孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  強化されるアルシャバブ包囲網 安定化に向けて国際会議

2012-02-24 20:38:07 | ソマリア

(23日、ロンドンで開催されたソマリア支援の国際会議に抗議する女性たち “ソマリアから手を引け!”というのも、国外勢力の支配を拒否するひとつの主張でしょう。 “Kenya stop violating our sea coast”というのも、ケニヤが港湾都市キスマヨを狙っているという意味で、ひとつの主張でしょう。 ただ“Respect the Rights of Women”とはどういう主旨でしょうか?価値観に大きな溝があるようです。 “flickr”より By Dan Finnan  http://www.flickr.com/photos/danielfinnan/6923224995/in/photostream/ )

【「危機は終わっていない」】
事実上の無政府状態で、暫定政府を支援する国際社会と国土の広いエリアを実効支配する急進的イスラム武装組織アルシャバブの抗争が続いている東アフリカのソマリアでは、昨年7月に60年に1度とされる大干ばつに見舞われ、飢饉が発生して大きな犠牲を出しましたが、今月初旬、国連は飢饉の終息を宣言し、危機的状況は脱したようです。
しかし、依然として継続的支援が必要とされる状況が続いています。そうした支援なしでは飢饉が再発するとも警告されています。

****ソマリアに「飢饉終息宣言」=234万人の支援継続必要―国連****
国連食糧農業機関(FAO)は3日、東アフリカのソマリアで昨年7月に発生した飢饉(ききん)が終息したと宣言した。国連機関などによる食料援助活動が奏功し、発生から約6カ月で危機的な事態が改善した。ただ依然234万人に継続的な支援が必要といい、FAOは警戒を続けている。

ダシルバ事務局長は声明で「待ちわびた雨と農機具や肥料の確保、人道支援により飢饉の終息宣言に至った」と強調。一方で「危機は終わっていない」とも述べ、援助を続けなければ再び飢饉に陥る恐れがあると警告した。【2月3日 時事】 
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なお、234万人の支援には15億ドルが必要だとされていますが、うち170万人は欧米を敵視するアルシャバブが支配する南部に住み、支援は届きにくい状況にあります。
食糧の主な運び役だった赤十字国際委員会(ICRC)も1月、シャバブに活動を公式に禁じられ、国連は地元NGOに運搬を頼んではいますが、その支援能力が低くなっています。

少年兵を「捨て駒」に
急進的イスラム武装組織アルシャバブは、“子どもたちを戦闘に送り出し、「捨て駒」にしている”との批判も人権団体から出されています。
痛ましいことではありますが、襲撃して捕獲した子供たちを少年兵として洗脳し、最前線で使うのはアッシャバブだけでなく、アフリカでの多くの紛争・内戦で見られることです。

ウガンダ・コンゴなどで活動する「神の抵抗軍」が有名ですが、シエラレオネ内戦を舞台にした映画「ブラッド・ダイヤモンド」でも、その実態を垣間見ることができます。
また、実際の元少年兵を使って撮影された異色の映画「ジョニー・マッド・ドッグ」では、その狂気が窺えます。

****ソマリア武装勢力、子どもらを「捨て駒」に利用 人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は21日、ソマリアのイスラム過激派組織アルシャバブが、子どもたちを戦闘に送り出し、「捨て駒」にしていると発表した。
 
米ニューヨークに本部を置く同団体によると、アルシャバブは、10歳の子どもを戦闘に送り出したり、女児を誘拐して前線で戦う戦闘員の妻にしたり、子どもが紛争に巻き込まれないよう抵抗した親に目をつけて殺害した事例もあったという。過酷な訓練を経て前線に送られた子どもたちの中には、成人の兵士を守るために「捨て駒」として利用されることもあるとした。
 
ヒューマン・ライツ・ウオッチによる現地での聞き取り調査で15歳のある少年は、「100人ほどの級友の中で、自分ともう1人だけが脱走し、残りは全員殺された」と語っている。また同団体は、「子どもの招集や誘拐を阻止しようとする家族、そして脱走を試みる子どもらが厳しい仕打ちを受け、時に殺されることさえある」と説明した。(後略)【2月23日 AFP】
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衰え見せるアルシャバブの勢力
一時は首都モガディシオの多くを支配下に置いていたアルシャバブですが、飢饉にあたって国際的支援を拒否・妨害したことでも批判を浴びました。
そうした住民生活を無視した行為は結果的に民心の離反を招き、また、飢饉によって活動資金が枯渇し、若い失業者をカネで釣って兵士にリクルートすることもできず、その勢力範囲が急速に縮小しつつあります。

現在は首都モガディシオから撤退を余儀なくされており、そうした勢力衰退を好機として、首都を防衛するアフリカ連合(AU)の平和維持部隊に加え、隣国のエチオピア・ケニアが国境を越えて侵攻を開始し、アルシャバブ拠点への攻撃を行っています。

****ソマリア 民主化の波 支配勢力衰退、23日に国際会議****
・・・飢饉はアッシャバーブも直撃。活動資金が枯渇し、若い失業者をカネで釣って兵士にリクルートすることもできず、勢力範囲が急速に縮小した。
さらに「アラブの春」と呼ばれる中東の民主化運動の矛先がアッシャバーブを支援していたサウジアラビアやドバイのイスラム原理主義勢力の富裕層にも向けられ、海外からの送金も先細りしている。

アッシャバーブ内にはアルカーイダの影響を受ける外国人テロリストが流入、自爆テロを実行しているのに対し、軍閥出身の土着グループは伝統的な戦闘を主張するなど、路線対立も顕著になっている。

アッシャバーブはモガディシオの3分の2を支配していたが、昨年8月に全面撤退。他地域でもアフリカ連合(AU)ソマリア平和維持部隊に押されている。
ソマリア沖の海賊については出没地域が広域化し、身代金は高騰したものの、成功例は激減するなど国際社会による海賊対策が功を奏している。(後略)【2月20日 産経】
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AUの平和維持軍も増強されることになり、アルシャバブ包囲網が形成されつつあります。

****ソマリア武装勢力包囲を強化 支援国、国際会議を開催****
ソマリア中南部を支配するイスラム武装勢力「シャバブ」に対し、アフリカ連合の平和維持軍や周辺国の軍隊が攻勢を強め、シャバブは最大拠点都市の一つバイドアから撤退した。ロンドンでは23日、ソマリア支援を協議する国際会議が始まり、ソマリア情勢は大きな転機を迎えている。

バイドアは、首都モガディシオの北西約250キロの地点にあり、交通、軍事上の要所で人口は約80万人。暫定政府の拠点があったが、2009年にシャバブが制圧した。現地からの報道によると、エチオピア軍と暫定政府軍は22日、戦車や歩兵部隊で進軍し、シャバブを掃討。飛行場に防御線を張り、検問所などを設置したという。
エチオピア軍は昨年末以降、ソマリア西部から進攻、南からはケニア軍が昨年10月、シャバブ掃討作戦を開始した。

ケニア政府は、国内で外国人がシャバブに連れ去られる事件が発生したため軍隊の派遣を決定、国境付近に軍事拠点を設置し、シャバブの拠点に対し空爆を続けている。ケニア軍は南部の16の町、計2万5千平方キロメートルの地域でシャバブ掃討に成功したとしている。
ケニア軍のオグナ大佐は「バイドア攻略はいい知らせで、シャバブが弱体化している証しだ。各国からの圧力が功を奏している」と話した。
ケニア軍は、バイドアとともにシャバブの重要拠点の南東の港湾都市キスマヨへの進攻を計画しているという。制圧に成功すれば、シャバブの資金や武器の供給の面で大きな打撃を与えることができる。

シャバブは、昨年8月に暫定政府との激戦の後に首都モガディシオから撤退して以来、弱体化が顕著になっているとされる。モガディシオ周辺で活動するアフリカ連合の平和維持軍の要員もほぼ倍の約1万8千人に増強されることになり、包囲網はさらに強まる見通しだ。

しかし、シャバブの支配地域が狭まっているとはいえ、テロ遂行能力は依然高く、モガディシオなど撤退地域では断続的な爆弾テロが起きている。また、軍事作戦への報復としてケニア国内で手投げ弾を使ったテロを相次いで行うなど、活動範囲を拡大しており、周辺国にとっても脅威となっている。(後略)【2月24日 朝日】
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【「ソマリアは一回の会議では変えられないが、支援は強化できる。我々の義務だ」】
こうしたアルシャバブの勢力衰退を国家再建の大きなチャンスとする国際社会は、ソマリアに関する国際会議を23日にロンドンで開き、民主化プロセスなどを協議しました。
国際会議にはクリントン米国務長官や国連の潘基文事務総長ら50以上の国や国際機関などの代表が出席。テロ・海賊・人道対策に加えて、連邦制を念頭に新憲法を制定、選挙の早期実施などソマリア主導の民主化プロセスが協議されました。

****ソマリア:支援強化で合意…安定化国際会議****
過去20年にわたり内戦が続き、テロ組織や海賊の温床となっている東アフリカ・ソマリアの安定化を協議する国際会議が23日、ロンドンで開かれた。現地の治安情勢に改善の兆候があるとの認識に基づき、統一政府の樹立に向けた政治プロセスへの支援を強化することなどで合意した。

英政府主催の会議にはクリントン米国務長官やソマリア暫定政府のアハメド大統領ら約55カ国の代表が出席。キャメロン英首相は閉会後、「ソマリアでは(情勢の)進展の兆しが見られる。国際社会全体で支援しなければならない」と語り、アフリカ連合(AU)平和維持部隊への財政支援の強化▽人道支援の強化▽テロ・海賊対策での国際連携の強化--などで合意したと発表した。

会議では特に、今年8月で権限が切れる暫定政府を延長せず、全土を代表する統一政府への移行を実現する必要性を確認。ソマリア支援の国際調整を図るため、「連絡グループ」の次回会合を6月にトルコ・イスタンブールで開くことを決めた。

ソマリアでは昨年、AU部隊などがイスラム過激派組織「アルシャバブ」を首都モガディシオからほぼ駆逐。治安情勢に改善の兆しが見える一方、地方が独立や自治を宣言するなど、事態は混とんとしている。【2月24日 毎日】
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会議を主催した英国のヘイグ外相は「ソマリアは一回の会議では変えられないが、支援は強化できる。我々の義務だ」と強調しています。
ソマリアの無政府状態と貧困は、海賊行為やアルカイダなどのテロ活動の温床ともなっています。
“治安情勢に改善の兆しが見える一方、地方が独立や自治を宣言するなど、事態は混とんとしている”というように、ソマリア自立への道のりは長く険しいものがありますが、これまで以上の継続的支援が国際社会に求められています。

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ソマリア  海賊ビジネス 国連事務所開設 米海軍特殊部隊の人質救出作戦

2012-01-26 22:25:46 | ソマリア

(ソマリア海賊の活動範囲と自衛隊活動海域 【2011年7月18日 朝日】)

