孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  国際的孤立の中、タリバンが直面する経済・市民生活の再建という難題

2021-08-24 22:40:12 | アフガン・パキスタン
(露店でメロンやスイカを買い求める人たち。権力を握ったイスラム主義勢力タリバンを恐れていても、人々は生活のために街に出る=8月23日、カブール【8月24日 朝日】
一見、普段どおりの生活が営まれているようですが・・・)

【物価上昇、ATM停止、給料未払い・・・困窮する市民生活】
外国人、外国軍への協力者、女性活動家などタリバン支配による脅威にさらされている人々などのアフガニスタン国外退避とその混乱、進捗の遅れが世界の注目を集めているなかで、これからのアフガニスタン再建に関するニュースが。

****タリバン、アフガン中銀総裁代行を任命 経済再建に着手****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンは23日、アフガニスタン中央銀行総裁代行にハッジ・モハンマド・イドリス氏を任命したと発表した。

タリバン幹部によると、イドリス氏は北部ジョージアン州出身で、2016年にドローン(小型無人機)による攻撃で殺害されたタリバンの前最高指導者マンスール師の下で長らく財務を担当していた。

別の幹部は、イドリス氏はタリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されていると述べた。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は声明で、イドリス氏は各機関を整備し、アフガニスタン国民が直面している経済問題に対処すると表明。ただ政府職員の給与支払いが滞り、多くの企業が営業を停止する中、食料品や家庭で利用する燃料などの生活必需品の価格に上昇圧力がかかっており、困難が予想される。【8月24日 ロイター】
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困難を極めることが予想されるアフガニスタン経済、市民生活の再建の中心になるべき人事ですが、“タリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されている”という人物で可能なのか? という素朴な疑問も。

タリバンの金庫番と、一国の経済のかじ取りはまた別物のようにも思うのですが・・・・

一部の国外退避する人々以外の大多数の人々は、今後ともアフガニスタンの地で生活していかねばなりませんが、その生活は今、政治の空白、国家機能の停止によって日増しに苦しさを増しています。

物価は高騰し、銀行ATMは停止し、公務員給与は止まっています。
そうしたなかでも人々は食糧を手に入れ、生きていかねばなりません。

****タリバン、アフガニスタン首都掌握から1週間 食品高騰で市民は困窮、銀行は閉鎖****
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。

数千人の群衆が空港の入り口に押し寄せ、カブールを脱出するための席を確保しようと争う光景は、西側を後ろ盾とした政権が崩壊した後の混乱ぶりを何より鮮明に印象付けた。

しかし日がたつにつれ、食糧や家賃といった日々の心配事が見通しの暗さに輪を掛けるようになっている。この国のぜい弱な経済は国際支援の消滅によって打ちのめされた。

「途方に暮れている。何を真っ先に考えるべきなのか分からない。自分の身を安全にして生き延びることか、それとも子どもと家族を食べさせることなのか」と語るのは元警察官だ。妻と4人の子どもを養っていた260ドル(約2万8600円)の月給を失い、今は身を隠している。男性はこの2カ月間、給与を受け取っていない。下位の公務員の多くがそうした状態だ。

「私が住んでいるのは賃貸アパート。この3カ月間、大家に家賃を納めていない」と語る。
この1週間は妻の指輪とイヤリングを売ろうと試みたが、他の多くのビジネスと同様に金市場も閉鎖されており、買い手は見つけられない。「お手上げだ。どうすれば良いのか分からない」とため息をつく。

タリバンがカブールを制圧した15日より前から状況は悪化していた。タリバンが地方都市を急スピードで進攻したことで通貨アフガニはドルに対して急落し、基本的な食料品の価格をさらに押し上げた。

小麦粉、食用油、米などの価格は数日間で10―20%も上がり、銀行が閉まっているため多くの人々は貯蓄を引き出すこともできない。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたので、海外からの送金も途絶えた。
捕まるのを恐れて身を隠している元政府職員は「すべてはドルの状況のせいだ。中には店を開けている食料品店もあるが、市場は空っぽだ」と嘆く。

隣国パキスタンとの主要な国境沿いで交通は再開したものの、国全体が厳しい日照り続きで、多くの人々の困窮に追い打ちを掛ける。テントや仮設シェルターで生き延びようと、数千人の人々が都市を目指している。

複数の国際支援団体は22日、アフガン向けの商業航空便が停止されたため医薬品その他の支援物資を届ける手段がないと訴えた。

地方の窮状は日増しに都市部にも波及するようになり、下位中間層を直撃している。この層は前回のタリバン政権が終わってからの20年間、生活水準の向上を経験してきた。

「何もかも終わった。倒れたのは政府だけではない。私のように1万5000アフガニ(200ドル)前後の月給に頼って暮らしていた数千人も同じだ」と、別の元政府職員は語る。

「この2カ月間というもの政府が給料を払ってくれず、私たちは既に借金を背負っている。高齢の母は病気で薬が必要だ。子どもと家族は食べ物が必要だ。神様お助け下さい」と悲痛な声を上げた。【8月24日 Newsweek】
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麦価で唯一下がっているのは家賃。また、経済停止によって電力需給も改善しているとか。
ただ、それらはアフガニスタン経済が直面して困難を物語ってもいます。

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物価のうち唯一下落しているのが家賃だ。カブールの両替商、パイマン氏は「非常に大勢の人々が町を去った」と語る。同氏によれば、「住宅が空き家だった場合、タリバンが接収する可能性があることを恐れ、一部の家主はテナントに無料でも居続けるよう頼んでいる」という。
 
住民らによると、改善された点の一つは全国を通じて以前に比べて電力供給がより安定したことだ。これは、政府オフィスや多くのビジネスが依然として閉鎖状態にあるため電力需要が減少したことや、主要送電網の途中にある鉄塔をタリバンが爆破するのをやめたことなどを反映している。【8月24日 Newsweek】
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【国際支援も停止】
これまでアフガニスタン経済を支えてきた国外からの支援も停止しています。

****アフガン、経済混乱 閉まった銀行、物価は急騰****
イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンで、国内経済の混乱が続いている。米国による資産凍結などで現金が不足し、銀行は営業を停止。物価が急騰し、市民の生活は苦しくなる一方だ。
 
「タリバンは軍事的には勝利した。しかし、これからは国家運営が必要になる。簡単ではない」。アフガン中央銀行のトップだったアジュマル・アフマディ氏は18日、脱出先の国外からツイッターで経済の逼迫(ひっぱく)ぶりを説明した。
 
アフマディ氏によると、アフガン中銀は政権崩壊前の時点で海外に約90億ドル(約9900億円)の資産を持っていた。その大半が米ドルや債券、金などの形で米国に預けられていたが、米バイデン政権が凍結。新政権ができても「タリバンが使える資産は、おそらく0・1~0・2%しかない」という。
 
国際通貨基金(IMF)のゲリー・ライス報道官は18日、タリバンが支配するアフガニスタンが「国際社会の承認を得ていない」として経済支援の送金を止めると発表した。
 
すでにアフガン国内は現金不足に陥っている。治安悪化で外貨の持ち込みが止まり、アフガン中銀は国内の銀行に現金を渡せなくなった。銀行の店舗は閉まったままで、街中のATM(現金自動出入機)への現金の補充はほぼない。
 
住民によると、1リットル50アフガニ(約70円)ほどだったガソリンはここ数日で5割上昇。小麦粉や砂糖なども1~2割高くなった。公務員への給料の支払いは止まっている。露天商アシフさん(24)は「みんな手持ちの金がなく、買い物もできない。国外脱出を願う若者が多いのも当然だ」と語った。
 
そんななか、ドイツ政府は17日、今年予定されていた約560億円相当の支援を一時停止すると発表。これに先立ち、マース外相は「タリバンが完全に支配すれば1セントたりともアフガニスタンには送らない」と語っていた。ドイツは主要援助国の一つで、他の国の判断にも影響しそうだ。国家予算の約5割を国際援助に頼ってきたアフガニスタンにとって打撃は大きい。
 
タリバンは1996~2001年の旧政権時代、極端なイスラム教の解釈が国際的な批判を浴び、経済が行き詰まった。タリバンは17日の会見で「天然資源で経済を立て直す」と主張したが、天然資源を運び出すための鉄道網は未整備で、実現は容易ではない。
 
タリバンが今後、これまで資金源にしてきた麻薬ビジネスを活発化させる恐れがある。【8月24日 朝日】
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かつて旧タリバン政権が実験を掌握したときと、今では状況が大きく異なります。

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現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。【8月24日 WSJ】
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【経済再建、国際支援復活のために妥協するのか あるいは恐怖支配か】
タリバンは、内戦によって廃墟状態にあった1996年と異なり、曲がりなりにも現代生活を享受していた国民の要求に向き合うことになります。

これまでのゲリラ戦で銃を撃ち、敵を倒すこととは、全く異なる能力が要求されています。

国民生活を維持していくためには国際支援が必要となりますが、そのためには国際社会の人権・自由に関する要求に一定に応える必要があります。(だからこそ、今現在、実態はともかく、公式見解として比較的融和的な姿勢を打ち出しているのでしょう)

****アフガン経済崩壊、交渉迫られるタリバン****
銀行閉鎖で現金が不足 ドルも外国の援助も届かず

アフガニスタンの新たな支配者となったタリバンは、本格的な軍事的抵抗がなくなった今、経済の破綻という新たな脅威と格闘している。経済問題はタリバンの統治に向けた新たな課題として深刻化する可能性があり、すでに権力の共有を迫る圧力となっている。
 
アシュラフ・ガニ大統領と大半の閣僚が8月15日に首都カブールを脱出して以来、アフガンに正式な政府は存在しない。それから8日目を迎えても銀行や両替所は閉まったままで、生活必需品の価格は急騰、経済活動は急停止した。
 
「人々はお金を持っているが、それは銀行に預けてある。つまり彼らの手元にはもうお金がない。現金を手に入れるのは困難だ」と、カブール在住で建設会社の経理を担当していたバヒール氏は話す。「そのため、カブールではすべての商売が停止状態になっている」

1990年代には、タリバンによる権力奪取がアフガン経済を再活性化させた。敵対し合う軍閥間の争いが終息し、交易のための道路が再開されたからだ。

その当時、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国がアフガンのタリバン政権と国交を結んだ。こうした進展がもたらした安定は、タリバンに対する評価を高めた。

しかし今回は、カブールを掌握した新政権を承認した国はまだ一つもない。こうした苦況による経済的打撃で、対立する政治勢力を取り込んだ融和的で――そして穏健な――政府の構築を、タリバンが迫られる可能性もある。
 
アフガンの元財務相、オマール・ザヒルワル氏は今週、タリバンと権力共有の協議を行うためカブールに戻ってきた。同氏は「政治的安定の回復が早ければ早いほど、現在生じつつある深刻な経済的打撃からアフガンを救い出すのも早くなる。われわれはタリバンと協力して、銀行やオフィス、省庁の再開などカブールの日常を取り戻そうとしている」と語った。
 
同氏はまた、現在の政治空白状態では、国外に脱出した経済組織の高官の後任として、現職の公務員を昇格させることが「知識のない者や国際社会から認知されていない者を新たに高官に任命するより有益だ」と付言した。
 
しかしタリバンは今のところ、こうした主張に影響されてはいないようだ。タリバンは23日、現職の公務員を昇格させるのではなく、タリバン幹部として反政府活動に長年かかわってきたハジ・モハマド・イドリス(Hajji Mohammad Idris)氏をアフガンの中央銀行の新総裁に任命した。これまで中央銀行の総裁代行だったアジマル・アフマディ氏は、8月15日に他のアフガン市民らととも脱出を図り、米軍のC17輸送機の後方スペースに逃げ込んだ。

タリバンは23日に初の経済的な命令を出し、金属スクラップの輸出を禁じた。タリバンはまた、政府職員の給与支払いを続けることと、銀行業務が「近い将来」に再開されることを発表した。(中略)
 
タリバンが国際的な制裁対象であるため、米国は既にアフガンへの送金や支援金の支払いを停止している。アフガン人の国外移住者が多く利用している2大送金事業者の米ウエスタンユニオンと米マネーグラム・インターナショナルは21日に同国への送金を停止した。送金を継続すると、米国の制裁に違反する恐れがあるからだ。
 
国際通貨基金(IMF)は先週、「現在、国際社会でアフガン政府の認知に関する透明性が欠如している」ため、同国はもはやIMFの資源にアクセスできないとの見方を示した。
 
アフガニスタンは8月23日にIMFから4億4000万ドル(約484億円)相当の特別引き出し権(SDR)を受け取る予定だった。前出のアフマディ氏によると、タリバンによる政権奪取前の時点でアフガン中銀が保有していた90億ドルの外貨準備のうち、アフガン国内で保有されているものはほとんどないという。海外支援や海外にいるアフガン人からの送金が、同国経済の主要な部分を占めている。

現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。
 
住民によると、カブールでは銀行と大半の店舗が休業しているため、携帯電話のアカウントの利用可能残高を増やすために使うスクラッチカード(プリペイドカード)が人気商品になっている。通信ネットワークの多くは部分的に海外の大手企業が保有しているが、現段階でサービスが継続されているため、同カードは額面金額をはるかに上回る価格で売れているという。
 
現在でも稼働している現金自動預払機(ATM)からの1日当たりの預金引き出し上限額は1万アフガニ(約116ドル)で、従来の3万アフガニから引き下げられていると、アフガン北部バルフ州マザリシャリフの住民、バリヤライ氏は話す。バリヤライ氏は「銀行は1カ所も開いていない。銀行は現在、ATMに現金を補充しておらず、誰も現金を得ることができない」と語った。
 
住民らによれば、小麦粉、食用油、ガスなど生活必需品の価格は50%も上昇している。依然として営業している数少ない町の両替商の交換レートによれば、アフガニは対ドルで約10%下落しており、ドルを入手するのはますます困難になっている。また、一部輸入商品は商店の棚から消えている。
 
人々はたとえお金を持っていても使おうとしない。カブール在住の政府職員、トルヤライ氏は、「人々は将来を懸念しており、資金を残しておきたいと思っている」と指摘、「彼らは今後の困難な時期のために備えておきたいと考えており、手持ちの資金を国外脱出に使うつもりだ」と語った。(中略)

カブールでは一部のレストランやコーヒーショップが営業を再開したが、ビジネスは低調だ。タリバンによる政権掌握から2日後にカブール西部で人気コーヒーショップを再開したある事業者によれば、1日当たりの客数はわずか5~10人程度だという。
 
この人物は、「店の近くの検問所の責任者であるタリバンの指揮官が店に来て、ケーキを食べ、カプチーノを飲んだ。彼は私のコーヒーを気に入っていた」と語った。
 
この事業主は「町は消滅し、人々は希望を失っている」と付け加えた。【8月24日 WSJ】
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“銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する”人々の要求にタリバンはどのように対応するのか?

そういう要求をイスラムに反するとして否定するとき、あるいは要求を満足させることができなかったとき、タリバンがとる方策は力と恐怖による支配でしょう。


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アフガニスタン・カブールからの国外退避  「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つ」 残される人々

2021-08-22 23:03:32 | アフガン・パキスタン
(国外退避を希望してカブールの空港近くに集まったアフガニスタン人ら=20日【8月22日 時事】)

【バイデン大統領「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」「最終的な結果がどうなるかは約束できない」】
米軍撤退のあり方についてのバイデン大統領への批判は国内外で多々あり、バイデン大統領の支持率も低下しています。

そのことはしっかり議論する必要がありますが、そうした議論より先に今行うべきことは、出国を必要とする人々を速やかに出国させることです。

バイデン大統領が認めているように、予想よりはるかに早かった首都陥落で事態は困難を極めています。

アメリカ国務省は21日の記者説明で、これまでにアメリカ国民約2500人を含む1万7000人がカブール空港から出国したと説明していますが、現在も最大で約1万5千人のアメリカ人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しています。

*****バイデン氏、米国民ら退避は「史上最大かつ最もな困難な空輸作戦」*****
バイデン米大統領は20日、ホワイトハウスで記者会見し、アフガニスタン駐留米軍の撤収に伴い国外退避を求める人々が首都カブールの国際空港に殺到している問題で、米国民やアフガン人通訳などの現地協力者、女性や子供らの退避に「全ての力を動員する」と強調した。

ただ、現在も最大で約1万5千人の米国人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しているとされ、混乱が続くのは必至とみられる。

バイデン氏はカブールの陥落が不可避となった14日以降、米軍機によって米国民やアフガン人ら計約1万3千人を国外に退避させたと明らかにした。これとは別に、米政府がチャーターした民間機で数千人が退避したとしている。

また、アフガンの実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの標的となる恐れが高い、米メディアのために働いたアフガン人記者や助手ら計204人について、ウォールストリート・ジャーナルなど米紙各社との連携で今週前半までに米軍機で脱出させた。

バイデン氏は「米国とのつながりを理由に標的となるかもしれないアフガン人らを安全に退避させるために力を尽くす。帰国を希望する米国人も必ず祖国に帰す」と強調した。

同氏は一方で、カブールからの国外退避は「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」と指摘し、「作戦は困難な状況下で実施されており、人的損失の恐れも含め最終的な結果がどうなるかは約束できない」とも語った。

バイデン氏によると、カブール空港では現在、米軍部隊約6000人が展開して安全確保に当たっている。

バイデン氏はまた、性急な米軍撤収が混乱を招いたとの指摘が出ていることに関し「世界の同盟諸国からは米国の信頼性を疑う声は出ていない」と反論。先進7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議の場でも、各国首脳がアフガンへの関与を同時に終了させることで合意したと強調した。

タリバンを正式政府として承認したり支援したりするかについては「米国が適用する条件は厳しい。タリバンが女性や少女、自国の市民らをどのように扱うか次第だ」と述べた。【8月21日 産経】
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【圧死者もでる空港周辺の混乱 テロの脅威も】
現地カブールの空港では押し寄せる群衆で押し潰される圧死者が出る混乱が続いています。
カブール空港は現在米軍が管理していますが、空港外には手が出せない状況となっています。

****アフガン首都、空港近くで大きな混乱 7人死亡****
英国防省は22日、アフガニスタンの首都カブールの空港近くで大きな混乱が発生し、アフガン人7人が死亡したと発表した。アフガニスタンではイスラム主義組織タリバンが権力を掌握して以降、多くの市民が国外退避を試みている。
 
英国防省報道官は、7人が「人混みの中で死亡した」と指摘。タリバンの権力掌握から1週間となる中、米国やその同盟国は、退避便への搭乗を試みる大勢の人の対応に追われている。
 
