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(11日、バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプで、USAIDのロゴ入りの容器に入った食料を食べるロヒンギャの子どもたち=ロイター【2月15日 読売】)
【トランプ米政権の対外援助打ち切りで世界の各地で混乱】
周知のようにトランプ大統領は就任と同時に対外援助の90日の停止措置を発令し、対外支援実施にあたるアメリカ国国際開発庁(USAID)解体がマスク氏主導で進んでいます。最大の支援国アメリカの支援停止に伴って世界各地で混乱が拡大しています。
****ミャンマー人難民キャンプで医療施設一時閉鎖、ラオスで地雷除去停止…トランプ政権の対外援助停止に悲鳴****
世界最大の対外援助国である米国が対外援助を一時停止し、各地の人道支援活動への影響が広がっている。トランプ政権は1月末、内容の見直しなどを理由に対外援助を90日間停止。
年約400億ドル(約6兆円)もの予算を持つ米国際開発庁(USAID)の廃止論も出る中、支援を頼りに命をつないできた人々らから悲鳴が上がっている。
■難民を直撃
タイにあるミャンマー人の難民キャンプでは1月末、米政府から多額の資金援助を受ける国際救済委員会(IRC)が支援してきた医療施設が、一時閉鎖に追い込まれた。IRCの医師が不在のまま、ボランティアの看護師らが患者の面倒を見る状態になった。
バングラデシュのイスラム系住民ロヒンギャの難民キャンプでも、米国の援助で運営する少なくとも五つの病院が診療を停止した。
ミャンマー民主派勢力による「国民統一政府(NUG)」のスザンナ・ララソー女性・青少年・児童問題担当相は、「難民キャンプでは、食事や水、電気の提供が急に止まり、厳しい状況だ」と訴える。
2011年から続いた内戦で、国内で700万人超が避難民となったシリアでは、昨年12月のアサド政権崩壊後も、多くの人がテント生活を続けている。
米国の援助で、避難民の家族には国際NGOを通じて3か月ごとに56ドル(約8500円)の支援金が支払われてきたが、「今後は支援がなくなる」と不安の声が上がる。トルコ国境近くのキャンプで暮らすアイヤド・アラディンさん(62)は「旧政府軍に自宅を破壊され、戻りたくても戻れない。まだ支援が必要だ」と話す。
■地雷除去停止
ラオスでは、米国の援助で地雷や不発弾の除去活動を行ってきたNGOが活動を停止した。ある団体の職員は「地雷除去が進まなければ、農業や住民の生活に影響が出る」と心配する。
カンボジアでも、地雷対策センターのヘン・ラタナ長官が1月31日、「8地域での地雷除去を停止した」とSNSに投稿した。カンボジアでは、保健や農業、教育など様々な分野にUSAIDの資金が拠出されてきた。同国の選挙監視NGOは「米国の援助停止で今年の予算のうち25%が執行停止になった」と明かした。
■保健分野でも
国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋事務所は今月4日、アフガニスタンで保健師らが妊婦のもとを巡回する活動を停止する見通しだと明らかにした。アフガンでは多くの妊婦が妊娠中の合併症で死亡しているといい、ピオ・スミス所長は「支援が途切れればさらに多くの命が失われる」と危機感をあらわにする。
アフリカの多くの国も米国の援助に頼ってきた。南アフリカでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の対策費の17%を米政府の援助に依存しており、1月下旬以降、患者の無料診療やワクチン接種などを行うUSAID出資団体の多くが機能停止に陥っている。
トランプ政権は、人工妊娠中絶など、政権の方針と相反する分野の活動をUSAIDが担っている点も問題視する。アフリカでは、米拠点の女性の人権擁護団体が数多く存在しており、混乱が長引けば、社会的立場の弱い多くの女性が窮地に追い込まれる恐れがある。【2月15日 読売】
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この措置は世界の健康にも重大な影響を及ぼしています。
****トランプ米政権の対外援助打ち切りで「50カ国の治療・予防に影響」 WHO事務局長****
アメリカが数百億ドルに及ぶ対外援助を凍結していることで、エイズウイルス(HIV)やポリオ、エムポックス(サル痘)、鳥インフルエンザなどの対策プログラムが影響を受けていると、世界保健機関(WHO)のトップが12日、訴えた。(中略)
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、資金面での他の解決策が見つかるまで、援助の再開を検討するようトランプ政権に求めている。
12日のスイス・ジュネーヴでのバーチャル記者会見でテドロス事務局長は、アメリカの援助資金凍結について初めて公に言及。特に、PEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の停止を指摘し、これにより50カ国でHIV治療や検査、予防サービスが停止したと述べた。
「アメリカ政府が取っている行動には、世界の健康に深刻な影響を与えると懸念しているものがある」「診療所は閉鎖され、医療従事者は休暇を取らざるを得なくなっている」
また、救命サービスが一時的に再開されても、全体の混乱は収まっていないと付け加えた。
