孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  軍事政権崩壊の可能性も見えてきた今、行うべきこと 都市部市民生活の様相

2024-03-28 23:48:58 | ミャンマー

(画像は【3月28日 日経】 27日、首都ネピドーで行われた「国軍記念日」 ミンアウンフライン総司令官と思われます。”今月発表したミャンマー国民への意識調査(約2900人対象)によると、回答者の80%が民主化指導者のアウンサンスーチー氏を支持しているとしたのに対し、国軍トップのミンアウンフライン総司令官への支持は4%にとどまった”【3月27日 産経】とのこと。)

【「われわれは軍事政権の最終的崩壊の可能性を見ている・・・・今行動すべきだ。」】
世界には、多くの「忘れられた紛争」がある・・・・と言うより、国際的影響の重要性から注目されるのはごく一部の紛争(現在で言えば、ウクライナやパレスチナなど)だけで、その他の紛争・混乱は「忘れられている」のが実情でしょう。

ミャンマーにおける軍事政権と少数民族武装勢力及び民主派の戦闘もその「忘れられた紛争」のひとつ。

もっとも、ミャンマーは日本とも経済的・人的につながりがいろいろある、何と言っても同じアジアの国であるということで、まだ情報がある方ですが、例えばかつてダルフールで最悪の人道危機を引き起こしたアフリカ・スーダンの現在の内戦状況など気にはなっていますが、いかんせん情報がない・・・といったことも。

****<ミャンマー内戦の転換期>紛争が忘れられてしまっている理由と日本も見つめるべき世界情勢の「過渡期」****
ワシントンポスト紙コラムニストのキース・リッチバーグは2月23日付同紙掲載の論説‘A decent future for Myanmar is within reach — if the U.S. acts now’(米国が今動けばミャンマーのまともな未来は実現可能)において、最近の反乱軍による反攻成功の機会を捉え、米国はミャンマーに関与すべきだと論じている。要旨は以下の通り。
*   *   *
ミャンマー軍事政権は、反政府勢力の抵抗で撤退している。反乱軍は2021年のクーデター後出てきた抵抗勢力で、10月の反撃開始以降、数百の町や軍の拠点を占拠した。1月には、国軍は、シャン州中心都市ラウッカインが反乱軍の手に落ち投降するという最も屈辱的敗北を喫した。

切羽詰まった軍は、最低2年間若者を徴兵する計画を発表。結果、数千人がタイに逃亡しヤンゴンの西側大使館にビザの行列ができた。

だが、これは国軍が崩壊しかかっていることを意味しない。国軍は主要都市の防衛しやすい場所に撤退し長期戦に備えており、地上で追い詰められている一方、民間人への空爆を繰り返している。

反乱軍の無人機使用は効果的だが、国軍の優勢を変えられていない。国軍は百戦錬磨で良く装備され組織化されており、民間人に対し残虐だ。反乱軍は民族的地域的に分断されている。

ミャンマーには約13万5000人の20の民族民兵組織がある。21年のクーデター後に編成された元正統政府メンバーからなる国家統一政府(NUG)の軍事部門PDFには6万5000人の戦闘員がいるが、その多くは山岳地帯に隠れていた元学生で、重装備や統一指揮系統はない。

最近の軍の敗北は、PDFではなく民族民兵によるものだ。反乱軍の決定的勝利はまだ相当先の話で、長期化の方があり得るシナリオだ。

ガザ、ウクライナ戦争が続く中、世界の反応は皆無だ。隣国は無関心と軍事政権との関係維持の間で揺れている。

中国は軍事政権と緊密な関係を維持する一方、国境周辺の民族民兵を支援。シャン州の反乱軍の成功は中国の暗黙の支援が理由だ。中国はミャンマー国境周辺の無法地帯のコントロールに関心がある。同地域はインターネット詐欺や奴隷労働他多くの不法活動の中心だ。

この戦争をまともに終らせるため米国は多くをすべきだ。バイデン政権は既に手段を持っている。一昨年、米議会はビルマ法を可決。同法は人道支援供与と連邦制と民主主義支援、民兵とPDFに対する非致死性支援を呼び掛けている。しかしビルマ法には予算配分が無く実際支援は皆無だ。

ミャンマー内戦は転換点にあり、今米国が支援を増やせば変化をもたらし得る。
バイデン政権は全反乱軍グループと国家統一政府との対話を開始し共通議題である連邦制と民主主義の元に糾合し、反乱勢力が戦争に勝利するため、軍事政権の武器調達資金停止を始め、何を必要としているのかを聞くべきだ。バイデン大統領は、修正ビルマ法から削除された民主主義のための特別調整官指名を考えるべきだ。

われわれは軍事政権の最終的崩壊の可能性を見ている。その後に起こることに備えビルマが将来民主主義化する可能性を確かにするには、今行動すべきだ。
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「チャレンジ・シェアリング」の時代
(中略)なぜこのように紛争が頻発しているのか。それは、われわれは「チャレンジ・シェアリング」の時代に入っているからだ。

米国はその能力についてはいまだに世界唯一の超大国と言って良く、その気になれば、ウクライナ戦争やガザ戦争を終わらせる力を持っているが、その力を使う意思が萎えている。

これまでは、米国が挑戦をすべて一人で解決し、その為に必要なコストの分担を同盟国・同志国に求める、という「バーデン・シェアリング」の時代だったが、現在は、コスト共有は当然として、挑戦の解決自体に同盟国・同志国が関与し、責任を分担しなければ紛争は解決しない。

しかし今は、欧州もアジアの同盟国もその現実に向き合い、必要な責任分担をするだけの準備ができておらず、いずれ米国がやるだろうという甘えがある「中途半端」な「過渡期」だ。

だからこそ、これだけ人命が毎日失われているのに、だれも紛争解決の責任を取ろうとしない。この状況で、責任の分担を通じてウクライナ戦争を止めることができるかどうかが、われわれが新たな時代に対応できるかどうかの試金石になる。

ミャンマーに対しできること
それでは、このことは、ミャンマー問題との関係では何を意味するのか。それは、当事者である東南アジア諸国(ASEAN)が、もう少し主体的に努力することが必要だということだ。まずは、ASEANが自身のミャンマー問題特別代表を早急に指名することが必須だ。

(中略)ただ、やはりそれだけでは重みに欠けるし、「チャレンジ・シェアリング」には不十分だ。そこで必要となって来るのが上記の論説も指摘する米国の特別調整官である。そして、同様のミャンマー問題担当者を重要なステークホールダー、即ち日本、中国、欧州連合(EU)の全てが指名すべきだろう。

この5人の特別代表が軍事政権と集中的に交渉を繰り返すのが、あるべき「チャレンジ・シェアリング」時代の対応にふさわしいのではないだろうか。【3月22日 WEDGE】
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【最近のASEANの取組 外相会議にミャンマー参加 タイ主導で人道支援開始】
ASEANは2021年4月24日の首脳級会議(ミャンマーからは、ミンアウンライン国軍司令官兼国家統治評議会議長が参加)において、ASEANの特使をミャンマーに派遣して国内対話を促すなど、5項目で合意に至りました。

1.ミャンマーにおける暴力行為を即時停止し、全ての関係者が最大限の自制を行う。
2.ミャンマー国民の利益の観点から、平和的解決策を模索するための関係者間での建設的な対話を開始する。
3.ASEAN議長の特使が、対話プロセスの仲介を行い、ASEAN事務総長がそれを補佐する。
4.ASEANはASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じ、人道的支援を行う。
5.特使と代表団はミャンマーを訪問し、全ての関係者と面談を行う。

しかし、合意内容はほとんど履行されていません。
態度を硬化したASEAN側は、ミャンマー国軍が任命した外相らが主要会議に出席することを認めず、反発したミャンマー軍事政権はASEAN会合への欠席を続けてきました。

今年に入って、事態は若干動いています。
比較的軍事政権に寛容なラオスが議長国ということで、ASEANの新たなミャンマー特使アルンゲオ・ギッティクン氏(ラオスの元首相府相)が1月10日、首都ネピドーを訪問し、軍政トップのミンアウンフライン総司令及び一部の少数民族武装勢力の代表者と会談しました。拘束中のスー・チー氏との面会は報じられていません。

****ASEAN新議長国の特使がミャンマーを訪問、国軍総司令官と会談 暴力停止など「5項目の合意」を協議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)でミャンマー問題を担当する特使に就任したラオスのアルンゲオ元首相府相が10日、ミャンマーの首都ネピドーを訪れ、クーデターで実権を握った国軍のミンアウンフライン総司令官らと会談した。

現地からの情報によると、会談には、国軍が外相に任命したタンスエ氏らが同席。暴力の即時停止などを盛り込んだASEANの「5項目の合意」の履行状況や人道支援に対する取り組みなどについて話し合われたという。(中略)

また、アルンゲオ氏は、2015年にミャンマー政府と全土停戦協定に署名した少数民族武装勢力の代表者らとも面会した。(後略)【2024年1月11日 東京】
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こうした動きもあって、今年1月の外相会議にミャンマー側が「非政治的な代表」として外務省高官を派遣する形で、ようやくミャンマーの参加が実現しました。軍事政権が、内戦状況の深刻化や地域で孤立化を考慮して譲歩したものと見られています。

****ASEAN外相会議 軍政下のミャンマーから代表者 主要会議出席は約2年半ぶり、議長国ラオスは軍幹部との“対話”模索か****
ASEAN=東南アジア諸国連合の外相会議がラオスで行われ、ASEANの主要会議を2年半近く欠席し続けていたミャンマーの軍事政権から外務省の高官が参加しました。ASEAN外相会議は29日、今年の議長国を務めるラオスのルアンプラバンで開かれました。

2021年2月のクーデター以降、ミャンマーで実権を掌握している軍事政権は、ASEANの主要会議から事実上締め出されたことに反発し、欠席を続けてきましたが、今回は、ASEAN側が求める「非政治的な代表」として、外務省高官のマーラー・タン・タイク氏を派遣しました。

ASEANの主要会議にミャンマーからの代表者が出席するのはおよそ2年半ぶりで、地域での孤立を深める軍事政権が歩み寄りの姿勢を示した形です。

ミャンマーをめぐっては、ASEANは2021年4月、「暴力の即時停止」などを盛り込んだ5つの項目で合意しましたが、ほとんど履行されていません。

軍事政権に融和的な議長国ラオスは、軍政幹部を対話の場に引き戻すことを模索しているとみられますが、一部の加盟国は反発していて、和平計画の進展につながるかは不透明です。【1月29日 TBS NEWS DIG】
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上記1月のASEAN外相会議においては、紛争下のミャンマー国民に支援を届ける「人道回廊」構想をタイ政府が主導し、ASEAN各国が支持を表明しました。この動きが現実のものとなっています。

****ミャンマーへの人道支援開始=避難民に食料2万人分―タイ****
タイ政府は、紛争が続く隣国ミャンマーの国内避難民に向けた人道支援活動を開始した。国境に近いタイ北西部メソトで25日、支援物資の第1弾をミャンマー側に引き渡す式典が開かれた。

タイ外務省によると、支援物資は約2万人分の食料や生活必需品で、タイ赤十字からミャンマー赤十字に提供。東南アジア諸国連合(ASEAN)の担当者による監視の下、ミャンマー東部カイン州の3地域に届けられる。

ミャンマーでは昨年10月以降、クーデターで実権を握った国軍と少数民族武装勢力との衝突が激化。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、270万人以上が国内避難民となっている。タイは1月のASEAN外相会合でミャンマーへの人道支援を提案し、各国から支持を得た。(中略)

ただ、ミャンマー赤十字は国軍の影響下にあり、紛争地域に広く支援を行き渡らせるには、少数民族側の協力が不可欠だ。【3月25日 時事】 
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“今回の支援は一部の少数民族勢力の協力も得たとみられるが、今後も順調に継続できるかどうかが焦点となる”【3月25日 共同】とも。

【都市部の様相 国軍や警察の動きにどうにか折り合いをつけながら生活する市民】
3月18日ブログ“ミャンマー 徴兵制を嫌って国外脱出する若者 南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況”では、南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況を紹介しましたが、都市部ヤンゴンやマンダレーの状況については、以下のようにも。

****パスポート取得に30倍の賄賂も 徴兵制で急変したミャンマーの市民生活****
2021年2月の軍事クーデターから3年が経ち、ミャンマー国内ではエネルギー不足や治安の悪化が常態化している。昨年末には、限られた自由を謳歌しつつ日常生活を営む人々も見られたが、国軍が徴兵制の施行を宣言したことで空気は急変。国外脱出を試みる若者が増えている。

2023年12月、私は半月ほどミャンマーに滞在した。短期間ではあるが、最大都市ヤンゴンと古都マンダレーを散策し、市民生活の現状を垣間見た。(中略)

ヤンゴンなどの大都市に住む人々は、国軍や警察の動きにどうにか折り合いをつけながら生活するしかない。私の実体験を元に、都市部に住む一般市民の日常生活がどうなっているかをお伝えしたい。

治安の悪化と深刻なガソリン不足
まずは通信環境について。私はホテルではパソコンを、外出時はスマートフォンを使っていた。どちらもVPN(仮想プライベートネットワーク)が必須だ。スマートフォンについては現地郵電公社MPTのSIMカードを使ったが、それに加えてVPNアプリをインストールしておかないと全く繋がらない。(中略)

ただし、VPNアプリは時々勝手に切れるので、その度に再接続する必要があるし、そもそも繋がらない時もある。万が一外出時に繋がらなかったらお手上げだ。運に左右されるのが現状だ。

電力事情も悲惨だ。ヤンゴンでは国軍による計画的/強制的な停電が日常茶飯事で、これには軍に反発する一般市民への「兵糧攻め」の一面もある。停電の時間帯は地区ごとに異なり、輪番制で変わる。

外国人が宿泊可能な中級〜上級ホテルなどは基本的に自前の発電機を備えており、停電が起きても対処できる(たまに対処できない時もある)。しかし一般家庭はそうはいかない。(中略)日没後なら照明がつかないので蝋燭を灯すしかない。今の時代、一般家庭での照明として蝋燭を灯す国がどれだけあるだろうか。

夜18時を過ぎると人々は家路を急ぐ。夜は国軍や警察の動きが活発になるからだ。私が2023年6月にヤンゴンを訪れた時は「19時までにホテルに帰った方がいい」と地元の人に諭されたが、半年後の12月には「18時まで」に繰り上がっていた。そしてこの時間帯はタクシーがなかなか捕まらない。運転手も家に帰りたいからだ。(中略)

タクシーに比べてバスはずっと安価だ。しかし危険が伴う。ヤンゴンに住む友人から「集団強盗が流行っているから絶対に乗るな」と釘を刺された。相手はおよそ7〜8人のグループで、ターゲットを絞ると一斉に襲いかかって来る。他の乗客は見て見ぬ振りだという。

ガソリン不足も深刻だ。2023年12月はそのどん底の時期で、ヤンゴン市内で頻繁に給油待ちの車列を見た。しかもそれが道路の右車線を独占しているので渋滞の原因にもなっている。早い人は開店前、それも夜明け前からガソリンスタンドに並ぶ。しかし本当にそこで給油できるかはわからない。

タクシーで移動中、乗り捨てられた車が道路脇に放置されているのも目撃した。ガソリン価格の高騰ぶりも深刻だが、給油できない場合もあるというのが12月時点での状況だ。

物乞いや、それに準じた人々も多く見かけた。タクシーに乗り交差点で信号待ちをしている時、物売りの姿を見かけた。(中略)こういった光景はクーデター前にもあったが、目にする頻度は増えている。

日常を楽しむ若者たち
滞在中、私はデモに遭遇しなかった。ヤンゴンではクーデターが起きた当初大々的に行われていたし、それが沈静化した後はフラッシュモブと呼ばれる散発的に行う形に変わっていった。しかし今はそれすら見かけなくなった。国軍や警察のさらなる締め付けの結果なのだろう。

とはいえ、街を散策すると反国軍のメッセージを時々見かける。(中略)表立ったデモから、声の上げ方が変わったのだろう。

大変な状況である一方、笑顔溢れる市民の姿も多く見かけた。例えば夜の過ごし方。ヤンゴン港に面したコンテナがうずたかく積まれたエリアにはナイトマーケットや若者向けのクラブや船を改装したレストランがあり、派手な電飾をきらめかせながら営業を続けている。(中略) 

路上で拉致、賄賂で解放も
以上が、私が昨年末に現地で垣間見た市民生活だ。しかし年が明けて事態は急変した。2024年2月10日、国軍が「4月に徴兵制を始める」と発表したからだ。不足する兵力を補う為と見られる。市民の間では不安が広がっており、大使館にビザを求める若者が殺到している。

2024年3月、ヤンゴンに住む知人に、匿名を条件に今の市民生活や今後の不安/展望についてインタビューした。
――ここ最近、物価の高騰具合はどうですか? 私が訪れた昨年12月は特にガソリンが手に入らなかった印象ですが。
 並んでも手に入らないほどのガソリン不足は解消されましたが、値段は相変わらず高騰しています。12月より10%くらい上がってます。

――電力事情はどんな感じですか?
それもますます悪化しています。午前5時から午後6時までの間で毎日4時間、強制的な停電が起きています。午後5時以降は回復するけど、それは居住地区によりけりです。例えば明日、私の地区では午後5時から午後9時まで電気がつきません。(中略)

――最近ヤンゴンの路上で、若者たちが拉致されているというニュースを耳にしました。これは国軍によるものですか?
そうです。自宅からバス停までの間に(そういった拉致が)行われています。

――国軍の報道官は「徴兵制は4月から実施する」と言っています。まだ3月なのに、国軍が若者を拉致して入隊させているのですか?
まさにそうです。賄賂を払えば解放してくれる場合もありますが、運次第です。なぜなら、金が欲しいか人手が欲しいかはその時々によるからです。

――徴兵制の発表以降、外国への退避を希望する市民が増えているとの報道があります。例えばタイ大使館は申請者を1日400人に制限しましたし、日本大使館はビザ申請予約を電話ではなくメールに切り替えました。今、パスポートを申請するのは難しいのですか?
公式の手続きと非公式の手続きがあります。前者の場合、予約で大体4カ月待ちです。その後事務手続きを行い、さらに2週間後に受領できます。費用は5万チャット(約2250円)です。後者は、いわゆる賄賂です。受領まで7日で済みますが、費用は最低でも150万チャット(約6万7500円)かかります。(後略)【3月26日 新潮社Foresight】
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上記記事でインタビューに応じた者が今後の展開を左右するとして注目しているのが西部ラカイン州における少数民族の武装勢力「アラカン軍(AA)」の戦い。もしAAが勝てば、戦線はピィやバゴーといった最大都市ヤンゴン・首都ネピドー周辺に迫ります。

ミャンマー国軍は国軍記念日の27日、首都・ネピドーで大規模な軍事パレードを行いましたが、近年のパレードで登場していた戦車やミサイルは確認されなかったとのことで、首都防衛のため兵力を前線に優先配備したとの見方も。

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ミャンマー  徴兵制を嫌って国外脱出する若者 南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況

2024-03-18 23:05:14 | ミャンマー

(【3月10日 NHK】)