報道官は「依然として現場の状況は極めて厳しいが、あらゆる手を尽くしている」と強調した。
 
英スカイニューズは21日、白い防水シートで覆われた空港の外の3人の遺体を捉えた映像を放送した。
空港にいたスカイニューズのスチュアート・ラムゼイ記者は、集団の一部の前方にいた人々が「押しつぶされた」と報道。その他にも「脱水症状の人やおびえた人」がいたと伝えた。
 
ベン・ウォレス英国防相は大衆朝刊紙デーリー・メールに対し、米軍のアフガン撤退期限である今月31日より前に「全員を退避させることができる国はない」と語っている。 【8月22日 AFP】
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空港へ至るまでの検問所でのタリバンの妨害に加えて、タリバン敵対勢力(IS系)によるテロの危険も。

****ISIS系、カブール空港へのテロ攻撃を謀議か 米分析****
米国民らの国外退避が続くアフガニスタンの首都カブールの国際空港やその周辺で過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」系の組織によるテロ攻撃の脅威が高まり、米軍が空港へつながる新たな経路開設に動いていることが22日までにわかった。

米国防総省当局者はCNNの取材に、テロ攻撃の可能性は強いと指摘。カブールにいる上位の外交官はこの脅威の信用度は高いとしながらも差し迫った段階にはないと述べた。

代替の進入経路は国外避難を急ぐ米国人、外国人や資格要件を満たしたアフガン人に提供されるとした。
同省当局者によると、アフガンの実権を握ったイスラム主義勢力タリバンもこの代替経路の設定を把握し、米側と協力しているとした。アフガンで活動するISIS系組織はタリバンの仇敵(きゅうてき)ともされる。

米国防総省は国外退去のため人々が殺到するカブール空港周辺の状況を注視。ISIS系組織による攻撃は車爆弾、自爆攻撃や迫撃砲攻撃などの可能性があるとした。

代替経路の計画ではタリバンと協力し、人々の集まりを分散させ、大規模な群衆の出現を阻止するなどとしている。

このISIS系組織は「ISIS―K」と自称。「K」はアフガンやパキスタンなどの地域を含むとする「Khorasan(ホラサン)」を意味する。両組織はイデオロギーや戦術を共有するが、組織面や指揮系統、管理面でどの程度密接な関係にあるのかは全面的に解明されていない。

米情報機関当局者は以前、ISIS―Kの構成員にはシリアから来た経験豊富なジハード(聖戦)主義者らの少人数が含まれるとし、幹部級の工作員10〜15人を割り出したとCNNに明かしてもいた。【8月22日 CNN】
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【今月末までに全員を出国させるのは不可能との予測も】
こうした状況で、撤退期限の今月末までに希望者全員を出国させるのは「人数上、不可能だ」という認識も強まっています。

****全員退避は不可能との観測も****
カブール空港は現在、米軍が管理している。米軍は自国と他国の人々の退避を支援している。西側諸国の部隊のために働き、タリバン政権では安全が懸念されるアフガニスタン人も、支援の対象としている。

ただ、米政府は今月31日を米軍の撤退期限に定めている。その日以降に何が起こるかは不明だ。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、9月1日以降も退避の支援活動を継続できるよう、カブール空港を利用可能な状態のままにすることを、いくつかの加盟国が提案していると明らかにした。

BBCの取材では、イギリスもそうした国の1つで、数日間の延長を求めている。

各国がすべての自国民や、危険な状況にあるとみられるアフガニスタン人全員を退避させるのは不可能だとの見方も出ている。空港では行列する人たちの出国手続きに時間がかかっており、退避便の増便もうまく進んでいない。

欧州連合(EU)外務トップのジョセップ・ボレル氏はAFP通信に、アメリカが渡航許可証を持っているすべてのアフガニスタン人を今月末までに出国させるのは「人数上、不可能だ」と述べた。

また、アメリカの安全管理は厳し過ぎ、欧州諸国のために働いたアフガニスタン人が空港に入れていないと、EUとしてアメリカに「抗議した」と話した。

アメリカのジョー・バイデン大統領は20日、「帰国したいアメリカ人はすべて帰国させる」と宣言した。ただ、退避について、「損失のリスクは排除できない」とし、「史上最も大規模で困難な空輸」だとした。【8月22日 BBC】
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【ベルリン空輸当時の措置活用で民間機提供命令の検討も】
タリバンやテロの危険性もさることながら、退避が進まない根本原因は、限られた数の飛行機しか使えないという制約でしょう。

かつて第二大戦中、ドイツ軍に追い詰められた英仏軍はダンケルクの戦いで40万人の将兵をイギリスに向けて脱出させましたが、それが可能だったのは輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員することが出来たから。

内陸国アフガニスタンでは飛行機のみ。それもカブールの空港のみ。

そういう隘路を打開すべく、ベルリン大空輸当時の措置が蘇るようです。
商用民間機を提供させ、アフガニスタンからの退避者が足止めされている各国米軍基地からアメリカへの移送を行うもののようです。

****米、アフガン退避に民間機協力命令を検討****
バイデン米政権はアフガニスタンの首都カブールからの退避作戦を大幅に拡大するため、米国の主要航空会社に数万人の移送に協力させる準備を進めるとともに、アフガン人の退避者を収容できる米軍基地の数を増やす計画を立てている。
 
米政府関係者によるとホワイトハウスは、第2次世界大戦後のベルリン空輸を契機に1952年に創設された民間予備航空隊(CRAF)の制度を活用し、最大5社の航空会社に20機近くの商用ジェット機を提供させることを検討する見通し。これにより、アフガニスタンの基地からアフガン人を輸送する米軍の取り組みを助ける計画だという。
 
これらの民間機はカブールを発着することはない。民間航空会社のパイロットと乗組員がカタール、バーレーン、ドイツの米軍基地に足止めされている数千人のアフガン人などを運ぶ手助けをするという。カブールは15日、イスラム主義勢力タリバンの支配下に置かれた。
 
民間航空会社の参加は、アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減することになる。米軍と関わりを持つことでタリバンからの報復を受ける可能性のある数千人のアフガン人が、この1週間にカブールの空港に殺到。米国は空港からアフガン人を退避させる取り組みを拡大している。
 
米軍の一部である輸送軍は航空各社にCRAFの編成を指示する可能性があることを通知したと、米政府関係者は述べている。

ホワイトハウス、国防総省、商務省の関係者は、まだCRAFの使用について最終的な承認をしておらず、代替案が導入される可能性もあるという。CRAFの使用の可能性については、これまで報道されていなかった。
 
業界関係者によると、航空各社は20日夜にCRAFが発動される可能性があることを通知された。各社はまた、政府の空輸活動を支援するための自主的な取り組みについて議論しているという。(後略)【8月22日 WSJ】
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また、“アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減する”ということに関しては、避難民の収容で日本にある基地の利用もあり得るとか。

****米、カブール空港回避を勧告=避難民収容、日韓基地も候補か―有力紙*****
(中略)米メディアによると、バイデン政権や米軍は、民間機を活用した退避活動支援を視野に入れているほか、日本や韓国、ドイツなどにある米軍基地をアフガン人避難民の一時収容先候補として検討しているという。(中略)

避難民の収容に関しては、米東部ニュージャージー州の基地で仮設住宅の設営が進んでいる。同紙はこれに関し、バージニア、カリフォルニア両州などにある米本土の複数の基地に加え、日韓独やコソボ、バーレーン、イタリア各国内の米軍基地も一時収容先の候補として検討されていると報じた。(後略)【8月22日 時事】 
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【ひどく不安で不透明な未来を前にして、現地に取り残される多くの人々】
今対応に苦慮しているアメリカなど各国が自国民や協力者として認める者以外にも、身の不安を感じて出国しようと願う更に多くの人々がいます。

*****英旅券を振りかざし……脱出しようと必死の大混乱 カブール空港から****
「下がって! 下がって!」。イギリス兵士が叫ぶ。イギリス大使館が避難させた人たちが出国前に一時かくまわれた避難先の前で、集まった群衆に向かって。

兵士の前では大勢が必死の様子で、イギリスのパスポートを振りかざしていた。自分も中に入れてもらおうとして。しかしゴムホースを手にしたアフガニスタン人警備員の一団が、群衆を押し返そうとしていた。

ここに集まったほとんどの人は、自分がイギリス政府に退避させてもらえるという通知を、受け取ったわけではない。

それでも、アフガニスタンをなんとかして出国しようと必死の思いで、ここへやって来た。他方で、中には大使館からのメールでここへ集まるよう指示されてきた人たちもいる。ここへ来て、出国便の搭乗手続きを待つようにと。

その中の1人は、ヘルマンド・カーンさんだ。ロンドン西部に住むウーバーの運転手で、幼い子供たちと親類を訪れるために数カ月前にアフガニスタンに来たばかりだ。幼い息子2人が隣にいる。数冊のイギリス・パスポートを握りしめて、私に向かって突き出した。「もう3日前から、中に入ろうとしているんだ」と必死の面持ちで私に言う。

英陸軍の通訳だったハリドさんもいる。妻は2週間前に出産したばかりで、このような事態で生まれたばかりの赤ん坊が死んでしまうのではないかと、恐怖におののいている。「朝からずっとここにいる。ここへ来る途中にタリバンに、背中を鞭(むち)で打たれた」。

少し離れた場所には、この避難所への正面玄関がある。数千人がここへ来たがその大半は、本当に出国できる可能性は実際にはない人ばかりだった。イギリスの兵士たちは時折、群衆を鎮めるために空へ向かって発砲していた。

中へ入るには、なんとかして群衆をかき分けて進み、兵士たちに向かって書類を振りかざすしかない。どうにかして、入れてもらえますようにと願いながら。

米兵が警備を担当する空港のゲートは、さらに状況が混乱しているようだ。空港の、市民が使う正面玄関では、タリバンが空への発砲を繰り返し、中へなだれ込もうとする群衆を押し返している。(中略)

自分は国際的なバスケットボール選手なのだと、私に言う若い女性もいた。イギリス大使館との接触は何もないが、殺されてしまうかもしれないと恐怖にかられているという。いかにおびえているのか語ろうとして、喉が詰まり、涙声になってしまった。

タリバンは、政府と結びつきのある全員に恩赦を与えたと強調する。「包摂(ほうせつ)的」な政府を樹立するつもりだと言う。しかし、ここにいる大勢は将来を深く危惧(きぐ)している。

市内の別の場所に移動すると、情勢はもっと落ち着いている。まるで別の世界のようだ。店舗や飲食店は再開つつある。ただし、青果市場の露天商たちによると、出歩いている人たちは普段よりはるかに少ない。化粧品を売る男性は、とりわけ女性の姿がはるかに少ないと話す。通りを歩く女性は珍しくはないのだが。

他方でタリバンは至るところにいる。アフガン治安部隊から奪った車両に乗って、あちこちをパトロールして回っている。略奪や世情不安を防ぐために、市内でことさらに存在感を示しているのだとタリバンは言うし、確かにそのおかげで安心だと話す住民もいる。今や当のタリバンは、暗殺や爆弾攻撃を繰り広げていないだけに。

タリバン支配下の生活がどういうものになるのか、多くの人はまだ考えあぐねている最中だ。タクシー運転手の1人は、タリバン戦闘員の集団を市内の端から端まで乗せたという。その間、ずっと車内ステレオで音楽をかけながら。「何も言わなかったよ」と、運転手はにやりと笑顔で私に言う。「前みたいに厳しくない」。

しかし、決してそうではないという話も相次いでいる。複数の報道関係者や元政府関係者の自宅にタリバンが押し掛けて、尋問したなど。自分たちが標的にされ、攻撃されるのは時間の問題だと、大勢が恐れている。

空港近くに戻ると、英軍通訳だったハリドさんと家族は、赤ちゃん共々ついに避難施設内に入ることができた。

それでも、まだ大勢が中に入ろうとしている。1人のアフガニスタン系イギリス人が、私に協力してくれと訴えてきた。「この込み合う中を、子供たちを連れて通るわけにはいかない」のだと。

そして、イギリス政府による退避対象ではないものの、なんとしても出国しようと必死の大勢が、ここに残されることになる。ひどく不安で不透明な未来を前にして。【8月22日 BBC】
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アフガニスタン  アメリカによる価値観押しつけ失敗と中国・ロシア批判

2021-08-21 23:15:20 | アフガン・パキスタン
(大統領官邸の前で権利保護を求めてプラカードを掲げるアフガニスタンの女性【8月20日 Business Insider】)

【“赤ちゃん”は治療を受けて父親のもとへ】
最初に、世界中で反響を呼んだ昨日ブログの冒頭写真の赤ちゃんの続報。

****米兵に託された赤ちゃん、治療受け父親のもとに戻される****

首都カブールの空港で、群衆の中から赤ちゃんを壁の上に立つ米兵に託す――。SNS上で拡散した動画に映った赤ちゃんのその後について、米国防総省のカービー報道官が20日の記者会見で明らかにした。

ロイター通信が20日に配信した動画では、空港の外壁で男性が両手で赤ちゃんを担ぎ上げ、米兵に差し出す姿が映っている。米兵に片手で引き上げられた赤ちゃんは、いったん別の兵士に預けられた後、壁の向こう側へと運ばれていった。

会見での説明によると、赤ちゃんは病気を抱えていたため、親が海兵隊に託したという。赤ちゃんは空港内にあるノルウェーの医療施設に運ばれ、治療を受けて父親のもとに戻された。父親が米軍に従事した元通訳などであるかどうかは不明だという。

カービー氏は「海兵隊による人道的な思いやりの行為であり、プロ意識に基づくものだと思う」と述べた。

米軍は空港を拠点にして、市民らの国外退避を進めており、空港外には退避を求める人が押し寄せている。米政府は現地に取り残された米国人に加え、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者と家族、今後の身の危険がある立場のアフガニスタン人などを優先して退避させている。【8月21日 朝日】
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そのままアメリカに連れて行くという訳ではなかったようです。ただ、一度の治療がどれだけの効果がある状態なのか・・・。

【ヘラートでは女子生徒授業再開 今後は不透明】
アフガニスタンの権力を掌握したタリバン女性や政府関係者・兵士への報復など、懸念される事態については昨日も取り上げましたし、今日もいろんな報道がなされています。

一方で、旧タリバン政権時代とは違うことへの可能性を示す事例もあるようです。

****西部都市ヘラートで女子生徒の登校再開 タリバン制圧数日後 アフガン****
アフガニスタン西部の都市ヘラートで、白いヒジャブ(ベール)と黒いチュニックを身に着けた女子生徒らが教室を埋め尽くしている。イスラム主義組織タリバンによる制圧からわずか数日後のことだ。

学校が開き、生徒たちが学校の廊下を行き来し、中庭でおしゃべりをしている。国中をのみ込んだこの2週間の混乱を忘れているかのようだ。(中略)

イランとの国境もそう遠くなく、かつてのシルクロード沿いにあるヘラートは長年、より保守的な中部とは違い、国際色ある都市だった。女性は比較的自由に外出し、詩や芸術の分野で有名なこの都市で学校や大学に通う女性も多い。

しかし、ヘラートの今後は不透明なままだ。

1990年代のタリバン政権下では、厳格なシャリア(イスラム法)によって、女性は教育や就労をほぼ禁じられていた。また、公共の場で顔を完全に覆うことが義務付けられ、女性だけでの外出もできなかった。(後略)【8月21日 AFP】
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【パシュトゥン人の農村社会の伝統に基づくタリバンの価値観 欧米・日本の価値観とは相違】
タリバンの復権が問題となるのは、そのイスラム原理主義、あるいは、タリバンの主流であるパシュトゥン人の部族社会的価値観と、人権や自由を尊重する欧米・日本の価値観が大きく異なるためです。

****タリバンとは何者か?なぜ復活したのか?アフガン政権崩壊の裏で何が起きたのか****
(中略)(旧政権時代)タリバンは自派の厳格なイスラム解釈を押しつけたうえ、少数派シーア派を「背教徒」扱いして弾圧し、女子の学校教育をやめた。さらにタリバンが「反イスラム」「非イスラム」と考える歌謡曲を聴くことや、たこ揚げなど伝統的な遊びまでも禁止したからだ。映画の公開も禁止された。 

孤立するタリバンは国際社会に背を向け、国際社会の大勢もタリバンを「アフガンの政府」として承認しなかった。 

アフガニスタンは多民族・多宗教国家で、「アフガン語を話すアフガン人」というまとまった国民がいるわけではない。パシュトゥー語を話すパシュトゥン人が4割強で最大勢力。タジク人、ウズベク人、そして東アジア人によく似た風貌でイスラム教シーア派信者が多いハザラ人など、様々な民族がいる。(中略) タリバンはこのうち、パシュトゥン人を主体とし、パシュトゥンの農村社会の伝統を基盤とする勢力だ。

「草の根保守」なのに麻薬を資金源とする矛盾
タリバン支配の内実は、少なくともパシュトゥー語を話し農村部で暮らす中高年男性にとっては、あまり違和感がないというのが実態だ。 

というのも、 1)保守的で厳格なイスラム解釈 2)もめ事があれば長老とイスラム法学者が協議して物事を決める、伝統的かつ家父長制的で男性優位なパシュトゥン人農村社会の秩序と価値観の維持 という点において、「草の根保守」といえる部分があるからだ。 

長くパシュトゥン人が多いアフガニスタン東部で援助活動を続けた故・中村哲医師は2001年、以下のように語っている。 

「タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガン国内に入ってみると全然違う。恐怖政治も言論統制もしていない。田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです」(日経ビジネスより) 

一方でそれは、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった、日本や欧米をはじめグローバルに重視される現代的な価値観とは、相容れない部分が多い。 

非パシュトゥン人や非スンニ派信者、そしてパシュトゥン人でも家父長的で古い社会秩序から脱却したい都市部などの人々、そして女性にとっては、タリバンの存在は「恐怖と抑圧の象徴」となる。 

米軍と北部同盟(タジク人、ウズベク人勢力などによる反タリバン連合)の攻勢で2001年11月に第1次タリバン政権が崩壊しても、東部などを中心に勢力を維持できたのは、草の根の保守性に対する地元民の一定以上の支持があったからだ。 (後略)【8月17日 BuzzFeed】
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こうした価値観の違いを前提に、今回復権したタリバンは自分たちの価値観が尊重されることを求めています。

****タリバン報道官「価値観の尊重が必要」****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンの報道官は、「外国との良好な関係の見返りには価値観の尊重が必要」などと述べました。

タリバンの報道官は19日の会見で、アフガニスタンが良好な外交関係を確立し、経済を強化するのを支援するよう国際社会に呼びかけました。その上で、報道官は「外国と良好な関係を望むが、見返りには我々の価値観の尊重が必要だ」とくぎを刺しました。(後略)【8月20日 日テレNEWS24】
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また、欧米的民主主義について「土台がない」と受入れを否定しています。