海賊はなくてはならない地域の“主要産業”】
事実上の無政府状態が続くアフリカ東部ソマリアでは、「海賊」による外国船舶乗っ取りが続いていますが、これといった産業もない地元では海賊行為による身代金がひとつの“ビジネス”として確立しており、海賊で大金を稼ぐことが地元民の憧れにもなっているという話はよく聞きます。

下記記事もそんな状況を伝えるものですが、欧州経済危機の影響で、EUのソマリア海賊対策が困難になっているとも報じています。

****身代金で住宅開発 ソマリア海賊 欧州危機影響、EUの艦船派遣半減****
ソマリアの海賊が2010年に計2億5千万ドル(約192億円)の身代金を稼ぎ、拠点のある北東部の自治政府「プントランド」などで住宅開発が急ピッチで進められていることが英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の報告書でわかった。
海賊対策には年間最大120億ドルもかかり、債務危機に苦しむ欧州連合(EU)が派遣する艦船は半減、対策の見直しが急務になっている。

英ブルーネル大のショートランド教授が衛星写真で住宅の建設状況などを調査、海賊が手にした身代金の経済効果を分析した。それによると、プントランドの中心都市ガロエでは住宅が倍増し、大きなビルが建設されていた。交通量が増え、遠距離通信用の塔が3つも新設されていた。
海賊の出撃拠点のひとつ、エイル港でも新しいビルや住宅が建てられ、自家用車の数が増えていた。ガロエや北部ボーサーソなどの夜間照明は07~09年にかけ、明るさを増していた。

こうした成長を支えているのが身代金収入だ。
昨年2月、インド洋でソマリアの海賊に乗っ取られたイタリア船籍の石油タンカーが12月に解放された。乗組員22人の身代金は1150万ドルだったとされる。
海賊1件当たりの身代金は08年当時は69万~300万ドルだったが、10年に最大900万ドルに急騰。これに対して、プントランド自治政府の年間予算は1760万ドル。海賊はなくてはならない地域の“主要産業”になっている。

EUは海賊対策のためソマリア沖周辺で初の海軍作戦「アトランタ」を発動、08年には常時10隻の艦船を派遣していた。しかし、欧州債務危機が深刻化して昨年は同6隻に減少、今年は同5隻に減る見通しだ。
一方、ソマリア海賊はアラビア海やインド洋まで活動範囲を広げ、11年1~9月期199件と08年同期の63件から急増した。このため「北大西洋条約機構(NATO)や日本などと協力して全体で25隻の艦船を確保している」(EUアトランタ作戦のハリソン司令官)のが実情だ。

ソマリアでは20年以上も内戦が続き、自治政府などが海賊を抑えるのは難しい。チャタムハウスのミドルトン元研究員は「海賊対策費は身代金被害総額の50倍近くに達しており、海賊に代わる地域産業の育成など抜本的な対策の見直しが必要だ」と指摘している。【1月19日 産経】
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米:日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与することに期待感
ソマリアの海賊対策には、日本も隣国ジブチを拠点に、護衛艦とP3C哨戒機による活動を継続しています。
****海賊対策で飛行600回=ソマリア沖派遣のP3C―自衛隊****
アフリカ・ソマリア沖に海賊対策で派遣されている海上自衛隊のP3C哨戒機が1日、600回目となる任務飛行を達成した。
海賊対策は2009年3月に始まり、当初は護衛艦2隻が民間船舶の警護に当たったが、同年6月からは2機のP3Cも参加。上空から不審船に関する情報を護衛艦などに伝えている。【1月1日 時事】 
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海自による海賊対策については、アデン湾海域で行われており、大音響や射撃による警告に従わず、不審船が商船に接近を続けた場合、当初正当防衛や緊急避難の場合しか認められていなかった不審船への船体射撃が可能とされています。また、日本船舶に限らず外国籍船もすべて護衛可能となっています。

このジブチの拠点(基地)は、南スーダンでの陸自のPKOにも関与するのでしょうか?エチオピアを挟んで、距離的には比較的近いようですが。
“ホルムズ海峡封鎖”など何かと問題の多い中東からも、そんなに遠くは離れていません。
将来的には、自衛隊の中東・アフリカにおける活動拠点でしょうか。
なお、ジブチには、アメリカのアフリカ唯一の基地もあるようです。

****ソマリア海賊対策、手詰まり 自衛隊はジブチに新拠点****
役割拡大、他国から期待
日本政府は開所式の翌日、P3C哨戒機2機、護衛艦2隻という現在の態勢のまま、自衛隊の派遣をさらに1年延長することを閣議決定した。しかし、芦田氏は「海上警備の広域化」を求め、補給艦の追加派遣を要望している。海上自衛隊は「その余裕はない」という立場で、「脅威の拡散」に対応する態勢はできそうにない。

いずれにしろ、日本は事実上の「基地」までつくって海賊問題に本格的に関与する姿勢を示した以上、簡単に撤退するわけにはいかなくなった。
新美潤・駐ジブチ日本大使も「撤収する『大義』は当面見つからないのが実情だ。問題解決の即効薬も万能薬もない現状では『根治療法』として対ソマリア支援を行いつつ息の長い努力を続けていくしかない」と話す。

さらに「問題が長期化する可能性が高いことを考えれば、自衛隊の海賊対処活動を強化・拡充することには慎重な判断が必要だ」と指摘。「出口」が見えない現状では自衛隊の役割拡大に乗り出すべきではないとの考えを示した。

一方、米軍のフランケン司令官は「特定地域に限定して活動を考えることが許される時代はすでに過去のものとなった。日本の国民も今回開設した基地を考えるにあたって、そういう視野をもった方が良いかもしれない」と語り、日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与することに期待感を示した。ユスフ外相も、独立間もない南スーダンへの自衛隊派遣について「それは良いことだ」と歓迎する考えを明らかにした。【11年7月18日 朝日】
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ソマリアの未来に新しい希望を開く・・・
海賊対策の基本が、事実上の無政府状態にある“陸上”を何とかすることにある・・・ということは誰も認めるところです。
その“陸上”では、イスラム武装組織が首都モガディシオから撤退したこと、隣国ケニア・エチオピアの軍事介入が行われていることは、1月14日ブログ「ソマリア  イスラム武装組織シャバブ掃討に一定の進展は見られるものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120114)でも取り上げたところです。

そうした情勢で、若干は安定化の方向に進んでいるのか、国連が首都モガディシオに、17年ぶりに事務所を開設したことが報じられています。

****国連、ソマリア首都に事務所 17年ぶり本格拠点****
国連は24日、内戦が続くソマリアの首都モガディシオに事務所を開設した。国連が首都に本格的な拠点を置くのは17年ぶり。治安情勢は依然不安定だが、和平実現に向け暫定政府を支援するため、開設に踏み切った。

国連によると、ソマリア担当のマヒガ国連事務総長特別代表が24日、モガディシオの空港に到着、出迎えた暫定政府幹部らに対し、「国連の事務所開設が、ソマリアの未来に新しい希望を開くことを心から望む」と語った。

1991年から内戦状態に陥っているソマリアでは、治安悪化のため95年に国連平和維持活動(PKO)の参加部隊と当時の事務総長特別代表が撤退した。その後、国連はソマリアを所管する事務所を隣国ケニアに設置していた。【1月26日 朝日】
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【「米市民の安全確保のためなら、あらゆる手段を辞さない」】
また、海賊だかイスラム武装組織だかよくわかりませんが、武装グループによって誘拐・拘束されていた米国人とデンマーク人の地雷除去活動家を、アメリカ海軍特殊部隊が急襲し、人質を救出したことが報じられています。

****ソマリアで人質2人救出、米特殊部隊が武装勢力を急襲****
米海軍特殊部隊シールズが25日未明、アフリカ東部ソマリアの武装勢力を急襲し、3か月にわたって人質となっていた米国人女性とデンマーク人男性を救出した。

救出されたのは、ソマリアで地雷撤去などの活動を行っていた米国人のジェシカ・ブキャナンさん(32)とデンマーク人のポール・ティステズさん(60)で、ともにデンマークの人道支援団体職員。前年10月25日にソマリア中部ガルムドゥグ州で武装グループに誘拐され、身柄を拘束されていた。

ブキャナンさんの健康状態が悪化しているとの情報を受け、バラク・オバマ米大統領が23日夜、救出作戦決行を指示。ヘリコプター6機余りによる急襲作戦が実行されたという。武装グループ側は9人全員が死亡した。
ブキャナンさんとティステズさんは2人とも無事で、報道によれば現在はアフリカ唯一の米軍基地がある隣国ジブチで治療を受けているという。

オバマ大統領は声明で、「米国は断じて自国民の拉致を容認しない。米市民の安全確保のためなら、あらゆる手段を辞さない」との声明を発表し、救出作戦について「米国民への脅威に対し米国は毅然と対応するという世界へのメッセージ」だと述べた。

「アフリカの角」とも称されるソマリアは、20年間に及ぶ内戦で無政府状態が続き、各地でイスラム武装集団や海賊が勢力を奮っている。【1月26日 AFP】
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救出作戦にあたった米海軍特殊部隊シールズ(SEALS)は、パキスタン潜伏中のアルカイダのオサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことでも知られています。オバマ大統領は24日夜の一般教書演説で、SEALSによるビンラディン容疑者殺害をたたえたそうですが、今回の成果も、とかく“弱腰”批判のあるオバマ大統領にとっては、再選に向けての得点となることでしょう。

映画「ブラックホーク・ダウン」で描かれたように、ソマリアでは93年、民兵の攻撃により作戦遂行中の米軍2機のヘリコプター、ブラックホークがロケット弾RPG-7によって撃墜され、その救出に向かった米軍兵士と民兵の間で激しい市街戦が行われました。その結果、米兵18人とマレーシア兵の国連軍兵1人が死亡し、73人が負傷する大きな犠牲を出しました。
更に、戦闘後、死亡した米兵の遺体が裸にされて住民に引きずり回される映像が公開され、アメリカ社会に衝撃を与え、これを契機にアメリカはソマリアPKOから撤退することになります。

この事件がトラウマとして残り、アメリカはその後のソマリアへの介入に消極的だとも言われていましたが、今回の米海軍特殊部隊シールズなどを見ると、そのトラウマも克服しつつあるのでしょうか。
良きにつけ悪しきにつけ、アメリカのように軍事介入を辞さない国がないと、紛争などの問題が進展(あるいは、悪化)しないのが現実です。

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ソマリア  イスラム武装組織シャバブ掃討に一定の進展は見られるものの・・・

2012-01-14 22:00:27 | ソマリア

(昨年10月 イスラム系団体によるソマリアでの救援活動 欧米系団体の支援活動を妨害するイスラム武装組織シャバブがこうしたイスラム系団体の救援活動を今も許しているのかどうかはわかりません。 “flickr”より By Al-Mustafa Welfare Trust - Somalia http://www.flickr.com/photos/66384277@N03/6235587034/