【徴兵制を嫌って国外脱出する若者】
ミャンマー情勢については、少数民族武装勢力及び民主派勢力の武装闘争に対して3年前のクーデターで実権を掌握した国軍が劣勢にたっていること、兵士の脱走・投降などもあって兵員不足になった国軍が徴兵を発表したことなどを2月15日ブログ“ミャンマー 脱走・投降相次ぐ国軍 徴兵を実施で若者に動揺・反発 “軍政崩壊”の可能性も?”で取り上げました。

徴兵対象は18歳以上の国民で、男性は35歳、女性は27歳までが対象で、エンジニアなどの専門職は男性が45歳、女性が35歳まで引き上げられるという内容です。

徴兵制は2010年に導入が決定されましたが、これまでは運用せずに志願制を維持していました。国軍兵の投降・脱走が相次ぎ、戦力を強制的に確保する必要性に迫られた形です。

国軍の兵力は30万~40万人とされてきましたが、シンクタンク「米平和研究所」は23年5月に15万人ほどと推定しています。

なお、国民の動揺を鎮めるため、軍の報道官は2月20日、「今のところ女性を徴兵する計画はない」とする声明を発表しています。

状況はその後大きくは変わっていません。

****ミャンマーで戦闘激化 多数の市民が犠牲に****
ミャンマーでは国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化するなか、市民が犠牲となる事態が相次いでいます。

現地メディアは13日、ミャンマー西部ラカイン州の市場近くで、国軍による砲撃を受けた市民らの様子を伝えました。映像は2月29日に撮影されたもので、重火器が撃ち込まれて少なくとも21人が死亡、30人以上が負傷したということです。

ラカイン州では、少数民族の武装勢力と国軍との衝突が激化していて、9日にも市民が巻き込まれ8人が死亡しました。

OCHA(=国連人道問題調整事務所)は11日に声明を発表し、「住宅地での無差別攻撃が市民の命を犠牲にしていることを深く憂慮する」としています。【3月14日 ANNニュース】
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徴兵対象となる若者では国外に脱出する者も多数出ています。

****ミャンマー 徴兵制発表から1か月 隣国タイに出国の若者相次ぐ****
ミャンマーで実権をにぎる軍が徴兵制の実施を発表して10日で1か月となりました。対象となった若者たちの間では徴兵から逃れようと、隣国タイに出国するケースが相次いでいます。(中略)

若者の間では徴兵を逃れようと、隣国タイの大使館などに長期ビザを求める人が殺到し、第2の都市マンダレーでは旅券事務所の前に集まっていた2人が死亡する事故も起きています。

こうした中、タイ北部チェンマイの大学では今月、大学の英語科の入学試験が行われましたが、100人の定員を大幅に上回る2100人の応募があり、そのほとんどがミャンマー人でした。

このうち、最大都市のヤンゴン出身の32歳の男性は「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない」と、タイに逃れてきた理由を話していました。

大学の担当者は「大学始まって以来の応募者数です。ミャンマーからの学生たちにできる限りの支援を提供するよう努めたい」と話していました。

軍は来月に最初の5000人を徴兵するとしていますが、女性は対象外にすると発表するなど、若者の間に広がる動揺と反発の鎮静化をはかっています。

徴兵制逃れるため タイの大学目指す若者は
ミャンマーはASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国であるため、タイへの入国は14日以内の滞在であれば、ビザを取得する必要はありません。

ミャンマー最大都市のヤンゴンからタイ北部チェンマイにやってきたマウ・ピュさんは(仮名・32歳)今月5日、チェンマイにある大学に入学するための面接をオンラインで受けました。

過去に軍に対する抗議デモを組織したこともあるマウ・ピュさんは「家にいるのが安全ではないのでタイに逃れてきた。ミャンマーの若者はみな国を出たがっている。徴兵されたくないのが主な理由だ」と話しました。

さらに、去年、民主派の武装勢力に加わった双子の兄の存在も、出国までして徴兵を逃れたい大きな理由になったといいます。

マウ・ピュさんは「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない。徴兵を逃れたいのはお互いを殺し合うことに反対だからだ。誰かを銃で撃ちたくないし、誰からも銃を突きつけられたくない。軍の独裁下のミャンマーにとどまる考えはなかった。なんとしてもタイに長期間滞在したい」と話していました。

京都大学 中西嘉宏准教授 “軍の思いどおりにはいかないだろう”
ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は「そもそも若い人たちが海外に出ようとしていた中で、今回の徴兵制でさらに、なりふりかまわず、徴兵から逃れたい若者が海外を目指し、一種の社会的なパニックが起きている。

武器を渡す新兵が軍のために働くのか。どこかで銃口を軍側に向けないか。軍はそうしたことを精査しないまま徴兵を進めている。兵隊を増やして戦況を有利に変えていくという軍の思惑はうまくいかない可能性が高い」と分析しています。【3月11日 NHK】
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中西氏も指摘しているように、国軍に忠誠心がない・・・というより、反感が強い若者を無理やり徴兵して銃をもたせても、その銃口がどちらに向けられるのか・・・ますます国軍の混乱が拡大する恐れもあります。

崩壊前のアフガニスタン軍でもタリバンに内通する者が多く、米軍は前の敵だけでなく、後ろのアフガニスタン軍からも銃口を向けれらる事態が多発していました。

【違法入国を警戒する周辺国】
上記記事ではタイ北部チェンマイの大学にミャンマー人入学希望者が殺到していることなども指摘されていますが、それは正規の手続きを踏んだミャンマー出国者でしょう。タイを含め周辺国は違法な入国者の増加に警戒を強めています。

****ミャンマー徴兵制で若者が「脱出」模索 周辺国が違法入国警戒****
ミャンマーで国軍と民主派など抵抗勢力との内紛が長期化するなか、国境を接する周辺国がミャンマーからの避難民に厳しい対応を取り始めている。

インド北東部のマニプール州政府は8日、不法入国したとされるミャンマー人の送還を始めたと明らかにした。

2021年2月のクーデター後に多くの人が国境を越えたが、国軍が今年2月に徴兵制の開始を発表して以降はさらに脱出する人が増えた。インドやタイは避難者の流入や在留が自国の情勢不安や治安悪化につながりかねないと警戒する。

マニプール州のビレン・シン首相は8日、自身のX(ツイッター)に「インドに不法入国したミャンマー人の最初の一団を送還した」という文章とともに、ミャンマー人とみられる女性たちが移送用トラックで空港に連れてこられる様子を映した動画を投稿した。同州では23年5月に200人以上の死傷者を出すインド内の民族間の衝突が起きており、州政府はミャンマー側から避難民が押し寄せることで社会がさらに不安定化すると過敏になっているとみられる。

ロイター通信によると、州政府は少なくとも77人の送還を予定しているという。送還の一報に米国務省の報道官が懸念を表明したと伝えられるが、インドは難民の送還を禁じる難民条約に加盟していない。

また、約1600キロにわたり国境を接するミャンマーとインドは18年に自由移動制度を設け、国境付近の住民は16キロ以内はビザなしで往来が可能となった。ところが2月にインド政府は国内の安全と北東部の国境沿いの人口構造を維持するためとして制度廃止の方針を示し、政府高官が国境沿いにフェンスを設置する考えを明らかにした。

一方、ミャンマーとの国境が最長の2400キロ超に及ぶタイも密入国者の増加を警戒する。ミャンマー国軍が18歳以上の国民を対象に4月から毎月5000人の招集を始めると明らかにすると、若者たちは徴兵を逃れるため国外への脱出を模索。ミャンマーの最大都市ヤンゴンにあるタイ大使館には就労や就学ビザを求める人が殺到し、受付人数を制限せざるをえない状況に陥った。

混乱は続いており、経済的な理由などから合法な手段で入国できない密入国者が増える可能性がある。タイのセター首相は「合法に入国するのであれば歓迎するが、違法の場合は法的に厳しく対処する」と、くぎをさした。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、クーデター後にタイに避難した人はおよそ4万5000人とされる。タイ政府はこれまで、過去にもミャンマー難民を受け入れてきた経緯や労働力としての需要などから滞在をある程度は容認し、最近は国境付近での人道支援も拡充している。

ただ、混乱に乗じてミャンマーからの違法薬物の密輸入やオンライン詐欺などの犯罪が多発しており、治安悪化への懸念は強まっている。

徴兵制を巡っては、ミャンマーの独立系メディアが西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の男性が国軍に強制的に連行されていると相次いで報じた。国軍側は否定しているが、国連は「若い男性が街中で誘拐されている」と強い言葉で非難。

国内で迫害されてきたロヒンギャはクーデター前からバングラデシュなど周辺国に逃れて不安定な生活を送っているが、徴兵制がそうした状況に拍車をかけることになりそうだ。【3月13日 毎日】
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最後のロヒンギャに関する情報も懸念されるところです。

政情不安なミャンマーからは日本へ向かう者も増えています。

****増えるミャンマーからの留学生…母国に政情不安、就職を目指して来日****
ミャンマーからの留学生が急増している。軍事クーデターにより政情不安が続く中、多くが安定した環境の日本で学び、就職を目指して来日しており、ここ3年で倍増した。生活に困窮する学生も目立ってきており、民間団体が支援に乗り出している。(中略)

21年2月のクーデター以降、ミャンマー人の来日は増えている。出入国在留管理庁によると、滞在者は20年末の3万5049人から23年6月時点は6万9613人に増え、多くが技能実習生として入国。留学生は20年末の4371人から、23年6月時点は、8876人になった。(中略)

困窮学生の支援に課題も
生活に困窮する留学生も出てきており、NPO法人「ミャンマーKOBE」(神戸市)には21年以降、留学生から相談が相次ぐ。

日本語がネックになり、仕事に就けないケースも多く、食料や布団などを無償提供している。現地の日本語教育機関に100万円の借金をして来日した男子留学生は「食べるものにも困る時がある」と漏らす。

同法人の猶原信男理事長(72)は「継続的な支援が必要だ。過重な借金を背負わずに学べる環境を整えることが求められている」としている。【3月18日 読売】
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【ミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況】
国外の他、少数民族武装勢力「解放区」へ逃げることも。ただし、空爆などはありますが。
下記は、チェンマイなどがあるタイ北部と国境を接するミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況です。

****ミャンマー「解放区」の実像:3年前のクーデターの勢いが衰えた国軍に立ち向かう武装勢力の姿****
<若者たちの抵抗運動の膨大な熱量は国軍を退けて、少数民族武装勢力と国内避難民が新たな街を作る。東部タイ国境に面するカヤー州の現地を歩いた>

一夜明けたら「お尋ね者」になっていた。3年前のことだ。ミャンマーの著名な政治評論家タータキンは当時、アウンサンスーチーと彼女の率いる国民民主連盟(NLD)の熱烈な支持者として知られていた。

しかし2021年2月1日、国軍がクーデターを起こし、民主的に選ばれたNLD政権を倒して政治家や活動家多数を一斉に検挙した。タータキンも標的となっていたが、どうにか難を逃れた。そして同国中部のマグウェ地方を脱出し、南東部にあるカレン民族同盟(KNU)の支配地域に逃れた。

仏教系のビルマ族が多数を占めるこの国にあって、KNUは1940年代から活動する少数民族系の武装組織であり、一貫して民族の自治と連邦制国家への移行を求めている。連邦制も自治も国内の少数民族が長年にわたって唱えてきた大義であり、今は多数派ビルマ族の多くも支持している。

だからKNUも広く国内の民主化勢力と連帯し、3年前のクーデター後に誕生した各地の抵抗勢力を支援し、初めて武器を取った人たちへの軍事訓練も行っている。

伝統的に、KNUの支配地域は隣国タイと国境を接するカレン州の一部、それも主として山間部に限られていた。
だが3年前のクーデター後には、カレン州の北に位置する東部カヤー州でも軍政に対する激しい抵抗運動が始まった。そして昨年末の時点では、ついに都市部にまで反政府勢力の支配地域が広がった。

具体的には、カヤー州メーセ郡の全域とデモソ郡の大部分などだ。国軍に追われたタータキンも、今はカヤー州デモソ郡で暮らす。

「ここは連邦制民主主義の国みたいに思える」と彼は言った。「いろんな立場の人が協力し合い、みんなが反軍革命を支持し、参加している」

新旧の少数民族勢力が連携
今のカヤー州で反軍闘争を主導しているのは、3年前のクーデター後に結成されたカレンニー国民防衛隊(KNDF)だ。

1950年代から活動している武装勢力のカレンニー軍や、共産主義のカレンニー民族人民解放戦線(KNPLF)の支援を受けて力を付けてきた。(中略)

実際、カヤー州にいる反軍勢力のイデオロギーはさまざまだが、互いに解放区を分け合い、州都ロイコーの攻略戦でも手を結んだ。昨年11月のことだ。

折しも、その2週間前にはミャンマー北部で主要な少数民族武装勢力3組織が一斉に蜂起して大規模な攻勢に出て、中国との国境の検問所も含めて、支配地域をかなり拡大していた。

カレンニー(現地語で「赤いカレン族」の意)の反軍勢力は現在、あえて幹線道路には出ず、その代わりデモソとシャン州のモービーを結ぶ道路など、一般道の多くを掌握している。

「つまり今の反軍勢力には、これらの道路の通行をいつでも遮断できる能力があり、国軍側にはその能力がないということだ」とホージーは指摘した。こうした力関係の逆転は全国各地で見られるという。

カヤー州内の解放区には今、タータキンのような反体制派が身を寄せている。また戦闘で住む家を追われた民間人が生活を再建する場ともなっている。

キリスト教徒で20歳の女性エリザベス(ミャンマーの人は一般に姓を持たず名前だけを名乗る)は昨年、激戦地のデモソ郡東部から西部へ逃げてきた。

学業は断念せざるを得なかったが、今は大量の避難民の需要を満たす市場にできた新しい衣料品店で働いている。
「私の村には仕事がなかった」とエリザベスは言う。

「クーデターの前も村で働いていたけれど、小遣い程度の稼ぎにしかならなかった。でも今はまともな給料をもらえている。だから家族も養える」(中略)

住民が支援する抵抗運動
しかし今のデモソには強いコミュニティー精神がある。 (市場で屋台の床屋を営む)ゾースウェイは隣の飲料問屋のオーナーから土地を借りているが、地代は余裕のあるときに払えばいいと言われている。

利益をため込まず、収益を反軍闘争に寄付している店も多い。評論家のタータキンは貸本屋とギターの販売店を営んでいるが、生活費として必要な金しか手元に残さず、残りは抵抗組織に寄付している。

貸本屋を始めたのは、もっと崇高な使命感からだ。
「ここの若者はみんな銃を持っていて、戦うことしか考えていないが」とタータキンは言う。 「人が地に足を着けて生きるには信仰と芸術も必要だと思う」(中略)

(息子を国軍に連れ去られ州都ロイコーから逃げてきた)アーシャは今、ロイコーに比べたらデモソのほうが安全だと思っているが、それでも故郷は恋しい。

「ここだって完全に安全じゃない。空爆もあるしね」と彼女は言った。「安全が保証されるなら、すぐにでもロイコーへ帰りたいよ」

それでも避難先のデモソで生計を立てられる人は恵まれている。新しいビジネスを始めるためのスキルや資本を持たない人にとっては、ここでの生活も厳しい。

状況が一変する可能性も
(中略)KNDFのマルウィ副司令官によると、国軍は州都ロイコー防衛のためにデモソやメーセから兵を引いた。
おかげで今は、こうした地域が反軍勢力の支配下にある。(中略)

今や反軍政の火の手は国内各地で上がっているから、国軍としても全てには対応できず、戦略的な要衝に戦力を集中せざるを得ない。 国際危機センターのホージーによれば、例えばロイコーだ。

州都であり、近くには重要な水力発電所があるし、首都ネピドーからも遠くない。一方、タイと国境を接する山間の町メーセなどの優先順位は低い。

ではデモソの町はどうか?
「デモソの状況は微妙で、どちらへ転んでもおかしくない。今のところは無事だが、ひとたび国軍がロイコーの制圧に成功すれば、次はデモソへ攻め込むかもしれない」とホージーは言う。

だから油断は禁物。 「全てが不安定だ。今の解放区も、いつ取り返されるか分からない」【3月18日 Newsweek】
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カヤー州には行ったことがありませんが、首長族が暮らす地域。タイ北部には、長年の政情不安をうけて脱出した首長族の観光村(欧米人権団体は「人間動物園」と批判)があって、そうした場所には行ったことがあります。 そのあたりの話はまた別機会に。
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ミャンマー  脱走・投降相次ぐ国軍 徴兵を実施で若者に動揺・反発 “軍政崩壊”の可能性も?