****タリバン幹部、民主制を否定=「アフガンに土台なし」****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は、新たな政治体制について「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と語った。ロイター通信が18日に伝えた。2001年のタリバン政権崩壊後、民主制に移行したアフガンの政治体制が大きく変わる可能性がある。
 
この幹部は、タリバン最高指導者アクンザダ師が実権を握り、その下に置かれた評議会が統治を行うと説明。「(評議会議長に就く)アクンザダ師の副官が『大統領』の役割を果たすかもしれない」と述べた。【8月19日 時事】 
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【アメリカによる価値観押しつけの「失敗」で勢いづく中国・ロシア】
ただ、欧米・日本などからすれば、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった価値観は社会の根幹をなすものであり、これを否定する社会を「認める」というのは困難です。

今回の事態を、アメリカによる価値観の押しつけが失敗したとみなし、欧米・日本とは異なる政治体制をとる中国・ロシアは勢いづいている面もあります。

****移植された民主が長くは続かない=外交部****
外交部の華春瑩報道官は20日、北京で開かれた定例記者会見で、「アフガニスタン情勢の激変は、移植された民主主義が長くは続かないことを再び立証した。民主主義の旗印を掲げ、利益集団を作り出し、他国の内政に横暴に干渉したり、悪意をもって他国の発展やより良い生活を求める国民の権利を抑制したりすることは、最も民主主義に反する行いであり、覇権であり、独裁である」と指摘しました。
 
米国の元アフガニスタン駐在大使であるマッキンリー氏はこのほど、アフガニスタン情勢について文章を発表し、「米国式の民主主義をアフガニスタンに押し付けようとする20年間の努力は結局失敗に終わった」としました。
また、ドイツの大統領も、「カブール空港の惨状は西側諸国の恥だ」との考えを示しました。
 
これについて華報道官は「今回のできごとによって、民主的か否かを判断する基準は国民の期待や求めに応えられているかどうかによるのだということが再び裏付けられた。

中国は『人民民主』であり、米国は『金銭民主』である。中国の国民は実質的な民主を、米国民は形式上の民主を享受している。中国共産党は国や国民の利益を最優先にしているが、米国の政治家は選挙で勝てるかどうかを最も重要視している。

民主というのはただのスローガンではなく、実際に存在するものである。民主主義を国民を麻痺させるアヘンにしてはならず、他国を中傷したり、自国の覇権を維持したりする口実にもしてはいけない」と強調しました。【8月20日 CRI】
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*****ロシアがタリバンと協調姿勢 「裏庭」の安定確保 反欧米アピールも****
(中略)ロシアは従来、「欧米は自らの価値観を他国に押し付け、世界を一極支配しようとしている」とし、こうした手法が「対立と混乱を招く」と批判し、多様な政治体制が共存する「多極世界」を構築すべきだ−と主張してきた。

そのため、アフガンで米国を後ろ盾としたガニ政権にタリバンが勝利したことは、こうした主張を後押しするものとみているようだ。

ラブロフ氏は17日、「米国の最大の失敗は、数百年にわたる地域の伝統を無視し、民主主義と呼ぶ自分たちの規範をアフガン人にも押し付けようとしたことだ」と指摘した。【8月18日 産経】
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ロシア・プーチン大統領も、ドイツ・メルケル首相との会談で、同様の主張を行っています。

****アフガンに民主主義、欧米の失敗 プーチン氏が発言****
アフガニスタン情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領は20日、欧米がアフガンに民主主義を導入しようとしたことが失敗の要因だ、との見方を示した。

イスラム原理主義勢力タリバンによるアフガン掌握後、プーチン氏が公の場でアフガン情勢に言及するのは初めて。プーチン氏には欧米の「錯誤」を強調し、ロシアの影響力を相対的に高める狙いがあるとみられる。

プーチン氏は、アフガンで旧タリバン政権を崩壊させて民主主義政権を樹立しようとした米国を念頭に、「欧米の政治家は私が述べてきたことを理解したはずだ。ある国の民族構成や宗教、伝統を無視し、外部から政治規範を押し付けてはいけないということだ」と述べた。同日のドイツのメルケル首相との会談後の記者会見で発言した。

プーチン氏はかねて、欧米による民主主義の一方的な押し付けが世界に紛争や混乱を生んでいるとし、欧米は多様な政治体制や価値観を認めるべきだと主張してきた。同じ論理に基づき、ロシアなど強権国での人権侵害に対する欧米側の非難には「不当な内政干渉だ」として聞き入れない姿勢を続けている。【8月21日 産経】
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確かに、地域の伝統的価値観を無視した「押しつけ」は、問題がありますし、今回のアフガニスタンのような「失敗」ともなります。

特に、アメリカの場合、「上から目線」的な“押しつけ”があり、それにアフガニスタン政府も反発した面もあります。

なお、「押しつけ」にせよ、何にせよ、アメリカが「民主的な国家」建設にどれだけ本気で取り組んだのかは疑問があります。都合が悪くなると「我々の目的は民主的国家建設ではなく、アルカイダの壊滅である」というところに逃げ込むアメリカ歴代政権は、アフガニスタンの民主的国家建設に本気でなかった面もあります。

【「押しつけ失敗」ではあっても、価値観そのものの否定ではない メルケル首相改めて人権でロシア批判】
いずれにしても「押しつけ」と取られるような方法に問題はあったとしても、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった価値観を否定するようなタリバンや中国・ロシアの価値観を認めることにはなりません。

メルケル首相は、改めてロシアの人権侵害の非を主張しています。

****メルケル独首相、人権侵害で露非難 退任控えなお強い姿勢****
ドイツのメルケル首相は20日、ロシアの首都モスクワでプーチン露大統領と会談し、イスラム原理主義勢力タリバンが掌握したアフガニスタンや、ロシアによる主権侵害圧力に直面しているウクライナ、人権侵害が続くベラルーシなどをめぐる情勢を協議した。

9月に16年間務めた独首相を退任するメルケル氏にとって、長年の対話パートナーだったプーチン氏との最後の会談となる見通しだが、メルケル氏はロシアの人権侵害などを非難。別れのムードを演出せず、ロシアの強権主義と対峙(たいじ)する強い指導者像を示した。

会談冒頭、メルケル氏はプーチン氏に「これは別れを述べるためだけの訪問ではない。実務協議のための訪問でもある」と伝えた。

会談後の記者会見でメルケル氏は、ロシアによる反体制派指導者ナワリヌイ氏の収監は容認できず、釈放を求めたと表明。2014年のロシアによるクリミア併合はウクライナの主権侵害だとも指摘した。

さらに、ベラルーシのルカシェンコ政権による欧州への攻撃的政策を強く非難するとし、ルカシェンコ政権を支援するロシアを牽制(けんせい)した。(後略)【8月21日 産経】
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「これは別れを述べるためだけの訪問ではない」云々は、メルケル首相の面目躍如といった感も。

【国際政治的には自由主義陣営の劣勢】
タリバンの復権は欧米・日本的な価値観を否定するものではありませんが、ただ、国際政治の面で見れば、バイデン政権が掲げる「民主主義諸国vs専制主義諸国」において手痛い「失点」ではあるでしょう。

****アフガニスタンで敗北したのは、自由主義諸国全てである 膨大な人命と巨額援助の末に...*****
(中略)
自由主義陣営は劣勢にある
米軍撤退の是非や、その方法について、米国内では議論が起こっているようだ。間違いだった、拙速だった、稚拙だった、様々な評価がありうるだろう。いずれにせよ、受け止めなければならないのは、敗北の事実だ。

代わって中国がタリバンと蜜月関係を築いて一帯一路の影響圏をアフガニスタンに広げる。アメリカと敵対するロシアやイランも、タリバンによるアメリカの影響力の駆逐を歓迎している。

「クアッド」でアメリカと結ばれたインドの影響力が、アメリカの撤退によってアフガニスタンから消滅することを、パキスタンは喜んでいる。

アフガニスタンからの撤退は、バイデン政権が見通す「民主主義諸国vs専制主義諸国」の世界において、自由主義陣営の退潮を象徴する事件だ。自由主義諸国は、明らかに劣勢にある。

アフガニスタンからの撤退は、自由主義陣営の防衛ラインの修正にすぎない、とは言えるだろう。だが果たして防衛ラインは、どこまで後退していくのか。見定められない不安が漂う。

果たして自由主義諸国は、劣勢を余儀なくされたまま、国際秩序の担い手としての立場も放棄していくことになるのか。
まずは、アフガニスタンにおける敗北を認め、自由主義陣営の劣勢を認めよう。現実をふまえた新しい構想を始めるのは、それからだ。【8月17日 篠田 英朗氏 SAKISIRU】
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アフガニスタン 変わらぬタリバンの実態 大量難民を警戒するトルコ・欧州

2021-08-20 22:25:51 | アフガン・パキスタン
(カブールの空港で19日、赤ちゃんを助けてもらおうと壁上の米兵に託す男性。SNSの動画から=ロイター【8月20日 朝日】)

【カブール空港の混乱 「せめて子供だけでも・・・」】
アフガニスタン・カブールでは米軍への協力などに対するタリバンの報復を恐れる多くの人々が出国しようと試みていますが、表向きは“反対勢力に報復をしない”という融和姿勢を表明しているタリバンによる妨害にあっているようです。

****タリバン、空港周辺に検問所 アフガン人退避「妨害」か****
アフガニスタンの首都カブールでは、同市を制圧したイスラム主義組織タリバンが空港周辺に検問所を設置し、国外退避者向けの便に搭乗しようとする人々を妨害しているとの懸念が高まっている。米国は、安全なアフガニスタン人の国外脱出を要求した。
 
15日にタリバンがカブールを制圧して以来、数万人のアフガン人が国外退避を試みている。タリバン幹部らはここ数日、反対勢力に報復をしないことを繰り返し誓い、寛容な印象を与えようとしてきた。
 
しかし米国は18日、タリバンが米国やその同盟国に協力したアフガン人の国外退避を許可するという誓約を放棄していると指摘。ウェンディ・シャーマン米国務副長官は記者会見で、「タリバンが公約や米政府への誓約に反し、出国を望むアフガン人が空港に到達できないよう妨害しているという情報がある」と説明し、「タリバンには、国外退避を望むすべての米国民、すべての第三国民、すべてのアフガニスタン人を安全に、いやがらせ行為に及ぶことなく出国させることを期待する」と述べた。 【8月20日 AFP】
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そうしたなかで、「せめて子供だけでも・・・」という切なく絶望的な光景も。

****せめて子どもだけでも 殺到の群衆、米兵に赤ちゃん託す****
イスラム主義勢力タリバンの支配から逃れようと人々が殺到している首都カブールの空港で、赤ちゃんを壁の上に立つ米兵に託す動画がSNS上で拡散し、注目を集めている。
 
ロイター通信が20日に配信した動画では、空港の外壁に詰めかけた男性が両手で赤ちゃんを担ぎ上げ、米兵に差し出す姿が映っている。米兵に片手で引き上げられた赤ちゃんは、いったん別の兵士に預けられた後、壁の向こう側へと運ばれていった。19日に撮影された動画だという。
 
また同通信は、19日にも別の動画を配信。小さな女の子が男性に持ち上げられ、米兵に引き渡される様子が映されている。「タリバンの復権を恐れる人々の絶望感を捉えている」と伝えている。
 
アフガニスタンでは15日に政権が崩壊。タリバンが権力を掌握しているが、カブールの空港では約5200人の米軍部隊が安全を確保し、退避作戦を行っている。

国務省が19日時点で発表した情報では、これまでに空港から国外退避させた人数は約7千人。さらに6千人が手続きを終えて出発を待っている状況という。
 
ただ、米軍が退避の対象にしているのは米国人のほか、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者や家族らで、大半の住民に脱出の手段はない。ロイター通信によると、退避を求める数千人の住民らが空港周辺に詰めかけているという。【8月20日 朝日】
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【報復、女性の権利制限・・・融和姿勢表明と異なる実態】
“反対勢力に報復をしない”という件に関しては、タリバンは民家を一軒一軒回り、米軍などの協力者や、アフガニスタン政府の関係者を捜索しているといった異なる実態も報じられています。

****タリバン、米国への協力者捜索を「強化」 国連文書*****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが、米軍と北大西洋条約機構軍に協力した人々の捜索を強化しているとみられることが、AFPが入手した国連の機密文書から明らかになった。タリバンは、反対派への報復はしないと誓約していた。
 
文書は18日付で、国連機関に情報提供を行うノルウェー国際分析センターが作成。それによると、タリバンは身柄拘束を目指す人々の「優先順位リスト」を作成している。特

にアフガン軍や警察、情報機関で中心的な役割を担った人々が危険な状況に置かれており、タリバンは対象人物やその家族に「対象を絞った戸別訪問」を実施しているとされる。
 
さらにタリバンは、首都カブールの空港に向かう人々に対し検問を実施。同市のほか、ジャララバードなどの主要都市でも検問所を設置しているという。
 
RHIPTOのクリスチャン・ネルマン所長は「タリバンは出頭を拒否する人の家族を標的とし、『シャリア(イスラム法)にのっとり』起訴したり罰したりしている」とAFPに説明。「NATO軍と米軍、その同盟国にかつて協力した人とその家族の両方が拷問・処刑される」恐れがあると語った。 【8月20日 AFP】
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報告書によれば「タリバンは前政権の全ての関係者と協力者の洗い出しを強化しており、家族と共に逮捕し、タリバン独自のイスラム法(シャリーア)の解釈に基づき罰している」【8月20日 ロイター】とのこと。

また、タリバンは「イスラム法の範囲」で女性の就労や教育の権利を保障する方針を示していますが、その実態は従前の旧タリバン政権時代と大差ないのではという疑問も。

****アフガン女性キャスター強制的に降板 情報統制強める気配も****
武装勢力・タリバンが制圧したアフガニスタンで、女性と子どもへの抑圧が懸念される中、国営放送の女性キャスターが出社を拒否され、番組を強制的に降板させられた。

国営放送のキャスター「『政権が変わった。仕事はさせられない』そうタリバンに言われた。私の命が脅かされています。世界の皆さん助けてください」

ツイッターに動画を投稿したのは、アフガニスタンの国営放送の女性キャスターで、国営放送では、女性キャスターの代わりに男性キャスターが出演するようになった。

リバンは、首都カブールを制圧した直後、現地のテレビ局で、タリバンの幹部が別の女性キャスターと番組に出演するなど柔軟な姿勢を示していたが、権力を掌握して1週間足らずの間に様相が変わりつつある。

また、カブール市内を取材する海外のメディアクルーが、タリバンの兵士に暴行の被害を受けるなど、現地では情報の統制を強めようとする気配が強まっている。【8月20日 FNNプライムオンライン】
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旧タリバン政権下では女性の就労や女子生徒の通学を禁じており、親族男性と一緒でなければ女性単独の外出も出来ませんでした。今回も、それに類するようなことがタリバン支配地域で起きているとも報じられています。

旧タリバン政権下では、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられてもいました。

【大量難民発生の懸念 警戒する受入国側 トルコ:イラン国境に壁建設 仏マクロン大統領:「EUだけでは手に負えない」】
タリバンの融和姿勢が「みせかけ」「国際社会に向けたポーズ」にすぎない、昔と実態は変わらないとなると、今後大量の難民が発生することが懸念されます。

すでにイラン国境には難民が押し寄せています。

****タリバン制圧のアフガニスタン イラン国境に押し寄せる避難民****
イスラム主義組織タリバンに制圧されたアフガニスタンから逃れようと、イランとの国境に19日、避難民が多数押し寄せた。
 
イラン南東部シスタンバルチスタン州に面する国境地域では、イラン赤新月社のメンバーやイラン兵士らが、避難民に食べ物や飲み物を手渡す様子も見られた。 【8月20日 AFP】
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もちろん第一義的には難民となる人々の悲惨な状況が問題となりますが、受入国にとっても人道的な立場と、難民がもたらす社会・政治的な問題の板挟みで苦慮される問題となります。

****(アフガンの衝撃 9・11から20年)難民受け入れ、割れる判断*****
アフガニスタンをイスラム主義勢力のタリバンが掌握したことを受け、欧州などが難民への対応で揺れている。支配から逃れた人々が多く押し寄せれば、「難民危機」の再来となりかねないためだ。アフガン国境に接する国々も備えを急いでいる。

 ■英・カナダ、2万人 独仏、「危機」再来を懸念
英政府は18日、アフガニスタンからの難民らを、最大2万人受け入れる方針を発表した。年内に受け入れる5千人は人権侵害を受ける危険性が高い女性や宗教の少数派などを優先する。ジョンソン首相は声明で、「家族とともに安全に暮らせるよう道筋を示せたことを誇りに思う」と述べた。
 
カナダも2万人の難民を受け入れると発表。トルドー首相は15日、「女性や少女、性的マイノリティーの人びとに対する我々の関与は揺るぎない」と語った。
 
タリバンは融和的なイメージを打ち出すが、国際機関は人権侵害などが報告されているとしている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の現地代表バンビューレン氏は18日、「彼らを見捨ててはならない」と訴えた。女性への人権侵害も報告されているとし、強制送還しないよう各国に呼びかけている。
 
ただ、欧州連合(EU)各国は2015年にシリアなどから100万人超の難民が欧州に押し寄せた「難民危機」の記憶が残る。各地で反移民・難民を掲げる右翼ポピュリズムが盛り上がるきっかけとなった。
 
ドイツのメルケル首相は16日の記者会見で「過去に犯した過ちを繰り返してはならない」。アフガニスタンの近隣国や国際機関への援助を通じ、難民の滞在場所を確保することで、無秩序に流入した「危機」の再来を防ぎたいとの考えだ。
 
フランスのマクロン大統領は受け入れに消極的だ。16日の演説で「不安定なアフガン情勢は欧州への不法移民の流入を引き起こす恐れがある」と指摘。移民や難民が通過するイランやトルコに協力を求める考えを示した。これまでも「移民の受け入れは政治的にもたない」などと述べており、国内外から批判を浴びた。

 ■トルコ、国境に240キロの壁建設
アフガニスタンと約2700キロの国境を接するパキスタン。現地からの報道によると、アフガン側の混乱で一時閉じられていた国境が再び開き、大勢が国境を越えて来始めている。1979年の旧ソ連によるアフガン侵攻以来、アフガン難民を受け入れ、今も300万人以上が滞在するとみられる。今月訪米した政府高官は「これ以上の受け入れ能力はない」と難色を示したと報じられている。
 
同じく約900キロの国境を接するイランの内務省当局者は15日、地元メディアに「アフガン難民が来た場合は受け入れる」と明言した。イランも300万人余りのアフガン出身者を抱える。一部の公用語が似ているなど共通点が多く、イラン政府はアフガニスタン人を「血縁」と呼び、難民の保護を通じて人道配慮の姿勢をアピールしてきた。
 