各国の保健専門家は、アメリカの援助削減によって病気が拡散したり、ワクチン開発が遅れたりする懸念があると警告している。
USAIDは年間約400億ドルを人道援助に費やしており、これはアメリカの年間政府支出の約0.6%に相当する。その多くは健康プログラムに向けられている。
USAIDの資金の大部分はアジアやサハラ以南のアフリカで使われている。欧州では主にウクライナでの人道支援に使用されている。
トランプ大統領は、USAIDが「無能で腐敗している」と主張。1月20日の就任直後、すべての対外援助を停止する大統領令に署名した。
その後、USAIDに業務停止命令が出されたほか、職員2200人を有給休暇にする大統領令も発行された。この大統領令は今月8日、米首都ワシントンの連邦地裁によって一時的に差し止められている。
トランプ氏から権限を与えられ、連邦機関の効率化を担う「政府効率化局(DOGE)」を率いている富豪のイーロン・マスク氏も、USAIDを「犯罪組織」と呼び、閉鎖すべきだと述べいている。
トランプ大統領もマスク氏も、その主張を裏付ける明確な証拠を提供していない。【2月13日 BBC】
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PEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の停止については、あまりの影響の大きさに驚いたのか、トランプ政権も凍結の対象外とする変更を行っていますが、実際資金が流れているのか、現場がどのような状況にあるのかはよくわかりません。
****トランプ氏援助凍結、エイズで数百万人死亡の恐れ 国連機関****
国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・バイアンイマ事務局長は16日、ドナルド・トランプ米大統領が対外援助資金の拠出を凍結すると表明したことを受け、新たに数百万人が後天性免疫不全症候群(エイズ)で死亡する恐れがあると警告した。(中略)
同氏は、援助凍結が「多くの国に強い衝撃をもたらした」と述べ、「米国の資金提供がエイズ救済資金の大部分を占めていることをはっきりと示す必要がある。凍結されれば、多くの人々が命を失う」として警鐘を鳴らす必要性に言及した。
米国は世界最大の政府開発援助(ODA)拠出国であり、その多くは米国際開発庁(USAID)を通じて提供されている。しかし、トランプ氏は就任直後、対外援助の大部分を3か月間凍結するよう指示し、その対象には米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)も含まれていた。ただし、その後、PEPFARは凍結の対象外となった。
米エイズ研究財団(amfAR)によると、PEPFARはHIV感染者2000万人以上と医療従事者27万人を支援している。
バイアンイマ氏はUNAIDSの推計を引用し、援助が再開されなければ、エイズ関連の死者数が5年間で10倍の630万人に増加する可能性があると指摘。また、「同じ期間に新規感染者が870万人に達する恐れもある」と述べた。【2月17日 AFP】
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司法が資金援助の停止を一時的に解除するよう命じたケースもあります。
****トランプ政権の対外援助凍結、一時差し止めを命令 連邦地裁****
米連邦地裁は13日遅く、トランプ政権が対外援助の90日間凍結を命じたことについて、政権発足前に締結された対外援助契約・供与の凍結を一時差し止めるよう命じた。
トランプ氏の対外援助凍結を覆す判決が出たのは初めて。訴訟は米国の対外援助プログラムで資金拠出を受けている2つの医療団体が起こした。
連邦地裁は「なぜ議会で承認された全ての対外援助が一律に凍結されるのか、これまでのところ全く説明がなされていない。援助凍結は全国の企業、非営利団体などとの数千件の合意に衝撃を与え、信頼利益を侵害した」と指摘した。
トランプ氏は、海外開発援助を担う米国際開発局(USAID)など連邦政府機関の解体を目指している。【2月14日 ロイター】
トランプ氏の対外援助凍結を覆す判決が出たのは初めて。訴訟は米国の対外援助プログラムで資金拠出を受けている2つの医療団体が起こした。
連邦地裁は「なぜ議会で承認された全ての対外援助が一律に凍結されるのか、これまでのところ全く説明がなされていない。援助凍結は全国の企業、非営利団体などとの数千件の合意に衝撃を与え、信頼利益を侵害した」と指摘した。
トランプ氏は、海外開発援助を担う米国際開発局(USAID)など連邦政府機関の解体を目指している。【2月14日 ロイター】
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“凍結を一時差し止め”・・・この司法判断で実際に何がどう変わるのか・・・よくわかりません。対外支援が再開されたという話も、現場の混乱がおさまったという話も聞きませんので。
こうした混乱の背景には“トランプの大統領令は、「開発援助の新たな義務と支出」を一時停止するよう指示したものだが、ルビオ(国務長官)はさらに踏み込み、経済開発だけでなく人道支援や安全保障プロジェクトを含む進行中のプログラムも停止した。”【後出 2月18日 WEDGE】という経緯があるとも指摘されていますが・・・どうでしょうか?
