孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア、人権問題へ米新政権の対応をうかがう 中国、「国情に合った人権発展の道を歩んでいる」

2020-12-30 22:53:29 | 人権 児童

(サウジアラビアで自動車を運転する様子をインターネット上で公開したルジャイン・ハズルールさん=2014年11月撮影、AP【12月30日 毎日】)

 

【サウジアラビア 女性活動家に禁錮刑  バイデン新政権の人権問題への対応をうかがう姿勢】

サウジアラビアでは、実力者ムハンマド皇太子が「改革」路線をとっているものの、あくまでも「上からの改革」であり、政府・王室の権威に逆らうような草の根的な人権活動は認められていません。

 

そのことを象徴しているのが、女性の自動車運転を解禁するという世界的に注目された「改革」の直前に、同様の要求を行っていた活動家十数人を一斉逮捕したことです。

 

****サウジ、著名女性活動家に禁錮刑 米新政権との問題化も****

サウジアラビアの裁判所は28日、著名な女性人権活動家のロウジャン・ハズルール氏(31)に禁錮5年8月の実刑判決を言い渡した。同氏の家族が明らかにした。

ハズルール氏は女性の権利擁護を求める少なくとも十数人の人権活動家とともに逮捕され、2018年から拘束されている。

地元紙によると、国の政治体制の変更を試み、国家安全保障を脅かした罪で起訴されていた。条件付きで刑が停止され、来年3月に釈放される可能性があるという。

国連の人権専門家はこれまで、ハズルール氏の起訴を「誤り」と非難。国連人権高等弁務官事務所も今回の有罪判決について「極めて問題だ」とツイッターに投稿し、直ちに釈放するよう求めた。

バイデン次期米大統領はこれまでサウジの人権対応を批判しており、今回の判決はムハンマド皇太子にとって両国関係を巡る問題になる可能性がある。【12月29日 ロイター】

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“条件付きで刑が停止され、来年3月に釈放される可能性がある”ということについては、“サウジの裁判所はハズルールさんへの判決で、判決前の拘束期間を含めて刑期の半分(2年10カ月)が経過後は保釈が可能になるとの条件をつけており、早ければ21年3月に保釈される。サウジ側は21年1月に発足するバイデン政権の出方を見極めた上で、対応を検討するとみられる。”【12月30日 毎日】とのこと。

 

トランプ政権より人権重視の立場をとると思われるアメリカ・バイデン新政権の出方を見ながら、ハズルールさんの刑期に対処しようということで、「カード」の1枚として利用する構えのようです。

 

そういう流れで、バイデン新政権の対応が注目されています。

 

****サウジ女性活動家に実刑 バイデン氏側近は非難、人権重視の姿勢反映****

サウジアラビアの裁判所が女性の権利拡充を訴えていた活動家に実刑判決を言い渡したことに対して、バイデン次期米大統領の側近が「不当な判決だ」と批判した。バイデン氏は対サウジ政策で人権問題を重視する姿勢を示しており、女性の地位向上も焦点の一つになりそうだ。

 

ロイター通信によると、実刑判決を受けたのは、ルジャイン・ハズルールさん(31)。女性の自動車運転禁止(2018年6月解禁)や、結婚や旅行をする際は男性親族らの許可が必要な「後見人制度」(19年8月一部緩和)の撤廃を訴える運動で中心的役割を果たしていた。

 

しかし、運転解禁直前の18年5月に当局に拘束され、今年12月28日に「公共秩序を乱した罪」などで禁錮5年8月の実刑判決を受けた。ハズルールさんは上訴する意向だという。

 

バイデン次期米政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)に起用されるサリバン氏はツイッターで「単に世界共通の権利を行使しただけで実刑判決を受けることは、不当であり問題だ。バイデン政権はどこで起きたかに関係なく人権侵害に立ち向かう」と判決を批判した。

 

米国務省のブラウン首席副報道官もツイッターで「実刑判決の報道を懸念している」と発信したが、サリバン氏の方が非難のトーンが強かった。

 

バイデン氏は大統領選前の10月に出した声明で、18年にトルコでサウジ人記者カショギ氏がサウジ当局者に殺害された事件を非難して「サウジとの関係を見直す」と表明。「相手国が安全保障上の緊密なパートナーであっても、米国は民主的価値観や人権の問題に優先的に取り組んでいく」との方針を示していた。【同上 毎日】

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ムハンマド皇太子に関しては、カショギ氏暗殺を指示したとの疑惑(多分、事実)がありますが、「安全保障上の緊密なパートナー」の実力者の人権無視の行動にどのように対応するのか、ハズルールさんの処遇に対する反応と合わせて、バイデン新政権の人権問題に対する試金石となりそうです。

 

【中国 「絶対的な報道の自由は誤り」「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」】

人権上の問題を抱える国は上記サウジアラビア以外にも多々ありますが(日本を含めてすべての国は大なり小なりの問題はありますが、特に“目立つ”という意味で)、中国もその代表的な存在。

 

「報道の自由」という観点では、世界最悪との評価も。

 

****取材で投獄のジャーナリスト、過去最多274人…中国は47人で2年連続ワースト****

米国の非営利団体「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ、本部・ニューヨーク)は15日、取材活動を理由に投獄されているジャーナリストが今月1日時点で、少なくとも274人に上ると発表した。1990年代前半の調査開始以降、最多を記録した。

 

国別では、中国が47人に上り、2年連続で最も多かった。これにトルコの37人、エジプトの27人、サウジアラビアの24人が続いた。新型コロナウイルスや政情不安に関する報道への締め付けが強化されているという。

 

CPJは、中国では、新疆ウイグル自治区で罪状が明らかにされないまま投獄されたり、新型コロナに関して政府の立場とは異なる報道を行って逮捕されたりしているとした。

 

世界で投獄されているジャーナリストの3分の2は、テロリズムなど反国家的な犯罪に関わったとして罪に問われている。エジプトと中米ホンジュラスで少なくとも2人が新型コロナに感染して死亡したという。【12月16日 読売】

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その中国の事態が懸念される案件はいろいろありますが、特に目下の新型コロナに関しては、武漢の実情を報じた市民ジャーナリストの張展氏が懲役4年の判決が出ています。

 

****武漢で取材の市民記者、年内に初公判 懲役5年の可能性も****

新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した中国・武漢で取材、発信していたことから拘束されていた市民ジャーナリストの張展氏の公判が、年内に始まることが分かった。張氏の弁護人が18日、明らかにした。張氏はハンガーストライキを行っており、健康状態が心配されている。

 

同ウイルスは昨年末、武漢で初めて確認された。中国政府は、初期の流行の隠蔽(いんぺい)や告発者らの口封じを図ったとして批判にさらされている。

 

元弁護士の張氏は今年2月に武漢入りし、ソーシャルメディア上で自身の実体験を発信。さらに、政府の対応を批判する文章も書いている。

 

AFPが入手した裁判所の発表によると、張氏は5月に拘束され、「社会秩序びん乱」の罪に問われている。この罪状は、反体制派の抑え込みに頻繁に使われており、有罪と認められれば、最高で懲役5年を言い渡される可能性もある。

 

張氏の弁護人は今週、上海の裁判所で今月28日に初公判を行うという通知を受け取った。

同弁護人によると、張氏は6月にハンガーストライキを開始。以後、鼻に管を挿入され、強制的に栄養を取らされているという。

 

ソーシャルメディアで広く拡散している文章の中で同弁護人は、張氏の体調は著しく悪化しており、頭痛やめまい、胃痛に悩まされていると明かしている。「24時間拘束され、トイレに行くにも介助を必要とする」状態だという。(中略)

 

張氏は武漢における当局の初期対応に批判的で、2月には、政府は「人々に十分な情報提供を行わず、ただ街を封鎖した」「これは甚大な人権侵害だ」とする文章を公開していた。

 

武漢で取材し当局に拘束された市民ジャーナリストは、張氏をはじめ4人。裁判に臨むのは張氏が初めてとなる。 【12月21日 AFP】

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結局、上海の裁判所は28日、懲役4年の判決を言い渡しました。

欧米はこの問題を批判しています。

 

****米とEU、武漢の市民記者の釈放求める****

米国と欧州連合は29日、中国・武漢から新型コロナウイルスの流行に関する情報を発信し、有罪判決を受けた市民記者、張展氏の釈放を中国に求めた。マイク・ポンペオ米国務長官は、ウイルスの流行の隠蔽(いんぺい)を図っているとして中国政府を批判をした。

 

元弁護士の張展氏はウイルスの流行初期、謎に包まれた病だった新型コロナウイルス感染症について、現地の情報をネットで発信。5月以降は拘束下に置かれ、28日に禁錮4年の有罪判決を受けた。

 

ポンペオ氏は中国に対し、張展氏の「即時かつ無条件の釈放を求める」と表明。「中国共産党は、重要な公衆衛生上の情報に関することであっても、同党の公式見解に疑問を投げかける人々の口を封じるためならば何でもすることを改めて示した」と批判した。

 

張展氏の釈放を求めたEUの外務省に当たる、欧州対外活動庁のピーター・スターノ報道官は、「信頼できる情報筋によると、張展氏は拘束中に拷問や虐待を受け、健康状態がひどく悪化している」と表明。張氏が「適切な医療支援を受けることが極めて重要」だと訴えた。EUは張展氏の他、香港の活動家12人の釈放も要求した。 【12月30日 AFP】

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中国・習近平政権は、こうした報道の自由に関する欧米の批判への反発を強めています。

 

****絶対的な報道の自由は誤り・欧米メディアは中国を滑稽に描く…習氏発言録****

中国の習近平シージンピン国家主席が、欧米などのメディアによる中国報道を批判し、絶対的な報道の自由は誤りであるとの考えを示した発言が、11月に出版された習氏の発言録に掲載された。外国での中国批判報道へ警戒感を示したものとみられる。

 

2016年2月に開かれたメディア関係者との会合での発言。習氏は欧米メディアを「色眼鏡で中国を見ており、中国を滑稽に描いている」と批判し、欧米などとイデオロギーが異なる場所で街頭での抗議行動やテロが起きれば「民主や自由を勝ち取ろうとする行動だと伝えるだろう」との見方を示した。「いわゆる『報道の自由』の本質を見極めねばならない」とも強調した。

 

習政権は、香港情勢や新型コロナウイルスへの対応を巡る欧米メディアなどの批判報道が国内に波及する事態を警戒しているとみられる。過去も含めた習氏の報道活動に対する発言を紹介することで、国内での宣伝体制のさらなる引き締めを図る狙いがあるようだ。【12月27日 読売】

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「報道の自由」のあり方に関する議論はさておいても、いまや押しも押されぬ大国となった中国が、なぜにそこまで国内の批判的言動を警戒・恐れるのか・・・「政権は批判されて当たり前」という日本にいる者としては、理解しがたいところがあります。

 

多少の批判を許したとしても、多くの中国国民は、経済的反映を実現し、国際社会で重きをなすようになった、また、新型コロナに関しても「世界で一番安全な国」になった、共産党の指導をおおむね肯定的に評価しているだろうに・・・。

 

中国政府は、新型コロナ・武漢に関しては、当時の状況を徹底して隠蔽したいようです。

 

****武漢を書いたら「売国奴」 作家が直面した冷たい暴力****

新型コロナウイルスで封鎖された武漢にとどまり、日々の暮らしや社会への思いをつづった「武漢日記」をネットで発信した女性作家、方方(ファンファン)さん(65)の作品が中国で出版できない状況になっている。本人が朝日新聞の書面取材に応じ、思いを吐露した。

 

「私は今、国家の冷たい暴力に直面している。こんな状況が長く続くとは思いたくないが、今はただ、この冷たい暴力がやむのを耐えて待つしかない」

 

方方さんによると、今年出版予定だった長編小説と、すでに出版の契約書を交わしていた作品の全てについて、複数の出版社から出版見送りの連絡を受けたという。

 

理由について明確な説明はなかったが、方方さんはこう受け止めている。

「全国各地の出版社が、みな突然私の作品の出版を取りやめた。上から何らかのプレッシャーがあったと考えるのが普通だ」

 

方方さんは都市封鎖直後の1月25日から3月24日まで、日々の思いを連日ブログに投稿。緊迫する街の空気や、友人の死に接した思いを描いた。政府の対応への疑問や批判も率直につづった60編の日記は「武漢の真実を伝えている」と評判を呼び、読者は中国国内外で1億人以上に達したといわれる。

 

「当局に目をつけられるのを嫌がり…」

だが4月、日記が「武漢日記」として米国や欧州など外国で出版されることが決まると、一気に風向きが変わった。「金もうけのために中国の恥を外国に宣伝している」「売国奴」など、ネット上には方方さんを攻撃する言葉があふれた。日記を支持した大学教授が処分を受ける事態も起きた。

 

方方さんの「武漢日記」は米英独仏などのほか、日本でも9月に出版された。

 

中国の出版関係者によると、中国国内でも日記の書籍化の話が出たことがあったが、4月以降、「武漢日記を出版する米国の出版社の全ての本が中国国内で販売差し止めになる」といううわさが業界に広がった。

 

実際米国出版社の販売差し止めはなかったが、日記の国内出版は立ち消えとなり、「当局に目を付けられるのをみんな嫌がり、方方作品から各社手を引いている状況だ」と明かす。

 

「ネットでの誹謗(ひぼう)中傷は今も相変わらずだが、それは気にしなければいいだけのこと。でも、一冊の本も世に出せないというのは、作家として心から悔しく、悲しくてたまらないことだ」

 

方方さんは取材に対し、こう続けた。

「閉じ込められた暮らしの中で、一個人が感じたことを全て書くのは許されないことなのだろうか?病人や死者に同情するのはいけないことなのだろうか?政府の対応が適切でなかったという親身な批判の声すら許されないのだろうか?」

 

そして、今の中国社会を覆う空気に対し、疑問を投げかける。

「私たちの言論空間はなぜこんなに狭くなってしまったのだろうか?中国は今や新型コロナの感染を完全にコントロールできている。それなのに、一体何を怖がっているのだろうか?」【11月28日 朝日】

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中国・習近平政権の人権抑圧的対応は新型コロナ報道にとどまりません。

 

****「国家安全」盾に接見拒否 中国、人権派弁護士ら拘束1年****

中国で昨年12月、国家政権転覆扇動容疑などで一斉に摘発された人権派弁護士らが、弁護人との接見や家族との手紙のやりとりができない状態が続いている。支援者によると、「国家の安全保障」を理由に容疑者や被告の人権が大幅に制限される事例が増えている。

 

「当局は法律を思うがままに解釈している」。拘束が続く丁家喜弁護士(53)の妻、羅勝春さん(52)は電話取材にこう訴えた。

 

米国在住の羅さんは昨年12月26日、北京の友人からのショートメールで丁氏が警察に連行されたことを知った。ハワイで合流し新年を一緒に過ごす計画について、2時間前に電話で話したばかりだった。以来、連絡がとれないままだ。

 

弁護士に何度も接見を掛け合ってもらったが、「捜査に支障がある」と許可されなかったという。夫に宛てた20通近い手紙も、警察は「上司の許可が必要」などとして渡すのを拒んでいるという。警察から届いたのは今年6月、丁氏の姉が受け取った「国家政権転覆扇動容疑で正式逮捕した」との通知だけだ。

 

「健康なのか、ひどい仕打ちを受けていないのか、何一つ情報はない。毎日焦りと不安の中で暮らしている」と羅さんは語る。

 

昨年12月26日に始まった一斉摘発では、丁氏のほか人権派弁護士や改革派の学者ら十数人が国家政権転覆扇動容疑で拘束された。多くは同月に福建省アモイであった会合に参加。一時拘束された弁護士によると、警察はこの会合に「海外勢力」から資金の提供があったと疑っていたという。

 

多くは釈放されたが、丁氏と法学者の許志永氏(47)は逮捕され、今も拘束が続く。許氏と親しい弁護士によると、許氏も2月に拘束されて以来、弁護人との接見が許されず、親族らの手紙にも返信がない。

 

一度は釈放された常イ平弁護士も10月になって再び拘束され、弁護人の面会は許可されていない。

 

■国連報告者「人権を無視」

人権を守る活動に関わる人々の状況を調べる国連のメアリー・ローラー特別報告者は16日に声明を出し、中国の弁護士らが国家の安全保障を口実に拘束されたり拷問を受けたりしていると指摘。常氏の事例に触れつつ、「当局は人権擁護者を再び拘束し、国家安全保障の脅威に仕立てた。人権無視を衝撃的な形で示した」と批判し、弁護士らの即時釈放を求めた。

 

中国の刑事訴訟法は容疑者や被告人が弁護人と接見する権利を認める一方、「国家の安全に危害を与える事件」では接見に捜査機関の許可が必要と規定。近年、これを理由に接見を拒む例が増えていると複数の弁護士が口をそろえる。

 

習近平(シーチンピン)指導部は、米欧諸国が人権派弁護士やNGOへの支援を通して中国の政治体制を揺さぶろうとしていると警戒し、「国家安全保障」の名の下、市民運動などへの弾圧を強めた。米欧への根深い不信は香港への対応にも表れており、香港国家安全維持法施行後、外国と結託したなどとして著名民主活動家らを相次ぎ逮捕、起訴している。

 

中国も未批准ながら署名した国際人権B規約は、すべての人に自分が選んだ弁護人に連絡する権利があると定めている。しかし、人権より国家や体制の安定を優先する習指導部の構えは鮮明だ。

 

世界人権デーだった今月10日、外務省の華春瑩報道局長は定例会見で、各国が中国の人権状況に懸念を寄せていることに「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」と反論した。【12月19日 朝日】

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「中国は国情に合った人権発展の道を歩んでいる」・・・「なんじゃ、それ?」ってところですが・・・。

もっとも“高須院長が村上春樹氏の発言を批判「先生は日本人ですか?」”【12月27日 東スポWEB】という日本の風潮も、“武漢を書いたら「売国奴」”と同じ発想です。

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美白  欧米では人種差別抗議とも連動して変わる扱いも アジア・アフリカで根強い「美白信仰」

2020-08-09 23:06:12 | 人権 児童

(アフリカ・モザンビーク 美白化粧品の広告 【1月4日 ファンファン福岡】)

 

【人種差別への抗議の動きを受けて、「美白」などの文言を排除するロレアル】

アメリカから欧州に拡散した人種差別への抗議の動きを受けて、化商品広告における「ホワイトニング(美白)」の扱いも変化しています。

 

****ロレアル、商品から「美白」などの文言排除へ*****

仏化粧品大手ロレアルは27日、自社商品から「ホワイトニング(美白)」などの言葉を排除すると発表した。世界各国では最近、人種差別に抗議するデモが広がっており、大企業の間でもこれに対応する動きが広がっている。

 

同社は短い発表文で、肌の色を均一にする製品から「ホワイト/ホワイトニング」のほか、色白を指す「フェア/フェアネス」、明るい色合いを指す「ライト/ライトニング」の文言を削除すると表明した。

 

米国で先月、黒人のジョージ・フロイドさんが警察の拘束下で死亡した事件は、世界各地で反人種差別運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」を巻き起こし、ロレアルなどの企業が展開する美白製品に対する批判にもつながっていた。

 

ロレアルに先立ち、英国・オランダ系の食品・日用品大手ユニリーバや、米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン、米食品大手マーズなども、自社製品の宣伝方法や商品イメージを変更する措置を取っている。 【6月28日 AFP】

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【アジア・アフリカで根強い「美白信仰」】

ただ、こうした動きは欧米におけるものであり、アジア・アフリカにおいては根強い「美白信仰」があるのは言うまでもないところです。

 

それが行き過ぎたり、人種差別的とみなされると騒動になることも。

 