ただ、アフガン出身者が差別的に扱われたり、戦闘員としてシリア内戦に駆り出されたりする例も報じられている。よりよい生活を求める難民が、トルコやその先の欧州を目指す流れができている。
 
トルコ側では、密入国者の大量流入に備えて500キロ超に及ぶイランとの国境沿いに壁の建設を始めた。地元メディアによると壁の全長は約240キロを予定。150キロの建設を終えているという。

国境に面する東部ワン県の知事は、7月中旬の10日間で密入国者1456人を拘束したと発表。8月にも400人以上が拘束され、多くがアフガニスタン人だとみられる。【8月20日 朝日】
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トルコでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、大量難民流入はエルドアン政権にの基盤を揺るがすことにもなりかねません。

****トルコ、アフガン難民流入を懸念 空港警備も見直し****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが実権を掌握したのを受け、トルコがアフガンからの難民流入に神経をとがらせている。

トルコはすでに、内戦下のシリアなどからきた約370万人の難民を抱える「世界最大の難民受け入れ国」(国連)。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、エルドアン大統領は政権を揺さぶる要因になりかねないとして対応に躍起になっている。

トルコのアカル国防相は15日、イランと国境を接する南東部を訪れ、難民流入を防ぐ壁の建設状況を視察した。トルコのメディアによると壁は全長約300キロの予定だ。アカル氏は、夜間も暗視スコープなども使い、流入阻止に全力を挙げる姿勢を強調した。

トルコはアフガンと国境を接していないが、イラン経由の難民流入を警戒している。トルコ内務省は7月中旬、イラン国境周辺でアフガン人を中心に1500人近くの不法移民を発見、逮捕。米メディアは今月中旬、トルコ当局者がイランを「アフガン難民をトルコ側国境に送っている」として非難したと報じた。

トルコ国内に約12万人いるとされるアフガン難民のさらなる流入をトルコが恐れるのは、「安い給料でも働く難民に仕事が奪われる」として国民の反発が強まっているからだ。

ロイター通信によると首都アンカラでは今月上旬、トルコとシリアの若者が衝突して1人が死亡し、シリア人の店舗や家が襲撃される事態に発展。多数の難民が身の危険を感じ、トルコの人権団体に相談しているという。

在トルコの男性記者(55)は「エルドアン氏がトルコ民族主義を鼓舞したことが、難民への攻撃が起きる要因になっている」とし、同氏の政策が招いた結果との見方を示した。(後略)【8月19日 産経】
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トルコのその先には欧州が。
EU・欧州委員会のヨハンソン委員は加盟国に受入れを要請しています。

****アフガン難民受け入れ要請=EU加盟国に―欧州委員****
欧州連合(EU)欧州委員会のヨハンソン委員(内務担当)は18日、イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタン情勢をめぐって声明を出し、「差し迫った脅威」にさらされているアフガン人を保護するため、難民の受け入れ拡大をEU加盟国に要請したと明らかにした。
 
欧州では、タリバンから逃れた大量の難民・移民流入への警戒が高まっているが、ヨハンソン氏は記者やNGOスタッフ、人権活動家などを挙げ「見捨てることはできない」と強調。「女性や少女たちが特に危険な状況にある」と訴えた。
 
一方、ヨハンソン氏は「密航業者による安全ではない非正規のルートを通じて人々がEUに向かうのを防がなくてはならない」とも指摘。アフガン国内の避難民支援や近隣国との連携で、欧州流入を未然に阻止する必要性を主張した。【8月19日 時事】
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しかし、前出記事にもあるように、独仏は慎重姿勢。フランス・マクロン大統領は消極姿勢への国内批判に発言がねじ曲げられているとして評論家を非難。「フランスは、極めて危険な立場にいる人たちを保護する責務を果たしており、これからも果たし続ける」と述べてはいますが・・・。

****アフガン難民危機がくる、「EUだけでは手に負えない」(マクロン)****
<突如、実権を掌握したタリバンの支配を恐れるアフガン人が、国外へ逃れてくる。2015年のシリア難民危機以来の対応を世界は迫られることになる>

(中略)(EU)加盟国の外相は8月17日に緊急会合を開き、タリバンの政権掌握がもたらす安全保障面の影響について議論した。EUの推計によると、2015年以降、難民申請を行ったアフガニスタン国民は約57万人に達する。シリア難民に次ぐ大規模な集団だ。

8月16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、仏独をはじめとする欧州各国は共同で、難民認定はできない不法移民の新たな大波に「確固たる対応」をするとしながら、「欧州だけでは責任を負えない」と付け加えた。

背景には、厳格なイスラム主義組織であるタリバンの支配を恐れるアフガニスタン人が、大量の難民となって流出するという危惧がある。

ドイツのハイコ・マース外相は緊急会合の主要議題は、アフガニスタン在住のEU市民およびEU関連施設で働くアフガニスタン人スタッフの国外退避、タリバンへの対応、そして、アフガニスタン難民が大量に逃れてきた場合いかにして地域の不安定化を防ぐかだ、と語った。

「我々は、事態の進展を注視している。現在アフガニスタンで権力を行使している者たちの正当性は、その行動によって判断される」と、マースはベルリンの記者団に語った。「とりわけアフガニスタン周辺地域の安定化は重要だ。近隣諸国がさらなる難民の流入に直面するのは確実だからだ」

欧州の国々は、2015年にシリア内戦から逃れた大量のシリア難民が押し寄せた時の危機の再燃を懸念している。2015年の欧州難民危機では、主にシリアとイラクからゆうに100万人を超える移民が押し寄せた。対応をめぐって各国の足並みは乱れ、EUの団結にとって最大級の危機が発生した。

マクロンは、難民の波に対する「確固たる対応」は、アフガン難民が途中で通過するであろうトルコを含む各国との協調による取り組みになると述べた。(中略)

ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめとするドイツ政界のトップは16日、新たな大量難民が発生する可能性を警告。アフガニスタンの隣国のイランやパキスタン、あるいは北部で国境を接するウズベキスタンやタジキスタンがより多くのアフガン難民を受け入れられるよう、これら近隣諸国を支援すると表明した。

「アフガニスタンの難民が向かう先としてまず考えられる近隣諸国をサポートする取り組みだ」と、メルケルは記者団に述べた。

国連の関連機関である国際移住機関(IOM)によるとアフガニスタンでは、2021年だけで40万人近くの人が家を追われている。さらに、生活を援助に頼る人の数も500万人以上に達しているという。

IOMは、アフガン難民が流入するであろう国々に、難民申請が却下された場合でも、彼らの本国送還に猶予期間を設けるよう呼びかけている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「イランやパキスタンには、数十年にわたり、全世界のアフガニスタン難民の大多数をひろく受け入れてきた実績がある」と指摘、他の国がより多くの負担を負うよう呼びかけている。
【8月18日 Newsweek】
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アフガニスタン  タリバンへの抵抗を続ける「パンジシールの獅子」故マスード司令官の息子

2021-08-19 23:20:19 | アフガン・パキスタン
(故アフマド・シャー・マスード元国防相の息子、アフマド・マスード氏(2019年8月25日撮影)【2019年9月3日 AFP】)

【新体制準備進めるタリバン】
昨日ブログでも取り上げたように、アフガニスタンで権力を掌握したイスラム原理主義タリバンは、現時点では一定に女性の権利などにも配慮した融和的な姿勢を「公式」には見せています。

ただ、その融和姿勢がタリバンの兵士たちに理解されているのか、タリバンを構成する強硬派勢力も同意しているのか、単なる国際社会向けのポーズに過ぎないのでは・・・・といった疑問も。

公式的な融和姿勢を疑わせるような現実も各地で報じられています。

そうしたなかで、タリバンは新体制づくりを進めています。

****タリバン、新体制準備進める=柔軟路線強調、衝突も発生―アフガン****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は18日も、新体制樹立に向けて崩壊したアフガン政府有力者との会合を続けた。17日の記者会見では国際社会による政権の承認を期待し、柔軟姿勢を強調。一方、一部地域ではタリバンへの抗議行動で衝突も起きた。
 
タリバンの動向をめぐっては、ナンバー2のバラダル師が17日にカタール・ドーハから帰国。18日には別のナンバー2の1人、シラジュディン・ハッカニ氏の弟がカルザイ元大統領らと首都カブールで会談した。
 
ロイター通信は18日、タリバン関係筋が「新体制に旧政権のメンバーを入れるかどうか話すにはとても時期尚早だ」と語ったと伝えた。
 
タリバンの広報担当者は17日、カブールで開かれた記者会見で、「全国民への恩赦」やイスラム法の枠内での女性の権利保障などを説明。2001年に崩壊するまで恐怖で支配した旧タリバン政権との違いをアピールした。
 
ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立しており、新政権が樹立されても地方の組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。
 
新たな支配地域では既に、女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。東部ジャララバードでは18日、タリバンに抗議する市民のデモがあり、タリバンの戦闘員と衝突、少なくとも3人が死亡した。カブールでも美容室の外に掲げられた女性の絵を黒く塗りつぶす市民の姿が見られた。【8月18日 時事】 
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タリバンの権力中枢に関しては謎に包まれていますが、3人の副指導者による集団指導体制とも報じられています。

****謎に包まれたタリバン 3人の副指導者が集団指導****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンは組織形態は不明な部分が多い。最高指導者のアクンザダ師は精神的指導者という側面が強く、3人の副指導者や指導者評議会が牽引(けんいん)する集団指導体制をとっている。

アクンザダ師はもともとは宗教学者で戦闘経験は乏しいもようだ。2016年に3代目の最高指導者に指名された。タリバン政権期(1996〜2001年)の最高指導者、オマル師(故人)も表舞台には出ておらず、周辺の人物が組織を動かしたという点では恐怖政治を敷いたタリバン政権期と変わっていない。

副指導者のうち、バラダル師はタリバン共同創設者で、対外窓口であるカタール政治事務所代表。ハッカニ師は最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」(HQN)を率いる。HQNは独自にテロ攻撃を繰り返しており、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘されている。ヤクーブ師はオマル師の息子だ。

指導者評議会のメンバーの詳細は不明だが聖職者らで構成され、パキスタン南西部クエッタに拠点を置くとされる。その下に10以上の分野別の委員会があり、実務に当たっている。【8月19日 産経】
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3人のうち、オマル師の息子ヤクーブ師は名誉職みたいなものではないでしょうか。
バラダル師は対米交渉も担ってきた存在ですから、一定に国際常識への理解もあると思われます。
問題は融和的な姿勢に最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ師が今後とも協調するのか・・・というところ。

タリバンは、今後の政治体制については、「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と民主制は否定しています。

【公表された融和姿勢とは相容れない実態も】
こうした状況で、冒頭記事にもあるように、公式的な融和姿勢にそぐわない実態、国民の不安・抗議も報じられています。

****タリバン、民主主義を否定 各地で抗議デモ****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの幹部は19日までに、新たな政治体制では「民主主義的な制度は全く存在しなくなるだろう」と語った。タリバンが民主的な体制を否定したことで、旧タリバン政権(1996〜2001年)と同様に極端なイスラム法解釈に基づく恐怖支配が復活する懸念が高まっている。

タリバンのハシミ幹部がロイター通信のインタビューに応じた。ハシミ幹部は「どんな政治体制を採用するかは議論しない。イスラム法に基づくことが明白だからだ」と強調した。

指導体制については、最高指導者のアクンザダ師が率いる「統治評議会」が政権運営を担い、大統領は3人の副指導者から選出される可能性を示した。タリバンは国内の全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと表明したが、どこまで実現するかは不明だ。

19日はアフガンの英国からの独立記念日だったこともあり、国内各地でタリバンに反発する市民がアフガン国旗を掲げ、抗議デモを行った。

東部アサダバードではデモ隊にタリバン戦闘員が発砲し、複数人が死亡。東部ジャララバードでも18日、市民が銃で撃たれ、少なくとも3人が死亡、10人以上が負傷した。

自ら「暫定大統領」であることを宣言したガニ政権のサレー第1副大統領は抗議活動への支持を表明し、タリバン支配に反対する勢力の結集を目指している。

大統領として国外に脱出したガニ氏はアラブ首長国連邦(UAE)に滞在していることが分かり、18日にビデオメッセージを公表。アフガン出国は「逃亡ではない」とし、近日中の帰国を目指す意向を示した。【8月19日 産経】
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****アフガン女性抑圧の懸念高まる 国連や米欧、タリバンに懐疑の目****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが20年ぶりに政権を掌握し、女性が再び抑圧される懸念が高まっている。かつてのタリバン支配の時代には女性の就学や就労が禁じられ、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられた。

タリバンは「イスラム法の枠内で女性も学び働ける」と強調するが、国連や米欧諸国は「行動が伴うか注視する必要がある」と懐疑的だ。(中略)

一方で、AP通信は13日に北部タハルの教師の話として「男性の付き添いなしでは市場に買い物にいけなくなっている」と報道。ロイター通信も同日、7月初旬の話としてカンダハルの銀行で働く女性9人をタリバンの兵士が自宅まで送り届け、親戚の男性が代わりに働くので女性たちは職場に戻らないようにと伝えたと報じた。
これらは1996〜2001年のタリバン統治時代への「後戻り」の予兆だと警戒されている。

当時、女性はイスラム法の厳格な解釈によって就労できず、外出するときには男性の親族が付きそうことが義務づけられていた。少女は就学を許されず、女性は全身を覆うブルカを着なければいけなかった。

(中略)(旧タリバン政権崩壊後)04年にイスラム教と民主主義を両立させる新憲法を採択し、大統領選を実施。親米政権の下でアフガンの女性は就学・就労の機会を得て、大学に通い、政府や企業で働き、国会議員も誕生した。

タリバン報道官は、首都カブール制圧後初めて開いた17日の記者会見で、女性は教育、医療、雇用に関する権利を維持し、イスラム法の枠内で「幸せ」に暮らすだろうと述べた。女性が進行するニュース番組に出演し「新生タリバン」を印象づける演出もみせた。

しかし、現地の女性にとって抑圧的なタリバンの記憶こそ生々しい。国連報告によれば、米軍の撤退方針に伴いタリバンが支配下に入れた地域から逃げ出した人は今年5月末以降25万人に上り、その8割が女性と子供だった。写真家のラダ・アクバさんは首都カブールが制圧された15日、「人生で最悪の日だ。目の前で愛する国が崩壊した」とツイッターに投稿した。

産経新聞通信員の取材によると、タリバン支配地域の一部では構成員が女性の単独での外出を禁止した。既に国営テレビのキャスターも女性から男性に変更された。

北東部ファイザバードに住む女性は「かつてのタリバン政権もイスラム法の名のもとに恐怖政治を敷いた。到底安心できない」と懸念を強めている。【8月19日 産経】
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****民主制否定、各地でトラブル=タリバン新体制に懸念―アフガン****
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが全権を掌握してから19日で5日目を迎えた。タリバンは当初、国民融和や女性の権利を一定程度認めると宣言。しかし、幹部が民主制を否定したり、市民の国外脱出を妨害したりする実情が次第に明らかになってきた。新体制樹立に向け懸念が強まっている。
 
タリバン幹部は、ロイター通信のインタビューで、新政権では「民主制は全く存在しなくなるだろう」と指摘。タリバン幹部で構成する評議会が国の運営に当たると説明した。タリバンは当初、全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと明言していたが、タリバンが権力中枢を握る構想を持っていることが露呈した。
 
18日には東部ジャララバードで、タリバン統治に抗議するデモの参加者とタリバン戦闘員が衝突。少なくとも3人が死亡した。ロイターによると、19日にも東部アサダバードで、独立記念日の集会で国旗を振っていた人々にタリバン戦闘員が発砲、混乱の中で複数人が死亡した。タリバンと異なる意見を持つ人々の扱いが不安視されている。
 
タリバンは戦闘員に犯罪行為の禁止を再三呼び掛けてきたが、末端の戦闘員まで規律が浸透していない様子も伝えられている。地元民放トロTVは18日、タリバンによる首都カブール制圧後、自動車の窃盗事件が頻発していると報道。タリバン戦闘員の関与が疑われており、車を盗まれた住民は「タリバンの名の下で盗みを働いた者たちは逮捕されなければならない」と訴えた。
 
こうしたタリバンの実態が伝わるにつれ、国外脱出を望む国民はさらに増加。しかし、タリバンはカブールの国際空港周辺で検問を実施し、アフガン人の空港入りを厳しく制限している。シャーマン米国務副長官は18日の記者会見で、アフガン人が安全に出国できるようタリバンと協議中だと述べた。【8月19日 時事】 
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【タリバン支配に抵抗する故マスード司令官の息子とサーレ第1副大統領】
タリバン側は「団結」を呼びかけています。

****タリバンが声明、「団結」呼び掛け****
イスラム主義組織タリバンは19日、声明を発表し「傲慢な超大国の米国も抵抗に屈して撤退を余儀なくされた。イスラム制度による統治のため、団結しなければならない」と呼び掛けた。【8月19日 共同】
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「あっけなく総崩れ」したガニ政権でしたが、未だタリバン支配を認めず、軍事的にも抵抗する勢力も存在するようです。

タリバンが「団結」を訴える背景には、国際的承認を求めるための配慮、国民の抗議・不安といったものもさることながら、そうした明確な軍事的抵抗行動が全国への飛火を警戒していることもあるのでしょう。

アフガニスタンで人口が2番目に多いタジク系住民が暮らすパンジシール州は、タリバンと戦った故マスード司令官の故郷でもありますが、アフガニスタンの第1副大統領だったアムルラ・サーレ氏(タジク系)が同州に潜伏し、ツイッターで「暫定大統領」に就任したと宣言していると報じられています。武装闘争の準備を急いでいるとも。

このパンジシール州の抵抗が注目されるのは、故マスード司令官の故郷ということです。

歴史に「たら、れば」は無意味かも知れませんが、ソ連進攻・旧タリバン政権にも抵抗を崩さず立ち向かった「パンジシールの獅子」こと故マスード司令官が暗殺されることがなければ、アフガニスタンの歴史は大きく変わり、今のようなタリバンの復活もなかったかも・・・。

****アフマド・シャー・マスード****
パンジシールの獅子
1975年、帰国してパンジシール渓谷に本拠地を築き、1979年のソビエト連邦のアフガニスタン侵攻後は反ソ連軍ゲリラの司令官となり、ソ連軍にしばしば大きな打撃を与えた。ソ連軍の大規模攻撃をも撃退し、「パンジシールの獅子」と呼ばれた。

1988年7月、マスードはソ連軍捕虜を自発的に解放し、ソ連軍の撤退を妨害しないことを約束した。このことはマスードに対するソ連側の心象を良くし、後にロシアが北部同盟を支援する動機ともなった。