赤十字も活動停止
アフリカ東部ソマリアでは、実質的な無政府状態の中でイスラム武装組織シャバブが一定の支配権を有する状況が続く一方で、深刻な飢饉が広がっていること、そしてイスラム武装組織が国際的な救援活動をも妨害しており、飢饉救済が進まないことは、これまでも取り上げてきたところです。

最近になって、食糧配布ができていた数少ない国際機関である赤十字の活動もストップする事態となっています。

****赤十字、ソマリアで食料輸送停止=「品質検査」で妨害****
赤十字国際委員会(ICRC、本部ジュネーブ)は13日、飢餓に見舞われているソマリアで実施していた食料輸送を一時中止する方針を明らかにした。イスラム武装勢力の支配地域でトラックが足止めされるなどし、活動再開のめどが立たないため。

ICRCによると、昨年12月に24万人分の食料を運んでいたトラック140台が一部地域で「品質検査」を理由に足止めされた。ICRCは「食料が放置され品質が悪化するリスクを避けるため当面は運搬を見合わせる」ことを決めた。【1月14日 時事】
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シャバブを追い詰める民心離反と国際包囲網
しかし、こうしたイスラム武装組織の非人道的な対応は地域住民からの反発を買い、イスラム武装組織の勢力を弱める傾向にあるとも報じられています。

また、テロの温床ともなる無政府状態に終止符を打ちたい国際社会も、昨年からイスラム武装勢力掃討に力を入れ始めています。
脆弱な暫定政府を支えているのはアフリカ連合(AU)のPKOですが、アメリカは過去の経緯・失敗から直接介入は避けながらも、暫定政府軍、AU平和維持部隊の中核となるウガンダとブルンジへの民間軍事企業を使った支援を強めており、イスラム武装組織を首都モガディシオから追い出すことに成功しています。

****ソマリア:米が暫定政府支援、情勢転機 過激派を首都から撃退*****
・・・・米政府高官は毎日新聞の取材に「暫定政府と平和維持部隊に武器・弾薬などの供給や軍事訓練を実施した」と明らかにした。軍事訓練を担当するのは、ワシントンに本社を置く民間軍事企業「バンクロフト・グローバル・ディベロップメント」。米政府は平和維持部隊の主力であるウガンダとブルンジに援助資金を提供、支援を受けた両国政府がバンクロフト・グローバル・ディベロップメントに軍事訓練の「代金」を支払う仕組みだ。

米政府高官は「ソマリアへの米軍派遣は考えていない」と軍事介入の可能性を否定する一方、「(暫定政府と平和維持部隊がアルシャバブを首都から追い出した)作戦の成功で、人道支援を展開できる地域が広がった」と成果を強調。今後、ソマリア北部・北東部の自治領に対する援助を充実させ、アルシャバブの封じ込めを図る考えを示した。・・・・・【11年9月15日 毎日】
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アメリカは、隣国エチオピアからの無人機攻撃も行っています。
****米軍、エチオピアに無人機基地 ソマリアの武装勢力攻撃*****
米軍が、アフリカ東部ソマリアのアルカイダ系組織の攻撃を目的に、隣国エチオピア南部に軍事拠点を極秘に開いたことが分かった。米紙ワシントン・ポストが27日、米空軍の話として報じた。エチオピア政府はこの拠点の存在を否定しているという。

同紙によると、軍事拠点は首都アディスアベバから南に約500キロの町にある民間空港の一部を転用。米空軍の要員が駐留して無人機リーパーを運用している。米空軍は「エチオピア政府が受け入れる限り(無人機攻撃を)続ける」と同紙にコメントしている。攻撃対象はソマリア中南部を支配するイスラム武装勢力シャバブ。米軍はこのほかに、東アフリカのジブチや島国セーシェルにも、無人機の運用拠点を設けているという。

オバマ政権はアフガン、イラク、イエメンなど世界の6カ国で無人機による攻撃をしている。テロ容疑者を裁判を経ずに殺害するうえ、民間人の巻き添えも出ていることから、批判が高まっている。【10月28日 朝日】
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また、昨年10月にはイスラム武装勢力による外国人誘拐に手を焼く隣国ケニアが、昨年11月には国境線での民族問題で利害を有するエチオピアも軍事介入を始めており、住民からの支持も失ったイスラム武装組織シャバブは次第に支配エリアを狭めているとも言われています。

****ソマリア:エチオピア軍侵攻 過激派への包囲網強化****
アフリカ東部ソマリアに隣国エチオピア軍が侵攻し、国際テロ組織アルカイダ系とされるイスラム過激派組織「アルシャバブ」への包囲網が強化されつつある。アルシャバブは、首都モガディシオでソマリア暫定政府を防衛する「アフリカ連合」(AU)の派遣部隊との戦闘も継続しており、勢力が分散化しだした可能性もある。

ケニア軍は10月中旬、ソマリア南部へと侵攻。今月20日までにエチオピア軍がソマリア中部ベレドウェインなどに進軍した。ロイター通信によると25日、エチオピア政府は越境を認めた。

今月半ばにはケニアとウガンダ、ソマリア暫定政府首脳がケニアの首都ナイロビで非公式会合を開き、アルシャバブ掃討に向けた軍事作戦の協力を確認した。AU部隊の主体となっているウガンダ、ブルンジなどの首脳は部隊増強に向け、緊急的援助をアフリカ各国へと呼びかけた。AU部隊との戦闘でアルシャバブが弱体化しているのを好機とみたケニア、エチオピア両軍が米国など国際社会の意向を受ける形で相次いで侵攻している可能性もある。

ソマリアは中央政府の崩壊した91年以降、事実上の無政府状態にあり、暫定政府が首都モガディシオの一部を統治しているが中・南部はアルシャバブが実効支配してきた。しかし、ここにきて各地での戦闘でアルシャバブ勢力が分散化し、内部抗争や資金不足に直面しているとの観測も流れ始めている。

一方、AUも資金難に直面しており、アルシャバブ掃討に向けて、AUが一枚岩となれるかは不透明なままだ。
エチオピア軍は06年、米国の支持を受け、イスラム原理主義勢力が首都モガディシオを掌握していたソマリアに軍事介入し、エチオピア軍が支援する暫定政府が全土をほぼ制圧したが治安は悪化し、09年に撤退した経緯がある。【11月26日 毎日】
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最近のケニア軍、エチオピア軍の動向はよくわかりませんが、下記のような報道がなされています。
****エチオピア軍、ソマリア侵入=国境の都市を占拠―英BBC****
英BBC放送(電子版)は31日、エチオピア軍が、隣国ソマリア領内の国境の都市ベレトウェインの大半を占拠したと伝えた。同市を支配していたイスラム過激組織アルシャバーブは徹底抗戦を主張している。
エチオピア軍のソマリア侵入は11月以降、繰り返し伝えられた。しかし、エチオピア政府は事実関係を否定し続けている。【11年12月31日 時事】
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****ソマリア空爆、60人殺害=ケニア軍****
AFP通信によると、ケニア軍報道官は7日、同国空軍の戦闘機が6日に隣国ソマリア南部にあるイスラム過激組織アルシャバーブの拠点数カ所に攻撃を加え、武装勢力少なくとも60人を殺害したことを明らかにした。アルシャバーブ側はこれを否定している。【1月7日 時事】 
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シャバブを掃討できても、火種は山積
よくわかりませんが、隣接両国による軍事行動が続いているようです。
なお、BBC報道によれば、エチオピアは占拠したベレトウェインをAUにゆだねる意向であると伝えられています。これを受けてAUは平和維持部隊を拡大させる方針です。
06年にアメリカの支援でソマリアに侵攻し、一旦はソマリアを占拠したものの、住民からの抵抗が強く撤退を余儀なくされた過去の経験から、エチオピアとしても深入りは避けたい思いでしょうか。
ただ、AUに資金・装備などの面で、ソマリアを管理する能力があるかは疑問ではありますが。

ベレトウェインを占拠したエチオピア軍や南部のいくつかの都市に入ったケニア軍は地元住民から温かい歓迎を受けているとも報じられており、イスラム武装勢力からの民心の離反は、ソマリアの現状を打開する絶好の好機とも言えます。

もっとも、仮にイスラム武装勢力を掃討できても、ソマリアでは部族間の争いが絶えないこと、独立を主張している北部ソマリランド、自治を要求しているプントランドとの関係、エチオピア・オガデン地方でのソマリ人の分離主義運動など、紛争の火種には事欠かない状況で、安定が訪れる保証は全くない・・・との指摘もあります。【1月7日号 The Economist誌など】
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ソマリアへのケニア軍介入  Twitterで攻撃宣言・住民への注意喚起

2011-11-09 21:49:11 | ソマリア

(10月4日 ソマリアの首都マガディシオの教育省建物付近で爆弾テロがり、少なくとも70人が死亡しました。近くにいた兵士のほか、奨学金受給申請の結果発表を待つ学生や親たちが犠牲になっています。イスラム武装勢力アルシャバブが犯行を認める声明を出しています。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6211127768/

ソマリアのイスラム武装組織に“キレた”ケニア
実質的無政府状態が続き、イスラム過激派組織アッシャバブが広い地域を実効支配しているソマリアに、隣国ケニアが軍事介入したことは、10月21日ブログ「ソマリア  外国人誘拐事件が相次ぐケニアが侵攻 飢饉で住民支持を失うアルシャバブ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111021)で取り上げたところです。

上記ブログでも“世界の警察官を自任するアメリカも直接介入したがらない、アフリカ連合のPKO活動も十分に機能していないソマリアに、自国でのテロ激化のリスクを犯してまでケニアが単独介入する意図も、また、どこまで介入する気なのかもよくわかりません”と書いたように、ケニアの意図は不思議でした。

アメリカの支援・要請でもあったのかとも思いましたが、下記Newsweek記事によれば、長年のソマリア内戦で膨大な人数の難民がケニアに押し寄せていること、そのなかに不穏分子も混ざっておりケニアの治安が悪化していること、海賊行為による観光産業が打撃を受けていることなどがあって、そこに一連の外国人誘拐事件が起きたため、ケニア側が「キレた」とのことです。

****悲劇を助長するケニアの怠慢****
アフリカ ソマリアの武装組織によるテロ続発を受けて派兵を決めたケニア政府だが警告を無視してきた責任は重い

雨期が終わるまで待つべきだったのかもしれない。ケニアが先月ソマリアに送り込んだ軍隊は今、文字どおり泥沼と格闘している。しかし隣国の内戦にはまり込むという「泥沼」に比べれば、雨期など問題にならないかもしれない。

ケニアがついに隣国に「キレた」のを責めることはできない。ソマリア内戦のためにケニアが過去20年間に受け入れてきた難民は数十万人を下らない。最近は大干ばつに見舞われた地域からも難民が押し寄せている。世界中から送られてくる緊急援助食糧を、イスラム原理主義組織アルシャバブが横取りしてしまうのも一因だ。
国境から約100キロ内陸にあるケニアの町ダダーブには、「人口」40万人を超える世界最大の難民キャンプがある。しかし新たにやって来る難民の中には密輸業者や武器商人、民兵たちが交じっていて、ケニアの治安に大きな懸念を与えている。