「色の白いは七難隠す」という美意識の日本でも、大坂なおみ選手に関する「漂白剤」発言が問題になったことも。

 

****大坂なおみ選手には「漂白剤」が必要と……漫才コンビが差別発言で謝罪****

日本の漫才コンビ「Aマッソ」がイベントで、テニスの大坂なおみ選手(21)は「漂白剤が必要」などと差別発言をしたとして、所属事務所が謝罪した。

Aマッソはこのほか、「大阪選手は日焼けしすぎ」などと発言したという。(後略)【9月26日 BBC】

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中国では2016年、今や「伝説」ともなったCMでメーカーは謝罪に追い込まれました。

 

****黒人男性を洗濯して色白に、中国のCMが非難の的****

 黒人男性を洗濯機に入れて洗うと、色白の中国人男性に早変わり――。中国の洗濯用洗剤メーカーが流したそんなCMがネットで出回って人種差別的だとして非難の的になり、メーカーが謝罪した。

 

問題のCMは中国のメーカー、チャオビが制作した。色白の中国人女性の前に、顔や服をペンキで汚した黒人男性が現れる。女性は気があるように見せかけて、近寄ってきた男性を洗濯機に放り込み、ふたを閉めて洗濯を終えると、出てきた男性は色白の中国人男性に変わっているという筋書き。

 

チャオビはこのCMについて謝罪したものの、海外メディアが過剰に反応したと主張。「このCMが出回って過度に騒がれた結果、アフリカ系の人々を傷つけた。私たちはここに謝罪を表明し、インターネットユーザーもマスコミも過度な分析をしないよう願う」とした。「我々は人種差別には強く反対し、非難する」とも強調している。(後略)【2016年5月30日 CNN】

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アジア・アフリカの多くの国では「美白信仰」は単なる美意識ではなく、国内の格差、欧米白人世界による植民地支配の歴史などとも密接に結びついています。

 

そうした国では、女性の美白クリーム使用が一般的となっており、健康被害も深刻です。

 

****白い肌は美と富の象徴…浅黒い肌への偏見に立ち向かうインド****

インドのチャンダナ・ヒランさんは子どもの頃、見知らぬ人から肌の色を白くするよう勧められたものだった。現在、学生となったヒランさんは、美白クリーム反対運動を率いている。

 

英国・オランダ系の食品・日用品大手ユニリーバの有名な美白クリーム「フェア・アンド・ラブリー(Fair & Lovely、色白で美しい)」に反対するオンライン署名運動を立ち上げたヒランさんは、この商品は「もし肌の色が浅黒ければ、人生において何も達成できないと伝えている」とAFPに語った。

 

ヒランさんの運動は、ユニリーバが「フェア・アンド・ラブリー」の商品名から「色白」を削除したことで最初の勝利を収めた。仏化粧品大手ロレアルや米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンも同様の措置を取った。

 

世界各地に広がった反人種差別運動「黒人の命は大切」は、アジアの人々の白い肌への執着を浮き彫りにした。

 

多国籍企業は美、成功、愛は色白の人だけのものだというメッセージを宣伝することで、美白クリームや洗顔料、さらにはデリケートゾーンの漂白化粧水などの販売で長らく利益を得てきた。

 

ブルームバーグによると、ユニリーバのインドでの「フェア・アンド・ラブリー」の販売額は昨年は5億ドル(約530億円)に上った。

 

「黒人の命は大切」運動によって人種差別への怒りが欧米各地で高まる今、ユニリーバなどの企業は「より多様な美の描写を率先して称賛したい」と述べている。

 

インドでは、浅黒い肌に対する偏見「カラーリズム」がまん延している。

 

英国の植民地主義がカラーリズムを助長した一方で、こうした偏見は古くから続くカースト制度に根ざしていると専門家は指摘する。

 

「高カースト階級は、低カースト階級よりも色が白いという思い込みがある」と同国南部の都市ベンガルール(旧称バンガロール)のキリスト大学の社会学者スパルナ・カル氏はAFPに語った。

 

■生まれた時から偏見に直面

この結果、多くの人が白い肌を富や美しさと結びつけるようになっている。インド映画界「ボリウッド」は、肌の浅黒い女優をめったに主役に配置せず、都市部に住む社会的に成功した人をしばしば色白として描くことで、このような偏見を支えている。

 

カビタ・エマニュエルさんは2009年、学校を回り浅黒い肌への偏見改善を訴える「浅黒い肌は美しい」運動を始めた。エマニュエルさんは、偏見は生まれた時から始まると語る。「女の子なのに色が黒いなんて。やれやれ、誰がこの子と結婚するんだ」と言われるのだという。

 

東南アジアでも、人々は白い肌に執着する。

「白い肌は…『魅力的な人物』であることの一つの条件であることがえん曲的に言われている」と、フィリピン大学の医療人類学者ギデオン・ラスコ氏はAFPに語った。

 

美白製品は心理的なダメージだけではなく、健康に深刻な危険をもたらす。

一部の製品は有害なレベルの水銀を含んでおり、腎臓の損傷、皮膚病、精神病の原因となり得ると、世界保健機関は警告している。

 

活動家らはこれまでに根付いた偏見を変えるには、特に美白市場はもうかることから時間を要すると指摘する。

 

美白業界は世界の美容業界で急成長した分野の一つで、WHOは2024年までに市場規模は312億ドル(約3兆3000億円)になると予測している。人口13億人のインドでは、美白製品がスキンケア市場の約半分を占めている。 【8月9日 AFP】

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東南アジアでは比較的色白のベトナム女性が周辺国では好まれ、そのベトナムでは女性たちがバイクに乗るとき、暑い中でも長手袋でしっかり日焼け対策している光景をよく目にします。

 

一般的に、裕福な働かなくてもいい女性は色白・・・というイメージがあって、「美白信仰」を支えています。

 

日焼け対策はともかく、もともとの肌の色を「美白クリーム」で白くしようとすれば、深刻な健康問題を惹起します。

 

****危険と隣り合わせの美白、アフリカで広がる漂白クリーム****

自分の子どもの肌を漂白する母親たちの話を初めて耳にした時、医師のイシマ・ソバンデ氏(27)は学生だった。都市伝説だと思い、忘れてしまったが、その後しばらくして、実際に目にすることになった。

 

ナイジェリア南西部ラゴスの医療センターに、1人の母親が痛みで泣き叫ぶ生後2か月の赤ん坊を連れてきた。

「男の子の赤ん坊の体中に炎症性の腫れ物ができていた」と、ソバンデ氏はAFPの取材に語った。「普通では考えられない状態だった」。

 

肌を白くするため、ステロイドクリームとシアバターをまぜたものを赤ん坊の体にたっぷり塗ったと、母親は説明した。「がくぜんとした。痛々しかった」と、ソバンデ氏は言う。

 

ソバンデ氏はショックを受け、今では「ライトニング」や「ホワイトニング」と呼ばれる肌の漂白について以前とは異なる考えを持つようになった。多くのナイジェリア人にとって肌の漂白は、美と成功をもたらす「一般的な手段」となっているという。

 

「このような考えが社会をむしばんでいる。多くの人にとって漂白は、良い仕事に就き、良い人脈を得るための方法なのだ」

 

■有毒クリームのリスク

肌の漂白は、南アジアや中東を含む世界各地で人気となっている。だが、アフリカでは法の適用が厳しくなかったり、法律が軽視されたりすることも多く、肌の漂白が広まることで健康被害のリスクも高まっていると、医療専門家は指摘する。

 

文化保護団体は、肌の漂白を植民地時代の悪しき遺産とみなしている。

 

南アフリカのプレトリア大学の生理学教授、レスター・デービズ氏は、アフリカでは「特に10代の若者の間で(肌の漂白が)大幅に増加傾向にある」と指摘する。

 

世界保健機関(WHO)は2011年、ライトニング製品を「定期的に」使用している人は6000万人以上に上り、ナイジェリアだけでも女性の77%が使用していると推定している。

 

富裕層は一般に入手できる、高額な許認可を受けた製品を選ぶ傾向にある。それ以外の人々は、こっそり調合された密輸品のクリームなどを買うことが多い。このような製品は危険性が高く、明らかに法律や規制を無視して売られている。

 

中にはヒドロキノンやステロイド、水銀、鉛などが含まれている製品もある。エリザベス1世時代の廷臣たちは、顔を真っ白にするためこれらの成分が含まれたおしろいを塗っていたが、過剰使用で中毒死することもあった。

「これらの化学物質は呼吸器、腎臓、生殖器に損傷を与える」と、ナイジェリアの薬物規制当局職員は警告する。「がんを引き起こし、神経系に影響を及ぼし、胎児をむしばむ」

 

米国食品医薬品局(FDA)は、今日市場に出回っている製品でFDAの承認を受けているものはないと強調する。「これらの製品は危険で、効果もない。未知の有害成分や汚染物質が含まれている可能性もある」

 

ラゴスでは、コスメトロジストと呼ばれる美容専門家たちがこのようなクリームを調合している。販売価格は5000~2万ナイラ(約1500~6000円)だが、月の最低賃金が1万8000ナイラ(約5500円)のこの国では法外な価格だ。(中略)

 

■「メラニンは美しい」

(中略)米ノースカロライナセントラル大学の研究者ヤバ・ブレイ氏は、「肌の漂白は、白さと共に権力や特権を手に入れようとする人々の意識の表れだ」と指摘する。

 

「肌の色(を変えること)によって、自分にこれまで以上の価値があると認めてもらいたいと願う人々を多くみてきた」

 

最近は、このような認識を変えようとする動きが黒人たちの間で広がっている。

黒い肌をたたえるハッシュタグ「#Melaninpoppin(メラニンは美しい)」やほぼ全員黒人の出演者がアフリカ風の衣装を着て、自然なままの髪で演じている映画『ブラックパンサー』の大ヒットなど、長い間、欧州中心だった美の概念が変わり始めている。

 

だが、このような流れがアフリカに入ってきているかというのは別の問題だ。

 

ケニア北部出身で、ヴィクトリアズ・シークレットやヴィヴィアン・ウエストウッドのショーにも出たアジュマ・ナセニヤナ氏は言う。「私の美しさが祖国よりも外国で認められているのは事実だ」

「アフリカの業界では、肌の色が薄いほど美しいとみなされる。業界の考えが変わり、黒い肌を称賛するようになってほしい」と語った。【2018年9月2日 AFP】

*********************

 

“世界保健機関(WHO)の報告ではアフリカで美白に最も熱心なのはナイジェリアの女性で、77%が美白化粧品を使っているのだとか。2位からトーゴ59%、南アフリカ35%、マリ25%と続きます。”【1月4日 ファンファン福岡

 

【フランス 多くの女性たちが求めるのは「美白」ではなく、「肌のなめらかさ」や「輝き」、「透明感」などを持つ健康的な肌】

白い肌に憧れるアジア・アフリカの女性ですが、もともと肌が白い欧州・フランスでは事情が異なるようです。

 

****フランスで封印された「美白」 美白化粧品は“悪”なのかフランス人のホンネを聞いてみた****

反人種差別運動の波にのまれた化粧品業界

(中略)フランス化粧品最大手の「ロレアル」は6月、「美白(ホワイトニング)」「白」「明るくする(ライトニング)」などの言葉を、商品から削除することを発表した。(中略)

 

SNS上では、「そこまでする必要があるのか。やり過ぎではないか」といった反対の声も多く見られた。

そこで、フランスの人たちは率直にどう思っているのか、街で聞いてみた。

 

結果は、黒人や褐色の肌をもつ女性たちが「良いことだ。遅すぎた。もっと早くにそうするべきだった」などと賛意を示す一方、白人女性たちは「化粧品の名前を禁止することはやり過ぎだ。そこまでする必要はない」といった反対意見を持っていて、それぞれの肌の色によって概ね意見が分かれた。(中略)

 

そもそもフランスでは、日傘を使用する人はほとんどいない。(中略)日焼けした肌こそセクシーだと思われがちなフランス。そんな場所で日傘を差していると、「なぜ?」と言わんばかりの視線を投げつけられるのだが、そんなことは気にしていられない。私は日焼けを避けたいのだ。

 

「美白」とは「肌を白くすること」ではない?

そもそも、私はこれまで美白化粧品に対して誤った認識を持っていた。

「美白」=「肌を白くすること」だと勘違いしていたのだが、実は日本の美白化粧品には明確な定義があった。

 

美白化粧品とは、厚生労働省の認可を受けている美白有効成分を含む薬用化粧品(医薬部外品)で、美白有効成分とは、「メラニンの生成を抑え、しみやそばかすを防ぐ、あるいはこれに類似した効能があると認めた成分」と定義されている。また、美白化粧品は、肌そのものを白く変えるための化粧品ではないので、商品広告としても「使うほど肌が白くなる」などの表現は認められていない。したがって「美白化粧品」=「肌を白くする化粧品」とは言えないのだ。

 

大手化粧品Valmont(バルモン)CEOが今回の騒動を解説!

こうした「美白」についての考え方のずれは、実はヨーロッパでも存在する。

(中略)スイスの大手化粧品「バルモン(Valmont)」のソフィー・バン・ギヨンCEOがインタビューに応じてくれた。

 

ギヨン氏は、「美白(ホワイトニング)」と言うと、ヨーロッパでは多くの人が「ハイドロキノン」が入った医薬品を思い浮かべると指摘する。「ハイドロキノン」は、実際に「肌を白くする」効果が認められているが、安全面などの理由から現在EUでは医薬部外品への使用が禁止されており、化粧品に使用することはできない。(中略)

 

現在のヨーロッパでは、医薬部外品である美白化粧品は、「肌のしみやそばかすを防ぎ、透明感を与え、肌色を均一化させる」ものであり、その考え方は日本と同じだ。さらに、追加の成分こそ異なるものの、美白化粧品の基礎的なレシピはヨーロッパでも日本でも実はほとんど同じだという。

 

ところが、ヨーロッパでは「美白」化粧品の需要は多くない。何故なら多くの女性たちが求めるのは「美白」ではなく、「肌のなめらかさ」や「輝き」、「透明感」などを持つ健康的な肌(=la bonne mine)なので、基礎的なレシピがほとんど同じでも、「美白」を謳わない傾向にある。(中略)

 

そういった傾向や需要面から考えると、ヨーロッパにおいて商品から「美白=ホワイトニング」の言葉を消すことは、化粧品メーカーにとって大した打撃にならないと思われる。ヨーロッパでは「ホワイト」という言葉が差別的なイメージを与えることに加え、消費者が「ホワイト」を求めていないからだ。

 

多くのアフリカ系住民がいるヨーロッパと、そうでない日本では、反人種差別運動をきっかけに起こった「美白」化粧品をめぐる反応が異なるのは当然と言えよう。(後略)【執筆:FNNパリ支局長 石井梨奈恵】

********************

 

もっとも、欧米の化粧メーカーもアジア・アフリカで、美白を誘導する広告のもとで多くの「美白」化粧品を販売しているのも事実ですが。

 

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人種差別 フランス「皆、警察が嫌いだ」 イギリス「いまいましい黒人」 トランプ氏の分断・再選戦略

2020-07-07 22:02:07 | 人権 児童

(パリで差別と警察の暴行を訴えるデモ行進【7月7日 FNNプライムオンライン】)

【「僕は嫌いじゃないよ、だって僕は白人だから」】
フランス共和制の重要な理念は「自由・平等・友愛」であり、人種や宗教の違いによる差別をせず、助け合っていくのがフランス社会の伝統的な価値観・・・・のはずですが、そのフランスで、アメリカにおける黒人差別への抗議運動に連動する形で、フランス社会における人種差別への抗議運動が広がっています。

人種差別の象徴とされているのは、2016年に黒人のアダマ・トラオレ氏が3人の白人警察官に職務質問され連行される途中に死亡した事件であり、差別への抗議の矢面に立っているのは警察です。

****黒人アダマ・トラオレ氏の事件*****
黒人男性のアダマ・トラオレ氏は、2016年9月パリ北西部で口論から3人の治安部隊に拘束されたあと呼吸困難を訴え、移送される車の中で意識を失い、その後死亡した。

遺族は治安部隊の暴行と拘束方法が死亡の原因だと訴えたが、警察当局は検視の結果、トラオレ氏に持病があったと発表した。

問題はトラオレ氏を拘束した3人以外、逮捕の瞬間を目撃した人も、監視カメラの映像もなく、彼らの証言と検視官の判断のみで死因が結論づけられたことだ。

遺族側も担当判事側も死因が「窒息死」という点では一致している。だが、その原因が、暴行なのか持病のためなのかについては対立している。

事件が発生してからすでに4年近くが経つが、トラオレ氏の死因については、いまだに真相が明らかになっていない。【7月7日 FNNプライムオンライン】
****************

日本では、警察官に対しては「おまわりさん」というような信頼・親近感もありますが(もちろん、それとは異なる面もあります)、フランスでは、と言うより日本以外では事情が異なります。

そもそもの“高圧的”な存在に加え、“人種”に対する問題も指摘されています。

****フランス警察が抱える人種差別問題 現地在住の日本人が今も忘れない酷い扱い*****
アメリカのジョージ・フロイド氏の死をきっかけに広がった「#Black Lives Matter」は、フランスにとっても他人事ではありません。黒人差別や警察の横暴に対するデモが全土で行われています。
 
フランスでも2016年、黒人のアダマ・トラオレ氏が、3人の白人警察官に職務質問され連行される途中に死亡するという、フロイド氏と同じような事件が起きています。健康だった若い男性の突然死に、家族は死因の再調査を求めたところ、「圧死の疑い」という結果が出て、白人警察官による暴行死ではないかとされているのです。
 
コロナ禍の影響で10人以上の集会が禁止されているにも関わらず、若者を中心にフランス各地で計約2万3千人が集まるなど、フロイド氏の事件をきっかけに4年前の抗議活動が再燃しています。
 
とはいえ、警察はトラオレ氏の死の責任が自分たちにあるとは認めていません。国家警察委員組合も「警察による人種差別と暴力に関する議論は、政治的、イデオロギー的な少数派によって行われている。彼らは選挙や裁判において勝てないために暴動を起こしている」という声明を出しています。

ゼロトレランスが招いた警察からの反発
一方、警察を管轄するクリストフ・カスタネール内務大臣は、フロイド氏の事件を受けて、「フランスは警察、憲兵隊による人種差別に対してはゼロトレランス(一切許容しない)」、また「フランスでは(フロイド氏の事件のような)首を絞める拘束の仕方が今後行われないようにする」と発言し、警察からの反発を招いています。

大臣のこの発言後、フランス全土で警察官が大臣への怒りの表明として「手錠を地面に捨てる」という抗議活動をしています。
 
警察と人種差別へ抗議する人達との溝が深まるばかりか、大臣と警察も内輪もめを始めてしまいました。
 
そもそも日本とフランスの警察は、同じ治安維持を目的としている組織でもイメージはかなり違います。日本の場合は交番の存在もあり、犯罪に関することだけでなく、落とし物を届けたり、道を聞いたり、迷子を捜してもらったりするので、一般市民にとって身近な存在です。
 
それに比べ、フランスには交番はなく、パリ市内は基本的に1つの区に1つずつ、市町村にもそれぞれ1つの警察署があるだけです。日本の「おまわりさん」のような親しみのある呼び名もありません。
 
昨年、ガソリン税の値上げをきっかけにフランス全土に広がったデモ「黄色いベスト」などでも、警察官やパトカーが襲われたりするなど、一般市民との衝突や争いが多く見受けられます。
 