2024-02-15 22:36:50 | ミャンマー

(「国軍記念日」のパレードに参加したミャンマー兵ら=2023年3月 【2月15日 TBS NEWS DIG】)

【クーデターから3年 軍を離脱し投降する兵士急増 市民は“沈黙のストライキ”】
国軍がクーデターによって全権を掌握してから3年が経過したミャンマーでは、昨年10月に攻勢を開始した北部シャン州の少数民族武装勢力と国軍の戦闘は中国仲介で停戦合意したことになっていますが、少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍の戦闘状態という基本構図は続いています。

その戦いの構図において、国軍側の劣勢が伝えられています。

****ミャンマー国軍が劣勢、少数民族武装勢力の攻勢で500か所の拠点陥落か…国土の7割に戦闘広がる****
ミャンマーで国軍がクーデターを強行し、アウン・サン・スー・チー氏の民主派政権を倒してから2月1日で3年になる。軍事政権の打倒を目指す少数民族武装勢力などが昨年10月、国軍に本格的な攻撃を仕掛け、国軍は劣勢に立たされている。国軍の空爆強化で国民の犠牲も拡大し続けており、国軍の強権統治が混乱に拍車をかけている。
兵士半減
 
「国軍は村を一つ一つ訪問し、若い男5人を兵士として差し出すよう命令した。実現できない村は燃やしていた。兵士不足は深刻だ」
元国軍兵士(22)は読売新聞の取材に国軍の実態を証言した。この元兵士自身、民主派デモに参加して国軍に拘束され、無理やり兵士にさせられていた。

昨年11月、「もう人を殺したくない」と武装勢力に投降した。民主派勢力などへの激しい弾圧に嫌気がさし、脱走や投降する国軍兵士が増えているという。

ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会」によると、クーデター以降少なくとも約4500人が国軍に殺害され、約2万6000人が拘束された。汚職防止法違反などの罪で有罪判決を受けたアウン・サン・スー・チー氏の拘束は続いている。民主派兵士に食事を提供したため、村全体が銃撃されたとの証言もある。
 
米国平和研究所は昨年5月、かつて30万〜40万人とされた国軍の兵員数は半分程度にとどまると分析した。

少数民族の攻撃
これまでも自治権拡大を求めて国軍と戦ってきた北東部シャン州の少数民族武装勢力らは、国軍の弱体化を見透かすように昨年10月27日、国軍拠点への本格的な攻撃を開始した。西部や東部など他地域の少数民族武装勢力や、クーデター以来、国軍との戦闘を続けていた民主派勢力の一部も合流した。国軍は今月26日までに500か所以上の拠点を失ったとの報道がある。
 
戦闘地域も広がっている。調査研究機関「ミャンマー戦略政策研究所」は昨年末、クーデター以降に全土の約67%で戦闘が行われたと発表した。
 
国軍の対応は空爆主体になっている。民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」によると、15日時点で国軍による空爆回数は580回を超えた。
 
首都ネピドーと最大都市ヤンゴンを結ぶ幹線道路沿いの村を12日に脱出した女性(30)は「国軍は空爆と銃撃で村を破壊した。父が亡くなり3歳の娘は今も集中治療室にいる」と涙をこらえながら話した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、避難民は230万人に達している。避難民の増加や道路封鎖に伴う物流網の寸断などで経済も苦境が深まっている。

中国が仲介
東南アジア諸国連合(ASEAN)が国軍の抑止策を打ち出せずにいる中、中国は今月中旬、シャン州北部での一時停戦に関する合意を仲介するなど存在感を示そうとしている。中国はシャン州などと国境を接しており、情勢悪化に伴う経済低迷や自国民の安全を懸念している。
 
国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官は26日の会合で、武装勢力との戦闘を念頭に「行政と治安当局が団結すれば成功する」と述べるなど強気な姿勢を崩していない。
 
京都大の中西嘉宏准教授(ミャンマー政治)は「ミン・アウン・フライン氏は戦闘での勝利以外、現状打破は不可能だと思っている。だが、国軍が劣勢を挽回する要因も見当たらない。都市部は国軍が支配しているため、戦闘は長期化する」と分析している。【1月28日 読売】
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“民主派勢力などへの激しい弾圧に嫌気がさし、脱走や投降する国軍兵士が増えている”“かつて30万〜40万人とされた国軍の兵員数は半分程度にとどまる”・・・・実際の数字はよくわかりませんが、本当に半分程度に兵士が減少しているなら国軍にとっては危機的状況です。

****ミャンマーのクーデターからきょうで3年 軍を離脱し投降する兵士急増****
(中略)こうした中、軍を離脱して投降する兵士が急増しています。

投降兵士(軍歴32年)「軍の国民に対する迫害、望んでいないことの強制など、軍がやってきたことが許せなかった」

地元メディアなどによりますと、クーデター以降、およそ1万6000人の兵士らが投降したということです。
投降兵士(軍歴32年)「軍を離脱し、安全な場所に来たがっている指揮官もいる。しかし、彼らは軍を出るチャンスがない」(後略)【2月1日 日テレnews】
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国軍側も“引き締め”に躍起になっているようで、北東部シャン州の中国国境に近い主要都市ラウカイの地域司令官ら3人に軍法会議で死刑判決が下されたと現地メディアは報じています。

シャン州北部の戦闘では、司令官を含む兵士2千人以上が少数民族武装勢力側に投降し、その後一部がネピドーに移送されたと伝えられていました。

こうした異例の死刑判決に国軍関係者の間にも衝撃が広がっているとも。

国民の多くは軍政に批判的ですが、強権的な軍政のもとでは批判を口にすることはできません。そこで「沈黙のストライキ」

****ミャンマー各地「沈黙のストライキ」で閑散、市民らが日中の外出控える…国軍は開店命令し圧力****
ミャンマーで国軍がクーデターによって全権を掌握してから、1日で3年となった。軍政による民主派勢力の弾圧が続いており、市民生活は困窮している。少数民族武装勢力と国軍の戦闘も続いている。
 
国軍は同日、非常事態宣言を6か月延長した。1月31日に首都ネピドーで開かれた国防治安評議会で、国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官は少数民族武装勢力などの攻撃を受けていることを理由に挙げ、「今は通常の状態ではない」として宣言の延長を決めた。
 
民主派勢力がクーデター後に樹立した「国民統一政府(NUG)」は、「国軍に対し政治的、軍事的圧力をかけ続ける」との声明を発表した。
 
ミャンマーの人権団体によると、クーデター以降に少なくとも約4500人が国軍に殺害され、約2万6000人が拘束された。
 
ミャンマー各地では、市民らが1日午前10時から午後4時にかけて外出を控える「沈黙のストライキ」を行った。
 
国軍は商店主などに開店を命令して圧力をかけたが、最大都市ヤンゴンや中部マンダレーなどの街の一部は人通りが絶え、閑散とした。【2月2日 読売】
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こうした状況は“軍政崩壊の足音”のようにも見えますが、一方で、“都市部は国軍が支配しているため、戦闘は長期化する”【前出 読売】“軍には長い歴史があり、抵抗勢力が短期間で軍を倒すことは難しいでしょう”【下記】との見方も。

****クーデターから3年、ミャンマー軍事政権に崩壊の足音? “逃亡兵”激白「軍は勝てない」****
ミャンマーの軍事クーデターからあすで3年。圧政を続ける軍ですが、実は“逃亡兵”の急増を背景に、追い込まれつつあります。先月、逃亡してきたばかりの兵士がJNNの取材に内情を明かしました。

2021年2月のクーデター以降、軍に対する武装闘争が全土に拡大しているミャンマー。軍と少数民族や民主派勢力との間で激しい戦闘が続いていますが、ある異変が。

敷地に集められた兵士たち。うなだれた様子で座り込む人もいます。現地メディアによると、北東部シャン州ではこの数か月間で6000人を超えるミャンマー兵が抵抗勢力側に投降。

インド軍司令官 「これまでに416人のミャンマー軍兵士が徒歩で国境を渡りました」 インドやタイなど近隣国に逃亡する兵士も急増しているというのです。

JNNは、タイの国境地帯に先月逃げてきたばかりの兵士に話を聞くことができました。北部の州の部隊に所属し、前線で戦っていたという男性。

ミャンマー軍“逃亡兵” 
「私は軍人としての生き方に嫌気が差しました。国民に銃を向けて戦うことを申し訳なく思い、普通の人間に戻りたかったのです」

軍は空爆などで集落を焼き払う無差別攻撃を繰り返し、民間人の死者は少なくとも4400人にのぼります。男性も村を標的にロケット弾を発射するよう命令されたと話しました。

ミャンマー軍“逃亡兵”
「上官からの命令に逆らうことは絶対に許されない。でも、戦闘が終わって一息ついたとき、自分のことがとても情けなくなったんです。本当は撃ちたくなかった」

情勢が変わったのは去年10月。抵抗勢力側が各地で一斉攻撃を開始し、前線基地など500か所以上を占拠しました。徹底抗戦を指示していた指揮官でさえ、相次いで投降しているといいます。

ミャンマー軍“逃亡兵”
「今の軍にはこれまでのように戦う力はなく、兵士たちの間で恐怖心が広がっています。軍に対する国民の敵対心も強くなっているので、軍は勝てないと思います」

軍は追い込まれているのか。専門家は「非常に脆弱な状態だ」と指摘しますが。

ミャンマー戦略・政策研究所 アウン・トゥ・ネイン氏
「国民の支持を得られず兵士は(戦闘長期化で)過度のストレスを抱えている。軍は非常に脆弱な状態です。しかし、軍には長い歴史があり、抵抗勢力が短期間で軍を倒すことは難しいでしょう」

ミャンマー軍トップはきょう、抵抗勢力の制圧を目的に「非常事態宣言」を延長するとみられますが、“政治的な解決”として対話の余地もほのめかしていて、次の出方が注目されます。【1月31日 TBS NEWS DIG】
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【国軍側 徴兵実施で権力維持図る】
少なくとも現段階では国軍側には権力を手放す意思はないようです。

****少数民族攻勢、続く戦闘=国軍は権力固執、深まる人道危機―クーデターから3年・ミャンマー****
ミャンマーで2021年、国軍がクーデターで実権を握ってから2月1日で3年。昨年以降、抵抗する少数民族武装勢力が攻勢を強め、国軍は一部地域の支配を失ったが、権力を手放す姿勢は示さない。民主化指導者アウンサンスーチー氏の拘束も続き、混乱収束の道筋が見えない中、戦禍に苦しむ市民の人道危機が深刻化している。
 
国軍は31日、クーデター時に発令した非常事態宣言を6カ月延長すると発表した。延長は5回目で、国軍トップのミンアウンフライン総司令官が全権を握る状態が続く。
 
昨年10月、北東部シャン州などで三つの少数民族武装勢力が国軍への一斉攻撃を開始。独立系メディアによると、国軍は500以上の拠点を奪われ、多数の兵士が投降した。特に地域司令部からの撤退は「国軍史上最大の敗北」とされる。
 
3勢力と国軍は今年1月、中国の仲介で一時停戦に合意したが、一部の勢力や別の少数民族、民主派との戦闘が各地で続く。国軍は空爆などで応戦し、市民が巻き添えになっている。
 
ミンアウンフライン氏は1月、「総選挙に勝利した政権に役割を引き継ぐ」と強調した。ただ、紛争で選挙の実施は見通せない上、「選挙が行われた場合も民主派は排除される可能性が高い」(外交筋)とされる。
 
民主派は、スーチー氏の拘束が解かれない中で、国軍との対話を拒否している。国軍が21年4月に東南アジア諸国連合(ASEAN)と合意した「暴力の即時停止」など5項目も、大半が履行されていない。
 
ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会によると、クーデター後に国軍によって殺害された市民や民主活動家は今年1月30日時点で4400人以上、拘束者は2万人近くに達する。国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告書では、23年末時点で約260万人が避難を強いられている。
 
経済面の影響も深刻で、世界銀行は物価高などで24年のミャンマーの国内総生産(GDP)は19年より約1割減少すると予測した。ミャンマー政治の専門家は「忘れられた紛争国にしてはならない」と国際社会の関与を訴えている。【1月31日 時事】 
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死傷・脱走兵による戦力減少を補うため、国軍側は従来から制度としてはあった徴兵制を実際に行うことを発表して徹底抗戦の構えです。

****ミャンマー国軍が徴兵実施へ 投降続き、戦力確保を目指す****
民主派や少数民族武装勢力との戦闘を続けるミャンマー国軍が、国民に兵役を課す徴兵の実施を10日に国営テレビを通じて発表した。徴兵制は2010年に導入が決定されたが、運用せずに志願制を維持していた。国軍兵の投降が相次ぎ、戦力を強制的に確保する必要性に迫られた。
 
ミャンマー軍事政権は1月にラオスで開かれたASEAN外相会議に約3年ぶりに外務省高官を派遣。人道支援計画を受け入れ、21年2月のクーデター以降続けた孤立主義を修正したばかり。

徴兵の実施決定は、戦闘継続の意思は変更しない姿勢の表れとみられる。兵役は2年で、18〜35歳の男性と18〜27歳の女性が対象。【2月11日 共同】
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13日には退役した軍人を5年間、予備兵として登録する予備役法も施行しました。

【若者の反発・不安・動揺 むしろ体制を揺るがす要因に】
当然ながら徴兵の対象となる若者には反発・不安・動揺が広がっています。

****【ミャンマー】国軍による徴兵制導入、若者が反発****
ミャンマーで、国軍が導入した徴兵制に若者が反発している。国軍に加わることを断固拒否する、抵抗軍に加わる、徴兵を逃れるために出国するなどといった声が上がっている。独立系メディアのミャンマー・ナウなどが13日伝えた。  

クーデター後に辞職した28歳の元教師は、「ニュースを聞いてとても不安になった。追い詰められて逃げ場を失ったと感じている」と話した。  

20代の男性は、海外で就労する妻の元へ行くことを考えていると語った。国軍は、徴兵した市民を荷役労働者や「人間の盾」として使うつもりなのだろうともコメント。市民に殺し合いをさせようとしているのだから本当に恐ろしいとも述べた。  

26歳の学生は、「どうせ死ぬなら、国民防衛隊(PDF)の一員として闘って死んだ方がましだ」とし、民主派の抵抗組織に加わる可能性を示唆した。「ほかに選択肢がないなら、PDFに加わって国軍兵士を皆殺しにしたい」と怒りをあらわにした教師もいた。  

22歳の女性は、「国民同士に戦いを強いる法律の施行に怒りを覚えた」と話した。PDFへの参加を考えているとした上で、「(民主派による)革命を支持し、軍の独裁を終わらせなければならない」と訴えた。(後略)【2月14日 NNA】
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実際、出国を希望する人も多いようです。

****【独自】ミャンマーで出国希望者が殺到 突然の“徴兵制”開始で不安拡大 兵士不足のミャンマー軍は戦力確保急ぐ****
3年前のクーデターでミャンマーの実権を握った軍は、武装抵抗を続ける勢力を抑え込むため徴兵制を導入しました。市民には動揺が広がり、出国を希望する人が急増しています。

(中略)ミャンマーにあるタイ大使館には、徴兵から逃れようと出国を希望しビザを申請する市民が殺到しました。
周辺国への航空券を買い求める人も急増していて、動揺と不安が広がっています。【2月15日 TBS NEWS DIG】
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出国だけでなく、「徴兵されれば死ぬことを意味する。(もし召集されたら)少数民族武装勢力が支配する解放区に逃亡するしかない」(ヤンゴン在住の若者)【2月15日 MYANMAR JAPON ONLINE】といった動きも増えるでしょう。

戦う意思のない兵士をいくら増やしても戦力としては期待できないでしょう。
ましてや、少数民族武装勢力・民主派側に走る者が増加して、敵勢力が増強されるとなったらますます国軍の苦境は深まります。

“都市部は国軍が支配している・・・”“軍には長い歴史があり・・・・”というのが常識的見方でしょうが、国民の憎悪の対象になっている国軍の力が弱まれば、思いのほか“崩壊”という事態の可能性も否定できないようにも見えます。

アフガニスタン政権の崩壊もあっという間でした。 アフガニスタン政権と軍そのもののミャンマー軍政では異なると言えばそうなんでしょうが・・・。
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ミャンマー  背後で糸引く中国仲介の「一時停戦」 長期化するクーデター以来の混乱

2024-01-25 23:44:24 | ミャンマー

(食料品店の前にできる長蛇の列も日常の光景で、人々からは物価高騰への不満の声が ヤンゴン 【12月27日 NHK】)

【背後で糸を引く中国のマッチポンプ】
ミャンマー北東部シャン州で昨年10月27日にMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)の三つの少数民族武装勢力が国軍に対して攻勢を開始して戦闘状態になっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。

国軍側は軍内部の統制が乱れ、士気が低下していることもあって劣勢が伝えられる状況で、昨年12月中旬には国軍・少数民族双方に関係を持つ中国の仲介でいったんは「一時停戦合意」が報じられました。

****中国の仲介でミャンマー「一時停戦で合意」****
中国外務省は、激しい戦闘が続くミャンマー軍事政権と武装勢力などの和平交渉を仲介し、「一時停戦と対話の継続で合意した」と発表しました。

ミャンマーでは10月下旬以降、中国との国境に近い北東部や東部などで少数民族や民主派の武装勢力が軍への一斉攻撃を行い、激しい戦闘が続いています。

こうしたなか、中国外務省は14日夜、「中国国内でミャンマー軍事政権と3つの武装勢力が和平協議を行い、一時停戦と対話の継続で合意した」とする報道官の声明を発表しました。

そのうえで、「この合意は中国とミャンマーの国境の安定にも寄与するものだ」と強調。「関係者が合意を履行し、最大限自制し、状況を改善させるために協力することを希望する」としています。

中国との国境には戦闘から逃れてきた避難民が押し寄せており、中国政府が停戦を呼びかけていました。【12月14日 TBS NEWS DIG】
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しかし、戦闘はその後も続き、1月3日、中国・雲南省のミャンマーと国境を接する街の住宅街にミャンマーから飛来した砲弾が着弾して中国人5人が負傷する事態も。

中国は「全ての紛争当事者に対し戦闘を停止し、こうした危険な事故の再発防止措置を取るよう求める」とミャンマー軍事政権に抗議。(おそらく、少数民族側にも圧力がかけられたと想像されます)

中国側の強い要請によって、少数民族武装勢力と軍事政権が改めて一時停戦で合意したと報じられています。

****ミャンマー少数民族武装勢力、軍事政権と一時停戦で合意****
ミャンマーの軍事政権に反発する北部の少数民族武装勢力が組む「3兄弟同盟」はこのほど、軍政と一時停戦で合意した。武装勢力の指導者が12日に明らかにした。中国が特使を派遣し、交渉を仲介したという。

軍事政権の報道官も12日、中国の仲介で「一時停戦」に合意したことを確認。「停戦合意についてさらに協議し、合意を強化する計画だ。国境ゲート再開に向けたミャンマーと中国の協議もさらに進める」と述べた。

少数民族武装勢力の攻勢は国軍にとって、2021年のクーデター以降で最大の軍事的懸案となっていた。中国も国境貿易の混乱や難民流入につながるとの懸念を強めていた。

3兄弟同盟を組む武装勢力の一つ、タアン民族解放軍(TNLA)の指導者は、国軍拠点や町への攻撃を停止する見返りに国軍が空爆や砲撃、重火器による攻撃を行わないことで合意したと述べた。

中国外務省は12日、10─11日に中国が昆明でミャンマー軍政と武装勢力の和平交渉を仲介したと明らかにした。双方が停戦と交渉を通じた問題解決に合意したという。【1月12日 ロイター】
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今回合意は「一時停戦」であり、ミャンマー国軍側は完全停戦に向けて「今後も協議を続ける」としています。

停戦発表直後には、少数民族のタアン民族解放軍が「停戦にもかかわらず国軍が12日と13日の2日間にわたり、シャン州でおよそ20回の砲撃と空爆をした」と主張、国軍側はこれを否定する混乱も。

状況はよくわかりませんが、その後、戦闘に関するニュースは報じられていませんので、概ね「一時停戦」が履行されているものと推測されます。

中国の仲介で停戦合意・・・とは言っても、そもそも10月27日の武装勢力側の攻勢は中国の描いたシナリオに沿って行われたもの・・・とのことです。中国は自分で火をつけておいて、その後消火にあたる、いわゆる「マッチポンプ」のようにも見えます。

そのあたりの事情は前回12月29日ブログ“ミャンマー 中国系特殊詐欺グループ撲滅で始まった少数民族武装勢力の攻勢、中国仲介後も続く緊張”でも「少数民族側の報道官は、事前に中国側との接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が作戦を事実上、黙認していたという認識を示しました」と触れましたが、“黙認”というより、むしろ中国側主導の様相もあったようです。

****ミャンマー少数民族側 軍に攻撃 “中国側が事前に連携要求”****
ミャンマーで少数民族の武装勢力が2023年10月に開始した軍への一斉攻撃について、少数民族側の報道官はNHKの取材に対し、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。(中略)

TNLAの報道官はNHKのインタビューに対し、(中略)一斉攻撃の目的について、市民の生命と財産の保護、軍の打倒、それに特殊詐欺の撲滅をあげました。

特殊詐欺を巡っては、中国人の詐欺グループがシャン州の中国国境周辺に拠点を置いているとされ、中国政府は繰り返しミャンマーに取締りを求めていますが、軍には詐欺グループを保護する見返りとして金銭が流れていると指摘されています。

一斉攻撃の目的の1つに特殊詐欺の撲滅を掲げたことについて、報道官は「もともとは中国が思いつき、われわれも実行することを決めた。作戦の開始前には中国側が連携を求めてきたので喜んで受け入れた」と述べ、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。