海上では、ソマリアの海賊がケニアのクルーズ観光業と海運業に大きな打撃を与えている。こうした隣国からの迷惑にほとほと愛想が尽きかけていたところに、一連の誘拐事件が起きた。(中略)

こうしてケニアの堪忍袋の緒が切れた。長年ソマリアの武装組織と戦う準備はしてきたが、それを実行に移す時が来たと判断したようだ。ただし派兵の厳密な範囲と目的は、軍も政府も明らかにしていない。
当初は国境に緩衝地帯を設けるのが目的かと思われた。だがケニア軍は国境地帯を越えて、アルシャバブの実効支配下にある港湾都市キスマヨに向けて進軍を続けている。港湾使用料はアルシャバブに莫大な収入をもたらしているから、それを断とうという計画なのかもしれない。【11月9日 Newsweek日本版】
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上記記事によれば、ソマリア暫定政府は、軍隊を派遣したケニアに正式に抗議しているそうですが、これに対してケニア政府は、派兵はソマリア側の要請を受けたからだと主張しています。

****派兵はソマリアの要請*****
・・・・ケニアのモーゼス・ウェタングラ外相は、ソマリアの首都モガディシオを公式訪間中の先月中旬にアルシャバブに狙われたものの、間一髪で難を逃れた。このときソマリア政府に支援をはっきり求められたと言う。
「ケニアはソマリアに侵攻したのではない」と、ウェタングラは言う。「ケニアで訓練を受けたソマリア暫定政府軍の兵士たちを支援しているだけだ」

だがソマリアヘの軍事介入は規模が小さ過ぎるだけでなく、時期も遅過ぎた可能性がある。アメリカがアフガニスタンやイラクで痛いほど学んだように、アルシャバブのような武装組織を根絶するのは容易ではない。
追い詰められれば、彼らはほぼ確実にゲリラ戦を展開するだろう。その被害を受けるのはソマリアにいるケニア兵だけではない。ケニア国内にはナイロビをはじめ各地に大きなソマリア人コミュニティーがある(ダダーブ難民キャンプもその1つだ)。武装兵らがそこを拠点に攻撃を仕掛けるかもしれない。【11月9日 Newsweek日本版】
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ケニア軍だけでこの問題を解決できるとは思えない
しかし素人考えでも、内戦状態が続くソマリアへの軍事介入は、相当の覚悟が必要に思われます。
****アメリカの二の舞いか****
・・・・ケニアがソマリア発の脅威すべてに対処するのは不可能かもしれない。しかしケニアはまともな国境管理さえ怠ってきた。ケニア軍は無能ではないが、海賊に大きな収入源がある限り、そしてソマリアに海賊行為を取り締まる強力な中央政府がない限り、ケニア軍だけでこの問題を解決できるとは思えない。

何とかキスマヨをアルシャバブから解放できたとしても、ソマリア南部のほぼすべての武装勢力がこの街を制圧するチャンスをうかがっている。
かといってキスマヨの管理をソマリア暫定政府に任せるのも良策とは言えない。暫定政府は確かに国際社会の承認を得ているが、その機能不全と腐敗ぶりは有名だ。地元住民にとって、暫定政府も同じパイに群がる利益団体の1つにすぎない。

アメリカも、この地域で最大の軍事力を誇るエチオピアも、ソマリア内戦を解決しようと試みて失敗してきた。ソマリアは氏族の縄張りによって国内が分裂しているため、内戦が複雑化・長期化する傾向がある。財政問題や政治課題も山積する。

多くのソマリア人は、アルシャバブとその残虐で非情な行為に終止符が打たれるのを心から願っているに違いない。だがアルシャバブが消滅したからといって、魔法のように平和が訪れるとは期待できない。ソマリアには、自分たちの邪魔をする者には誰だろうが戦いを挑む武装組織がうようよしているのだ。

それだけにケニア軍のソマリア駐留が長引けば、アメリカとエチオピアが痛い思いをして学んだのと同じことをケニアも学ぶ羽目になりかねない。どんなに純粋な意図があっても、ソマリアは自分の国に首を突っ込む者をたたきつぶそうとする、ということを。【11月9日 Newsweek日本版 アンドレア・ポーンステット】
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Twitterでの攻撃宣言、注意喚起
現在、ケニアの軍事作戦がどういう状態にあるのかはよくわかりませんが、11月1日にはケニア軍がツイッター上でソマリア10都市への攻撃を宣言し、住民への注意を喚起しています。

****ケニア軍がTwitterでソマリアに宣戦布告****
ケニア軍は1日、ソナリアの10都市へ攻撃を行うということを、公式ツイッター上で宣言した。
アルジャジーラ英語版によると、ケニア軍スポークスマンが、ソマリアの都市への攻撃を予告した。ケニア政府は、ソマリアの武装勢力によって国内で誘拐拉致事件が多発していると断定し、攻撃を行うことを決定した。
攻撃を行う上で、一般市民らに注意を呼び掛ける意味もあり、ツイッターで行った。【11月2日 MSN】**************************

このツイッター上での宣戦布告、住民への注意喚起については、グローバル研究グループの佐藤仁氏が詳しく論じています。

****ケニア・ソマリア紛争~Twitterによる攻撃宣言、注意喚起、戦況報告:「デジタル・デバイド」が生む「犠牲の格差****
・・・・今回のケニアとソマリアの紛争はリアルな紛争である。そのリアルな紛争での攻撃宣言、注意喚起、戦況報告を軍の公式Twitterを通してネット上で行うというのは新たなスタイルとして注目に値する。

「デジタル・デバイド」から「犠牲の格差」へ
一方で、ITUの発表している統計によると、インターネット普及率は2010年ケニアが20.9%、ソマリアは2009年に1.1%である。(2010年はデータなし)
ネットを見ることができる環境にいる国内外の人々は、これらのツイートで状況を把握することが可能かもしれないが、実際に現地にいる人々にケニア軍のTwitterでの攻撃宣言、注意喚起がいったいどれだけの人に届くことができているのであろうか。
本当にこのような情報が必要な人々に情報が届かないで犠牲になってしまうこともあるだろう。

ネットを介した紛争時の攻撃宣言、注意喚起、現状報告というのは今後の紛争時の情報伝達手段として新たな方式になるだろう。また、今までは反戦の署名を集めたり、政府間での交渉に頼らざるをえなかったが、国際社会はネットを通じて一般市民の戦争反対の声を直接政府、軍に伝えることもできる。今回のケニア軍もいくつかのリプライを返してフォロワーらとコミュニケーションをしている。

紛争時のメディアの在り方が変わりつつあることが理解できる。しかし、21世紀のリアルな紛争、内戦、武力行使の犠牲となる人々はインターネットにアクセスして情報収集することができる環境にはいないことが多いだろう。
情報にアクセスできる人々とできない人々との「デジタル・デバイド」が紛争時の「犠牲の格差」を生じることが大きな問題になる可能性が想定される。
紛争終了後に、何らかの形式で事前に通知していたという人道的な立場からも国際社会からの非難は軽減できる可能性がある。

しかし何らかの形式としてネット(Twitter)を用いたとしても、どの程度の人にまで情報が届き、攻撃前に避難することができるかが重要である。他にはICTの活用例としては、携帯電話でのSMS(ショートメッセージ)を活用した周知方法なども考えられる。いずれにせよ携帯電話の保有率やSMSを読める識字率を考慮する必要があるだろう。

今後は「デジタル・デバイド」が紛争時の「犠牲の格差」につながる可能性が出てくることを国際社会は認識する必要がある。
願わくは、あらゆる形式の紛争がなくなることを祈願している。
今回のケニア軍の戦況を伝えるツイートも早く終わり、平和になることを祈願している。
http://www.icr.co.jp/newsletter/global_perspective/2011/Gpre201114.html 【グローバル研究グループ 佐藤仁氏】
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なお10月24日頃、ケニアに続いて、リビアでの戦いを終えたばかりのフランスもソマリアへ軍事介入を計画しているとのTV報道が、「ヌーベル・オプセルヴァトワール」誌の情報としてありました。
ただ、フランス・サルコジ政権は欧州経済危機への対応でそれどころではないように思えますが・・・。
だからこそ、外に国民の目をむけさせるために・・・ということでしょうか。

ダダブ難民キャンプから10万人を移動
軍事介入に併せて、ケニア政府は、ソマリア難民キャンプがテロ組織の温床となるのを防ぐため、ソマリア難民10万人をソマリア国境から離れた別のキャンプに移す方針であることが報じられています。

****ソマリア難民10万人移動へ ケニア政府、テロ警戒****
ケニア東部にある世界最大のダダブ難民キャンプに住む46万人余りのソマリア難民のうち10万人を、ケニア政府がソマリア国境から離れた別のキャンプに移す方針であることが、政府と国連への取材で分かった。ケニア政府は、キャンプを運営する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に1日までに方針を伝えた。

ソマリア国境近くのキャンプには、イスラム武装勢力シャバブのメンバーや支持者もいると指摘される。ケニア側が、収容能力を超えているキャンプが組織の温床になることを懸念し、治安に配慮したことが移動の背景にあるとみられる。(中略)

移動の対象はここ半年前後でキャンプにたどり着いたソマリア人。移動先はダダブから700キロ以上離れたケニア北西部のカクマ難民キャンプで、現在約8万人のスーダン難民などが暮らしている。時期は未定だが、移動にはバスで4日ほどかかるといい、実際に移動を担うことになるUNHCRが検討を進めている。(後略)【11月2日 朝日】
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なお、周知のように、ソマリアもケニアも深刻な干ばつに見舞われており、ソマリアでは国連による飢饉宣言がだされています。
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ソマリア  外国人誘拐事件が相次ぐケニアが侵攻 飢饉で住民支持を失うアルシャバブ

2011-10-21 23:16:40 | ソマリア

(2月 首都モガディシオのAU部隊 “flickr”より By AU/UN_IST http://www.flickr.com/photos/au_unistphotoarchive/6222535967/

【「軽蔑にしか値しないこういった連中はとても人間とは言えない」】
事実上の無政府状態が続くソマリアの隣国ケニアでは、ソマリア武装勢力によって外国人が拉致される事件が相次いでいます。
この1か月の間にも、英国人女性とフランス人女性が、それぞれ別のビーチリゾートで誘拐されており、ケニアの観光産業は大きな打撃を受けています。

また13日には、ケニアのダダーブ難民キャンプで、支援活動を行っていたスペイン人女性2人が銃で武装したグループに連れ去られています。ダダーブ難民キャンプは世界最大の難民キャンプで、主にソマリアからの難民45万人が生活しています。【10月17日 AFPより】