また、フランスで起こるデモや抗議活動では、「みんな警察を嫌っている」という文言がたびたび使われます。
 
フランスの警察というと、高圧的で、デモや暴動を鎮圧する役割というイメージが強く、少なくとも日本のような「市民を助けてくれる」という印象はないようです。
 
とはいえ、白人のフランス人に単刀直入に警察についてフランス人は警察が嫌いなのかと聞くと、「いや、嫌いということはない」「時と場合によるのでは?」と、あいまいな返事が多いのです。
 
ある50代の白人男性が「僕は嫌いじゃないよ、だって僕は白人だから」とはっきり言ったのを聞いた時は、ブラックジョークかと思いました。少なくとも警察官から不快な思いをさせられた経験のある白人は、私の周囲にはいません。
 
これは、フランスの警察には圧倒的に白人が多いことと深く関係していると思います。フランス人に「フランスで黒人の警察官を見た記憶がない」と言うと、「…いないことはないと思う」「少ないかもしれないけど、黒人警察官もいるはず」と言われました。

人種別の人口統計はありませんが、少なくともパリ市内を歩けば黒人はたくさんいます。その一方で、白人警察官は街中で見かけるのに、黒人警察官を見かけたことはありません。例えば、「フランス 警察」とインターネットで画像検索してみても、黒人の警察官はまず見つかりません。
 
また警察官全員ではないでしょうが、警察官の中に人種差別主義的な人が多いのは事実のようです。
 
例えば、6月5日に「StreetPress」というウェブメディアによって、フェイスブック上にある「TN Rabiot Police Officiel」という警察官のプライベートグループで、人種差別的、或いは外国人を揶揄・嘲笑する会話が数多くされていると暴露されました。

このグループのメンバーになるには警察官のIDなどが必要で、警察関係者約8000人登録していると報じられています。
 
このグループの目的は「公安・警察の仕事と使命に関する情報、討論」だったようですが、報じられたスクリーンショットは衝撃的なものでした。黒人に対する悪口(汚い言葉遣い)が散見され、「このような黒人を野放しにしているのがこの国だ」、「反白人主義の人間たち(=黒人)め」といったコメントがいくつもありました。

「フランスでは警察に遭遇すると危険を感じる人達が多く、私もその一人です」とテレビで話した黒人女性歌手の容姿を侮辱したり売春婦呼ばわりしたり、「この女の顔に排泄して顔じゅうに広げて変なことを言えないようにしてやりたい」などと、気分が悪くなるコメントもありました。

警察による暴行への抗議デモを中心になって行っているトラオレ氏の家族への中傷など、読むに堪えないような内容が少なくありませんでした。
 
StreetPressの報道を受けてTN Rabiot Police Officielには多くの非難の声が上がり、検察による捜査も行われているようです。このほか、WhatsAppというメッセージアプリで人種差別的なコメントをした6人の警察官に懲戒処分が行われたという報道もありました。
 
実際、黒人は街を歩いていると、よく職務質問されます。フランスのTF1というテレビ局では、「フランスの移民系の若者たちは、他の若者に比べて職務質問に合う可能性が20倍高い」という調査を紹介していました。またDIJONCTER.infoいうウェブメディアは「警察に殺された人の内90%は移民である」と述べています。(中略)

警察官の差別意識
でも、よく考えれば、警察官が高圧的な態度を取ることと、人種差別をすることは別の問題のはずです。本来なら、切り分けて考えるべきものでしょう。
 
高圧的な態度を取るのは、デモで暴徒を鎮圧するなど、いわゆる取り締まりにおいて必要とされているのでしょう。ですから、警察だからと親切さや優しさを期待することがそもそも間違っているのかもしれません。
 
では、なぜフランスの警察官には差別意識を持つ人がいるのでしょうか。
 
人種差別に関しては、元々の思想の問題でもあります。フランスの警察官は半数以上が右派を支持していて、左派を支持する割合は10%以下という調査もあります。そして右派は「反移民」をスローガンに掲げています。
 
フランスに移民として住む外国人にそもそも良い感情を抱いておらず、しかも移民の中にはオーバーステイ(ビザの期限が切れているのに帰国しない)など不法滞在者がいるのも事実です。そういった取り締まりも警察が行っているわけで、白人を職務質問しても自国民のフランス人である可能性が高く、自然と「外国人」の可能性の高い黒人やアジア人に目が行くのかもしれません。
 
加えてフランスの近代警察の発祥は、植民地からの移民や貧民の統制、抑え込みであったと言われています。一般的に、移民は貧困層の地区に住んでいる人も多く、そのような地区は犯罪率が高いというイメージもあり、差別意識を持つ根底には移民問題や犯罪率などが複雑に関係しているのでしょう。
 
しかし、肌の色だけで黒人やアジア人を何かと疑ってかかり、相手をはなから犯罪者扱いして威圧したり、ケガをさせたりすることは許されません。(後略)【7月6日 ヴェイサードゆうこ氏 デイリー新潮】
*******************

【「奴隷制はジェノサイドではなかった。でなければ、アフリカや英国にこれほど多くのいまいましい黒人はいなかっただろう。」】
イギリスでも人種差別への批判が高まっていますが、そうした中で、ある意味“差別する側”の本音を示したような騒動が。

****英歴史教授、ケンブリッジ大を辞任 奴隷制めぐり「いまいましい黒人」と発言****
「奴隷制はジェノサイド(大量虐殺)ではなかった」と発言した英国の歴史学者が、ケンブリッジ大学の名誉フェローを辞任したことが分かった。出版大手ハーパーコリンズも、今後は同氏の著書を出版しないと発表した。
 
デービッド・スターキー教授は、英チューダー朝が専門。チューダー王家が英国を治めていた1500年代は、欧州諸国がカリブ海や南北米大陸で植民地を拡大し、奴隷貿易が盛んに行われていた。
 
スターキー氏は6月30日、右派の英国人コメンテーター、ダレン・グライムズ氏とのオンラインインタビューで「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動について、「米国の黒人文化の最悪な側面」を象徴していると発言。次のように続けた。

「奴隷制はジェノサイドではなかった。でなければ、アフリカや英国にこれほど多くのいまいましい黒人はいなかっただろう。かなり大勢が生き残ったということだ」

「英国では1830年代に奴隷制を廃止したが、ほぼ同時にカトリック教徒解放が起きた。われわれは、それについてわめき散らしたりしない。歴史の一部であり、もう解決された問題だからだ」
 
この発言に対し、パキスタン系のサジド・ジャビド前英財務相は今月2日、ツイッターへの投稿でスターキー氏を「人種差別主義者」と非難した。ジャビド氏は以前から、パキスタンから英国に来た父親が差別に直面したことを語っている。
 
ジャビド氏のツイートが英メディアで報じられた翌日、ケンブリッジ大学フィッツウィリアム・カレッジはスターキー氏の辞表を受理した。また、スターキー氏が客員教授を務めていたカンタベリー・クライスト・チャーチ大学も、同氏を解任した。
 
ハーパーコリンズ英国法人は、スターキー氏の見解を「道徳的に許し難い」と指摘。同氏の著作の出版は今後一切行わないと表明するとともに、同社から出版された過去の著作についても、同氏の発言や見解を踏まえた再調査を行っていることを明らかにした。 【7月6日 AFP】
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【トランプ氏の新たな戦略は、リベラル的価値観と戦う「文化戦争」】
一方、一連の人種差別批判の震源地アメリカでは、トランプ大統領は差別批判を逆手にとって、抗議行動への白人保守層の不満・不安を煽る形で、自身の再選に向けた推進力に変えようとしています。

****トランプ政権、機能不全 分断・権力乱用の果て、自分第一に変質 アメリカ総局・園田耕司****
6月20日、米オクラホマ州タルサで開かれたトランプ大統領の選挙集会の参加者はほとんど白人で、マスクを着けていなかった。

赤い帽子の老夫婦は、イリノイ州から10時間かけて車を運転してきたと笑ったが、人種差別抗議デモについて聞くと顔を曇らせた。「『黒人の命も大事』と言うけど、みんなの命が大事だ。彼らは店を燃やすなどしているからね」
 
トランプ支持者は被害者意識と攻撃性を併せ持つ。白人優位からマイノリティー優位の社会に変わるという恐怖感。社会の多様化を後押しする民主党やメディアへの嫌悪感。そんな彼らが応援するのがトランプ氏だ。
 
新型コロナウイルスの直撃で、好調な経済を強みとしてきたトランプ氏の大統領選再選戦略は破綻(はたん)した。しかもコロナ対応の遅れなどが批判され、「人々の関心を変える必要が出てきた」(元トランプ政権高官)。そこにミネアポリス事件が起きた。
 
トランプ氏の新たな戦略は、リベラル的価値観と戦う「文化戦争」だ。人種差別抗議では警察側に立ち「法と秩序」を訴える。マスクを着けなかったのは支持層と重なる右派が「個人の自由」から着用に反対するからだ。
 
だが、文化戦争は社会の分断を深める。6月末には白人男性が「ホワイト・パワー(白人の力)」と叫ぶ動画にトランプ氏は「素晴らしい人たち、ありがとう」とコメントをつけてツイッターに投稿。世論調査で民主党のバイデン氏に差を広げられつつある中で、人種差別的な言葉を使ってでも中核の支持者を固めようとしている。(後略)【7月6日 朝日】
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ほかにも、以下のような“敢えて対立をあおるような”言動が報じられています。

“「米英雄の国立公園」新設…トランプ氏の突然の提案に浮上する疑問”【7月6日 朝日】
“黒人レーサーの告発は「作り話」=トランプ氏が一方的非難―米”【7月7日 時事】
“米先住民由来チーム名変更に異議 トランプ大統領、配慮しすぎと”【7月7日 共同】
“トランプ米大統領、南軍旗を擁護 白人保守層にアピール”【7月7日 共同】

このあたりが並みの政治家とは異なる、どうしたら支持者の心をつかめるかを熟知しているトランプ大統領の真骨頂であり、彼が大統領になれたのも、また、再選を狙う位置にあるのも、このしたたかさがあってのことでしょう。

ただ、トランプ氏自身はそれで再選できるかもしれませんが、引き裂かれたアメリカ社会はどうなるのか?
そんなことにはお構いなしのトランプ大統領です。

 

【中国・日本では】

欧米だけの問題ではありません。

中国も黒人差別が顕著な国で、新型コロナに関して広州で黒人がアパートから追い出される、レストラン・タクシーも黒人を拒否するといった騒ぎがあり、アフリカ諸国が抗議するといったこともありました。

日本では、表立った露骨な差別はさほど多くないようにも見えますが・・・・どうでしょうか?
“言葉だけのリスペクトでは「無意識の差別」は防げない 歴史や文化に興味を持たない日本人が犯している罪”【7月7日 47NEWS】

 

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「ウイグル人権法案」に署名したトランプ大統領、暴露本では・・・ “消毒”された文化

2020-06-18 22:45:38 | 人権 児童

(4/13 中国の国旗だらけの商店街を歩くウイグル族の男性たち カシュガル【5月20日 WIRED】)

【「ウイグル人権法案」に署名したトランプ大統領 暴露本では習氏に「ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」とも】
アメリカ議会が可決していた「ウイグル人権法案」にトランプ大統領が署名したことで、同法案が成立しました。
人権問題にはあまり関心がないトランプ大統領としては中国との「取引」を難しくし、新たな火種を抱え込む同法案には消極的でしたが、対中国批判を強める議会の流れに乗った・・・と言うか、乗るしかなかったというところでしょう。

****米ウイグル人権法成立 トランプ大統領が署名 中国の反発は確実****
トランプ米大統領は17日、中国新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族らを弾圧する中国当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、同法は成立した。

中国はウイグル問題を絶対に譲歩できない「核心的利益」と位置づけており反発を招くのは確実だ。新型コロナウイルスへの対応や香港への統制強化を巡って対立する米中は、新たな火種を抱えることになる。
 
ウイグル人権法は、米政府が180日以内に弾圧に関与した中国の当局者や個人のリストを作成し、議会に報告するよう求めている。対象者には査証(ビザ)発給の停止や米国内資産の凍結などの制裁を科すよう要請する。

また、中国当局が弾圧に使用している顔認証システムなどの先端技術を使った製品の対中輸出制限も盛り込んだ。

トランプ氏は、同法の一部について、大統領の権限を制限する恐れがあるとして「勧告であり、法的拘束力はない」とする声明を出した。
 
米国務省が6月10日に発表した「世界の信教の自由に関する2019年版報告書」では、ウイグル族など100万人以上の人々が施設に収容されて強制労働をさせられているなどと指摘している。
 
法案は、共和党のマルコ・ルビオ上院議員ら超党派のグループが提出し、5月27日までに上下院で圧倒的な支持を得て可決。ホワイトハウスに6月8日に送付されていた。

ルビオ氏は「ウイグル族を支援し、中国の甚だしい人権侵害に対抗するための歴史的な一歩だ」とのコメントを発表した。
 
米政府は、中国によるウイグル族らへの弾圧を繰り返し批判してきたが、トランプ氏自身は対中貿易協議への影響なども踏まえ、これまであからさまな批判は避けてきた。

昨年9月に国連本部で信教の自由擁護に関する国際会合を主催した際も、ペンス副大統領が中国を名指しで非難する一方で、トランプ氏はウイグル問題に触れなかった。
 
新型ウイルスへの対応や、中西部ミネソタ州の黒人男性暴行死事件の抗議デモに強硬姿勢を示したことで、国内ではトランプ氏への批判が高まっている。法案に署名をせずに、拒否権を行使したとしても、上下院による再可決で成立するのは確実。

こうした状況を踏まえ、署名することで改めて対中強硬姿勢を示すことにしたと見られる。【6月18日 毎日】
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興味深いのは、たまたまなのか、意図的なのか、同じ日に、ボルトン前大統領補佐官の「トランプ大統領は、習近平主席に対し、ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」という暴露本内容が報じられていることです。

****「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」ボルトン氏が暴露****
昨年9月に更迭されたボルトン前大統領補佐官がトランプ政権の内幕を暴露した回顧録の一部が17日、明らかになった。

ボルトン氏によれば、トランプ米大統領は昨年6月、中国の習近平国家主席との会談で、自身の大統領選再選に協力してくれるように懇願したという。

弾劾(だんがい)裁判に発展した「ウクライナ疑惑」に続き、外国政府に大統領選への介入を促したと受け取られかねない発言であり、大きな批判を浴びそうだ。
 
複数の米メディアが17日明らかにした。ボルトン氏の回顧録によれば、トランプ氏は昨年6月29日、G20出席のために訪問した大阪での米中首脳会談の席上、中国の経済力について言及し、習氏に対し自身が大統領選で勝つことが確実になるように懇願。そのうえで選挙においては農家を始め、中国が大豆と小麦の購入を増やすことが重要だと強調したという。
 
トランプ氏はまた、同じ大阪でのG20の開幕式の晩餐(ばんさん)会で、通訳だけを交えて習氏と会談。習氏が中国新疆ウイグル自治区での強制収容所の必要性を説明したところ、トランプ氏は習氏は強制収容所の建設を進めるべきだと語ったという。
 
トランプ政権は中国をロシアと並び「競争国」と位置づけており、米中間の貿易紛争など対立関係を深めてきた。だが、実際の交渉の場ではトランプ氏が習氏に対して再選への協力を要請するという選挙介入を促したと受け取られる発言をしたり、ウイグル族への人権弾圧に理解を示したりしたことが暴露された格好となり、大統領選に向けたトランプ氏の選挙運動に大きな打撃となる恐れがある。
 
回顧録のタイトルは「それが起きた部屋 ホワイトハウス回顧録」で、今月23日に出版予定。しかし、トランプ氏は15日、「(自身との会話は)極めて機密性が高い」と述べ、出版は「刑事責任に問われる」と警告。ホワイトハウスは16日に出版停止を求めて提訴しており、法廷闘争に発展している。【6月18日 朝日】
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「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」に対し、習近平主席の方も「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」と秋波を送っていたとか。

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ボルトン氏は、18年12月にアルゼンチンであった米中首脳会談の様子も紹介。習氏が「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」などと、再選に期待する発言をしたと明らかにした。この時もトランプ氏は中国による農産物購入増加を求め、引き換えに関税を下げることを示唆したという。
 
米中は当時、通商交渉の途中だった。今年1月には「第1段階の合意」に署名し、中国は米側に対し、大豆や小麦などの農産物を今後2年間で計800億ドル輸入することを約束した。【6月18日 朝日】
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ウイグル族の問題に関連する人権問題への意識としては、“19年6月に香港で「逃亡犯条例」をめぐって大規模なデモが起きた際には、ボルトン氏に「巻き込まれたくない」と話したという”【同上】とも。

また“トランプ大統領について「陰謀論などにこだわる一方、政権運営について無知」と酷評し、「テレビのショー」となる機会を常にうかがっていたと厳しく批判した。”【6月18日 共同】とも

ホワイトハウスはこうした暴露本内容を否定しています。

****ボルトン氏の暴露「事実無根」=米高官****
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は17日、トランプ大統領が中国の習近平国家主席に再選に向けた支援を要請したとするボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録の内容について「全くの事実無根だ」と強く否定した。上院財政委員会の公聴会で語った。
 
ライトハイザー氏は、トランプ氏が習氏に支援を求めたとされる昨年6月の大阪での会談に同席していた。回顧録の内容に関し「そんな(支援要請という)とんでもないことがあれば、忘れるはずがない」と強調。ボルトン氏の主張に「絶対にない。全くばかげている」と反論した。【6月18日 時事】 
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もっとも、トランプ大統領が自身の再選のために習近平主席と「取引」しようが、人権問題に無関心だろうが、国家権力に盾突く連中は「テロリスト」として厳しく取り締まるべきと考えていようが、テレビ演出のことしか考えていなかろうが・・・今更誰も驚きません。

事実かどうかは知りませんが、問題なのは「彼だったら、そう言うだろうな・・・」と思える人間が、アメリカ大統領というポジションにいることでしょう。

【海外在住ウイグル人 旅券更新停止で、帰国して拘束されるか、不法滞在で怯えて暮らすかの選択】
ウイグル族の問題に関する報道は最近はあまり目にしませんが、海外在住のウイグル族が、パスポートの更新が停止しているため、また、滞在国(多くはイスラム国)の中国への配慮もあって、拘束される危険を冒して帰国するか、そのまま不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという選択を迫られている実態を報じた記事が下。

****帰国すれば拘束の危険も…中国、海外在住ウイグル人の旅券更新停止****
サウジアラビアに留学中のウイグル人男性は、目に涙を浮かべながら、とっくに期限が切れている中国の旅券(パスポート)を見せた。サウジアラビアと中国は関係を深めていることが、この男性の未来をさらに不透明にしている。
 
駐サウジアラビア中国大使館は、2年以上前からイスラム系少数民族ウイグルのパスポートの更新を停止している。活動家らはこれを、国外に住むウイグル人を強制的に帰国させるために多くの国で中国政府が実施している圧力戦略だと指摘する。
 
AFPはサウジアラビア在留のウイグル人6家族のパスポートを確認したが、いくつかの有効期限は切れており、期限が迫っているのもあった。中国では100万人以上のウイグル人が強制収容所に拘束されていると考えられており、この家族らは口々に帰国するのは怖いと訴えた。(中略)

現在、サウジアラビアのウイグル人には、中国へ帰国する場合にだけ適用される片道の旅行証が提供されている。ウイグル人らは、拘束される危険を冒して帰国するか、サウジに不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという不可能に近い選択を迫られている。(中略)
 
■沈黙を守るイスラム教国
ウイグル人コミュニティーをさらに不安にさせているのは、ウイグル人に対する中国の扱いに対し、パキスタンからエジプトまでイスラム教徒が大半を占める国々が沈黙を守っていることだ。これらの国々は、経済的な影響力が大きい中国と対立することを避けているのだ。(中略)
 
