孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  人質救出・首相退陣を求める抗議デモ 兵役免除のユダヤ教超正統派への批判

2024-04-01 23:07:24 | パレスチナ

(30日 イスラエルの国会前でネタニヤフ政権に反対するデモが行われました。数万人が集まり、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が始まって以降、最大規模となりました。【4月1日 日テレNEWS】)

【民間人被害拡大を憂うバイデイ政権 水面下ではイスラエルへの大型爆弾売却を進める】
イスラエル・ネタニヤフ首相が(アメリカ・バイデン政権と険悪な関係になってまで)ハマス掃討の強硬策に固執していること、また、同氏には政治的にはそれしか生き残る道がないことは、これまでもしばしば触れてきました。

本題に入る前に“アメリカ・バイデン政権と険悪な関係になってまで”ということで、若干の補足。

国連安保理での停戦決議にアメリカが棄権したこと、これに反発するネタニヤフ政権がアメリカへの代表団派遣をキャンセルしたことは3月27日ブログ“パレスチナ・ガザ情勢をめぐり深まるイスラエルとアメリカの溝”で取り上げましたが、その後イスラエルは代表団派遣、アメリカとの協議再開に一転同意しています。

(君子たるもの豹変するのは当然ですので)それはともかく、よく理解できないのが下記ニュース。バイデン政権はイスラエルの攻撃で民間人犠牲者が増大していることを容認できないと言っていたはずですが・・・。

****米、イスラエルに大型爆弾など2300発供与承認 米紙報道****
バイデン米政権は、パレスチナ自治区ガザでイスラム原理主義組織ハマスと交戦するイスラエルに対し、市街地破壊に威力を発揮するMK84爆弾など2300発を新たに供与することを承認した。米紙ワシントン・ポスト(電子版)が29日、伝えた。

イスラエルのネタニヤフ政権は現在、ハマス根絶のためとして100万人以上の避難民が集中するガザ南部ラファへの本格侵攻を準備している。バイデン政権は、民間人に甚大な被害が出る恐れがあるなどとしてラファ攻撃に反対の立場を示しているが、今回の供与承認で矛盾するメッセージを発信した形だ。

新たに供与されるのは、空中から投下する大型の無誘導爆弾MK84(2千ポンド)1800発と、より小型のMK82(500ポンド)500発。いずれも人口密集地で使用した場合、周囲に大きな被害を与える。イスラエルのガザ攻撃では、投下された兵器の約半数が正確性の低い無誘導弾であることが民間人被害の増大を招いていると指摘されている。

また同紙によると、バイデン政権は先週、F35A戦闘機25機をイスラエルへ供与することも決めた。

ガザの人道危機が深刻化する中、与党・民主党では、イスラエルへの軍事支援のあり方を見直すべきだとの論調が強まっている。これに対し、同国の利益を擁護するユダヤ系団体などは、支援に何らかの条件をつけるべきではないとしてロビー活動を活発化させているとされる。

米首都ワシントンでは25〜26日、訪米したイスラエルのガラント国防相が、米側のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)やブリンケン国務長官、オースティン国防長官らと会談。ガザ情勢や両国の軍事協力について協議していた。【3月30日 産経】
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“数年以上前に議会から同意を得ていた案件だとして議会に通知せず水面下で手続きを進めていたという。”【3月30日 共同】 バイデン大統領の真意がよくわかりません。

【政治的生き残りのためには戦闘継続しかないネタニヤフ首相 人質救出を求める国内最大の抗議デモも】
話をイスラエル・ネタニヤフ首相に戻すと、もし戦争が終息すると、ネタニヤフ首相がハマスの襲撃を防止できず、多くの人質を死なせたことだけでなく、ハマス襲撃以前から国論を二分していた司法改革問題に対する責任追及も再開しますし、同氏の収賄事件公判も本格化します。

収賄事件の方は、すでに昨年末に再開しています。

****イスラエルがガザで戦争を続ける中、ネタニヤフ首相の汚職裁判が再開****
12月4日、ガザ地区におけるハマスとの戦争が続く中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の汚職事件の裁判が再開された。

イスラエル当局者によると、パレスチナの武装勢力ハマスがイスラエル南部を攻撃し、1,200人が犠牲となり、240人が誘拐された10月7日以来、裁判は中断していた。

イスラエルの右翼政党リクードを率いるネタニヤフ氏は収賄と不正行為、背任の罪で告発されているが、氏自身はこれを否定している。(後略)【2023年12月5日 ARAB NEWS】
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従ってネタニヤフ首相は“生き残り”のためには、ハマスを根絶やしにできたという「成果」を示す必要に迫られていますが、イスラエル世論がそうした強硬姿勢に同意している訳でもありません。(仮に今回ハマス組織を壊滅させたとしても怨念は増強・引き継がれ、やがて同じような事態になるとは思いますが)

****「ハマス壊滅」より人質救出を イスラエル世論調査、半数が回答****
イスラエル国民の半数以上は、「ハマスの壊滅」より人質の救出を求めている-―。イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘を巡り、イスラエルのシンクタンクが実施した世論調査でこのような結果が出た。

ただ、ネタニヤフ政権を支持する右派は、「ハマスの壊滅」を優先させる人が多く、ハマスの休戦案を拒否した政権の姿勢に影響を与えているとみられる。

調査は、シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」が1月28~30日に実施した。戦闘の目標について、「人質の救出」と「ハマスの壊滅」のどちらを優先するかという質問に対し、「人質の救出」と答えた人は全体の51%で、「ハマスの壊滅」と答えた人は36%だった。

ただ、人口の7割以上を構成するユダヤ人では「人質の救出」が47%、「ハマスの壊滅」が42%だった。一方、人口の約2割を占めるアラブ系イスラエル人は「人質の救出」が69%と多かった。【2月9日 毎日】
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特に、人質家族は同氏の人質救出より戦闘を優先させる姿勢に強い不満を持っています。

****人質救出求め各地でデモ、首相辞任要求も イスラエル****
イスラエル各地で30日、イスラム組織ハマスに連れ去られた人質の救出を求める抗議デモが行われた。ハマスとの武力衝突をめぐる政府の対応を批判する声も聞かれた。

最大都市テルアビブでは、デモ参加者が火を放ち、大型トラックを使って環状道路を封鎖。警察が放水銃を使って対応する事態となった。

エルサレムでは、デモ隊が首相府周辺に集まり、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の辞任を求めシュプレヒコールを上げた。イスラエルメディアによると同日、この他にも小規模な抗議デモが各地で行われた。

昨年10月7日の襲撃で、19歳の娘リリさんが人質に取られたというテルアビブでのデモ参加者は、「無関心と命のために闘う時がきた」「デモに参加して、『今すぐに連れ戻せ!』と声を上げて」と呼び掛けた。
「リリたち人質への思い、彼らが直面しているであろう恐怖から目を背けたことはない。176日が経過した。言い訳はもうできない」

国防省前で行われた反政府デモでは、人質が置かれた状況の責任はネタニヤフ首相にあるとし、参加者らが同首相の写真と共に「あなたがボス、あなたの責任」と書かれたプラカードを掲げた。

昨年11月に開放された元人質の一人は首相に対し、開放への動きを加速させるよう直訴。エジプトの首都カイロとカタールの首都ドーハで予定されている、人質解放協議の担当者に「手ぶらで戻るな」と命じるよう要求した。 【3月31日 AFP】AFPBB News
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上記3月31日の抗議デモは、昨年10月にハマスとの戦闘を始めて以降、最大規模となりました。

【兵役免除・優遇措置のユダヤ教超正統派への批判】
長引く戦闘のなかで抗議の矛先が向かっているのは政府ともう一つ、兵役が免除されているユダヤ教超正統派。
ユダヤ教徒と聞いて私などが思い浮かべる外観イメージの人々です。

****超正統派ユダヤ教教徒****
外見的な特徴としては、男性は頭髪のもみあげを伸ばして黒い帽子・衣服を着用し、女性は鬘やスカーフで地毛を隠すことが多い。

ユダヤ教の教義を学ぶことを最優先と考え、近代的な教育に否定的で、就労していない者が多い。

イスラエル政府から補助金(一家族平均で月3000~4000シェケル)を受け、税や社会保障負担も減免されているが、貧困層が多い。超正統派への公費支出に不満を抱く世俗派ユダヤ教徒もいる。【ウィキペディア】
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****ユダヤ教超正統派教徒の徴兵免除に抗議デモ、平等訴え イスラエル****
 パレスチナ自治区ガザ地区で軍事作戦を続けるイスラエルの主要都市テルアビブの街頭で【3月)16日までに、ユダヤ教超正統派の教徒が徴兵制の対象から除外されていることに抗議する数千人規模が参加するデモ活動があった。

イスラエル国旗を掲げたデモ隊は、「平等の実現なくして結束はない!」などと唱和して気勢を上げた。

イスラエルの社会で超正統派は長年、特別待遇を享受してきた。「イエシバ」と呼ばれるユダヤ教学院は政府から潤沢な補助金を得ている。若年層の教徒は建国期から、実質的に徴兵が免除されてきたという。

イスラエルの最高裁判所は1998年、長らく定着していたこの免除措置を問題視した。政府に対し兵役義務を課さないことは平等の原則に抵触するものだと諭してもいた。

その後の数十年にわたって歴代の政権や国会は問題の解決を試みたが、最高裁はこれらの努力についても違法と再三断じてきた。

ただ、除外措置の維持につながったこれまでの小手先の施策は近く時間切れの節目を迎えそうだ。2018年から続いてきた体面を取り繕うような法的措置が今月末に失効する予定となっている。

イスラエルの野党陣営を率いるラピド前首相は超正統派が徴兵制から除かれていることを長年批判。SNS上で、兵役の適齢期となった超正統派の若者約6万6000人が対象外となり、その一方で一般的な国民らが全面的な負担を引き受けることはあってはならないなどと主張している。

ただ、ネタニヤフ首相率いる連立政権の有力者たちは広範な政治的な支持がなければ首相による超正統派の免除措置の解消を支援しないとの立場を示した。地元のシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」(IDI)の責任者は、場合によっては連立政権を崩壊させかねない重みを持つ極めて大きな問題とも説明した。

一方で超正統派の教徒は、宗教的な学習はユダヤ教の存続に根本的に必要と反論。イスラエルに住む教徒の多くにとってこの学習は、軍にとっての国防の努力と同様に重要なものだと強調している。【3月16日 CNN】
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兵役も免除され、就業していない者も多いということで、軍事・経済におけるその他の者の負担が増すことで、経済的に負担が大きいという批判もあります。

****イスラエル経済、ユダヤ教超正統派の兵役免除続ければ大打撃=中銀****
イスラエル中央銀行は31日公表した2023年の年次報告書で、ユダヤ教超正統派の兵役免除が廃止されなければ、将来にわたって同国に大きな経済的打撃を与えることになると警告した。

ユダヤ教超正統派の兵役免除は長年イスラエル社会に分断をもたしている問題で、ネタニヤフ首相が率いる連立政権は2月に免除廃止に向けた方策を打ち出すと表明。

ただ連立政権内の超正統派系政党からの強い反発を招き、徴兵制度改正法案の策定期限だった31日を控えてネタニヤフ氏が最高裁に30日間の猶予を申し立てるなど、紛糾が続いている。

こうした中で中銀は、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以来、軍の人員確保ニーズが高まるとともに、それによってイスラエル経済の負担も増大していると指摘。「超正統派を含める形で徴兵対象を広げれば、増大する国防需要を満たしつつ、各国民と経済への悪影響を和らげられる」と指摘した。

中銀によると、経済活動全体に占める超正統派セクターの比率は現在の7%から向こう40年で25%まで上昇すると予想される半面、超正統派の男性のうち働いているのは55%に過ぎない。この傾向が持続すれば、2065年までにイスラエルは国内総生産(GDP)の6%を失い、税負担は跳ね上がるという。【4月1日 ロイター】
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ユダヤ教超正統派に関する問題は今に始まった話ではなく、以前から政治的な重要問題となっています。
下記は2019年当時の記事。

****「超正統派」優遇 高まる不満 イスラエル、異例の再選挙へ****
今年四月の総選挙で勝利したイスラエルのネタニヤフ首相が組閣のための連立交渉に失敗し、異例の再選挙に持ち込まれた。

要因の一つは、ユダヤ教超正統派の兵役免除を巡る右派陣営の意見対立だ。
原則、国民皆兵制のイスラエルだが、超正統派の人口が増え、兵役を免れているなどの実質的な優遇措置が「負担の公平性」の観点から国民の不満を招いている。ユダヤ教国家と民主国家。二つの側面を持つイスラエルが抱える根源的な問題でもある。
 
 ■ユダヤ教の伝統
もみあげを長く伸ばし、黒い帽子とコートを着た男性たち。エルサレムでよく見かける彼らは「ハレディム(神を畏れる人)」とも呼ばれる超正統派だ。
ユダヤ教徒の中でも、戒律を厳格に守り、教義の研究に日常をささげる。信仰の妨げになるため、多くが就労や納税をせず、インターネットを使うのも少数派だ。生活は補助金で賄われる。
 
イスラエルでは十八歳以上の男性は三年間の兵役に就く義務を負うが、超正統派が通う宗教学校生は免除される。第二次大戦でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を経て建国された一九四八年、ユダヤ教の伝統的精神を守る目的で導入された。聖書を学ぶ時間を奪われる兵役に反対し、「聖書を究めることで、神がユダヤを守っている」と信じる。
 
当初は免除対象者が四百人にすぎない少数派だったが、超正統派は出生率が高く、一人の女性が出産する子どもは世俗派の二・四人に対して六・九人。九一年には人口の5・2%だったのが、二〇一七年には12%を占めるまでに。六五年には三分の一に達するとの推計もあり、国家財政の負担も増している。

 ■生活様式
こうした超正統派に対し、世俗派には不満が募る。政治評論家ハビブ・ゴール氏は「私にも信仰心はある。だが、子どもが(パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織)ハマスとの戦闘の最前線にいる時、超正統派は家で聖書を読んでいると想像すれば、誰もが不公平を感じる」と漏らす。
 
一方、イスラエル中部に住む経営コンサルタントのヨセフ・クリチェリさん(50)は「古代ユダヤの考え方、生活様式は急に変えられない。兵役を強制するのは良くない」と理解を示す。信仰心が薄い世俗派が過度に増えれば、「ユダヤ人の国というアイデンティティーが失われる」と考える。
 
実際には、超正統派の中にも兵役に就く人たちが一定数いる。ただ、食べ物の戒律や男女別の徹底などの教えが軍の規律と合わず、「軍は頭痛の種になるから必要としていない」(ゴール氏)という面もある。

 ■政治的思惑
超正統派は人口増に伴って政治的な影響力も伸長。一四年に兵役を課す法律がいったんは可決されたが、超正統派の二政党がネタニヤフ連立政権に加わって骨抜きにされた。

一七年には最高裁が兵役免除を違憲と判断、一年以内に是正するよう言い渡したが、先送りされてきた。政治コラムニスト、アキバ・エルダール氏は「今や政界のキングメーカーになった」とみる。
 
四月の総選挙(定数一二〇)でも、二政党は計十六議席を獲得。連立交渉でリーベルマン前国防相の極右政党「わが家イスラエル」(五議席)が主張した免除廃止の法制化に反対した。

リーベルマン氏は「宗教の教えで運営される政権には参加しない」と表明。計六十五議席の右派陣営で組閣を目指したネタニヤフ氏だったが、極右政党の不参加で、過半数を得られなかった。(中略)

イスラエルの選挙は歴史的に、パレスチナ問題を争点に右派と左派が争う構図だったが、最近は国民の右傾化が著しくなっている。超正統派を巡る論争は、九月に予定される再選挙で主要な争点になるかもしれない。【2019年6月24日 東京】
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【本来はシオニストではないユダヤ教超正統派 現実には右傾化】
イスラエルと言うと、「シオニズム」という言葉が思い浮かびます。
「シオニズム」とは19世紀後半に起こった政治運動で、ユダヤ人差別・迫害の究極的克服をユダヤ人国民国家の建設によって達成しようとする運動です。その結果として現在のイスラエルが存在しています。

興味深いのは、このユダヤ教超正統派の人々は本来シオニストではないということ。彼らからすればユダヤ人の離散状態は神の意志によるものであり、人間が自らの意思で「イスラエルの地」に再結集するのは許されない・・・という立場のようです。

ただ、ホロコースト後、超正統派の多くも緊急避難場所としてイスラエルの存在を受入れています。

そういう宗教的立場からすればイスラエルという国家は単なる緊急避難場所であり、何としても死守すべきものでは決してないということにもなり、パレスチナ人との対立抗争には無関心という話にもなります。

しかし、現実問題としては宗教全体の右傾化が進み、宗教性が強いほど右派志向が強いという現実も生じています。

超正統派の人々は、パレスチナ国家との平和共存はできない、入植地はイスラエルの安全保障に有益、アラブ人はイスラエルから追放・移住させられるべきといった「右派志向」がその他のユダヤ教徒よりもむしろ高くなっています。【立山良司氏 「拡大するシオニズムの宗教的側面」より】

何事につけ、ものごとは単純ではなさそう。
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パレスチナ・ガザ情勢をめぐり深まるイスラエルとアメリカの溝

2024-03-27 22:56:50 | パレスチナ

(空中投下される支援物資=25日、パレスチナ自治区ガザ地区ガザ【3月27日 CNN】 ハマスは空中投下について、「攻撃的、誤り、不適切、役に立たない」として中止を、また、陸路の検問所を「即刻」開放するよう求めています)

【滞る支援物資搬入 相次ぐ痛ましい事件】
パレスチナ・ガザ地区の窮状を伝えるニュースは連日報じられていますが、下記のニュースもそのひとつ。

****海に落下した支援物資に住民が殺到、12人溺死 ガザ地区*****
多くの住民が飢餓寸前の状態とされるパレスチナ自治区ガザ地区で海に落下した支援物資に住民が殺到し、12人が溺れて死亡したということです。

ガザ地区では住民のおよそ4分の1が飢餓寸前の状態にあるとされています。北部の海岸沿いでは25日支援物資が投下され人々が殺到しました。

一部が海に落下したため多くの人が泳いで支援物資の確保に向かいました。この際、複数の人が溺れ、パレスチナ自治区の保健当局は、12人が死亡したとしています。

ガザ地区では今月8日にも支援物資のパラシュートが開かないまま落下して住民を直撃し5人が死亡する事故がおきています。住民は、安全に支援物資が行き届くよう一刻も早く陸路での搬入を拡大してほしいと訴えています。【3月27日 日テレNEWS】
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痛ましいとしか言い様がありませんが、周知のように2月29日には支援物資を受けとるために集まった群衆への発砲もしくは混乱で百名を超える死者が出ています。

****ガザ住民「112人死亡」 攻撃か事故か ハマスとイスラエル対立****
パレスチナ自治区ガザ地区北部で、食料を積んだトラックを待っていた多くの住民が死亡した事件で、ガザ保健当局は2月29日、少なくとも112人が死亡、760人が負傷したと発表した。

イスラム組織ハマスは、イスラエル軍による「住民を狙った意図的な攻撃」と主張。一方、イスラエル軍は多くの住民が一斉にトラックに集まったため、人の下敷きになったり、トラックにひかれたりして死亡したとしており、双方の見解が食い違っている。(後略)【3月1日 毎日】
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同様の事件はその後も。

****ガザで支援物資待つ市民29人以上死亡、イスラエル軍攻撃で=当局****
パレスチナ自治区ガザで14日、支援物資を待っていたパレスチナ人が2カ所で相次ぎイスラエル軍の攻撃を受け、少なくとも29人が死亡した。ガザ保健省が発表した。

このうちガザ中部の支援物資配給センターでは、イスラエル軍の空爆により8人が死亡。その後、ガザ北部では支援物資のトラックを待っていた群衆にイスラエル軍が砲撃し、少なくとも21人が死亡、150人以上が負傷した。

イスラエル軍は両事案について調査していると表明した。(後略)【3月15日 ロイター】
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イスラエル軍は、“物資を奪い取ろうとした群衆が押し寄せ、混乱の中でトラックに引かれた”として、住民へのイスラエル軍による戦車からの砲撃や空爆、銃撃はなかったとしています。