1992年にムジャーヒディーン勢力が首都カーブルを占領し、ラッバーニー政権が誕生すると、そのもとで国防相、政府軍司令官を務めた。

その後、ラッバーニー政権が崩壊しターリバーンが勢力を拡大すると、ターリバーンに対抗する勢力が結集した北部同盟の副大統領・軍総司令官・国防相となった。

ターリバーンがアフガニスタンを支配すると、北部同盟の勢力圏はアフガニスタン北部山岳地帯に限られたが、領土としてはアフガニスタンの約10%、人口としては30%程度を掌握していた。(中略)

綱紀やイスラムの教えに厳格だったが、その人柄と軍事的才能から北部同盟の兵士達には強い信頼を得ていた。インタビューではアフガニスタンでの戦乱を平和的な会話によって解決し、民主的な政権が誕生することを望む発言をしている。1996年のタリバーンによる首都カーブル包囲の際には、これ以上首都や民衆に被害を及ぼす訳にはいかないとして撤退している。

大の読書家で、好きな作家はヴィクトル・ユーゴーであり、また、反共主義者にも関わらず、毛沢東の作品から多くを学んだと公言している。1997年時には、寝る間も惜しみ読書に時間を割いていたため、1日の睡眠時間はおよそ2時間程度だった。【ウィキペディア】
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息子アフマド・マスード氏も父の志を継いだようです。下記は2年前、トランプ前政権がタリバンと交渉を行っていた頃の息子アフマド・マスード氏に関する記事です。

****タリバン復活の懸念に立ち上がる 「パンジシールの獅子」の息子 アフガン****
(中略)
■「何も守ってくれない」
マスード氏が見通しているように、米政府とタリバンの和平協議では、絶対権力の獲得が常に目標とされる勝者総取りのあしき制度があるアフガニスタンの政治機構の欠陥に取り組むことは不可能だ。その代わり、イスラム過激派運動の粘り強さが報われることになるだろう。(中略)

マスード氏は、米国がタリバン以外のアフガン勢力を排除した和平協議で、あまりにも性急にタリバンに譲歩していると考えている。それにより、米軍撤退後に生じる空白地帯にタリバンが影響力を拡大させる準備をさせてしまっていると指摘する。

「今起きていることは、米国とタリバン、地域大国とタリバンの間のことだ。アフガニスタン国民はどこにいるというのだろうか?」
 
米国はタリバンとの交渉について、あくまでアフガニスタン政府とタリバンとの協議に付随するものであり、アフガニスタンの問題は「アフガン内の対話」でしか解決できないと主張している。
 
だが、米軍が慌てて撤退すれば、腐敗がまん延し統率力のないアフガニスタンの治安部隊は崩壊しかねないと、マスード氏は警告する。米軍撤退に先立ち、すでにパンジシールなど各地でさまざまな勢力や民兵らが再武装、再結成する動きが出ているという。「残念ながら、アフガニスタン政府にはタリバンとの戦闘を続ける能力がない」とマスード氏は言う。(後略)【2019年9月3日 AFP】
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息子アフマド・マスード氏は、当時から現在の混乱が起きることを予測し、準備も行ってきたようです。
ただ、孤立無援のなか、どこまで抵抗が続くのか・・・。
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アフガニスタン  融和姿勢を見せるタリバン 20年間で変わったのか? 変わっていないのか?

2021-08-18 22:47:59 | アフガン・パキスタン
【タリバン関係者がTV放送で女性キャスターのインタビューを受ける】
アフガニスタンでタリバンが実権掌握したことに関しては、
タリバンはどういう統治を行うのか? 女性の権利は? 報復は?
国際社会はタリバン支配にどのように対応するのか? 支配を承認するのか? 人道支援は?
タリバン支配を恐れて国外に脱出する人々をどのように受け入れるのか?
アフガニスタン撤退の混乱は、アメリカ・バイデン政権にどのような影響を与えるのか?
等々、多くの視点からの問題があります。

まずは、一番目の“どういう統治を行うのか?”というあたりから見ていきます。
その統治内容によっては、他の問題も大きく影響されます。

2番目の“国際社会の対応”も、タリバンがどういう統治を行うかによって大きく変わりますし、そこを見極めてから動こうとする国も多いでしょう。

また、タリバンからすれば、国際社会からの承認を得て、資金的な支援を得るためには、統治内容についても一定に国際社会が納得する形で無ければならないということにもなります。

更には、統治のあり方によっては、今後多くの難民を生むことになり、受け入れ態勢が必要になります。
また、バイデン政権にとっても、撤退の結果生じたタリバン支配の実態によって、撤退の評価も変わってきます。女性の権利が再び奪われる、多くの報復が行われることになれば、撤退政策がよかったのか?という疑問を惹起します。

一言で言えば、「今の段階では」タリバン指導部は、旧タリバン政権時代とは異なる融和的な姿勢を見せています。

17日には、タリバン関係者が女性キャスターのインタビューを受けるという、これまでからすると極めて“珍しい”光景がテレビ放映されました。

この中で、タリバン関係者は「イスラム法の範囲内で」という条件を付けた上で、「女性は統治機構に参画すべきだ」として、女性を公職から排除しない考えを明らかにしています。

上記放送では女性キャスターは顔全体を覆うブルカではなく、髪だけ覆うヒジャブを着用してしました。

旧タリバン政権時代は、女性は顔全体を覆うブルカを強制され、学校で学ぶことや仕事につくことはもちろん、夫や親族男性の同伴がなければ外出もできない・・・といった状況でしたが、新タリバンは柔軟な姿勢も見せています。

****タリバン、女性へのブルカ強制を否定 ヒジャブは必要に****
アフガニスタンを制圧した旧支配勢力タリバンは17日、女性に対し全身を覆う衣服「ブルカ」の着用を強制しない方針を示した。タリバンは旧政権時代には、ブルカ着用を義務付けていた。

1996〜2001年のタリバン政権下で、女性は移動を制限され、教育や就労を禁じられたほか、公共の場ではブルカの着用を義務付けられた。

カタールの首都ドーハを拠点とするタリバン政治部門のスハイル・シャヒーン報道官は英スカイニューズに対し、「ヒジャブ(ベール)とみなされるのは、ブルカだけではない。ブルカに限らず、ほかの類いのヒジャブもある」と語った。

ブルカは頭を含む全身を覆う衣服で、目の部分には網目の窓があり周囲が見えるようになっている。タリバンが15日の首都カブール制圧後、ブルカ着用を強制しない方針を示したのは初めて。ただしシャヒーン報道官は、タリバンが容認するヒジャブの種類については明言しなかった。【8月18日 AFP】
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また、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めています。

****タリバン、崩壊政権の職員らに職場復帰求める…新体制づくりに着手****
アフガニスタン全土を制圧したイスラム主義勢力タリバンは17日、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めた。深刻な女性差別など国際社会の懸念を意識し、国民を懐柔しつつ、新体制づくりに乗り出したとみられる。
 
AP通信は17日、タリバン指導部「文化委員会」のメンバーが、「女性は政府機構に加わるべきだ」と述べたと伝えた。首都カブール制圧に伴い、多くの国民が国外脱出を図っていることに、タリバンが危機感を抱いている可能性がある。
 
アシュラフ・ガニ大統領が国外退避した後も、政権メンバーの一部は国内に残っている。AP通信によると、タリバンは政権ナンバー2のアブドラ・アブドラ国家和解高等評議会議長や大統領経験者のハミド・カルザイ氏らと新体制に向けた協議に入った。タリバンがパキスタンで、アフガンの各民族指導者らと協議しているとの情報もある。(後略)【8月17日 読売】
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【謎に包まれていたタリバン幹部 記者会見で融和的方針示すも「イスラム法の範囲内で」】
17日には、これまで公の場に現れたことがなく、謎に包まれていたタリバンの報道担当のザビフラ・ムジャヒド幹部が記者会見を開き、“イスラム法の範囲内で”という条件付きながら、「イスラム法の範囲内で、女性の権利を尊重する。男性と女性は同じ権利を持つ。我々のルールや制限のもと、女性は様々な活動ができる。教育分野や保健分野などだ」「一定の枠内で働き、学ぶことができる」「これまで敵対してきた政府軍や警察、政治家など全ての国民の罪を許す」など融和的な考え方を示しています。

ただし、その具体的な内容は未だ不明です。その言葉を信じていいのかも疑問です。

****謎に包まれたタリバンの報道担当者、初めて公の場に アフガンの権力掌握後の会見****
アフガニスタンの反政府組織タリバンは17日、アフガンの権力掌握後の記者会見を首都カブールで開いた。タリバンの報道担当ザビフラ・ムジャヒド幹部が記者からの質問に応じた。ムジャヒド氏が公の場に姿を見せるのは初めて。

ムジャヒド幹部はこの歴史的な記者会見で、「イスラム法(シャリア)の枠組みの中で」女性の権利を尊重すると主張するなど、記者からのさまざまな質問をうまくさばいてみせた。

会見に出席した大半のジャーナリストにとって、この会見はその内容以外にも意味があるものだった。タリバンの報道担当を務めるムジャヒド氏の顔を見るのが、今回が初めてだったからだ。ムジャヒド氏は長年、舞台裏で活動し、報道陣は電話越しにその声を聞くことしかできなかった。

BBCのヤルダ・ハキーム記者は、10年以上前からやりとりをしてきたタリバン報道担当者の顔をついに目にして、「衝撃」を受けたと話す。

ムジャヒド氏は「我々は内にも外にも敵を望まない」と語るなど、融和的な雰囲気を演出しようとした。
しかし、会見での発言は、ムジャヒド氏からこれまで送られてきたテキストメールの内容とまったくかけ離れていると、ハキーム記者は言う。

「(ムジャヒド氏の)メッセージには強硬なイスラム教の教えが含まれていた。『この人はアメリカ人の血を求めているし、アフガン政府関係者の血を求めている』と思わせられる内容もあった。それが今日になって、会見に出席した彼は、報復はしないと言っている」
「何年間も血なまぐさい好戦的な声明を発表してきた人物がいきなり、平和を愛するようになるなんて。なかなか受け入れがたい」

実際、ムジャヒド氏が会見で座っていたのは、今月初めにタリバンが暗殺した、アフガン政府メディア情報局の責任者ダワ・カーン・メナパル氏が最近まで座っていた席だ。ムジャヒド氏は当時、メナパル氏が「特殊攻撃で殺害された」と犯行を認めていた。(中略)

顔の見えないタリバンの報道担当者は複数人いるのではないかとの憶測が、何年も前からあった。(中略)

「ムジャヒドというのは仮名で、大勢の『ムジャヒド』が交代で登場していたのではないかとの憶測が長年あった。今は当然、我々は皆この人物があのザビフラ・ムジャヒドだと受け止めている。しかし、もしかしたら彼ではないのかもしれない」と、ドゥセット特派員は言う。

こうした謎はすべてタリバンのシナリオの一部だと、ハキーム記者は指摘する。
「タリバンとはそういうものだ。タリバンは組織化され、イデオロギーを共有している。偶発事態など1つもない。1人の人物を謎めかせて、突然スクリーンに登場させる。これ以上よくできた筋書きはないだろう」

ムジャヒド氏が1人の人間なのかどうかに関係なく、17日の会見での同氏の発言を警戒していたと、ハキーム記者は言う。
「注意すべき点はやはりシャリアだ。この言葉を聞いて背筋がぞっとした」
「それがどのようなものなのか、タリバンはまだ説明していないので」
「これがタリバンの特徴だ。彼らは人を欺き、時に魅力的で、適切な言葉を使う術を知っている。彼らを信じるべきかどうかははっきりとはわからない」
「謎は多い。(中略)でも本当にタリバンが何者なのか、私たちは知っているのだろうか?」【8月18日 BBC】
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【幹部主張と現場の実態に違いも すべてはこれから】
こうした主張が、本音なのか、単なる国際承認を得るための最初のポーズなのか・・・そこらはまだわかりませんが、ポーズだとしても、そうしたポーズに配慮するということだけでも、一切“聞く耳を持たなかった”旧タリバン政権とは違っているようにも思えます。

タリバンもそれなりにこの20年間で変化があった・・・・のでしょうか。

いずれにしても、どこまで本気なのか、仮に「幹部」はそう考えたにしても、現場でそれが実行されるのか・・・・疑問は多々あります。
タリバンと一口に言っても、穏健派から過激派まで様々であり、指導部がそれらをまとめることができるのかという問題もあります。

すでに、「幹部」主張とは異なる「現場」での動きも報じられています。

****タリバン、新体制準備進める=柔軟姿勢と実態に乖離も―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、国の全権を掌握してから4日目の18日も新体制樹立に向けた準備を進めた。タリバン幹部は17日の記者会見で、国際社会の視線を意識した柔軟姿勢を強調。

ただ、今後はタリバン内部で方向性の食い違いが生じる可能性もあり、会見内容と実態との乖離(かいり)が懸念されている。(中略)

17日はナンバー2のバラダル師が滞在先のカタール・ドーハから帰国。新体制樹立への準備は着々と進んでいるもようだ。

ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立している。

西洋文化の一掃を強硬に主張する一派もあるとされ、新政権が樹立されても全土で組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。既に、新たな支配地域で女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。【8月18日 時事】 
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****Q.タリバン政権はどのような政権になる?****
テレビ朝日外報部・元カイロ支局長の荒木基デスク
基本的にイスラム教の教えとして、イスラム法(シャリーア)というものがある。シャリーアには“人の道”という意味もあり、日本語で言えば道徳。イスラム教の人としての生き方に則った政治をやりたいというのが彼らの考え方で、これは20年経った今も変わっていないはず。

例えば、音楽禁止とか偶像崇拝を禁止して仏像を爆破するとか、そういったやり方を今後もやるのかというのは疑問符がつく。

というのも、インターネットもSNSも普及したこの時代に、どれだけのことがタリバンにできるのか。国際社会の目も無視することができない。20年前、オサマ・ビン・ラディンを引き渡せといった時に、誰に交渉すればいいのかもわからないぐらい、タリバンは閉鎖的なグループだった。

ところが今は、アフガニスタン政府と交渉するような代表団もいるし、スポークスマンもちゃんといる。それなりに20年の間に進歩している。

さらに先月、中国の代表とタリバンの代表が会談をしていて、タリバン側も自分たちがアフガニスタンを統治することになった時に備えて、すでに先手を打ち始めていた。そういう意味では、20年前のような状況とは少し違うのかもしれない。【8月18日 ABEMA TIMES】
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タリバンも変わったようにも見えますし、そうそう変わるものではないとも言えますし・・・・すべてはこれからです。
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アフガニスタン  目前に迫るタリバンの首都到達 焦点はガニ大統領の去就 再び奪われる権利・自由

2021-08-14 22:53:53 | アフガン・パキスタン
(タリバーンとアフガン治安部隊の戦闘の後で立ち上る黒煙を眺める人々=カンダハル【8月14日 CNN】
こういう多くの人々にとっては、現在の政権でも、タリバンでも、どっちでもいいのでしょう。女性の権利、市民の自由云々は部外者のたわごとか・・・)

【「無血開城」的に急拡大するタリバン支配】
動きが急激なアフガニスタン情勢、8月11日ブログ“2009年時点でアフガニスタンを見限ったバイデン大統領 士気も低く、装備の持続性もない政府軍”で取り上げたばかりですが、事態は更に切迫、加速度的に動きを早めています。

この8日間でタリバンは全国の34州都の半数にあたる17州都の制圧を宣言しています。

軍閥がいない州都では目立った戦闘もなく陥落するケースが続いています。州知事らが水面下でタリバンと交渉し、タリバンの要求する「無血開城」を受け入れたようです。

西部ヘラート州のように一定に抗戦した州においても、事前に宗教指導者らに「根回し」を行い、州指導部に「無血開城」を提案するなどの交渉を水面下で行ってきました。

提案を拒否したヘラート州に対し、米軍が完全撤退に向けた動きを本格化させてから攻勢をかけ、最初に農村部、次いで国境検問所や物流拠点を押さえ、最後に州都を包囲する周到な戦略を進めてきました。

対するアフガン政府軍や警察は、薄給で士気が低く、武器のタリバン側への横流しが蔓延しています。

また、州都陥落とともに、米軍が買い与えた武器がタリバンに渡っています。
 
これまでは政府軍が地上戦でタリバンに押されても、米軍の援護で失地を取り戻せていましたが、米軍が去るなかでそれもできなくなりました。

前回ブログに書いたように、バイデン大統領は早くからアフガニスタン政府を見限っており、今更アフガニスタン政府の延命のためにアフガニスタンに戻る考えはないようです。

政権側にとっての問題は、体を張ってタリバンを押しとどめようとする力が弱いこと。自分の身の保全のためにはタリバンへの“寝返り”も少なくないこと。

国際的にはタリバンの“イスラム原理主義”が問題視されますが、現地勢力にとっては思想的にはタリバンとさほど差異はなく、「寝返り」も無理からぬところでしょう。

****ヘラート陥落後、知事や軍幹部らタリバーンに「寝返り」か****
駐留米軍の撤収が進むなかアフガニスタンで支配地を拡大し続ける反政府勢力タリバーンは14日までに、前日に陥落させた西部の要衝ヘラート市で現職や元職の州知事、情報機関「国家保安局」の責任者やアフガン軍の軍団司令官らがタリバーン側に加わったと主張した。

この中には、ヘラート州知事や中央政府の閣僚も務めた経験を持つ著名な軍閥指導者のムハンマド・イスマイル・カーン氏も含まれた。タリバーンが公開したビデオ映像には、同指導者がタリバーン戦闘員のそばで話す姿も映っていた。

ヘラートは国内第3の都市。タリバーンの報道担当者は13日、記者団に同州政府の内務省幹部や数千人規模の治安部隊もタリバーンに合流したと述べた。

これら主張の真偽は不明。ただ、CNNはカーン氏がタリバーン戦闘員らと一緒にいる映像は確認した。【8月14日 CNN】
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タリバンへの抗戦を指揮していた「ヘラートのライオン」とも呼ばれるイスマイル・カーン氏は市内にとどまっているもののタリバンの拘束下にあるとの情報もあり、タリバンに同調したのかどうかは不明です。

【首都へ11km 数日内に首都到達? 焦点となるガニ大統領の去就】
主要都市が次々に陥落、それも無血開城的にタリバン支配に堕ちていくなかで、もはや、アフガニスタン政府が持ちこたえられるかではなく、首都カブールの陥落、タリバンのカブール進攻が“いつ”になるか、あるいは停戦のためのガニ大統領の去就が焦点。

米政権高官は11日、CNNに対し、カブールは30〜90日以内にタリバーンの手に落ちる可能性があると述べていましたが、“米政府高官によると、タリバンが数日以内にカブールに到達する可能性があるという懸念も台頭しているという。”【8月14日 ロイター】という状況に。