■中国帰国後、消息不明に
サウジアラビアに在留するウイグル人はわずか数百人と推定されている。主に神学校の学生、貿易業者、亡命希望者などで、その多くは中国で拘束されている家族とのつながりが絶たれている。
 
サウジアラビアに住むあるウイグル人実業家は、不法滞在となった同胞ウイグル人の期限切れのパスポート8冊のコピーをAFPに示しながら、彼らの多くが中国のスパイだと疑われることを恐れており、隠れて暮らすことを余儀なくされている人もいると語った。
 
また、サウジアラビアに留学中のウイグル人学生はAFPに、友人3人が2016年後半に強制送還され、中国到着後に「消息不明」となったと語った。友人らは中国政府が対過激派対策だと主張するいわゆる「再教育施設」にいる可能性が高いという。
 
アユップ氏はAFPに、2017年以降サウジアラビアで5件の強制送還を確認していると語ったが、5件以上あるとするウイグル人活動家もいる。エジプトやタイでも同様に、ウイグル人の強制送還が報告されている。
 
強制送還が、中国からの圧力を受けサウジアラビア政府が実施したものか、同国独自の不法滞在者の取り締まりによるものかは定かではない。サウジアラビア当局はコメントの要請に応じていない。
 
駐サウジアラビア中国大使館は「サウジアラビア当局と協力してウイグル人を強制送還」してはいないとAFPに語った。パスポート更新の拒否について尋ねると同大使館は、ウイグル人の「兄弟姉妹」のための領事業務は停止していないとのみ答えた。

■「どうすることもできない」
ウイグル人学生のグループは昨年、西部ジッダの中国領事館に書簡を送った。この中で学生らは、中国領事館はサウジアラビア在留の漢民族のパスポートは更新しているのに、なぜウイグル人の申請は無視するのかと問い、「私たちは同じ国の出身ではないか」と訴えた。

「私たちは2年間も中国の父、母、きょうだいたちと連絡が取れていない…私たちがサウジアラビアで学んでいるために、彼らは拘束されたと聞いている」
 
あるウイグル人の若い女性は青色をしている片道の旅行証を引き合いに出しながらこう語った。「妊娠して子どもを産みたいとは思わない――赤ん坊には青色の書類と暗い未来が待っているだけだ」「私たちにはどうすることもできない」 【4月11日 AFP】
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【中国政府の“もうひとつのウイルス”への勝利? 文化は“消毒”され“ディズニー化”した新疆】
最近あまりウイグル族関連の報道を目にしないのは、中国によるウイグル族文化抹消がすでにある程度完成しているためでもあるでしょう。

****新疆ウイグル自治区の文化は“消毒”され、“ディズニー化”している****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、中国の西の外れに位置する新疆ウイグル自治区もほかの地域と同じように、ほぼ全面的なロックダウン(都市封鎖)を数カ月前から続けてきた。その態勢も、いまは徐々に解除されつつある。 

一方で中国政府は過去6年にわたり、新疆ウイグル自治区に広がる別の“ウイルス”(であると政府はみなしている)の蔓延を食い止めることに力を注いできた。

そのウイルスとは、イスラム急進主義である。 2019年に『ニューヨーク・タイムズ』にリークされた機密文書には、「宗教に基づく過激思想に感染している者たちには、学習させる必要がある」と書かれている。「人々の思考のなかにあるこのウイルスが根絶され、健全さを取り戻して初めて、自由は実現するのだ」

まるで戒厳令のような現状
(中略)フランス人写真家のパトリック・ワックが新疆ウイグル自治区を初めて訪れたのは、16年から17年にかけてだった。そのときの目的は、米国の風景写真文化にインスパイアされたシリーズを撮影することだった。

しかし、ワックは19年、地元民に対する弾圧の影響を記録すべく、現地を再び訪れた。 「現在の新疆ウイグル自治区には、警察や軍の検問所がいたるところにあります」と、ワックは語る。「まるで戒厳令が敷かれているかのようです」

変わり果てた街の姿
伝統的なウイグル文化を示すさまざまなものが、いまやほとんど消えてしまっていることに彼は気づいた。

「女性たちはスカーフを巻いていません。イスラム教や少しでも中東のように見えるシンボルは、どれも撤去されています。そこはまるで別の場所でした」 

ワックがいちばん驚いたのは、20~60歳の男性が明らかに街からいなくなっていることだった。彼らの多くは、まとめて洗脳キャンプに入れられてしまっているようだった。 

チベットとは異なり(チベット自治区を訪れるには特別な許可が必要である)、新疆ウイグル自治区はいまでも訪問者を自由に受け入れている。だが、そのなかのいくつかの都市では、ワックは私服警官に尾行され、一部の検問所では撮った写真を見せるように命じられたこともあった。

ときには写真の削除を命じられたこともあったが、幸いにも彼はこれらのファイルのコピーをふたつもっていた。 

地元民からキャンプの話を聞くのは不可能だった。「話しかけることもほとんどできません。そんなことをすれば、人々を危険に晒してしまうからです」と、ワックは語る。

「政治的なことを口にしようものなら、すぐに話を切り上げてしまいます」 ワックが洗脳キャンプを訪れることなど許されるはずもなかった。そこで彼は、新疆ウイグル自治区の変わり果てた姿を記録することで、その様子を示唆することしかできなかった。

“ディズニー化”された土地
中国共産党は長年にわたり、ウイグル族のアイデンティティを示すものを取り除き、新疆ウイグル自治区をもっと「中国」に見えるようにつくり変えようとしてきた。

政府は「一帯一路」の一環として、自治区を走る高速鉄道や高速道路などの大型インフラプロジェクトに取り組んでいる。

また、自治区内で暮らすウイグル族の割合を減らすため、中国の主要民族である漢民族に対して、新疆ウイグル自治区への移住を促してもいる。 

「新疆ウイグル自治区の人々は“中国人”のような服を着るようになり、“中国人”のように見えるようになりました」と、ワックは語る。

「それぞれの都市は、完全な中国の都市へと変わりつつあります。各都市の伝統的な部分は破壊されています。たとえ残されたとしても、遊園地につくり変えられているのです」 

事実、新疆ウイグル自治区は漢民族が訪れる観光地として人気を高めている。観光客の目当ては、そこにある砂漠の風景や、かつてシルクロードの一角を占めていたというロマンティックな歴史だ。クムタグ砂漠などの景勝地を訪れる観光客が目にするのは、ウイグル族の「消毒された」文化と歴史である。 

「中国人の友達と話していると、『そう言えば、うちの両親が去年初めて新疆に行ったんだ』と言う人もちらほらいます」と、ワックは語る。

「そうした人たちが体験できるのは、“ディズニー化”された新疆です。支配体制がその文化を滅ぼそうとしている一方で、新疆のエキゾチック化が進んでいるのです」 

悲しいことに、中国共産党が現状を続ける限り、そこに残るのはこの「ディズニー化された新疆」だけなのかもしれない。【5月20日 WIRED】
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中国各地には古い街並みを観光資源とした「古鎮」と呼ばれる街が多くあります。ただ、それらのほとんどは伝統文化とは切り離された、土産物屋が並ぶ“ディズニー化”された観光地です。

新疆全体がそうした「古鎮」のような存在になりつつあるようです。漢族にとっては十分にエキゾチックな観光地なのでしょうが。

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世界に広がる人種差別抗議デモ アメリカでは事態を更に刺激する危険がある事件も

2020-06-14 22:03:14 | 人権 児童

((人種差別反対デモに参加した黒人男性(中央)が、それに対抗するデモに参加して負傷した白人男性を担いで避難させた(13日、ロンドン・ウォータールー駅近く)【6月14日 BBC】)


【イギリス 人種差別抗議行動に対抗する極右デモも】
アメリカ・ミネアポリスで起きた白人警官拘束下で黒人男性が死亡した事件を契機に広がる人種差別反対デモはアメリカだけではなく世界各地に及んでいます。

イギリスでも各地で抗議デモが行われていますが、こうした動きに対抗する極右勢力のカウンターデモも行われ、
警察と衝突するなトラブルも起きています。

****ロンドンで極右デモと警察が衝突 差別反対の平和的抗議も続く中で****
ロンドンでは13日、人種差別に反対するデモやそれに対抗するデモが行われ、当局の制止にもかかわらず大勢が集った。一部では暴力沙汰に発展し、警官が殴る蹴るなどの危害を加えられる場面もあった。

ロンドン中心部の衝突で警察官6人が軽傷を負ったほか、100人以上が暴力、警察への攻撃、武器所持などで逮捕された。

警察と衝突を起こしたのは極右のデモ参加者で、反人種差別活動家からイギリスの歴史や銅像などを守るためだと主張していた。

アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行で死亡した事件をきっかけに始まった反人種差別デモが各国に広がる中、イギリスでは人種差別や奴隷制度に関わった歴史人物の像が攻撃対象になっている。

一方、ロンドンやイギリス各地では引き続き、人種差別に反対する平和的なデモも続いている。
ロンドンでは先週、一部のデモが暴力に発展した。ロンドン警視庁は今回、集会を午後5時で終わらせたり、職務質問を拡大したりするなど、暴力抑制に力を入れている。

ボリス・ジョンソン英首相は「人種差別的なごろつきの暴力など、私たちの街にあってはならない」とツイートし、警官に危害を加えたグループを非難。「警察を攻撃する者には誰でも、あらゆる法の力をもって対抗する」と書いた。

殉職警官の慰霊碑に立小便
この日はイギリス各地から、イギリスの歴史のシンボルを守るなどと主張する極右活動家などがロンドンに集まった。

大半が白人男性で、ホワイトホールの戦没者追悼碑の前に集まったほか、ウィンストン・チャーチル元首相の像の回りに囲いを作るなどした。チャーチル元首相は人種差別的な発言で知られており、一連の差別反対デモでは銅像に落書きがされていた。

差別反対デモに抗議する白人の男たちはこの日、腕を振りかざしながら「イングランド」と叫び、警察の治安部隊と衝突を起こした。(中略)

人種差別に抗議するデモに反対する白人男性の1人は、2017年にウェストミンスターで起きたテロ攻撃で命を落としたキース・パーマー巡査の慰霊碑の横で、立小便しているところを写真に撮られた。

プリティ・パテル内相はこれについて、慰霊碑の「冒とく」は「全く恥ずべき行為」だと非難した。(中略)

ロンドン以外でも、グラスゴーやブリストル、ベルファストなどで、戦争記念碑を「守る」ための集会が行われ、数百人が参加した。

BBCのドミニク・カシアーニ内政担当編集委員によると、ロンドンの議会前広場に集まった数百人の多くはすでに酒を飲んでいた状態だった。極右活動家のほか、様々なサッカー・チームを応援するフーリガンたちが、この日はひいきチームの違いを乗り越えて肩を並べて参加していたという。

政治家が相次いで非難
ジョンソン首相は、「一連の行進や抗議は、暴力によってなし崩しに変質してしまった。加えて、現在の(感染対策)ガイドラインにも抵触する。イギリスに人種主義の居場所はない。それを現実にするために協力しなければならない」(中略)

反人種差別デモは平和的に
こうした中、ロンドンのハイドパークや隣接するマーブルアーチでは、反人種差別を訴える平和的なデモが行われ、「Black Lives Matter」運動への支援が呼びかけられた。

ただし、この週末に実施予定のデモ行進については、極右グループとの衝突を避けるため参加しないよう、ロンドンの「Black Lives Matter」運動の主催者たちは呼びかけていた。(中略)

平和的な抗議参加者は、極右活動家と暴力的な衝突によって「Black Lives Matter」の取り組みが「汚されて」してしまうことを恐れていると話した。

抗議団体「Hope Not Hate(ヘイトではなく希望を)」のニック・ロウルズさんも、極右団体が騒ぎを起こそうとしており、「非常に深刻な」状態にあると述べた。「Black Lives Matter」が13日にロンドンで予定していた抗議を中止したのは、賢明な判断だったと評価した。

「銅像や記念碑を本気で心配し、守ろうと思っている人も中にはいるが、大勢はけんかをするためにロンドンに向かった。ソーシャルメディアでも、おおっぴらにそうい話をしている」【6月14日 BBC】
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【フランス 2016年の類似事件とも重なり抗議広がる】
フランスでは以前から移民出身者の多いパリ郊外などで警官の言動が人種差別的だと指摘されてきた経緯があること、また、フランスでもアメリカと似たような黒人と警察のトラブルが2016年に起きていることなどを受けて、今回米ミネアポリスでの事件を契機に人種差別反対を訴える抗議行動が広がっています。

****パリでも人種差別抗議集会、警察と衝突 催涙ガス使用****
黒人に対する警察の過剰暴力と人種差別に抗議するデモが、アメリカからフランスにも飛び火し、パリ中心部では13日、抗議に参加した人たちと機動隊が衝突した。

パリ中心部のレピュブリック(共和国)広場では、人種差別反対を訴える約1万5000人が集まった。無許可の行進を敢行しようとして警察に規制されたため、投石が始まり、機動隊は催涙ガスでこれに応酬した。

集会は許可されていたものの、行進は許可されていなかった。オペラ座地区への行進は、沿道の店舗や事業所への被害を懸念して禁止されていた。

パリのデモは、2016年にパリ郊外で黒人男性アダマ・トラオレさん(当時24)が逮捕され、警察車両の中で意識を失い、警察署で死亡した事件に抗議するもの。「アダマ・トラオレに正義を」と訴える抗議者たちは、「正義がなければ平和もない」などとシュプレヒコールを繰り返した。(中略)

フランス警察への抗議とは
フランスの警察監視団体によると、昨年は1500件近い警察に対する苦情を受理し、その半数は暴力被害を主張する内容だったという。

5月にはパリ近郊ボンディで、スクーターを盗もうとした疑いで拘束された14歳少年が、警察によって重傷を負ったとされる事件があった。

クリストフ・カスタネル内相は8日、警官が容疑者を羽交い絞めにして首を絞める逮捕術を禁止した。
内相はさらに、警察における人種差別は「一切容認しない」と公約し、人種差別が強く疑われる警官は休職させると述べた。

これには多くの警官や警察労組が強く反発し、自分たちの間に人種差別がはびこっている事実などないと主張。12日にはパリ中心部のシャンゼリゼに多くの警官が集まり、地面に手錠を投げつけて抗議した。【6月14日 BBC】
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【警官からは反発も】
「悪者」扱いされていると感じる警官の側からの反発は、上記フランスだけでなくアメリカでも。

****市警の特殊部隊員10人辞任、安全な任務遂行「不可能」 米フロリダ州****
 米フロリダ州南部の街ハランデールビーチで、警察の特殊部隊員10人が安全上の懸念を理由に辞任したことが分かった。

隊員らは市警察のキノネス署長に9日付で書簡を送付。最低限の装備や訓練しか与えられず、「隊員より犬の安全を優先するような」政治的風潮に動きを封じられることも多い現状が改善されない限り、任務を十分に果たすことはできないと主張した。自身や家族がいわれのない危険にさらされているとも訴えた。

隊員らはさらに、黒人男性が警官に暴行され死亡した事件への抗議デモに、キノネス署長らが8日、現場でひざまずき連帯を示した行動に異議を唱えた。

ハランデールビーチはマイアミから北へ約30キロの沿岸部に位置する人口約3.8万人の街。CNNが入手した市長の声明によると、署長は8日午後に隊員らと会合の場を設けて意見を聴き、装備を回収した。

市長は声明で、辞任を遺憾とする一方、住民の安全を守る任務に影響はないと強調。10人は特殊部隊から外れるものの、市警察にはとどまると説明している。【6月14日 CNN】
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【人種差別に声を上げ始めたアフリカ諸国 ガーナ「帰還」を促す】
なお、アフリカ諸国も今回の一連の人種差別への抗議行動に大きな関心を寄せています。

****反人種差別の議論を国連に要請 アフリカ54カ国****
アフリカ54カ国は12日付で国連人権理事会に書簡を提出し、世界各地で起きている黒人などへの人種差別について、早急に対応策を議論するよう要請した。米国で起きた白人警官による黒人男性暴行死事件は一例にすぎず、アフリカ人の子孫は各地で同様の被害に遭い注目もされてこなかったと訴えた。
 
書簡はアフリカを代表し、駐ジュネーブ国際機関代表部のブルキナファソ大使名で作成された。「組織的な差別、警察の残虐行為、平和的な抗議デモへの暴力」を議論のテーマにするよう求めた。
 
「武器を持たないアフリカ人が警察の残虐行為で苦しめられる事件が、世界各地で数多く起きてきた」と言及した。【6月14日 共同】
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かつて奴隷貿易の主要拠点で、大勢の奴隷が船に乗せられて北米に渡ったガーナからは、「今の場所で必要とされていないならとどまることはない、アフリカは皆さんを待っている」と帰還を促すメッセージも。【6月11日 Newsweekより】

【アメリカ 更に事態を刺激しかねない事件も 自殺か「奇妙な果実」か?】
一方、問題の発端となったアメリカでは、さらに事態を刺激しかねない事件も。

****警官が発砲し黒人男性死亡、警察署長が辞任 米アトランタ****
米ジョージア州アトランタで、警官が黒人男性を拘束しようとした際に発砲し男性が死亡したことを受けて、アトランタ市警のエリカ・シールズ署長が辞任することになった。ケイシャ・ランス・ボトムズ市長が13日、明らかにした。
 
公式報告書によると、死亡したのはレイシャード・ブルックスさん。ブルックスさんは12日夜、ファストフード店のドライブスルーレーンに止めた車の中で寝ていたため、従業員が他の客の迷惑だと警察に通報した。
 
警官らが飲酒検査で陽性だったブルックスさんを拘束しようとすると、ブルックスさんは抵抗。監視カメラの映像には、「警官らともみ合っていたブルックスさんが警官の一人のテーザー銃を奪い、現場から逃走しようとする」様子が映っていた。

「警官らが走ってブルックスさんを追うと、ブルックスさんは振り返ってテーザー銃を警官に向けた。警官が発砲すると、銃弾がブルックスさんに当たった」という。ブルックスさんは病院に搬送されて手術を受けたが死亡した。警官1人も負傷した。(中略)
 
ブルックスさんの死に抗議しデモ隊が再びアトランタ市内の通りに繰り出した。ボトムズ市長は、ブルックスさんを射殺した警官が免職処分を受けたことを明らかにした。
 
トムズ市長は、米大統領選で民主党候補指名が確実となったジョー・バイデン前副大統領の副大統領候補としても名前が挙がっている。 【4月14日 AFP】
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また、下記のような事件も。まだ詳細はわかりませんが、万一他殺という話になると、相当なインパクトがありそうです。

****木につるされた黒人男性の遺体、住民が捜査要求 米ロサンゼルス****
 米カリフォルニア州ロサンゼルス郡の保安官事務所は12日、同州パームデール市で24歳の黒人男性の遺体が樹木からつり下がっている状態で発見されたと発表した。

遺体は通行人が8日未明に見つけたもので、現場に出動した消防士が死亡を確認した。

同市は自殺の疑いがあるとの見方を表明。声明で、新型コロナウイルスの感染拡大後、今回のような事例は初めてではないと指摘。現在の困難な時期に市は精神衛生の問題への対処に努めていると強調した。

ただ、保安官事務所が12日、遺体発見時の初期段階の状況を記者会見で発表した際、数十人規模の住民らが市議会に集結して怒りを示し、捜査開始を要求する事態ともなった。

住民らは現場周辺にある監視カメラの映像分析を要求。市側はそのようなカメラはないとし、捜査は続いていると説明。市長も現れ、住民らに平静さを促しながら、男性の死去の正確な経緯の把握に努めていると大声で説得する一幕もあった。