【ガザの窮状 責任は支援物資搬入を妨げているイスラエルに】
個別の事件の責任が誰にあるのかは定かではありませんが、ガザ地区はこうした事案がいくらでも起きうる極限状態にあります。

****ガザ北部、2カ月以内に飢餓の公算 110万人が危機に直面=報告書****
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ地区ガザで、人口の約半数に相当する約110万人が「壊滅的な飢餓」のリスクにさらされ、とりわけガザ北部では2カ月以内に飢餓に見舞われる公算が大きい。国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の報告書が18日公表された。

報告書は、ガザ北部での飢餓が差し迫っており、「3月中旬から5月までに発生すると予測される」と警告した。

さらに「3月中旬から7月中旬にかけ、南部ラファでの地上攻撃を含む戦闘が激化するという想定の下、ガザの人口の半数(111万人)が壊滅的な状況に直面する」と予測。この数は昨年12月に発表された前回の報告書からほぼ倍増した。

グテレス国連事務総長はIPCの報告書について、ガザの状況に対する「恐るべき告発」という認識を示した。その上で「完全な人災であり、こうした状況を阻止できると報告は明確にしている」とし、ガザ全域で人道物資の搬入を確実にするようイスラエルに要請した。

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表も18日、イスラエルがガザで飢餓を引き起こし、これを戦争の武器として利用していると非難した。【3月19日 ロイター】
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この状況をつくっているのはイスラエル軍が支援物資搬入を妨げていることです。
ハマス壊滅を優先するイスラエルは、ハマスとの関連を指摘するパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によるガザ北部への食料輸送を認めないと国連に通知しています。

****ガザの飢餓危機 子どもの命見捨てるな****
イスラエル軍の侵攻が続くパレスチナ自治区ガザで飢餓が懸念されている。同軍が食料などの搬入を妨げ、栄養失調による幼児の死亡例も報告されている。直ちに停戦するか、陸路での人道物資の搬入を保障するよう求める。

昨年からの戦闘でパレスチナ側の死者は3万2千人を超え、国連児童基金(ユニセフ)は1万3千人以上の子どもが死亡したと報告した。戦闘に加え、食料不足が子どもらを直撃。ガザ北部では2歳未満の子の3分の1が深刻な栄養失調に陥っている。

国連の「総合的食料安全保障レベル分類」は、戦闘が続けば、ガザ北部では5月までに飢餓が発生し、ガザ全体でも7月までに人口の約半分の111万人が飢餓に直面する恐れがあると予想する。

原因は通行権を握るイスラエルが過剰検査で物資搬入を妨げていることだ。イスラエルは食料不足は国連の能力不足が原因だと主張するが、医療用ハサミを理由に物資の搬入を拒んだ例もある。

配給所や配給を待つ人々への攻撃も絶えず、イスラエルはパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によるガザ北部への食料輸送を認めないと国連に通知した。

欧州連合(EU)高官は「飢餓が戦争の武器」になっていると非難。米国も食料や水の空中投下を始め、海上からの物資搬入に向けて仮設桟橋の建設も計画する。

しかし、空中投下で直下の人々が死亡する事故が起き、桟橋の稼働も5月初旬とされる。搬入の拡大には陸路に勝る方法はない。

国際司法裁判所は1月、ジェノサイド(民族大量虐殺)防止にあらゆる対策を講じるようイスラエルに命じており、即座に陸路による搬入拡大に応じるべきだ。

恒久的停戦が最善策だとしても子どもをはじめ多くの人々の死を座して待つわけにはいかない。
最大の援助組織であるUNRWAへの資金拠出は、一部職員がイスラム組織ハマスの攻撃に関与した疑惑で各国が停止していたが、カナダやスウェーデンなどが再開した。日本も人道的見地から速やかに拠出を再開すべきである。【3月27日 東京】
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UNRWAへの資金拠出については、“日本政府は4月前半にも、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を再開する方向で調整に入った。”【3月26日 読売】とのこと。

【ラファ侵攻を強行する姿勢を変えないネタニヤフ政権にバイデン政権も対応を硬化】
アメリカ・バイデン政権・与党民主党は、ガザの窮状の深刻化、事態への国際的批判の高まり、更にアメリカ国内でもパレスチナに同情的な声が強まり、イスラエル批判が高まっていることなどをうけて、従来のようなイスラエル擁護は再選戦略にとって足かせ・支障にもなりかねず、イスラエル・ネタニヤフ首相に対し厳しい姿勢をとりはじめています。

****「ネタニヤフ氏が和平の障害」米上院トップが異例の退陣要求 強まる対イスラエル圧力****
米民主党上院トップのシューマー院内総務は14日、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの情勢を巡り、同国のネタニヤフ首相が「和平の大きな障害になっている」と述べ、ネタニヤフ氏が率いる右派連立政権の退陣を求めた。米議会の最有力者が同盟国イスラエルの指導者を批判するのは極めて異例。

ガザ攻撃や占領地ヨルダン川西岸への入植を続けるイスラエルにはバイデン政権もいらだちを深めており、今後、ネタニヤフ氏への圧力が強まるのは必至だ。

シューマー氏は同日の議会演説で、ネタニヤフ氏は「イスラエルの最善の利益より自身の政治的生き残りを優先し、方向性を失っている」とし、現政権が「同国の必要とするものにもはや適合していないのは明らか」だと語った。ネタニヤフ氏は収賄などの罪で起訴されており、ガザの戦闘が終息して公判が進めば政治生命の危機に直面する可能性が高いとみられている。

さらにシューマー氏は、ネタニヤフ氏が「ガザ市民の犠牲を進んで許容」しており、「イスラエルへの各国の支持を歴史的な低水準に押し下げた」と指摘。連立を組む「ユダヤの家」のベングビール国家治安相ら極右勢力が、ガザや西岸からのパレスチナ人排除を主張しているのを放置しているとも非難した。シューマー氏はユダヤ系で、長年、親イスラエルの立場をとってきた重鎮。

カービー大統領補佐官は14日、シューマー氏からホワイトハウスへ演説内容の事前通告があったと認め、政権として「(演説を)尊重している」と述べた。

ネタニヤフ氏を巡っては、米情報機関を統括する国家情報長官室(ODNI)が11日に公表した報告書で「指導者としての実行能力が危機的状況にある可能性がある」と分析した。

ネタニヤフ氏が党首を務めるイスラエルの右派与党「リクード」は14日、シューマー氏がネタニヤフ氏を批判したことについて、「シューマー氏の言葉と異なり、イスラエルの社会はハマスに対する完全な勝利を支持している」などとする声明を出して反論した。【3月15日 産経】
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共和党の指導部は、上記シューマー院内総務発言について、内政干渉であり「恥ずべきことだ」として謝罪を要求しています。

バイデン大統領も、多大な犠牲が予想されるイスラエル軍のラファ侵攻について思いとどまるようにネタニヤフ首相に要請しています。

****米大統領「ラファ侵攻は失敗する」 イスラエル首相に代替策提示へ****
バイデン米大統領は18日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議した。バイデン氏は、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区南部ラファへの大規模侵攻は「さらに多くの民間人の犠牲や人道危機を招き、失敗になる」と反対を表明。

米国が検討する「代替策」をイスラエル側に説明するため、軍事や人道支援などを担当する当局者による代表団の訪米を求め、ネタニヤフ氏も応じた。

ただ、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「ネタニヤフ氏が米国とは別の見方をしているのは明らかだ」とも指摘し、人道的配慮よりもイスラム組織ハマスの掃討を優先するイスラエルとの温度差が残っていることを示唆した。

両首脳の間ではガザ情勢を巡る意見の相違が表面化しており、電話協議も2月15日以来、約1カ月ぶり。サリバン氏によると、バイデン氏は電話協議で「ハマスがラファに安全な隠れ家を持つのは許すべきではないが、大規模な地上侵攻でラファの混乱が深刻となり、民間人が多数亡くなり、イスラエルは国際的にさらに孤立する」と指摘。「イスラエルの主要な目的は他の方法によって達成できる」と述べた。

協議後に記者会見したサリバン氏は、ラファに追い込まれたガザ市民の逃げ場がないことやラファが人道支援の受け入れ窓口になっていることなど、大規模侵攻の問題点を指摘。「代替策」の具体案は示さなかったが、戦闘終結後の政治的な計画が必要だと訴えた。両政府の協議は「今週末か来週始めにも開催する」と説明し、協議まではイスラエルがラファに大規模侵攻しないとの見方を示した。(後略)【3月19日 毎日】
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しかし、ネタニヤフ首相はラファ侵攻の姿勢を崩していません。たとえアメリカの支援がなくても・・・と強硬姿勢です。

****イスラエルと米の溝、鮮明…バイデン氏のラファ侵攻計画反対にネタニヤフ氏「団結し立ち向かう」****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は19日、クネセト(国会)の外交防衛委員会で、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの侵攻計画を巡り、「侵攻すべきでないという米国の立場に我々は団結して立ち向かう必要がある」と述べた。米国の意向に背くネタニヤフ氏の発言により、改めて両国の溝が鮮明となった。

ラファ侵攻計画に対し、バイデン米大統領は18日、多数の住民が巻き添えになる事態を想定し、「深い懸念」を表明していた。しかし、ネタニヤフ氏は国会で「(イスラム主義組織)ハマスを完全に壊滅させるためにラファへの攻撃を決意している」とバイデン氏に伝えたと説明した。(後略)【3月20日 読売】
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****イスラエル首相「支援なしでもラファ侵攻」 米国務長官と会談****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルのネタニヤフ首相は22日、テルアビブでブリンケン米国務長官と会談し、ガザ地区南部ラファへの侵攻について、米国の支援が得られない場合でも「単独で実行する」と伝えた。

ブリンケン氏は会談後、ラファ侵攻は「イスラエルを孤立させ、長期的な安全を危うくする恐れがある」と懸念を示した。ラファ侵攻を巡る両国の温度差が改めて浮き彫りになった格好だ。(後略)【3月23日 毎日】
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一方、アメリカ側も「大きな間違い」「強行すればただでは済まない」(ハリス副大統領)と批判のトーンを上げています。

****米、ラファ侵攻断念を要求 ハリス副大統領「大きな間違い」****
ハリス米副大統領は24日放送のABCテレビのインタビューで、イスラエル軍が計画しているパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの地上侵攻について、強行すればただでは済まないとの考えを示し、踏みとどまるよう要求した。

「大きな間違いだ」と訴え、米政府がイスラエルに対して何らかの対応を取る可能性を「排除しない」と警告した。
侵攻すれば、ラファで暮らす約150万人の避難民らは「どこにも逃げる場所がない」とし、民間人被害が拡大するとの危機感も表明した。

国際社会で侵攻断念を求める声が強まっており、イスラエルの後ろ盾となってきたバイデン大統領も「越えてはならない一線だ」としている。【3月25日 共同】
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なお、トランプ前大統領は、ハマスによる昨年10月7日のイスラエルへの奇襲攻撃について、自身もイスラエルと同様の反応をしただろうと理解を示しながらも、イスラエルは国際社会の支持を失いつつあるとし、ハマスとの戦闘を終わらせるべきとの見方を示しています。【3月26日 ロイターより】 イスラエル批判の高まりを感じているのでしょう。

【初のガザ停戦決議を採択=米棄権し黙認 反発するイスラエルは代表団派遣を中止】
こうした状況で、アメリカはこれまでのイスラエル支持の姿勢を修正して、国連安保理における「停戦決議」採択に拒否権を行使しませんでした。

イスラエルとハマスの軍事衝突が始まった昨年10月以降、事態の打開を目指す安保理決議の採択は3回目。アメリカがこれまで反対していた「停戦」(ceasefire)という文言が初めて決議に盛り込まれましたが、実現への道筋はたっていません。

****初のガザ停戦決議を採択=米棄権し黙認、イスラエル反発―国連安保理****
国連安全保障理事会は25日、パレスチナ自治区ガザで続く戦闘を巡り、イスラム教のラマダン(断食月)期間中の即時停戦を求める決議を採択した。昨年10月にイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲して以来、安保理がガザでの停戦要求決議を採択するのは初めて。

全15理事国のうち、日英仏中ロなど14カ国が賛成した。イスラエルの後ろ盾である米国は「ハマス非難が含まれていない」として棄権に回った。米国はこれまで、外交交渉に支障が出るとして停戦の文言を含む決議案に反対してきたが、今回は拒否権行使を見送り、採択を事実上認めた。

一方、イスラエルは米国が拒否権を行使しなかったことに反発。予定していた米国への高官派遣を取りやめると発表した。

決議は「長期的で持続的な停戦につながるラマダン期間中の即時停戦」と「人質全員の即時かつ無条件の解放」を要求。「民間人に対する全ての攻撃に遺憾の意」を表した上で、人道支援拡大も訴えた。グテレス国連事務総長は採択を歓迎する声明を出し「失敗は許されない」と主張。決議の確実な履行を呼び掛けた。

パレスチナのマンスール国連大使は採択後、報道陣に対し、決議採択は「重要な一歩だ」と強調。イスラエルによるガザ最南部ラファへの侵攻を防ぐため、新たな決議案提出を目指すと明らかにした。【3月26日 時事】 
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反発するイスラエル・ネタニヤフ政権はアメリカへの代表団派遣を見送り、両者の溝は更に深まっています。

****イスラエル代表団見送り「失望」 米「支援姿勢変わらず」と強調****
カービー米大統領補佐官は25日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ情勢を巡る協議で米国への代表団派遣を見送ったことに「大変失望している」と表明した。イスラム組織ハマス掃討を続けるイスラエルを支援する方針は「変わっていない」と記者団に強調した。

サリバン大統領補佐官は25日、ワシントンを訪問中のイスラエルのガラント国防相と会談した。

カービー氏は、国連安全保障理事会の即時停戦決議案の採択に米国が拒否権を行使しなかったのは、ハマスが拘束する人質の解放に向けた米国の立場が一定程度反映されているからだと説明。イスラエル首相府が米国を批判していることに「当惑している」と語った。【3月26日 共同】
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イスラエル・アメリカの深まりで、ラファ侵攻を強行しようとするイスラエルへの「歯止め」がかからなくなる恐れも指摘されていますが、イスラエルを支持して侵攻を容認するよりはましでしょう。イスラエルを止められるのはアメリカの本気の圧力だけでしょう。

戦闘休止交渉の行方は不透明感を増しています。

****イスラエル、ドーハ協議から交渉団引き揚げ ハマス要求で「暗礁」****
イスラエル当局者は26日、カタールの首都ドーハで行われているパレスチナ自治区ガザの戦闘休止を巡る交渉から代表団を引き揚げたと明らかにした。イスラム組織ハマスの要求で交渉が「暗礁に乗り上げた」ためとしている。

交渉はエジプトとカタールが仲介。イスラエル当局者は、ハマスのガザ地区トップ、ヤヒヤ・シンワル氏がイスラム教のラマダン(断食月)期間中に戦闘をあおる試みの一環として外交を妨害しているとしている。【3月27日 ロイター】
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イスラエル・ネタニヤフ首相への不満・批判を強めるアメリカ・バイデン大統領

2024-03-11 23:44:42 | パレスチナ

(2023年10月撮影のバイデン・ネタニヤフ両氏【3月9日 ロイター】 もともとリベラルな傾向の民主党米政権と保守強硬派ネタニヤフ首相は折り合いが悪く、オバマ元大統領ともアメリカ史上最悪の関係とも言われていました)

【バイデン再選戦略の足かせになりつつあるガザ情勢・イスラエル支持】
アメリカ大統領選挙は共和党ヘイリー元国連大使の撤退で予定どおりの「バイデン対トランプ」の形になっていますが、トランプ氏については裁判の行方、その選挙戦への影響、裁判費用もあって資金面での困難、ヘイリー氏が一定の批判票を集めたことの本選挙への影響などが議論されています。

一方のバイデン氏については、かねてよりの高齢問題に加え、移民問題への対応、今後の経済動向も今後の課題となってきます。高齢問題については、一定の段階で後進に道を譲る形でバイデン氏が辞退するのでは・・・という「プランB」も(期待を込めて)囁かれていますが・・・・そのあたりはもう少し様子を見て。

その苦戦を強いられているバイデン大統領にとって更なる足かせになってきているのがパレスチナ・ガザで続く惨状、深刻化する飢餓、そしてバイデン政権がイスラエルを支持し続けていることです。

バイデン大統領を支える民主党支持層には、比較的ガザへの同情的な空気、攻撃を続けるイスラエルへの批判が強いとされています。

****米民主党員、過半数がイスラエル軍事支援に否定的=世論調査****
ロイター/イプソスの世論調査によると、民主党員の過半数がイスラエルへの軍事支援を支持しない大統領候補が望ましいと答えた。

バイデン大統領とトランプ前大統領の支持率はともに36%で互角。残りの回答者は「分からない」「別の候補に投票する」「誰にも投票しない」と答えた。

調査は28日までの3日間に実施。イスラエルへの軍事支援に賛成する大統領を支持する可能性が低いと答えた民主党員は全体の56%、支持する可能性が高いと答えた民主党員は40%だった。

バイデン大統領はパレスチナ自治区ガザの軍事衝突でイスラエル側を支持しており、そうした姿勢が大統領選で致命的な弱点になる可能性がある。

27日のミシガン州民主党予備選では、バイデン氏のイスラエル支援に抗議する10万票を超える「支持者なし」票が投じられた。

今回の調査では共和党員の62%がイスラエルへの軍事支援に賛成する大統領候補が好ましいと回答。34%はそうした姿勢を支持しないと答えた。

調査は全米の成人1185人を対象にオンラインで行った。【2月29日 ロイター】
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アラブ系有権者はもちろんですが、バイデン再選戦略を大きく左右する特に若年層がイスラエル支持への不満を強めていると報じられています。

有力な対立候補がいない予備選挙ではバイデン氏が圧勝を続けていますが、少なくないガザ対策をめぐる批判票と思われる票も出ています。

****バイデン氏の再選戦略に課題、ガザ政策巡り再び「抗議票」集まる****
バイデン米大統領は5日に行われたミネソタ州の民主党予備選で大勝が確実になったが、現政権がパレスチナ自治区ガザで攻撃を続けるイスラエルを支援していることに「抗議」を表す票が同州などこの日に集中した予備選・党員集会で投じられ、大統領の再選戦略に課題をもたらした。

エジソン・リサーチによると、ミネソタでは予想票数の約半分が集計された時点で、「支持者なし」票が約20%を占めた。

エジソンによると、同票を主に投じたのはイスラム系米国人をはじめ、学生や郊外に居住する女性、リベラルなユダヤ人活動家などだという。

ミシガン州で先週行われた民主党予備選でも10万票を超える「支持者なし」票が投じられ、全体の13%を占めた。

5日の「スーパーチューズデー」に民主党候補者を選ぶ投票が行われたミネソタ以外のアラバマ、コロラド、アイオワ、マサチューセッツ、ノースカロライナ、テネシーの6州でも「支持者なし」の票が投じられた。そうした抗議票はアイオワの3.9%からノースカロライナの12.2%まで幅がある。【3月6日 ロイター】
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****トランプ氏 圧勝の裏で際立つ“弱点” 勝敗占う「ヘイリー票」と「ガザ情勢」 バイデン大統領と再戦へ【アメリカ大統領選挙】****
(中略)
バイデン氏の苦難 アラブ系住民に突きつけられた「ノー」
一方、「高齢問題」が国民に深刻視されるなどバイデン大統領の状況は4年前よりも不利な状況だ。今月2日ニューヨークタイムズが発表した世論調査では、バイデン氏43%対トランプ氏48%とトランプ氏の優勢が伝えられた。プラスになる材料が乏しいバイデン氏にとっては厳しい戦いになることが予想される。

そして、いま最もバイデン氏を悩ませているのが「ガザ情勢」だ。強硬姿勢のイスラエルのネタニヤフ首相に自制を求めても説得は聞き入れられず、バイデン氏の中東政策についてアラブ系住民からノーを突きつけられている。

2月のミシガン州予備選挙では、バイデン氏が勝つことは規定路線だったが、それよりも注目を集めたのは13%=約10万人が投じた「Uncommitted=支持者なし」票だった。