一斉攻撃には民主派勢力も呼応し、その後拡大していて、国境周辺の安定化もはかりたい中国がどれだけ関与していくかに関心が集まっています。

中国 高齢者や富裕層などねらった特殊詐欺 被害深刻に
中国では高齢者や富裕層などをねらった特殊詐欺の被害が深刻となっていて、公安当局が取締りを強化しています。

国営メディアによりますと、2022年の1年間に当局が摘発した特殊詐欺の件数は46万件余りにのぼり、年々、増加傾向にあるということです。

一方、中国国内での取締りが強化されるにつれて、東南アジアの国々など海外に拠点を移した詐欺グループが動きを活発化させていることから、各国の当局などとも連携して対応に乗り出しています。

とりわけ国境を接するミャンマーでは、特殊詐欺に関わった疑いで拘束された容疑者が中国側に引き渡されるケースが相次いでいて、2023年9月上旬には1207人、10月中旬には2349人がミャンマー北部から一斉に移送され、中国当局が取締りの成果を強調しています。

中国の王毅外相は、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏と12月に会談した際、特殊詐欺への対応をめぐる協力について言及したうえで「双方は協力をさらに強化し、特殊詐欺という腫瘍を徹底的に取り除くべきだ」と述べています。【1月18日 NHK】
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中国側が特殊詐欺グループの活動撲滅を強く求め、軍事政権側の対応が鈍い(国軍と詐欺グループにつながりがあるとされていますので)ことで苛立ちを募らせていたことが今回の衝突の背景にあることはこれまでも触れてきたところです。

一方で、中国は一帯一路事業などで軍事政権とも深いつながりがあります。
軍事政権と少数民族武装勢力双方につながりをもつ中国の動きが今後の推移を左右します。

****ミャンマー内戦を中国が背後で糸を引く理由****
Economist誌12月23日号の解説記事‘China is backing opposing sides in Myanmar’s civil war’が、中国はミャンマーの軍事政権を支持しているが、2023年10月末の少数民族民兵によるシャン州における攻撃は、中国の安全の利益を害する詐欺グループの破壊という短期的利益のために、中国が背後で糸を引いて彼らにやらせたものだ、と解説している。(中略)

オンライン詐欺の問題は中国にとって外交政策のプライオリティとなったが、ミャンマー軍には詐欺産業を破壊する能力はなく、かつ詐欺グループにカネで買われていたとみられ、何もしなかった。そこで、中国は少数民族を頼ることになったとみられる。

中国は、軍事政権に再び擦り寄っている。軍事政権は依然としてミャンマーの空港、銀行、ネピドーを含む大都市のほとんどを支配している。西側の制裁にもかかわらず、軍事政権はジェット機を中国とロシアから買い、彼らの敵が支配する地域で民間人に対して無差別爆撃を行っている。

中国は大体において軍事政権を支持しているが、時には彼らの敵を支持するであろう。
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(中略)
ミャンマーの局面展開はあるのか
上記の記事によれば、10月27日に始まった少数民族の連合軍の攻撃は背後で中国が糸を引いてやらせたもので、その目的の一つは国境地帯を根城に活動する詐欺のネットワークを破壊することにあった。というのは、多数の中国人が詐欺の犠牲者と下手人として関与し、中国にとって看過出来ない安全の問題になっていたからである。  

中国は軍事政権に詐欺の取締りを要求したが、彼らにその能力はなく、従って、かねて影響力を維持してきている少数民族を頼ったというわけである。

Three Brotherhood Alliance (少数民族武装勢力の「三兄弟同盟」)を構成するMyanmar National Democratic Alliance Army(MNDAA ミャンマー民族民主同盟軍)はコーカン族の民兵であるが、彼らは民族的に中国人で中国語を話す。

中国が軍とThree Brotherhood Allianceとの休戦を斡旋したのは、一仕事終わったので休戦させたという局部的なことのようである。  

そうだとすれば、ミャンマーが局面転換の展望を開くような情勢にあるのかは疑問に思われる。少数民族相互間あるいは少数民族と民主派勢力との間で調整が図られている様子はない。Three Brotherhood Allianceの攻撃は民主派の武装組織PDFと調整されたものではないとされている。  

しかしながら、過去2カ月の出来事は、軍事政権が民主派のPDFおよび少数民族民兵による政治的目標を共有する調整された軍事行動に当面した場合には、その結果として、国が混乱し分裂の危機に陥るようなことがあり得るということを示している。【1月19日 WEDGE】
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今回戦闘で国軍の士気が非常に低いことが明らかになりました。
また、軍事政権統治下のミャンマー経済は悪化しており、市民生活は窮乏しています。

前回ブログでも“最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常になり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっており、市民生活の困窮が軍事政権への国民の不満を強め、少数民族武装勢力が拠点とする辺境地域だけでなく、ミャンマー全土において軍事政権の支配体制を揺り動かす可能性もあります。”と書いたように、今後、中国の思い描くシナリオを超えて混乱が拡大する可能性もあります。

【クーデターから3年 悪化する避難民の状況】
今回の衝突で、地上戦で劣勢に立たされた国軍は少数民族の住民らの避難民キャンプ空爆で対抗しており、避難民の状況はこれまで以上に悪化しています。

****避難民キャンプは国軍の標的・故郷には地雷、攻撃恐れ各地を転々と…ミャンマークーデター3年****
ミャンマーで2021年に国軍が強行したクーデターから2月1日で3年になる。少数民族武装勢力との戦闘で劣勢の国軍は、少数民族の住民らの避難民キャンプに空爆を続け、戦意喪失を図る。山間部やタイとの国境地帯に逃れた避難民は、劣悪な生活を強いられている。

空爆
「夫が殺された場所にはもう戻りたくない」 ミャンマー東部カヤ州とメーホンソン県の国境地帯の村で身を潜めて暮らす少数民族出身の女性(33)がつぶやいた。クーデター直後、バイク修理店を営んでいた夫と当時7歳の長女と共にカヤ州西部の街を逃れ、森の中を5日間歩いて国境近くの避難民キャンプに着いた。

2年以上が過ぎた昨年7月、真夜中の就寝中に国軍機の爆弾がキャンプ内の仮設学校に落ちた。飛び起きて娘と共に近くの防空壕ごうに走った時、2発目が落ち、爆風で防空壕の中に吹き飛ばされた。夫は、他の避難民に危険を知らせるため、まだ外にいた。防空壕からがれきをかきわけて外を見ると、暗闇の中で息絶えた夫が見えた。

朝にかけて計4回の空爆があった。「もうキャンプには住めない」。夜が明けると、娘とキャンプを出てジャングルを歩き、国境付近の村に着いた。故郷に戻るつもりはないという。

多民族国家のミャンマーでは、国境地帯を中心に、自治権を求める少数民族武装勢力が国軍と繰り返し衝突してきた。カヤ州では、市民が武装した「国民防衛隊」と連携して戦っている。

戦闘が長引くにつれて国軍の兵力は落ち、現在は15万人程度だとの見方もある。国全体での戦闘を続けるには地上部隊の兵力が不足し、最近は空爆や火砲での攻撃が主体になりつつある。

避難民キャンプには、それぞれの地域の少数民族が多く避難する。非武装の住民が集まるキャンプを標的にするのは、地上戦で劣勢になる中で、少数民族側の犠牲を増やす狙いがあるようだ。

ミャンマー国内で家を追われた「国内避難民(IDP)」は増え続けている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、クーデター以降、避難民は約230万人に達した。

カヤ州で人道支援を行う団体のネイ・ネー氏によると、州人口の6〜7割にあたる20万人以上が家を追われ、キャンプや山間部の村など220か所に分散して避難している。国際支援団体がほとんど活動できず、「水や食糧、医薬品が全然足りていない」と明かす。

長期化
国境付近のキャンプで暮らす男性(29)によると、戦闘の長期化につれて避難民は増え、今は約3000人が粗末な小屋やテントで暮らす。地元の支援団体が届ける食糧は不足し、森でタケノコなどを採って補う。

水も足りず、沢の水をせき止めて煮炊きに使う。体を洗えず皮膚病が蔓延まんえんしているが、医薬品はない。男性は「攻撃を恐れ、夜は森で寝る人もいる。子どもは空爆を恐れ、飛行機の音に体を震わせる」と話す。

昨年10月、カヤ州の北のシャン州では少数民族武装勢力3派が一斉に国軍に攻撃を始めた。カヤ州でも昨年11月、武装勢力が攻勢を始めた。武装勢力関係者によると、国軍は国境沿いの20以上の拠点から撤退。主要な町に部隊を戻し、反撃態勢を整えている。山間部の多くは武装勢力側が支配するが、避難民がすぐに故郷に帰れるわけではない。

大きな理由が、国軍が敷設した地雷だ。キャンプで4人の子どもと暮らす男性(36)は「カヤ州の故郷には地雷があちこちに埋まっており、家も破壊された。生活の再建資金もなく、状況を見守るしかない」と明かす。国軍が撤退した町に戻り、地雷で亡くなった人は5人に及ぶと聞いたという。

流浪
攻撃を恐れ、キャンプに入らず各地を転々とする人もいる。カヤ州北西部で農業を営んでいた男性(66)は、クーデター以降、妻(65)と義母(93)を連れ、7か所の町や村をさまよった。国軍が支配する町では、携帯電話の写真までチェックされた。国軍が市民を撃つ場面を何度も目撃した。

少数民族側の攻勢が始まった昨秋、国軍が支配する北西部の都市にいた。空爆は毎日経験した。民家で息を潜め、市外に通じる道路が使えるようになると、車で国境地帯を目指した。

ジャングルでは義母を背負って山道を歩き、タイ側の村に着いた。故郷を出る時に自家用車を売却して得たお金を取り崩す日々だ。「戦闘が終わり、本当に平穏が訪れたら故郷に戻りたいが、いつのことになるか分からない」とつぶやいた。

食糧、水、医薬品 足りない…少数民族勢力 指導者が訴え
カヤ州で国軍と戦うカレンニー民族進歩党(KNPP)のウー・レ議長=写真=がタイとミャンマーの国境地帯で本紙の取材に応じた。(中略)

「停戦は絶対に必要だ。ただ、対等に交渉に臨むため、もっと国軍を押し返す必要がある。民主派勢力が樹立した『国民統一政府』はまだ政治的、軍事的に国全体を統治する力がない。カヤ州は我々が統治できる。昨年、暫定執行評議会を設立し、教育や医療などの行政機能を持つ。他州でも同様の動きがあり連携している」【1月20日 読売】
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【混乱長期化で改めて問われる日本の姿勢】
ミャンマー国内の不安定な状況、軍事政権による人権弾圧が長期化するなかで、日本は欧米が軍事政権に課す制裁には消極的で、軍事政権とも「対話」を続ける姿勢で、ODA・政府開発援助についても従来からのものは継続しています。 

ただ、実際問題として「対話」で何が改善したのか?(中国に利権を奪われたくないというのが本音でしょう)
そうしたなかで、日本企業は改めて「今後どうするのか?」対応を迫られています。

****国連にも“名指し”されたKDDI・住友商事  軍政下のミャンマーで事業継続を発表「通信網の維持・確保が重要」****
KDDIと住友商事は、軍事政権下のミャンマーで、通信事業を継続すると発表しました。人権侵害に加担するリスクも指摘されていますが、両社は「通信網の維持・確保が重要」と説明しています。

2021年のクーデター以降、混乱が長引くミャンマーでは複数の日本企業が撤退したほか、事業の見直しや縮小を迫られている会社も少なくありません。

こうしたなか、現地の通信市場をけん引しているKDDIと住友商事は23日、ミャンマー郵電公社と提携する事業の継続を発表しました。

両社の事業をめぐっては、国連人権理事会の特別報告者が去年、軍の支配下にある国営企業との提携関係に「深く憂慮している」と表明。また、世界最大級の政府系ファンド「ノルウェー中央銀行」も先月、「個人の重大な権利侵害に加担するリスクがある」と指摘しています。

KDDIと住友商事は、「通信網の維持・確保が人権尊重上重要」としたうえで、「状況変化を注視しながら適切な対処を検討する」としています。【1月25日 TBS NEWS DIG】
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ミャンマー  中国系特殊詐欺グループ撲滅で始まった少数民族武装勢力の攻勢、中国仲介後も続く緊張

2023-12-29 23:15:32 | ミャンマー

(【12月27日 NHK】ヤンゴン 食料品店の前にできた長蛇の列)

【中央政府の支配が及ばない地域での中国系特殊詐欺グループの大規模な活動】
私事ですが、2010年にタイ北部の拠点都市チェンライから更に北上して、ミャンマー国境も近いメーサローンやチェンセーンを観光したことがあります。

メーサローンは中国共産党による革命後、台湾ではなくミャンマー・タイに逃れた国民党の残存勢力が1987年に武装解除するまで支配権を握り、軍事訓練などを行っていた地域(今も当時の施設が残っています)、チェンセーンは麻薬製造で有名な「ゴールデントライアングル」で、メーサローンの国民党残党と同時代に麻薬王クンサーが活動していたエリア・・・ということで、山深いこのタイ北部からミャンマー・ラオス、さらに中国雲南省にかけての一体は、中国・タイ・ビルマの中央政府の力が及ばない状況で独自の勢力が活動した非常に興味深い地域です。

その伝統というか、歴史は今もなお残存しており、ミャンマー北部のコーカン一体で活動していたのが(過去形にしていいのか・・・はわかりませんが)怪しげな中国系特殊詐欺グループです。そのグループはミャンマー軍事政権とも繋がっていると言われています。

この地域に住むコーカン族はもともと中国からの難民が起源と言われているように、この地域は国境を接する中国とのつながりが非常に強い地域です。

****コーカン族***
コーカン地区の多数派である「コーカン族」は、約400年前、中国の明朝末期に迫害されて雲南省まで逃げてきた民族が起源といわれている。実際には、そうした正統派コーカン族に加え、四川省から流入した人たちが含まれる形跡もある。また第二次世界大戦後に中国雲南省から移住し、そのまま現在に至るまで住み続けている中国人も「コーカン族」と自称している。【ウィキペディア】
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そして、中国の強い要請にもかかわらずミャンマー国軍が一向に摘発しようとしない詐欺グループの活動を撲滅することを名目に、10月27日から少数民族武装勢力が国軍に対し軍事攻勢をかけ、事実上中国はこれを黙認してきました。

****ミャンマーの山岳地帯にある「巨大詐欺団地」に中国人が誘拐され働かされていた…その数なんと12万人!ミャンマー北部で起きている「驚愕の混乱」と「中国の困惑」****

中国人に広がる「ミャンマー詐欺産業」による被害
中国との国境に近いミャンマー・コーカンで内戦が激化し、中国人民解放軍は雲南省の国境付近で11月24日に実弾を使った射撃、銃撃訓練を開始した。中国側はあくまでも国境の安全を守るための訓練だと主張したが、ネット上では内戦を逃れてきたものの、中国が築いた鉄条網のフェンスに遮られた人々が、中国側から発射されたと見られる催涙弾に逃げまどう姿を捉えた動画がアップされている。

この内戦は10月27日に「三兄弟同盟」によって仕掛けられた。「三兄弟」とは、コーカン地区の元実力者だった故・彭家声が設立した「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)と、コーカン西部に暮らすタイ系民族のトーアン民族解放軍(TLNA)、バングラデシュとの国境に近いミャンマー西部を本拠地にするアラカン人で構成されるアラカン軍(AA)で、それぞれ自らの本拠地で自治区政府樹立を目指している。

彼らの共通する直接の敵はミャンマー軍事政権だが、今回の内戦では「ミャンマー内で定常化している中国人をターゲットにした特殊詐欺産業の撲滅」を旗色の一つに掲げているという。

というのも中国では、コーカンはここ数年「特殊詐欺」あるいは「振り込め詐欺」の大本営として注目されているからだ。ただし、中国で話題に上がるのは、「いくら騙された」といった詐欺被害そのものではなく、中国人が誘われたり、誘拐されたり、あるいはうまい話に載せられて出かけたところ身柄を拘束され、強制的に詐欺産業に従事させられたり、という被害のことで、その数が万単位に上るらしいという話である。

特に今春、国家シンクタンクである中国科学院に勤務していた若い博士まで囚われの身となって働かされていることが報道され、「いったいなぜだ?」と大騒ぎになった。

実はこの博士氏、婚約者の家族が重病にかかり、その治療費を捻出しようと「ワリの良い仕事」を求めて、昨年シンガポールでの英語教師募集に応募したという。だが、シンガポールは当時まだコロナ対策で中国からの入国ができず、このため、相手の会社に「支社のあるタイでまず仕事を始めてほしい」と言われて向かったところ...詐欺グループの手中に落ちてしまったらしい。

「巨大な詐欺団地」には監視役やスパイが入り乱れ...
彼が送られたのはコーカンではなく、タイとミャンマーの国境近くにあるミャワディという地域で、中国に近いコーカンでは中国国内向けの詐欺が行われているのに対し、ミャワディでは世界各地をターゲットに詐欺が行われているそうだ。

送り込まれた詐欺団地の周囲は高い壁で囲まれ、その中はまるでひとつの街のような作りになっており、彼と同じようにさまざまな手段で連れてこられた人たちが働き、暮らしていたという。連れてこられた当初はスマホを取り上げられ、他の人と接触できない個室に閉じ込められた。そして、集団部屋に移っても、そこには居住者同士の共謀や逃走を防ぐため監視係が混ざっているとされ、おいおい話もできなかったとその後、証言している。(中略)

彼の場合は、その身分及び前職があまりにも一般中国人の想像を超えていたために大きな注目を浴びたが、普通の転職話やうまい話に載せられてそうしたグループに誘拐された人がかなりいるらしい。

実際に国連人権高等弁務官事務所によると、ミャンマーで詐欺に従事させられている中国人の数はなんと12万人に上る可能性があるとされ、今年9月には中国の公安部長自らがミャンマーを訪問して、ミャンマー軍事政権に詐欺グループによる中国人誘拐解決の最後通牒を突き付けた。

もともと中国の一部だった歴史を持つコーカン
ただ、一般にはミャンマーだけではなく東南アジアを舞台にした詐欺グループが「高収入」や投資話をばらまき、それにつられた人を「誘拐」、詐欺グループの本拠地に軟禁して働かせている……といわれているものの、実際には詐欺に従事することを知りつつ、自ら一攫千金を求めてその本拠地に向かう人も少なくないらしい。(中略)

山岳地帯のコーカンは、かつては中国の領土地図に組み込まれていた時代もあると、中国では言われている。その根拠になっているのがコーカンに華人の血を受け継ぐ住民が多く暮らしていることだ。

それもあって同地は長らく、歴代ミャンマー中央政府に対して自治区行政組織の設立を求めて抗争を続けてきた歴史があり、コーカンで生まれ育った彭家声が樹立した自治政府がようやく1989年に当時のミャンマー政府に認められ、しばしの休戦状態に入った。

彭は当時、現地で盛んに行われていた麻薬生産を止めさせ、産業の転換を進めたとされる。そんな状況下において、ギャンブルなど娯楽産業が発達、それに惹かれて中国側からも多くの人たちが表や裏の方法でコーカンに入り、そのまま住み着いた。