保安官事務所によると、全面的な検視は近く実施される見通し。
市側は会見後、地域社会が今回の死去への全面的な捜査を求めることは理解しているとも述べた。

パームデール市はロサンゼルスから約60マイル(約97キロ)離れている。【6月14日 CNN】
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ビリー・ホリデイのレパートリーとして有名な歌に「奇妙な果実」があります。“奇妙な果実”とは木にぶら下がる黒人の死体であり、南部を中心に黒人へのリンチ・暴行が当時日常のようにあったアメリカ人種差別への抗議の歌です。

その「奇妙な果実」を再現するような事件となったら、混乱は必至でしょう。

【事態の沈静化・国民融和よりは自身のアピール演出に執心するトランプ大統領】
こうした人種差別への抗議が広がる不安定な状況で、トランプ大統領からは国民融和を促す“そぶり”もあまり見られません。

ミネアポリスの事件で問題になった容疑者拘束時の警官による首締めについては“トランプ氏は「一般的に言えば禁止が望ましい」と語った。同時に、1対1で激しく抵抗する相手と向き合う場合など、状況次第では認める余地を残すべきだとの考えもにじませた。”【6月13日 読売】とのこと。

不本意ながらも「一般的に言えば禁止が望ましい」と語ったあたりは、一応“そぶり”は見せているというべきでしょうか。

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トランプ氏は新型コロナウイルス感染拡大が始まって以来初の支持者集会を19日にオクラホマ州タルサで開くといったん発表したものの、これが奴隷解放記念日にあたることから、日にちを変更した。

1865年6月19日は、テキサス州で奴隷解放宣言が読み上げられた日。奴隷制維持のために戦った南部連合のうち、テキサス州は奴隷解放を受け入れた最後の州だった。南北戦争は1865年4月に終結している。

6月19日は国民の祝日ではないが、多くのアフリカ系市民が「Juneteenth(ジューンティーンス)」と呼んで祝う。
トランプ氏が支持集会の場所にタルサを選んだことも、批判されている。

1921年には白人集団がタルサ市内のグリーンウッド地区を銃や爆発物で襲撃。当時のグリーンウッドは「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれ、黒人が経営する多くの事業が成功し、繁栄していた。白人集団の襲撃で最大300人が死亡し、約1000件の事業や住宅も破壊された。【6月14日 BBC】
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****トランプ大統領、州兵に感謝 デモ対処方針に言及なし****
トランプ米大統領は13日、東部ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校の卒業式で演説し、白人警官による黒人男性暴行死事件で全米に拡大した抗議デモへの対応を念頭に「街の平和と安全、法の下の秩序を守ってくれた州兵に感謝する」と述べた。

今後の対処方針をどう説明するか注目されたが、言及はなかった。
 
米メディアによると、卒業予定の士官候補生ら約千人は3月、新型コロナウイルス感染拡大を受け自宅に帰っていたが、トランプ氏が4月、卒業式で演説する意向を唐突に表明。士官候補生らは呼び戻され、2週間の自主隔離を行ってきた。【6月14日 共同】
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ホワイトハウス前の抗議集会を強制排除して、教会へ向かい記念撮影した件もそうですが、いかに自分をアピールするかということしか頭にはないように見えます。

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移民増加や新型肺炎で触発される外国人嫌い・差別感情

2020-02-21 23:43:18 | 人権 児童

(「corona virus」などと落書きされたパリ郊外の日本料理店【2月20日 朝日】)

【トランプ大統領の「アメリカ第一」の根底にあるもの】
トランプ大統領の非常識な発言なんて、もはやたいしたニュースにもなりませんが、今回のアカデミー賞に関する発言には、見過ごせないものが横たわっているようにも。

****トランプ氏「どういうことだ」 韓国のアカデミー受賞に不満****
トランプ米大統領は20日、今年の米アカデミー賞で韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が外国語映画として初めて作品賞を受賞したことについて、「いったいどうなってるんだ」と不満を表明した。西部コロラド州での支持者集会で述べた。
 
トランプ氏は「韓国とは貿易分野でさまざまな問題を抱えている。その上、今年最高の映画(である作品賞)の称号を与えるのか。そんなに良かったか?」と語り、選考に疑問を呈した。「外国作品賞を取ったのかと思ったよ。前代未聞じゃないか」とも付け加えた。
 
その上でアカデミー作品賞を受賞した1939年の米映画「風と共に去りぬ」や脚本賞などを受賞した50年の「サンセット大通り」を持ち出し、こういった作品が受賞すべきだと主張。「頼むから『風と共に去りぬ』を復活させてくれ」とも述べ、リメークを要望した。
 
これに対しパラサイトの米国配給会社はツイッターで「(トランプ氏が作品を嫌いなのは)理解できる。彼は(英語の字幕を)読めないからね」とやり返した。【2月21日 産経】
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トランプ大統領自身は、「パラサイト」は鑑賞していないようです。(私も観ていません)

「韓国とは貿易分野でさまざまな問題を抱えている」ことと、アカデミー賞の選考に何の関係かあるのか?
別に、韓国との関係は、駐留米軍の経費問題などもありますが、一触即発といった危機的状況にある訳でもありませんし。

要するに、外国映画が受賞したことが気にいらないようです。
もっと言えば、彼の言う「アメリカ第一」の根底には、こうしたエピソードに垣間見える「外国嫌い」があるようにも思えます。

これが欧州の映画だったら反応は少し違ったかも、アジア映画だったから・・・と考えると、「アジア嫌い」「異人種嫌い」があるのかも。

そして、かれの考える「アメリカ」とは、現在のアフリカ系・ヒスパニック、アジア系が多く暮らすアメリカではなく、「サンセット大通り」や「風と共に去りぬ」に描かれる白人社会なのでしょう。

配給会社の「(トランプ氏が作品を嫌いなのは)理解できる。彼は(英語の字幕を)読めないからね」というコメントは秀逸です。トランプ大統領が多くのリポートに殆ど目を通そうとしないこと、TVばかり観ていることは有名です。「小学生並みの理解力」との評価も。

ただ、他の政治家なら進退を問われかねない問題でも、トランプ大統領なら「まあ、トランプだからね・・・」ですまされてしまいます。

異人種への差別とか「外国嫌い」といったものは多くの人の心中にあったもでしょう。
ただ、これまではそうした感情は公言すべきものではないとみなされていました。

トランプ大統領の一番の問題は、そうしたネガティブな感情を大っぴらに発言し、「まあ、トランプだからね・・・」で済まされてしまうことで、他の多くの人々も、そういう考えを公言して何が悪い・・・と考えるようななったことでしょう。いわゆる「パンドラの箱」を開けてしまったことです。

【欧州で過激化・拡散する外国人排斥】
そうした本音と称する外国人・異人種への嫌悪感の吐露が認められる風潮と、欧州の移民に関する現状が重なれば、ドイツで起きた事件のようなことも起こります。

****相次ぐ極右犯罪に衝撃 ドイツ銃撃、中東などの民族一掃を主張****
ドイツ西部ヘッセン州ハーナウで19日、2軒のバーが相次いで銃撃され、中東出身の移民ら9人が死亡した。検察当局は20日、人種差別思想に基づく犯行との見方を発表。反移民勢力が台頭する中、近年最悪の極右テロが発生したことで、国中に衝撃が広がった。
 
メルケル首相は20日、事件を受けて演説し、「人種差別という毒が社会で犯罪を引き起こしている」と危機感を表明。事件の背景解明に努めると訴えた。
 
検察によると、容疑者は43歳のドイツ人の男。逃走した後、自宅で遺体で発見された。自殺したとみられている。自宅では、人種差別による犯行動機を示した手紙やビデオが押収された。容疑者の母親(72)の遺体も見つかった。
 
報道によると、容疑者は犯行前、イスラエルやアラブ諸国、インドなどの国名を挙げて民族の一掃を訴える声明を残していた。

米国人向けに英語で「あなた方は秘密結社に支配されている」と訴えるビデオもインターネット上に流していたという。

銃撃されたバーは中東で人気がある水たばこを提供しており、犠牲者にはクルド系移民のほか、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身者が含まれていた。ハーナウは金融都市フランクフルトの東方25キロにある。
 
ドイツでは極右犯罪が近年、多発している。昨年6月には、メルケル首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の地方政治家が射殺される事件が発生。容疑者はネオナチとのかかわりが指摘された。10月には東部ハレのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)前で銃乱射事件が起き、2人が死亡した。
 
背景には、移民流入を受けた排外主義の広がりがある。ドイツにはシリア内戦を受けて2015年以後、100万人以上の難民・移民が流入した。

ナチスやヒトラー礼賛は訴追対象だが、インターネット上ではメルケル首相の寛容な移民政策を攻撃し、極右犯罪をたたえる投稿が法をすり抜けてのさばった。
 
メルケル政権は昨年秋、ネット上のヘイト(憎悪)発言取り締まりや銃規制の強化など、極右犯罪の取り締まり策を発表。先週には、イスラム教徒や政治家への襲撃を画策したとして、極右集団の12人を一斉に拘束したばかりだった。 

今回の事件を受け、ベルリンでは20日、テロ犠牲者を追悼し、極右犯罪に抗議するデモ行進が行われた。【2月21日 産経】
*********************

ドイツ政治の問題で言えば、「ドイツのための選択肢(AfD)」の反イスラムおよび反移民主義が外国人に対する憎悪を拡大させているという問題も指摘されています。

【新型肺炎のような危機的状況で噴出する差別感情】
一方、ゼノフォビアや異人種への差別感情は、今猛威を振るっている新型肺炎のような不安感を煽る状況では、“「ウイルス持ちは出て行け」、中国系青年に暴行―イタリア”【2月14日 レコードチャイナ】容易に表面化してきます。

****新型コロナウイルスの流行で露わになった「世界の人種差別」****
(中略)
差別対象がどんどん広がる
ウイルスの発祥地として当初、武漢という特定の町の名前が出てきたときから嫌な予感はしていましたが、案の定、数日後には温泉地の箱根で「中国人お断り」と貼り紙を掲げる駄菓子店が登場したり(現在、貼り紙は外されました)、札幌市でも「中国人入店禁止」の貼り紙を掲げたラーメン店が物議を醸しました。

いうまでもなくこれらの貼り紙は人種差別的であり、場合によって民放の不法行為が成立する可能性がありますし、国連の人種差別撤廃条約にも違反しています。

それにしても興味深いのは「中国国内では武漢出身者が差別され」「日本国内では中国人が差別され」「ヨーロッパではアジア人が差別されている」という点です。

つまり地域によって、差別される対象の人々はどんどんひろくなっていっており、もはや合理的なウイルス対策とはいえない類の「対策」が目立ちます。例えば、イタリア・ローマにあるサンタチェチ―リア国立音楽院は「すべての東洋人へのレッスン中止」を発表し物議を醸しました。

(中略)このようにコロナウイルスの登場によって、ヨーロッパではアジア人への差別行為が起きていますが、前述のMartin Ku氏は記事を「中国人に見えるからといって、中国人だとは限りません。また中国人であっても、直近で中国を訪れた人ばかりではありません。尚、実際に中国を訪れた中国人であっても、全員が感染しているわけではありません。やはりコロナウイルスの対策として一番有効なのは手洗いとデリカシーです」と皮肉たっぷりに締めくくっています。

問題は「元からあった人種差別」
この流れを見ると、コロナウイルスのせいで人種差別が起きていると思ってしまいそうですが、欧州での東洋人への人種差別は元からあったものです。

コロナウイルスの流行を受けて、フランスでは地方紙の「クーリエ・ピカール」が表紙に「黄色いアラート」というタイトルをつけ、批判を浴びましたが(同誌は後に謝罪)、とっさに「黄色」という言葉が出てかつ印刷してしまうのは、元から東洋人に対する人種差別的な考えがあったと考えて良いでしょう。

そんななか、フランスでは #JeNeSuisPasUnVirus (私はウイルスではありません)というハッシュタグがSNSで多く使われるようになり、ドイツ語#IchbinkeinVirusやイタリア語#NonSonoVirusでの投稿も目立ちます。(中略)

東洋人への差別意識は欧州の社会に元からあるものでしたが、現在は「コロナウイルスという大義名分のもと」堂々と差別行為が行われているというのが現状です。

ただ「大義名分」に関しては、日本においても「元から中国人を快く思っていなかったところを、コロナウイルスという大義名分ができたから堂々と中国人をお断りするようになった」という側面もあるようです。

歴史に学ぶべきこと
日本政府によるチャーター便で、武漢在住の日本人が4回に分けて帰国しました。チャーター機の第4便には、日本人と共に中国人配偶者や中国籍の子供も乗っていましたが、インターネットでは「なぜ中国の人も、日本政府のチャーター機に乗せるのか」という声も多く見られます。

しかし人道的観点から家族なら一緒に行動をするのは当たり前です。単なる「ネットの声」だとはいえ、国籍を理由に「家族であっても、引き離すべき」と考える人が少なからずいるということは、社会として危険な兆候ではないでしょうか。

日本では大正12年9月1日に起きた関東大震災の際「朝鮮人が井戸に毒を入れている」などと噂が飛び交い、これを真に受けた住民たちが自警団を結成し、多くの朝鮮人や中国人が殺されました。

14世紀にヨーロッパでペストが流行した際にはドイツなどで「ペストが流行っているのは、ユダヤ人が井戸に毒を入れていたからだ」との噂が飛び交い、これが各地でユダヤ人のポグロム(殺戮、虐殺)へと発展しました。

国と時代が全く違うのに、自然災害が起きた時や病気が流行った時に、それをマイノリティーのせいにし、「彼らが井戸に毒を入れたからだ」という展開になるのはなんとも恐ろしい偶然です。

いつの時代も、どの国でも人間の本質はあまり変わらないのかもしれません。だからこそ「博愛精神は平常時や平和な時だけ」なんていうことにならないように、非常事態の際の人間性が問われているのではないでしょうか。でも、何もそんなに難しく考えることはありません。ウイルスを憎んで、人を憎まず、ということです。【2月10日 GLOBE+】
****************

感染防止対策としては、感染拡大地域からの流入を制限する措置は必要にもなりますが、そのことが「差別」に結びつかないような配慮が必要でしょう。

【日本:制限する側からされる側に】
なお、日本は流入を制限する側から、制限される側に変わりつつあるようです。

ミクロネシア連邦、ツバル、サモア、キリバス、コモロ、ソロモン諸島が日本からの入国を制限しています。また、タイ保健省も17日に、日本からの渡航者に対し、空港での検疫を強化すると発表しています。

来月中旬にタイ・バンコクへの旅行を予定しています。「バンコクの感染状況はどうだろうか?」と考えていましたが、「タイに入れるだろうか?」ということを心配した方がよさそうです。

「ロシア“入国一時停止”日本に適用の可能性」【2月21日 日テレNEWS24】
「日本に「渡航注意」の情報=新型コロナで米保健当局」【2月21日 時事】

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船したオーストラリア人2人の感染が確認されたとのこと。
他国と異なり下船後の隔離措置をとっていない日本での広範な感染拡大の危険が増しています。(このあたりの日本政府の対応は理解できません。感染防止対策が十分にとれない船内での14日間がどういう意味を持つのか?)

そうなると、いよいよ日本人が「ウイルス持ちは出て行け」と暴行を受けるような事態にも・・・。
私のバンコク旅行もご破算です。

 

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新型コロナウイルス肺炎騒動で噴出する「反中感情」あるいはアジア人蔑視感情

2020-02-01 23:02:56 | 人権 児童

(差別的・ヘイト的な言動に対し、「私はウイルスではない」という意味のフランス語のハッシュタグをつけて、被害にあった中国系住民を応援する動きも【2月1日 NHKより】)

【「他人の痛みを感じ取り、できる限りの助けを差し伸べようとする日本人の本質に目を向けるべき」(中国メディア)】
新型コロナウイルス肺炎の感染拡大で、日本政府も31日、湖北省に2週間以内に滞在歴のある外国人と、湖北省発行の中国旅券を所持する外国人は、特段の事情がない限り当分の間、入国を拒否すると表明、対応レベルを上げていますが、これまでのところは中国に対する比較的冷静な支援姿勢が中国において強く印象付けられているようです。

****新型肺炎問題で日本に対して高まる「感謝や再評価の機運」=中国****
中国の武漢市を中心に新型コロナウイルスが猛威を振るっている状況にあるが、多くの中国人は日本の企業や自治体が大量のマスクを中国に寄付したことに心から感謝の意を示している。

中国では日本側のマスク寄贈をきっかけに日本に対する感謝や再評価の機運が高まっているが、こうした機運の高まりの影響を受け、中国メディアの新浪は30日、2008年の四川大地震の時にも日本は中国に対して莫大な支援を差し伸べてくれたと論じる記事を掲載した。

記事は、日本は四川大地震の時に中国に対して12億3000万円もの金銭的な寄付をしたと紹介し、日本は寄付金が最も多い国家の1つだったと指摘。また日本赤十字社のもとに集められた寄付金の金額も非常に大きかったうえに、当時の日本のコンビニエンスストアにはほとんどの店舗に寄付箱が設置され、「都市から農村に至る」まで、すべての店舗から集められた寄付金は四川大地震の被災者の支援に役立てられたと説明した。

日本の各企業も次々に義援金を提供したが、義援金に加えて四川大地震発生後に日本政府は「すぐに」救援隊を派遣したと指摘し、日本の救援隊は被災地に最初に到着した国際救援隊でもあったと紹介した。

さらに記事は、中国と日本との間には歴史問題が存在するが、当時戦争を遂行したのは日本の軍国主義であり、すべての日本人が当時の戦争を望んだわけではないと指摘。他人の痛みを感じ取り、できる限りの助けを差し伸べようとする日本人の本質に目を向けるべきだと論じた。
 
この記事に対し、中国ネットユーザーは、今回の新型肺炎も含めて中国が被災した時に「日本はこれまでに何度も金銭・物資面で援助してくれたことを個人的に心から感謝している」とのコメントを投稿していた。【2月1日 Searchina】
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****日本はマスク寄付、台湾はマスク確保、中国メディアが「モラル」比較****
中国メディアの環球網は29日、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)のアカウントで、新型コロナウイルスへの感染が拡大する中での日本と台湾の対応を比較する文章を投稿した。 

文章は同メディアの副編集長によるもので、「比較しなければモラルは見えない。日本人はマスクを寄付し『武漢頑張れ』と書いた。台湾当局は輸出を制限しマスクを確保しようとした。比較しなければモラルは見えない」とつづられている。台湾財政部は23日に、1月24日から2月23日までの1カ月間、マスクの輸出規制を実施すると発表していた。 

この投稿には1000件に迫るコメントと、1万を超える“いいね”が付いている。コメント欄には、「今回の件で台湾当局への認識が変わった」「心が寒々するとしか言えない」「台湾人だけど政府のやり方は軽蔑する」などの台湾当局への批判のほか、「日本には感動した。支援をありがとう」といった声が並んだ。(後略)【1月30日 エwコードチャイナ】
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上記のような「日本評価」の記事は最近多々ありますが、とりあえず2件。

なお、台湾云々に関しては、中台間の政治状況を反映して、下記のような話もありますので“どっちもどっち”的なところがあります。

****武漢の台湾人、救出できず 中台関係の冷え込み影響****
中台関係の緊張が台湾側に影を落としている。武漢に取り残された台湾人の救出について交渉は進まぬまま。中台問題のあおりで台湾は世界保健機関(WHO)の会合からも排除されているため、世界的な防疫に抜け穴ができる懸念も指摘されている。
 
武漢には現在も約400人の台湾人がとどまっているとみられ、台湾の対中窓口機関である海峡交流基金会(海基会)には「持病の薬を使い切ってしまった」など、救出依頼の電話がかかっているという。
 