部下の忠誠心競争で事態がエスカレートするというのはあり得る話ですが、「どうしてアメリカの金をアフリカなんかのために使わなきゃいけないんだ。一つ残らず全部止めろ」というのがトランプ大統領の考え・指示だったのではないでしょうか。想像ですが。そうでなければ米国際開発庁(USAID)解体なんて話にはならないようにも思えます。
【世界の貧困見捨てるのか】
トランプ大統領の対外援助停止には二つの側面からの批判があります。
ひとつは、そもそも論。最大富裕国アメリカが世界の貧困を見捨てていいのか? という批判。
****トランプ2.0 対外援助の停止 世界の貧困見捨てるのか****
支援を必要とする人々に深刻な影響を与えかねない。トランプ米大統領が世界で実施している対外援助を停止した。
人道支援や開発援助を担う国際開発局(USAID)と国務省の関連事業について、4月下旬ごろまでに効果を検証するという。
トランプ氏は「米国の利益に一致していない」と批判し、国際開発局の「閉鎖」に言及した。職員には自宅待機を命じた。 米国は世界最大の援助供与国だ。対象は途上国を中心に約130カ国・地域に上り、内容も感染症予防から学校教育まで幅広い。
一部の緊急支援は継続されているが、ほとんどが一斉に凍結された。その影響は計り知れない。
国連人口基金は、米国からの資金が途絶えるとアフガニスタンやパキスタンを含む多くの国で出産などの支援を実施できなくなると懸念を表明した。 国際NGOの国境なき医師団は、「何百万もの人々に深刻な人道上の大惨事が起きる恐れがある」と警告した。
なかでも標的にされているのが、「米国の価値観に反する」とトランプ氏が指摘する人工妊娠中絶や性的多様性に関する事業だ。
政権は「浪費と乱用」の事例として、セルビアやアイルランド、コロンビアなどでの多様性への理解を促す文化事業を挙げている。
保守派にアピールし、削減の正当性を主張したいのだろう。 どの国であれ、援助の効率化を図り、税金の無駄遣いをなくす取り組みは必要だ。インフレ下の米国で見直しを求める声が高まっても不思議ではない。
だが、そもそも対外援助は、貧困の撲滅や民主主義の拡大を通じて格差を解消し、紛争をなくすことが目的であるはずだ。
反発は党派を超える。野党の民主党は「法律で規定された行政機関を議会の承認なしに閉鎖することはできない」と批判する。 与党の共和党には、対外支援を利用して途上国の取り込みを図る中国との競争に後れを取りかねないと危惧する声がある。
人道主義や国際協力に根ざした対外援助活動は多くの国や人々に恩恵をもたらし、米国への信頼につながった。そこから手を引けばむしろ不信を高めるだけだ。【2月17日 毎日】
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【アメリカを弱体化させ、中国を利するだけ】
もう少し実利的な面での批判も。
アメリカが援助から手を引けば、結局その空白を埋めるのは中国であり、中国の国際的な存在感を高めることになり、アメリカは弱体化するだけでアメリカの利益にならないという批判です。
****国際開発庁(USAID)解体がアメリカを弱体化させる理由、世界が貧しくなり、中国の影響力拡大という最悪のストーリー****
トランプがすべての対外援助を90日間停止しその間に妥当性を検討するとの決定を行ったことについて、Economist誌2月1日号は、米国自身の利益を害し弱体化するものだと批判する社説を掲載している。
対外援助を非難するのは容易で、資金はしばしば浪費されたり盗まれたりするが、その恩恵は見えにくい。そして、外国人にお金を与えるということは、自国の有権者への還元を減らすことを意味する。そのため、アメリカ・ファーストのトランプ大統領にとっては理想的なターゲットとなる。
しかし、1月24日に国務省がほぼすべての援助を削減するよう命じたときのように、世界の多くの困窮者への援助が一夜にして消えてしまうと、その害はいたるところで目に見えるものとなった。診療所は閉鎖され、HIV感染者を治療する抗レトロウイルス薬が枯渇し、他のウイルスを制御するための活動が中止され、地雷の除去が中止され、難民への支援が消え去った。
これらすべては、米国とソフトパワーの覇権を争う中国への贈り物である。いかにトランプが不用意な人物であるとしても、米国大統領がなぜこれほどまでに自国の利益を無闇に損なうのだろうか。