コーカンでは実際に中国語が公用語となっており、中国の通貨である人民元が通用し、また今ではスマホの通信回線も中国側から提供されているため、一山当てたい中国人にはある意味、たいへん住みやすいのだ。

しかし、2009年になって軍事政府が新たに実権奪還を求めてコーカンに迫ったため、彭家声と「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)はその手下たちの裏切りもあって敗走する。そしてコーカンは、彭を裏切った白、劉、張、魏という姓を持つ四大家族によって支配されるようになった。

もちろん、この四大家族はコーカンの主幹産業となってしまった詐欺産業の事業主でもある。つまり、冒頭でご紹介した三兄弟同盟による自治政府への反攻は、ミャンマー軍事政権に連なるこの四大家族の駆逐を目的としつつ、「詐欺産業の撲滅」を掲げることで故・彭家声が頼りにし続けた中国政府のバックアップを取り付けようとしたと見られるのである。

MNDAAと中国に裁かれた「第5家族」
そしてその蜂起で真っ先に血祭りにあげられたのは、四大家族に次ぐ勢力を持つ「第5家族」と呼ばれる明学昌一族だった。(中略)

そして、中国当局は11月17日に大々的にこの3人(明学昌一族)の「詐欺首謀者」とともになんと3万1000人の詐欺グループメンバーを逮捕したと伝え、中国国内に移送する様子を捉えた動画を流した。

中国がミャンマーで進めたい「陸の一帯一路」計画
勢いに乗ったMNDAAなどの三兄弟同盟はコーカン自治区政府の実権を奪還すべく、さらなる戦闘を続行。

しかし、中国は自国にとって国境すぐ側での戦火は自国に与える影響も少なくないため、停戦調停に乗り出した。その結果、12月中旬になって、ミャンマー軍事政権と三兄弟同盟が中国の国内で停戦協定を結んだ、と大きく報じられた。 ただし、調停後も一部ではまだ戦闘が続けられているとする報道もある。

その一方で中国政府は、12月12日に、コーカンの四大家族の主要メンバー10人を、特殊詐欺の首謀者として懸賞金付きで指名手配した。うち、白一族の「長」、白所成はかつてコーカン自治区政府の主席を務めたこともある人物だが、やはりミャンマー国籍ではなく中国国籍だと報道されている。

しかし、たとえ四大家族を壊滅させたとしても、コーカン地区の産業形態からみて、詐欺産業が一掃されることはないだろうという分析もある。今後MNDAAが実権を握ることになっても、駆逐された四大家族の末裔が残る限り、再び戦闘が起きる可能性もあるとされている。

ただし中国にとってミャンマーは、一帯一路構想に正式に参加し、中国内陸部から陸路で東南アジアに向かうための要という位置づけにある。さらに中国が手掛けている、バングラデシュ国境近くのミャンマー・アラカン港開発によって、そこで陸揚げされる石油をミャンマー国内をパイプラインで貫通させ中国に運び込む計画も進められている。このため、戦乱の継続や、ミャンマーの政情不安は中国にとっても好ましいことではないのだ。(後略)【12月23日 ふるまい よしこ氏 フリーライター 現代ビジネス】
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【中国も黙認する形で始まった少数民族武装勢力の攻勢】
上記記事にあるように、ミャンマー・シャン州での10月27日からの少数民族武装勢力「三兄弟同盟」による攻勢は中国系特殊詐欺グループの存在、その摘発を求める中国政府の意向が強く反映しています。

****ミャンマー 少数民族側が軍に一斉攻撃 “中国は黙認と認識”****
ミャンマーで少数民族の武装勢力がことし10月に開始した軍への一斉攻撃について、少数民族側の報道官は、事前に中国側との接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が作戦を事実上、黙認していたという認識を示しました。(中略)

中国外務省は今月14日、中国の仲介で双方が一時的な停戦に合意したと発表しましたが、軍と少数民族側からの発表はありません。

このうちTNLA=タアウン民族解放軍は、15日にシャン州北部にある軍の施設を攻撃して制圧し、多数の武器を押収したとする映像や写真を公開し、戦闘は続いているとしています。
TNLAの報道官はNHKのインタビューに対し「今月だけでおよそ50の軍の施設を制圧した」と成果を強調しました。

そのうえで一斉攻撃の目的について、市民の生命と財産の保護、軍の打倒、それに特殊詐欺の撲滅をあげました。

特殊詐欺を巡っては、中国人の詐欺グループがシャン州の中国国境周辺に拠点を置いているとされ、中国政府は繰り返しミャンマーに取締りを求めていますが、軍には詐欺グループを保護する見返りとして金銭が流れていると指摘されています。

一斉攻撃の目的の1つに特殊詐欺の撲滅を掲げたことについて、報道官は「もともとは中国が思いつき、われわれも実行することを決めた。作戦の開始前には中国側が連携を求めてきたので喜んで受け入れた」と述べ、事前に中国側からの接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が、少数民族の作戦を知りながら事実上、黙認していたという認識を示しました。

一斉攻撃には民主派勢力も呼応し、その後拡大していて、国境周辺の安定化もはかりたい中国がどれだけ関与していくかに関心が集まっています。(中略)

OHCHR=国連人権高等弁務官事務所は、ミャンマー国内では、外国人を含む少なくとも12万人が特殊詐欺に加担させられていると分析しています。

中国 高齢者や富裕層などねらった特殊詐欺 被害深刻に
中国では高齢者や富裕層などをねらった特殊詐欺の被害が深刻となっていて、公安当局が取締りを強化しています。

国営メディアによりますと、去年1年間に当局が摘発した特殊詐欺の件数は46万件余りにのぼり、年々、増加傾向にあるということです。

一方、中国国内での取締りが強化されるにつれて、東南アジアの国々など海外に拠点を移した詐欺グループが動きを活発化させていることから、各国の当局などとも連携して対応に乗り出しています。

とりわけ国境を接するミャンマーでは、特殊詐欺に関わった疑いで拘束された容疑者が中国側に引き渡されるケースが相次いでいて、ことし9月上旬には1207人、10月中旬には2349人がミャンマー北部から一斉に移送され、中国当局が取締りの成果を強調しています。

中国の王毅外相は、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏と今月に会談した際、特殊詐欺への対応をめぐる協力について言及したうえで「双方は協力をさらに強化し、特殊詐欺という腫瘍を徹底的に取り除くべきだ」と述べています。【12月23日 NHK】
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【混乱拡大を避けたい中国の仲介後も続く緊張 ミャンマー全土の市民生活困窮と連動して更に大きな動きにつながる可能性も】
中国としては特殊詐欺グループが摘発されるのは歓迎ですが、混乱が拡大して一帯一路事業に支障がでるのは困りますので、停戦の仲介に乗り出し、中国外務省は今月14日、中国の仲介で双方が一時的な停戦に合意したと発表しました。

しかし、その後の状況はよくわかりませんが、少数民族武装勢力側は軍事政権打倒を掲げて戦闘を継続する姿勢を見せています。

****中国、自国民にミャンマー北部から退避指示 停戦仲介後も情勢不安定****
在ミャンマー中国大使館は28日、治安上のリスクが高まっているとして、北部コーカン地区ラウカイからできるだけ早期に退避するよう自国民に促した。

ミャンマー軍は武装勢力による組織的な攻撃と戦っている。

中国外務省の毛寧報道官は定例会見で「コーカン自治区の現在の治安情勢は深刻で複雑だ」とし「ミャンマーの当事者が最大限の自制を維持し、現場の緊張緩和に向けた取り組みを進め、ミャンマー北部情勢の軟着陸を共同で推進することを期待する」と発言。地元当局に対し中国人の安全を保証するよう求めた。

中国外務省は今月、ミャンマー国軍と少数民族の武装勢力が中国の仲介で一時停戦に合意したと発表した。
ただ、少数民族の武装勢力で構成する「3兄弟同盟」は「独裁政権」を打倒する決意を改めて表明。国軍との協議や停戦には触れていない。【12月28日 ロイター】
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状況は越年し、来年は更に戦闘・混乱が拡大する可能性もあります。

****ミャンマー クーデター以来の「転換点」 軍と抵抗勢力の戦闘激化…未来はどうなる?****
ミャンマー軍がクーデターによって全権を掌握して、まもなく3年。各地で軍と抵抗勢力の戦闘が激しくなり、軍の支配地域が失われる大きな「転換点」を迎えている。その一方で、市民の犠牲は増え、国内はますます不安定になっている。ミャンマーの未来はどうなるのか?(中略)

■軍が劣勢に…そのワケは?
なぜ、ここまで軍が劣勢に立たされているのか? ミャンマー情勢に詳しい京都大学の中西嘉宏准教授は「雨期が終わる時期を見計らって攻撃を仕掛けている。さらに、武装勢力が連携して奇襲を仕掛けることで、軍は防衛線を維持できなくなっている」とみている。抵抗勢力同士が入念に準備をした上で作戦を実行したことが、大きな要因だと指摘する。

さらに、「交代の兵士を前線に送ることができなかったり、補給もできなくなったりして、部隊が全滅する危機に陥り投降する兵士が多い」と話す。軍の士気も低下し、兵士の数も不足していると分析する。

■増える民間人の犠牲 66万人以上が避難民に
戦闘が拡大するに従って、犠牲となっているのが市民だ。国連機関によると、作戦が始まってから、女性や子どもを含む370人以上の民間人が犠牲になり、66万人以上が新たに避難民になったという。

また、戦闘に巻き込まれなくても、クーデター以降、市民は苦しい生活を強いられている。
現地記者からの報告によれば、ミャンマーでは電力が不足し、最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常だという。「1日8時間停電している。地域によって数時間しか電気が使えない地区もある」との声もあり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっているという。

■民主化の顔不在の中 ミャンマーの未来は?
かつてはミャンマーの顔だったアウン・サン・スー・チー氏。一時、政府施設に移されたと報じられたが、結局、刑務所に戻ったとみられている。その動向を伺い知ることは難しい。

民主化運動の象徴が不在の中、ミャンマーの未来はどうなるのか?抵抗勢力が勝利すれば、平和は訪れるのか? 中西准教授は「この戦闘は勝ち負けの問題ではない。軍政が終わると民主化すると思っている人もいるようだが、それは幻想だ。戦闘が長引くとお互いに疲弊し、国全体の力は落ちていく」と指摘する。

国内が不安定になれば、結局、その影響はさらなる犠牲や生活苦となって市民に跳ね返ってくる。
現地記者は「外に出れば自由はないし、安全だとも感じない。楽しいことも幸せなこともない」と、切迫した気持ちをあらわにした。ミャンマーの平和な未来の姿は、ますます見えなくなっている。【12月29日 日テレNEWS】
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戦闘の状況と併せて、“最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常だという。「1日8時間停電している。地域によって数時間しか電気が使えない地区もある」との声もあり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっているという。”という市民生活の困窮が軍事政権への国民の不満を強め、少数民族武装勢力が拠点とする辺境地域だけでなく、ミャンマー全土において軍事政権の支配体制を揺り動かす可能性もあります。

今後の問題は、自民族の権利拡大を主眼とする少数民族側の思惑と、軍事政権打倒を目標とする民主派の間の連携・意思統一がうまくいくのか・・・という点でしょう。
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ミャンマー  兵士投降など劣勢が報じられる国軍 中国は国境での軍事演習やヤンゴンへの艦船入港

2023-12-11 23:17:01 | ミャンマー

(ミャンマーの紛争地図:独立系メディア出典【12月11日 Newsweek】 赤色が濃いほど戦闘が激しい地域です)

【「劣勢」が伝えられる国軍 「対話」の呼び掛けも】
国軍支配の軍事政権に対する少数民族武装勢力の攻勢が拡大しているミャンマーの状況については、11月25日ブログ“ミャンマー  拡大する少数民族武装勢力の攻勢 注目される中国の動向”でも取り上げたところで、その後も情勢は大きくは変わっていません。

ただ、衝突が起きている地域での国軍側の「劣勢」を報じる記事が増えています。
国軍からは「投降」が相次いでおり、兵士不足にもなっているようで、国軍は脱走兵とその家族に対し、「脱走兵で復帰を希望する者は、近隣の基地で再び軍務に就くことができる」と異例の軍務復帰を呼びかける事態にもなっています。

本来は最大20年の禁錮刑が科される脱走に関して、国軍は脱走の罪や、脱走後に犯した軽犯罪は問わない姿勢を示しています。それだけ状況が苦しいのでしょう。

国軍の兵力低下は今に始まったものでもなく、米シンクタンク「米国平和研究所」は5月、クーデター後の民主派勢力などとの武力衝突で、1万3千人が死傷し、8千人が脱走したと、また、かつて30万~40万人とされた国軍兵は半分程度にとどまると分析しています。

国軍に抵抗を続ける民主派の「統一政府(NUG)」は11月30日の声明で、約3年間で国軍兵士や警察官が計1万4千人脱走し、NUGが保護していると主張しています。

戦闘で劣勢にも立たされている国軍は、これまでの強硬路線から、対話を呼び掛ける姿勢に変化を見せています。

****ミャンマー軍トップが一転対話呼びかけ「政治的解決が必要」 抵抗勢力の一斉攻撃で対応苦慮か***
ミャンマーの民主派勢力などが、クーデターで実権を握った軍への一斉攻撃を強めるなか、軍のトップは「政治的な解決が必要だ」として対話を呼びかけました。徹底的に報復するとの立場を強調してきた軍トップとしては、異例の発言です。

ミャンマーでは今年10月下旬以降、北東部シャン州や東部カヤー州など各地で、少数民族や民主派の武装勢力が軍に対する一斉攻撃を激化。軍の拠点や近隣国との貿易ルートである幹線道路を占拠するなど攻勢を強めています。

こうしたなか、軍トップのミン・アウン・フライン総司令官は4日、軍政幹部らを集めた評議会で、「武装勢力が国の経済と国民の生活を苦しめている」と非難したうえで、「政治的な解決が必要だ」と強調しました。

各地で空爆を繰り返すなど、強硬姿勢を貫いてきた軍トップが、異例の対話を呼びかけた形です。

態度を軟化させた背景には、戦闘で軍が劣勢に立たされているとの見方があり、複数の現地メディアによると、少なくとも500人の兵士が降伏したということです。

一方、ロイター通信によりますと、各地の武装勢力を支援している民主派組織のNUG=国民統一政府は、軍が政治に関与しないことを保証するまで対話には応じない姿勢を示しています。【12月6日 TBS NEWS DIG】
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戦闘地域は、首都ネピドーなど中心部を取り囲む形で周縁部の地方に広がっており、国軍支配の打倒を目指す民主派「統一政府(NUG)」は、これを機に首都ネピドーや最大都市ヤンゴンでも攻撃を仕掛けたい意向のようです。

国軍側も“イラワジによると、国軍はネピドーで約1万4000人の部隊の追加動員を始めた。主要都市への戦闘の波及を防ぐため、防御態勢を強化している模様だ。”【12月2日 読売】と警戒を強めています。

ただ、辺境地域を根拠地とする少数民族武装勢力が都市部まで兵力を進めるのには物資の補給などの兵站の問題があること、また、武装勢力側に「地の利」がある山岳部ゲリラ戦と都市部の戦いはまた様相が異なることから、「一気に都市部に戦闘が拡大」というのは難しいのでは・・・というのが常識的な見方でしょう。

もっとも、力で維持してきた権力が、国民の抵抗で一気に崩れるという事例も少なからずあるのも事実ですが。

****ミャンマー 戦闘激化で軍兵士投降相次ぐ 軍将校が内情明らかに****
ミャンマーでクーデター後、実権をにぎる軍と少数民族の武装勢力や民主派勢力との戦闘が激しさを増し、軍の兵士の投降が相次ぐ異例の事態となっています。投降したミャンマー軍の将校が、NHKのインタビューに応じ、軍内部の統制が乱れ、士気が低下している内情を明らかにしました。

ミャンマーでは、ことし10月27日に3つの少数民族の武装勢力が東部シャン州で一斉に攻撃を開始し、民主派勢力とも連携して攻勢を強めています。

ミャンマー軍はおととしのクーデター後初めて各地で守勢に立たされていて、民主派勢力の組織「国民統一政府」は、先月29日までに541人の兵士が投降したと明らかにしています。

こうした中南東部カレン州で少数民族の武装勢力、KNU=カレン民族同盟に投降した軍の将校が、少数民族側の監督下でNHKのインタビューに応じました。

この将校は先月、橋を守っていた際に2日半にわたって攻撃をうけ、孤立無援のなか20人の部下とともに投降をしたということで、当時の状況について「53人いた部下のうち、25人が戦死した。生きていられるだけ自分たちは幸運だった」と投降するほかに選択肢はなかったと語りました。

そのうえで「私はみずからの身を守るため、投降する道を選び、その判断に悔いはない。ほかの兵士もみずからのため、行動する時だ」と投降を呼びかけました。

また軍トップのミン・アウン・フライン司令官については、「道を踏み外しつつある。軍内部で司令官の指導力を信じる者はもはやいない。軍にいる兵士やスタッフで以前のように彼を信奉する者はいない」と述べ、軍内部で統制が乱れ、士気が低下している状況を明らかにしました。

投降した軍の兵士たちは比較的自由な生活を許されている様子ですが、少数民族側が撮影した映像では橋の前に整列して軍の攻撃によって犠牲となった人たちを追悼する敬礼を強いられている姿も写っていて、市民に銃口を向けてきた軍への反発の根強さもうかがわせています。

ミャンマー軍の兵士は家族とともに軍の施設内で集団生活を送り、相互監視や上官による洗脳で、命令に背けない環境に置かれているとみられ、兵士の投降が相次ぐのは異例の事態です。

軍の報道官は4日、国営メディアを通じて「通告なく軍から離れた兵士が軍に戻ってくるなら、無許可欠務とするだけで軍務への復帰を認める」と呼びかけていて、兵員が不足している状況を事実上、認めています。

専門家「奇襲のような形で攻撃受け投降のケース増加」
ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は、兵士の投降が相次ぐ背景について「国境に近い地域などで軍が劣勢になるなか、前線の兵士が時には奇襲のような形で攻撃を受け、耐えきれずに投降するケースが増えている」と分析しています。

その上で「命の危険があれば軍から逃げ出す兵士もいて、士気は決して高くない。これまで軍に多くの兵士を供給していた地域を軍側が統治できなくなっていて、戦闘が激しい地域には兵士を送ることができず、ローテーションもできなくなっている」と述べ、兵士の不足や士気の低下も一因にあると指摘しています。

そして「抵抗勢力は、軍に対抗し、軍が統治している地域を少しでも自分たちのものにしたいという点で利益が一致している。そのため、かつてよりも連携が取れるようになってきたことは大きな転換点といえる」と評価しました。

一方で今後の展開については「現在戦闘が行われている山岳地帯や自然環境の厳しい地域とは異なり、内陸の平野部に入るほどゲリラ戦に限界があるため火力に勝る軍側が巻き返す可能性が高い。

抵抗勢力としても一般市民への被害が出る都市部での戦闘はなるべく避けたいと考えていて慎重になるだろう」と述べ、軍事的な手段だけでは事態が一気に進展することはないという見通しを示しました。

その上で政治的な解決の可能性については「軍がこれまでの弾圧の責任を取るというプロセスがなければ対話は成立しないだろう。責任をとるべきと考える人たちが軍内で出てくることを期待して抵抗勢力は圧力をかけている。そのためならたとえ長期間でも抵抗を続ける覚悟が少数民族勢力の中にも民主派勢力の中にもあるようだ」と述べました。(後略)【12月9日 NHK】
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少数民族武装勢力及び民主派の攻勢がこれ以上に広がるかどうかについては、上記のような戦術的問題以上に、そもそも高度な自治権や辺境地域での利権確保を主な目的とする少数民族側と、国軍支配打倒を目標とする民主派勢力の共闘拡大がどこまで可能なのか?という問題があります。

共闘を拡大・深化させるには、多数派ビルマ族が少数民族の権利拡大を容認することが必要になりますが、共闘したい民主派勢力はともかく、一般国民の意識がそこまで及んでいるのか?