蔡英文(ツァイインウェン)政権下で中台関係は冷え込み、中国側は当局間の公式の連絡を絶っている。台湾側は海基会や現地の台湾系企業の団体を通じて、台湾人の安否確認や、チャーター便による移送などを働きかけている。
 
だが、中国政府の対台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の報道官は、「湖北省では台湾人の感染は確認されていない。台湾人には特別の関心を寄せ、現地で問題解決にあたっている」などと述べるにとどめ、連携は進んでいない。
 
「一つの中国」原則を主張する中国の圧力により、台湾は以前は認められたWHO総会や関連会合へのオブザーバー参加ができなくなった。そのため、台湾側は「防疫の抜け穴を作ってしまう」と訴えている。【2月1日 朝日】
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【世界に広がる「反中感情」】
一方、韓国では“ヒステリック”ともとれるような激しい反応が起きているようです。

****韓国で54万人以上が署名 中国人の入国禁止求め 新型肺炎を懸念****
新型肺炎の感染拡大を防ぐため、中国人の韓国への入国を全面的に禁止するよう韓国政府に求める申し立てに、28日までに54万人以上の署名が集まった。

韓国では、大統領府のホームページに国民がオンラインで希望を申し立てることができるサービスがあり、1件の請願に対して20万人以上の署名集まると、政府は何らかの回答を正式に示すことになっている。(後略)【1月28日 ロイター】
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*****韓国次官の服がビリビリに!?武漢帰国者の受け入れ、韓国では大もめ****
2020年1月30日、韓国・東亜日報などによると、韓国の忠清南道で29日、新型コロナウイルス感染が拡大している中国・武漢から帰国する韓国人の受け入れをめぐり、市民と政府関係者との間で激しいもみ合いが起きた。 

記事によると、韓国・保健福祉部の金剛立(キム・ガンリプ)次官は同日午後、武漢滞在の韓国人の受け入れに関する政府の方針を説明するため忠清北道の病院を訪れた。金次官は、病院前で「受け入れ反対」を主張し座り込みをしている住民らの元へ行き、「みなさんの懸念が取り越し苦労になるよう最善を尽くす。安心できる最善の措置を講じるために最善を尽くす」と説得した。しかし住民らは「政府はただちに撤回せよ」と書かれたプラカードを掲げて強く抗議したという。 

さらに住民らは、その場を離れようとする金次官を阻止するため、髪の毛をつかむ、服を強く引っ張り引き裂くなどした。ペットボトルや紙コップ、汚物を投げつける住民もいて現場は大混乱となった。警察数十人が駆けつけるまで騒動は収まらなかったという。(後略)【1月30日 レコードチャイナ】
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こうした状況で、単に新型肺炎予防という以上の「反中感情」とも言うべきものが世界各地で噴出しています。

*****新型コロナウイルスで「反中感情」世界に広がる 入店拒否やネット誹謗も*****
新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大とともに、世界中に反中国感情が広がりつつある。中国人観光客が入店を断られるケースや、ネット上で変わった動物の肉を食べる習慣をあざける投稿なども見られる。

これまでに中国から十数カ国に感染が拡大しているが、その多くは中国との関係が微妙になっている東南アジア諸国だ。これらの国では、中国による巨額のインフラ投資や南シナ海の領有権を巡る問題などで、同国に対する懸念が生じていた。

カナダのトロントでは、中国系カナダ人への差別をやめるよう当局が警告せざるを得なくなった。欧州でも中国系市民が街頭で偏見にさらされたり、新聞が敵意ある見出しを掲載するなどの事態が起きた。

シンガポール経営大学で人類学を教えるCharlotte Setijadi氏は「東洋通を気取る人によるさまざまな思い込みと、政治不信、医学的な不安がかなり強力な(反中感情を生む)組み合わせになっている」と指摘する。

中国当局が新型コロナウイルスは武漢市の野生動物を違法に取引する市場から感染したと発表したことから、ソーシャルメディアでは、こうした動物の肉を美味として求めたり、漢方薬の原材料として珍重したりする中国の風習が嘲笑されている。

中国人が最も観光で訪れるタイではツイッターで、あるユーザーが「コウモリを食べるのはやめろ」と書き込んだ。別のユーザーは、男性が生肉を食べている動画をアップして「中国人が新しい病気をつくり出しても驚かない」とつぶやいた。

ベトナムのダナンでは「あなた方の国が病気を広めたので、われわれは中国からの客へのサービスを提供しない」と英語で張り紙したホテルまで出現し、その後当局から張り紙を撤去するよう命じられたと、ホテルの支配人がフェイスブックで明らかにした。

ベトナムは中国に支配された歴史がある上に、今も南シナ海で紛争を抱えており、特に中国との関係が緊迫している。

ただベトナムに限った話ではない。東南アジアの政府当局者や学者などを対象に実施した調査が今月公表され、実に全体の6割が、中国への不信感を示した。

多くの国では、武漢市のある湖北省からの旅行者にビザ発給を制限している。それでも飽き足らない韓国やマレーシアの一部の人々は、中国人の入国を全面的に禁止してほしいと当局に要請するネット署名運動に参加した。

フィリピン南部のサマール島は30日、中国だけでなく新型肺炎の感染者が出た全ての国からの観光客の訪問を禁じる異例の措置を打ち出した。

フランスのパリも中国人に人気の旅行先の一つで、中国人在住者も多い。同国では、アジア系の人々が公共交通機関内でのひどい扱いの実情を知ってもらおうと、ツイッターに「私はウイルスではありません」というハッシュタグで投稿を行っている。

フランス生まれの中国・カンボジア系で、クリエイティブ系の仕事をする41歳の女性は、パリの地下鉄で隣に座った男性が席を立ち、スカーフで口を覆ったのを見た時は「本当にショックだった。(不浄という)烙印を押されていると感じた」と打ち明けた。【1月31日 Newsweek】
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日本でも、「中国人お断り」的な反応は見られます。

****「ウイルスが通るぞ」中傷…アジア人種差別に広まった欧州(1)****
(中略)確定患者7人が確認された日本では、神奈川県箱根温泉のある菓子店で「中国人立入禁止」と書かれた紙が張り出されて論争を呼んだ。箱根温泉は多くの中国人が訪れる日本の代表的な温泉地だ。

日本メディアによると、この店の主人は今月17日から中国語で「中国人は入店禁止。ウイルスをばらまかれるのは嫌だ」という内容を店先に張り出した。この張り紙の内容がSNSに出回って非難を受けた店主は「物議をかもすような言葉は控える」としつつも中国人入店禁止の姿勢は変えないと明らかにした。(後略)【1月30日 中央日報日本語版】
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【欧州ではアジア人差別的な言動も】
欧州にあっては、中国人と他の東洋人の区別がつかないということもあってか、アジア系全体に対する露骨な嫌悪感が広まっているとも。

****新型肺炎でアジア系差別 「#私はウイルスじゃない」拡散―仏****
欧州初の新型コロナウイルス感染が確認されたフランスで、アジア系住民に対する人種差別が問題となっている。

「握手を拒否された」などと嘆く声が聞かれる一方、「差別ではなく予防だ」と正当化する声も。ツイッターでは「#私はウイルスじゃない」と人種差別を糾弾するハッシュタグ(検索用の目印)が拡散している。

パリ中心部の公園を散歩中に人種差別行為に遭遇したというジャーナリストのマキシム・シャオさんはツイッターで、周りの人が「近づかない方がいい、ウイルスに感染しているかも」と話しているのを聞いたと投稿。「露骨に避けられるのはアジア人だからだ」と指摘した。
 
ベトナムから南仏に留学中の女子高生フェン・トランさんは仏紙パリジャンに対し、バスの中で複数の女子にからかわれたと打ち明けた。「(肺炎による)死者が増えて、私も感染していずれ死ぬような言い方をされた」と嘆いた。
 
一方で、パリジャンによれば、ツイッターでは「武漢の中国人かソウルの韓国人かなんて分からないからアジア人の隣には座らない。差別ではなく予防だ」などとする投稿も散見される。

ある救急医は同紙に対し、「『アジア系の団体観光客と擦れ違ったが大丈夫か』と電話相談があったが、感染リスクはかなり低い」と強調し、過剰反応を控えるよう呼び掛けた。【1月30日 時事】 
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****「まるでアジア系全員が保菌者扱い」新型肺炎で人種差別相次ぐ、欧州****
中国で新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、フランスの中国系社会では、街中やソーシャルメディア上で人種差別(レイシズム)的な言葉を浴びせられたと訴える声が相次いでいる。イタリアの中国系社会の著名人らも、同胞に向けられた「潜在的人種差別」について警告している。
 
新型ウイルスの感染者が複数確認された仏パリでは、今週末にアジア人街で予定されていた春節(旧正月)のパレードが延期された。30日の主催者発表によると「衛生上の理由」から2〜3か月延期されるという。
 
しかし、パレードを主催する在仏中国人協会のサシャ・リンロン氏によると、延期は衛生上の理由からだけではなく「侮辱によってぶち壊しにされないため」でもあったという。

「外国人嫌悪が入り混じった集団ヒステリーがあり、フランスのアジア系住民に対する人種差別発言に歯止めがきかなくなっている。まるでアジア系住民全員が保菌者のような言われ方で、近寄るなと言わんばかりだ」(リンロン氏)
 
現地紙クーリエ・ピカールは26日、日曜版の一面の見出しに「黄色人種警報」と付け、謝罪に追い込まれた。
 
ソーシャルメディア上でもたくさんの証言が、リンロン氏の言葉を裏付けている。「エロディー」とだけ名乗る女性はAFPに対し、25日の街角で見た光景を語った。「買い物をしていたら何メートルか先で、高齢カップルがアジア系レジ係の接客を拒否し、母国に帰れと言い放った。レジ係の女性はショックで泣きだした」
 
アジア系の人々に対するこうした言動を非難するため、フランス国内のツイッター上にはハッシュタグ「#JeNeSuisPasUnVirus(私はウイルスじゃない)」が登場し、トレンド入りした。
 
在仏中国人の若者たちの団体、法国中国青年協会のラエティティア・チ氏は「中国人でなくともアジア人というだけで、非礼な扱いまたは人種差別的な行為を受けたという証言がたくさん舞い込んでいる。彼らは中国人と一緒くたに扱われ、しかもそのままウイルスと同一視されている」と訴えた。

新型ウイルスの感染拡大以降、イタリアでも中国人に対するいじめや嫌がらせ、差別が相次いで報じられている。
 
日刊紙スタンパによると、ミラノの中国系住民約3万人を代弁することが多いイタリア商業連盟の会員フランチェスコ・ウー氏は「極めて不愉快でばかばかしく、腹立たしいことだ」と憤っている。
 
イタリアでは、ベネチアで中国人旅行者らがつばを吐きかけられたり、トリノに住むある一家がウイルス感染者だと責め立てられたり、ミラノで母親らがイタリア人の子どもを中国系の同級生らに近づけないようソーシャルメディアで呼び掛けたり、といった人種差別が報じられている。
 
ウー氏は、「全く不当だし、子どもが巻き込まれているだけにいっそうひどい。無知と潜在的人種差別とが入り交じっている」と非難した。 【1月31日 AFP】
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イタリアの名門音楽院が東洋人の学生に対し授業への出席を禁止する措置をとり、差別だとの批判があがっているとも。

渡航歴に関係なく中国人、韓国人、日本人など、東洋人全員を対象にした措置で、2月5日に学内の医師の診察を受け、問題がなければ再登校できるとのことで、「全ての学生の健康を守るための判断だ」(院長)とも。【2月1日 日テレNEWS24より】

一連の反応には、予防措置としての対応のほか、また、中国人と他の東洋人の区別がつかないという事情の他、何か心の奥底に潜んでいた感情が今回の事態で表に出てきた・・・という印象も。

【同じ中国人同士でも 根が深いヘイト感情】
なお、こうしたヒステリックな反応は別に人種間だけではなく、中国国内において、同じ中国人同士でも見られますので、人種的問題より更に根は深いのかも。

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一方、「ヘイト」は中国内でも広がっている。中国メディアによると、いくつかの地方政府がウイルス発源地である武漢から来た人々を「懸賞金」までかけて探し出そうと躍起になっている。

河北省の省都である石家荘市井ケイ鉱区は今月14日以降、武漢から帰ってきた人のうち「未登録者」を申告した人に2000人民元(約3万1400円)を支給しているほか、正定県も申告者に1000元を支給している。

湖北省近接地域では湖北省に通じるトンネルを土で埋めて遮断した。武漢人が住んでいる家の入口にこれを知らせる立て札やプラカードなどを掲げて往来を禁止する場合もあった。【1月30日 中央日報日本語版】
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今後の対策について言えば、同じような防御対応をとるにしても「心苦しいが、こういう状況なので・・・」というのと、「ウイルス野郎、来るんじゃねえ!」というのでは、基本的な部分で異なる・・・・という話です。
前者であれば、可能な限りの支援対応も併用可能でしょう。

 

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西アフリカで台頭するイスラム過激派 解放後も続く「子ども兵士」にされた少女たちの苦悩

2020-01-31 23:12:31 | 人権 児童

(「子ども兵士」で悪名高い「神の抵抗軍」(LRA)の指導者ジョゼフ・コニー(手前)【1月24日 Newsweek】
1986~2005年に6万6000人超の子供を誘拐したとされますが、今も活動を続けています。)

【テロで存在感を競うISとアルカイダ】
アフリカで民族・宗教間などの紛争・衝突、イスラム過激派の台頭などが見られるのは今更の話ではありますが、最近よく目にするのはブルキナファソやニジェールといった西アフリカ地域の状況。

貧困層が多く、国家の治安維持機能も脆弱な西アフリカでは、ISやアルカイダなどのイスラム過激派がその勢力を拡大し、テロも頻発しています。

****西アフリカのクリスマス・テロ――ブルキナファソは「第2のシリア」になるか****
西アフリカのブルキナファソで、イスラーム過激派が軍事基地などを相次いで襲撃するクリスマス・テロが発生した

この国を含む西アフリカ一帯にはISやアルカイダが流入して勢力を広げる一方、国際的な関心も低く、取り締まりは追いついていない

ISとアルカイダのイスラーム過激派同士が、金の産出地帯をめぐって勢力争いを繰り広げることが、テロの蔓延に拍車をかけている
 
ほとんどの国が関心をもたない西アフリカは、いまやイスラーム過激派が目立つテロを競う場になっている。 

ブルキナファソのクリスマス・テロ
キリスト教最大のイベントであるクリスマスは、ほぼ例年イスラーム過激派の大規模なテロが世界のどこかで発生してきた。今年、それは西アフリカのブルキナファソで発生した。 
 
25日、同国北部スム県にあるアリビンダ基地が襲撃され、兵士7人、民間人35人が殺害され、攻撃した武装勢力も80人以上の死者を出した。巻き添えになった民間人のうち31人は近隣の女性だった。スム県では24日にもパトロール中の軍隊が襲撃されている。(中略)
 
ブルキナファソの人口の約80%はムスリムだが、キリスト教徒もいる。これまでのところ、犯行声明を出した組織はない。 

「第2のシリア」?
今回の事態は、かねてから警戒されていた。ブルキナファソを含む西アフリカでは、イスラーム国(IS)やアルカイダといったイスラーム過激派の活動が活発化しているからだ。 
 
例えば、ブルキナファソに限っても、2015年からだけで700人が殺害され、56万人が避難を余儀なくされており、国連は同国が「第2のシリア」(Another Syria)になりかねないと警告していた。 
 
中東を追われたイスラーム過激派は世界に拡散しているが、そのなかでもアフリカは「狙い目」にされやすい。その背景には、治安機関が脆弱で取り締まりが充分でなく、さらに「テロリスト予備軍」としてリクルートの対象になる貧困層も数多くいることがある。 
 
とりわけ、ブルキナファソを含むサハラ砂漠の一帯(サヘルと呼ばれる)は、隣接するアルジェリアやリビアなど北アフリカから過激派が数多く流入している。北アフリカは中東の一部でもあり、サヘルはその玄関口になっているのだ。 

世界から見放されたサヘル
ブルキナファソをはじめサヘル一帯でのテロの蔓延は、難民の流出に拍車をかけている。国連難民高等弁務官事務所は今年10月段階で、アフリカの西部から中部にかけて130万人の難民と470万人の国内避難民がいると推計している。 

こうした人道危機への懸念から、例えばフランスのマクロン大統領は2017年、ブルキナファソの他、チャド、ニジェール、マリ、モーリタニアの5カ国(G5)とテロ対策の強化で合意。G5は国境を超えるテロ組織に共同で対処することを目的にしており、フランスはこれに訓練や兵站などで支援してきた。 
 
サヘルの国にはかつてのフランス植民地が多く、いわばフランスの縄張りでもあるが、これにはやはり難民増加を懸念するドイツやカナダなども協力している。 
 
しかし、他の多くの国は、サヘルでのテロ対策に必ずしも熱心ではない。中東と異なり経済的な利害関係が少ないことが、その大きな要因といえる。サヘルのテロは、いわば世界から見放されてきたのである。 

テロ組織同士の抗争
世界から半ば放置されたサヘルの状況は、ISとアルカイダの縄張り争いによって、さらに悪化している。 
 
ISはもともとアルカイダから分裂した組織で、両者は直接衝突することは稀でも、基本的に関係がよくない。 
そのうえ、両者は資金源をめぐっても対立している。シンクタンク、国際危機グループによると、これらの組織はブルキナファソからマリにかけて広がる金の産出地帯を制圧しており、これをめぐっても争っている。(中略)
 
ISとアルカイダが少しでも相手と差別化して、存在感を誇示しようとした場合、一番分かりやすいのは目立つテロ事件を引き起こすことになる。こうした「レース」は、2015年に2度の大きなテロに見舞われたパリをはじめ、これまでにも世界の各地で発生してきたことだ。 
 
今月12日、フランス政府は来年初旬に開催予定だったG5との首脳会合を延期すると発表した。その直前に、G5の持ち回りの議長国であるニジェールで発生した、71人の兵士が死亡するテロ事件が理由だった。この事件ではISが犯行声明を出したが、これがアルカイダを触発したとしても不思議ではない。 
 
だとすると、今回のブルキナファソの事件がどの組織によるものだったとしても、この事件そのものが次の事件を誘発することは充分考えられるのである。【2019年12月26日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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上記記事が指摘するような“この事件そのものが次の事件を誘発する”関係かどうかは知りませんが、ブルキナファソでは今年に入ってからも武装勢力による住民襲撃が相次いでいます。

****西アフリカ、住民30人超殺害 ブルキナファソ、市場襲撃****
西アフリカ・ブルキナファソ北部の村の市場で25日以降、武装勢力が住民を襲撃し30人以上を殺害した。イスラム過激派の犯行とみられている。AP通信などが28日報じた。国営テレビによると、死者は50人に達する恐れがあるという。
 
ブルキナファソ北部では20日にも別の市場が襲われ、少なくとも36人が死亡したばかり。同国や隣国マリ、ニジェールでは過激派が台頭し治安が悪化。特にブルキナファソでは襲撃が急増している。
 
目撃者らによると、襲撃は25日に始まり、戦闘員らはその後も何日間か村にとどまった。【1月29日 共同】
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同じ西アフリカのニジェールでも。

****軍の基地に相次ぐ襲撃、兵士さらに89人死亡 ニジェール****
西アフリカのニジェール西部で軍の基地が武装集団に襲撃され、兵士89人が死亡した。事件を受け、政府は3日間の服喪を宣言した。

ニジェール政府の12日の発表によると、隣国マリとの国境に近い地域で9日、軍の拠点が武装集団に襲撃された。
同国は犠牲者をしのんで全土で半旗を掲げると表明。マハマドゥ・イスフ大統領は遺族に哀悼の意を表し、負傷者の早期回復を祈るとした。

