディア****
中国国家林業・草原局は2日、中国がバッタ侵入の危機にさらされているとして徹底的な予防措置を求める緊急通知を出した。仏RFI中国語版サイトが同日付で報じた。
記事によると、同局は「サバクトビバッタ」について、「すでに東アフリカからインド、パキスタンに広まっている」と指摘。中国国内に侵入して被害が起きるリスクは比較的低いという専門家の見解に言及する一方、いったん侵入すれば抑制困難など多くの不確定な問題に直面すると危機感を示した。
バッタは中国の草原地域に広く分布しており、草原における毎年の蝗害(こうがい=イナゴ・バッタ類による被害)面積は平均10万平方キロメートルに上るという。(後略)【3月5日 レコードチャイナ】
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風土上の違いで日本ではバッタによる「蝗害」はありませんが、中国ではこれまでも大規模な「蝗害」が発生しています。
【コロナに加えてバッタ アジアの混乱の影響は日本にも】
おりしも新型コロナウイルスが猛威をふるっていますが、疫病に加えて蝗害・・・「この世の終わり」とか「人類に対する神の怒り」といった類の反応が見られても不思議ではないところです。実際、欧米メディアにはそうしたセンセーショナルな反応も見られるとか。
****コロナに続くもう一つの危機――アフリカからのバッタ巨大群襲来****
国連の食糧農業機関はその大発生の規模を「70年に一度」のものとも表現している
これによって懸念される食糧不足は人道危機であるばかりか、新型コロナの影響を受ける日本のサプライチェーンをさらに揺さぶりかねない
新型コロナに揺れるアジア諸国にもう一つの危機が迫っている。アフリカから飛来し、各地で農産物を食い荒らしてきたバッタの大群が、中国西部にまで接近しているのだ。
コロナ蔓延に続くバッタ来襲
(中略)一口にいえば、このバッタの大群は東アフリカで大発生し、アジアにまで飛んできたものだ。
このバッタは乾燥地帯に暮らすサバクトビバッタで、基本的に日本にはいない種類のものだ。より詳しくは昆虫学者に譲るが、生息環境の変化などに応じてサバクトビバッタの外見や行動パターンには変化が生まれ、集団で行動するようになると、風に乗って1日に100〜200キロも移動しながら、行く先々で穀物や果物を食い荒らす。
1平方キロメートルに集まるサイズの比較的小さな群でも、1日あたりで人間3万5000人とほぼ同じ量を食べるといわれる。
70年に一度の危機
その大発生は、新型コロナとほぼ時を同じくして始まった。
新型コロナが問題になり始めていた2月2日、東アフリカのソマリア政府はバッタの大量発生で食糧危機が発生しつつあると緊急事態を宣言。これと前後して、バッタの被害は東アフリカ一帯に広がり、国連の食糧農業機関(FAO)はソマリアでは25年、隣国ケニアでは70年に一度の危機として緊急事態を宣言した。
その後、バッタの大群は紅海を越えてアラビア半島に至り、さらにペルシア湾を超えてアジアにまで飛来するようになった。
3月6日段階で、FAOは東アフリカ8カ国、中東5カ国、南アジア2カ国(アフガニスタン、パキスタン)で新たな群を確認している。
このうち、パキスタンの北東には中国の新疆ウイグル自治区がある。つまり、バッタの大群は西からの風に乗って中国にも押し寄せる可能性がある。先述の中国のパキスタンに対する支援は、単に外交的な関係に基づくものではなく、いわば自己防衛のための水際対策でもあるのだ。
スーパーコンピューターを用いた駆除
サバクトビバッタはこれまでにもしばしば大発生してきたが、今回の場合、昨年末に東アフリカ一帯で雨量が多かったことが原因とみられている。サバクトビバッタは雨量が多いと大量に発生しやすい。
ところで、東アフリカではサバクトビバッタの産卵シーズンだった昨年10月から11月にかけて、降雨量が例年の約3倍に達したといわれる。これが地球温暖化の影響によるものかは、いまも科学者が研究中だ。
ともあれ、この大雨がサバクトビバッタの大発生を促したとみられるのだが、これに対して各国も無策というわけではない。イギリスの支援で設立されたアフリカ天候気象情報センターではスーパーコンピューターを用いてバッタの行動範囲などを計算し、この情報に基づいて、時に軍隊まで動員しながら、アフリカ各国は効率的な駆除を試みている。
新型コロナに手を貸されるバッタ
しかし、それでもバッタの大群は各地に飛散し続けており、それは大きな被害をもたらし得る。
2003年から2005年にかけても、アフリカや中東の20カ国以上でサバクトビバッタによる蝗害が広がった。この時のFAOの報告書によると、対策のためにかかった経費は総額4億ドルを上回り、西アフリカ6カ国だけで838万人が食糧不足などの影響を受けた。
今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる。
対応が間に合わなければ、その影響は各方面におよぶ。アフリカから中東にかけてはテロが横行し、紛争の火の手が各地であがっているが、食糧不足による社会の混乱はこれに拍車をかけかねない。
アジアに迫る影
そのうえ、今回はアジアも無縁ではない。
2003〜2005年の場合、最終的にはサウジアラビアなどアラビア半島でもサバクトビバッタの来襲は確認されたが、それまでに1年以上の月日を費やした。発生したのが西アフリカで、中東に達するまで距離と時間がかかったからだ。
しかし、今回は東アフリカが発生源のため、15年前より早くアラビア半島を通過し、すでにアジアにその影をみせ始めている。
アフリカと比べても人口過密なアジアでバッタが農作物を奪えば、食糧危機が発生するリスクはさらに高い。
そのため、例えばパキスタンと隣接するインドでは、政府がドローンや殺虫剤などの調達を強化している。また、インドはもともとパキスタンとの間でカシミール地方の領有を巡って緊張が高まっていたが、バッタの来襲を受け、協力に向けた協議を進めている。
気候などの問題から、サバクトビバッタが日本にまで飛来してくる可能性は限りなく低いかもしれない。
しかし、今回の大発生は人道危機であるだけでなく、日本にも直接かかわり得る。
アジアは中東やアフリカと比べて日本経済により緊密に結びついており、この地域で生産が滞れば、ただでさえ新型コロナでダメージを受けている日本のサプライチェーンは今よりさらに停滞しかねない。
旧約聖書には、神の怒りに触れた古代エジプトで、病気の蔓延やバッタの大発生といった災禍が相次いだという記述がある(出エジプト記)。これを踏まえて、欧米メディアのなかには「世界の終わり」といったセンセーショナルな見出しを煽るものさえある。
筆者はそこまで信心深くはない。しかし、バッタの来襲で食糧事情が悪化すれば、新型コロナですでに高まっていた国家間の緊張がさらに高まることは想像に難くない。少なくとも、バッタが日本にまで来なければ無関係、といえないことは確かなのである。【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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