【中国 国境で軍事演習 ヤンゴンに艦船入港 その意図は?】
上記のような少数民族武装勢力や民主派の動向と並んで注目されるのが、これまでも指摘してきたように中国の動向です。

中国は「一帯一路」事業で軍事政権とも結びつきがありますが、かねてより、一部の少数民族武装勢力への支援も行っていると言われています。

今回の衝突は「一帯一路」事業のルート上で起きており、事業を危うくします。

また、国境付近での中国系詐欺グループ摘発に軍事政権が積極的でなかったことに、中国は強い苛立ちを示しています。

そうした状況で、少数民族支援に関する中国への抗議デモ(政権寄り団体が実行)を軍事政権は容認するなど、中国と軍事政権の間には一定の緊張も見られます。

中国の動向が注目されるなか、中国は国境付近で軍事演習を実施。

****中国軍、南西部の国境付近で演習 ミャンマー「結びつき強固」****
中国軍はミャンマーとの国境付近で25日から「戦闘訓練活動」を開始すると発表した。「部隊の迅速な機動性、国境封鎖、射撃能力を検証する」ことが目的と、ソーシャルメディア(SNS)の微信(ウィーチャット)に投稿した。

ミャンマーに隣接する雲南省政府は、演習が28日まで行われると明らかにした。

ミャンマー軍事政権のゾーミントゥン報道官はSNSに、中国から演習について通知を受けていると投稿した。国境付近の「安定と平和の維持」を目的としており、ミャンマーの内政に干渉しない中国の政策を損なうものではないとの認識を示した。

「中国とミャンマーの軍事的結びつきは強固であり、両軍の協力関係は友好的で強まっている」とした。

ミャンマー国営メディアは24日、中国からミャンマーに物資を運ぶトラックの車列が中国と国境を接するシャン州のムセ町で炎上したと報じた。反政府勢力の攻撃としている。【11月26日 ロイター】
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どういう意図を持った演習だったのか? 軍事政権と武装勢力、どちらへ圧力をかけようとしているのか?
下記記事は中国と特定の武装勢力のつながりを強調した記事ですが、いまひとつ主旨が判然としません。

****ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え****
<ミャンマーと中国との国境で、中国の人民解放軍が実弾による射撃訓練を実施。戦闘の波及に備える中国の西側へのメッセージは>

中国軍は11月25日、ミャンマーとの南部国境付近で行った大規模な軍事訓練の様子を撮影した画像を公開した。ミャンマーでは、軍事政権と反政府勢力との戦闘が続き、国境を越えて拡大しそうな勢いになっている。

中国人民解放軍(PLA)の南方戦域司令部は「中国・ミャンマー国境の中国側で実施中の実弾射撃演習において、榴弾砲と対砲台レーダーを配備した」と、中国国営のタブロイド紙環球時報は報じている.

同紙は、人民解放軍が「隣国で武力衝突が起きているので、国家主権と国境の安定を守るために部隊の戦闘能力をテストし、示そうとした」と伝えた。

この演習のタイミングと、それが地域の安全保障に与える潜在的な影響について、国際的な注目が集まっている。環球時報によれば、今回の演習は「年次訓練計画の一部であり、戦域司令部の軍事ユニットの迅速な機動性および国境封鎖と射撃能力をテストすることを目的としている」という。

中国はミャンマーの反軍事政権連合内の特定の勢力を支援しているが、これはリスクが大きい戦略だ。オブザーバーに言わせれば、ミャンマーの内戦に中国が積極的に関与するのは、非常に厄介なことになりかねない。

ミャンマーの分裂に備えて
「一種の民族的な利害関係から始まった戦いが、ミャンマー国家と国防軍に対する戦いとなれば、まったく別の性格を帯びるかもしれない。中国がそれを望んでいるとは思えない」と、ロンドン大学東洋アフリカ学院の上級講師アビナッシュ・パリワルは本誌の取材に答えた。

「ミャンマーの分裂は現実になる可能性がかなり高い。ミャンマーの大統領でさえ、そう公言している」とパリワルは言う。

中国は、軍事政権の収入源となっているミャンマー国内の違法行為に対抗する計画の一環として、集中的な賭博取締り作戦を実施している。

軍事政権は、2021年にアウン・サン・スー・チーが率いる民主的に選出された政府を打倒して以来、「三同胞連合」と呼ばれる、3つの少数民族の武装勢力の連合体との抗争を繰り広げてきた。

AP通信によれば、軍事政権打倒をめざす自称反乱軍は26日、いくつかの町を占領したという。そのなかには、中国との国境の町ムセにある5つの主要な交易拠点のひとつ、キン・サン・チョート国境ゲートも含まれている。
ミャンマー軍に対する少数民族連合の攻勢から数週間、状況は著しく変化したが、政府の対応はまだ明らかではない。

軍事政権は27日、中国が軍事訓練を行っていることは認識していると述べた。
パリワルは、人民解放軍の動きはミャンマー内戦への対応であるだけでなく、国境地帯の安定化を目指す立場から、中国がより広く西側に向けて発したメッセージでもあると指摘する。

11月8日付の米国平和研究所の報告書の中で、アナリストのプリシラ・クラップとジェイソン・タワーは次のように書いている。「ミャンマーの反軍政闘争は今のところ、軍を政府から排除するという中核の目的においては団結している。だが今後、異なる民族の寄せ集めである抵抗勢力の団結や協調が崩れた場合、中国はミャンマーよりも中国の国益のために、ある勢力を別の勢力と戦わせるような工作を行う危険がある」【11月29日 Newsweek】
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上記記事は、中国と特定武装勢力との関係を重視しているようですが、「ある勢力を別の勢力と戦わせるような工作を行う」ような軍事介入まで考えているのかは疑問です。

更に中国は艦船をヤンゴン・ティラワ港に入港させています。

****ミャンマーに中国艦入港=国境情勢不安、警戒強める****
ミャンマーの中国大使館は28日、中国海軍のミサイル駆逐艦やフリゲート艦が27日、最大都市ヤンゴンのティラワ港に入港したと発表した。

中国国境に近いミャンマー北東部で国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化しており、中国は警戒を強めている。国軍側との軍事的連携を示すことで、武装勢力をけん制する狙いがあるとみられる。

ロイター通信などによると、入港した艦艇は計3隻で約700人が乗船。中国側は「親善訪問」としているが、国軍と合同演習を行うと報じられている。【11月29日 時事】 
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上記記事は中国の意図を“国軍側との軍事的連携を示すことで、武装勢力をけん制する狙い”としています。ただ、中国からは明確に武装勢力を批判するような発言もなされていません。しばらくは様子見でしょうか。

【ヤンゴンなど都市部はまだ平穏ではあるが・・・】
戦闘拡大に伴い市民生活への影響が大きくなっていいます。“国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、11月23日までに市民200人が死亡し、33万5000人が自宅を追われた。クーデター以降の国内避難民は計200万人以上に上る。”【12月2日 読売】

ヤンゴンなど都市部はまだ平穏なようです。

****【1027作戦】以降のヤンゴンの様子****
(中略)
この流れで年内にもヤンゴンを含む大都市での戦闘が行われるのではないか?という話や2024年の2月を前に(クーデターから3年を迎える前に)首都ネピドーを奪還するべく最大規模の戦闘が行われるのではないか?などの話が出ていたりするようですが、勿論真偽は全くわかりません。

冒頭でもお伝えした通り、ここヤンゴンにいる分には「本当にそんな事が同じ国で起こっているのか?」と思う位静かです。しかし、何の変化もないかというとそんな事もありません。

生活上の変化で言えばここ数日対ドルに対してチャットがかなり下がっています。(中略)ガソリンの値段もドンドン上がっています。そして供給量自体も減ってガソリンスタンドには長蛇の列です。

停電に関して、毎日4時間だったものが数日前に隔日で8時間になりました。
ヤンゴンでもそれなりに大変そうなので地方はもっと大変なのだろうと想像します。(中略)

ミャンマー人の友人より夜の自転車移動は辞めるよう言われる
学校などに軍が駐留するようになったのですが、その兵士たちが夜になると近所を徘徊し出歩いている若者などを連行していくそうです。

何か物を運ばせるなど強制労働を科したり適当な罪状を付けてどこかへ連れて行ってしまうそうです。本当かどうか確認しようもないのですが、そのまま軍に入れられる事もあるそうです。

こういった動きに巻き込まれる可能性があるので夜は自転車で移動しないようにと注意されました。(後略)【12月11日 新町智哉氏 Newsweek】
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【追記 中国を介した停戦交渉も】
****軍政、中国介し停戦模索か ミャンマー、武装勢力会談****
ミャンマー軍事政権は11日、少数民族武装勢力が北東部で10月下旬に開始した国軍拠点への一斉攻撃を巡り、中国の仲介で、主導した3勢力の代表者と会談したと発表した。

戦闘に関して政治的な解決策を模索したとしている。武装勢力側は会談の有無を発表しておらず、停戦や和平につながるかどうかは不明だ。
 
国軍のゾーミントゥン報道官が明らかにした。年内にも再度会談する可能性があるとしている。
 
中国外務省の毛寧副報道局長は11日の記者会見で「ミャンマー情勢が緩和することは各方面の利益に合致し、中国とミャンマー国境の安定維持に利する」と述べた。【12月11日 共同】
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ミャンマー  拡大する少数民族武装勢力の攻勢 注目される中国の動向

2023-11-25 23:08:19 | ミャンマー

(ミャンマー・シャン州で投降した国軍兵士らに向かって話す武装勢力関係者【11月20日 共同】)

【少数民族武装勢力の攻勢、拡大の様相】
民主派勢力(アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した「国民統一政府」(NUG))の民兵組織及び少数民族武装組織と国軍の間で戦闘が続くミャンマーにおいて、10月27日に中国国境も近い北東部シャン州で三つの少数民族武装組織が連携して攻勢(「1027作戦」)を開始したことは、これまでも取り上げてきました。
に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

今回が3回目になりますが、取り上げる度に混乱は拡大し、国軍支配にとって深刻な状況になりつつあります。

シャン州での少数民族武装勢力の攻勢に国軍が有効に対応できない状況を受けて、想定されたように各地の少数民族武装勢力も国軍への武闘を開始し、戦線が拡大しています。

****ミャンマーで新たな戦線、反軍政派が攻勢 数千人がインドに避難****
軍事政権下のミャンマーで13日、少数民族の反軍政派が治安拠点を攻撃した。反軍政側などが明らかにした。2つの新たな戦線が開かれたほか、数千人が戦闘から避難するため隣国インドに越境した。

10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政にとっては2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の問題となっている。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)の広報担当者は、約200キロ離れている2地域で拠点を抑えたと語った。

インドと国境を接するチン州でも戦闘が発生し、インド当局者らによると、反軍政勢力が軍駐屯地2カ所を攻撃した。

ミャンマーからは約5000人がインドのミゾラム州に渡ったという。

軍政の報道官からは今回の戦闘について今のところコメントを得られていない。【11月14日 ロイター】
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アラカン軍はシャン州で「1027作戦」に参加している組織で、その動向が注目されていましたが、本拠地ラカイン州でも国軍への攻勢を始めたようです。

少数民族武装勢力側は、国軍から投降者が相次いでいると発表しています。(このあたりの情報は、「大本営発表」的なプロパガンダの側面がありますので、どこまで信用できるかは注意する必要があります。)

****ミャンマー軍政、数十人の治安要員投降 少数民族武装勢力が発表****
ミャンマー軍事政権の治安要員数十人が投降したり、身柄を拘束されたと、反軍政武装勢力が15日に発表した。

同国では10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して軍政に対する攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政は2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の難局に直面している。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)によると、少なくとも28人の警察官が武器を放棄して投降したほか、10人の兵士が身柄を拘束されたという。ロイターはAAの情報が正確なのかどうか確認できていない。

ラカイン州の州都シットウェには夜間外出禁止令が出されている。【11月15日 ロイター】
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ラカイン州の州都で夜間外出禁止令が出されているということは、国軍側にとって警戒すべき状況ではあるようです。

【辺境での少数民族の攻勢が全土の抵抗に結びつくのか】
民主派組織NUG=国民統一政府の外相が来日して、軍事政権について「崩壊はもはや時間の問題だ」と主張、日本を含む国際社会に支援を求めていますが、このあたりはプロパガンダ的な政治的発言でしょう。

****ミャンマー民主派組織幹部「少数民族武装勢力との連携で成果、軍は都市部の支配喪失し始めている」****
来日したミャンマーの民主派組織NUG=国民統一政府の外相が会見し、クーデター後、民主派などへの弾圧を続ける軍との戦闘について少数民族武装組織との連携で「成果をあげている」と強調しました。

ミャンマー民主派組織「NUG(国民統一政府)」ジンマーアウン外相 「(ミャンマー軍との戦いについて)少数民族との戦闘の連携で成果をあげている」

ミャンマーの民主派勢力は、少数民族武装勢力と連携し軍への大規模な攻撃を進めていますが、NUG=国民統一政府で外相を務めるジンマーアウン氏は会見で、農村部での軍の支配地域は40%以下になっていると指摘。「都市部での支配も失い始めている」と強調しました。

一方、現在の軍政に対する日本政府の対応については、「ミャンマーで現在起きていることに合っていない」と批判したほか、今後、軍政から逃れようとする多くの国民に対して国際社会からの支援が必要だと訴えました。【11月24日 TBS NEWS DIG】
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プロパガンダ的発言ではありますが、このまま衝突が拡大すると、場合によっては・・・という可能性もあります。
タリバンの攻勢であっけなく崩壊したアフガニスタン政府軍の事例もありますので。

ただ、アフガニスタンと異なるのは、(軍の能力の問題は別にして)、タリバンを主導していたのがアフガニスタンにおける最大部族パシュトゥン人であったのに対し、ミャンマーでは攻勢をかけているのは自治拡大・独自の権益拡大を目論む少数民族であり、今後多数派ビルマ族社会がこの動きにどのように反応するのかが事態の推移に大きく影響します。

約70%を占めるビルマ族社会にあっても多くの国民が国軍支配を嫌悪しているのは間違いないですが、少数民族との共闘で彼らの権利拡大を容認するのか・・・民主派組織「NUG(国民統一政府)」は州を基本としてそれが集まって連邦国家を作る「The Federalとしての連邦制」を掲げ、少数民族との連携を基本枠組みとしていますが、一般世論にどこまで受け入れられるのか・・・。

そうした少数民族と多数派ビルマ族の連携によって国軍への抵抗が辺境地域だけでなくミャンマー全土に広がるのかどうか・・・が、今後の展開にとって重要です。

【「静観」する中国 今後は?】
そしてもう一つのカギは中国の動向でしょう。

中国はミャンマー国軍に制裁を課す欧米とは異なり、国軍とも一定のつながりを持ち、「一帯一路」事業を進めています。
一方で、シャン州の中国国境付近の州数民族武装勢力にもこれまで支援を行ってきたとされています。

そして、今回の衝突は中国が重視する「一帯一路」事業展開エリアで起きています。
「一帯一路」事業への影響を防ぐため、そして、これまでの中国と国軍との関係を考えると、中国が少数民族武装勢力に圧力をかけて沈静化させる・・・というシナリオが考えられますが(実際、従来はそうしたような動きがありました)、今回は中国は表だって動いていません。

その背景には、中国国境付近で活動する(国軍も関与しているとも言われる)中国系詐欺グループ摘発に国軍が有効に動いていないことに中国が苛立っていることがあると指摘されています。

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(「1027作戦」を行っている三つの少数民族武装勢力で構成する)同胞同盟は(国境近い詐欺グループ拠点)ラウッカインを包囲してから間もなく、攻撃のタイミングを慎重に計っていた。中国はこの出来事を受け、ミャンマーの軍事政権にしびれを切らしていた。

中国政府はこの1年、軍事政権に対し、主に中国人集団によって稼働している詐欺センターを閉鎖するよう圧力をかけてきた。詐欺センターに閉じ込められている人身売買の被害者が残忍な扱いを受けていることが広く知られるようになり、中国政府はきまりの悪い思いをしている。

中国側の圧力は、ワ族など多くのシャン州の民族勢力を説得し、詐欺への関与が疑われる人々を中国の警察に引き渡すことにつながった。8月から10月にかけて4000人以上が中国側へ送られた。しかし、ラウッカインの人々は、年間数十億ドルを生み出してきたこのビジネスを停止することに難色を示した。

現地の情報筋がBBCに語ったところによると、10月20日に、ラウッカインで閉じ込められている数千人の一部を解放しようとする試みがあったが失敗に終わったという。

詐欺センターで働く警備員たちが、脱出を試みた大勢の人を殺害したと考えらえている。その結果、隣接する中国側の地元政府から、責任を負う者に裁きを受けさせるよう求める強力な内容の抗議文書がミャンマー側へ送られた。

同胞同盟は好機と見て攻撃を仕掛けた。中国を落ち着かせるために詐欺センターを閉鎖すると約束した。中国は公には停戦を求めているが、同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。【11月10日 BBC】
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“混乱収束が見通せない中、武装勢力に一定の影響力を保持する中国は攻勢を静観している。BBCは静観の理由を、ミャンマーで中国国内を標的とした複数の詐欺グループが活動する中、「中国が国軍の無策にいらだちを感じている」ためだと指摘。一部武装勢力には詐欺容疑者の身柄確保を巡って中国に協力する動きがあり、事態は複雑さを増している。”【11月15日 産経】

こうした状況を受けて、国軍側も動いた・・・のでしょうか。

****特殊詐欺容疑者3万人を移送 ミャンマーから中国に****
中国公安省は21日、中国人を標的にした特殊詐欺に関わった疑いがあるとして、これまでに隣国ミャンマーで拘束された計3万1千人の容疑者が中国に移送されたと発表した。

中国では海外を拠点としたグループによるインターネットや電話を利用した詐欺被害が深刻化している。公安省は今年9月からミャンマー側と協力し、国境を接する同国北部で取り締まりを強化していた。

王小洪公安相は10月末、ミャンマーの首都ネピドーで軍政トップのミンアウンフライン総司令官と会談し、両国の司法機関の連携強化について協議した。【11月21日 共同】
*******************

