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(ウクライナのゼレンスキー大統領(左)と会談する米大統領就任前のトランプ氏=ニューヨークで2024年9月27日、AP【2月15日 毎日】)
【米ロ協調ですすむ“ウクライナ外し”“ゼレンスキー外し”】
サウジアラビアの首都リヤドで18日、アメリカのルビオ国務長官とロシアのラブロフ外相らが行ったウクライナに関する米ロ高官協議に関しては山のような報道がなされています。
今回はその内容には立ち入りませんが、下記のような記事タイトルを見れば、アメリカ側がロシアの主張を概ね受入れ、米ロが非常に「良い雰囲気」で話を進めていること、一方で、アメリカ・トランプ大統領のウクライナ・ゼレンスキー大統領への見方が厳しいことがわかります。
“「アメリカ側がロシアの立場に耳を傾けるようになった」米ロ高官協議を終えロシア外相”【2月19日 テレ朝news】
“トランプ大統領「ロシアの対応はとても良かった」 米ロ高官協議受け ウクライナを激しく批判する一幕も「戦闘を始めるべきではなかった」”【2月19日 TBS NEWS DIG】
“ロシア、トランプ氏称賛 「ウクライナ戦争の主因はNATO」”【2月19日 ロイター】
単にゼレンスキー大統領に厳しいというだけでなく、今後の道筋として、停戦後にウクライナで大統領選挙を行い、言うことを従順にきかないゼレンスキー大統領をはずして、米ロの言いなりになる者に替えてしまおうという思惑も露骨に見えます。
“「停戦後に大統領選」“ゼレンスキー外し”FOX報じる…米露の思惑とは? プーチン氏「任期切れのゼレンスキー大統領は交渉に臨む権利なし」”【2月19日 FNNプライムオンライン】
【トランプ大統領をつなぎとめるためのゼレンスキー大統領の“レアアース戦略” 「民主主義を守る」とか「法の支配」とか、建前を前面に出すような外交ではなく、経済安保や、資源も含めたリアリズムが表に出るトランプ時代の世界】
国の運命を決める会議にも参加させてもらえず、“ゼレンスキー外し”さえ見える状況に、ゼレンスキー大統領の心中は察するに余りあるものがありますが、さりとてウクライナとしてはアメリカ・トランプ大統領をつなぎ留めないと命運が尽きるという現実もあります。
****ウクライナ、米の支援なしで存続できる可能性「低い」=ゼレンスキー氏****
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、米国の支援なしにはロシアの攻撃に耐え抜く見込みはほとんどないと述べた。
ゼレンスキー氏は、14日に公開されたNBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューの抜粋で、「おそらく非常に困難になるだろう。そしてもちろん、どんな困難な状況でもチャンスはある。しかし、米国の支援なしに生き残れる可能性は低いだろう」と語った。インタビューの全編は16日に放送される予定。(後略)【2月15日 ロイター】
ゼレンスキー氏は、14日に公開されたNBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューの抜粋で、「おそらく非常に困難になるだろう。そしてもちろん、どんな困難な状況でもチャンスはある。しかし、米国の支援なしに生き残れる可能性は低いだろう」と語った。インタビューの全編は16日に放送される予定。(後略)【2月15日 ロイター】
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そんなウクライナとトランプ大統領をかろうじてつなぐものとして取り沙汰されているのが、ウクライナの地下に眠るレアアースをめぐる「取引」。
****本当にあるのか…トランプ氏が“取引”ウクライナレアアースの実態****
ロシアが全面侵攻を続けるウクライナに対し、最大の支援国である米国のトランプ政権が「ディール」(取引)を持ちかける姿勢を示している。軍事支援の継続と引き換えに求めるのは、ウクライナに埋蔵されているとされるレアアース(希土類)だ。一体どんな物質で、取引にはどれほどの実現性があるのか。
日本の独立行政法人、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)金属企画部の原田武調査課長に話を聞いた。
かつては中国の寡占状態
流通量の少ない希少な鉱物資源はレアメタル(希少金属)と呼ばれ、その中でも性質の似た17の元素がレアアースと定義される。レアアースの中では、電気自動車(EV)に使用される磁石の原料となるネオジムが有名だ。
レアアースの生産では従来、中国の寡占状態が続いていた。だが、原田さんによると、最近はオーストラリアや米国でも産出されるようになり、中国が世界市場を独占するような状態は解消されつつあるという。
では、ウクライナはどうか。トランプ大統領ら米政権からの発信について、原田さんは「ウクライナでレアアースがとれるとは初耳だった」と話す。ただ、レアアースが眠る場所は世界中に点在すると言われているという。
2022年のロシアの全面侵攻前、ウクライナではチタン鉱石が採掘され、それを加工した「スポンジチタン」が生産されていた。チタンはレアアースではないがレアメタルの一種だ。飛行機の機体やゴルフクラブなどに使用される軽金属として知られる。
チタンの精製は、電力を大量に必要とするという。ウクライナでは、ロシアの攻撃でインフラ施設が損壊し、電力も不足している。こうした中では、チタンの精製は困難になっていると推測される。
トランプ氏は、ウクライナには「非常に価値のあるレアアースがある」と前のめりな姿勢を示す。だが、実態より期待が先行している面は否めないようだ。【2月15日 毎日】
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鉱物資源の専門家さえ「ウクライナでレアアースがとれるとは初耳だった」というものが、どういう経緯で浮上したのか?