今月1日に拉致されたフランス人女性が武装勢力による拘束中に死亡しました。
****ソマリア武装勢力に誘拐された仏人女性が死亡、仏外務省****
フランス外務省は19日、ケニア東部ラム島近くのリゾート地・マンダ島でソマリア武装勢力に誘拐されていたフランス人女性が死亡したと発表した。
死亡したのはマリ・デデューさん(66)。今月1日、10人ほどの武装集団がデデューさんを拉致し、誘拐を阻止しようとしたケニア海軍と戦闘を繰り広げたのち、ボートでソマリアに連れ去った。

外務省によると、解放交渉の窓口役となった人物から死亡の知らせを受けたという。また、死亡の経緯は不明としながらも、デデューさんの健康悪化が一因との見方を示した。デデューさんは数年前の事故で車いす生活を余儀なくされている上、末期のがんを患っており、数時間ごとに薬を飲む必要に迫られていた。(後略)【10月20日 AFP】
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ソマリア武装勢力は、死亡したマリ・デデューさんの遺体と引き換えに身代金を要求してきたと報じられてましす。こうした武装勢力に対し、サルコジ仏大統領は「このような言語道断な行為を働く者は、野蛮人の集団以外の何者でもない」と怒りをあらわにしています。

****ソマリアの武装勢力、仏人女性の遺体と引き替えに身代金を要求****
フランス政府は20日、仏人女性マリ・デデューさん(66)をケニアからソマリアに連れ去って拘束中に死亡させたソマリアの武装勢力が遺体と引き替えに身代金を要求してきたとして、この武装勢力を「野蛮人」と呼んで強く非難した。

仏政府は19日、デデューさんは1日、ケニアで武装勢力によってソマリアに連れ去られ、拘束されている間に死亡したと発表していた。
デデューさんは、数年前の事故で車いす生活を余儀なくされていたうえ、がんを患っていた。死因は、武装グループがデデューさんに薬を与えなかったためだとみられる。

ジェラール・ロンゲ国防相は、ニュースネットワークi-TELEに、「病気を抱えた高齢女性を誘拐し、薬も与えず敗血症で死に至らせた。そのうえ、彼女の遺体を売りつけようとしている!軽蔑にしか値しないこういった連中はとても人間とは言えない」と語った。
仏西部の汚水処理場を訪問していたニコラ・サルコジ大統領も、「このような言語道断な行為を働く者は、野蛮人の集団以外の何者でもない」とAFPに語った。

その一方で、ロンゲ国防相は、誘拐集団はソマリアの名を汚す例外的な少数派のごく小規模なグループだとして、軍事攻撃を加える考えはないと語った。
仏政府は、無条件でデデューさんの遺体を即時返還するよう、武装グループに要求している。【10月21日 AFP】
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アメリカのトラウマ
“誘拐集団はソマリアの名を汚す例外的な少数派のごく小規模なグループ”というのは、フランスとして軍事攻撃は行わない弁解みたいな発言です。
ソマリアでは、イスラム過激派組織アルシャバブが、最近首都モガディシオからは撤退したものの、依然としてソマリア国土の多くを実効支配しています。また、一連の誘拐事件にはアルシャバブのほか、海賊グループの関与も指摘されています。

アルシャバブは国連や欧米系NGOの活動を「スパイ」と見なして活動を禁じており、干ばつと飢饉に苦しむソマリアへの国際援助の障害となっています。

ソマリアでは90年代前半に国連PKOが展開されていましたが、映画「ブラックホーク・ダウン」でも描かれているように、93年、民兵のロケット弾攻撃により米軍単独作戦中のヘリ2機が撃墜され、この乗員救出に向かった米軍は激しい市街戦で大きな犠牲を出しました。
事件後、米兵の遺体が裸にされ市内を引きずりまわされている映像はアメリカ国内に大きな衝撃を与え、厭世感を強めたアメリカはソマリアから撤退しました。95年には国連PKOも失敗し撤退しました。

このトラウマを抱えるアメリカは、ソマリアのその後の無政府状態にもかかわらず、これに直接介入することは避けています。
そのかわり、2006年には、ソマリア国境でソマリ族の分離独立運動を抱えるエチオピアが、アメリカの支援のもとでソマリアに侵攻し、全土を掌握しました。
しかし、ソアリア国内の反エチオピア感情が強いことがあって、エチオピアもアフリカ連合にあとを任せる形で09年初頭までに撤退しました。

【「アルシャバブのいるところならどこであれ攻撃を行う」】
今度は、一連の外国人誘拐の舞台となっている、やはりソマリアの隣国にあたるケニアが、ソマリアに軍事進攻しています。

****ケニア、誘拐頻発でソマリア進攻 過激派、報復テロ警告****
ソマリア国境に近いケニア東部で外国人の誘拐事件が相次いだためケニア軍がソマリア南部に進軍、同国を拠点とするイスラム過激派組織アッシャバーブとの間で緊張が高まっている。アッシャバーブは軍が撤退しなければ、ケニア国内でテロを行うと脅迫している。(中略)

ケニア政府は一連の誘拐事件をアッシャバーブの犯行と断定して領土保全と被害者保護を理由に16日に約400人の部隊と戦車などをソマリア南部に派遣した。難民流入を防ぐため国境警備を強化する狙いもあるとみられる。アッシャバーブは関与を否定しているが、ソマリア暫定政府はケニア軍と協力してアッシャバーブの拠点を攻撃する方針を表明している。

アッシャバーブは国際テロ組織アルカーイダとの連携を表明し、ソマリア中南部の多くを実効支配。今年8月、首都モガディシオから撤退したが、今月4日にはモガディシオで自爆テロを起こし80人以上を殺害した。モガディシオでは18日にも、車を使った自爆テロが起き、少なくとも6人が死亡。ケニアのハジ国防担当相らがソマリア暫定政府幹部らと会談するため訪れていたときで、アッシャバーブの犯行とみられる。

アッシャバーブは「ケニア軍が撤退しない場合はケニアを攻撃する」と脅している。ソマリアには1992年に米海兵隊が派遣されたが、死傷者が続出して撤退。2006年にはエチオピアが軍事介入したが、反エチオピア感情が高まり、撤退している。【10月20日 産経】
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世界の警察官を自任するアメリカも直接介入したがらない、アフリカ連合のPKO活動も十分に機能していないソマリアに、自国でのテロ激化のリスクを犯してまでケニアが単独介入する意図も、また、どこまで介入する気なのかもよくわかりません。

介入意図については、単に“外国人の誘拐事件が相次いだため”というだけではないでしょう。アメリカとの関係が強いケニアですから、アメリかの要請を受けたもののようにも思えます。
拉致被害にあっている欧州各国からの働きかけもあるのでしょうか。
規模については、ケニアとしてもあまり深入りはしない、限定的な侵攻作戦ではないでしょうか。

ただ、ケニアは、ソマリア難民49万8000人近くを抱えています。1日当たりの到着難民数は、従来の1500人から減少しているとはいえ1000〜1200人とも言われています。
ケニアはソマリア難民がこのままケニア国内に定着してしまうことを懸念しており、難民が帰国できる状況を早期に作り出したいのも事実でしょう。

“AP通信によると、ソマリアでは17日、ケニア軍部隊が戦車や装甲車でアル・シャバブの拠点に向けて移動しているが、大規模な武力衝突は起きていない模様だ。アル・シャバブが既に敗走したとの情報もある。”【10月17日 読売】
また、“ケニアのジョージ・サイトティ国内治安担当大臣は15日、アルシャバブを「敵」と呼び、「アルシャバブのいるところならどこであれ攻撃を行う」と述べていた。” 【10月17日 AFP】とのことです。

無政府状態が続くソマリア情勢に転機?】
一方、国際支援をアルシャバブが妨害し、深刻な食糧危機に見舞われているソマリアに、アルシャバブを支援する国際テロ組織アルカイダが支援物資を送っているそうです。
首都モガディシオを撤退する状況となっているアルシャバブについては、“内部抗争や資金の欠乏、大衆支持の低下などによって、本格的な戦闘を断念せざるをえなくなったのではないか”との指摘があります。

****アルカイダ、食糧危機のソマリアを支援 米分析機関****
米国のテロ情報分析機関インテルセンターは14日、国際テロ組織アルカイダが、深刻な食糧危機に見舞われているソマリアに支援物資を送っていることを明らかにした。
同国のイスラム過激派組織アルシャバブとの緊密な関係を誇示し、ソマリア国民の間に支持基盤を確立する目的とみられる。支援物資の配給にあたっては、華々しい式典が開かれたという。

各援助団体によると、治安が悪化したソマリアでは、食糧や医薬品は武装勢力に強奪されるうえ、援助団体の職員も誘拐される危険があるため、定期的な支援物資の配送はほとんど不可能な状況だという。

アルシャバブは首都モガディシオで4年間にわたって暫定政府軍との攻防を展開してきたが、8月に突如、モガディシオに持っていた拠点のほとんどを放棄した。だが、依然としてソマリア国土の多くは、アルシャバブが実効支配している。
ソマリア情勢のアナリストらは、政府転覆に失敗したアルシャバブは内部抗争や資金の欠乏、大衆支持の低下などによって、本格的な戦闘を断念せざるをえなくなったのではないかと分析している。【10月15日 AFP】
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「国民は家にこもって雨を待つのだ。外国人のやっている難民キャンプには行ってはならん」(アルシャバブ広報担当)という、アルシャバブの住民無視の姿勢は住民の反発を買っています。
“ソマリアの食糧危機が深刻化する中、国際社会の支援を拒否し続けたアルシャバブは急速に住民の支持を失っている模様で、約20年間にわたって無政府状態が続くソマリア情勢は転機を迎えている。”
ケニアのソマリア侵攻も、こうした情勢変化を睨んでのことでしょう。
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ソマリア飢饉  南部全域に拡大の見通し

2011-09-03 20:33:30 | ソマリア

(“flickr”より http://www.flickr.com/photos/taoufiq/6022260908/in/photostream  By توفيق)

90日間で乳幼児約3万人が餓死
7月29日ブログ「ソマリア 深刻化する飢餓 武装勢力の壁に苦しむ支援活動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110729)などでも取り上げてきたように、過去60年で最悪の干ばつに襲われている東アフリカですが、内戦で実質的無政府状態が続くソマリアの混乱は特に厳しく、過去20年間のアフリカで最悪の食糧危機に苦しむソマリア南部2地域に、7月、国連は飢饉を宣言しました。
国連は、「1000万人が餓死しかねない」とも警告しています。
アメリカ政府は8月3日、過去90日間に5歳未満の乳幼児2万9000人以上が餓死したとの推計を発表しています。

支援活動を制限するアルシャバブ
しかし、武装勢力支配地域における援助団体による救済活動は困難に直面しています。
****ソマリア飢饉、支援を拒む過激派の正体*****
(イスラム過激派)アルシャバブは2010年以降、支配地域内における外国の支援団体の活動を禁じていたが、今年7月に入ってその措置を取り下げた。とはいえ、WFPをはじめとする大手支援団体に対しては、今後も活動を認めないという。