理由の1つは、世論調査によれば、米国人は対外援助が連邦予算の25%を占めていると考えていることだ。実際の数字は1%程度(2023年には680億ドル、ウクライナへの援助の大半を除く)で、これは、国内総生産(GDP)の0.25%という非常に控えめな数字だ。
新政権が支出を見直すのは正しいが、責任ある政権であれば、全人道援助の40%を供給している米国としては、何を延長し、変更し、やめるべきかを当局者が評価する間、活動を継続させるだろう。トランプ政権は、逆に、まず援助を停止し、90日後に再開すべきものを個々に決定することにした。
その後の混乱は予想されたが、ルビオ国務長官は4日も経たないうちに譲歩しなければならなくなり、「人命に関わる人道支援」についての広範な除外を発表したが、その意味は明確ではない。
混乱が生じた理由の説明はいくつかあろう。1つは、意図的ではなかったということだ。ルビオが部下として熱意を示したかったのかもしれない。トランプの大統領令は、「開発援助の新たな義務と支出」を一時停止するよう指示したものだが、ルビオはさらに踏み込み、経済開発だけでなく人道支援や安全保障プロジェクトを含む進行中のプログラムも停止した。
イデオロギーにも責任があるかもしれない。政権は「覚醒した(woke)」思想を根絶し、ディープ・ステートを潰すためにショックと恐怖を使っている。おそらく、アメリカ・ファーストとは世界のことは二の次であることを示したいのだろう。
そしてトランプは混乱の爆発を喜んでいるのだろう。無秩序な世界では強者が勝ち、米国より強い国は無い。
本当の説明は、おそらくこれらすべての要素がミックスされたものだろう。その結果、不規則で無慈悲な政策立案につながる。国内で移民を悪者扱いするのと同様に、海外で残酷な行為をすること自体が目的になっているのかもしれない。
アメリカ・ファーストに遅れて改宗したルビオは、アメリカ・ファーストが外交政策を形成することを望んでいる。ルビオは、米国が作った秩序を外国が乱用し、「米国の利益を犠牲にして自国の利益を図ってきた」と言う。そして、支出されるドルはすべて、米国をより安全に、より強く、より豊かにするものでなければならないと主張する。
しかし、ジハード主義者が大量発生するリスクを冒すことは、米国の安全を低下させ、悲惨な事態を引き起こすことは、友人や潜在的同盟国を遠ざけ、米国を弱体化させる。そして世界が貧しくなれば、結果的に米国も貧しくなる。
米国の寛大さは単なる慈善事業ではなく、より安定した、より豊かな世界を作るための対外援助は、米国の最大の利益である。それをアメリカ・ファーストと呼んでも良いくらいだ。(後略)【2月18日 WEDGE】
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****世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍結直後のカンボジアで何が起きたのか****
<トランプの対外支援凍結は「中国が世界中で選ばれるパートナーになる道を開いた」──支援停止の数日後にすぐさまカンボジアに働きかけた中国の作戦>
米国際開発庁(USAID)による支援先への支払い凍結で、カンボジアの地雷・不発弾除去プロジェクトが作業の中断を余儀なくされたことを発表した。だが、その数日後に中国が資金を提供したことを同プロジェクトの代表が明らかにしている。(後略)【2月10日 Newsweek】
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****南ア、援助打ち切りの米に代わり中国が支援約束=外相****
南アフリカのラモラ国際関係・協力相(外相)は17日、トランプ米大統領が大統領令に基づいて南アへの資金援助を打ち切ったのに代わり、中国が支援を約束したと語った。
トランプ氏は打ち切った理由を、土地所有での人種間格差に対処することを目的とした南アの土地改革法と、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃をジェノサイド(民族大量虐殺)と主張していることを理由としている。(後略)。【2月18日 ロイター】
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