上記期事でも、あるいは一般的認識でも、トランプ大統領がウクライナに「支援して欲しければレアアースを見返りに渡せ」と迫っている・・・というイメージがありますが、実際は逆で、ゼレンスキー大統領の方が「トランプの旦那、うちにはイイものがありますぜ。支援してもらえれば・・・」と持ち掛け、トランプ大統領が話に喰いついたというものとか。
****ゼレンスキー大統領の“レアアース戦略”とは? “ロシア寄り”トランプ政権の翻意を促せるか****
米国のトランプ大統領は、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領と近く会談する意向を明らかにしている。トランプ政権がロシア寄りの姿勢を取るのではとの警戒が強まる中、新たに注目が集まっているのが、ウクライナ国内に埋蔵されている、レアアースなどの鉱物資源だ。ゼレンスキー大統領が仕掛ける“レアアース戦略”とは…。トランプ氏とのディールの行方を追う。
1)ウクライナの大地に眠る“宝”重要鉱物は『安全保障の盾』となるか
ロシアが一部を占領しているウクライナ東部では、レアアースやリチウム、チタニウムなどが埋蔵されているという。ゼレンスキー大統領は7日、「現在は(ウクライナ国内の)鉱床の20%弱がロシアに掌握されているが、その何兆ドルもの価値を守る。悪の枢軸が後に使用する鉱物を、ロシアが採掘することを阻止する」と発言。機密扱いだった重要鉱物などの埋蔵地図を公開した。
こうしたウクライナの鉱物資源にトランプ大統領が関心を寄せており、10日「彼らはレアアースや石油、ガスなどに関して、とてつもなく貴重な土地を持っている。私は我々の『金(カネ)』を確保したい。私は、例えば5000億ドル相当のレアアースなど、相応を望むと伝えた」と述べた。
12日には、アメリカのベッセント財務長官がキーウを訪問。そこで「ウクライナへの経済的な関与を強めれば、ロシアとの戦闘終結後、長期にわたる『安全保障の盾』をウクライナ国民に提供できる。経済的な関与が強まれば、安全保障の盾を提供できる」と明言した。
ウクライナの鉱物資源はどれほど魅力的なのか。例えばEVなどに使われるリチウムは50万トン、推定11兆5000億ドル相当の埋蔵量があると指摘されている。さらにウランも、ヨーロッパで最大の埋蔵量とされている。とはいえ、あくまで推定の埋蔵量であり、リチウムにいたっては採掘も始まっていない。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、トランプ政権の対応について、重要鉱物が経済安全保障のカギを握るためと指摘する。
今の段階では重要鉱物に関して、アメリカでさえ中国に頼らざるを得ない状況があり、トランプ大統領は、中国への依存を減らすために、重要鉱物が眠るとされるグリーンランドも購入したいと考えているわけだ。ウクライナで重要鉱物を入手できるのであれば、それはアメリカの経済安全保障にとってプラスになると考えていると思う。
2)米大統領選中から仕掛けたゼレンスキー大統領の“ディール”
米国の大統領選終盤を迎えていた昨年9月、ゼレンスキー氏は、大統領候補者だったトランプ氏と会談した際、レアアースについて「より詳細な計画を持って戻ってくるつもりだ」と発言した。ウクライナ支援を継続させるために、その時からすでにトランプ大統領にディールを仕掛けていたとの指摘がある。
さらにゼレンスキー氏は「ウクライナは欧州最大のウランとチタンの埋蔵量を保有しており、これらの埋蔵量がロシアの手に渡り、北朝鮮・中国・イランと共有される可能性は『米国の利益にならない』」とも話したとされる。
駒木明義氏(元モスクワ支局長/朝日新聞論説委員)は、ゼレンスキー氏の一連の動きは、トランプ大統領の再登場を見越した動きだったと指摘する。
去年9月からトランプ大統領の再登場が現実になり得ることを想定した上で仕込んだのがこの地下資源の利用だった。当時のバイデン大統領にも説明をしていた「ウクライナの勝利計画」というものがあって、ウクライナの地下資源を支援国に利用してもらうことは、その4番目に記載されていた。