****タリバン、首都カブールまで11キロに迫る…米大使館は退避へ機密書類など廃棄を通達****
AP通信によると、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは14日、首都カブール南方約50キロにあるロガール州の州都プリアラムを制圧した。タリバンはさらに北上し、カブールまで約11キロの地区へ戦線を前進させた。
 
タリバンはカブール州に隣接するロガール州全体を掌握した。プリアラムを含め、タリバンが占拠した州都は全34州中18州となった。
 
米国防総省のジョン・カービー報道官は13日の記者会見で、タリバンの行動について、「国境に通じるルートや主要な幹線道路を押さえ、カブールの孤立化を狙っている」と分析した。「彼らはこれまでも州都を孤立させ、(アフガン政府軍を)無抵抗で降伏させることに成功してきた」と指摘し、タリバンがカブールでも兵糧攻めを狙っているとの見方を示唆した。
 
米政府は12日、米大使館員らの退避を支援するため、米軍約3000人をカブールに派遣すると発表した。カービー氏は、カブールが「現状で差し迫った危機に直面している訳ではない」としつつ、「我々は状況を深刻に受け止めている。だからこそ増派の判断に至ったのだ」と語った。増援部隊の大半は、週末にかけてカブールの空港に到着する見通しだという。
 
米政治専門紙ポリティコは13日、国防総省が、カブールにある米大使館の全職員を退避させる計画を策定し始めたと報じた。事実であれば、カブールの陥落も想定した動きと言えそうだ。
 
ポリティコによると、米大使館の幹部は13日、機密性の高い書類などを破棄するよう職員に通達した。大使館にある米国旗も、「(奪われた場合に)プロパガンダに使われる恐れがある」として廃棄対象に指定されたという。【8月14日 読売】
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タリバンはガニ大統領の辞任と権力の移譲を求めています。

****タリバン、首都カブールの孤立化狙う? アフガン政府も対決姿勢****
(中略)アフガンのメディアによると、ガニ大統領は14日、テレビ演説で「治安部隊の再動員が最優先だ」と述べ、対決姿勢を強調した。首都を巡る戦闘の激化が懸念されている。
 
情勢の緊迫化を受け、タリバンの政治事務所があるカタールのドーハでは、米国や中国などの代表がアフガン政府やタリバン側と打開策を協議。だが、タリバン側は攻撃の手を緩めておらず、即時停戦で合意する可能性は低い。
 
タリバンは13日、カブールに隣接する東部ロガール州の州都プリアラムを制圧。カブールとの直線距離は約50キロで、首都への侵攻が現実味を帯びてきた。取材に応じたタリバン幹部によると、タリバンはガニ氏の辞任と権力の移譲を求めているという。
 
長年タリバンの後ろ盾と指摘されてきたパキスタンのカーン首相は、毎日新聞などとのインタビューで「ガニ氏が辞任しない限り、タリバンは(対話による)政治的な解決を受け入れない」とも指摘している。
 
タリバンは新たに支配下に置いた地域で、政府側に拘束された戦闘員らを刑務所から次々と解放し、政府軍が残した武器も入手。またタリバン幹部は、2020年2月の米国とタリバンの合意に沿ってアフガン政府が解放した捕虜約5000人の多くが、再び戦場に戻ったと明かした。
 
捕虜解放は、タリバンがアフガン政府と和平協議を始める条件とされたが、結果的に戦力の底上げにつながった。
 
一方、アフガン政府も強気の姿勢だ。地元民放トロテレビなどによると、ガニ氏は14日のテレビ演説で「さらなる不安定化や暴力、国民の避難を抑えることに集中する」と語り、国際社会とも協議していると明かした。
 
これに先立ち、サレー第1副大統領は13日、ガニ氏が議長を務める国防に関する会議で「タリバンのテロリストに対し、信念と決意を持って強い姿勢で挑むことを決めた」とツイッターに投稿していた。
 
地方都市ではこれまで、市街戦による流血の事態を避けるため、政府軍がタリバンに投降したり、無抵抗で撤退したりするケースも少なくなかった。だが、タリバンがカブールに攻め込めば、政府側も防衛せざるを得ず、市民が巻き込まれる可能性がある。(後略)【8月14日 毎日】
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一連の動きを見ていると、アフガニスタン政権側に本気で首都防衛に取り組む覚悟があるかは疑問にも。
そこで注目されるのがガニ大統領の去就。

****ガニ大統領の去就焦点=攻勢タリバン、辞任を要求―政府停戦模索か・アフガン****
駐留米軍の大部分が撤収したことを受けて大攻勢に出ているアフガニスタンの反政府勢力タリバンは、14日も作戦を継続した。タリバンの部隊は首都カブール近郊まで迫っており、政府側は首都での戦闘と現政治体制の完全崩壊を阻止するため、停戦を模索しているもようだ。タリバンはガニ大統領の辞任を要求しており、ガニ氏の去就が焦点に浮上している。
 
ガニ氏は14日の国民向け演説で、「さらなる不安定、暴力や避難民を防ぐため、国内外で広範な協議を開始した。まもなく結果を国民と共有できるだろう」と述べ、国民の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。ただ、軍や治安部隊の「再動員」にも言及し、抗戦の構えは変えなかった。
 
米国務省は12日、ブリンケン長官らがガニ氏と電話会談し、在アフガン米大使館の人員縮小などについて説明したと発表した。これに関しアフガン情勢に詳しい在米ジャーナリストは「ブリンケン氏が停戦と(タリバンを含む)暫定政権の樹立に向け、ガニ氏に辞任を打診した」とツイッターに投稿。アフガン大統領府高官は13日、「誤りだ。その議論はしていない」と火消しに追われた。
 
インターネット上では、この他にも報道関係者によるガニ氏の去就をめぐる情報が飛び交う。タリバンが首都に肉薄する中、防衛のための選択肢として現実的なのは停戦だという認識が浸透しつつあるためだ。
 
ガニ氏は米主導の和平プロセスの進展に慎重で、テロなどが起きるたびにタリバンを名指しで批判してきた。和平交渉に参加するタリバン幹部は7月の米メディアとのインタビューで、対立をあおることで自らの地位を保とうとしている「戦争商人」だとガニ氏を批判し、辞任しなければ交渉に応じないと述べた。
 
タリバンは今月12日から13日にかけて人口第2位の南部カンダハル、3位の西部ヘラート、首都から約50キロのプリアラム、14日には東部シャランと、州都を相次いで奪取した。9日間で34州都中19カ所を押さえ、カブールを包囲するように部隊を進めている。【8月14日 時事】 
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【再び奪われるのか女性の権利 国際社会の現実的課題は難民受け入れ】
南ベトナム政権同様に、腐敗と汚職にまみれた統治能力のないアフガニスタン政権が消えていくのは止む得ない流れではありますが、旧タリバン政権崩壊以来、少しずつではありますが拡大してきた女性の権利など、国民の自由・人権がタリバン支配復活で再び奪われてしまいかねないのは悲しいことです。

****タリバン、支配地域で女性の権利制限 国連事務総長****
国連のアントニオ・グテレス事務総長は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが、支配地域で女性の権利を著しく制限していると明らかにした。
 
タリバンは支配地域を拡大しながら首都カブールに迫っており、2001年に米主導の連合軍の攻撃で崩壊したタリバン政権復活への懸念が高まっている。
 
グテレス氏は記者団に対し、「タリバンが支配地域で、特に女性と記者に対して人権を厳しく制限している初期の兆候が見られることに深く心を痛めている」と述べた。「特にアフガンの少女や成人女性が苦労して獲得した権利が奪われているという報告を目にするのは、恐ろしく、胸が張り裂けるような思いだ」
 
さらに、「民間人への攻撃を指示することは、重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪に当たる」と警告した。
 
前線では、政府側が個人または部隊、師団単位で投降し、多くの車両や軍用装備品がタリバンの手に渡っており、電撃的な速度での勢力拡大に拍車をかけている。 【8月14日 AFP】
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タリバンの復活・台頭は結局のところアフガニスタン国民の選択だったと言えばそれまでですが、何ともやりきれない思いも。

今後の国際社会の現実的課題は難民受け入れです。

****カナダ、アフガン難民を最大2万人受け入れへ****
カナダ当局は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの脅威にさらされている女性指導者や政府関係者ら、アフガン難民を最大で2万人受け入れると発表した。タリバンは、国内各地で主要都市の制圧を続けている。

カナダのマルコ・メンディチーノ移民相は記者会見で、「アフガニスタンの現状は痛ましく、カナダは傍観し続けることはしない」と述べた。

カナダが受け入れる難民はアフガン国内にとどまっている「特に脆弱(ぜいじゃく)」な市民をはじめ、隣国に逃れた人も対象となる。また女性指導者や政府関係者のほか、人権活動家や迫害されている少数民族、ジャーナリストも含まれる。

メンディチーノ氏によれば、難民認定申請者らを乗せた複数の航空便がすでに出発しており、13日には最初の便がトロントに到着した。【8月14日 AFP】
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カナダはすでに、同国のために働いた現地の通訳や家族ら数千人の受け入れ方針を明らかにしています。

日本政府は例によって、難民には固く門戸を閉ざすのでしょうか。今回はコロナ対策という格好の名目もあることですし・・・。

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2009年時点でアフガニスタンを見限ったバイデン大統領 士気も低く、装備の持続性もない政府軍

2021-08-11 22:42:24 | アフガン・パキスタン
(【8月11日 NHK】)

【タリバン、怒涛の攻勢 政府軍、「米軍に見捨てられた気持ち」と低い士気】
イスラム反政府勢力タリバンが攻勢をかけるアフガニスタン情勢については8月6日ブログ“アフガニスタン 政権は軍閥に戦闘協力要請 州都、首都に迫るタリバン そのイスラム統治とは?”で取り上げたばかりですが、あまりにも動きが急なので、改めて現時点での状況を。

前回ブログでも紹介したかつて北部同盟の有力軍閥・ウズベク人勢力を率いた(非道な暴力でも悪名高い)ドスタム将軍の帰国ですが、そのドスタム将軍の地元の北部諸州が次々とタリバンに制圧されているのは報道のとおり。

“8日には、過去に北部同盟が支配した北部クンドゥズ、タハル両州の州都も陥落。タリバンと渡り合った実績を持つ北部の軍閥は、ガニ政権の頼みの綱だった。”【8月9日 時事】

タリバンが制圧した州都は、この4,5日で“日ごとに”と言うより“時間ごとに”増加、現在は9州とも。明日になれば更に増えるかも。

****タリバンが9州都目を制圧宣言****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは11日、北東部バダフシャン州の州都ファイザバードを制圧したと宣言した。制圧を宣言したのは計9州都になった。【8月11日 共同】
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タリバンは“各地の警察署から武器を奪い、刑務所からタリバーン戦闘員を脱走させて、雪だるま式に勢力を増している。”【8月11日 朝日】

また、国境検問所を確保して関税を徴収することで、自軍の資金を得ると同時に、政権側の資金を断つ動きに出ています。

まさに怒涛の勢いですが、これだけハイペースで進むということは、政府軍側がまともな反撃ができていないということでもあり、その最大原因は士気の低さでしょう。

何年も前から絶えず指摘され続けた点ではありますが、これまで支えてくれた米軍も手を引きはじめており、政府軍兵士は州都防衛より、自分の身をどうやって守るかが関心事となっていると思われます。

****米軍に「見捨てられた気持ち」****
さらに、決定的な要因になり得るのが士気だ。
 
専門家らによると、タリバンが強い結束力を示している一方で、アフガニスタン軍は長年にわたって統率力不足や汚職、兵士らの士気の低下に悩まされてきた。そこへ来て最近のタリバンの攻勢で、精神的に一層ダメージを受けている。
 
独立系政策研究機関「アフガニスタン・アナリスツ・ネットワーク」のケイト・クラーク氏は先月の評価書で、「政府にとっては一部地域の陥落は想定済みだったのかもしれないが(中略)各地が連鎖的に次々と陥落していった時に治安部隊や国民の士気がどれほど下がったかという点は軽視できない」と指摘している。
 
米シンクタンク、ランド研究所のブライアン・マイケル・ジェンキンス氏は、士気を喪失しているアフガニスタン軍の兵士は米軍撤退によって「見捨てられたという気持ちを強く抱き」、自らの生き残りを考えるようになるかもしれないと言う。

「兵士らが個々の決断を下す際の判断材料は、国益や国家戦略ではない」と指摘し、「『こうした状況の中で、自分はどうするべきなのか? タリバンとカブールの大統領府に挟まれ、ここで最後のとりでになることが自分にとって最善なのだろうか?』という思いだ」と続けた。 【8月10日 AFP】
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アメリカがアフガニスタンから手を引く決意を固めたのは、中国を念頭に置いた戦力再配置云々といった話以前に、いくら支援しても政権は腐敗・汚職が絶えないし、政府軍の士気はあがらず、タリバンに寝返る者も珍しくない、米軍兵士は後ろからの銃弾に気を付ける必要がある・・・という状況に、これでは切りがないという徒労感を感じたことがあってのことでしょう。

【2009年時点で固まったバイデン大統領のアフガン撤退の決意】
もともとバイデン大統領自身がかつて、カルザイ前大統領との会食中に、“ナプキンを放り捨て、夕食は突然打ち切られた”というエピソードが示すように、アフガニスタン政権への強い不信感を持っています。

****アフガン撤退決断したバイデン米大統領、不信感が背景****
バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍の早期撤退を進める裏には、10年以上前からくすぶり続けるアフガンへの不信感があった。 

2009年1月、オバマ政権の副大統領に就任する直前のバイデン氏はアフガンの首都・カブールを訪問。夕食の席で当時のカルザイ大統領に対し、アフガン市民全員のための統治に着手しない限り、米政府の支援を失いかねないと警告した。 

カルザイ氏は、米国はアフガン市民の死に無関心だと応酬。論争が進む中、バイデン氏はナプキンを放り捨て、夕食は突然打ち切られた。その場にいた数人が証言している。 

米国が反政府武装勢力・タリバンの政権を打倒した後、バイデン氏はアフガン再建のための強い軍事・人道支援を支持していた時期があった。タリバンは、2001年9月11日の米同時多発攻撃を首謀した国際テロ組織・アルカイダの元指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者を支援しており、米国の攻撃はそれに対する報復だった。 

しかし、2009年のアフガン訪問で不快な経験をしたバイデン氏は、アフガン戦争は米国を泥沼に陥れ、勝利は不可能かもしれない、との思いを抱くようになる。 帰国したバイデン氏は、大統領就任直前のオバマ氏に対し、アフガンに増派すべき時ではないと強く警告した。 

2009年のアフガン訪問でバイデン氏に同行した長年の元側近、ジョナー・ブランク氏は「あれは単なる短気ではなかった。彼の中で楽観的な気持ちは、年を追うごとに失われていった」と語る。

しかし、バイデン氏はこの政策論争で敗れ、オバマ氏は最終的に増派を命じて2017年の任期いっぱいまで戦争を延期した。 

大統領の座に就いたバイデン氏は現在、一部の軍事専門家や民主・共和両党の議員、人道専門家の反対を押し切って、アフガン駐留米軍のほぼ全面的な撤退を進めている。 

(中略)バイデン氏は2009年の訪問で、アフガン政策が失敗すると確信した。 オバマ氏は昨年上梓した回顧録「約束の地」に、バイデン氏はこの時に見聞きしたことを通じて、戦略全体を再考する必要性を確信したと記している。(後略)【7月13日 ロイター】
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バイデン氏の心の中ではアフガニスタン撤退は2009年時点で固まっていたようです。

現在の“政府軍総崩れ”状態も、(これほど急激だとは思わなかったにせよ)ある程度予測されたことではありますが、「それでも撤退する。これ以上関与しても無駄だ」という想いなのでしょう。

****「すでに米兵は何千人も死傷」バイデン大統領、アフガニスタンからの撤退に変更なし****
アフガニスタンで反政府武装勢力「タリバン」が攻勢を強める中、アメリカのバイデン大統領は、アメリカ軍を完全に撤退させる予定に変更はないと、あらためて強調した。

バイデン大統領「何千人ものアメリカ兵が死傷している。アフガン軍は、自力で国のため戦わなければならない」

バイデン大統領は10日、「アメリカ政府は、アフガニスタン軍への十分な支援を行っている」として、駐留部隊を8月末までに完全撤退させる決断について、「後悔していない」として、計画を変更しない考えをあらためて強調した。(後略)【8月11日 FNNプライムオンライン】
*******************

【アメリカに「自分たちで戦え」と言われても、装備のメンテナンス・資金で持続性の低い政府軍】
そのバイデン大統領はアフガニスタン政府・軍に対し、「戦う意思を持たなくてはならない」「アフガニスタンは自分たちのために戦わなければならない」と、正論ではありますが、見方によっては“突き放した”ような姿勢です。

****バイデン米大統領、アフガン政府に「戦え」と喝****
バイデン米大統領は10日、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが大規模攻勢によって国内各州の州都を次々と陥落させている問題で、アフガン政府軍に対し「戦う意思を持たなくてはならない」と述べ、タリバンに本腰を入れて反撃するよう呼びかけた。

バイデン政権は、タリバンが全土支配をにらんで支配地域を拡大させているのを受け、駐留米軍に協力したアフガン人通訳や翻訳者の国外脱出と米国への受け入れを急ぐ考えだ。

バイデン氏はこの日、ホワイトハウスで記者団に、アフガン駐留米軍の撤収を決めた自身の判断について「後悔していない」と述べ、予定通り今月末までに撤収作業を完了させる考えを明らかにした。

バイデン氏はまた、無人機によるタリバン攻撃を念頭に、アフガン政府に対する航空支援は続けると表明。アフガン政府軍への食糧や装備の供給、給与の支払いといった関与の継続も明言した。

これに対し、トランプ前政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたボルトン元国連大使は10日、産経新聞の取材に「駐留米軍の全面撤収は重大な誤りだ」と指摘。「タリバンは近い将来に全土を掌握するだろう」との見通しを示し、アフガンが再び対米テロの拠点になりかねないと懸念を表明した。

ボルトン氏はその上で、最悪の事態を食い止めるには「今が最後のチャンスだ」と語り、バイデン氏に対して米軍の全面撤収方針を早急に撤回し、小人数の米軍部隊の駐留を継続させるよう呼びかけた。

タリバンの攻勢激化は、バイデン政権が進めるアフガン人通訳らの国外脱出にも深刻な影響を及ぼす恐れが出ている。

アフガンを脱出した通訳およびその家族をめぐっては、その第1陣となる2500人のうちの200人が7月30日に米国に到着し、南部バージニア州のフォート・リー陸軍基地で特別移民ビザ(SIV)の取得手続きに入った。