抗議投票を開始した団体は、スーパーチューズデーの日にはミネソタ州で同じ活動をしていて、同州で記録された「支持者なし」票は18.9%にも上った。

こうしたアラブ系住民を中心とした「反バイデン」層が親イスラエルのトランプ氏に投票することは考えられないが、ミシガン州のような激戦州でバイデン氏が票を失うことになると11月の選挙結果に大きな影響を及ぼす可能性もある。

バイデン氏は私的な会話の中でネタニヤフ首相を「この男」「ろくでなし」などと発言したというアメリカメディアの報道があったように、バイデン氏はガザ情勢をめぐりイスラエルにいら立ちをにじませている。(後略)【3月10日 TBS NEWS DIG】
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【バイデン政権 イスラエル・ネタニヤフ首相への不満・批判を明確化】
こうした状況でバイデン政権はイスラエルへの批判・不満を明らかにしつつあります。

****米副大統領、イスラエルを明確に批判 ガザ「人道的大惨事」****
ハリス米副大統領は3日、パレスチナ自治区ガザの「人道的大惨事」に十分対処していないとしてイスラエルを明確に批判した。

アラバマ州セルマで演説し、即時停戦を呼びかけたほか、6週間の戦闘停止と引き換えに人質を解放する案を受け入れるようイスラム組織ハマスに訴えた。

同時に「ガザの人々は飢えている。状況は非人道的だ」とし、「イスラエル政府は支援物資搬入を大幅に増やすために一層努力しなければならない。言い訳はできない」と断じた。その上で、新たに検問所を開き、物資搬入に「不必要な制限」を設けないことなどを求めた。

再選を目指すバイデン大統領にとって、左派寄りの有権者によるガザ紛争への反発が痛手となる中、ハリス氏のコメントは紛争を巡る政府内のいら立ちを反映している。

ハリス氏はイスラエル戦時内閣メンバーのガンツ前国防相と4日にホワイトハウスで会談する予定で、率直なメッセージを伝えるとみられる。【3月4日 ロイター】
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****ハリス副大統領、イスラエル戦時閣僚に「深い懸念」表明 ネタニヤフ首相に圧力か****
ハリス米副大統領は4日、イスラエル戦時内閣メンバーのガンツ前国防相とホワイトハウスで会談し、パレスチナ自治区ガザの人道状況に「深い懸念」を表明した。

イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続けるイスラエルのネタニヤフ政権について、バイデン米政権は人道面の配慮が希薄だとしていらだちを強めている。ネタニヤフ首相の政敵であるガンツ氏を招き、ネタニヤフ氏に政治的圧力をかける狙いが指摘される。

ホワイトハウスによるとハリス氏は、避難民が集中するガザ南部ラファでイスラエル軍が作戦を行うには「確実で実行可能な人道計画が必要」だと強調。ガザへの人道支援の搬入量を増やして安全に分配できるよう、米国など国際社会との連携に「追加的な措置」を講じるよう促した。

ガンツ氏は4日、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らとも現地情勢を協議し、5日にはブリンケン国務長官と会談する。

野党代表のガンツ氏は戦時内閣のメンバーながら、元来はネタニヤフ氏の政治的ライバルだ。バイデン政権がガンツ氏を招いて高官級会談を設定したのは、ラファ攻撃や占領地・ヨルダン川西岸での入植拡大に突き進むネタニヤフ氏への牽制だとの見方が強い。

バイデン政権は、大規模な飢餓さえ危惧されるガザの人道状況を懸念。民主党の支持基盤であるアラブ系などのマイノリティー(少数派)や若年層には、バイデン政権がイスラエルを制止できていないことへの不満が強い。

ガンツ氏は、ハマス壊滅まで戦闘を続けるとする点でネタニヤフ氏と同じ立場だが、パレスチナとの対話にはより柔軟だとされる。イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)はガンツ氏の訪米について、「米国が誰を信頼しているか」を示していると評した。

ハマスの奇襲を許したネタニヤフ氏は国内で厳しく非難されている。ネタニヤフ氏は収賄罪などに問われており、戦闘が終結すれば公判が進んで政治生命の危機に直面する恐れもある。【3月5日 産経】
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政敵ガンツ前国防相の訪米はネタニヤフ首相には無断でおこなわれ、ネタニヤフ首相は激怒し、在米大使館に対してはガンツ氏の訪問の調整を行わないよう指示したとのこと。
そうした形でガンツ氏を招くこと自体がバイデン政権の強いネタニヤフ批判を示しています。

なお、イスラエルへの不満を募らせているのはイギリスも同じです。

****英国もイスラエルに懸念表明「忍耐は限界に近づいている」 ガザ戦闘開始5カ月****
(中略)一方、イスラエルの戦時内閣のメンバーであるガンツ前国防相は6日、英国でスナク首相やキャメロン外相と会談。キャメロン氏はガザへの支援物資の搬入増量に努めるよう求め、イスラエルが計画するガザ最南端ラファへの地上作戦に「深い懸念」を伝えた。

イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)がガンツ氏の事務所の発表として伝えた。ガンツ氏は先立って米国を訪問し、ハリス米副大統領らから同様の懸念を伝えられている。

米英は従来、イスラエル支持を表明してきたが、ガザの戦闘激化に伴い事態の改善を促す態度に転じた。ロイター通信によると、キャメロン氏は5日の英上院での演説で、飢餓や病気が広がりガザで住民が死亡し始めたとして「忍耐は限界に近づいている」と述べてイスラエルに警告した。【3月7日 産経】
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【アメリカの意向を無視するネタニヤフ政権】
しかし、ネタニヤフ政権はガザでの攻撃を続行しており、更に極右閣僚は(アメリカが意図する今後のパレスチナ在り方を危うくする)ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植を拡大する計画を明らかにしています。

****ヨルダン川西岸で入植者住宅3500戸建設へ イスラエル極右閣僚****
イスラエルのオリット・ストローク国家特命相は6日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で入植者用住宅3500戸の建設計画を推進する方針を明言した。

イスラエルでは極右のベツァレル・スモトリッチ財務相が先月、西岸でパレスチナ人武装集団によって民間人1人が殺害されるなどしたのを受け、報復として入植地を拡大する意向を表明。

スモトリッチ氏の盟友で同じく極右のストローク氏もX(旧ツイッター)に「われわれは入植を続ける」と投稿。「3500戸近くの入植者住宅」の建設を計画していることを明らかにした。

イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」は、エルサレム東郊のマーレアドゥミムとケダール、同市南郊のエフラットで、計3426戸の建設が計画されていると指摘している。 【3月7日 AFP集】
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アメリカを含めた欧米諸国、国連も将来のパレスチナ国家樹立の障害となるイスラエルの入植活動を批判はしていますが、ネタニヤフ政権は聞く耳を持たない様子です。

****イスラエル入植地拡大は「戦争犯罪」 国連****
国連人権高等弁務官事務所のボルカー・ターク高等弁務官は8日、イスラエルが占領下のパレスチナ自治区で入植地を拡大していることについて、「戦争犯罪」に当たると指摘し、パレスチナ国家樹立の可能性を完全になくす恐れがあると警告した。

ターク氏は国連人権理事会への報告書で、イスラエルがガザ地区で無慈悲な攻撃を続ける一方、ヨルダン川西岸で違法な入植者用住宅の建設を大幅に加速していると主張。イスラエルによる入植地の建設・拡大は、自国民を占領地に送り込むのに等しいと指摘した。

さらに、こうした行為は「戦争犯罪」に相当し、「関与した者は個人として刑事責任を問われる可能性がある」と述べた。

報道によれば、イスラエルは「国際法を無視」して、ヨルダン川西岸のマーレアドゥミムとエフラット、ケダールで、入植者用住宅3476戸の建設を計画している。

スペイン外務省も同日、イスラエルがパレスチナ国家と共存する「2国家解決」に向けた努力を台無しにし、「和平への障害になる」としてイスラエルの入植地拡大計画を「強く非難」した。 フランス外務省も計画を「強く非難」し、イスラエル政府に「直ちに撤回」するよう求めた。 【3月9日 AFP】AFPBB News
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【深まるバイデン大統領とネタニヤフ首相の溝】
こうしたなかで、バイデン大統領はガザ攻撃を続けるネタニヤフ首相に対し「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」と強く批判しています。

****「イスラエルに損害及ぼす」=バイデン米大統領、ネタニヤフ首相を批判****
バイデン米大統領は9日放送のMSNBCテレビのインタビューで、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘で市民ら3万人以上が犠牲になったことに関し、同国のネタニヤフ首相について「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」と批判した。米大統領がイスラエルの首相に対してここまで厳しく表現するのは異例だ。

バイデン氏は「ネタニヤフ氏はイスラエルを守る権利はあるが、彼の行動の結果によって失われた罪のない人々の命に注意を払わなければならない」と改めて強調した。

イスラエル軍が検討しているパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの本格侵攻については、「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。ただ、「イスラエルを守ることは依然として重要だ。見捨てることはしない」とも述べた。

戦闘休止に向けてエジプトで行われた交渉は、現在までに目立った成果は出ていない。バイデン氏は、10日ごろに始まるイスラム教のラマダン(断食月)までの合意実現に関して「可能性は常にある。あきらめない」と語った。【3月10日 時事】 
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これに対しネタニヤフ首相は「(バイデン)大統領が一体何を意味しているのか分からない」と不快感を露わにしています。

****ネタニヤフ首相、バイデン大統領に批判され「一体何を意味しているのか分からない」と不快感****
(中略) 一方、ネタニヤフ氏は、米政治専門紙ポリティコに「(バイデン)大統領が一体何を意味しているのか分からない」と不快感を示し、「私の立場は大多数のイスラエル人に支持されている」と反論した。【3月11日 読売】
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ネタニヤフ首相にとっては“ハマスの奇襲を許したネタニヤフ氏は国内で厳しく非難されている。ネタニヤフ氏は収賄罪などに問われており、戦闘が終結すれば公判が進んで政治生命の危機に直面する恐れもある。”【3月5日 産経】ということで、戦争継続しか選択肢がない現実も。

バイデン大統領もここでネタニヤフ首相に甘い対応をすれば民主党左派から厳しい批判にさらされるという再選戦略がかかっており、お互い政治生命をかけた対立にもなってきています。

バイデン大統領は「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」発言の前にネタニヤフ首相との「カム・トゥー・ジーザス(Come to Jesus)ミーティング」を呼び掛けていますが、今の状況では両者の会談は不透明です。

****バイデン氏、イスラエル首相に会談の意向伝える ガザ支援巡り****
バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、パレスチナ自治区ガザへの人道支援物資の搬入を巡る問題で「カム・トゥー・ジーザス(Come to Jesus)ミーティング」を行うと伝えたことが分かった。民主党関係者がソーシャルメディアに動画を投稿した。 

カム・トゥー・ジーザスとは米国の表現の一つで、無遠慮な会話を意味する。 

動画ではバイデン氏が7日夜に連邦議会議事堂で民主党のマイケル・ベネット上院議員、ブリンケン国務長官、ブティジェッジ運輸長官と会話する様子が映されており、ベネット氏がガザへの人道支援を拡大するようイスラエルに働きかけ続ける必要があると話している。 バイデン氏は動画の中で「私はビビ(ネタニヤフ氏の愛称)に、あなたと私はカム・トゥー・ジーザス・ミーティングを行うだろうと伝えた」と述べた。【3月9日 ロイター】
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パレスチナ  ガザ市への食糧搬入で112人死亡 錯綜する情報 アメリカの対応への影響も

2024-03-01 22:56:45 | パレスチナ


(パレスチナ自治区ガザ市で、支援物資を積んだトラックの周囲に集まったガザ住民とされる人々。イスラエル軍提供の動画より(2024年2月29日公開)【3月1日 AFP】 
イスラエル側には“砂糖に群がるアリ”のようにも見える光景でしょう。ただ、そのアリにも極限状態で必死の思いがあることも考慮する必要があります)

【「ガザ住民の4分の1に当たる、57万6千人が飢餓の一歩手前にある】
パレスチナ・ガザ地区で、戦争の直接被害だけでなく、食糧事情が極めて懸念される事態になっていることは多くの報道のとおり。秩序が崩壊してガザ市など北部地域への国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の食料配布も滞っています。

****安保理、ガザ巡り米ロ非難の応酬 国連側「50万人が飢餓寸前」****
国連安全保障理事会は27日、戦闘の続くパレスチナ自治区ガザの食料危機を協議する緊急公開会合を開いた。

国連側は「ガザ住民の4分の1に当たる、57万6千人が飢餓の一歩手前にある」と説明し、即時停戦を訴えた。ロシアは「米国が停戦を阻んでいる」と批判。米国はウクライナ侵攻を取り上げてロシアを批判し、非難の応酬となった。

国連人道問題調整室(OCHA)の担当者は、ガザ北部の2歳未満の子どもは、6人に1人が栄養失調などの状態だと指摘した。【2月28日 共同】
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****生後2カ月の乳児が餓死 ガザ北部の人道危機が深刻化****
中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」は25日、パレスチナ自治区ガザ地区北部で生後2カ月の乳児が餓死したと報じた。ガザ北部では、治安状況の悪化などで国連による食料配給が中止されており、人道危機が深刻化している。
 
アルジャジーラによると、乳児は数日間、ミルクを飲めておらず、北部のシファ病院に運ばれたが間もなく死亡したという。住民によると、ガザ北部では食料が底を突きており、住民はロバのえさに使っていた大麦などを食べてしのいでいる。乳児用のミルクも市場でほぼ見つからないという。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長は25日、UNRWAが1月23日以降、北部に食料を配給できていないと明かし、「(イスラエル側に)食料の配布を求めても、拒否されている。これは人災だ」と主張した。

国連世界食糧計画(WFP)が北部の避難所などで行った調査では、2歳未満の子供の6人に1人が栄養失調に陥っているという。一方、イスラエルは食料配布ができないのは、国連側の責任だとしている。(後略)【2月26日 】
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****雑草食べて生き延びようとする住民「間もなく餓死する」…ガザ北部で飢餓が危機的状況、支援届かず****
イスラエル軍とイスラム主義組織ハマスの戦闘によるパレスチナ自治区ガザでの死者数が29日、3万人を突破した。ガザ北部では飢餓が危機的な状況になっており、食料や水の支援物資がほとんど届かず、家畜の餌や雑草を食べて生き延びようとしている住民もいる。住民からは「間もなく餓死する」と悲嘆の声が上がっている。

「このまま人道支援が来なかったら私たち一家は餓死するしかない」――。ガザ北部のガザ市中心部リマル地区に身を寄せる主婦ラジャ・ラマダンさん(35)は、本紙通信員の電話取材に力なく答えた。

2歳から10歳の4人の子どもと両親ら16人で暮らすが、備蓄していた食料と水は既に尽きた。市場に行っても食料は手に入らない。最近は汚れた水に塩と雑草を入れたスープを食べている。全員、やせ細った。ラマダンさんは「戦闘が止まり、支援物資が来てほしい」と願う。

ガザ北部の住民の多くは戦闘が始まった昨年10月上旬、イスラエル軍の命令で南部へ避難したが、10万人以上が北部に残っているとみられる。軍はその後、ガザを南北に分断しており、行き来ができない。人道支援物資のトラックは南部のラファとケレム・シャローム検問所から入るため、北部にはほとんど到達しない。

国連は、ガザの全人口220万人のうち4分の1が餓死寸前と報告する。ガザ保健当局は2月27日、飢餓による死者の集計を始めた。

ガザ市ザイトゥーン地区に住むイサック・ハーシムさん(30)は1週間前、支援物資のトラックが久しぶりに到着したと聞き、駆けつけた。しかし、数千人がトラックに殺到し、何も受け取れなかった。ハーシムさんは「誰もが空腹で殺気立っている」と話す。

ガザでは、飢えた住民が支援物資を載せたトラックを襲撃し、略奪する事件が相次いでいる。世界食糧計画(WFP)は20日、援助物資の搬入を一時停止した。

イスラエルの戦時内閣は26日、北部に支援物資を直接入れることを容認したが、実際に搬入が進むかどうかは不透明だ。

ガザ市リマル地区のモアーズ・アハマドさん(26)の一家は、ロバの餌の大麦を1キロ150シェケル(約6200円)の法外な値段で手に入れ、パンを作った。「ひどい味」だったという。アハマドさんは「国際社会はガザの惨状をどうして見過ごしているのか」と憤りをあらわにした。【3月1日 読売】
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【食糧搬入で112人死亡 錯綜する情報】
その北部ガザ市への食糧搬入が行われましたが、少なくとも112人が死亡、760人が負傷という悲惨な事態を引き起こしています。

パニック状態の群衆に何が起きたのか・・・情報は錯綜しています。

****ガザ住民「112人死亡」 攻撃か事故か ハマスとイスラエル対立****
パレスチナ自治区ガザ地区北部で、食料を積んだトラックを待っていた多くの住民が死亡した事件で、ガザ保健当局は2月29日、少なくとも112人が死亡、760人が負傷したと発表した。

イスラム組織ハマスは、イスラエル軍による「住民を狙った意図的な攻撃」と主張。一方、イスラエル軍は多くの住民が一斉にトラックに集まったため、人の下敷きになったり、トラックにひかれたりして死亡したとしており、双方の見解が食い違っている。

ガザ北部では治安悪化などのため、国連による食料搬入が滞っており、市民が飢えに苦しんでいる。イスラエル軍によると、状況改善のため、29日早朝に38台のトラックが北部ガザ市に入り、海岸沿いを走行していたところ、待機していた住民がトラックに一斉に集まり、「略奪」を始めた。

米CNNによると、住民がトラックに向かうと同時に、イスラエル軍が銃撃を始めたという。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」に証言した住民によると、イスラエル軍は戦闘機や戦車で攻撃を実施し、物資を積んだトラックはまるで「(イスラエルの)わなのようだった」と話している。ハマスは「頭を撃たれた住民もおり、住民が標的にされたことは明らかだ」と主張する。

一方、イスラエル軍は大勢の住民がトラックに群がる姿を映した動画を公開。イスラエル軍はトラックの安全を確保する役目を負っており、戦車による砲撃は住民を追い払うための「警告射撃だった」と主張する。

その後、トラックに集まった住民が押し合いになったり、トラックが動いて住民をひいたりして、多くの死傷者が出たとしている。

イスラエル軍のハガリ報道官は29日、「我々は支援を求める市民に対し、空からも地上からも攻撃していない」と述べた。負傷者らは近くの病院に運ばれたが、病院は医療物資が不足しており、応急処置しかできない状態だという。

国連のグテレス事務総長は29日、今回の事件を非難する声明を発表した。声明は、イスラエル軍が包囲するガザ北部では国連が1週間以上も支援物資を届けられていないと指摘。「絶望的な市民は緊急の援助を必要としている」と述べ、大規模な人道支援の受け入れを保証する即時停戦の必要性を改めて訴えた。

事件を受け、国連安全保障理事会は同日、非公開の緊急会合を開いた。安保理では、人質の解放を前提にした「一時停戦」を求める米国提出の決議案についての交渉が続いている。

イスラエルとハマスは仲介国を通じ、6週間の休戦と人質解放を巡る交渉を継続しているが、ハマス幹部は29日、今回の事件が交渉に影響を与えるとの見方を示した。

イスラエルのネタニヤフ首相は29日の記者会見で、交渉妥結の前提条件として「解放される人質のリストが必要だが、(ハマスから)リストは提供されていない」と述べ、交渉妥結を「引き続き希望するが、約束はできない」と話した。【エルサレム三木幸治、ニューヨーク八田浩輔】
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****イスラエル軍が食料支援に殺到した住民に発砲、100人超死亡 ガザ保健当局****
(中略)イスラエル軍は、必死になったガザ住民が支援物資を積んだトラック38台を取り囲んで「群衆事故」が起き、トラックにひかれるなどして、数十人の死傷者が出たと発表した。

ただし、あるイスラエル関係者は、同軍が群衆に「脅威を感じた」ため群衆に発砲したと認めた。

夜明け前に起きたこの事態をめぐっては情報が錯綜(さくそう)している。
匿名で取材に応じた目撃者によれば、ガザ市西部のナブルシ環状交差点で、群衆数千人が支援物資を積んだトラックに殺到。戦車に「近づきすぎたために」、イスラエル兵が群衆に向けて発砲したと語った。

イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は、同軍はトラックを待ち受けていた群衆を解散させるため「数発の威嚇射撃」を行ったと説明。群衆が増えすぎたためトラックの車列が後退しようとしたところ、「不幸な事故でガザ住民数十人が死傷した」と語った。

イスラエル軍が公開した空撮画像には、ガザ住民とされる大勢の人がトラックを取り囲む場面が写っている。 【3月1日 AFP】
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イスラエル軍戦車による砲撃もあったようですが、イスラエル軍は住民を追い払うための「警告射撃だった」と説明しています。

イスラエル軍の群衆への銃撃はあったのか? どのような原因で100名以上の死者がでたのか?