政治アナリストらは、飢饉宣言によってアルシャバブは難しい立場に追い込まれたと指摘する。食糧支援を受け入れなければ市民の不満が爆発する恐れがあるからだ。しかしアルシャバブ内の強硬派にとっては、欧米の組織が自分たちの支配地域で食料を配布する事態は受け入れがたい。
   
WFPによれば、アルシャバブの支配地域で飢えに苦しみながら、支援を受けられずにいるソマリア市民は200万人以上。WFPは今後も支援が必要な地域へのアクセス確保に努めると同時に、最後の手段として空中からの物資投下も検討している。

前述の報告書によれば、アルシャバブが欧米諸国やキリスト教と関係する慈善団体にとりわけ強い敵意を抱いているのは、組織内に入り込んだ外国人メンバーからの影響が大きいという。「アルシャバブ指導層が外国人メンバーから悪影響を受けているのは明らかだ」と、報告書には記されている。情報筋によれば、アルシャバブには外国からの聖戦士も数百人参加しているらしい。

アルシャバブは支援団体に対して、支配地域への「立ち入り料」として1万ドルを支払うよう求めている。さらに、「登録料」として1万ドル、「更新料」として半年ごとに6000ドルを要求。そのうえ、支配地域に運び込む支援物資の価格の20%相当、すべての車両に10%の税金を課している。【8月1日 Newsweek】
*****************************

飢饉はソマリア南部全域へ
その後飢饉の状況は更に悪化し、国連人道問題調整事務所は、飢饉は今後数日中にソマリア南部全域に拡大するとの見通しを示しています。

****ソマリア飢饉、南部全域に拡大の見通し 国連****
国連人道問題調整事務所(OCHA)は2日夜に発表した報告で、飢饉(ききん)が発生したソマリア南部の状態は、国際社会の大規模な支援にもかかわらず悪化しており、飢饉は今後数日中に同国南部全域に拡大するとの見通しを示した。
これによると国内避難民は減ってきているものの、栄養失調の人の割合や死亡率は上昇傾向にあり、伝染病も広がっているという。

国連は7月にソマリア南部のバクール地方とシェベリ川下流地方が飢饉の状態にあると宣言したのに続き、8月上旬には首都モガディシオと世界最大の国内避難民キャンプがあるアフグーィ回廊など3地域も飢饉の状態にあると宣言した。

国連の定義によると、飢饉になると全体の20%以上の世帯が極度の食糧不足に陥って人口の30%以上が急性栄養失調になり、毎日1万人当たり2人が死亡する状態になる。
国連によると、ソマリア、エチオピア、ジブチ、ケニア、ウガンダなど「アフリカの角(Horn of Africa)」と呼ばれるアフリカ大陸北東部では1240万人が過去数十年で最悪の干ばつの影響を受けて人道支援を必要としている。

イスラム過激派組織アルシャバブはモガディシオからは撤退したが、飢饉に襲われたソマリア南部の支配地域では依然として援助活動を制限している。【9月3日  AFP】
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【「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある」】
国連としても事態を憂慮し、常駐の国連難民調整官を派遣し、支援体制強化を目指しています。
****ソマリア飢饉 国連が支援テコ入れ 常駐調整官派遣へ****
干ばつで深刻な飢饉(ききん)が起きているソマリア南部に、国連が近く事務所を設け、常駐の国連難民調整官を派遣する。イスラム武装組織シャバブによる実効支配で国連はソマリア国内での活動を制限されているが、拠点を置くことで支援のテコ入れを図りたい考えだ。

グテレス国連難民高等弁務官が30日、拠点が置かれるエチオピア国境近くのソマリア南部ドローを訪れた。ドローには、食糧を求め逃れてきた難民数百家族が枯れ枝と古着で作った粗末なテントに暮らす。国連はNGOなどが始めた食糧配給センターなどを拡充、予防接種や簡単な診療を行う医療施設も設ける。
グテレス氏は現場で声明を発表し、「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある。(シャバブなど)すべての関係者は、援助の中立性を尊重してほしい」と訴えた。【8月31日 朝日】
*****************************

援助物資の横流しも
国連安全保障理事会は7月15日、ソマリアの治安が依然として劣悪で、飢饉が深刻化している状況に「重大な懸念」を示すとする報道陣向け声明を採択しました。
ただ、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、飢饉の対策に向けてOCHAが国際社会に要請した約10億ドル(約770億円)の緊急支援のうち、半分程度しか集まっていないとのことで、国際社会の取組は十分とは言えない状況です。

支援する側すると、財政的に余裕がない国内事情に加え、援助物資が飢えに苦しむ住民に届くのか確信が持てない状況もあり、支援への取り組みを鈍らせることにもなっています。

****日本からの援助物資、市場で販売…ソマリア****
飢饉が広がる東アフリカのソマリアで、日本などから提供された援助食糧が盗まれ、市場で販売されていることがわかった。 AP通信が15日、独自調査として報じた。

同通信によると、首都モガディシオの市場では、日本や米国際開発庁(USAID)、世界食糧計画(WFP)のマーク入りの袋に入った食糧が売られているという。WFPは同通信に、物資が盗難されている疑いが浮上し、2か月前に調査を始めたと明かした。
ソマリアでは300万人以上が食糧難に直面。国連や援助団体が国際社会に緊急援助の拡充を求めている。【8月16日 読売】
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【「アフリカが初めて連帯の精神を見せた」】
また、アフリカ諸国も支援に乗り出していますが、力の入れようは“いまひとつ”の感もあります。
****アフリカの角」飢饉でAU首脳会議、拠出額は270億円に****
アフリカ連合(AU)は25日、エチオピアの首都アディスアベバで、「アフリカの角」と呼ばれる大陸北東部の深刻な飢饉問題への資金拠出について話し合う首脳会議を開いた。

AU委員会のジャン・ピン委員長は、アフリカ開発銀行(AfDB)が長期的な事業の費用として拠出を約束した3億ドル(約230億円)にアフリカ各国や民間から拠出の表明があった金額を合わせると、最終的な拠出額は3億5170万ドル(約270億円)になったと述べた。
首脳会議の議長、赤道ギニアのテオドロ・オビアン・ヌゲマ・ムバソゴ大統領は「アフリカの問題を解決するために、アフリカが初めて連帯の精神を見せた」と資金提供の動きを歓迎した。

しかし、首脳会談に出席した各国の首脳は、エチオピアのメレス・ゼナウィ首相、ジブチのイスマイル・オマル・ゲレ大統領、ソマリアのシェイク・シャリフ・アハマド暫定政府大統領、赤道ギニアのヌゲマ大統領の4人にとどまった。(後略)【8月26日  AFP】
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【「世界で最も危険な亡命ルート」で、もうひとつの飢餓国へ
グテレス国連難民高等弁務官は「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある」と発言していますが、ソマリアでは生きていけない現実もあり、国外への脱出を試みる住民も多くいます。
しかし、命がけでアデン湾を越えて対岸のイエメンに逃れても、イエメン自体が、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国であるという厳しい現実があります。

****ソマリア難民を待つもう一つの飢餓の国****
最悪の飢饉から逃れるため、ソマリアを脱出する難民が行き着く先は、同じように飢餓と情勢不安が深刻化するイエメンという悲劇

内戦と干ばつにより、過去60年間で最悪の飢饉にあえぐソマリアでは、海を渡ってイエメンへ逃れる難民がここにきて急増している。
彼らは粗末な密航船にスシ詰めになって、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるアデン湾を横断する。しかし命の危険を冒してやっとたどり着く先は、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国だ。

8月だけでも、既に3700人のソマリア難民がイエメンへ流入。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、月単位では今年に入ってから最も高い流入率だという。ソマリア難民の流入は今に始まったことではない。例年、多くの難民船がソマリア北部の港町ボサソからイエメンにたどり着くが、今年はピーク時期が早まっているようだ。

ソマリア難民は、「不安定な治安や深刻な干ばつ、食糧価格の高騰や雇用難」から逃れようと、支援団体が呼ぶところの「世界で最も危険な亡命ルート」を渡ってイエメンを目指す。
「イエメンの情勢は極めて不安定だ。そんな国を逃亡先に選ぶということは、ソマリア難民がそれだけ死に物狂いだという証拠だ」と、UNHCRの広報官エイドリアン・エドワーズは先週末に語った。「彼らは、粗末な密航船に詰め込まれてアデン湾を渡る。危険な航海で命を落とす者も多い。月曜にも、ボートが転覆してソマリア人2人が溺死したばかりだ」

ケニアに流入する人数は減ったが
イエメンでは、今年初めからサレハ大統領の即時退陣を求めるデモが続き、治安と人道問題が悪化の一途をたどっている。その一方で、今や中東地域で2番目に多い19万2000人のソマリア難民を抱えている。UNHCRによれば、そのうち約1万5000人は今年に入ってからイエメン入りしたという。

他の周辺国の同じ状況かというと、そうでもない。ソマリアと国境を接するケニアでは、流入するソマリア難民の数は減少している。ケニアにいるソマリア難民は49万8000人近くに上るが、1日当たりの到着人数は従来の1500人から1000〜1200人にまで減少した。

それでも、UNHCRは今後数カ月の間で、イエメンにたどり着くソマリア難民の数はさらに増加するとみている。「家を捨てた多くのソマリア人が、既にボサソで待機しているとみられる。彼らは海が静まるのを待ってから、密航するつもりだろう」と、エドワーズは言う。【8月29日 Newsweek】
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アデン湾を渡る「世界で最も危険な亡命ルート」は、単にボート転覆などの事故だけでなく、法外な追加費用を要求して、払えない者を海に投げ捨てる・・・などの悪徳仲介業者が横行していることでも知られています。

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ソマリア  深刻化する飢餓 武装勢力の壁に苦しむ支援活動

2011-07-29 21:02:05 | ソマリア

(イスラム系の支援組織「Muslim Aid」による支援物資配布の様子 7月11日 ソマリア・モガディシオ “flickr”より By Muslim Aid Serving Humanity http://www.flickr.com/photos/muslimaiduk/5935953461/ )

【「1000万人が餓死しかねない」】
7月11日ブログ「東アフリカ 過去60年で最悪の干ばつ、避難先で餓死者」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110711
7月22日ブログ「ソマリア 南部2地域に飢餓宣言、今行動しないと地域拡大の恐れ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110722
に続いて、アフリカ東部・ソマリアの飢饉の話題です。

過去60年で最悪の干ばつに襲われている東アフリカですが、内戦で実質的無政府状態が続くソマリアの混乱は特に厳しく、過去20年間のアフリカで最悪の食糧危機に苦しむソマリア南部2地域に、国連は“飢餓”を宣言しています。
食料危機は、アフリカ北東部一帯に広がっており、国連は「1000万人が餓死しかねない」と警告しています。