国務省によると、特別ビザを申請している通訳およびその家族らは合計で約2万人。これら全員を駐留米軍の撤収期限までに国外に移送するのは不可能で、米軍撤収後も国外移送の作業が続くのは確実だ。

ただ、タリバンが急速に支配地域を拡大しているせいで、地方では脱出の機会を逸した通訳らがタリバンに「裏切り者」と見なされて次々と殺害されているとの情報もある。

通訳らは安全を求めて首都カブールに集結しつつある。ただ、そこから脱出を果たせるかは、バイデン氏が「支援」を確約するアフガンのガニ政権が、タリバンの攻勢を前に首都を死守できるかにかかっている。【8月11日 産経】
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少なくとも今は米軍の空爆支援もありますし、撤退後も無人機による航空支援は続くようです。装備的にはタリバンをはるかにしのぐ近代兵器を有しています。政府軍は何と言っても空軍力も有しています。

アメリカからすれば、これだけ条件的に勝っているのだから、あとはヤル気次第だ・・・という話にもなりますが、敢えてアフガニスタン政府軍の立場で言えば、(これまでアメリカ側が行っていた)継続的な整備が出来ない近代兵器など、すぐにゴミの山になってしまうでしょう。

****外国軍の完全撤退迫るアフガン 規模でタリバンしのぐ政府軍の弱点とは?****
外国軍がほとんど撤退したアフガニスタンで旧支配勢力タリバンが勢力図を拡大する中、政府軍の能力に疑問が投げ掛けられている。

専門家によると、アフガニスタン軍とタリバン、全く異なる2勢力の対決を決定付けるのは、装備や兵力のみならず士気かもしれない。
 
この戦いは従来の軍事衝突とは違う。一方は、訓練・装備の面で超大国に支援された大規模な軍隊。もう一方は、小規模ながら、豊富な供給力を誇り、麻薬資金に支えられているイスラム過激派だ。
 
米国はアフガニスタン軍に数百億ドル(数兆円)を投じ、暗視ゴーグルから戦闘ヘリコプター、装甲車、偵察用ドローンに至る最新兵器やハイテク機器を提供してきた。また国家警察隊を含め30万人以上を擁するアフガニスタン軍は、タリバンよりも規模が大きく、武器や技術も先進的だ。
 
一方のタリバンは歩兵を主体とするゲリラ軍で、空軍を持たない。兵力は、国連による昨年の推計では5万5000〜8万5000人とされている。
 
だが、数だけですべてを語ることはできない。
 
タリバンが主に使用している武器は、戦闘で荒廃した国内で入手しやすいものか、闇市場で調達したもので、自動小銃AK47の派生モデルなど旧ソ連で設計されたものだ。さらにタリバンは、アフガニスタン軍から欧米製の武器や装備を奪い、イランやパキスタンなどから物質的支援や助言を受けているとされる。
 
タリバンの戦闘スタイルについて、米軍事シンクタンクCNAのテロ対策専門家ジョナサン・シュローデン氏は、アフガニスタン軍に比べると「ロジスティクス(兵たん)面がかなり分散されている」と指摘する。
 
タリバンは、財政面でも軍よりはるかに自立度が高いとみられている。国連の監視機関によると、タリバンは国内の巨大な麻薬産業や犯罪行為、支配地域での徴税などから年間3億ドル(約330億円)から15億ドル(約1650億円)の収入を得ている。

■持続性の低い軍隊は不利
一方、アフガニスタン軍は年間50億〜60億ドル(約5500億〜6600億円)の資金を必要とするが、そのほとんどは米国を中心とする外部の資金源によって賄われている。
 
空軍はタリバンを圧倒する攻撃手段になるが、整備要員が不足しており、その役目を主に担ってきた米国の請負業者も米軍と一緒に撤退する。
 
米軍が1月に発表した評価によると、アフガニスタン軍の飛行機やヘリコプターは数か月以内にも戦闘で使えなくなる可能性がある。
 
残留部隊を統括する米司令官は、第三国でアフガニスタン軍機を整備することも可能だと述べているが、どんなに規模が大きく、装備が充実していても、持続性の低い軍隊は、外国の支援が途絶えた途端に不利になり得る。【8月10日 AFP】
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【首都防衛も危うい状況で崩れるアメリカのシナリオ パキスタン「責任を押しつけられている」】
アメリカが「優れた装備があるじゃないか」という利点は持続性に欠き、何より冒頭に示したように士気が低いとなると・・・・通訳など米軍協力者の脱出時間を確保するための首都カブール防衛すら危ういものに思えてきます。

****猛攻タリバン、首都狙う 幹部「3、4週間で占領」****
猛攻を続けるアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは11日までに、全34州都のうち9州都を制圧した。

2001年の米中枢同時テロ後に米軍などの攻撃を受けてタリバン政権が崩壊して約20年。駐留米軍撤退完了が今月末に迫る中、タリバン幹部は首都カブールに向け進撃しているとし「3、4週間で首都を占領する」と述べた。
 
米軍の後ろ盾を失ったアフガン政府は防戦一方。約6割の地区をタリバンが支配し、この数カ月で戦闘地域から数十万人が避難した。米紙ワシントン・ポストは10日、カブールが3カ月以内に陥落する可能性があるとの米軍の分析を報じた。【8月11日 共同】
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“3、4週間”だか、“3カ月以内”だかはわかりませんが、アメリカ側がつい最近言っていた“半年”という時間も持たないと思わせる状況です。

もちろん、このまま一気呵成に首都に迫るのか、いったん有利な立場で和平交渉に持ち込むのか・・・そこらはわかりません。

****米、タリバンに攻勢中止求める=アフガン撤収期限控え対応苦慮****
(中略)米国が想定するのは、タリバンの攻勢を食い止めた状態で停戦を成立させ、アフガン政府との和平交渉の席に着かせるというシナリオ。

米軍撤収後は原則として政府軍が治安維持の全責任を負うという構想は変えておらず、カービー氏は「守るべきは彼ら(アフガン政府)の国であり、これは彼らの戦いだ」と主張する。
 
バイデン大統領は先月、ガニ・アフガン大統領との電話会談で、アフガン情勢の「持続的な政治解決を支援する米国の外交関与」を確認した。だが、タリバンがさらに勢力を拡大すれば、仮に停戦が実現しても、アフガン政府は一層不利な立場で和平交渉に臨むことになる。【8月10日 時事】
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****アフガン和平交渉、タリバンは決裂望んでいない=アルジャジーラ****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンのスポークスマンは10日、アルジャジーラテレビに対して、アフガン政府との停戦に向けた交渉に引き続き取り組んでおり、交渉の決裂は望んでいないと述べた。

アフガン政府とタリバンの高官は先月、中東カタールの首都ドーハで停戦に向けた直接協議を開始した。

政府側の代表はアルジャジーラに対して、交渉における「双方の真剣さを見極めるため」仲介者が必要だと述べた。

一方でタリバンのスポークスマンは「調停者の原則を拒否したのは政府であり、タリバンではない」とし、「われわれは、国際社会に現実を正確に評価することを求める」と語った。

アフガン政府代表団のメンバーは「タリバンは交渉に関心がなく、暴力での目的達成に関心がある。国際社会はタリバンが真剣な姿勢を示すよう圧力をかけるべきだ」と主張している。【8月11日 ロイター】
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これまでタリバンを支援してきたとされるパキスタンは、タリバンを説得・コントロールする影響力などないと主張しています。

****進まぬアフガン和平 パキスタン首相補佐官「戦闘長期化は悪夢」****
パキスタンのモイード・ユスフ国家安全保障担当首相補佐官が9日、首都イスラマバードで毎日新聞など一部海外メディアと会見した。(中略)

パキスタンは隣国アフガンへの影響力を保持するため、長年にわたりタリバンを支援してきたとされる。現在もタリバン指導部やその家族の一部がパキスタン国内に潜伏しているとされ、国際社会にはパキスタンを批判する声も根強い。

これに対してユスフ氏は、「(国際社会は)莫大(ばくだい)な資金を費やしてアフガン軍の装備を充実させ、訓練をしてきた」と指摘。それにもかかわらず「アフガン政府の中には失敗の責任をパキスタンに押しつけようとしている人がおり、我々はスケープゴートにされている」と反論し、現在のアフガン情勢混迷にパキスタンは無関係との立場を強調した。
 
さらにユスフ氏は、パキスタン側もタリバンに対する影響力が低下していると説明。タリバンが8月初めにパキスタンとの国境の一つを閉鎖したことを例に挙げ、「パキスタンは国境を開けるよう求めたが、タリバンを説得できなかった」と話した。アフガン国内で支配地域を拡大し、攻勢を強める現在のタリバンにとって、パキスタンは既に頼る必要性が薄れている可能性もある。
 
仮にタリバンがアフガンの首都カブールを制圧した場合の対応については、「(パキスタン政府は)武力制圧には反対だが、今はタリバンを正式な政府として承認するかどうかを話すべき時ではない。政治的解決に集中すべきだ」と述べるにとどめた。(後略)【8月10日 毎日】
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アフガニスタン  政権は軍閥に戦闘協力要請 州都、首都に迫るタリバン そのイスラム統治とは?

2021-08-06 22:33:28 | アフガン・パキスタン
(4日、アフガニスタン首都カブールで、爆発現場を巡視する治安部隊(ロイター=共同)【8月4日 共同】)

【かつての「内戦」で悪名を馳せたドスタム将軍帰国 ガニ大統領は軍閥に戦闘協力要請】
アフガニスタンでは、ソ連が撤退(1989年)したあと、ソ連が支援したナジブラ政権が92年に崩壊、その後タリバンが政権を獲得するまで日本の戦国時代のように各地に軍閥が割拠し、互いに血で血を洗うような内戦を繰り広げました。

そうした内戦の「混乱」の時代にあって、その混乱を象徴するような人物の一人が北部・ウズベク人勢力を背景にしたドスタム将軍でした。 混乱を象徴するというのは、残忍さ・戦争犯罪という面においてです。

ドスタム将軍は、自分の身が危うくなるとトルコに逃げ出すようなことを繰り返していましたが、アメリカの旧タリバン政権打倒に地上軍として協力し、その後にアフガニスタン政府において要職を勤め、ガニ政権では第一副大統領にもなりました。

ドスタム将軍については、2009年7月13日ブログ“アフガニスタン  軍閥勢力復権の動き オバマ大統領、ドスタム将軍の犯罪を調査指示”で、タリバン捕虜の大量虐殺に関して取り上げたことがありますが、下記はそこからの再録です。

****ドスタム将軍****
アフガニスタン「北部同盟」のドスタム将軍と言うと、北部ウズベク人を基盤とした軍閥でソ連侵攻後のアフガニスタン内戦においてその勢力を誇示し、タリバン政権崩壊時にはアメリカと協力してその崩壊に一役買ったことで、よく耳にした名前です。

今はタリバンが非民主的・反人権として国際社会の“敵”になっていますが、タリバンと対峙したドスタム将軍など軍閥勢力も、その残忍さにおいては五十歩百歩だとの評価も聞きます。

彼等の協力でアメリカのアフガニスタン侵攻・タリバン政権崩壊は予想されたより短期で終了しましたが、そのことはタリバン政権崩壊に功績があった軍閥勢力がその影響力を新政権においても保持する結果ともなり、アフガニスタンの民主化にとって問題を残した形になっていました。(中略)

ついでに、彼の性格・行動について【ウイキペディア】では、“彼は非常に傲慢かつ残虐な性格で、権力のために他を顧みず、私利私欲のためだけに人々を苦しめると言われる。

しかしながら、彼は世俗的な環境で育ち、宗教的に過激なところはなく、彼の統治下では、住民に対する締め付けは緩やかだったともされる。(中略)

旧ソ連撤退後、ナジブラ政権崩壊に資するなど、打算的な一面がうかがえる。”と記述されています。
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傲慢かつ残虐な性格で人権・民主主義とは縁のない人物ですが、唯一得意とするのは(ルール無視で)戦うことでしょう。

2019年の大統領選挙ではガニ大統領の対立候補アブドラ氏を支援したドスタム将軍、最近はトルコで病気療養していたようですが(国内いては何か都合の悪いことがあったのでしょう)、アフガニスタンに帰国したそうです。

****ドスタム将軍帰国=対タリバン戦闘激化の恐れ―アフガン****
1990年代のアフガニスタン内戦で台頭し、96〜2001年のイスラム原理主義勢力タリバン政権時代に有力な反タリバンの軍閥を率いたウズベク人勢力の指導者ドスタム将軍が4日夜、滞在先のトルコからアフガンに帰国した。ドスタム将軍の報道担当者が5日、AFP通信に明らかにした。
 
ドスタム将軍は数々の戦績を残す一方、敵対勢力を大量虐殺した疑いが持たれるなど悪名高い。北部で根強い支持を維持しているが、最近はトルコで治療を受けていたとされる。
 
タリバンが北部を含め各地で攻勢を強め、アフガン政府軍が劣勢に立たされる中での帰国となった。ドスタム氏がガニ政権と連携した場合、戦闘は激化する可能性がある。【8月6日 時事】 
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ドスタム将軍の帰国が、単に病気治療が終わったためか、危機にあるガニ政権に呼ばれたためか、最近のアフガニスタン情勢をみて活躍の場をかぎつけ自発的に帰国したのか・・・そのあたりは知りませんが、現在のアフガニスタン情勢の「混乱」が、かつての「混乱」の寵児を呼び寄せた感があって印象的です。

タリバンの攻勢にさらされているガニ大統領は、現在の状況は、(アメリカ軍の)突然の(撤退)決定によるもの」と指摘したうえで、国民を戦場に「動員」するよう国会議員に求めていますので、将軍の帰国もそうした動きに対応したものでしょうか?

すでに西部ヘラート州などでは、タリバンと軍閥との戦闘が始まっています。

軍閥メンバーの多くは雇い兵ですが、アフガン政府軍はこうした軍閥メンバーを「民衆蜂起部隊」と呼んで、戦闘参加を歓迎しています。

ガニ大統領の国民動員陽性は、かつての軍閥勢力に戦闘協力を求めたということでもあるようです。

【州都に迫るタリバンの攻勢 シュカルガ、カンダハル、そして首都カブール】
タリバンの攻勢は、従来の地方部から州都・主要都市に拡大しており、南部の要衝、ヘルマンド州の州都ラシュカルガなどで激しい戦闘がおこなわれています。

****タリバーンが放送局を占拠 アフガン南部ヘルマンド州****
アフガニスタン南部の要衝、ヘルマンド州の州都ラシュカルガで2日、反政府勢力タリバーンが国営の放送局を占拠した。

占拠されたのは、国営ラジオ・テレビ・アフガニスタン(RTA)が運営するヘルマンドTV。現地のジャーナリストらによると、同局からの放送は現在停止している。タリバーンの報道官もCNNへの文字メッセージで、同局を占拠したと宣言した。

アフガンでは複数の主要な州都でタリバーンが攻勢を強め、米軍が空爆を強化している。アフガン治安当局の高官が2日に語ったところによると、米軍は同日までの3日間に北西部ヘラート、南部カンダハルとラシュカルガの各都市でタリバーンの侵入を阻止するため、空爆を繰り返してきた。
国防当局者によれば、タリバーンは2日までにカンダハル南郊の一部を支配する一方、ヘラートからは後退している。同当局者は、現在最も危険な状況にあるのはラシュカルガだと指摘した。

バイデン米政権がアフガンからの完全撤退を進めるなか、タリバーンは急速に勢力を拡大している。米NPO「ロング・ウォー・ジャーナル」によると、アフガン全土でタリバーンが支配しているのは223地区、政府が掌握しているのは68地区で、116地区が戦闘中。計34の州都のうち17都市が、タリバーンからの脅威に直接さらされているという。

タリバーン支配地区のほとんどは、米軍の正式撤退が始まった5月以降に掌握された。米軍をはじめとする外国部隊の撤退は8月末までに完了する予定。タリバーンの激しい攻勢を受け、次に陥落するのは首都カブールではないかとの懸念も広がっている。【8月3日 CNN】
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****アフガニスタンで市街戦が激化、タリバンの進攻続く****
(中略)国際駐留軍のほとんどが9月までにアフガニスタンから撤退すると発表されて以降、タリバンは農村地域を中心に急速に勢力を拡大してきた。

特に、ヘルマンド州はアメリカやイギリスの軍事作戦の中心地だったこともあり、タリバンの手に落ちれば政府軍にとっては大きな痛手となる。

タリバンはもともと、ヘルマンド州北部やカンダハール州、ウルズガン州、ザブール州など、アフガニスタンの南部や南西部を拠点としてきた。しかしBBCアフガンの取材では現在、ガズニ州やマイダン・ヴァルダク州など北部や北東部、中部の州にも勢力を広げており、各地の州都を攻撃している。

アフガニスタン第2の都市カンダハールでも戦闘は続いており、1日にはロケット弾が同市の空港に落ちた。
タリバンにとっては、カンダハールを制圧すればアフガニスタン南部を掌握する大きな足掛かりとなり、象徴的な勝利になるといわれている。

西部の第3の都市ヘラートでも、激しい戦闘が数日続いている。7月30日に国連の施設が攻撃された後、政府軍が複数地域で撤退を迫られた。

政府軍がタリバンの進攻に苦戦する中、アシュラフ・ガニ大統領は戦闘の激化について、アメリカ軍の突然の撤退が原因だと非難した。

議会演説でガニ大統領は、「現在の状況は、(アメリカ軍の)突然の決定によるもの」と指摘。アメリカ軍には、撤退すれば「相応の結果」が訪れるだろうと警告していたとのべた述べた。

アメリカ軍は大半がすでにアフガニスタンから撤退したものの、政府軍を支援して空爆を行っている。2日夜にも、ラシュガル・ガーでの空爆は続いた。

ジョー・バイデン政権は2日、タリバンの攻勢が強まったことを受け、アメリカ軍に協力していたアフガニスタンの難民数千人を受け入れると発表した。
また、タリバンがパキスタン国境の町で拘束した「市民を殺害」し、戦争犯罪を犯している可能性があると非難している。

アントニー・ブリンケン米国防長官は、タリバンが行っている「非常に不快で全く容認できない」残虐行為の報告を受けていると語った。

国境検問所のあるスピン・ボルダークで撮影された動画には、復讐(ふくしゅう)殺人の様子が映されていた。こうした非難について、タリバンは関与を否定している。

タリバンはすでに主要な検問所を複数占領しており、アフガニスタンへの輸入品の関税を徴収している。
戦闘によって貿易が縮小したため正確な額は不明だが、たとえばイラン国境のイスラム・カラでは、1カ月の税収が2000万ドル(約21億8000万円)になることもあるという。