病院に運び込まれた負傷者・死者の状態を見れば、おおよそのことはわかると思いますが、未だ判然としていません。

パレスチナ側が言うように“イスラエル軍が「意図的に」起こした”(パレスチナのマンスール国連大使)というのも考えにくい話ですが、仮にイスラエル軍は数発の威嚇射撃程度しかしていない・・・ということでも、群衆パニックを引き起こしたこと、何よりも、そういう状況が生まれるような極限状況を作り出してきたことで、イスラエルに対する国際世論が増すことが予想されます。

【バイデン再選戦略の足かせとなりつつあるパレスチナ情勢・アメリカのイスラエル支持】
バイデン米大統領は「何が起こったのかについて二つの説が対立している。まだ答えがない」と述べていますが、TVニュースでは「イスラエルに説明を求める」とも。

アメリカ国内において、パレスチナ情勢、アメリカのイスラエル軍事支援が、バイデン再選戦略の足かせになりつつある状況もありますので、バイデン大統領としても慎重な対応を考えているでしょう。

****米民主党員、過半数がイスラエル軍事支援に否定的=世論調査****
ロイター/イプソスの世論調査によると、民主党員の過半数がイスラエルへの軍事支援を支持しない大統領候補が望ましいと答えた。

バイデン大統領とトランプ前大統領の支持率はともに36%で互角。残りの回答者は「分からない」「別の候補に投票する」「誰にも投票しない」と答えた。

調査は28日までの3日間に実施。イスラエルへの軍事支援に賛成する大統領を支持する可能性が低いと答えた民主党員は全体の56%、支持する可能性が高いと答えた民主党員は40%だった。

バイデン大統領はパレスチナ自治区ガザの軍事衝突でイスラエル側を支持しており、そうした姿勢が大統領選で致命的な弱点になる可能性がある。

27日のミシガン州民主党予備選では、バイデン氏のイスラエル支援に抗議する10万票を超える「支持者なし」票が投じられた。

今回の調査では共和党員の62%がイスラエルへの軍事支援に賛成する大統領候補が好ましいと回答。34%はそうした姿勢を支持しないと答えた。

調査は全米の成人1185人を対象にオンラインで行った。【2月29日 ロイター】
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【国際的にもウクライナと絡めて米に「二重基準」批判】
国際的にもアメリカのイスラエル支持は、ウクライナ侵攻のロシアを批判する対応と「ダブルスタンダード」だとの批判が強まっており、そうした雰囲気を受けて、ウクライナはロシアに対する非難決議案の国連総会への提出を見送る事態にもなっています。

****国連総会でロシア非難決議案の提出見送り、米に「二重基準」批判…イスラエル擁護に関係国反発****
ロシアのウクライナ侵略開始から2年に合わせた国連総会と安全保障理事会の23日の会合で、ウクライナはロシアに対する非難決議案の提出を見送った。

ウクライナの最大支援国である米国がパレスチナ自治区ガザ情勢を巡ってイスラエルを擁護し続け、関係国の反発を招いたことが影響したとの見方が出ている。

ロシアの侵略開始以降、国連総会で採択された対露非難決議などは6本に上る。決議案は主にウクライナが提出してきたが、文案の作成や各国への根回しでは「ロシア非難を主導してきた米国が大きな役割を果たしてきた」(安保理筋)のが実情だ。侵略1年に合わせた昨年の国連総会では、露軍撤退などを求める決議案への賛成は全193か国のうち141か国に上った。

イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が始まった昨年10月以降、状況は一変した。米国は、ガザで犠牲者が増え続けても戦闘継続にこだわるイスラエルの意向を受け、即時停戦に反対し続けてきた。この結果、アラブ諸国などから反発を招き、苦境に立たされた。

米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は23日の演説で、「ロシアが国連憲章に違反し、侵略を続けている」と非難し、即時撤退を求めた。

しかし、演説を聞いたアラブ圏の外交官は読売新聞の取材に対し、「ロシアの侵略は許せないが、米国の主張は『ダブルスタンダード(二重基準)』だ」と批判した。米国は露軍撤退を要求する一方、ガザで即時停戦を求める決議案には拒否権を行使しているためだ。

国連外交筋は「ガザでの停戦決議を米国が容認しない限り、ウクライナの決議案に賛同できないという国が増えてきた」と明かし、「仮に対露非難決議案が採択されても賛成票は昨年より大幅に減り、ロシアに誤ったメッセージを送るリスクがあった」と分析した。【2月25日 読売】
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今回事件を受けて、アメリカのイスラエル支持はますます国際的に容認されがたくなることが予想されます。

【パレスチナ人の命を全く考慮しないイスラエル極右閣僚 それに引きずられるネタニヤフ首相】
一方のイスラエル・ネタニヤフ政権ですが、政権の極右閣僚からは「(イスラエル軍は)ガザ地区で暴徒に対して素晴らしい対応をした」との発言が。

****<カタール・アルジャジーラ>イスラエル国家安全保障相“支援物資の搬入をやめるべき”****
イスラエルの新聞、マーリブの報道によるとイスラエル・ベングビール国家安全保障相は「ガザ地区で暴徒に対して素晴らしい対応をした。
イスラエル軍の英雄である兵士たちに完全な支援を与えるべきだ。【3月1日 JCC】
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「支援物資の搬入をやめるべき」というのは、人質をとっているハマスを利する「支援物資の搬入をやめるべき」という主張です。

こういうパレスチナ人の命を一顧だにしない極右勢力の支えでネタニヤフ首相は政権を維持しています。
ベングビール国家安全保障相は、政権がハマスとの戦争終結を決めた場合、自身は政権から退くとの意向を示唆して(その結果、ネタニヤフ政権は崩壊し、ハマス襲撃を許したことなどの政治責任を問われるネタニヤフ首相の政治生命は終わります。)、ネタニヤフ首相の選択肢を狭めています。

ネタニヤフ首相が極右勢力をとりこんで組閣した際に、「いずれ、極右勢力の発言・行動は問題になるだろう。老獪なネタニヤフ首相は時間をかけて野党勢力を懐柔して、極右勢力を切り捨て、より安定した政権をつくるつもりだろう」とも予測する見方がありました。

しかし、そうした対応の前にハマス襲撃事件が起きて、ネタニヤフ首相としてはこの時点で極右を切れず、その主張に引きずられるように戦争遂行にのめり込む事態ともなっています。

【今一番重要なことは】
最後になりましたが、今回事件でおそらく食糧搬入は再びストップするのでしょう。
それによって「ガザ住民の4分の1に当たる、57万6千人が飢餓の一歩手前にある」という事態がどうなるのか?
そこが、一番気掛かりなところ・・・と言うか、国際社会として緊急に対応すべきところでしょう。


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パレスチナ・ガザ地区  食糧支援中断は「死刑宣告を意味する」 停戦を求める国際圧力 米にも変化

2024-02-21 21:59:50 | パレスチナ

(食料を求めて殺到する住民(撮影・ガザ住民)【2月18日 土井敏邦氏 YAHOO!ニュース】)

【無秩序状態で滞る国際支援 食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」】
200万人が暮らすパレスチナ・ガザ地区での食糧難・飢餓が深刻化しています。秩序が失われ、食料を求める暴徒による襲撃・略奪によって国際支援も遂行できない状況にもなっています。

****WFP、ガザ北部への物資輸送停止 略奪と銃撃受け****
国連の世界食糧計画は20日、パレスチナ自治区ガザ地区では飢餓が広がっているにもかかわらず、ガザ北部への支援物資の輸送を停止すると発表した。車列が略奪と銃撃を受けたことから、安全確保のためとしている。

WFPは18日、3週間ぶりにガザへの物資搬送を再開した。予定では、7日間にわたって毎日トラックで食料を輸送することになっていた。

だが、18日には「トラックによじ登ろうとする人々」を阻止する事態にたびたび追い込まれ、車列がガザ市に入ると銃撃も受けたという。

翌19日には、「社会秩序の崩壊に伴う完全な混乱と暴力」に直面。「トラック数台が略奪され、運転手1人が殴られた。車内に残っていた小麦粉は、怒号が飛び交い緊張感が張り詰めたガザ市内で、勝手に分配された」という。

WFPは「安全に物資を配布できる状況が整うまで」は搬送を停止せざるを得ないとし、「ガザの状況はさらに悪化し、より多くの人が餓死する恐れがある」ため、苦渋の選択だったと強調した。

イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まってから4か月以上が経過する中、WFPによると、ガザでは食料と安全な水が「絶望的」に不足している。 【2月21日 AFP】AFPBB News
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ガザの地元当局は、食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」と指摘し、早期に再開させるよう訴えています。

更に、医療の崩壊による医療危機も深刻化し、仮にすぐに停戦が実現した場合でも、医療危機により半年間で8000人が死亡する恐れがあるとの予測もあります。

****WFP、ガザ北部の食糧支援を一時中断 略奪相次ぎ配布困難に*****
(中略)
WFPなどが北部の避難所などで行った調査では、2歳未満の子供の6人に1人が栄養失調に陥っており、食糧不足は危機的な状況だ。

中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」によると、ガザの地元当局は20日、食糧支援の中断は「死刑宣告を意味する」と指摘し、早期に再開させるよう訴えた。

 ガザ地区では医療危機も続いている。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がガザ地区で運営する保健センターは、全23カ所のうち中部と南部の計7カ所しか稼働していない。

ガザ地区で2番目に大きい南部ハンユニスのナセル病院はイスラエル軍の軍事作戦により機能を停止したが、世界保健機関(WHO)によると、患者130人が取り残されている。

ロイター通信は20日、すぐに停戦が実現した場合でも、医療危機により半年間で8000人が死亡する恐れがあるとの米英の専門家の試算を報じた。

ガザの保健当局によると、これまでの戦闘による死者は20日、2万9195人となった。【2月21日 毎日】
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戦闘が続けば、飢餓による栄養失調と医療崩壊による民間人犠牲者は更に増大します。

****ガザの死者、停戦でも8000人増加か 公衆衛生危機で=報告書****
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院と米ジョンズ・ホプキンス大学人道保健センターが19日公表した報告書によると、パレスチナ自治区ガザではイスラエルとの停戦が実現した場合も、公衆衛生の危機により今後6カ月で約8000人が死亡する可能性がある。

ガザでは戦闘により病院が壊滅的な被害を受け、人口230万人の85%以上が家を失った。過密な避難所では下痢や栄養失調に苦しむ人が増えている。

報告書によると、戦闘が続いたり激化した場合、外傷による死者が超過死亡の大半を占める見通しだが、栄養失調やコレラなどの感染症のほか、糖尿病などの治療を受けられないことにより多数の死者が出るとみられる。

戦闘が激化し、病気がまん延する最悪のシナリオでは、8月上旬までに約8万5570人が死亡し、うち6万8650人が外傷に関連した死者となる可能性がある。

停戦が実現しても、病気のまん延で衛生・保健状況の改善が進まない場合、8月上旬までに約1万1580人が死亡する恐れがある。うち約3250人は外傷に起因する長期合併症、約8330人は他の原因で亡くなるとみられる。(後略)【2月21日 ロイター】
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事態を更に悪化させているのが、国連機関UNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)への米日などの資金拠出停止の問題。

2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃に、UNRWAの一部職員が関与した疑いが浮上。アメリカや日本など10か国以上がUNRWAへの資金の拠出を停止しています。

UNRWAの清田明宏保健局長は
「もしUNRWAがなくなって支援が止まれば、こういう言い方はよくないが、死刑宣告の近い状態になってしまう」
「こういった国(米・英・仏・独・日本など、いわゆるメジャーな、拠出金を出している大きな国)というのは政治的なゲームにもなってしまっている、政治的なツールになってしまっていて、みんなアメリカに右へならえで拠出金を一時停止していますが、中には継続している国(ノルウェーなど)もあるわけです。 人道的な観点から資金提供を続けていかないと、人道危機というのはどんどん悪化していく。」
「ガザに住んでいる200万人以上の住人に対して、集団的懲罰といってもいい状態になっているということだと思います。」
と危機感を訴えています。【2月21日 TBS NEWS DIG】

【戦争継続・ラファ攻撃方針を変えないネタニヤフ首相】
こうした惨状に国際的な批判・懸念が強まるなかにあっても、イスラエル・ネタニヤフ首相は停戦合意を拒否し、行き場を失った140万~150万人が身をひそめる最後の拠点ラファに対する攻撃を強行する構えを続けています。背景には、戦争継続しかネタニヤフ首相の政治生命を維持する方策がないという政治事情があるとの指摘が以前からなされています。

また、国際社会が進める「2国家共存」を前提にした停戦後の構想にもネタニヤフ首相は強い拒否感を示しています。

****【包囲網は着々と】ネタニヤフ首相が停戦合意を拒否する2つの理由 もうこれ以上「戦争を人質」にして生き残ろうとするな****
イスラエル軍とパレスチナのイスラム組織ハマスとのガザ戦争は最終決戦地、南部ラファをめぐる攻防に移る一方、イスラエルのネタニヤフ首相は米国をはじめとする国際的な停戦圧力を拒絶、「完全勝利」まで戦闘を続行する姿勢を一段と鮮明にしている。なぜ首相はこうまで頑ななのか。政治生命を賭けた首相の粘り腰の背景を探った。

国際社会のイスラエル包囲網
(中略)(多大な民間人犠牲者が出ている)こうした状況にバイデン米大統領は「イスラエルの軍事行動はやりすぎ」「住民の安全を確保しないで攻撃すべきではない」「停戦するよう圧力をかけている」などとラファ攻撃に反対を表明。耳を貸そうとしないネタニヤフ氏を側近との会話で「ろくでなし」と罵倒した情報までリークさせ、イスラエルの攻撃を思いとどまらせようとしている。

批判を強めているのは米国だけではない。アラブの大国サウジアラビアのムハンマド皇太子はこのほど、開戦以来5回目の中東訪問となった米国のブリンケン国務長官と会談、その直後アラブの有力国指導者らと会合を開催、イスラエルに対し自制を求めた。英仏独や豪州、カナダなどもイスラエル批判のトーンを高め、国際社会からの「イスラエル包囲網」が強まった格好だ。

しかし、ネタニヤフ首相はハマス壊滅という「完全勝利」まで戦争を続行すると繰り返し、国際的な圧力を拒否。「ラファ攻撃をやめるのは戦争に負けるということだ」と述べ、ラファの住民を他の地域に退避させる計画を策定するよう軍に命令、ラファの制圧をイスラム世界のラマダン(断食月)が始まる3月10日までに終わらせるよう指示した。(中略)

だが、住民の移動手段もなければ、受け入れ先での水、食料、安全に眠る場所もほとんどない中で、どうやって140万人もの人々を動かそうというのか。病人や子ども、老人も数多くおり、退避は事実上不可能だろう。イスラエル軍はラファにはハマスの4個大隊が残っているとしており、しびれを切らした軍の一部が散発的な攻撃を始めている。

ネタニヤフの事情とバイデンの和平構想への目論見
ネタニヤフ首相がこうまで停戦を拒むのには大きな理由が2つある。1つは国内の政治的問題だ。首相は昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃を察知できず、ユダヤ人市民ら1200人もの犠牲者を出した責任を厳しく問われ、戦争が終われば、直ちに辞任を余儀なくされるのは必至とみられている。

首相在任6期16年の海千山千のネタニヤフ氏も今度ばかりはその政治生命は風前の灯火というのが一般的な見方だ。支持率は15%にまで落ち、総選挙が行われれば政権を失うのは確実な情勢。政権を維持し、権力の座に留まるためには、国家の最優先課題として戦争を続ける以外にない。加えて、政権の一端を担う極右政党が停戦に同意すれば、離脱すると脅している事情もある。

もう1つの理由は米国や国際社会が求めるパレスチナ独立国家とイスラエルによる「2国家共存」という和平方式をなんとしても拒否する考えによるものだ。戦争の調停役のバイデン政権やカタール、エジプトなどはこのところ、パリ、カイロ、ミューヘンなどで停戦交渉を続けてきた。

米国やイスラエル・メディアなどの報道によると、合意案のたたき台としてまとまったのは▽6週間の停戦と人質の解放、▽パレスチナ暫定政府によるガザの再建と統治、▽国際平和監視団の展開、▽「2国家共存」方式による和平とその工程表――というのが骨子だ。この案の特徴は「単にガザ戦争の終結だけではなく、将来の中東和平の方式も含めて一括提案している」点だ。

案を主導したバイデン政権はこの機会に乗じて、中東和平問題を一挙に解決しようと図っている。当然、11月の米大統領選挙に向け、外交実績としてアピールする思惑があるのは確か。バイデン大統領の対イスラエル政策に批判的な若者の支持取り込みを狙ったものと言えるだろう。

外堀を埋められているのに反発
ブリンケン国務長官はネタニヤフ首相との会談で、イスラエルへの誘い水として、案に同意すれば、アラブの大国サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立に応じる意向であることを伝えたという。バイデン政権はアラブ諸国や欧州主要国にこの案を根回しし、イスラエルが拒めないよう外堀を埋めにかかった。

だが、こうした米国の行動が「パレスチナ国家創設には断固反対」との立場をとる首相を怒らせることになった。首相はこれまで、中東和平の道筋を示した「オスロ合意」を「イスラエルが調印したのは決定的な過ち」と批判、「パレスチナ国家を阻止してきたことを誇りに思う」などと「2国家共存」を絶対に拒絶する考えを強調してきたからだ。

首相としては、パレスチナ国家樹立を盛り込んだ停戦案など受け入れるつもりはハナからなかった。ハマスがこの提案に対して、「4カ月半の停戦」と「イスラエル軍のガザからの完全撤退」などを要求したことはむしろ〝渡りに船〟だっただろう。首相はハマスの要求を「妄想」と一蹴、その過大な要求のせいにして交渉を担当していたイスラエル特務機関モサドの長官を引き揚げさせた。

極めつけはネタニヤフ政権が2月18日、「2国家共存」という国際社会の求めを拒絶、「パレスチナ国家の一方的な承認に反対する宣言」を公式に発表したことだ。英政府などが実際のパレスチナ国家樹立に先立って「国家」を象徴的に承認しようとの動きを見せたことをけん制したものだ。

しかし、停戦交渉を拒否した首相に展望があるかと言えば、見通しは暗い。140万人の住民らの避難が進まないまま、ラファへの本格攻撃に踏み切れば、バイデン政権はじめ国際社会の反応は苛烈なものになるだろう。

米紙などによると、軍や情報機関は多くの住民や人質を犠牲にするような高い代償を払っても、ハマスを完全に壊滅させることはできない、と分析している。「歴史は決してイスラエルに甘くないだろう」(識者)。

「戦争を人質にして政治的な生き残りを図る」ネタニヤフ首相の手法は限界を迎えている。【2月20日 WEDGE】
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【イスラエル支持のアメリカも「イスラエルに対する不満を明確に示し始めた」】
ネタニヤフ首相への国際圧力が強まっているとは言うものの、アメリカは表向きのイスラエル支持姿勢はまだ変えておらず、安保理での「即時停戦」決議案に対し拒否権を行使しています。

ただ、アメリカが「一時停戦」を求める代替案を用意するなど、「米国がイスラエルに対する不満を明確に示し始めた」との指摘も。

****ガザの「即時停戦」決議案、米がまた拒否権行使…日本や中国など13か国賛成****
国連安全保障理事会は20日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの交戦が続くパレスチナ自治区ガザでの「即時停戦」を求める決議案を採決し、常任理事国の米国の拒否権行使で、否決された。