ニジェールでは昨年12月にも軍の拠点が襲撃され、兵士71人が死亡していた。

ニジェールと隣国のマリは、イスラム過激派との戦闘が続く中、軍の拠点に対する襲撃が過去数カ月で相次いでいる。

マリでは昨年11月、過激派の掃討作戦を行っていたヘリコプター2機が衝突事故を起こし、フランス軍の兵士13人が死亡。同月、北東部の基地が襲撃された事件では兵士50人以上が命を落とした。

ニジェール政府によると、マリとの国境付近にある基地は、バイクや車でやって来た集団に襲撃された。治安部隊の反撃によって、テロリスト77人を殺害したとしている。【1月14日 CNN】 
***********************

【増大する子供の犠牲】
こうした劣悪な治安状況にある西アフリカ・サヘル地域では、多くの子供が犠牲になっています。

****アフリカ・サヘル地域紛争、子どもの殺害や手足欠損「数百人」 ユニセフ****
アフリカ・サハラ砂漠の南縁に位置し、イスラム過激派勢力が猛威を振るっているサヘル地域では昨年、子ども数百人が殺されたり手足を失うなどの重傷を負ったり、両親と引き裂かれたりした。
 
28日に発表された国連児童基金(ユニセフ)の報告によると、サヘル諸国のうちマリだけでも、昨年1〜9月に277人の子どもが殺されたり重傷を負ったりした。前年の2018年と比べて2倍以上になるという。
 
マリはフランス軍や国連部隊の支援を受けているが、2012年に同国北部で武装蜂起した反政府勢力やイスラム過激派勢力の鎮圧に苦戦している。これまでに兵士や民間人数千人が犠牲になった上、戦闘は同国中心部や隣国のブルキナファソとニジェールにも広がり、民族間の緊張もあおった。
 
ユニセフの報告によると、サヘル地域全体で「戦闘に巻き込まれた子どもたちに対する暴力が著しく増加」しており、ブルキナファソとニジェールでも子どもたちが殺人や性暴力、誘拐、武装集団の戦闘員動員の標的となっている。
 
広範囲に及ぶ紛争で自宅を逃れ避難民となった人は昨年11月時点で、前年の2倍の約120万人となり、その過半数を子どもが占めている。また約490万人の子どもが人道援助を必要としているという。
 
ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所のマリー・ピエール・ポワリエ代表は「子どもたちが直面している暴力の規模に、われわれは衝撃を受けずにはいられない」「数十万の子どもたちがトラウマになる経験を生き抜いている」と語った。 【1月28日 AFP】
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【解放後も偏見の目にさらされる元少女兵】
子供の戦争被害は、子供自身への被害の他、子供が拉致され「少年兵」として戦闘に投入されるということがあります。

****子ども兵士894人解放、反ボコ・ハラムの民兵組織 ナイジェリア****
国連児童基金(ユニセフ)は10日、ナイジェリアでイスラム過激派「ボコ・ハラム」と対峙(たいじ)する民兵組織から少女106人を含む子ども894人が解放されたと明らかにした。

解放された子どもたちは北東部マイドゥグリで地元の民兵組織「一般市民合同タスクフォース(CJTF)」によって兵士として採用されていた。CJTFは2013年、一帯の反政府勢力の活動に対抗するために作られた組織。

ユニセフによると、ナイジェリア北部の紛争では2013〜17年にかけて3500人以上の子どもが兵士になった。ボコ・ハラムはこの地域で10年以上にわたり戦闘を続けており、村を焼き打ちしたり軍基地を襲撃したりしている。

ユニセフ・ナイジェリアのモハメド・フォール事務代表は「戦闘の影響を受ける子どもたちがいる限り、子どものための闘いをやめてはならない。我々はナイジェリアの全武装勢力の兵士から子どもがいなくなるまで取り組みを続けていく」と述べた。

ユニセフによると、CJTFは2017年に子どもの兵士採用を終わらせる行動計画に署名して以降、1727人を解放してきた。ユニセフはナイジェリア政府や地元当局と協力し、こうした子どもたちの社会復帰を支援しているという。

ボコ・ハラムの戦闘員は集団拉致や暗殺、市場の爆破を実行。軍が奪還したと主張する地域でも兵士の殺害に及んでいる。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年1月には3万人近くがナイジェリアの村から隣国カメルーンに避難する事態となっていた。【2019年5月11日 CNN】
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上記記事では“少女106人を含む”ということで、「子ども兵士」という言葉を使用していますが、通常は「少年兵」という言葉がよく使われます。

「少年兵」という言葉のイメージからは少女たちの存在が抜け落ちてしまいます。

拉致された少女たちについては、性的な虐待が連想されますが、少年同様に兵士として戦闘に駆り出される少女たちも少なくないようです。

また、少女については解放後ももとの社会になかなか受け入れてもらえないという、少年とは異なる問題もあります。

****殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印****
<武装勢力に誘拐され残虐行為に加担させられた少女たちは、解放後も偏見の目にさらされる――彼女たちが笑顔を取り戻すために必要な支援とは?>

マーサが初めて人殺しを強いられたのは10歳の時だ。小さな体に不釣り合いな長いおのを持たされ、村人の首を切るよう命じられた。マーサはその前の晩、ウガンダ北部の自宅で就寝中に家に押し入った男たちに縄で縛られ森に連れてこられたばかりだった。(中略)

誘拐したのはウガンダの武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」。マーサは13歳になるまでに、ほかにも斬首や赤ん坊を殴り殺すなどの残虐行為を強いられ、村々への襲撃にも加わった。

命令に逆らった子供は見せしめのため手足を切り落とされたり、唇に金属の錠前をはめられたり、死体の上で寝かされたりする。

マーサはろくに食べ物も与えられず、日常的な暴力に耐えて森で生き延びた。いつか逃げ出して家に帰ろう。その思いだけが支えだった。

ユニセフ(国連児童基金)の調査によると、LRAが1986年から2005年までに拉致した子供は6万6000人を超える。「子供の兵士」という言葉から多くの人が連想するのは、小さな体に銃を背負い、迷彩服を着て声を合わせてスローガンを叫ぶ洗脳された少年たちの姿だろう。少女まで殺戮に駆り出されていることはあまり知られていない。

(中略)武装勢力に加わっていたことは、少女にとっては少年以上に深い恥辱となる。彼女たちは救済されるか逃げ出して家に帰ってからも、長く白い目で見られる。だが、少女兵に特有の問題はほとんど知られていない。

紛争地域に入るのは困難で、報道も少ない。加えて国連の調査・検証の基準が厳格なこともあり、世界中で少女兵がどのくらいいるか正確な数字は把握できない。

それでも国連によると2000年以降、武装勢力から解放された子供の兵士は少なくとも11万5000人に上り、うち最大4割は少女とみられる(国連が確認した数は実数のごく一部にすぎないと専門家は指摘している)。

誘拐された少女の一部は戦闘に駆り出されるが、多くは物資の運搬や調理、偵察や負傷者の手当てをさせられ、幼妻にされる子もいる。

性的暴力は日常的で、LRAに8年間拉致されていたジャネットという少女の話では、メンバーは成人女性よりもHIV感染のリスクが低い未成年者を好むという。

武装勢力による少女誘拐に世界の関心が集まったのは2014年4月に起きた事件がきっかけだ。ナイジェリアの過激派組織ボコ・ハラムが北東部チボクの寄宿学校を襲撃し、少女276人を誘拐した。

その後、少女たちの多くは救出されて家族と再会し、人々は安堵したが、同時にこうした少女を助けようという機運が盛り上がった。(中略)

武装勢力の下に戻る子供も
だが、誘拐された少女たち全員が解放後に温かい支援を受けられるわけではない。多くは家に帰ってからもトラウマにさいなまれ、「元少女兵」の不名誉な烙印を押されて身の置き場のない日々を送っている。

私が会ったとき、マーサは21歳になっていた。LRAの監視下に3年間置かれた末、逃げ出してから8年がたっていた。

初めのうち彼女はうつむいたまま、じっと押し黙っていた。そして声を振り絞るようにして、自分でも認めたくない屈辱を吐き出した。「こんな思いをすると分かっていたら、森から逃げなかったのに」

実際、命からがら逃げ出したのに自分の意思でまた武装勢力の下に戻る子供は後を絶たない。その割合は推定10人中3人に上る。

耐え難いのは周囲の偏見だ。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療と職業訓練を受けても、差別は根強く、経済的・社会的な孤立に追い込まれる。元少女兵の汚名に悩み、トラウマからの回復もままならず、家族や友人との関係が壊れるケースも多い。

社会復帰の難しさは少年兵と少女兵に共通する部分もあるが、明らかな違いもある。話を聞いた元少女兵の多くは、元少年兵以上に職探しに苦労していた。

汚名はわが子にも付きまとう
LRAの下で6年を過ごし性的暴力を受けたミリは解放後に職を探したが、「傷物」を雇えば評判が悪くなると、どこに行っても断られた。1年間捕らわれていて少年兵と共に戦闘に駆り出されたレベッカも、女のくせに暴力を振るうなんてとんでもないと門前払いを食らった。(中略)

元少女兵の汚名は結婚の妨げにもなる。マーサは12歳になる前、強制的にLRA司令官の妻にされた。
「25歳になった今でも、まだ『汚れた女』と思われている」と、彼女は嘆く。(中略)

世界各地にいるマーサのような元少女兵には、私たちの助けが必要だ。戦争を生き延びることも大変だが、その後の社会的・経済的影響を耐え抜くことも同様に難しい。【1月24日 Newsweek】
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アメリカのLGBT事情  異性愛者のための「ストレートパレード」 トランプ政権下の「揺り戻し」

2019-09-01 23:01:33 | 人権 児童


(8月31日、米ボストンで行われた「ストレートパレード」の参加者を先導した車。トランプ大統領の再選を支持し、メキシコとの国境の壁建設を訴えるメッセージが掲示された(上塚真由撮影)【91日 産経】)

 

【異性愛者のための行進「ストレートパレード」?】

最近は性的少数派のLGBTの人々によるデモは珍しくなくなっていますが、アメリカでも指折りのリベラルな都市とされるボストンで、異性愛者のための行進「ストレートパレード」が行われたそうです。

 

****米ボストンで「ストレートパレード」 「異性愛者が虐げられている」と訴え 参加者上回る数千人が抗議****

毎年開かれる性的少数者(LGBT)のパレードに対抗し、異性愛者のための行進「ストレートパレード」が8月31日、米ボストンで行われ、トランプ大統領の支持者を中心に約200人が参加した。

 

開催をめぐってはLGBTを侮辱する「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」と非難が殺到。多数の警察官が厳重な警備体制を敷く中、パレードの参加者をはるかに上回る数千人の抗議者が詰めかけた。

 

異性愛者のためのパレードを主催したのは、今年初めに設立された「スーパー・ハッピー・ファン・アメリカ」という団体。団体は設立の目的を「異性愛者の社会のため尊敬や結束、平等、尊厳を確立することを提唱する」と説明し、LGBTの権利が拡大する中、「異性愛者は虐げられている多数派だ」と訴える。

 

パレードはボストン中心部で正午から始まり、トランプ氏再選を支持し、同氏の発言である「壁を作れば、犯罪が減る」などのメッセージが貼り付けられた宣伝車が先導。参加者は「異性愛者であることはすばらしい」「正常を再び」などと書かれたプラカードを持って練り歩いた。

 

危険な極右思想を掲げたとしてフェイスブックのアカウントを閉鎖された同性愛者の編集者、マイロ・ヤノプルス氏がパレードの旗振り役として参加した。

 

パレードが進むと、数千人の抗議者が沿道で「ナチは去れ!」「恥を知れ!」「ボストンはあなたを嫌っている」などと罵倒。一部の抗議者が暴徒化し、警察官が催涙スプレーをかけて鎮圧する場面もあり、地元紙によるとこの日、数人が拘束されたという。

 

沿道からパレードに抗議した高校教師のホイットニー・ニールセンさん(33)は、「私は異性愛者として攻撃されたこともないし、差別されたことはない。なぜパレードが必要なのか。ばかげている。彼らは、とっぴな行動で注目を集めて社会の憎悪をあおりたいだけだ」と話した。

 

一方、他州からもパレードに参加した人は多く、ニューヨーク州に住むトランプ氏支持者のナディーン・コーエンさん(49)は「LGBTであることは米社会で特権のようになっている。反対に私たちは自由に発言できなくなり、居場所がなくなっている」と語った。

 

パレード後の集会も抗議者が取り囲み、「帰れ」と連呼。主催団体の代表、ジョン・ヒューゴ氏(56)は「異性愛者のパレードを許さないのは平等ではない。リベラルでないと拒絶される社会が問題だ」とし、「来年もパレードを続けたい」と語った。【91日 産経】

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同内容につき、別記事では以下のようにも。

 

****米ボストンで異性愛者のプライドパレード、反対派と怒鳴り合う場面も****

(中略)

この日は市庁舎前でストレート・プライドの参加者とカウンターデモ隊が相手の面前で互いに怒鳴り合ったり、コーヒーのカップや土を相手に投げつけたりする場面もあった。双方のデモには複数のグループの数百人が参加。いずれも、デモ自体は特に大きな暴力沙汰もなく行われた。

 

しかし、AFPのカメラマンによると、ストレート・プライドに反対していたカウンターデモ隊が、「ナチス」を警護したと警官らをののしり、「恥を知れ」とシュプレヒコールを上げた。さらに「人間の鎖」を作って警官らが通り抜けるのを妨げた。警察は催涙スプレーを噴射し、数人の身柄を拘束した。

 

ストレート・パレードは「スーパー・ハッピー・ファン・アメリカ」と称する団体が、米国のさまざまな都市で毎年行われる同性愛者のプライドパレードに対抗して開催した。主催者には、ボストンのLGBT(性的少数者)への嫌がらせへの嫌がらせを図る白人優位主義者という批判も受けている。

 

一方、ストレート・パレードへのカウンターデモを主催した一人、レイチェル・ドモンドさんは、「ボストンや全国に広がるこのような憎悪に抵抗するため」行動を起こしたと説明。

 

トランプ氏が権力の座に就いたことで、白人優位主義者らが「あのような言葉を公然と述べる権限を与えられた」と思ってしまったと指摘した。

 

米国各地では左派と白人ナショナリストの間で緊張が高まっており、トランプ氏の発言が過激思想をあおっているとの批判もある。 【91AFP

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LGBTの権利が近年認められるようになってきたとは言え、まだ様々な面で差別的な境遇に置かれており、それに抗議するLGBTのパレードというのはわかりますが、「ストレートパレード」なるものが何を求めてのものなのかわかりません。

 

今でも異性愛者は圧倒的多数派であり、そのことを理由に差別・迫害されているということもありません。

 

LGBTであることは米社会で特権のようになっている。反対に私たちは自由に発言できなくなり、居場所がなくなっている」【産経】というのは、言い換えると「これまでのように自由気ままにLGBTを罵ることができなくなった。それが腹立たしい」ということのように理解できます。

 

「リベラルでないと拒絶される社会が問題だ」【産経】とのことですが、拒絶されているのはリベラルでないからではなく、その主張が差別的で攻撃的でヘイトに相当するからでしょう。

 

そして最近は、かつてはポリティカルコレクトネスから口にするのがタブーとされていたような、「差別的で攻撃的でヘイトに相当する言動」が大っぴらに口にできるようになっているように思われます。

 

そうした風潮を生みだしたのは、トランプ大統領の言動でしょう。

 

【トランプ政権下で進行する「揺り戻し」】

LGBTに関しても、これまでのLGBTを許容する社会的流れに抗して、政治的にはトランプ政権のもとで「揺り戻し」とも言えるような逆行が見られます。

 

****性別変更を不可能に、米政府が検討 「トランプ氏は公約破り」ワシントンポスト紙****

米国のトランプ政権が性別の変更を不可能にする新制度を検討していることが米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によって明らかになった。

 

厚生省がまとめた資料では、性別は「生まれ持った生殖器によって規定される」案が浮上していて、男性か女性のいずれかに限定される。

 

米国には心と体の性が一致しないトランスジェンダーが約140万人いるとされ、性的少数者(LGBT)の関連団体などが反発している。

 

ワシントンポスト(米国)「トランプ氏は公約破り」

米紙ワシントン・ポスト(電子版)は23日の社説で、性の定義を生まれつきの性別に限定する政策が実施されれば、「罪もない人々を傷つけることになる」と非難し、政策は「(トランスジェンダーの人々の)現実に即していない」と訴えた。

 

同紙はまず、性を定義することの難しさに言及し、「親が選んだ性別に適合せず、変更を望むケースもある」と指摘。国際スポーツの分野でも、遺伝子やホルモンレベルに基づいて科学的に正しい検査方法を模索してきたと紹介し、「遺伝子検査は、生物学的な性別に関する問題を解決するための信頼できる方法にはならない」と主張した。

 

また、政策の賛成派は、トランスジェンダーへの理解が欠如しているとも指摘。トランスジェンダーの人々は「浅薄な好み」ではなく、「深厚で本質的な自覚」によって自身の性のアイデンティティーについて考えていると強調した。

 

その上で、米社会で長年、否定されてきた同性愛や異人種間の結婚を挙げ、トランスジェンダーの政策が導入されれば、「再び社会から人々を疎外させることになる」と警告。

 

トランプ大統領は大統領選でLGBTのために戦うと訴えていたとし、「新たな公約破りが示されることにもなる」と批判した。

 

ニューヨーク・タイムズ紙は23日の社説で、中間選挙を前にトランプ氏が自らの支持層の歓心を買うため、移民問題などで過激な発言を繰り返していると指摘。トランスジェンダーの政策見直しもその一環とし「社会を二極化するゲームをやっている」と政治姿勢を批判した。

 

LGBTやリベラル層から反発が強まる中、保守系メディアのワシントン・エグザミナー(電子版)は22日の記事で「オバマ前政権の取り組みから後退したとしても、トランスジェンダーを『抹消』することにはつながらない」と反論した。(中略)20181029日 産経】

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トランプ政権が「揺り戻し」的な施策を進める背景には、トランプ大統領による保守派からの最高裁判事任命によって、法廷闘争に持ち込まれても勝てるとの認識もあるようです。

 

また、どこから手をつけるかについては、攻めやすいところから始めるという計算のもとで行われているとも指摘されています。

 

****なぜトランプは「LGBT排除」にここまで注力するのか まずはトランスジェンダーが標的に****

「トランスジェンダー否定」の衝撃

この報道(上記【産経】が紹介している米紙ニューヨーク・タイムズ報道)はすぐに反響を呼び、トランスジェンダーの人々と、その人権を守るために連帯する人々が、「#WontBeErased (私たちは消されない)」というハッシュタグを用いて、ツイッターなどのSNSで抗議する動きが起きた。この抗議には歌手のレディー・ガガさんなどの有名人も参加し、国を越えて声があがっている。

 

報道の翌日、トランプ大統領は、報道の内容が事実であることを認め、「現在、多くの異なる考え方があり、トランスジェンダーの尊重に関して多くの異なることが生じている」と語った。

 

そして、大統領選挙運動中に述べた「LGBTのコミュニティを守る」という約束との関係について尋ねられると、「私は、皆を守る。私は、私たちの国を守りたい」と述べている。

 

ニューヨークタイムズが、トランスジェンダー排除を煽っていると報じた保健福祉省には、トランプ大統領が、公民権局長に指名したロジャー・セベリーノ氏がいる。

 