アフガニスタンでは一連の戦闘により、今年上半期だけで民間人が非常に多く犠牲になっている。国連によると、市民の死者1600人の大半は、タリバンなど反政府組織の手による殺害だという。また、戦闘を受けて多くの人が家を追われており、今年に入って約30万人が避難民となっている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、タリバンが農村地域を広く制圧しているため、バダフシーャン州、クンドゥーズ州、バルフ州、バグラーン州、タハール州などで、国内難民の波が起きていると指摘した。

郊外の村などに数日間、避難してから家に戻る人もいれば、長期間家を離れる人もいる。AFP通信は、一部の難民や政府軍が、タリバンの攻勢でタジキスタンへと押しやられていると報じている。【8月3日 BBC】
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タリバンが拠点とする南部の主要都市カンダハルが陥落すれば、タリバン勢力の暫定首都的な形にもなるのでは。

タリバンの攻勢は、更に首都カブールにも及んでいます。

****アフガン首都で爆発、8人死亡 タリバン「報復作戦開始」****
アフガニスタンの首都カブール中心部で3日夜、爆弾を積んだ車が爆発した後、銃撃戦となり、内務省報道官は4日、民間人を含む少なくとも8人が死亡、20人が負傷したと明らかにした。

反政府武装勢力タリバンは4日、モハマディ国防相代行の住宅を狙った攻撃と認め「政府指導者に対する報復作戦の始まりだ」とする声明を出した。
 
モハマディ氏は不在で無事だった。現場周辺には政府機関や各国大使館があり、警備が厳重な地域。現地からの報道によると、最初に爆弾を積んだ車がモハマディ氏の住宅近くで爆発した後、武装した4人が周辺に立てこもり銃撃戦になった。【8月4日 共同】
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タリバンは犯行声明で、政府高官を標的とした攻撃を続けると警告しています。

【タリバンの目指すイスラム法による統治とは?】
米軍撤退からさほど時間をおかずに(半年も持たないのでは・・・という感じも)タリバンが全土を支配するのでは・・・と思える状況ですが、問題はそのタリバンの統治がどのようなものかという点です。

****中国が狙う1兆ドルを超えるアフガニスタンの鉱物資源 米軍完全撤退を前にタリバンが始めた「外交」****
アメリカのバイデン大統領は7月初旬、8月末までにアフガニスタン駐留米軍の撤退を完了させると発表した。バイデンは米軍撤退後もテロリストがアフガニスタンを支配するのは許さない、タリバンにもテロリストがアフガニスタンから米や同盟国を脅かすことは許さないという約束は守らせると演説したものの、その実効性は既に危うい。

米軍撤退後タリバンが全土を支配か
タリバンは7月に入り、アフガニスタンの国土の85%を支配したと発表、続いて7月末にはロシアの通信社に対し「アフガニスタンのタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イランとの国境、つまり国境の約90%は我々の支配下にある」と語った。

これらの信憑性は定かではない。しかし米軍のミリー統合参謀本部議長は7月末、タリバンは421あるアフガニスタンの行政区のうち半数を支配していると述べた上、軍事的な勢いはタリバンの側にあるとも認めている。

タリバンの攻勢は誰の目にも明らかであり、アフガニスタン政府軍には十分な力が備わっているという米軍撤退の条件自体が疑わしい。米当局には米軍撤退後、半年から1年後にはタリバンが全土を支配するだろうという見方もある。

タリバンの目標はアフガニスタン全土のイスラム法による統治である。これについてはタリバン自身が公式に何度も宣言している。彼らが認める統治体制はイスラム法による統治のみであり、それが実現されたときに初めてアフガニスタンに「平和」が訪れると主張する。

戦争がないことが平和だ、という一般的な平和概念とタリバン的な「平和」概念は明らかに異なる。
タリバンは「我々の支配領域では『イスラム国』の台頭は許さないと保証する」と主張し、あたかも米当局との約束を守っているかのように装っているが、タリバンと「イスラム国」はイスラム法による統治を目指すという目標も、また武力によってそれを実現させるという手段も本質的に同じである。

タリバンは新しく支配下においた地域において既に、男性に対してはヒゲを剃ることを禁じたり、女性に対しては親族男性の同伴なしの外出を禁じたりしている。

在アフガニスタンのオーストラリア大使館が入手したビデオには、タリバン兵がアフガニスタンの一般人の男女を殴ったり、鞭で打ったり、処刑したりしている様子が映されていた。

またジハード(聖戦)により新たに支配下においた地域の有力者に対し、15歳以上の少女と45歳以下の未亡人のリストを提供するよう命じたとも伝えられている。ジハードで支配下においた人々のうち、女性を「戦利品」として奪い「性奴隷」にするのもイスラム法の規定だ。

タリバンを「国際社会の一員」と主張する国々
しかしこうしたタリバンを「国際社会の一員」として迎え入れなければならないと主張する国々もある。イランや中国、ロシアなどだ。

イランは7月、タリバンとアフガニスタン政府の代表をテヘランに招き、両者ともに交渉による解決を望んでいるという共同声明を出した。

イランの識者の中には、タリバンはかつてのタリバンとは異なり優れて政治的存在となったのであり、世界と交流し、地域諸国と協力しなければならないことを理解していると主張する人もいる。

タリバンはロシアの特使とも会い、国境を越えて侵攻するつもりはなく中央アジア諸国を脅かすことはないと伝えた。

中国が狙うアフガニスタンの鉱物資源
タリバンは中国当局とも非公式会談を行い、中国はパキスタンを通してタリバンに資金を提供しアフガニスタンの破壊されたインフラ再建に協力する旨で合意したとも報じられている。中国が見返りとしてタリバンに要求しているのは、ウイグル人テロ組織への協力を断つことだ。

アフガニスタンは中国とも国境を接しており、国境地域はウイグル人テロ組織の潜伏拠点のひとつだとされている。中国は推定1兆ドルを超える価値があるとされるウラン、リチウム、銅、金などアフガニスタンの鉱物資源を狙っているとも言われている。

タリバンは既にアフガニスタンの支配者であるかのように振る舞い、「外交」を行い、それを受け入れる国も出始めている。

米軍撤退後、武力によってタリバンがアフガニスタン政府軍を倒しアフガニスタン全土を支配下においた時、日本は果たして彼らを「正当な統治者」として受け入れるべきなのか。それとも民主主義や人権といった近代的価値を認めないテロ組織として、断じてその正当性を認めないという確固たる姿勢を示すのか。
日本という国の「価値」が問われる局面も遠くはない。【8月2日 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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パキスタン  中国人を狙ったバス爆発 「鉄の友」の中パ関係 イスラムの大義に優先

2021-07-16 22:41:53 | アフガン・パキスタン
(パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州で7月14日、谷に落ちたバスの乗客を救助する人々=AP。バスはこの日、山道を走っていた際に爆発し、谷に落ちた【7月16日 朝日】)

【パキスタンで中国人ら30人以上が乗ったバスが爆発・転落】
パキスタンでのバス爆発「事件」で、多くの「一帯一路」関係中国人が亡くなりました。

****パキスタンでバス爆発 「一帯一路」関係者ら13人死亡*****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州で14日午前8時ごろ、中国人ら30人以上が乗ったバスが爆発し、地元警察によると、少なくとも13人が死亡、17人が負傷した。中国人らは、中国政府がパキスタンなどで進める巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する建設現場に向かう途中だったという。
 
地元警察によると、爆発で死亡したのは、中国人の技術者やパキスタン人の警護要員ら。爆発の原因は分かっていない。バスは険しい山道を上って、同州にある一帯一路のダム建設現場に向かっていたという。
 
中国はパキスタンにとって、対インドで利害が一致する長年の友好国だ。中国の投融資に頼るパキスタン政府に打撃を与えるため、中国権益を標的にする地元イスラム武装勢力の攻撃が続いている。パキスタン政府は中国権益を重点警備しているが、攻撃を防ぎ切れていない。
 
今年4月には、中国大使が滞在していたパキスタン南西部バルチスタン州の高級ホテルで爆発があり、警官ら数人が死亡。パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」が事件後、犯行声明を出した。
 
また、19年5月には中国人宿泊客が多い同州グワダルの高級ホテル、18年11月には南部カラチの中国総領事館が襲撃された。両事件では、中国の進出に抗議する現地の独立派「バルチスタン解放軍(BLA)」が犯行声明を出した。【7月14日 朝日】
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【「鉄の関係」「鉄の友」の中パ関係】
中国の「一帯一路」にとってパキスタンは“要”ともなる国で、両国は強い関係を有しています。

パキスタンにおける中国の存在感は、2年あまり前にフンザ観光のためにカラコルム・ハイウェイを往復した際に、身に染みて感じました。

カラコルム・ハイウェイ ( KKH) は、中国新疆ウイグル自治区最西部とパキスタンのギルギット・バルティスタン州をカラコルム山脈を横断して結ぶ道路で、国境を横断する舗装道路としては世界一の高所を通る道路です。

ハイウェイはパキスタンと中国政府によって建設され、(多くの中国人労働者の犠牲も伴いながら)建設開始から20年が経過した1978年に完成したということで、「一帯一路」以前からの緊密な中パ関係を象徴する道路です。

この道路の意義については“インドとパキスタンの間に跨るカシミール地区を巡る対立が非常に切迫しているため、カラコルム・ハイウェイは戦略上重要な拠点となっている。また中国にとってはパキスタンへの輸出入の経路として重要なほか、パキスタン南部に中国の支援で建設されるグワーダル港と新疆ウイグル自治区とを結ぶ経路でもあり、中東やアフリカへの資源へのアクセスを確実にする上でも戦略的に重要な経路である。中国政府はパキスタンへ援助を行って拡幅工事などを行っている。”【ウィキペディア】とも。

その後も「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の一環として、中国の支援で改修・拡幅工事が行われており、私が片道二日、往復四日走ったときも、あちこちで工事中でした。

一番印象的だったのは、パキスタンの山奥に中国語の道路標識みたいなものがあったこと。中国の技術者が大量に入って工事していますので、そういうことにもなります。

****CPEC(China-Pakistan Economic Corrido)****
CPEC(China-Pakistan Economic Corrido)とは、中国・パキスタン経済回廊である。CPECが発表されたのは2015年である。

中国の新疆ウイグル自治区カシュガルから標高4,693メートルのフンジュラーブ峠を超え、パキスタンの北から南まで国内を縦断し、アラビア海に面したグワーダル港までをつなぐ全長約2,000キロメートルにおよぶ長大な経済回廊建設プロジェクトである。

CPECには、グワーダルの港湾及び周辺の開発のほか、水力発電所建設を含む電力インフラの整備、カラチやペシャワールにおける都市交通整備など67件のプロジェクトが含まれる。中国からパキスタンへの融資額は600億ドルを超えると言われる。【ロイター】
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この「CPEC」という言葉も、同行の現地ガイド氏から毎日耳タコのように聞かされました。

中国支援による改修工事が済んだ箇所は快適な舗装道路となっており、悪路のロングドライブに疲れた私の正直な感想としては、中国のパキスタン支援に感謝しました。

このように中パ両国は強い絆で結ばれており「鉄の関係」とも言われています。

*****鉄の関係*****
中国とパキスタンは、1950年に外交関係を樹立した。

パキスタンは、中国にとって唯一の同盟国である。また、中国はパキスタンへの武器供与国であり、2006年に自由貿易協定が締結されている。

パキスタンのアリフ・アルビ大統領が2020年3月に中国を訪問し、北京で習近平国家主席と会談した際にも、両首脳は、「一帯一路」構想のCPEC推進の協力関係強化による「鉄の関係」を確認した。【ロイター】
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中国にとって「鉄の関係」「鉄の友」という国は、パキスタンを含めて14か国あるとか。

****パキスタンからザンビアまで、中国の14の「鉄の友」―香港メディア****
香港英字メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストはこのほど、中国にとって「鉄のように揺るがない友」として14の国を挙げていると、中国のニュースサイトの環球網が11日付で報じた。

サウスチャイナ・モーニング・ポストの10日付記事によると、中国の外交声明の英語版において「ironclad」という言葉ほど中国と他国との緊密な関係を表すものはない。

ironcladのカテゴリーに分類される国は現在、ブラジル、エジプト、エチオピア、ケニア、マリ、マルタ、ナミビア、パキスタン、ルーマニア、セルビア、タンザニア、イエメン、ザンビア、ジンバブエの14カ国だ。

ベラルーシ、カンボジア、キューバ、ミャンマー、ウクライナなども、中国との強力な歴史的および政治的関係からこのリストに含まれる可能性があると指摘する人もいる。

中国人民大学国際事務研究所の王義桅(ワン・イーウェイ)所長は、ironcladについて「緊密な関係と強力なコミュニケーションを意味する」とし、「そうした友は裏切るよりも互いの核心的利益を尊重する可能性が高い」と述べている。

中国研究に特化した調査会社プレナムのアナリストは、そうした国々は「全天候型の友」とも呼ばれるとした上で、「この概念が中国の外交上の優先事項を表しているとは思わない。この言葉は、現実的な計算よりも歴史的な重みを持っている」との見方を示している。【7月12日 レコードチャイナ】
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ブラジル、エジプトなど、ちょっと首をかしげたくなるような国も含まれていますが、パキスタンはそういう中にあっても別格、文字通りの「鉄の関係」にあります。

【頻発する中国権益を標的にする地元イスラム武装勢力の攻撃】
それだけに、パキスタン政府を攻撃する側にとっては、中国関係者は“狙い目”ともなります。
冒頭記事にもあるように、4月には中国大使を狙ったと思われる事件も。

****中国大使が標的か、パキスタンの高級ホテルで爆発…イスラム武装勢力が犯行声明****
パキスタン南西部クエッタの高級ホテルの駐車場で21日、車に仕掛けられた爆弾が爆発し、地元病院によると、5人が死亡、12人が負傷した。現地を訪れていた中国の農融ノンロン駐パキスタン大使を狙った犯行との見方が出ている。
 
大使は爆発当時、宿泊先だったこのホテルにはおらず、無事だった。地元のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が「高官を狙った」と犯行声明を出した。
 
大使は、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」で中核に位置づけられている「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)の協議のため、投資家や企業関係者らと訪れていた。現地では中国に反発する武装勢力が、中国人や関連施設の襲撃を繰り返している。
 
中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は22日の記者会見で、「今回のテロ攻撃を強く非難する」と述べた。【4月22日 読売】
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今回のバス爆発も、パキスタン側は当初「事故」として処理しようとしていましたが、やはりテロだったという見方に変わっています。

****中国人死亡のバス爆発、テロか 爆発物の痕跡見つかる****
パキスタン北西部で14日に中国人ら13人が死亡したバスの爆発について、パキスタンのファワード・チョードリー情報放送相は15日、「初動捜査で(現場から)爆発物の痕跡が見つかった」とツイッターで明らかにした。パキスタン治安当局は、爆破テロだった可能性も視野に捜査している。(中略)

爆発の原因について、パキスタン外務省は14日、「機械の不具合で燃料が漏れ、爆発した」と説明したが、中国外務省は「事件」と主張し、見解が食い違っていた。
 
パキスタン情報放送相は、15日のツイッターで「テロの可能性を排除できない」「中国大使館と連携し、テロの脅威と戦う」と述べた。
 
中国の投融資に頼るパキスタン政府にとって、中国権益に絡む事件は最も避けたい事態だ。パキスタン政府は中国の外交団や企業を重点警護しているが、近年はイスラム武装勢力による攻撃が続いている。
 
これまでの攻撃は主に南部や南西部が中心で、すぐに犯行声明が出るものが多かった。ただ、今回の爆発は北西部で場所が離れているほか、16日朝時点で犯行声明が出ていない。パキスタン政府は、生存者から事情を聴くなどして爆発の経緯を慎重に調べている。【7月16日 朝日】
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中国は犯人処罰を強く求めています。

****パキスタンのバス爆発は「テロ」=中国首相が犯人処罰要求****
中国の李克強首相は16日、パキスタン北部で中国人9人が死亡したバス爆発をめぐってカーン首相と電話会談し、「テロ攻撃犯を必ず法で処罰しなければならない」と要求した。

カーン氏は「テロ襲撃事件」の真犯人を法に基づき裁くと約束した。中国外務省が発表した。(後略)【7月16日 時事】 
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【イスラムの大義に優先する「鉄の友」】
なお、中パの「鉄の友」をうかがわせる案件としては、以下のようなものも。

****パキスタン首相、中国の新疆弾圧に対する非難を拒否****
パキスタンのカーン首相は22日までに、中国政府が行っているとされる西部新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族に対する人権弾圧を非難しない考えを明らかにした。
ニュースサイトのアクシオスとのインタビューで20日に述べた。

インタビューの中で大規模なウイグル族の強制収容と虐待について問われたカーン氏は、中国について「我々の最も素晴らしい友人の一人。我々にとって最も困難な時期にそうあり続けている」と指摘。新疆の問題をめぐっては、中国政府とのいかなる協議も「非公開で行われるだろう」との見解を示した。

米国務省によると近年、ウイグル族や他のイスラム教徒の少数民族最大200万人が新彊全域にある大規模な収容施設に入れられているとみられる。多くの元収容者は収容所内で洗脳や身体的虐待、強制不妊などを受けたと証言する。

米国をはじめ複数の西欧諸国の議会は、中国による新彊でのこうした行為をジェノサイド(集団殺害)と認定した
しかしカーン氏は、中国政府がパキスタン政府との非公開の協議で新彊での大規模な弾圧を否定していたと説明。

「我々は彼らのやり方を尊重する。(中略)どうしてこれが西洋世界でここまで大きな問題になっているのか? なぜカシミール地方の人々は無視されているのか? そちらの方がはるかに意味がある」と述べた。

イスラム教徒が多数を占めるカシミール地方はパキスタンとインドが領有権を争っており、しばしば暴力的な衝突が発生している。

カーン氏はまた「世界を見渡せば、パレスチナ、リビア、ソマリア、シリア、アフガニスタンでも問題が起きている。すべてについて発言しなくてはならないのか?」と付け加えた。

パキスタンは中国の長年の友好国・貿易相手国で、インフラ投資でも大きな恩恵を受けている。これらの投資は習近平(シーチンピン)国家主席が掲げる経済圏構想「一帯一路」の一環だ。

カーン氏は2019年3月にも、英紙フィナンシャルタイムズの取材に対し、新疆ウイグル自治区での大規模な強制収容に関する報道について「よく知らない」と答えていた。中国の最西端に位置する新疆ウイグル自治区はパキスタンとも国境を接している。【6月22日 CNN】
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パキスタンではフランスのイスラム風刺、およびそれを擁護するマクロン大統領に対する抗議デモが激しく行われています。

そのパキスタンがイスラム教徒弾圧に沈黙。「鉄の友」はイスラムの大義に優先するようです。

それは、パキスタンだけでなく、多くのイスラム教国家が中国のウイグル族弾圧に沈黙していることにも示されています。
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