米国は即時停戦は人質解放交渉に不利になると判断しており、今後、ハマスが拘束を続ける人質の解放を前提に「一時停戦」を求める代替案の採択を目指す構えだ。

昨年10月に始まったガザでの戦闘を巡る安保理決議案で米国が拒否権を行使したのは4回目。否決された決議案は、アラブ諸国を代表してアルジェリアが提出した。人道目的の即時停戦や、ガザでの民間人の強制退去の停止など求めた。採決での賛成は全15理事国のうち、日仏中など13か国だった。英国は棄権した。

米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は採決前、「人質解放の合意がなければ、即時停戦をしても和平は実現しない」と述べた。米国が19日、「人質全員の解放を前提に早急な一時停戦の実現を求める」とした代替案を理事国に配布しているが、この日は採決にかけなかった。

米国はこれまで戦闘継続を重視するイスラエルに配慮して「停戦(ceasefire)」との表現に反対してきた。米国が代替案で初めて停戦という言葉を使ったことについて、安保理筋は「米国がイスラエルに対する不満を明確に示し始めた」と分析した。米国は、イスラエルによるガザ最南部ラファへの軍事侵攻前に代替案の採択を実現したい考えだ。

一方、決議案に賛成したロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は、「米国の拒否権によってガザ住民の運命が破滅に追いやられる」と非難した。【2月21日 読売】
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ロシアだけでなく、中国の張軍・国連大使も「米国の拒否権は誤ったメッセージを送り、ガザの状況をより危険にする」「大虐殺に許可を与えるのと変わらない」とアメリカの対応を批判しており、このままではバイデン政権は国際的にもイスラエルと一緒に泥を被ることになりかねません。

また、アメリカ国内事情としても、従来のバイデン支持層である若者らにイスラエル批判が強まっており、大統領選挙の足かせにもなってきています。

バイデン政権がネタニヤフ首相の首に鈴をつけることができるのか・・・200万人ガザ住民の生命がかかっています。

ハマスをめぐる国際的なパワーゲーム、誰がハマスを支えてきたのか・・・は判然としません。ネタニヤフ首相自身がパレスチナ自治政府への対抗勢力としてハマスに資金的便宜を図り、アメリカも黙認していたと言われています。トルコやカタールもハマスを支援してきました。

そのあたりの水面下の事情はよくわかりませんが、ラファへの攻撃が行われたら、膨大な民間人犠牲者が出るのは確かなことです。
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アメリカ  イスラエル人入植者の暴力に対し制裁措置 従来のイスラエル支持一辺倒からの転換とも

2024-02-02 23:08:09 | パレスチナ

(ガザ地区内のイスラエル人入植地建設を支持する極右会合に集まった人々(エルサレム)【2月1日 WSJ】)

【西岸地区で増加する入植活動、入植者による暴力 イスラエル支持の米独も批判】
パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル軍による民間人犠牲者増大等の人道上の問題は連日報じられているところですが、1月6日ブログ「パレスチナ 犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争” 更にヒズボラ参戦はあるのか?」でも触れたように、ヨルダン川西岸地区でもイスラエルのよる入植活動が活発化し、入植者によるパレスチナ人への暴力も目だっています。

****イスラエルの入植活動、ヨルダン川西岸で「過去にない急増」 NGO****
昨年10月7日にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まって以降、同自治区ヨルダン川西岸でイスラエルの入植活動が「過去に例のないペースで急増」している。イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」が4日、報告書で明らかにした。

1967年からイスラエルに占領されている西岸では軍事衝突開始以降、イスラエルの入植地が新たに9か所確認され、暴力も急増している。

西岸では約300万人のパレスチナ人が暮らす一方、49万人のイスラエル人も入植地で暮らしている。こうした入植地は国際法違反と見なされているにもかかわらず、イスラエルは承認している。

ピース・ナウは報告書で、今回の紛争開始以降、新規入植者が「記録的な」数に上っているとした上で、西岸で一部入植者によるパレスチナ人を「排除する」動きが増加していると指摘。

イスラエル軍が全権を持つ西岸の被占領地「C地域」に言及し、「入植者は3か月に及ぶガザ戦争を、C地域での広範囲の実効支配を既成事実にするのに利用している」との見解を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権では、入植推進運動の指導者数人が閣僚を務めている。同政権は、一部の入植計画を進めるのに有利となるよう「軍事的・政治的に寛容な環境」づくりに努めてきたとピース・ナウは指摘している。 【1月6日 AFP】
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ネタニヤフ政権の極右指導者はこの機に乗じて、やりたい放題のようにも見えます。イスラエル軍もこうした動きを後押しするかのように、西岸地区での圧力を強めています。
“イスラエル軍、ヨルダン川西岸で多数拘束 過激派関与の疑い”【1月5日 ロイター】

こうした状況に、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカも批判を強めています。

****米、イスラエル過激派入植者へのビザ発給を制限****
米国のブリンケン国務長官は5日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区での暴力行為に責任があるイスラエル過激派入植者の入国を阻止するための新しい政策を発表した。

ブリンケン氏は声明で、国務省が新たなビザの発給制限を実施すると明らかにした。対象となるのは、暴力行為や、必要不可欠なサービスや基本的な生活必需品への民間人のアクセスの不当な制限などを通じて、西岸地区の和平や治安、安定を弱体化することに関与したと考えられる個人。(後略)【2023年12月6日 CNN】
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また、過去のホロコーストの歴史的経験からイスラエル支持が国是にもなっているドイツも、西岸地区の状況を批難しています。

*****イスラエル人入植者によるヨルダン川西岸での暴力、独外相が非難*****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でイスラエル人の入植者による暴力が増加していることを受け、ドイツのベアボック外相は、ヨルダン川西岸地区でのパレスチナ人に対する暴力を非難した。

ベアボック氏は8日、訪問先のヨルダン川西岸地区で、記者団に対し、「ここに合法的に住んでいる人々が違法に攻撃されている場合、法の支配の実施と執行はイスラエル政府の責任だ」と述べた。

ヨルダン川西岸地区ラマラのパレスチナ保健省によれば、昨年10月7日以降、ヨルダン川西岸地区では、少なくとも340人のパレスチナ人がイスラエル人の入植者や兵士によって殺害された。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は先月、2023年は、記録を開始した05年以降で、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人が最も死亡した年だと明らかにしていた。

イスラエル軍は、1967年にヨルダン軍からヨルダン川西岸地区を奪取して以降、同地区を支配下に置いている。90年代に調印された合意後、イスラエルは支配地域の一部に対する限定的な支配権をパレスチナ自治政府に移譲することで合意した。

イスラエルはヨルダン川西岸地区で、入植地の建設を進めているが、こうした入植地は国際法の下では違法なものとみなされている。

ドイツは、イスラエルの最も緊密な同盟国の一つで、ドイツ政府はイスラエルには自衛権があると繰り返し強調してきた。しかし、ベアボック氏は、パレスチナ自治区ガザ地区での民間人の死者を抑制するようイスラエルに警告する国際社会の指導者の列に加わった。

ガザ地区では、イスラエル軍の攻撃によって昨年10月7日以降、少なくとも2万2835人のパレスチナ人が死亡した。この死者数は、イスラエルとハマスとの紛争が始まる前のガザ地区の人口227万人のうちの約1%に相当する。

ベアボック氏は、イスラエルのカッツ外相やヘルツォグ大統領との会談後、イスラエルはガザ地区での軍事行動で、パレスチナの民間人をもっと保護しなければならないと述べた。【1月10日 CNN】
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【ガザ地区での入植活動再開、ユダヤ人による「新ガザ」建設を主張する極右勢力】
イスラエル・ネタニヤフ政権を支える極右閣僚は、ガザ地区についても再び入植活動を再開し、パレスチナ人を排除して、ユダヤ人による「新ガザ」を建設することを主張しています。

****イスラエル強硬派閣僚、入植者にガザ帰還呼びかけ 米「無謀で扇動的」****
イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相は28日に開かれた集会で、ユダヤ人入植者らにパレスチナ自治区ガザへの帰還を呼びかけた。強硬派として知られるベングビール氏の発言は政府の公式見解と対立するもので、パレスチナ自治政府とイスラム組織ハマスは共に反発している。

ベングビール氏は、ユダヤ人入植者と軍隊がガザ地区に戻ることがハマスによる昨年10月7日の奇襲攻撃を繰り返さないための唯一の方法になるとし、「10月7日のあの出来事を繰り返したくなければ帰還し、この土地を支配する必要がある」と語った。

同集会は入植者の団体が企画し、数百人が参加。十数人の閣僚も参加した。

パレスチナ自治政府は、こうした呼びかけはパレスチナ人の強制移住につながり、地域の安全と安定を脅かすと非難。ハマスは、同集会で「パレスチナ人に対する強制移住と民族浄化の犯罪を実行に移す意図が明らかになった」とした。

イスラエルの戦時内閣に参加しているガンツ前国防相は29日、この集会に連立政権のメンバーが参加したことで、イスラエルの対外的な立場が傷つくと同時に、ガザ地区で拘束されている人質の解放に向けた取り組みが損なわれると懸念を示した。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、ベングビール氏の発言は無謀で扇動的なものとして非難した。【1月30日 ロイター】
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****イスラエル極右が目指す「パレスチナ人なきガザ」****
ガザ再占領を否定するネタニヤフ首相に極右勢力の圧力強まる

ユダヤ教のラビ(宗教指導者)であるエイタン・カーンさん(49)は、パレスチナ自治区のガザ市の将来について思い描いていることがある。緑豊かなハイテク都市に変貌させて、ユダヤ系住民や外国人観光客を呼び込みたいと考えているのだ。名称は「新ガザ」に改め、パレスチナ人は歓迎しないという。

エルサレムで1月28日、「入植地が安全をもたらす」と題する極右の会合が開催された。それに参加したカーンさんは「平和を手に入れる唯一の方法はアラブ人を排除することだ」と語った。「そこはイスラエルの都市になる」

イスラエル政府は戦闘終結後のガザの在り方についてまだ具体的な計画を立てていないが、政府内に強い影響力を持つ極右勢力には「ガザにユダヤ人を再入植させる」という明確な目標がある。それは28日に明確に打ち出された。イスラエル占領下のヨルダン川西岸に住む宗教的な入植者を中心とする数千人が閣僚らと共に、エルサレムの講堂で開かれたこの会合に参加したのだ。

会合の主催者は、イスラエル人の新たな入植予定地を記した地図を発表した。「ガザに永久に戻った」と書かれた看板をガザ地区内で振りかざすイスラエル兵の映像が流れる中、群衆は愛国的な歌に合わせて踊り出した。パレスチナ人に対してガザからの一斉退去勧告が出るだろうと参加者らは述べた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相をはじめとする高官らはガザ地区について、治安部隊を無期限で配置するものの、再占領するつもりはないと繰り返し表明している。

イスラエル人の大半はガザへの再入植に反対している。ヘブライ大学が最近行った世論調査では、ガザ地区の併合と再入植を支持しているとの回答は35%にとどまった。

だが、連立政権を構成する超国家主義勢力は絶大な影響力を持つ。イスラエル人の約70%がネタニヤフ首相を支持していない今、こうした勢力が連立政権を崩壊させ、新たな選挙を迫る可能性がある。

同時に、イスラエルがガザへの再入植を試みれば、米国や穏健なアラブ諸国との関係が悪化する可能性が高い。米国はパレスチナ自治区ガザの領域を縮小することには何度も反対している。そうした事態になれば、ネタニヤフ氏が長年にわたり優先的に取り組んできたサウジアラビアとの関係正常化も頓挫する可能性が高い。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は29日、ガザでの入植地建設に関する会合をイスラエルの閣僚らが支持したことは「無責任かつ無謀で、扇動的でもある」と述べた。

この会合では、イスラエルの極右閣僚であるイタマル・ベングビール国家治安相も踊りに加わり、ネタニヤフ氏にガザ地区の将来について「勇気ある決断」を下すよう訴えた。閣僚11人と議員15人が壇上に上がり、ガザにイスラエル人入植地を再び作ることを支持する宣言に署名した。その中にはネタニヤフ氏率いる与党リクードの党員も多数いた。【2月1日 WSJ】
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こうした極右勢力の協力がなければネタニヤフ政権は崩壊し、選挙になります。選挙になると国民支持を失っているネタニヤフ首相は政権を手放し、現在の状況に対する政治責任を問われることになります。

従って、ネタニヤフ首相としては極右閣僚の言動を抑えることができない、あるいは、かれらの強硬姿勢に引きずられているとの指摘があります。

【バイデン政権 入植者の暴力行為に制裁措置 イスラエル紙「歴史的な動きだ」】
話を西岸地区の入植活動に戻すと、先述のように以前からイスラエルに自制を求めてきたアメリカ・バイデン大統領は、改善しない状況に、スラエルに対する批判を一段階上げたようです。

****米、イスラエル入植者に制裁 占領地・西岸で「地域に脅威」 ネタニヤフ政権に圧力****
バイデン米大統領は1日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でユダヤ人入植者によるパレスチナ住民への暴力が頻発しているのを受け、過激な入植活動を行う個人や団体への制裁を可能にする大統領令を発表した。

国務省は同日、住民殺害などに関与した極右のイスラエル人入植者の男4人を制裁対象に指定した。米政府が同盟国イスラエルの入植活動に制裁を科すのは極めて異例だ。

占領地である西岸への入植は国際法に反しており、米国を含む国際社会が目指すイスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存」の障害とされる。大統領令は、2国家を否定し入植を進めるイスラエルのネタニヤフ政権への警告の意味があり、今後は制裁対象者が拡大する可能性がある。

一方、米ニュースサイト「アクシオス」は1月31日、米国がパレスチナを国家承認する場合を想定し、国務省が政策検討に着手したと伝えた。実際に承認すれば、パレスチナ国家樹立はイスラエルとの協議によるべきだとしてきた従来の立場から大きく転換することになる。

国連人道問題調整室(OCHA)によると、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まった昨年10月7日以降、西岸では入植者によるパレスチナ人への暴力が約500件発生し、子供を含む少なくとも8人が死亡、100人以上が負傷した。イスラエルは治安維持に必要な措置を講じていると主張している。

バイデン氏は大統領令で、過激な入植者の暴力でパレスチナ人が住む場所や財産を奪われていることは、地域の「平和と安全、安定に深刻な脅威」だと非難。制裁対象の4人は、米国内の資産が凍結され、米国人との銀行間送金などが不可能になる。

ハマスとイスラエルの戦闘発生後、バイデン政権は入植や暴力事件の増加への懸念をイスラエルへ伝達。昨年12月には入植者数十人への米査証(ビザ)発給を制限した。その後も事態が改善しないことから制裁発動に踏み切った。【2月2日 産経】
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今回制裁対象となった4人は、建物への放火で死者を出したことの責任が問われています。

“イスラエルのネタニヤフ首相は声明を出し、「住人の大多数は法を順守する国民である」と強調。「多くは徴兵や予備役として、イスラエルを守るために戦っている」などと擁護しました。”【2月2日 TBS NEWS DIG】

バイデン大統領の今回措置は、アメリカ国内のリベラル派や若者の間でパレスチナ側への同情が拡大し、イスラエル批判が強まっていることも影響していると指摘されています。

バイデン大統領の支持基盤であるリベラル派や若者の間でのこうした動きは、ただでさえ大統領選挙で苦戦しているバイデン陣営にとっては大きな痛手となりかねませんので、それへの対応をとったというところでしょうか。

****バイデン氏の演説、10回以上中断 ガザ情勢対応に抗議の叫びで****
米南部バージニア州マナサスで23日に開かれたジョー・バイデン大統領(81)の選挙集会で、パレスチナ自治区ガザ地区での即時停戦を求める抗議者が次々と声を上げ、バイデン氏の演説が約20分間に10回以上中断する場面があった。

ガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続いているが、民間人の死傷者が拡大。民主党支持者の間では、米国によるイスラエル支援や即時停戦反対の姿勢に反発する声が若い世代を中心に広がっている。

抗議者らは1人ずつ立ち上がって「今すぐ停戦を」「ジェノサイド・ジョー」などと連呼。1人が警備担当者に外へ連れ出されると、しばらくして別の抗議者が叫び出す場面が続いた。

バイデン氏は当初は「彼らは身につまされる思いなのだ」と語る余裕を見せていたが、最後は抗議の声に構わずに演説を続けた。会場の外では、パレスチナの支持者ら数十人が抗議デモを行った。【1月24日 毎日】
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今回制裁措置について、“イスラエルに寄り添ってきたバイデン政権の今回の厳しい対応をイスラエル紙ハーレツは「歴史的な動きだ」と報じた。”【2月2日 共同】

イスラエルとアメリカ・バイデン政権の間の溝は“ポスト・ハマス”のガザ地区に関する青写真、「2国家共存」の是非等に関しても広がっていますが、そのあたりはまた別機会に。
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パレスチナ・ガザ地区に関する南ア提訴に対し、国際司法裁判所(ICJ)の仮保全措置(暫定措置)命令

2024-01-27 23:05:43 | パレスチナ

(26日、ヨルダン川西岸ラマラで、市庁舎に集まり国際司法裁判所(ICJ)のインターネット中継を見守る人ら【1月26日 共同】)

【国際司法裁判所(ICJ) イスラエルにジェノサイドを防ぐ「あらゆる措置」を取るよう求める仮保全措置(暫定措置)命令 停戦には踏み込まず】
パレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍の空爆や地上侵攻による死者は2万6千人を超え、その多くを女性や子どもが占めています。病院や避難所周辺への攻撃も頻発。25日には、支援物資の配給に並んでいた人々がイスラエル軍の戦車による砲撃などを受け、少なくとも20人が死亡、150人が負傷したとも。(ガザ保健当局発表)

更には、飢餓の恐れや感染症の流行など人道危機も深まり、イスラエルに対する国際的な批判が高まっています。

こうした状況で、多くのメディアが報じているところですが、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区で続けている戦闘は「ジェノサイド」(集団虐殺)にあたるとして、南アフリカが戦闘停止などを求めた訴訟について、国際司法裁判所(ICJ)の判断が示されました。

****イスラエルに集団虐殺防止措置命令 国際司法裁、停戦踏み込まず****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区で続けている戦闘は「ジェノサイド」(集団虐殺)にあたるとして、南アフリカが戦闘停止などを求めた訴訟を巡り、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は26日、イスラエルにジェノサイドを防ぐ「あらゆる措置」を取るよう求める仮保全措置(暫定措置)命令を出した。命令には法的拘束力があるが、イスラエル側の反発が予想される。

この他、ジェノサイドを扇動する行為の防止や処分▽ジェノサイドが疑われる行為の証拠保全▽ガザの人道状況の改善――を命じた。1カ月以内にICJに報告するよう求めている。一方で、即時停戦には踏み込まなかった。

訴状によると、南アはイスラエルがガザで集団虐殺を意図した行為を続けており、ジェノサイド条約に違反していると指摘。ICJに対し、イスラエルがパレスチナ人の殺害をやめ、ガザへの支援物資の制限などを解消することなどを求めている。

一方、イスラエルはハマスがガザ市民を「人間の盾」として使っており、ガザの人道危機はハマスの責任だと反論。またイスラエル側は攻撃の際、市民の被害を最小限にするように配慮していると主張している。

ジェノサイド条約は第二次世界大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を受けて採択された。特定の民族の一部、または全体を破壊する意図で殺害する行為などを「ジェノサイド」と定義している。

イスラエルの行為がジェノサイドにあたるかどうかを判断する判決が出るまでには、数年かかる見通し。【1月26日 毎日】
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上記記事にあるように、
・ジェノサイド(集団殺害)条約で禁じられた行為を防ぐため、全ての手段を講じなければならない。
・パレスチナ自治区ガザ地区のパレスチナ人に緊急に必要な基本的サービス、人道支援を提供できるよう、即座で効果的な手段を講じなければならない。
・命令を実施するためにとられた手段について1カ月以内に裁判所に報告書を提出しなければならない。
といった内容がイスラエルに命じられたものの、「ガザ地区に対する軍事作戦を即時停止しなければならない」という要求は含まれていません。