フィナンシャルタイムズの報道によると、この提案は、グラハム上院議員というトランプ氏に近い政治家がいて、彼の発案、入れ知恵だ。元々トランプ氏を説得するために用意したディールの材料がウクライナの地下資源だ。
ゼレンスキー大統領はアメリカが見放したら何もできない。しかし、トランプ大統領に主権とか平等とか民主主義を言っても全く通用しないので、トランプ大統領が関心を示しそうなもの、例えば「力による平和」とか、あるいは資源とかを並べた。そこに、今の段階ではトランプ大統領は前向きに対応してきているということだ。
実際にどれだけ採掘できるかわからない。しかも、重要鉱物がアメリカに利益をもたらすとしても、それがトランプ氏の任期中に実現するかというと多分違う。
その意味では、トランプ氏としては、ディールができればいい。つまり、ゼレンスキー大統領は「話の分かるヤツ」で、鉱物を与えてくれた、アメリカが得をした、と。そして、トランプ大統領の支持者たちが拍手をする、バイデン大統領ができないことをした、と。その構図が一番大事なのではないか。
3)米国「鉱物の所有権50%譲渡すれば派兵も」との報道
今回、バンス副大統領とゼレンスキー大統領のミュンヘンでの会談でも鉱物資源について話し合われたとされるが、「レアアースなど重要鉱物をめぐる協定」は合意に至らなかった。
NBCニュースによると、米国は、ウクライナのレアアース鉱物の50%の所有権をアメリカに認めるよう提案。戦争終結に向けたロシアとの取引が成立すればその警備のために米軍をウクライナに派遣することに前向きであることを示唆したと報じられているが、将来的な安全保障に関する言及がなかったことから、ゼレンスキー大統領は署名を拒否したとされる。
駒木明義氏(元モスクワ支局長/朝日新聞論説委員)は、ゼレンスキー大統領の行動を以下のように分析した。
将来的な安全保障が得られない限りは、国家として存続できない。そういう約束がないままに鉱物を使用させるのでは、何のために提案したのか全くわからなくなってしまう。まだそこまで機は熟していない。
ただ、アメリカが将来そういうところにコミットするのであれば、喜んで差し出しますと、そういうことだと思う。
米軍がウクライナに派遣される可能性はあるのか。小谷哲男氏(明海大学教授)は、今後の注目ポイントを以下のように指摘する。
可能性としてはあると思う。ヘグセス国防長官は、アメリカの兵士をウクライナに派遣することはないと発言しているが、政権内でまだ考え方が一致していないのだろう。
このレアアースの問題は、今のトランプ政権の中では、これまでアメリカが行ってきた軍事支援に対する見返りとして考えている。
一方、ウクライナはこれを供与することで、将来的にもアメリカからの軍事支援が得られるということを望んでいる。双方の認識がまだ埋まっていない中で、ウクライナがどこまでこれをプッシュできるかが今後の注目ポイントだ。
末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、ウクライナの対米戦略から、今の世界の「空気感」を以下のように分析をした。
ウクライナとしては、少なくともアメリカという存在が引いてしまうことだけは絶対避けなければいけない。ここで注目すべきは、バイデン政権時代のような、「民主主義を守る」とか「法の支配」とか、建前を前面に出すような外交ではなく、経済安保や、資源も含めたリアリズムというものが、いま世界を襲ってきている。
先日の日米首脳会談を見ても、たとえ同盟国であったとしても「日本はこれだけ投資します」ということを言わざるを得ない。少し下品だが、しかしリアリティのあるという状況に、残念ながらいま世界の空気は変わっているのではないか。【2月19日 テレ朝news】
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「民主主義を守る」とか「法の支配」とか、建前を前面に出すような外交ではなく、経済安保や、資源も含めたリアリズム・・・以前も「建前」の下の水面下では実利がうごめいていたのでしょうが、今はそれが表面に浮上して、建前というか価値観みたいなものが顧みられない状況。