彼は、このポストに就任する前から、このガイドラインのことも含めて、LGBTの権利を否定する発言を繰り返しており、LGBTの権利運動を進める団体から「過激な反LGBT活動家」と言われている人物で、今回の動きにも絡んでいると目されている。

 

トランプ政権下がスタートして間も無く、LGBTに関する否定的な政策として表面化したものの一つとして、高齢者に対する調査などから、以前は含まれていた指向性別(性的指向)や性別アイデンティティに関する内容が削除された問題があるが、これらは、米国保健福祉省下で実施されてきたものであった。

 

そして、それと同様に、政権発足後、真っ先にLGBT関係で出された方針が、タイトルナインにトランスジェンダーの学生を含む前提としてつくられたオバマ政権下のガイドラインの撤回がある。

 

一見、恣意的にも見えるトランスジェンダーの人たちを抑圧する施策を繰り出しているようにも見えるが、調査統計からの排除やこのガイドラインの撤回から始めたのには、(当然ながら)周到な計算がある。

 

利用された「トイレ問題」

オバマ政権下でだされたガイドラインは、学生の性別移行をどのように扱っていくべきか、プライバシーをどう守るかといった、包括的なサポートを含んだ内容となっている。しかし、世間的には、「トイレやロッカールーム使用の問題」に議論が集中してしまった。(中略)

 

つまり、トランプ政権は、まず、まだ世間で十分に理解されていないところから手をつけたということだ。しかも、ガイドラインは法律ではないため、撤回もしやすい。(中略)

 

おそらく、トランプ政権とそれを強く支持している人には、同性婚を認めた結婚の平等化を覆したいと考えている人たちも多いはずだが、連邦裁判所での判断が出た上に、世論調査でも、それを認める人たちが多く、その差は開く一方である(2018年のGallupの調査では、賛成67%、反対31%)。

 

長らく人工妊娠中絶と同性婚が、民主党と共和党の政策の対立軸となってきたように(そして、その中で、共和党が敗北してきたように)、今、トランスジェンダーの人権をめぐる問題が対立軸となりつつあるようにも見える。

 

だが、この性別の狭義化、固定化は、国際社会における性別に関する人権保護の流れに反すると同時に、米国内の具体的な政策で言えば、まず、オバマ政権下で進められた医療、学校などでのトランスジェンダーの人たちの権利を反故にするものである。

 

そして、トランプ政権下でトランスジェンダーを主なターゲットとしながら、LGBTを排除していく一連の流れの中にある。(中略)

 

そして、これらの後退に抵抗し、LGBTに平等な権利が与えられることを求めたい人たちにとって、とてもやっかいなのは、トランプ大統領が二人の連邦最高裁判所判事を指名することに成功し、「保守派」と目される判事が過半数になったことだ。

 

そのため、連邦最高裁まで争いが持ち込まれた場合、トランプ政権の思惑通りの結果が出る可能性が高い。米国の最高裁判事は終身雇用であり、その判決の持つ力は絶大だ。(後略)【2018116日 砂川 秀樹氏 講談社】

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今年6月には、在外の大使館や領事館などで、LGBTのシンボルカラーである虹色の旗を掲揚することは認めない方針も。

 

****米政権、在外公館の虹色旗認めず LGBTのシンボルカラー****

トランプ米政権が、性的少数者(LGBT)の権利と尊厳を訴える月間中の今月、在外の大使館や領事館などで、シンボルカラーである虹色の旗を掲揚することは認めないと通知した。米NBCテレビなどが10日までに報じた。オバマ前政権の容認姿勢を一転させた。
 

トランプ大統領は一方でLGBTとの連帯を訴え、政権として同性愛を犯罪と見なさない国際的なキャンペーンを始めたとツイッターに書き込み、人権団体などは「偽善だ」と反発を強めている。
 

米紙ワシントン・ポストによると、オバマ前政権は2011年に大使館などによる虹色の旗の掲揚を容認した。【611日 共同】

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それでも世界的に見れば、LGBTが犯罪扱いされるようなイスラム諸国などや、ロシアにおける、LGBTの人々に対する暴力をゲームに変え、遊び感覚でLGBTの人々を“狩る”ことを推奨する自警団的集団の出現などに比べればアメリカの現状はまだましとも言えます。

 

ロシアの危険な状況や、逆に同性婚をアジアで初めて法制化した台湾の取り組みなども触れたかったのですが、長くなるので、また別機会に。

 

 

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増加するヘイトクライム 不寛容、異質なものへの憎悪をはぐくむものは

2019-06-10 22:44:02 | 人権 児童

(イスラム教徒の商店を狙った焼き打ちで一帯が黒こげとなった商店街(5月17日、スリランカ西部ミニワンゴダで)【5月21日 読売】)

 

【欧州で増加するヘイトクライム】

人種・宗教・性的指向などの違いにを理由とするヘイトクライム(憎悪犯罪)が近年増加傾向にあるという話を目にします。

 

互いの違いを容認しない不寛容、多様性の否定が広まっている傾向も。

 

****子どもを狙う憎悪犯罪が急増、肌白くしようとする10歳児も 英国****

英国で子どもを狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数が急増している。学校でいじめに遭ったという10歳の子どもは、自衛のために肌の色を白くしようとしていると告白した。

 

児童保護団体のNSPCCによると、人種差別に根差すヘイトクライムで子どもが被害に遭った件数は、2017~18年の警察の統計で1万571件に上った。1日当たりの平均では29件になる。

 

発生件数は3年前に比べて5倍になり、年間およそ1000件のペースで増え続けている。

 

英国では欧州連合(EU)からの離脱を決めた2016年の国民投票以来、全土で人種差別主義が台頭している。被害者の中にはまだ1歳に満たない子どももいた。

 

NSPCCに証言を寄せた10歳の少女は、「友達は、どうして汚い肌のやつと一緒にいるんだと言われるようになって、私と遊んでくれなくなった」と打ち明ける。

 

「私は英国で生まれたのに、自分の国へ帰れと言っていじめられる。どうしてだか分からない。うまく溶け込めるよう、顔を白くしようとしたこともある。私はただ、楽しく学校へ行きたいだけなのに」

 

英国では国民投票以降、全般的にヘイトクライムが急増し、その傾向は今も収まらない。2017~18年にかけてイングランドとウェールズで起きた事件は合計で7万1251件と、前年に比べて14%増えた。

 

被害者の性別や性的指向、宗教、障害に根差すヘイトクライムも急増している。しかし人種に根差す犯罪は依然としてヘイトクライムの大多数を占め、平均すると1時間あたり8件の頻度で報告されている。【5月31日 CNN】

********************

 

性的指向という面ではLGBTが攻撃の対象ともなります。

同じくイギリスで・・・・。

 

****英レズビアンカップル暴行事件、被害者2人の危機感*****

<ロンドンの深夜バスに乗っていた10代の若者5人がレズビアンのカップルに暴行、被害者の血まみれの写真が世界に衝撃を与えている>

深夜バスに乗っていたレズビアンのカップルに暴行を加えた容疑で、10代の男5人がロンドン警察に逮捕された。男たちはカップルに互いにキスしてみせるよう要求し、拒否されると2人を殴り、持ち物を奪ったという。

ロンドン警視庁の発表によれば、6月7日に15歳から18歳までの4人の男を強盗と加重重傷暴行の容疑で逮捕、9日朝に16歳の男を同じ容疑で逮捕した。容疑者の氏名は公表されていない。

ウルグアイ人の被害者メラニア・ヘイナモト(28)が5月30日の事件の直後、暴行を受けて血まみれになった自分とアメリカ人の恋人クリス(29)の写真をフェイスブックに投稿したことから、世界的な注目が集まった。

写真に添えられた説明によれば、デートの後、深夜にロンドンのカムデン地区へ行くバスに乗っていたヘイナモトとクリスは、キスをしているところを男たちのグループに見られ、嫌がらせをされたという。

「バスのなかには少なくとも4人の男がいた」と、ヘイナモトは書いている。「チンピラみたいな態度で迫ってきて、自分たちを楽しませるためにキスをしろ、と要求した。私たちを『レズビアン』と呼び、セックスの体位についてしゃべっていた。全部は覚えていないけれど、『はさみ』という単語だけが頭に残っている」(中略)

先週末、2人はメディアのインタビューに応じ、「写真ばかりが注目されているのは不満」「ヘイトクライムによって人権と安全が脅かされている。私たちも立ち上がって戦わなければ。ヘイトクライムの増加を招いたのは自分自身と罪の意識を感じている」(いずれもクリス)などと訴えた。【6月10日 Newsweek】
********************

 

イギリスの話題が続きますが、下記のような事件も。

****同性愛女性を描く舞台の俳優、「同性愛嫌悪犯罪」の被害に 英南部****

英南部サウサンプトンの劇場で同性愛を描いた舞台に出演中の俳優2人が8日午後、劇場へ向かう途中に石のようなものを投げつけられ負傷した。劇場は「卑怯な同性愛嫌悪の憎悪犯罪」だと非難している。

 

同性愛者の若い女性を描いた芝居「ロッテルダム」に出演中のルーシー・ジェイン・パーキンソンさんとレベッカ・バナトヴァラさんが昼公演に出演するためNST劇場に徒歩で向かっていたところ、パーキンソンさんが物体を投げつけられた。警察は、通りがかった車から何者かが石を投げつけた可能性があるとして、調べている。

 

ロンドン在住の俳優2人はカップルで、事件によって「ひどくショックを受けた」と劇場は明らかにした。

事件を受けてNSTキャンパス劇場は、2回分の公演を休演にした。作品の製作会社ハートショーン・フックは、襲撃された俳優2人が「卑怯な同性愛嫌悪の憎悪犯罪に、とてつもなく衝撃を受けた」とコメントした。

 

ジョン・ブリテン作「ロッテルダム」は、両親に自分が同性愛者だとなかなか話せずに苦しんでいるアリスと、自分はいつでも自分のことを男性だと自認してきたというフィオーナの、レズビアンのカップルを描いた作品。2017年には、英演劇界で最高峰のオリヴィエ賞も受賞している。

 

パーキンソンさんによると、パートナーで共演者のバナトヴァラさんにキスしたとき、何かが当たり、その勢いで地面に倒れてしまったと話す。軽傷を負ったパーキンソンさんは、遠ざかる自動車から「若い少年たちの笑い声」が聞こえたという。

 

「私たちはただほかの人と同じように、2人して幸せになりたいだけです」とパーキンソンさんは話した。「どうして他人から暴力を振るわれるのか、本当に理解できない」。

バナトヴァラさんは「本当にショックで、動揺して怒っている」と話した。

 

「この芝居を初め、こうした物語がどれだけ大事なのか、あらためて気づいた。(同性愛は)正常で普通のことで、恐れたり攻撃したりするものではないと、認識を広めないと」(後略)【6月10日 BBC】

********************

 

もちろん、こうしたヘイトクライムの増加はイギリスだけではありません。

 

5月28日ブログ“ドイツ  反ユダヤ主義の拡大・顕在化 キッパ着用でユダヤ教徒への連帯を呼びかける”では、ドイツにおける反ユダヤ主義の拡大を取り上げました。

****ユダヤ人を狙った犯罪が急増****

(中略)ドイツでは昨年以来、反ユダヤ主義の影響とみられる犯罪が急増している。

政府の統計では、昨年1年間にユダヤ人を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)は、前年比10%増の1646件に上った。

ユダヤ人に対する暴力行為も、2017年の37件から昨年は62件に急増した。(後略)【5月27日 BBC】
******************

 

ユダヤ人憎悪の一つの中核には、ドイツで増加するイスラム系移民が存在しますが、その移民もまた激しい憎悪の対象となります。

 

****ドイツで移民擁護派の政治家射殺される、ネットに歓迎ヘイト投稿殺到****

ドイツで今月、移民擁護派の地方政治家が自宅で射殺される事件があり、これを歓迎するヘイトスピーチ(憎悪表現)がインターネット上にあふれている。ドイツ政府は7日、ヘイト投稿を強く非難した。

 

ホルスト・ゼーホーファー内相は「もし誰かが、リベラルな見解を持っていたというだけで凄まじい憎悪の対象となるのなら、それは人間らしい道徳観が衰退しているということだ」と独日刊紙ターゲスシュピーゲルに語った。

 

殺害されたのは、独中部カッセル県のワルター・リュブケ県知事。アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟に所属する政治家で、移民の擁護を公言していた。

 

リュブケ氏は2日午前0時半(日本時間同午前7時半)ごろ、フランクフルトから北東に約160キロ離れたカッセル市内の自宅テラスで、至近距離から頭を拳銃で撃たれて死亡しているのが見つかった。自殺を示す兆候はなく、警察は殺人事件として捜査している。

 

捜査当局によると、犯行の動機は不明だが、リュブケ氏は以前から殺害を予告する脅迫を受けており、政治的な動機による事件の可能性は排除できないという。

 

リュブケ氏の追悼記事や事件の報道を受け、ソーシャルメディア上には多くのコメントがあふれた。だが、同氏の殺害を歓迎する投稿が多くみられる事実に、フランクワルター・シュタインマイヤー大統領も強い不快感を示し、「公務員や行政トップに対する中傷や攻撃、ヘイト運動、肉体的暴力は正当化できない」と述べた。

 

リュブケ氏は、欧州に難民・移民が殺到して危機的状況となっていた2015年10月、難民らの保護施設を訪問し、助けを必要とする人々に手を差し伸べるのはキリスト教の基本的な価値観だと発言。

 

「こうした価値観に同意せず、身をもって示さない者は皆、いつでもこの国から出ていってもらって構わない。それは全てのドイツ人の自由だ」と述べ、極右主義者の激しい怒りを買っていた。 【6月10日 AFP】

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【世界では“日常的”な宗教・人種・民族に違いによる殺戮・紛争】

社会が成熟し、こうした差別に基づく憎悪は少ないと思われていた欧州におけるヘイトクライムということでイギリス・ドイツの最近の事例を取り上げましたが、世界的に見れば、宗教・人種・民族に違いによる殺戮・紛争がアフリカでも、中東でも、アジアでも、日常的現象として溢れています。

 

4月にキリスト教徒を狙ったイスラム過激派による連速大規模テロがあったスリランカでは、今度はイスラム教徒を狙ったテロが相次いでいます。

 

****スリランカのテロ1カ月 後絶たぬイスラム教徒襲撃**** 

スリランカの最大都市コロンボなどで4月21日に発生した連続テロから1カ月余りが経過した。国内では少数派のイスラム教徒への警戒感と敵意が拡大し、キリスト教徒らによる襲撃事件が相次ぐ。ザフラン・ハシム容疑者が率いた犯行グループの全容もいまだ不明で、再度のテロ発生への懸念もぬぐえない。

 

スリランカ国内ではテロ事件後、イスラム教徒が経営する店舗やモスク(礼拝施設)への襲撃事件が頻発。一部は暴徒化しており、北西部プッタラムでは13日、イスラム教徒の男性(45)が刃物を持った集団に襲われて死亡した。政府は夜間外出禁止令発出やSNSの遮断で事態の拡大を防ぎたい方針だ。(中略)

 

連続テロは4月21日にコロンボなど計6カ所で発生。日本人1人を含む250人以上が死亡、500人以上が負傷した。ハシム容疑者はテロ現場で自爆死した。【5月23日 産経】

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ハシム容疑者らによるテロへの報復というよりは、もともとイスラム教徒への不満・憎悪が社会にあった状況で、テロ事件によって(多数派仏教徒を中心とする、イスラム教徒への憎悪を抱く人々の間で)イスラム教徒への攻撃が正当化されたというように見えます。

 

****反イスラム暴動と中国債務に悩むスリランカ****

スリランカでは4月21日のキリスト教の復活祭に起きた、イスラム教過激派による爆弾テロを引き金として、すさまじい反イスラム暴動が引き起こされた。

 

爆弾テロの対象が主としてキリスト教徒や外国人であったことを考えると、爆弾テロに対する報復と言うよりは、爆弾テロをきっかけにして反イスラム感情が噴き出したものと言っていいであろう。

 

スリランカではこれまでも何度となく反イスラム暴動が起きており、反イスラム感情が根強いことが分かるが、今回はこれまでと異なって、イスラム教徒の財産やビジネスのみならず、イスラム教徒が攻撃されたと言う。

 

また暴動の規模も、2018年の暴動では3日で465件の物件が破壊されたのに対し、今回は一日で500か所が破壊されたとのことである。

 

現在、スリランカの人口の9.7%がイスラム教徒である。スリランカ人の約10人に一人がイスラム教徒という勘定になり、決して少ない数ではない。そのイスラム教徒が憎悪の対象にされれば、スリランカ社会の安定は脅かされざるを得ない。

 

スリランカでは1983年からスリランカ北・東部の分離独立を目指す「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)が反乱を起こし、2002年に政府とLTTEとが停戦に合意その後和平交渉などを経て2009年にようやく内戦が終結、スリランカに平和と安定がもたらされたかに見えたのだが、今回の暴動でスリランカの平和と安定が危機にさらされていることが明らかになった。

 

根強い反イスラム感情の他に気がかりなのは、政府が反イスラム暴動の抑圧に及び腰であると見られる点である。政府がブルカなどの着用を禁止したことは、イスラム教徒に対する警戒感を表しているように思われる。

治安部隊の一部が攻撃に加わっていたとの情報もある。

 

スリランカ政府は、イスラム教徒に対する憎悪が暴力化しないよう、細心の対策を取ることが求められる。(後略)【6月6日 WEDE】

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【心に潜むネガティブな感情を育て、解き放ち、増殖させるものは】

人間の心の中には、異なる他者へのネガティブな感情が多かれ少なかれ存在します。

 

そうした感情を拡大させるのは、格差の存在とか、社会発展の恩恵にあずかれないといった社会への不満でしょう。

その不満のはけ口として、往々にして、「自分たちの不遇の原因は彼らの存在だ」という形で、異質な他者への攻撃性が増長されます。

 

しかし、そうしたネガティブな感情は「そうした攻撃性を表に出すことはよくないことだ」という理性的なブレーキもかかっていますが、スリランカのようなテロが起きると、攻撃性を表に出すことが正当化されるような事態にもなりがちです。

 

また、昨今の政治・社会の風潮も、そうしたネガティブな感情という“本音”を表に出すことを助長しているようにも思えます。

 

その点で、画期的な役割を果たしているのがアメリカ・トランプ大統領の存在でしょう。

 

攻撃的で、嘘も不正確情報を気にしない彼の言動は、理性的なブレーキを“ポリティカルコレクトネス”とか“きれいごと”とかいった形で葬り去ることにもなっています。

 

いったん表にでたネガティブな感情・憎悪は、SNSなどのインターネットを通じて急速に拡大・増殖します。

 

そうしたことを考えると、将来に関して暗澹たる気分にさせる指摘が。

 

****明らかにトランプ批判の潮目が変わった  名物パロディもネタ枯れで終了****

(中略)

世論調査「トランプ再選」が上昇

(中略)CNN放送が5日発表した世論調査で「トランプ大統領が再選されるか?」との問いに、54%が「再選されると思う」と回答し「再選されない」が41%、5%が無回答だった。

 

昨年12月に行った世論調査では「再選されると思う」は43%、「再選されない」は51%でこの半年間に大統領に対する信頼度が大幅に高まったことを示している。

 

ちなみに、オバマ大統領の再選選挙の際の同時期に「再選される」と答えたのは40%に過ぎず、それでも大勝したことを考えると2020年のトランプ大統領は「地滑り的勝利」が考えられると保守系のニュースサイト「ウェスタンジャーナル」8日の分析記事は予想している。(後略)【6月10日 木村太郎氏 FNN PRIME】

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正直なところ、なんだか、何かを言う気力も失せるような徒労感を感じます。

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