【南ア・ラマポーザ大統領 「正義の勝利」】
南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)への提訴に踏み切った背景は12月30日ブログ“南アフリカ イスラエルを国際司法裁判所に提訴 その背景にある国内政治事情 格差・治安の問題”でも取り上げました。

アパルトヘイトに苦しんだ南アフリカはマンデラ元大統領以来、黒人は限られた居住区を決められ、許可なく外には出られなかった自国の苦難と、モノや人の出入りを厳しく制限されて封鎖されているガザ地区の苦難を傘ね合わせ、一貫してイスラエルのガザ地区封鎖を避難し、パレスチナを支持してきました。今回提訴はその延長線上にあると言えます。

もうひとつの背景は、南アフリカの国内政治事情。近年与党アフリカ民族会議(ANC)の支持率はじり貧傾向にあって、国民の注目を集めるパフォーマンス必要としている、更にはイスラエル批判で親パレスチナ野党にすり寄りたい思惑もある・・・と指摘されています。

南ア・ラマポーザ大統領は今回判断を「正義の勝利」と歓迎しています。

****南ア大統領、「正義の勝利」と歓迎=国際司法裁命令****
国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザでのジェノサイド(集団殺害)を防ぐためあらゆる措置を取るよう命じたことについて、訴訟を起こした南アフリカのラマポーザ大統領は26日のテレビ演説で「国際法、人権、そして何よりも正義の勝利となる決定を下した」と歓迎した。

ラマポーザ氏は「この命令はイスラエルを拘束するものだ」とした上で、「法の支配を尊重する国家であるイスラエルが、ICJの言い渡した措置を順守することを期待する」と強調した。【1月27日 時事】
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【イスラエル・ネタニヤフ首相 「完全勝利まで戦う】
一方で、イスラエルの行動は自衛のためであり、国際法は遵守しており、市民を「人間の盾」として使うハマスこそが責められるべきとするイスラエルにとっては納得がいかない内容となっています。ネタニヤフ首相は「完全勝利まで戦う」姿勢を崩していません。

****イスラエル首相「完全勝利まで戦う」****
イスラエルのネタニヤフ首相は26日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘に関し「われわれは正義の戦争を行っており、完全勝利まで続ける」と正当性を主張した。

国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は同日、ガザでのジェノサイド(集団殺害)を防ぐ措置を取るようイスラエルに命じたが、これに反発するネタニヤフ氏が強硬姿勢を改めて示した形だ。

南アフリカが昨年12月、ガザでイスラエルが集団殺害を行っているとして同国を提訴した。ICJは26日、同国に命じる暫定措置を発表。軍事作戦の即時停止は明言しなかったが、集団殺害防止と人道支援に関する対策を求めた。

ネタニヤフ氏は、南アによる集団殺害の指摘を「言語道断だ」と一蹴。「集団殺害のテロ組織である(イスラム組織)ハマスに対する自国の防衛を続ける」と強調した。【1月27日 時事】
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「ある集団全体を消し去ろうとする」ジェノサイドという言葉は、第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を非難する意味を含めてユダヤ系の弁護士が作った言葉とのことで、その“ジェノサイド”批難が自国イスラエルに向けられることはイスラエル社会にとって衝撃でもありますが、イスラエル国内にあっては、イスラエル軍の作戦はハマスの指導者や戦闘員が標的で、パレスチナ人全体を対象にしていないとの認識が一般的とされています。

ただ、どの国でもメディアは自国に都合の悪いことはあまり触れないのが一般的であり、ガザ市民の苦しみの実態がどこまでイスラエル国民に伝わっているかは疑問でもあります。

【厳しさを増すネタニヤフ首相を取り巻く政治状況】
ネタニヤフ首相の強硬姿勢の背景には、従前からの国内司法改革で国民の批判を受け、更にハマスの攻撃を許し、人質解放が進まないことでも批判されているネタニヤフ首相としては、戦争を止めたら政権がもたない、戦争継続が政権を維持するための唯一の道ともなっている事情があります。

しかし、今回ICJ判断を含めてこれだけ国内外からの批判が強まると、それも難しい情勢になりつつあるようにも見えます。下記は今回ICJ判断以前のものです。
 
****イスラエル戦時内閣に亀裂 首相の求心力低下が加速 「近く政局で変動」の見方も****
イスラム原理主義組織ハマスと戦うイスラエルの「戦時内閣」に亀裂が生じている。メンバーの1人がパレスチナ自治区ガザで拘束されている人質の救出を最優先にすべきだと述べ、戦時内閣を率いるネタニヤフ首相と異なる方針を示したからだ。

ネタニヤフ氏の支持は低迷しており、中央政界で近く大きな動きが起きるとの観測もある。

異論を唱えたのは、戦時内閣を構成する5人のうちの1人であるエイゼンコット元軍参謀総長。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると18日放映の地元テレビのインタビューで、ハマス壊滅という目的は「達成されていない」とし、「敵の殺害より先に民間人(の人質)を救出することが(戦時内閣の)任務だ」と訴え、ハマスと交渉を行うべきだと主張した。

ネタニヤフ氏は昨年10月の戦闘開始後、ハマス壊滅と人質救出を目的に掲げ、「戦闘で圧力をかけることが人質の解放につながる」と主張してきた。だが、130人前後の人質は拘束されたままで、うち20人以上が死亡したとみられる。2万人以上の住民が死亡したガザへの攻撃でもハマスは壊滅できていない。

こうした情勢の中、米ニュースサイト「アクシオス」は22日、イスラエルが仲介役のカタールなどを通じ、ハマスに対して、人質全員の解放などと引き換えに、戦闘を約2カ月休止する提案を行ったと報じた。

イスラエルのメディアが11、12日に公表した世論調査では、ネタニヤフ政権の連立与党が、次の選挙で現在の64から44〜48に議席を減らして国会(定数120)で半数を割り、中道右派の「国家団結党」など野党が躍進するとの結果が出た。

国家団結党の代表は戦時内閣に参加するガンツ前国防相で、長期の停戦を通じた人質解放の合意を支持しているとされる。英字紙エルサレム・ポスト(電子版)は18日、ガンツ氏が戦時内閣を離脱すれば反ネタニヤフの大規模デモが起き、「政治闘争のゴング」が鳴るとの見方を示した。

同紙はまた、ネタニヤフ氏が党首を務める右派与党「リクード」内部でも同氏の後継者を模索する動きが出ているとし、ガンツ氏の動向も含めて「今後2週間から2カ月」のうちに政局の変動が表面化するという政界筋の見方を伝えた。

政権が崩壊すれば、ネタニヤフ氏がハマスに奇襲を許した責任を追及され、政治生命の危機に陥る公算が大きい。政権を維持するため、戦闘継続を訴える極右閣僚らの意見に同調しているとの見方もある。

米大統領選ではイスラエル寄りのトランプ前米大統領が存在感をみせており、ネタニヤフ氏は11月の大統領選本選まで時間を稼ぐ狙いだという観測も出ている。【1月23日 産経】
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ロシア・プーチン大統領も、イスラエル・ネタニヤフ首相も、トランプ氏復権を待ち望んでいます。ただ、ネタニヤフ首相にとって11月はかなり遠いようにも思えます。そこまで持つのか?

【パレスチナ自治政府 停戦に踏み込まなかったことへ憤り ハマスは歓迎】
パレスチナ自治政府は今回ICJ判断をインターネット中継で注視していたとのことで、戦闘停止に踏み込んでいないことに憤りも出ているようです。

*****「戦争なぜ止めぬ」憤り ICJ判断でパレスチナ****
国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルにパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦停止を命じるかどうかに注目が集まった26日、ヨルダン川西岸の中心都市ラマラでは、作戦停止に踏み込まなかったICJの決定に「なぜ戦争を止めない」「弱腰だ」などと失望の声が相次いだ。

ラマラは市庁舎でICJの法廷をインターネット中継し、会場には約100人が集まり行方を見守った。庁舎内にはパレスチナの旗のそばに、イスラエルを提訴した南アフリカの国旗が掲げられた。エンジニアのアフメドさん(33)は「ガザの人々の人権を守るために闘う南アに敬意を表したい」と述べた。

ガザで深刻な人道危機が起きていることへの言及があると、真剣な表情でうなずく人も。だが軍事作戦停止の命令が出なかったことが伝わり「なぜだ」「偏っている」と不満が噴き上がった。【1月26日 共同】
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ハマスは今回判断を歓迎しています。

****ハマス、国際司法裁の仮処分を歓迎****
イスラム組織ハマス幹部は26日、ロイター通信に対し「国際司法裁判所の決定はイスラエルを孤立させ、犯罪を明らかにする重要な進展だ」と述べ、仮処分を歓迎した。【1月26日 共同】
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【アメリカ 「多くが米国の立場と一致している」】
イスラエルに民間人犠牲を最小に抑えるように要請してきたアメリカ・バイデン政権も、今回ICJ判断を「多くがアメリカの立場と一致している」としています。

****米、ICJと「立場一致」 イスラエルのジェノサイド防止****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は26日の記者会見で、ジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ措置を取るようイスラエルに命じた国際司法裁判所(ICJ)の仮処分(暫定措置)に関し「多くが米国の立場と一致している」との見解を示した。

バイデン政権は、イスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルの自衛権を支持すると同時に、パレスチナ自治区ガザでの軍事作戦に伴う民間人被害を最小限に抑えるよう求めている。

カービー氏は「イスラエルが意図的にガザの人々を根絶しようとしていると示すものはない」と指摘。人質解放のための戦闘休止を追求すると述べた。【1月27日 共同】
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ただ、イスラエルの攻撃をジェノサイドと断罪することについては、ブリンケン国務長官が「メリットがない」と語るなど、反対の立場を示しています。

EUは今回判断の「即時の履行を求める」とする声明を発表しています。

【作戦の変更を迫られるイスラエル】
今回ICJ判断をイスラエル・ネタニヤフ政権が無視すればそれまで・・・とも言えますが、そうは言っても厳しさを増す国際情勢を考えると、一定に考慮して、攻撃の在り方を変える必要にも迫られています。

欧米のイスラエル支援の在り方も再考を迫られています。

****イスラエル、戦闘継続に国際世論の壁 国際司法裁判所命令で1カ月以内に改善報告義務****
パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘で、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が26日、イスラエルに「暫定措置」(仮処分)を命じたことで、イスラエルは攻撃の規模を縮小せざるを得ない情勢となってきた。

後ろ盾の米国や欧州などがICJの判断を尊重する意向を示し、このまま同様の攻撃を続ければ外交関係にも影響が及びかねないからだ。

ICJは暫定措置で、イスラエルにジェノサイド(集団殺害)を防ぎ、ガザの人道状況を改善するため、あらゆる手段を取るよう命じた。停戦や軍のガザ撤収には言及しなかった。

ロイター通信によると、米国務省はイスラエル軍の攻撃について「ジェノサイドだという主張に根拠はない」としながら、ICJの判断は「米国の考えと一致する」とした。イスラエルにとって米国は最大の武器支援国で、戦闘継続には支持が欠かせない。

欧州連合(EU)が暫定措置の「完全な実施」を求めたほか、カタールやエジプトなど中東アラブも判断を歓迎する意向を示した。両国は米国とともにハマスが拘束する人質の解放を含む戦闘休止の調停を進めており、国際的に存在感が強まっている。

暫定措置で注目されるのは、命じた措置への取り組み状況を1カ月以内にICJに報告するようイスラエルに義務づけたことだ。英字紙エルサレム・ポスト(電子版)は、報告の内容次第で「さらに厳しい命令が出る可能性が残っている」と懸念を示した。

ガザ保健当局によると、戦闘開始後の死者数は2万6000人を超えた。国際的な批判の高まりを避けるため、イスラエルは米国などの要請に応じ、標的を絞った精密攻撃への移行を加速させる可能性がある。半面、それはハマスに組織再建の猶予を与えることを意味し、イスラエルのネタニヤフ政権が掲げるハマス壊滅は一層困難になるとみられる。

政権で国家治安相を務める極右のベングビール氏は、ICJの判断は「反ユダヤ主義だ」とし、無視して戦闘を続けるべきだと主張した。政権内では同氏ら対パレスチナ強硬派と、戦闘より人質解放を優先すべきだと訴える勢力が対立している。ネタニヤフ首相を取り巻く国内外の情勢は厳しくなるばかりだ。【1月27日 産経】
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また、パレスチナに限らず、今回のような「ジェノサイド裁判」は今後、新たな外交の武器となる可能性があるとも。

****国際法廷、イスラエルにジェノサイド防止命令 日米欧の「自衛支援」にブレーキ****
国際司法裁判所(ICJ)は26日、パレスチナ自治区ガザで攻撃を続けるイスラエルに対し、ジェノサイド(集団殺害)防止を命じる暫定措置(仮処分)を出した。日米欧など先進7カ国(G7)はイスラエルの「自衛権」を支持したが、作戦続行を支えることは難しくなった。

ICJが暫定措置を出したのは、パレスチナ人の「ジェノサイドから保護される権利」を重視し、緊急措置をとる必要性を認めたため。「回復不可能なリスク」を招く恐れがあると判断した。攻撃停止には踏み込まなかったが、「作戦は国際法を順守している」というイスラエルの主張を事実上、退けた。ICJは国連機関で、命令は拘束力を持つ。

ICJの暫定措置は、イスラエルがジェノサイド条約に違反したか否かの判断とは関係がない。それでも、南アが同条約を根拠にICJに提訴し、イスラエルの軍事作戦に法的歯止めをかけたことで、停戦圧力が高まるのは必至だ。南アの提訴にはアルジェリアやブラジル、マレーシアなどグローバルサウス諸国が支持を表明。暫定措置を受け、スペインは歓迎を表明した。

ICJは今回、紛争に関係しない第三国でもジェノサイド阻止のために法的介入できると示した。ウクライナやパレスチナなど各地の紛争をめぐり、先進国とグローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国の対立が深まる中、「ジェノサイド裁判」は今後、新たな外交の武器となる可能性がある。ICJは2020年にもガンビアの訴えを受け、ミャンマーに少数民族ロヒンギャへのジェノサイドを防止するよう命じている。(後略)【1月27日 産経】
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【停戦合意に向けた動きへの影響は?】
でもって、話は今回ICJ判断も受けて、パレスチナの停戦合意が実現するのか? ということになります。

“ガザ戦闘休止、基本合意か=「恒久的停戦」で対立―イスラエル報道”【1月26日 時事】
“35日間のガザ戦闘停止で基本合意か…バイデン米政権が交渉仲介、CIA長官を欧州派遣へ”【1月26日 読売】
ここ数日、上記のような停戦合意に向けた“動き”は取り沙汰されるようになっていますが、まだイスラエル・ハマスの主張の隔たりは大きなものがあります。

そのあたりに今回ICJ判断を受けた情勢がどのように影響してくるのか・・・話は長くなりますので、また別機会に。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の複数の職員が、ハマスによる昨年10月7日のイスラエル奇襲に関与した疑いがあるとされ、最大資金提供国のアメリカが資金提供を停止したことも、支援を必要としているガザ住民の窮状を考えると非常に気掛かりです。
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パレスチナ  ガザ地区の惨状 死者のおよそ7割が女性や子ども 医療体制崩壊の中での出産・流産

2024-01-20 22:11:26 | パレスチナ

(ガザ市のアル・シファ病院では、麻酔薬がなかったために、看護師が麻酔薬なしで頭の傷を縫っている間、小さな少女は痛みに泣きながら「ママ、ママ」と叫んでいた。【11月10日 ARAB NEWS】
傷の縫合ならまだしも、麻酔薬なしの帝王切開となると・・・・)

【ガザ地区での死者のおよそ7割が女性や子どもで「1時間に2人の母親が命を落としている」(国連)】
イスラエル軍の激しい攻撃が続いているパレスチナ・ガザ地区の惨状については連日多くの報道がありますが、最近の子供や女性、特に出産絡みの母親に関する報道についてまとめました。

これまでも何度も戦争が繰り返されてきたパレスチナですが、今回の戦争はその犠牲者の多くが子供・女性であるという痛ましい特徴があります。

****国連報告書「1時間に2人の母親が命落としている」****
イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍は、20日も南部のハンユニスなどガザ地区の広い範囲で空爆と地上作戦を続けていて、ガザ地区の保健当局は、これまでの死者は、2万4927人に上るとしています。

国連はイスラエルが軍事作戦を続けるパレスチナのガザ地区での死者のおよそ7割が女性や子どもで「1時間に2人の母親が命を落としている」などとする報告書を発表し、早期の停戦の実現を訴えています

国連女性機関“ガザ地区の死者の約7割 女性や子ども”
国連女性機関は、19日にガザ地区の状況についての報告書を発表し、ガザ地区での死者のおよそ7割が女性や子どもだと指摘しました。さらに「ガザ地区では1時間に2人の割合で母親が死亡している」として、早期の停戦の実現を訴えています。【1月20日 NHK】
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****ガザ、子どもの死者1万人超えか 戦闘100日、攻撃続行****
イスラエル軍は地上侵攻するパレスチナ自治区ガザ各地で13日も激しい攻撃を続けた。昨年10月7日の戦闘開始から今月14日で100日目。ガザ保健当局によるとガザ側死者は2万3708人。国際非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン」は、うち1万人以上が子どもだと指摘した。

イスラエル首相府は12日、ガザで拘束されている人質に必要な薬を届ける計画を仲介役のカタールに働きかけていると発表。見返りとしてガザへの医薬品搬入を増やす方針を提示しており「数日以内に届けられる」との見通しを示した。

セーブ・ザ・チルドレンは11日の声明で、ガザで暮らす子どもは110万人で、これまでに約1%に当たる1万人以上が死亡したと説明。1日平均100人の子どもが犠牲になっているとして、即時停戦を訴えた。

中東メディアによると、北部ガザ市や南部ラファなどで12〜13日、イスラエル軍の攻撃を受けて子どもを含む30人以上が死亡した。ガザ当局は中部デールバラハのアルアクサ殉教者病院の燃料が枯渇したと発表した。【1月13日 共同】
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上記記事にある医薬品搬入については、カタール政府は16日、パレスチナ自治区ガザの民間人に支援物資を届ける見返りに、イスラム組織ハマスが拘束する人質に必要な医薬品を届けることでイスラエルとハマスが合意したと発表しています。

しかし、“ヨルダン政府は、ハンユニス市内に設けている同国の野戦病院がイスラエル軍に攻撃され、甚大な被害を受けたと発表した。ヨルダンは「目に余るほどの国際法の無視だ」とし、イスラエルに非があると批判した。”【1月18日 時事】という状況ですから、多少の医薬品が搬入されても被害は拡大する一方で、最低限の治療もできない現状です。

【下肢の切断手術を受けた子どもは1000人を超える 負傷者の4分の1近くは子ども】
死は免れても四肢切断という過酷な運命に見舞われる子供たちも。この先死ぬより辛い日々が待ち受けているかも。

****ガザで四肢切断の子ども1000人、不十分な医療で苦痛と喪失感****
2023年10月にガザ地区ジャバリアの自宅が爆発に巻き込まれたとき、ノアさん(11)の左脚はほぼ完全に引きちぎられてしまった。そして今、骨に4本のネジで止めた重い金属棒で固定された右足も、切断手術が必要になるかもしれない。

病院のベッドに横たわるノアさんは、不格好な固定具を見つめながら「とても悲しい……もう一方の脚も切断しなければならないのではないか」と話す。「走ったり遊んだりして、とても幸せに過ごしていたのに、脚を失ったことで惨めな一生になってしまい、悲しい。義肢をつけられればいいのだが」

(中略)爆弾やミサイルが人口密度の高い高層住宅地区を破壊し、爆風やがれきによりけがをした子どもらが、手足の切断手術を受けるケースが増えている。

イスラエル当局は以前から民間人への危害を最小限に留めるよう努力していると発言している。同国軍広報部は、ハマスが「テロ攻撃を目的として民間施設を流用する」戦略をとっているという主張を繰り返しているが、四肢切断に至った子どもらについては特に言及していない。