3万1千人・・・・小さな都市の全人口にも匹敵するけた外れの数ですが、一度にという訳でなく、これまでの累計でしょう。(その大部分は強制的に働かせられていた加害者兼被害者の人々でしょう)

摘発は、中国側の公安主導で行われたようです。

****ミャンマー拠点のネット詐欺、中国への容疑者引き渡し3万1千人****
中国公安部は21日、ミャンマー北部を拠点とした中国人に対するネット詐欺犯罪が深刻な状況にあることを受け、雲南省などの警察機関に国境警察任務・法執行協力を持続的に進めるよう手配し、複数回にわたる摘発を連続して実施したと明らかにした。

ミャンマー北部の関連地域の法執行部門がこれまでに中国側へ引き渡した詐欺容疑者は、資金提供者や組織幹部など63人、指名手配中の逃亡者1531人を含む3万1千人に上り、摘発は目覚ましい成果を上げている。【11月22日 AFP】
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中国絡みでは、国軍側の中国への圧力ともとれる動きも。

****「テロ支援やめろ」ミャンマーで親軍政派が反中国デモ****
クーデターによる軍政が続くミャンマーで、政権を支持する団体が中国を非難する異例のデモを行ったと現地メディアが報じました。

現地メディアによりますと、19日、軍政を支持する50人ほどのグループが最大都市ヤンゴンにある中国大使館の前でデモを行いました。

ミャンマー北東部の中国との国境地帯では先月27日以降、少数民族武装勢力と軍との間で激しい戦闘が続いていますが、参加者の一部は“中国がこうした武装勢力に武器を売っている”と非難。

「中国政府よ、テロリストへの支援を中止せよ」などと書かれた横断幕を掲げ、“ミャンマーに流血の事態をもたらしているのは中国だ”などと声をあげたということです。

2021年の軍事クーデター以降、欧米からの制裁が続く一方で、軍政への支援を表明するなどミャンマー政府の“後ろ盾”となってきた中国に対し、こうした抗議活動が行われるのは異例です。

あらゆる抗議活動が厳しく取り締まられるミャンマー国内で、政権寄りの団体により公然と反中国デモが行われたことが、今後のミャンマーと中国の関係にどのような影響を与えるのか注目されます。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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更に、今のところどちらが行ったよくわからない攻撃も。

****ミャンマー 中国との貿易拠点でトラック100台以上炎上****
ミャンマーと中国の国境地帯にある貿易拠点でトラック100台以上が炎上し、ミャンマー軍と抵抗勢力の双方が相手側による攻撃だと主張したと報じられています。

ミャンマーの国営紙によりますと、北東部・シャン州の国境近くにある対中貿易の拠点で、23日、大規模な火災が発生しました。

この火災により、衣類や建築資材などの物資を積んだトラックなど258台のうち、およそ120台が焼けたということです。

火災の原因については、「軍との戦闘を続けている少数民族や民主派などの武装勢力がドローンを用いて爆弾を投下した」としています。

一方、ミャンマーの独立系メディアは「軍側が近くの基地から無差別な砲撃を行った」のが原因だったと報じ、ロイター通信は「人びとの利益となるものを破壊するような攻撃を行うことはない」とする武装勢力側の主張を伝えています。

2年前のクーデターで軍が実権を握ったミャンマーでは、先月から中国との国境地帯で激しい戦闘が続いていて、軍政寄りの団体が中国に対し「武装勢力を支援している」と激しく非難するなど、後ろ盾となってきた中国を巻き込んだ異例の緊張状態が生まれています。【11月25日 TBS NEWS DIG】
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炎上したトラックはおそらく中国のものでしょう。
国軍にしても、少数民族武装勢力にしても、中国を怒らせるような攻撃の理由がよくわかりません。

詐欺グループ摘発や上記の攻撃などを受けて、中国の対応がこれまでの「静観」から変化するのか、しないのか・・・変化するならどちら側につくのか・・・注目されるところです。

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ミャンマー  北東部での少数民族武装組織の攻勢が続く 国軍側には強い危機感 中国はどう動く?

2023-11-12 23:08:36 | ミャンマー

(【11月10日 BBC】)

【暫定大統領「国家崩壊の危機に直面している」】 
軍事政権統治下のミャンマーでは、民主派勢力(アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した「国民統一政府」(NUG))の民兵組織及び少数民族武装組織と国軍の間で戦闘が続いていますが、10月27日に中国国境も近い北東部シャン州で三つの少数民族武装組織が連携して攻勢を開始したことは、11月2日ブログ“ミャンマー  少数民族武装勢力の攻勢 「次世代のスー・チー」と(欧米で)期待される若い女性活動家”でも取り上げました。

10月27日に北東部シャン州で国軍への攻勢を開始したのは、以前から協力関係にある「ミャンマー民族民主同盟軍」(中国系コーカン族)、「アラカン軍(AA)」(西部ラカイン州を拠点とするアラカン族 アラカンがどうしてシャン州で活動しているのか・・・知りません)、「タアン民族解放軍」(タアン族)です。

辺境での攻勢ですので、ミャンマー全土への影響がどの程度あるのか・・・確認できずにいましたが、暫定大統領が「軍が事態に対応しなければミャンマーは分裂する」と語るほどに、国軍にとって思い他大きな圧力となっているようです。

****ミャンマー軍 少数民族の武装勢力から攻撃 情勢悪化懸念****
ミャンマーで実権をにぎる軍は東部で少数民族の武装勢力から一斉に攻撃を受けていて、暫定の大統領が「軍が事態に対応しなければミャンマーは分裂する」と述べて、情勢の悪化に強い懸念を示す事態となっています。

ミャンマーではおととしのクーデター以降、軍と民主派勢力などとの戦闘が続いていて、先月末から3つの少数民族の武装勢力が東部シャン州で一斉に攻撃を始め、8日までに軍の施設などおよそ150か所を占拠する事態となりました。

国営メディアは9日、軍のトップ、ミン・アウン・フライン司令官や幹部らで構成する評議会が首都ネピドーで8日に開かれ、少数民族との戦闘状況について意見が交わされたと伝えました。

評議会で個別の戦闘が議題となるのは異例で、暫定の大統領を務めるミン・スエ氏は「もし軍が事態に対応しないのであれば、ミャンマーは分裂することになるだろう」と述べて、情勢の悪化に強い懸念を示しました。

少数民族との戦闘は中国との国境周辺で起きていて、国連は先月30日に数百人が国境を越えて中国側に避難しているとしていて、影響は周辺国にも及んでいます。【11月10日 NHK】
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あくまでも地図の上での話ですが、シャン州全域が少数民族側の支配下になれば、首都ネピドーやミャンマー第2の都市マンダレーは州境からすぐ近くです。

また、シャン州での戦況が国軍に不利になれば、各地の少数民族武装勢力が動き出すでしょう。
戦闘は北西部サガインなどにも拡大しています。

また、三つの少数民族武装勢力が攻勢をかけている地域が中国国境に近い地域ということで、この問題には中国が絡んできます。

****ミャンマー北東部で少数民族武装勢力と国軍の戦闘激化、大統領代行「国家崩壊の危機に直面」****
ミャンマー北東部で国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化している。2021年2月の国軍によるクーデター以降最大規模の戦闘と指摘され、衝突が全土に拡大する懸念も強まっている。

ミン・スエ大統領代行は8日、国防治安評議会で「国家崩壊の危機に直面している」と述べ、危機感をあらわにした。

ミャンマー北東部ではシャン州拠点の「タアン民族解放軍」と「ミャンマー民族民主同盟軍」、西部ラカイン州の「アラカン軍」の3勢力が10月27日、「1027作戦」と称し、複数の国軍の拠点に攻撃を開始した。「独裁を終わらせることが目的」とし、独立系地元メディア「イラワジ」はこれまでに中国との国境ゲートを含む90か所以上を占拠したと報じている。

国軍は11月2日、反撃を宣言したが、民主派勢力なども武装勢力を支援しており、国軍は劣勢の模様だ。国軍は兵士の死者数を明らかにしていないが多数の死傷者が出ているとみられる。

戦闘は北西部サガインなどにも拡大し、国連は10日、戦闘によりシャン州で5万人、北西部で4万人が家を追われたと報告した。

中国と国境を接する北東部には、中国人も多く住んでいる。中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は7日の記者会見で、戦闘の影響で中国人が亡くなったことを認め、「中国人が死傷している状況に強い不満を表明する」と述べた。

中国政府は王小洪ワンシャオホン国務委員兼公安相や外務省高官を相次いでミャンマーに派遣し、国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官らに対し、中国と協力して国境地域の安定を図るよう求めた。

一方、北東部の少数民族武装勢力は歴史的に中国とのつながりが強いとされ、国軍側は「攻撃に中国製ドローンが使用されている」と指摘した。中国の官製メディアは、中国が関与しているとの見方について「事実と大きな隔たりがある」と反発している。【11月12日 読売】
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【「一帯一路」ルート上での衝突 中国は安定を求める】
中国が関係してくるポイントは何点かあります。
難民が中国側に流入してくること、この地域で中国系詐欺グループが活動していることへの対応で、中国がミャンマー側に不満を持っていること、国境近い少数民族武装勢力と中国の間にはかねてよりつながりがあるとされていること、一方、中国は軍事政権とも一帯一路事業推進で関係が深いことなど。

中国の立場ひとつとっても、上記のようにいろんな側面があり、それらが絡み合って複雑な様相を呈しています。

中国は国軍と少数民族のどちらの側につくのか・・・中国としては、とにかく「安定」を望んでいるというところでしょうが、一番重要なのは一帯一路事業が支障をきたさないことでしょう。

****ミャンマー反政府武装勢力が「一帯一路」ルート上で国軍と衝突、中国に打撃****
<ミャンマーで少数民族武装勢力と国軍の衝突が起きているが、現場は中国との国境付近で、一帯一路のルート上にある>

ミャンマー北東部の中国との国境付近で起きている武力衝突は、中国政府がこの地域で進めている数十億ドル規模のインフラプロジェクト「一帯一路」や、両国間を通る主要な貿易ルートを危険にさらす可能性があると、専門家が本誌に語った。

2021年2月のクーデターで政権を掌握して以来、民主化要求を弾圧し続けてきたミン・アウン・フライン国家行政評議会副議長率いる軍事政権と少数民族武装勢力「MNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)」が衝突したのを受け、中国は農融外務次官補をミャンマーに派遣して鎮静化を呼びかけた。

軍政に打撃を与えたのは、MNDAAが中国雲南省と国境を接する東部シャン州北部の国境の町チンシュエホーを制圧したことだ。この町は中国からミャンマーを貫きベンガル湾に出る18億ドル相当の重要な貿易ルートの一部になっている。

報道によると、10月27日以来、反政府勢力はミャンマー国軍の前哨基地90以上を制圧。軍は少なくとも3つの町を失ったことを認めたという。

国連によると、ミン・アウン・フラインは反政府勢力に立ち向かうことを誓い、国軍は空爆で応戦している。衝突によりこの地域では約4万8000人が避難を余儀なくされた。

一帯一路構想への悪影響
ペンシルベニア大学バックネル校の朱志群教授(政治学・国際関係学)は、「反政府勢力と軍事政権の戦闘は、中国にとって深刻な問題となっている」と本誌に語った。

中国は通常、他国の内政や内戦に関与したがらないが、「この地域には雲南省とベンガル湾を結ぶ中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)が設置される予定であり、ここでの戦闘は間違いなくミャンマーと東南アジアにおける一帯一路実現の支障になる」からだ。(中略)

「雲南省の国境沿いの環境が不安定になっていることは、中国国境地帯の発展にも悪影響を及ぼすだろう」と朱は言う。紛争から逃れるために難民が中国国境の町に入れば、人道的危機が生じる可能性も高くなる。

ただし「中国が内戦に直接関与する気配はないし、国境の安定をすぐに回復するようミャンマー政府に圧力をかける以外のことをする兆候もない」と彼は言う。

中国とミャンマー軍政との関係はクーデター以降、緊張をはらんだものになっている。農外務次官補はミャンマー訪問後、国境を安定させるために「中国と協力」するようミャンマーに呼びかけた。

「軍事政権が国境の安定を確保するために具体的な措置をとるか、それとも中国がそれをやるか、どちらかだ」と、超党派のシンクタンク民主主義防衛財団民のクレイグ・シングルトン上級中国研究員は言う。

彼は民族自決を求める反政府勢力が中国にとって二重の課題となっていると指摘。それは「中国の一党支配に対するリスク」だと語った。また、「不安定な事態が拡大すれば、この地域での一帯一路構想への投資が危うくなる可能性もある」。

「総合すると、これらのリスクは、中国政府にとって無視できないほど深刻だ」と、シングルトンは述べた。【11月9日 Newsweek】
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****中国、ミャンマー国境の安全・安定確保へ 戦闘停止も求める****
中国外務省は10日、反軍政勢力との戦闘が起きているミャンマーについて、国境における安全と安定を確保すると表明するとともに、同国の全当事者に対して直ちに戦闘を停止するよう求めた。

ミャンマー軍政の大統領は、中国との国境地帯における最近の暴力を効果的に制圧できていないとして、国内は分裂の危機に瀕していると述べている。

軍政は2021年のクーデターで権力を掌握して以来最大の困難に直面しており、北部、北東部、北西部、南東部の軍事基地に対する民主派や少数民族の反軍政勢力による攻撃が急増している。

衝突で中国人が死亡したという情報もあり、中国はミャンマーに滞在する国民に暴力発生地域を避けるよう勧告している。【11月10日 ロイター】
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ただ、“中国は公には停戦を求めているが、(攻勢をかけている三つの少数民族武装勢力の連合体である)同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。”【11月10日 BBC】ということで、あまり深入りはしていないようです。

【少数民族武装勢力は自己利益第一 どのようにミャンマーの民主的統一にまとめていくかが問題】
上記のような状況を、詐欺グループへの軍政・少数民族図総勢力の対応及び中国の反応を含めて、改めて詳しく解説した記事が下記【BBC】です。

****ミャンマー軍、クーデター後最大の後退 少数民族武装勢力との戦闘で「国が分裂も」****
クーデターによる軍政が続くミャンマー東部で、国軍と少数民族の武装勢力との戦闘が起きている。ミン・スエ暫定大統領は9日、東部シャン州で勃発した戦闘を政権側が制圧できなければ、国が分裂する危険性があると述べた。(中略)

シャン州で反乱を起こしている三つの民族の武装勢力は、反軍政派のほかの武装グループの支援を受け、国軍の数十の軍事拠点を制圧した。さらに、複数の国境検問所と、中国との陸路貿易の大部分を担う道路を占拠した。

こうした状況は、2021年2月に政権を奪取した軍事政府にとって、これまでで最も深刻な後退と言える。悲惨なクーデターは武装蜂起を起こし、2年半にわたって衝突が続いている。軍は弱体化し、打ち負かされる可能性が出てきたようにみえる。

軍事政権は空爆や砲撃で応戦し、何千人もが家を追われている。しかし政権は、増援部隊を投入することも、失った勢いを取り戻すこともできていない。

殺害された数百人の兵士には、シャン州北部の国軍司令官アウン・キョー・ルイン准将が含まれるとみられている。事実であれば、クーデター後の戦闘で死亡した最も高位の将官となる。

シャン州で活動する反軍政派の武装勢力が、軍事行動の足並みを、軍政転覆と民主的統治の回復を目指す広範な活動と明確にそろえたのはこれが初めてだ。その点からも、今回の攻撃の重要性はさらに増している。

一方で、ほかの要因も考慮する必要がある。これら三つの反軍政派勢力には、自分たちの領土を拡大したいという長年の野望がある。

そして決定的なのは、通常はミャンマーとの国境沿いで活動するすべての勢力に対して抑制的な影響力を見せている中国が、今回の活動の進展を妨げていないことだ。

これはおそらく、シャン州に急増した詐欺組織に対してミャンマーの軍事政権が何も対策を取っていないことへの不満の現れだろう。詐欺組織のセンターでは何千人もの中国人やほかの外国人が働かされている。反軍政勢力は、活動の目的のひとつにそれらのセンターの閉鎖を挙げている。(中略)

今年6月、中国からの圧力を受けた同胞同盟(「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)、「タアン民族解放軍」、「アラカン軍」が結成した同盟関係)は国軍との和平交渉に参加することに合意したが、その後すぐに決裂した。それでも、同胞同盟はまだ、より広範な内戦には関与していないように見えた。

ところが、10月27日に同胞同盟が開始した「1027作戦」と呼ばれる国軍への攻撃によって、その状況は一変した。
同胞同盟は劇的な進展を遂げた。軍の全部隊が、戦わずに降伏したのだ。同胞同盟は100以上の軍事拠点と、四つの町を占拠したとしている。これにはチンシュエホーの国境検問所や、中国への主要な玄関口であるムセに続く主要道路上のフセンウィも含まれる。

同胞同盟は国軍の援軍が来るのを阻止するために橋を爆破。軍事政権と関係のある人物が運営する詐欺センターが多数あるラウッカインの町を包囲した。

ラウッカインには数千人の外国人が閉じ込められていると見られ、町に残った限られた食料を求める人の列ができるなど、混乱が広がっている。中国はすべての自国民に対し、最寄りの国境検問所を通って避難するよう求めている。

同胞同盟はいまの自分たちの最終目標は軍事政権の転覆だとしている。NUG(民主派「国民統一政府」)もこれを目指している。

NUGは同胞同盟の成功を称賛し、自分たちの闘争において新たな勢いを獲得したとした。NUGの志願兵は、陸軍と空軍を総動員した国軍との不均衡な武力衝突を必死に繰り広げていた。

親NUG派の民兵組織「国民防衛隊(PDF)」は、シャン州の武装勢力ほど武装しておらず、経験も浅い。それでも、軍の明らかな弱点につけこんで、シャン州近郊で独自に攻撃を開始。国軍から初めて、地区の主要エリアを奪取した。

同胞同盟はラウッカインを包囲してから間もなく、攻撃のタイミングを慎重に計っていた。中国はこの出来事を受け、ミャンマーの軍事政権にしびれを切らしていた。

中国政府はこの1年、軍事政権に対し、主に中国人集団によって稼働している詐欺センターを閉鎖するよう圧力をかけてきた。詐欺センターに閉じ込められている人身売買の被害者が残忍な扱いを受けていることが広く知られるようになり、中国政府はきまりの悪い思いをしている。

中国側の圧力は、ワ族など多くのシャン州の民族勢力を説得し、詐欺への関与が疑われる人々を中国の警察に引き渡すことにつながった。8月から10月にかけて4000人以上が中国側へ送られた。しかし、ラウッカインの人々は、年間数十億ドルを生み出してきたこのビジネスを停止することに難色を示した。

現地の情報筋がBBCに語ったところによると、10月20日に、ラウッカインで閉じ込められている数千人の一部を解放しようとする試みがあったが失敗に終わったという。

詐欺センターで働く警備員たちが、脱出を試みた大勢の人を殺害したと考えらえている。その結果、隣接する中国側の地元政府から、責任を負う者に裁きを受けさせるよう求める強力な内容の抗議文書がミャンマー側へ送られた。