****ソマリア大飢饉 370万人、生命の危機****
飢えから逃れ、戦乱の首都へ 干ばつのソマリア南部

20年以上内戦が続くソマリアの首都モガディシオは頻繁に銃声が響き、廃虚同然の建物が並ぶ。だが、こんな街に助けを求めに来る人が絶えない。深刻な干ばつによる飢饉(ききん)に苦しむ同国南部の人々だ。

モガディシオのバナディル母子病院を記者が訪ねると、2週間前に運ばれたムハンマド君(2)がいた。12キロあった体重はいま5キロ。350キロ離れた村から一緒に来たという父フセインさん(30)が嘆いた。
「村には4年間も雨が降らない。ヤギ200頭は売ったり死んだりで、いなくなった。家族皆が飢え、この子の異状に気づくのが遅れた。10日間歩いて首都に着き、救急車に助けてもらった」

病院によると、ムハンマド君と同様、重度の栄養失調で約250人の子どもたちが入院している。だが、薬や食糧が足りず、毎日2、3人が亡くなっているという。
ソマリア南部は暫定政府と対立する武装勢力が実効支配し、救援物資は届かない。人々は危険を顧みず、首都や周辺国に向かわざるを得ない。国連によると住民370万人の生命が危機に直面している。
国連機関などは、ソマリアを含む東アフリカ一帯が過去60年で最悪の干ばつに見舞われ、1200万人以上が支援を必要としていると訴えている。【7月27日 朝日】
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【「国民は家にこもって雨を待つのだ」】
緊急の国際支援が必要なソマリアですが、暫定政府と対立する武装組織の支配地域のため、救援活動も困難を極めているようです。
今朝のTVニュースでも、モガディシオかどこかの倉庫にうず高く積まれて支援食糧が放映されていました。国際支援が不十分な点もありますが、全く物資がない訳ではなく、住民に届けられないのが一番の問題となっています。

“国連が20日、飢饉が起きていると宣言したバクール地方とシェベリ川下流地方は、イスラム過激派組織アルシャバブが実効支配している。アルシャバブは2010年初頭、外国の支援団体に対し2年間の活動禁止令を出し、WFPもソマリアからの撤退を余儀なくされていた。
今月になって、アルシャバブは深刻な干ばつに苦しんでいる人民を助けたいとして活動禁止令の解除を発表し、支援を要請。これを受け、各支援団体はソマリアでの支援活動再開を検討していたが、暫定政府に任命されたばかりの女性・家族問題担当相が21日、アルシャバブに誘拐される事件が発生。武装勢力支配地域での支援再開の難しさが浮き彫りになった。” 【7月22日 AFP】

“南部を実効支配するイスラム武装勢力シャバブは、人々の困窮に向き合おうとしていない。広報担当ラゲ氏は20日の記者会見で、「国民は家にこもって雨を待つのだ。外国人のやっている難民キャンプには行ってはならん」。ラゲ氏は「スパイ活動」として2009年から禁じている国連や欧米系NGOの援助活動も、改めて禁止を通告した。深刻な飢饉を招いたのは、こうしたシャバブの強硬姿勢にあるのは間違いない。” 【7月27日 朝日】
「国民は家にこもって雨を待つのだ」とは、狂気としか言いようがありません。

動き出した支援活動
そうした困難な状況で、赤十字国際委員会や国連世界食糧計画(WFP)の支援活動が行われています。
****ソマリア干ばつ、武装勢力支配の一部地域に食糧援助****
赤十字国際委員会(ICRC)は24日、干ばつの直撃を受けたソマリア南部の武装勢力支配地域の1つゲド州バルデラに、食糧400トンを届けたと発表した。支援活動への妨害はなかったという。

ゲド州は、国連が飢饉宣言を出したバクール地方とシェベリ川下流地方に隣接しており、ともにイスラム過激派組織アッシャバーブが実行支配している。ICRC主導による住民への直接の食糧投下は2009年以来で、今後、追加の投下を予定しているという。【7月25日 AFP】
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****飢饉発生のソマリアへ、子供向け栄養食品を空輸 WFP****
国連世界食糧計画(WFP)は27日、干ばつによる被害が深刻なソマリアへの緊急食糧支援を開始した。首都モガディシオへ、栄養失調に陥っている数千人の子供向けにピーナッツ・ペースト10トン分を空輸した。
「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸北東部では、過去60年で最悪の干ばつが発生。ソマリアでの被害は最も深刻で、約1200万人が飢餓の危機にさらされている。
WFPのスポークスマンによると、栄養強化のためのピーナッツ・ペーストを毎月100トン、3万5000人の子供に供給する計画で、今回の空輸はその第1弾だという。【7月28日 AFP】
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予断を許さない状況
この飢饉が武装勢力の力を弱めており、和平実現の好機が生まれているとの見方もあります。
****干ばつ・戦闘、続く苦しみ 弱る武装勢力「和平の好機」 ソマリア飢饉****
・・・・一方、飢饉によってシャバブが弱体化し、和平の好機が生まれているとの皮肉な指摘もある。
07年から台頭してきたシャバブの勢いは、ここ数カ月間弱まり、かつてモガディシオでも6割を支配したが、今では3割程度に過ぎない。
「シャバブの資金源の一つは地元住民から徴収する『税金』だが、近年の干ばつで激減した。略奪を始めており、士気も落ちた。今後の戦略をめぐる内部分裂もある。結果的に和平実現の機運が到来している」。暫定政府の治安関係者は、そうした見方を示した。(後略)【7月27日 朝日】
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しかし、ことはそう簡単ではなさそうで、暫定政府・アフリカ連合ソマリア・ミッションとアッシャバーブとの交戦も伝えられており、予断を許さない状況です。

****飢饉のソマリア、首都で政府軍と反政府勢力が交戦****
飢饉に陥っているソマリアの首都モガディシオで28日、緊急援助物資の供給ルートを確保しようとする暫定政府とアフリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)の合同部隊と、イスラム過激派組織アッシャバーブとの間で戦闘が起きた。5時間にわたる戦闘で武装勢力10人と暫定政府軍兵士2人が死亡したほか、合同部隊の兵士2人と民間人27人が負傷した。

ソマリアを含む「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸北東部は記録的な大干ばつに見舞われ、1200万人あまりが飢餓の危機にさらされている。ソマリアでは、干ばつと絶え間ない紛争により、全人口1000万人のおよそ半数が支援を必要としている状況だ。

国連は今月、ソマリア南部に21世紀初の飢饉の発生を宣言。首都モガディシオでも数千人の子どもたちが飢えに苦しんでおり、国連世界食糧計画(WFP)が27日に緊急食糧支援を行ったばかり。【7月29日 AFP】
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英BBCによると、今回の作戦で暫定政府側がアルシャバブ支配地域の一部を制圧した模様で、WFPは今後、1カ月当たり100トンを目標に供給を続けるとのことです。
しかし、“ しかし、今月末ごろにはイスラム教の断食月(ラマダン)が始まり、宗教心が高揚することから、アルシャバブが反転攻勢に出る可能性も指摘されており、切迫した状態が続きそうだ。”とも報じられています。【7月29日 毎日より】

【「どこへそうした資金が流れたのか、何も分からない」】
ソマリアのアフメド暫定政府大統領は、アルシャバブと和平交渉を断固拒否する姿勢を崩していません。
****武装組織が支援阻止」アフメド・ソマリア暫定大統領****
干ばつにより飢饉(ききん)が起きているソマリアのアフメド暫定政府大統領が、朝日新聞のインタビューに応じた。飢饉は同国南部で深刻だが、この地域を実効支配するイスラム武装組織シャバブが支援活動を阻止しているとして、「シャバブのせいで被害が拡大している」と批判した。主なやりとりは次の通り。

 ――飢饉の理由は。
「干ばつはソマリアのほかの地域や、ケニアなどでも起きているが、問題は、シャバブや(シャバブと関係が深い国際テロ組織)アルカイダが支援活動を阻止している点にある。彼らがそうした地域を支配しているため、飢饉が深刻化しているのだ」

 ――暫定政府としての対策は。
「いくつかの避難民キャンプを作った。食糧や居住地を提供し、病気の拡大も防ごうとしている。外国からの送金の円滑化も進めている」

 ――内戦が20年以上続いている。飢饉を契機として、シャバブと和平交渉する考えはないのか。
「彼らも飢饉で苦しんでいる。だが、シャバブやアルカイダの目的は、ソマリアだけでなく世界を対象にしたテロ活動にある。交渉は絶対にしない」

 ――治安の問題もあり、首都モガディシオでは、外国の援助団体の姿がないが。
「それが問題だ。多くの資金がソマリアの飢饉のために使われたと言われているが、我々はその成果を見ていない。どこへそうした資金が流れたのか、何も分からない。ケニアを拠点にしている国連のソマリア関係事務所がモガディシオへ移り、生産的な仕事ができるよう望んでいる」【7月28日 朝日】
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“どこへそうした資金が流れたのか、何も分からない”というのが現実です。
反政府武装組織か、政府側か、あるいはNGOか・・・物資も資金もどこかに消え、戦闘に逃げ惑い飢えに苦しむ住民が残される・・・悲惨な現実です。
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ソマリア  南部2地域に飢餓宣言、今行動しないと地域拡大の恐れ

2011-07-22 21:00:41 | ソマリア

(著名な写真家James Nachtwayの作品 前回1992年のソマリアでの飢餓の際、死んだ息子を埋葬する母親 “flickr”より By Photo Tractatus  http://www.flickr.com/photos/photo-tractatus/4698209537/ )

過去20年間のアフリカで最悪の食糧危機
東アフリカの干ばつについては、7月11日ブログ「東アフリカ 過去60年で最悪の干ばつ、避難先で餓死者」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110711)で取り上げましたが、情況は芳しくないようです。
国連はソマリア南部2地域に「飢餓」を宣言しました。

****ソマリア南部2地域に飢餓宣言、国連****
国連は20日、ソマリア南部の反政府勢力が制圧している2地域で、飢餓が発生していると宣言した。最大で35万人が、過去20年間のアフリカで最悪の食糧危機の影響を受けている。
ソマリアを含む「アフリカの角」と呼ばれる地域全体では、干ばつの被害を受けた人は1000万人を超えている。

国連人道問題調整部(OCHA)によると、国連が飢餓を宣言したのはソマリア南部のバクール地方とシェベリ川下流(地方。どちらも国際テロ組織アルカイダの影響を受けた反政府イスラム武装勢力アッシャバブの支配下にある。
関係者らは、緊急に対策をとらなければ、飢餓地域は拡大する恐れがあると警告している。【7月20日 AFP】
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1991年以来、内戦がほとんど絶え間なく続き、実質的に無政府状態のソマリアは、これまでもたびたび干ばつに見舞われています。そのため、国民の4人に1人が国内避難民または国外への難民になっていると推定されています。