医師や支援関係者の話では、ガザ地区の医療体制は崩壊しており、まだ成長過程にあるのに切断されてしまった子どもたちの骨に配慮した複雑なフォローアップ治療を行える状態にはない。世界保健機構(WHO)によれば、殺害や拘束、強制退去により、実働中の医療従事者は紛争前の30%しかいないという。

国連児童基金(UNICEF)によれば、下肢の切断手術を受けた子どもは1000人を超え、複数回、あるいは左右両方という例もある。ガザの医療当局は、今回の紛争における負傷者の4分の1近くは子どもだと話している。

劣悪な衛生状態と医薬品の不足により、以前に負ったけがでも細菌感染に伴う切断手術が必要となり、手足を失う結果となる例もあると医師らは話している。(中略)

ガザ地区で義肢を扱う主要拠点となっているのは、カタールの出資でガザ市に建設されたハマド病院だが、現地の医療当局によれば、イスラエルの攻撃を受け、数週間前に閉鎖されてしまった。イスラエル軍広報部にハマド病院についてコメントを求めたが、今のところ回答はない。(後略)【1月9日 ロイター】
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【戦闘開始以降、ガザ地区では約2万人の子どもが必要な医療サポートもないまま「地獄の中で出産されている」】
こうした状況でも子供は生まれてきます。しかし出産をサポートする医療体制がありません。

****「10分に1人、地獄で出生」ガザ、戦争下で2万人の赤ちゃん****
「恐ろしい戦争の中で、10分に1人の割合で赤ちゃんが生まれている」。国連児童基金(ユニセフ)は19日、イスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘が始まった10月上旬以降、パレスチナ自治区ガザ地区では約2万人の子どもが生まれたと明らかにした。今月ガザの産科医療の現場を訪れたイングラム報道官は「地獄の中で出産されている」と述べ、即時の人道的停戦を訴えた。

この日のオンライン記者会見でイングラム氏は「ただでさえ不安定な(ガザの)新生児と妊産婦の死亡率は、医療制度の崩壊とともに悪化している」と指摘。現地で会った複数の妊産婦や医療従事者たちの実例を紹介した。

妊娠中に自宅が攻撃を受け、不全流産したまま処置を受けられていないというパレスチナ人女性は「赤ちゃんがこの悪夢の中に生まれてこないのが一番だ」と語ったという。また、8週間で死亡した妊婦6人の帝王切開に立ち会ったという看護師は「爆撃による大気の悪化により、流産が増えている」と報告したという。

またイングラム氏によると、妊娠中や出産直後の多くの女性が滞在するガザの避難所は衛生状況が悪い「非人道的」な環境にあり、2歳未満の子ども13万5000人が深刻な栄養失調の危機にさらされている。「人類は、この常軌を逸した『日常』をこれ以上続けてはならない。母親と新生児には人道的停戦が必要だ」と訴えた。【1月20日 毎日】
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麻酔も十分にないまま帝王切開も

****戦乱のガザで毎日180人の赤ちゃんが生まれている 何度も避難し、麻酔が不足する中で帝王切開に挑んだ記録****
イスラエル軍が侵攻を続けるパレスチナ自治区ガザでは、死者が2万3千人を超える一方、毎日180人前後の新生児が誕生している。

軍とイスラム組織ハマスとの戦闘が始まった昨年10月時点で約5万人の女性が妊娠していた。共同通信ガザ通信員ハッサン・エスドゥーディーのいとこ、シューク・ハラーラ(24)もその一人。

ガザ北部ガザ市から3回の避難を余儀なくされ、南部ハンユニスの病院で昨年11月に双子を出産した。麻酔が十分手に入らず、激痛に耐えた帝王切開手術。エスドゥーディーが報告する。

 ▽妊婦、徒歩で2時間避難
(中略)
10月7日にイスラエル軍の空爆が始まると、シュークは夫マムドゥーフ(26)らと共にガザ北部ガザ市の自宅から市内のシファ病院に避難した。だが、シファ病院も軍の攻撃対象となり、1週間後に中部ヌセイラト難民キャンプの友人宅へ向かった。

大きなおなかを抱えて2時間以上、空爆で建物や道路が破壊された街を歩く。避難する市民は多く、長蛇の行列だ。負傷者は手押し車や担架で運ばれる。イスラエル建国に伴い多数のパレスチナ人が避難を余儀なくされた1948年の「ナクバ(大災厄)」の再来だった。

友人宅に空きベッドはなく、床に毛布を敷いて横たわった。食料も十分にはなくなり、ツナ缶が主食で、野菜を食べることもなくなった。「赤ちゃんがおなかを蹴るたびに、まだ生きていると安心した」とシュークは言う。「けれど、もっと栄養をちょうだいと訴えているようにも感じた」。

安心したのもつかの間、今度はヌセイラト難民キャンプにも空爆が始まり、3日後に再度避難、10月17日にハンユニスのナセル病院に到着した。

負傷者や避難者があふれる廊下、その廊下で麻酔なしに手術する外科医…。シュークらが目にしたのはガザの病院の現実だった。

 ▽砲撃から赤ちゃんを守る
廊下の片隅に居場所を確保してから数日後、医師が告げた。「帝王切開をするが、麻酔薬が十分にない」。マムドゥーフは南部ラファまで必死に探しに行き、別の病院で購入した。それでも不十分で、シュークは激痛の手術に挑んだ。(中略)

出産後、その日のうちに病院を後にした。人が密集する病院では、感染症などが不安だったためだ。向かう先は中部デールバラハの友人宅。道のりは30キロもあり、一部は車で移動ができたが、3時間は歩かざるを得なかった。

だが、デールバラハも安全な場所ではない。近くの住宅が砲撃され、破片が室内に飛んできたこともある。窓ガラスが割れ、壁の一部が崩れる。ほこりだらけになる室内。「2人を同時に瞬時に抱くことはできず、覆いかぶさるのに精いっぱいだった」とシュークは強調した。

「もう一つ問題があった」と今度は笑顔を見せた。「出産で頭がいっぱいでベビー服も粉ミルクも何も用意できていなかった」。出産後、マムドゥーフは慌てて買い出しに行くが、商店では戦闘前の3〜4倍の値段に跳ね上がっていた。国連の支援物資も不十分で、子ども用品は常に不足する。出産後、安堵の息をつく間もなく、子育てに追われ、食料や衣服など子育て用品の調達に奔走する日々が始まった。

国連児童基金(ユニセフ)によると、日々生まれる180人前後の新生児の中には、病院ではなく、避難先の住宅や路上で生まれた子どももいる。出産後の母子が学校などの避難所で生活するケースも多い。十分な食料や水、衛生用品がないのが現実だ。

母乳で子育てをしている女性は10万人程度とみられ、栄養不足の懸念が深まる。2歳未満児の9割が栄養不足状態だとの報告もある。

ユニセフのテス・イングラム報道官は「十分な栄養を摂取できなければ、感染症にかかりやすくなるほか、知能や身体の発達の遅れにつながる」と指摘する。ユニセフは人道支援物資として水や食料、粉ミルク、衛生用品のほか、妊娠中の女性や母乳で育てる母親向けの栄養サプリメントもガザに送る。予防接種のためのワクチン搬入も開始したが、数は足りない。

国連安全保障理事会は12月下旬、ガザへの人道支援の強化を訴える決議案を採択したが、現実の品不足は変わらない。私自身、食事は1日1回、ひよこ豆やチーズ、パンなどを食べるのがやっとだ。イスラエル軍の攻撃が強化されたハンユニスからラファの親戚宅に避難したが、約40人が同居、私は1部屋に7人で眠る状況が続く。

ナセル病院で会ったとき、シュークが「戦争の間に産んで申し訳ないと思う」とつぶやくように何度も語ったのを思い出す。そして、小さな2人を見つめ、付け加えた。
「パレスチナの現状を変え、人々の命を救うような人になってほしい」【1月20日 47NEWS】
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****麻酔なしで帝王切開し、流産が急増。ガザの妊婦たちが直面している危機的状況****
イスラエル軍による攻撃が100日以上続いているパレスチナ・ガザ地区では、妊婦や新生児たちが、過酷な状況での出産を余儀なくされ、命の危機にさらされている。

人道支援団体によると、多くの人であふれている避難所やテントで出産しなければいけない妊婦がいるほか、病院の保育器を利用できない未熟児が死亡し、食糧不足で新生児が栄養失調に陥っている。

改善されない支援状況
国連安全保障理事会は2023年12月にガザ地区への人道支援を拡大する決議案を採択したものの、状況は改善されていないという。

ハフポストUS版が入手した米政府内部文書によると、イスラエルはガザ北部などへの支援物資搬入を禁じており、人道支援専門家は「状況は悪化している」と指摘している。

バイデン政権やオバマ政権で人道問題に携わった米NGO・難民国際協会のジェレミー・コニンダイク代表は「(人道支援は)わずかな改善があったにせよ……現時点で必要とされる規模にはほど遠い。たとえ改善があったとしても、わずかで脆弱であり、イスラエル軍の軍事行動や政治決定によって、台無しにされる可能性もある」と述べている。

出産に耐えられるのだろうか――妊婦が直面する命の危機
女性や女の子たちを中心とした支援活動行うNGO・CAREによると、ガザでは、女性たちが必要不可欠な生殖医療や産科医療を受けられずにいる。

イスラエルの指示によりガザでは多くの人々が南部に避難したが、CAREのヌール・ベイドゥン氏は、「現在、南部の都市ラファでは妊娠中の患者を1日30〜40人収容できる病院は1つしか運営されていない」とハフポストUS版に語った。

ベイドゥン氏によると、この病院では毎日約300〜400人の妊婦や産後の女性、新生児が診察を受けている。しかし手術室が1つしかなく、以前は1日2〜3件だった帝王切開の件数は1日20件近くになっているという。

イスラエルによる攻撃で、ガザにある病院のうち半数以上が閉鎖されたと見られている。

CAREは国連人道問題調整事務所のデータをもとに、現在パレスチナ自治区には妊娠している女性が約5万5000人と推定。帝王切開を受けなければならない人の多くが麻酔も衛生的な医療器具もない状態で手術を受けなければならない可能性が高く、傷口の感染症につながることも少なくない、と警鐘を鳴らしている。

CARE中東・北アフリカ地域副代表代行のヒバ・ティビ氏は「陣痛中に女性をサポートする医師、助産師、看護師はいません。女性が出産する際には、鎮痛剤も麻酔も衛生資材もありません」と声明で訴えた。

「出産に耐えられるのだろうか。子どもは助かるのだろうか。他の子どもたちはどうなるのだろうか。これらの問いは、ガザの妊婦や若い母親たちが、この100日間、終わりの見えない現実的な危険に直面していることを示しています」

CAREはガザ市のアル・シファ病院の経営者からの情報として、新生児医療と産科医療不足のために、ガザでは流産が300%増加したと報告している。

さらに、生理用品不足で、女性たちは生理中に非衛生的な布や衣類を使用しなければならず、感染症が増加している。

ベイドゥン氏によると、CAREは生理用品や衛生用品、爪切り、ヘアブラシなどの生活必需品を入れた「尊厳キット」を3500個準備しているものの、エジプトの国境を越えてガザで配布できるかどうかは不明だという。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は1月17日、スイスで開催中のダボス会議で、ガザの状況について「胸をえぐられるようだ」と述べた。

しかし、アメリカの政府高官がハフポストUS版に提供した国務省の文書によれば、イスラエルによって大規模に破壊されたガザ北部の状況は1月16日の時点でも改善されておらず、イスラエル軍が30万人のパレスチナ人が暮らす北部地域への燃料や医薬品などの物資搬入を拒否しているという。

ハフポストUS版はアメリカのイスラエル大使館に、この文書に対するコメントを求めたものの、現時点での回答はない。【1月19日 HUFFPOST】
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【イスラエル大統領「ガザ地区での悲劇から目を背けているわけではない」としながらも、「まともなイスラエル人は今の状態で和平合意について考えることはできない」】
こうした状況を聞けば、イスラエル支持のアメリカ・バイデン政権ですら「もう十分だろう」ということにもなりますが、イスラエル側はあくまでも戦闘継続の姿勢を崩していません。

****イスラエル大統領、ハマスとの戦闘めぐり「今の状態で和平合意考えることはできない」と強調****
イスラエルのヘルツォグ大統領はイスラム組織ハマスとの戦闘をめぐり、「今の状態で和平合意について考えることはできない」と強調しました。

ヘルツォグ大統領は18日、スイスで行われている世界経済フォーラムの年次総会、 いわゆる「ダボス会議」に参加しました。その中で、「ガザ地区での悲劇から目を背けているわけではない」としながらも、「まともなイスラエル人は今の状態で和平合意について考えることはできない」と述べ、ハマスのせん滅に向けた攻撃を続ける考えを強調しました。

こうした中、イギリスのフィナンシャル・タイムズは、18日、アラブ諸国が数週間以内に、ガザ地区での停戦と人質の解放を含む計画を発表する予定だと報じました。

計画には、西側諸国によるパレスチナの国家承認や国連への加盟のほか、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化の交渉も含まれるということで、アラブ諸国の高官の話として「中東での紛争の拡大を防ぐためのものだ」と伝えています。

ただ、イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の樹立を拒否する考えを改めて示していて、アラブ諸国による計画が進展するかは不透明な情勢です。【1月19日 日テレNEWS】
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「ガザ地区での悲劇から目を背けているわけではない」とは言いつつも、イスラエル国内でこの種の報道がどれだけなされているのか、イスラエル国民がガザの悲劇をどこまで認識しているのかは疑問です。

イスラエルに限らず、多くの国でメディアは自国民が受け入れやすいニュースに偏ります。ガザの惨状は国民が見たくない現実でしょう。被害者はイスラエルであり、テロリスト・ハマスを除くために戦っているだけだと信じたいのでしょう。

パレスチナ国家を拒否するネタニヤフ首相の対応などについては、また別機会に。


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イスラエル  ガザの惨状にもかかわらず攻撃を続ける背景には、惨状を伝えていないメディアの責任も

2023-12-26 22:51:33 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区で展開するイスラエル国防軍の部隊と面会したイスラエルのネタニヤフ首相【12月26日 BBC】)

【ガザ地区「悲惨な状況」 飢え死にするより、殉教者として家で死ぬ方がまし】
パレスチナ・ガザ地区の惨状については多くの報道がなされています。
24日のクリスマスイブの夜、難民キャンがイスラエル軍に空爆され70人ほどが死亡したとのこと。

****ガザ難民キャンプ空爆、WHO「悲惨な」状況確認****
世界保健機関の職員が25日、パレスチナ自治区ガザ地区の病院を訪問し、イスラエルによる空爆の被害者らが置かれた「悲惨な」状況について確認した。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長はX(旧ツイッター)に「WHOのチームは、医療従事者や被害者から、爆発による被害に関する悲惨な証言を得た」と投稿。「ある子どもはキャンプへの攻撃で家族全員を失った。同病院の看護師も同じ目に遭った」とつづった。

ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの保健当局は、24日夜にマガジ難民キャンプ内の建物3棟がイスラエルによる空爆を受け、少なくとも70人が死亡したと発表した。AFPは死者数について独自に確認できていない。

ガザ中部デイルアルバラのアクサ殉教者病院の敷地には、白い袋に入れられた犠牲者の遺体が多数並べられていた。病院職員は、キャンプへの攻撃の負傷者約100人が病院に搬送されてきたと報告している。

テドロス氏は、病院の処理能力を超えており「治療が間に合わず、多くが命を落とすだろう」とし、「24日のガザへの爆撃は、直ちに停戦すべき理由をはっきりと示している」と語気を強めた。

WHOによると、ガザ地区の病院36施設のうち現在でも稼働しているのは、限定稼働の施設を含む9施設のみとなっている。 【12月26日 AFP】
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食糧事情も深刻化し、餓死の脅威が現実のものとなっています。

****配給頼るガザ住民、わずかな食料に長蛇の列 餓死の恐れも*****
パレスチナ自治区ガザ南部のラファで避難民のための食料配給に連日、ボランティアとして参加するバクル・ナジさんは、子どもたちの胃袋を満たすには量が足りないことが分かった瞬間に、毎回、やるせない気持ちになる。

ラファの食料配給所で取材に応じたナジさんは、わずかな食料を求め、無数の人が列をつくると話す。自身もガザ市の自宅から逃れてきた避難民だが、同じ境遇にある人々のために、炊き出しのボランティアをしている。

AFPに対し、「一番つらいのは、食料を配る時だ」と述べ、「食べ物が尽き、子どもたちに『おなかがすいた』『もうないの』と言われると、とても心苦しくなる」と説明した。

そのような状況に直面すると、ボランティアたちの多くは、自らの食料を差し出す。

21日に公表された国連の総合的食料安全保障レベル分類報告書は、12月初め時点までにガザでは200万人以上が危機的な飢餓状態にあり、37万8000人超は「壊滅的な飢餓」に直面していると指摘した。

イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が繰り広げられているガザには、わずかの人道支援物資しか搬入されない。

ラファの食料配給所では、フェンスで囲われたエリアで炊き出しが行われている。大人も大勢の子どもも、プラスチック製のボウルや小さな鍋を手にフェンスの外で辛抱強く待つのだ。

1日当たり約1万人分の食料を配っている慈善団体の職員、ハレド・シェイク・エイドさんは、「レンズ豆もブルガー小麦も市場からなくなった。エンドウ豆も白インゲン豆も消えた」と話す。

エイドさんによると、配給所は寄付とボランティアの参加で運営できているが、常に乏しい物資でやりくりせざるを得ないという。

■「餓死より殉教の方がまし」
ナジさんは、「豆の缶詰の値段は1シェケル(約40円)から6シェケルに跳ね上がった」と語る。
「戦争前も人々は貧しく、職を持つ人でも子どもに十分食べさせられなかった。それなのに、この状況にどう対処すればいいのか」と述べ、「餓死者が出るのではないかと恐れている」と続けた。

南部ハンユニスから逃れてきた、妊娠5か月のヌール・バルバクさんは、食料配給所が開く何時間も前から列に並んでいた。

トマト3個と2シェケル(約80円)を握り締めたバルバクさんは、「12歳の長男にときどき来させているが、暴力を振るわれるだけで何ももらえずに泣きながら帰ってくる」と話し、「ここがなければ、私たちは何も入手できない」と訴えた。
子どもたちはやせ細り、空腹のため夜中に起きる」と厳しい状況を説明し、激戦地となっているハンユニスの自宅に戻ろうと考えたこともあると打ち明けた。「飢え死にするより、殉教者として家で死ぬ方がましだから」 【12月24日 AFP】AFPBB News
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“国連世界食糧計画(WFP)などは21日、パレスチナ自治区ガザ地区のおよそ6人に1人が「壊滅的」な飢餓状態にあるとする報告書を発表した。WFPのマケイン事務局長は「安全かつ安定した支援がなければ状況は絶望的だ。ガザで飢餓から逃れられる人はいない」と警告した。”【12月22日 毎日】

【攻撃の手を緩めないイスラエル エジプト停戦案もハマス拒否 イスラエルは“落としどころ”が見つからず苦慮している面も】
こうした状況でもイスラエル軍の攻撃は熾烈を極めています。ガザ地区の死亡者は2万人を超えています。

****パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍の攻撃続く 24時間で200人超死亡 拘束の人質も死亡か****
パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍による攻撃が続いていて、1日の死者が200人を超えています。

ガザ保健当局は23日、過去24時間で201人が死亡し、戦闘開始以降の死者数は合わせて2万258人になったと発表しました。

これに先立ち、イスラエル軍の報道官は22日、ガザ北部での戦闘について「最終段階に近づいている」としたうえで、南部での作戦を継続しつつ、範囲をさらに拡大させる考えを示しています。

一方、イスラム組織ハマスは攻撃によって人質5人を担当していたグループとの連絡が途絶え、人質は死亡したとみられると発表しました。

こうした中、アメリカのバイデン大統領は23日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、民間人保護の重要性を改めて伝えた一方で、戦闘の一時停止については「求めなかった」としています。【12月24日 TBS NEWS DIG】
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ようやくと言うか、エジプト仲介で停戦案も提示されています。

****エジプトが3段階のガザ停戦案提示…第1段階で2週間の戦闘停止、人質40人解放****
サウジアラビアのニュースサイト「アシャルクニュース」は24日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの交渉を仲介するエジプトが、2週間の戦闘停止や人質解放などを第1段階とする3段階の停戦案を提案していると報じた。