「建前」であったにしても、そうしたものを重要と考えるか否かで実際の行動は変わってきます。
パレスチナ人の土地を取り戻すという「アラブの大義」はアラブ諸国の現実政治においてはボロボロになってはいますが、トランプ大統領のガザ所有みたいな問題が起きると、「大義」はゆずれない一線としてアラブ諸国の行動を律することになります。
【ウクライナとアメリカに認識の違い 今後の安全保障を求めるウクライナ】
これまでのところ、ゼレンスキー大統領の“レアアース戦略”は、“トランプ政権の中では、これまでアメリカが行ってきた軍事支援に対する見返りとして考えている。一方、ウクライナはこれを供与することで、将来的にもアメリカからの軍事支援が得られるということを望んでいる。”という認識の違いでうまくいっていません。
それもあって、冒頭のような米ロ高官協議におけるトランプ政権のウクライナへの塩対応にもなっています。
****希少鉱物の供与、安保確約が条件 署名拒否でゼレンスキー大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、米国から提示されたウクライナの希少な鉱物資源供与に関する合意文書への署名を拒否した理由について「(将来的な)安全保障への言及がなかった」とし、安保の確約が条件だと説明した。ドイツで開かれたミュンヘン安保会議後、取材に応じた。
トランプ米政権は希少な鉱物資源の50%の所有権を譲渡するよう提案したと報じられている。ゼレンスキー氏は「両国に有益でなければいけない」と強調し、提示された文書はウクライナの利益につながらないとの考えを示した。
ゼレンスキー氏は一方で「トランプ大統領のチームと協力を開始した」とSNSに投稿した。【2月16日 共同】
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****ウクライナの鉱物資源協議、ゼレンスキー氏が合意案を拒否…米側は「近視眼的」と不快感****
ウクライナ産の重要鉱物の開発に関する米国とウクライナの協議で、AP通信は16日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が米側が示した合意案を拒否したと報じた。ウクライナ側に見返りがほとんどない内容だったことが理由という。
ウクライナは鉱物資源を米国に供給する引き換えとして、ロシアの侵略に対抗する軍事支援の継続を期待しているが、米トランプ政権の消極的な姿勢が改めて示された。協議は続いており、ウクライナ側が対案を作成している。
ゼレンスキー氏は合意案について「我々を守るのに十分な内容ではなく、閣僚に署名させなかった」と説明し、「経済協力と安全の保証を結びつけることが極めて重要だ」と強調した。
ウクライナ政府関係者によると、ゼレンスキー氏とバンス米副大統領が14日に独ミュンヘンで行った会談では、合意案の詳細を協議しなかった。
AP通信によると、米国家安全保障会議(NSC)報道官は声明で、ゼレンスキー氏が協議について「近視眼的」になっていると不快感を示した。【2月18日 読売】
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****ウクライナは単なる資源提供国にならず、ゼレンスキー氏 米提案批判****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、レアアース(希土類)など同国が産出する重要鉱物に関する米国の提案は、ウクライナの安全保障が含まれておらず不公平だと指摘し、ウクライナが単に資源供給国になることは望んでいないと述べた。トルコ国営アナドル通信が19日伝えた。(中略)
ウクライナ政府は先週、重要鉱物資源を巡る協定の修正案を米側に送った。(後略)【2月19日 ロイター】
ウクライナ政府は先週、重要鉱物資源を巡る協定の修正案を米側に送った。(後略)【2月19日 ロイター】
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