“現在、危機的な状態に陥っている人はソマリアの人口の半分に当たる370万人で、その数は今年の初めの240万人から、35%の増加となっています。また、危機的な状況にある人々の7割は、ソマリア南部に住んでいます。ソマリア南部では55万4000人の子ども、つまり、3人に1人が栄養失調となっています”【国連UNHCR協会ホームページ】

なお、国連の「飢饉」宣言は、(1)20%以上の世帯が極端な食糧不足に直面している (2)急性栄養失調の状態にある子どもが30%を超える (3)1日につき粗死亡率(Crude Mortality Rate)が1万人中2人に達する。(注:大多数の途上国では1万人に対して0.5人)という3点を基準に行われています。
ソマリア南部の一部ではすでに、栄養失調率は50%を超えていると伝えられています。

今回のソマリアの飢餓については、“エチオピア(2001年)、スーダン(1998年)、ソマリア(1991)年と同様レベル、またはそれを超えるレベルの飢饉と言われています。しかし、地域的な広がりとその深刻さを考えると、このたびの飢饉は1991年以来最悪の状態と言えます” 【国連UNHCR協会ホームページ】とのことです。

【「国連の飢饉宣言は世界に対する緊急の警鐘だ」】
国連のソマリア人道調整官マーク・ボーデン氏は、「いま行動を起こさなければ、農作物の不作と感染症の流行によって、飢饉は2カ月以内にソマリア南部の8つの地域すべてに拡大するだろう」と警告しています。

****帰ってきたソマリア飢饉、驚愕の死亡率****
国連は支援団体が安全に活動できるようイスラム過激派と対話中だが、アメリカの対テロ法が支援を阻む

国連は7月20日、21世紀初となる飢饉の発生を宣言した。場所はソマリア南部の2地域。深刻な干ばつと内戦、食料価格の高騰が相まって、多くの人が飢えに苦しんでおり、死亡した人も数万人に上る。

国連のソマリア人道調整官マーク・ボーデンによれば、飢饉宣言が出された南部のバクールとシェベリ川下流地域の現状は、国連による飢饉の定義以上に深刻で、ソマリアの人口の半数に相当する370万人が危機的状況にある。しかも、飢饉は今後さらに拡大し、ソマリアやエチオピアなどを含む「アフリカの角」の一帯では、干ばつ被害に苦しむ1100万人をめぐる状況は今後さらに悪化するという。

「いま行動を起こさなければ、農作物の不作と感染症の流行によって、飢饉は2カ月以内にソマリア南部の8つの地域すべてに拡大するだろう」と、ボーデンは語った。そして、雨季の10月に雨が降ったとしても、次の収穫があるとされる今年末までは状況が改善する見込みはない、と付け加えた。

繰り返される90年代初頭の悲劇
子供の急性栄養失調率が30%を超え、1日に1万人に2人が死亡している場合に、国連は飢饉を宣言する。ソマリア南部の一部ではすでに、栄養失調率は50%を超え、死亡率も国連が定める条件の3倍以上。「衝撃的な数字だ」と語るボーデンは、飢饉対策として今後2カ月間だけで3億ドルの援助が必要だと訴えた。
 
「国連の飢饉宣言は世界に対する緊急の警鐘だ」と、イギリスを拠点とする救援支援団体オックスファムの広報官アルン・マクドナルドは言う。「危機は数カ月前から始まっていたが、諸外国の篤志家や各国政府の反応は遅く、不十分だ。救助資金はまだ8億ドルも不足している」
ヒラリー・クリントン米国務長官は、ソマリア及び、毎日推定3500人のソマリア人難民が流入しているエチオピアやケニアに対して、2800万ドルの追加支援を行うと表明した。

ソマリアでは、90年代初頭にも飢饉で20万人以上が死亡した過去がある。「現在の(栄養失調)率は、91〜92年と似たような水準だ」と、ボーデンは言う。「今回の飢饉は過去20年間のソマリアで最も深刻な事態だ」
90年代初頭の危機の際には、アメリカは国連平和維持部隊の一部としてソマリアに介入。米軍ヘリ「ブラックホーク」が首都モガディシュで撃墜され、米兵18人が殺害されるという不名誉な事件につながった。

ソマリアは今も混乱状態にある。政府は十分に機能しておらず、国際社会の支援を受けた暫定政権と、アルカイダとつながりがある過激派組織アルシャバブの衝突が続いている。
飢饉が宣言された2つの地域はどちらも、アルシャバブの支配下にある。アルシャバブは09年後半以降、占領地域内に西側諸国の救援団体が立ち入るのを禁じてきた。今月になって禁止を解除したが、事態はすでに悪化していた。【7月21日 Newsweek】
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【「いかなる武装組織にも支援物資は渡さない」】
上記記事にもあるように、支援活動を阻んでいるのが、過激派組織アルシャバブによる実効支配の現実です。

****ソマリア飢饉、支援に「武装勢力支配」の壁****
国連世界食糧計画(WFP)と米国際開発局(USAID)は21日、国連が飢饉を宣言したソマリア南部2地域について、支援物資が必要とする人々に確実に届くことが確認され次第、食糧支援を開始すると表明した。
国連食糧農業機関(FAO)によると、ソマリアではここ数か月で飢餓による死者が数万人に上っている。

国連が20日、飢饉が起きていると宣言したバクール地方とシェベリ川下流地方は、イスラム過激派組織アルシャバブが実効支配している。アルシャバブは2010年初頭、外国の支援団体に対し2年間の活動禁止令を出し、WFPもソマリアからの撤退を余儀なくされていた。

今月になって、アルシャバブは深刻な干ばつに苦しんでいる人民を助けたいとして活動禁止令の解除を発表し、支援を要請。これを受け、各支援団体はソマリアでの支援活動再開を検討していたが、暫定政府に任命されたばかりの女性・家族問題担当相が21日、アルシャバブに誘拐される事件が発生。武装勢力支配地域での支援再開の難しさが浮き彫りになった。
USAIDのラジブ・シャー長官は21日、「彼ら(アルシャバブ)が約束をきちんと守るかをまずは注視したい」と述べた。

またWFPは同日、まず首都モガディシオに緊急支援物資を空輸し、南部地域へと支援を拡大する計画を発表。広報のグレッグ・バロウ氏はAFPに対し、「いかなる武装組織にも支援物資は渡さない」と述べ、現在、支援物質を送り届ける方法についてほかの国連組織と協議中だと説明した。

なお、国連児童基金(ユニセフ)は前週、アルシャバブ支配下にあるバイドアに初めて支援物質を空輸した。地元組織との緊密な連携のもと、物資が必要な人々に届いているかも監視されたため、支障なく行われたという。【7月22日 AFP】
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海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与する視野を
ソマリアは“海賊問題”が国際的関心事となっており、日本を含む各国が海賊対策の艦船等を派遣していますが、海賊問題の根幹にはソマリア本土の無政府状態・混乱があること、その陸上の問題に手をつけない限り海賊問題の解決もないことは国際的に共通の認識となっています。

P3C哨戒機2機、護衛艦2隻を派遣している日本は、ソマリアに近いジブチに新活動拠点(基地)を設けて海賊問題対応にあたっています。

****ソマリア海賊対策、手詰まり 自衛隊はジブチに新拠点****
アフリカ・ソマリア沖の海賊対策強化のため、自衛隊がジブチに新活動拠点(基地)を設けたことは、同国政府だけでなく同国に駐留する米仏両軍にも歓迎されている。しかし問題解決までの道のりは依然、遠い。根源的原因であるソマリアの無政府状態に収束のめどが立たないからだ。日本は「出口戦略」のないまま、複雑な地域問題への関与を深めたと言える。(中略)

海賊の襲撃は、自衛隊などが警戒監視、護衛活動を展開するアデン湾の長さ約900キロの「回廊」では減っている。しかし「そこから追い出された分がアラビア海やケニアの沖に拡散している。『いたちごっこ』の感がある」(日本船主協会会長の芦田氏)。
国際海事局(IMB)によると、ソマリアの海賊による襲撃の件数は、2008年の111件から09年には217件とほぼ倍増し、昨年も219件と高水準が続いている。

米議会調査局(CRS)の報告書は「海賊行為の増加は、戦乱が続くソマリアの不安定と法の支配の不在の結果だ」と分析する。自衛隊のほか、欧米諸国、中国、インドなどもアデン湾に艦艇や哨戒機を派遣しているが、「(問題解決の)答えは陸上にある」(カスパール駐ジブチ仏軍司令官)というのが関係各国の共通認識だ。

ユスフ外相は(1)ソマリアの暫定連邦政府(TFG)への支援(2)国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣(3)身代金の送金・洗浄ルートの断絶、などが必要だと説く。各国が陸上部隊を派遣することが前提となるが、1993年に兵士18人を戦闘で失った苦い経験を持つ米国は否定的だ。
結局、「海賊は減らない。むしろ増え続ける」(ユスフ氏)というのが、地元の見方だ。米国も、ソマリア問題の解決には「1世代はかかる」(フランケン・「アフリカの角」連合統合任務部隊司令官)と見ている。

■役割拡大、他国から期待
日本政府は開所式の翌日、P3C哨戒機2機、護衛艦2隻という現在の態勢のまま、自衛隊の派遣をさらに1年延長することを閣議決定した。
しかし、芦田氏は「海上警備の広域化」を求め、補給艦の追加派遣を要望している。海上自衛隊は「その余裕はない」という立場で、「脅威の拡散」に対応する態勢はできそうにない。
いずれにしろ、日本は事実上の「基地」までつくって海賊問題に本格的に関与する姿勢を示した以上、簡単に撤退するわけにはいかなくなった。

新美潤・駐ジブチ日本大使も「撤収する『大義』は当面見つからないのが実情だ。問題解決の即効薬も万能薬もない現状では『根治療法』として対ソマリア支援を行いつつ息の長い努力を続けていくしかない」と話す。
さらに「問題が長期化する可能性が高いことを考えれば、自衛隊の海賊対処活動を強化・拡充することには慎重な判断が必要だ」と指摘。「出口」が見えない現状では自衛隊の役割拡大に乗り出すべきではないとの考えを示した。

一方、米軍のフランケン司令官は「特定地域に限定して活動を考えることが許される時代はすでに過去のものとなった。日本の国民も今回開設した基地を考えるにあたって、そういう視野をもった方が良いかもしれない」と語り、日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与することに期待感を示した。ユスフ外相も、独立間もない南スーダンへの自衛隊派遣について「それは良いことだ」と歓迎する考えを明らかにした。【7月18日 朝日】
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“撤収する『大義』”を探しているような日本政府ですが、“日本が単に海賊対策にとどまらず東アフリカ・中東地域に広く関与する”方向で、前向きに見るべきではないでしょうか。
もちろん、アメリカですらしり込みしているソマリアへの即時のPKOなどは現実的には困難でしょうが、今回の飢餓対応にジブチの新基地活用は図れないものでしょうか。

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