同サイトによると、停戦案は先週、ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏らがエジプトを訪問した際に提示された。ハニヤ氏らは組織内で協議するため、23日に滞在先のカタールに戻った。地元紙タイムズ・オブ・イスラエルによると、複数のイスラエル高官が提案があったと認め、交渉につながる可能性を示唆したという。

停戦案の第1段階では、戦闘を2週間停止し、ハマスが人質40人を解放するのと引き換えに、イスラエルはパレスチナ人収監者120人を釈放する。

第2段階では、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸とガザの分断を解消するため、エジプト主導で「パレスチナ国民協議」を開き、ガザの再建を監督する実務者中心の政権を樹立する。

第3段階では、包括的な停戦や残りの人質と収監者の交換を取り決め、イスラエル軍がガザから撤退することを想定している。【12月25日 読売】
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“25日のイスラエル公共放送カンによるとイスラエル当局者は停戦案について「完全にまとまったものではないが、数回の協議を経て合意に至る可能性がある」と述べた。”【12月25日 読売】という前向きの反応も報じられていますが、“イスラム組織ハマスはエジプトが仲介する人質解放や戦闘終結についての提案を拒否したと、ロイター通信が報じました。”【12月26日 日テレNEWS】とも。

すぐに停戦・・・という状況ではないようです。
イスラエル・ネタニヤフ首相は戦闘継続姿勢を崩していません。

“ネタニヤフ首相は25日、与党の会合で、パレスチナ自治区ガザでのハマス掃討作戦を今後数日間のうちに強化すると述べた。「長期戦になるだろう。戦闘終結には近づいていない」と説明。国会演説では「軍事的な圧力」の必要性を強調し、戦闘休止や人質解放交渉に改めて慎重姿勢を示した。地元メディアが伝えた。”【12月26日 共同】

****イスラエル首相「われわれは止まらない 戦争は最後まで続く」****
イスラエルのネタニヤフ首相は25日、ガザ地区北部に展開する部隊を視察しました。
ネタニヤフ首相は兵士たちを前に「誰が停止について話そうとわれわれは止まらない。戦争は最後まで続くだろう」と述べ、ハマスを壊滅させるまで軍事作戦を継続する考えを改めて強調しました。【12月26日 NHK】
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そのうえで・・・

****イスラエル首相 和平実現の3条件 米紙に寄稿****
ネタニヤフ首相は25日、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、和平を実現するための条件として▽ハマスの壊滅、▽ガザ地区の非武装化、それに▽ガザ地区の脱過激化の3つを挙げました。

ネタニヤフ首相としてはアメリカなど関係国が戦闘休止に向けた働きかけを続けるなか、軍事作戦を継続する正当性を強調する狙いがあるとみられます。【12月26日 NHK】
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要するに、完全勝利するまで戦いをやめない・・・ということですが、そうした表向きの強気姿勢の一方で、人質の救出も進まず、ハマス指導者の確保・殺害も実現していない状況で、戦いを止めるに止められない、落としどころが見つからない状況で、戦闘の長期化に苦慮しているとも報じられています。【12月26日 NHKより】

【イスラエル国民の約7割がガザの民間人の苦境を考慮する必要がないと回答 しかし、メディアでガザの惨状に関する情報が正しく伝えられていない懸念も】
イスラエル軍のガザ猛攻に対して国際的には厳しい目が向けられていますが、イスラエル国内では人質救出を求める声はあるものの、ガザ攻撃を容認・支持する世論が続いています。

****ガザ苦境、国民の7割が考慮せず イスラエルの世論調査****
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘を巡り、イスラエル国民の約7割がガザの民間人の苦境を考慮する必要がないと考えていることが26日までのシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」の世論調査で分かった。約8割が、軍は国際法を順守しようと努力しているとも回答した。

深刻化するガザの人道危機を懸念する国際社会とイスラエル社会の差が浮き彫りになった。

「イスラエルは軍事作戦の継続を計画する際に、ガザ市民の苦境を考慮する必要があるか」との問いに対し、計69.3%が「全く考慮する必要はない」「ほとんど考慮する必要はない」と答えた。【12月26日 共同】
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こうした世論を生む背景には、ハマスの攻撃への怒りだけでなく、現在のガザ地区がどのような状況に陥っているのか、どれだけ多くの民間人が犠牲になり、飢え・病気に苦しんでいるのか・・・そうした情報が正しくイスラエル国民に伝わっていないのではないか・・・という疑念があります。

****「ガザ被害を報じたか?」TBS記者が聞くと取材中断…イスラエルメディアは“ガザ被害伝えてない”と批判の声も****
パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の攻撃による甚大な被害が広がる一方、イスラエルメディアはガザの様子を伝えていないという批判の声が上がっています。

イスラエル軍による空爆で破壊された街並み。子どもの遺体を涙ながらに抱きかかえる女性の姿。私たちはガザの悲惨な光景を連日目にしますが、イスラエルでは違います。

イスラエルで優秀なジャーナリストに贈られる賞を受賞した経歴を持つ「ハーレツ」のギデオン・レヴィ氏は…
イスラエル紙「ハーレツ」 ギデオン・レヴィ氏「イスラエルのテレビや主流の新聞を読んでいる平均的なイスラエル人は、ガザでの残虐行為や恐ろしい光景に全く触れていません」

軍の行動を巡る世論調査では、ユダヤ系イスラエル人のおよそ8割がガザ市民の苦しみについて「ほとんど考えなくて良い」、または「あまり考えなくてよい」と答えました。この背景にはメディアの責任があるとレヴィ氏は主張します。

イスラエル紙「ハーレツ」 ギデオン・レヴィ氏「10月7日の蛮行のあと、イスラエルはどんなことをしても良いと思ってしまっているのです」

こうした批判をテレビ局はどう考えているか。取材に応じたのはイスラエル最大の民放放送局で、20年以上にわたり中東エリアの取材を担当するオハド・ヘモ氏。

イスラエルの民間放送局 オハド・ヘモ氏「ガザで起きたことというのは、ガザがイスラエルに対して宣戦布告したということです」

ヘモ氏は「ガザについて十分に報じている」と主張。ただ、軍に同行し、ガザで取材したことについて聞くと…
イスラエルの民間放送局 オハド・ヘモ氏「私たちが見たのは弾薬や武器が病院で見つかり、テロリストによって使われていたということです。それを見ました」

では、ガザの被害については…
記者 「ガザの街の破壊についても報じようとしましたか?」
ヘモ氏「もちろんです」
記者 「どのように報じましたか?」
ヘモ氏「すいません、このインタビューは嫌です。私の国は…攻撃されたんです」
記者 「もちろん分かっています」

インタビューは中断となりました。

戦闘開始から2か月半。停戦を求める国際社会の声が高まる一方、イスラエルでは戦闘継続を支持する声が根強いままです。【12月26日 TBS NEWS DIG】

情報が正確に伝えられていないのはパレスチナ側も同じです。
ガザ地区住民には、10月7日にハマスがイスラエルで行った蛮行についてはほとんど報じられていません。

正しい公平な情報が伝わらないところでは、また、憎しみを煽るような情報しか示されないところでは、合理的な判断も生まれません。メディアの役割の重要性を改めて感じます。

【ネタニヤフ首相 ガザ住民の「自発的移住」促す方針に言及 「民族浄化」との批判】
パレスチナについては、仮にイスラエルがハマスを壊滅させたとしても、「二国家共存」を否定するイスラエルには「ポスト・ハマス」の青写真がないという大きな問題があることは再三取り上げてきましたが、ネタニヤフ首相は「ザの住民を地区外へ自発的に移住」に言及しています。

****ネタニヤフ氏、ガザ住民の「自発的移住」促す方針…パレスチナ側は「民族浄化」と猛反発****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は25日、党首を務める与党リクードの会合で、パレスチナ自治区ガザの住民を地区外へ自発的に移住するよう促す方針を示した。事実上ガザからのパレスチナ人追放につながりかねず、パレスチナ側は猛反発している。

主要紙ハアレツなどによると、ネタニヤフ氏は会合で「我々の問題は(ガザ住民の)退去を許可するということでなく、移民を受け入れようとする国があるかどうかだ」と述べた。

リクードの国会議員ダニー・ダノン元国連大使は25日夜、公共放送カンのインタビューで「イスラエルは様々な国からガザの難民を受け入れる用意があるとの照会を受けた」と言及した。具体的には南米やアフリカの国々だとし、「いくつかの国は金銭の支払いを求め、別のことを要求した国もある」と述べた。

パレスチナ自治政府は「イスラエルの目的がパレスチナ人の存在を消し去ることだと明らかになった」と反発し、国際社会に対し「民族浄化」をやめるよう求める声明を出した。【12月26日 読売】
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これは「アウト」でしょう。“自発的に移住するよう促す”と言ったところで、実際には様々な圧力がかけられ、出ていくしかないような状況がつくられるのでしょう。それは「民族浄化」に他なりません。
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パレスチナ  国連安保理で続く調整 アメリカの対応は? 「ポスト・ハマス」に向けた状況

2023-12-20 23:47:49 | パレスチナ

(南部のラファにある自宅が空爆を受け、泣きながら避難する女の子。(ガザ地区、2023年12月6日撮影)【12月19日 日本ユニセフ協会】)

【「新たな戦闘休止」に向けた交渉も】
パレスチナ・ガザ地区の被害拡大に歯止めがかかりません。ガザの保健当局によると、19日だけで100人以上が死亡したとのことで、10月7日の戦闘開始以降、これまでの死者は1万9667人、負傷者は5万人以上にのぼっています。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は19日、220万人以上のガザの人口の90%以上が自宅から避難し、住宅を含むインフラの60%以上が破壊、または一部損壊したとSNSに投稿し、「前例がない驚くべき水準の強制移住と破壊が、私たちの目の前で起きている」と訴えています。

こうした状況で、再度「戦闘休止」に向けた動きも出てはいますが・・・。

****イスラエル大統領、人質救出のため「新たな戦闘休止の用意」…ハマス幹部「戦闘中は交渉拒否」****
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は19日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラム主義組織ハマスに拘束されている約130人の人質救出のため、「新たな人道的戦闘休止の用意がある」と述べた。

ヘルツォグ氏はイスラエル駐在の各国大使らを前に演説し、「(休止実現は)ハマス指導者にかかっている」とも語った。

再度の戦闘休止の実現を巡っては、18日にイスラエルの対外情報機関モサドと米中央情報局(CIA)の両長官が仲介役カタールの首相とポーランドで会談した。イスラエルの大統領は儀礼的な役割にとどまるが、ヘルツォグ氏の発言は、調整の活発化を踏まえた発言とみられる。

ただ、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は19日、ガザでの地上侵攻を「新たな場所に広げる」と述べ、攻撃強化の意向を強調した。

ロイター通信によると、ハマス幹部は19日、「侵略を終わらせるための取り組みは受け入れる」と協議に前向きな姿勢を示す一方、ハマスが拘束している人質の解放に関しては「戦闘中はいかなる交渉も拒否する」と述べ、双方の主張に隔たりがあることを示唆した。

一方、ハマスと連帯するイエメンの反政府武装勢力フーシの報道官は19日の声明で、「ガザを支援するための作戦を止めることはできない」と述べ、紅海での商船攻撃の継続を宣言した。【12月20日 読売】
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“ロイター通信は17日、複数のエジプト治安筋の情報として、双方が新たな戦闘休止に前向きな姿勢を示していると報じた。休止期間のほか、ハマスが求める軍部隊の一定の撤退にイスラエルが同意しないなど、意見の不一致が残っているとしている。”【12月18日 産経】とも報じられています。

戦闘休止が実現しても、1週間ほどで再び戦闘再開では困りますが、それでも休止しないよりはましでしょう。

【イスラエルのガザ攻撃に対し厳しい姿勢に変化しつつもあるアメリカ イスラエル支持は変えないものの安保理での「調整」続く】
上記のカタール仲介の当事者間の交渉が行われているなかで、国際社会も、イスラエルを支持するアメリカの拒否権発動で機能マヒ状態の国連安保理に代えて、国連総会の場で戦闘停止に向けた圧力を強めようとしています。

12日の「人道目的の即時停戦」を求める決議では、イスラエル・アメリカの孤立化が鮮明になっています。

****ガザ停戦決議に153カ国賛成=米・イスラエル孤立鮮明―国連総会****
国連総会は12日、イスラエルが侵攻するパレスチナ自治区ガザに関する緊急特別会合を開き、「人道目的の即時停戦」を求める決議を日仏中ロなど153カ国の圧倒的賛成多数で採択した。

反対はイスラエルや米国など10カ国だけで、ガザ情勢を巡る両国の国際的孤立が鮮明となった。英独伊など23カ国は棄権した。

総会決議に法的拘束力はないが、ガザの人道危機が長期化する中、国際社会の総意として軍事作戦を続けるイスラエルとその後ろ盾の米国に停戦を強く訴えた形だ。パレスチナのマンスール国連大使は「総会が力強いメッセージを発した歴史的な日だ」と採択を歓迎した。

決議は中東・イスラム諸国を代表してエジプトが提出した。停戦に加え、民間人の保護やガザで拘束されている全ての人質の即時解放を要求している。イスラエルと交戦するイスラム組織ハマスには言及していない。【12月13日 時事】 
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アメリカは、12月13日ブログ“イスラエル・ネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝が鮮明に”でも取り上げたように、イスラエルに民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行するように求めており、将来的には「二国家共存」で・・・との考えを強めています。

****米国防長官 イスラエル訪問 民間人保護へ作戦規模縮小など協議「道徳的な義務」*****
アメリカのオースティン国防長官はイスラエルを訪問し、民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行などについて協議したと明らかにしました。

アメリカ オースティン国防長官:「イスラエルのより安全で安心な未来と、パレスチナ人の明るい未来のため協力していく」

18日にイスラエルを訪問したオースティン国防長官は、ガザ地区のパレスチナ人を守ることは「道徳的な義務であり、戦略的な要請でもある」と述べました。

民間人の保護と人道支援の拡大を重視する考えを改めて強調し、目標達成に向けて標的を絞り、規模を縮小した作戦への移行などを協議したということです。(後略)【12月19日 テレ朝news】
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ただ、これまで同様に表向きのイスラエル支持の基本路線は維持しており、国際的に孤立化するなかで、国連での「停戦」を求める動きへの対応に苦慮していると思われます。

****ガザ支援で新決議案採決へ=米国の対応焦点―国連安保理****
国連安保理は18日午後(日本時間19日午前)に緊急会合を開き、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案を採決にかけることを決めた。今月の議長国エクアドルが17日、明らかにした。

米国が拒否権を行使するか否かが焦点。イスラエルの後ろ盾である米国は8日、アラブ首長国連邦(UAE)が作成した「人道目的の即時停戦」を要求する決議案に拒否権を発動し、日本やフランスなど他の13理事国が賛成する中、廃案に追い込んだ。 【12月18日 時事】
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アメリカの拒否権回避に向けて調整が行われており、18日の採決は19日に延期されました。

****新決議案の採決延期=米の拒否権回避へ交渉継続―国連安保理****
国連安保理は18日、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案について、同日に予定していた採決を19日(日本時間20日)に延期した。決議案を提出したアラブ首長国連邦(UAE)のヌセイベ国連大使が明らかにした。

イスラエルの後ろ盾である米国が拒否権を行使しないよう、文言の最終調整が続いているもよう。決議案は、ガザに支援物資を行き渡らせるため「緊急で持続可能な敵対行為の停止」を要請している。【19日 時事】 
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決議案では「全ての人質の即時かつ無条件の解放」も求めていますが、「ハマス」は名指しされていません。そのあたりでアメリカが難色を示しているようです。

調整は難航しているようで、19日採決も再度延期されています。

****ガザ決議案の採決、再び延期 国連安保理、文言の交渉難航****
国連安全保障理事会は19日、パレスチナ自治区ガザで「敵対行為の停止」を各当事者に求める決議案の採決を19日から20日(日本時間21日)に再び延期することを決めた。外交筋が明らかにした。当初は18日に採決予定だった。決議案の文言に関する交渉が難航しているという。

イスラエルを擁護する米国は安保理で10月と今月、拒否権を発動してガザ情勢に関する決議案を否決させた。今回の決議案で米国の拒否権行使を回避するため、アラブ首長国連邦(UAE)などを中心に調整が続いている。

UAEが提出した当初の決議案は、民間人への無差別攻撃を非難。「敵対行為の停止」を要求した。【12月20日 共同】
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難航はしていますが調整が続いているということは、アメリカ側にも、これ以上の国際的孤立を強めるイスラエル支持での拒否権発動はできれば避けたいとの思いがあるということでもあるでしょう。(もちろん、結局調整が失敗し、再びアメリカの拒否権行使ということになるのかもしれませんが)

【「ポスト・ハマス」に向けたイスラエル・パレスチナの状況】
「一時停戦」の更にその先には「ポスト・ハマス」をどういう枠組みで構築するのか・・・という問題があり、アメリカなど多くの国際社会はパレスチナ自治政府を主体とするパレスチナ国家とイスラエルの「二国家共存」しか方法がないとの考えですが、ネタニヤフ首相はこうした考えを拒否しています。

ただ、以前から司法改革問題で強い国内批判に曝されていたネタニヤフ首相は、今回のハマスの襲撃を許したことで更に責任を問われる事態にもなっており、政権交代の可能性も大きいと思われます。

一方の、パレスチナ側。 

“10月7日より前にガザで実施された世論調査では、住民の67%がハマス主導の政府をほとんどもしくは全く支持しないと回答。支持政党にハマスを選んだのは27%、「イスラエル壊滅」という目標を支持したのはわずか20%だった。住民の大多数は紛争の平和的解決を望み、半数以上が2国家共存が好ましいと回答した。”【12月20日 Newsweek】と、ガザ地区におけるハマス支持はさほど強くありませんでした。
(そうした状況が、ハマスが多大なリスクを伴うイスラエル攻撃に踏み切った背景にあるのかも)

腐敗の横行する自治政府の信頼も低下しており、本来は行うべき選挙もできない状況。

今回のイスラエル・ハマスの戦闘がパレスチナ住民の心情に強く作用し、今後のハマスや自治政府への支持に影響することも想像されます。

*****ハマスの越境攻撃、「正しい決定」と7割が支持 パレスチナ世論調査*****
パレスチナの民間調査研究機関「政策と調査研究のためのパレスチナ・センター(PSR)」は13日、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸とガザの両地区)での世論調査結果を公表した。

ハマスが10月7日に行ったイスラエルに対する越境攻撃について、約7割が「正しい決定だった」と支持していることが明らかになった。

調査は11月22日〜12月2日に実施され、ヨルダン川西岸の750人とガザの481人が対面で回答した。ガザ地区では戦闘休止期間中に調査したという。

PSRによるとハマスによる越境攻撃は、ガザ地区で57%が、西岸で82%が「正しい」と答えた。ハマスの支持率は9月の前回調査に比べ、ガザ地区で4ポイント増の42%、西岸では32ポイント増の44%で、いずれもヨルダン川西岸を治める穏健派組織ファタハを上回っていた。

「戦後のガザ地区は誰が統治してほしいか」との質問でも、「ハマス」と答えた人が全体の60%(ガザ地区38%、西岸75%)を占めた。

また、「イスラエルが戦争犯罪をしている」と考える人は全体の95%に上った一方、「ハマスが戦争犯罪をしている」と考える人は10%だけだった。

ハマスは10月7日の襲撃で民間人ら約1200人を殺害し、約240人を拉致した。その際の動画はSNSで拡散したり、国際ニュースで報じられたりしているが、こうした動画を視聴したことがある人は14%にとどまっていたという。【12月14日 毎日】
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現在のガザの混乱状態でどのような世論調査が可能なのか疑問ですので、(特にガザでの数字については)そうした視点で見る必要があるとは思いますが、興味深いのはガザ地区よりむしろヨルダン川西岸地区でハマス支持が急増していることです。

こうした状況では、自治政府による西岸・ガザの一元統治、そして「二国家共存」・・・というのは実体のない青写真にもなりかねません。
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