同胞同盟は好機と見て攻撃を仕掛けた。中国を落ち着かせるために詐欺センターを閉鎖すると約束した。中国は公には停戦を求めているが、同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。

同胞同盟はより長期的な目標として、できるだけ多くの支持を得ようとしている。軍事政権が崩壊する可能性を見越しているためだ。支持が大きければ、軍政が倒れた場合にミャンマーの新たな連邦制を築くと約束したNUGとの交渉で、可能な限り有利な立場に立つことができる。(中略)

そして誰もが、(ラカイン州を本拠とする)アラカン軍に注目している。アラカン軍はいまのところ、シャン州における戦闘を支援するにとどまっている。もしラカイン州で国軍を攻撃することを選べば、軍事政権は自分たちが危険なほどまでに拡大しようとしていることに気が付くだろう。同州ではアラカン軍が最も勢力を持ち、すでに多くの町や村を支配している。

TNLA(タアン民族解放軍)のスポークスマンがBBCに語ったように、TNLAはもはや、軍事政権との交渉に価値を見いだしていない。同政権は正当性を欠いているからだ。

いま何らかの合意に至ったところで、将来、選挙で選ばれた政府に無効とされてしまうだろう。タアン族、コカン族、そしてワ族の勢力には、新しい連邦制の中で、自分たちの民族の国家としての地位について憲法上の承認を勝ち取るという、共通の目標がある。

いま起きている戦闘に加わることで、これらの勢力はミャンマーの軍事政権に終止符を打つことができるかもしれない。しかし彼らには、シャン州のほかの勢力の利害とは一致しない、強い願望がある。こうした状況は、ミャンマーの民主的な未来を描こうとする人々が多くの課題に直面することの前触れと言えそうだ。【11月10日 BBC】
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少数民族武装勢力の最大の目標は自分たち民族の利害・自治拡大であり、シャン州だけでも他にも武装勢力は存在し、更にミャンマー全土には多くの同様組織が存在します。

仮に、戦闘が少数民族側に有利に展開したとしても、そうした少数民族をミャンマー全土の民主化という観点でどのようにまとめあげていくのかというのは大きな問題(これまでビルマ族中心のミャンマー政権が実現できなかった問題)です。

NUG(民主派「国民統一政府」)は州を単位とする連邦制を掲げていますが、多数派ビルマ族がそうした体制を受け入れるのかという問題も。

また、混乱の拡大に中国がどのように関与するのか、あるいは関与しないのかも。

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ミャンマー  少数民族武装勢力の攻勢 「次世代のスー・チー」と(欧米で)期待される若い女性活動家

2023-11-02 23:32:02 | ミャンマー

(ミャンマーにおける人権やジェンダーに関する若者の声の代弁者として欧米メディアに注目されるティンザー・シュンレイ・イー氏)

【北東部で共闘する三つの少数民族武装勢力の攻勢 戦線は拡大も】
軍事政権が支配するミャンマーでは、民主派勢力と少数民族武装勢力による抵抗が続いています。

イスラエル軍によるパレスチナ難民キャンプ空爆が国際的批判を浴びていますが、常態化しているミャンマー国軍の暴力はもっと露骨にも見えます。

****ミャンマー空爆、29人死亡 国軍、避難民キャンプに****
ミャンマー北部カチン州で、少数民族武装勢力の拠点近くの避難民キャンプに9日夜、国軍の空爆があり、子どもや女性を含む29人が死亡、50人以上が負傷した。地元メディアが10日伝えた。

現場のキャンプはカチン独立機構(KIO)の軍事部門、カチン独立軍(KIA)の拠点から約3キロ。被害状況はKIA報道官が明らかにした。

ミャンマーではことし4月、北部ザガイン地域の国軍の空爆で、民間人ら160人以上が死亡するなど、市民を巻き添えにする攻撃が相次いでいる。【10月10日 共同】
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空爆に使用されるのはドローンのようです。
“この攻撃で、13人の子どもを含む少なくとも32人が死亡し、50人以上がけがをしたということです。
被害にあった避難民キャンプは国軍と対立する少数民族武装勢力の拠点の近くにあり、衝突の巻き添えになった可能性があります。”【10月10日 ABEMA TIMES】とも。

このような少数民族武装勢力との戦闘が続く状況でも国軍は、2015年に軍と少数民族武装勢力との間で結ばれた停戦協定から8周年を祝う記念式典を開催したとか。いささか皮肉というか滑稽でもあります。

****ミャンマー「停戦協定」から8年で記念式典軍のクーデターで形骸化****
ミャンマーで2015年、軍と少数民族武装勢力との間で結ばれた停戦協定から8周年を祝う記念式典が開かれました。

ただ、2年前のクーデター以降は一部の武装勢力が停戦を無効として軍との戦闘を始めるなど、協定は形骸化しています。

首都ネピドーで開かれた「全国停戦協定」の記念式典には、クーデターで実権を握ったミャンマー軍の幹部のほか、協定に合意している少数民族の関係者らが出席しました。

多民族国家のミャンマーでは、自治権の拡大や資源の確保などをめぐり、少数民族武装勢力と軍による内戦が各地で続いていましたが、2015年に8つの組織が軍との停戦協定に合意し、その後、新たに2つの組織が加わりました。

軍トップのミン・アウン・フライン総司令官は、「自由で公正な選挙を実施し、勝利した政党に政権を引き渡す」と述べたうえで、軍と対立するほかの少数民族武装勢力についても停戦協定に参加するよう呼びかけました。

ただ、協定に署名しているカレン民族同盟など3つの少数民族武装勢力は、2年前のクーデター以降、停戦を無効として軍に抵抗する勢力の支援に回っていて、協定はもはや形骸化しています。【10月16日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ、それに続くイスラエル・パレスチナでの戦闘に世界の注目が集まる中、忘れられることも多いようなミャンマー情勢ですが、先月末から複数の少数民族武装勢力が共闘して国軍への攻勢をかけていることが報じられています。

****少数民族が共闘、軍政30人殺害 ミャンマー、異例の一斉攻撃****
ミャンマー北東部シャン州などで(10月)27日、国軍の拠点に対し、三つの少数民族武装勢力が共闘して一斉攻撃を仕掛け、国軍兵士ら30人以上を殺害した。地元メディアが28日伝えた。

検問所などを占拠し、一部主要道も封鎖した。戦力で優位に立つ国軍への異例の攻撃で、2021年の国軍によるクーデター以降戦闘が長期化する中、戦況打開のため強攻策に出た可能性がある。

攻撃に関し、以前から協力関係にある「ミャンマー民族民主同盟軍」と「アラカン軍(AA)」、「タアン民族解放軍」が声明を発表。軍事政権を倒し、国軍による空爆をやめさせるとして、攻撃作戦開始を宣言した。【10月28日 共同】
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こうした地域では少数民族武装勢力が支配権を握ったエリアもあるようです。

****ミャンマー少数民族が独自戒厳令 軍政の支配力が弱体化か****
ミャンマー北東部シャン州の一部集落で、少数民族武装勢力が独自に異例の戒厳令を出した。独立系放送局「ビルマ民主の声」が31日伝えた。

2021年のクーデター以降続く軍政の支配力が弱まっている可能性がある。同州では最近、三つの武装勢力が共闘して国軍の拠点に一斉攻撃し、兵士らを殺害、検問所などを占拠していた。

攻撃は「ミャンマー民族民主同盟軍」や「アラカン軍」などが27日に開始。戒厳令は激しく攻撃した複数の集落で29日に発出し、市民に当面の自宅待機、飲食店に営業中止を要請したという。

武装勢力は国軍の兵士ら100人以上を殺害、約60拠点を占拠したと主張している。【10月31日 共同】
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戦闘は現在も続いているようです。

****激戦続くミャンマー、国軍兵41人投降の情報 北東部の軍事衝突、別の地域にも戦線拡大****
ミャンマー北東部シャン州で続く3つの少数民族武装勢力と国軍との軍事衝突を巡り、3勢力側は1日、国軍兵士41人が投降したと明らかにした。

現地からの情報によると、シャン州北部では10月27日、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)が国軍への大規模攻撃「1027作戦」を始め、激戦が続いている。3勢力はこれまでに80カ所以上の国軍の前哨基地などを占拠し、6台の戦車を押収したと発表。同州クンロン郡区では30日、国軍の第143軽歩兵大隊に所属する兵士41人が投降したという。

一方、北部カチン州のカチン独立軍(KIA)と東部カイン州のカレン民族解放軍(KNLA)は1027作戦を支援するため、それぞれ拠点とする地域で国軍との戦闘を開始した。

ミャンマー国軍は31日、KIAがカチン州の幹線道路沿いにある基地を攻撃し、国軍兵士ら数人が死亡したと発表。国軍は報復でKIAの本部があるライザ周辺を空爆しているという。【11月1日 東京】
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****ミャンマー国軍、中国国境の要衝失う 少数民族武装勢力との戦闘で****
ミャンマー軍事政権は1日、北部シャン(Shan)州での三つの少数民族武装勢力との戦闘で、中国国境の要衝の町の支配権を失ったと明らかにした。

シャン州では先月27日から戦闘が激化していた。同州は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の一環で、10億ドル(約1500億円)規模の鉄道事業が計画されている。  

タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)の3勢力は、国軍の複数の拠点のほか、最大の貿易相手国である中国につながる主要道路を占拠したとしている。  

軍事政権のゾーミントゥン報道官は1日、中国・雲南省と国境を接するチンシュエホーに「政府や行政・治安組織はもはや存在しない」との声明を出した。  

6日間でシャン州の10か所で衝突が起きたという。死傷者の詳細は明らかにしていない。  

一方、中国外務省の汪文斌報道官は2日の定例記者会見で、中国は「すべての当事者に対し、即時停戦を要請する」と述べた。  

国連は、戦闘により多数が避難しており、一部は中国に逃れているとしている。  中国はミャンマー軍事政権を支援しており、主な武器供給国となっている。また、2021年の国軍による実権掌握をクーデターと表現していない。【11月2日 AFP】
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ただ、少数民族武装勢力の攻勢がどの程度の規模で、ミャンマ―全土の情勢にどれくらいの影響力があるのかは判然としません。

また、武力衝突には大勢の市民が巻きこまれており、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、30日時点で6200人が家などを追われて避難民となっているとも報じられています。

上記記事にもあるように、戦闘は中国国境に近いエリアで、数百人が安全のため中国側に逃げ込んだとも。
ミャンマーとの国境に近い雲南省瑞麗市では「流れ弾」を警戒して学校が休校になったりもしています。

この事態に中国王小洪国務委員兼公安相が10月31日にミャンマーを訪問し、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官と会談しています。

【必要とされる多数派ビルマ族と少数民族をまとめていく指導力 期待される一人「次世代のスー・チー」】
仮に少数民族武装勢力が大きな軍事的成果をあげたとしても、ミャンマー全土における状況の変化には多数派(約7割)であるビルマ族の側での動きが必要になります。 また、少数民族武装勢力とビルマ族をまとめていく指導力も必要です。

かつてであれば、スー・チー氏にその役割が期待されるところですが、スー・チー氏は国軍に拘束されて現在の情勢とは遮断されており、また、その統治期間における国軍に寄り添う姿勢(それが本心からのものだったのか、統治の上で国軍との協力が不可欠だったからなのかは定かではない部分もありますが)は少数民族側の信頼を失っています。

ミャンマーには国をまとめていく若い新たな指導力が必要ですが、注目される人物の一人に、国軍の弾圧を逃れ、地下に潜伏しているティンザー・シュンレイ・イーという女性がいるそうです。

****「次世代のスー・チー」が語る本家スー・チーの価値と少数民族乱立国家ミャンマーの未来****
<ウクライナ戦争とガザでのイスラエル・ハマスの衝突で、すっかり世界から忘れられたミャンマー内戦。国軍の弾圧に抵抗する反政府組織や少数民族の戦いは続き、国家の未来は見通せないが、この国には「次世代のスー・チー」と見做される31歳の女性がいる>

10月初旬、私はミャンマー国境沿いにほど近いタイ側の人口12万人ほどの街の端にあるカフェで、ある人物を待っていた。(中略)

ここからミャンマー側の街までは1キロもない。その街では最近県知事と警察署長がまとめてドローンで爆殺されたが、それは近くのオンライン詐欺の拠点と化している地区への電力供給を止めたから怒った胴元のチャイニーズマフィアが報復としてやったのだ、といった噂が流れていた。

その地区は貯め込んだ財産を狙った各種の周辺武装勢力の襲撃に悩まされており、国軍傘下でありながら地元カレン族の武装勢力とも通じる「国境警備隊」を雇って防ぎ切っているらしい。

まるきり山賊が跋扈する中世の様相だが、黄金の三角地帯を作り上げた麻薬王クン・サーが死んでからまだ15年ほどしか経っていないと考えれば、そこまで不思議ではないのかもしれない。

(中略)その人物、ティンザー・シュンレイ・イーは姿をあらわした。流暢な英語を操る31歳の彼女は、ミャンマーにおける人権やジェンダーに関する若者の声の代弁者として米タイム誌や英ガーディアン紙など多くの大手欧米メディアの取材を受け、米国務省の「次世代リーダー賞(Emerging Young Leaders Award)」や人権侵害に関する法律の名を冠したマグニツキー人権賞を受賞するなど、その発言は常に注目を浴びている。

2021年に起きたクーデターにより、ミャンマーはいまミン・アウン・フライン将軍率いる国軍によって実効支配されている。

民主派政党の国民民主連盟(NLD)を率いていたアウン・サン・スー・チーと側近はその際拘束され、現在はそのNLDの後継組織である国民統一政府(NUG)がわれこそは国を代表する正統な政府であると主張しているほか、元々国軍やNLDが政権を握っていた時期から対立していたその数20以上におよぶ少数民族の武装勢力が入り乱れて戦闘を続ける。

一口に武装勢力といっても、積極的に国軍と闘う勢力から自領を守れればそれでよいという勢力までそれぞれ思惑が異なり、なかには外国の支援を受けているものもある。

シュンレイ・イーのような都市部の若者たちは、当初こうした「伝統的」な反国軍武装勢力とはまったく違う、「市民的不服従(CDM)」と呼ばれる職場ボイコットやデモなど非暴力を中心にしたかたちで抗議活動を行っていた。

しかし国軍は容赦なく実弾や拉致・拷問をもってこれに臨み、現在までにわかっているだけで4000人以上の市民が殺害されている。

そうした現実の中で、クーデター発生から2年半が経った今、武器を取って抵抗するしかないと考える若者が増えていることは事実だ。彼らの多くは少数民族武装勢力から軍事訓練をうけ、NUGの軍事部門であるPDF(国民防衛軍)に合流し戦っている。しかし少数民族側がNUGとスー・チーを支持しているかというと、必ずしもそうではないらしい。

「スー・チー氏はいまでもNUGの精神的な支柱ですが、彼女は16年にNLDが政権を握ってからクーデターまでの5年間に渡って国軍との距離が非常に近かった。国軍もNLDも(人口の70%近くを占める)ビルマ人が中心となるグループであることも手伝って、少数民族からはビルマ人同士の主導権争いでしかないと見なされてきました」。シュンレイ・イーは言う。

NUGは首相を含む複数の「閣僚」に少数民族出身者を充てているが、それはこうした声に少しでも応えるための配慮だろう。

「それでも多くの人はスー・チー氏が再び指導者として方向を示してくれることを待ち望んでいます。しかし彼女はクーデターの初日に拘束されています。だからそれ以降の状況、例えばNUGがPDFを結成して武装闘争を始めたことすら知らない可能性もある。『彼女は私たちとともにいる』と断言できる人は誰もいないのです。

もし戻ってこられたとして、いまのNUGの方針を承認・支持するかは未知数ではないかと思います。そんな彼女をただ待っているがゆえに、前に進むことができない人たちも多い。でも私たちは違う。ただ前に進み、組織を作り、そして革命と共に歩むのです」

シュンレイ・イーは欧米メディアに登場しはじめたころ、よく「次世代のアウン・サン・スー・チー」と紹介されていた。なによりも女性であり、欧米諸国が好む人権や女性の社会的立場といった「普遍的価値感」をベースに英語で話せるからだ。

しかし彼女が政治的な活動を始めたのは2012年の国際平和デーにピースウォークを企画したことがきっかけで、この後NLDが15年の総選挙に勝ち翌年政権を発足させたあとも、例えばロヒンギャ問題への対応などを巡って常にスー・チー率いる政権に対して批判的だった。

彼女だけでなく、若者たちが見てきたスー・チーは「民主化の女神」ではなく、政権奪取後、現実的に大きな影響力を残す国軍となんとか妥協点をみつけようともがくもその足かせによって失敗する、輝きを失ったあとの姿なのだ。(中略)

曖昧な地帯に暮らす流浪の民たち
(中略)ミャンマーには135の少数民族がいるとされる。この街に逃げ込んだ人々もまた多様で、元々その地域に多いカレン族やタイ人(タイ族)だけではなく、最大勢力のビルマ族、地図上は真逆のミャンマー西側に位置するラカイン州から逃げてきたロヒンギャ族など、田舎であるにも関わらず街を歩いて見かける人種の幅が非常に広い。それぞれ信じる宗教も違い、モスクと寺院と教会とが狭い街中にいくつも見られる。(中略)

「ミャンマー」は多数派ビルマ人の国
(中略)シュンレイ・イーと会ったのと偶然同じ店で、今度は学生時代にサフラン革命(2007年の僧侶を中心とした反政府デモ)に参加して以来政治運動を続ける活動家と会った。

(中略)武装勢力向けの印刷屋が本業だという彼の見方は過度に楽観的ではなく、むしろ逆にともすれば冷めたともいえるものだ。

「革命はもうそのもっとも熱い季節を終えてしまった」という彼は、多くの人がいつでも祖国に帰れるようにと1年更新のピンクカードを申請するところ、10年有効な無国籍証を取得して仲間から「お前はクーデターが10年も続くと思っているのか?」と呆れられたらしい。

いま彼自身が力を入れているのは、サッカー大会や映画上映などのイベント開催を通じたこの街で暮らすミャンマー人たちの交流促進・コミュニティづくりだ。

彼は「他のやつらはみんなずっと『これからの政治はどうあるべきか』みたいな肩肘張ったつまらないことしか言わないから」とシニカルにいうが、私がこれを聞いて思い出したのは、そもそもミャンマーであれ旧国名のビルマであれ(これらは一般的に同じ言葉の口語と文語の表現の違いとされる)、その国の名前すら「多数派民族であるビルマ人の国である」という意識で命名され、3割を占める少数民族はこれまで常に無視されてきたということだ。

だから事実「(民族として)ビルマ人」ではない少数民族は外国人に「あなたは何人ですか」と聞かれたら当然自民族の名前を言う。

連邦制を唱え少数民族を幹部に据えるNUGですら、ゴールであるはずの各民族が統合された先の国家にも、その国民にも、ふさわしい名前すらあたえることができていないのが現状だ。これは国軍の支配に勝てたとしても残り続ける、ミャンマーが抱える根本的な問題ではないか。

この街に潜む統計上は数万人の「ミャンマー人」たちも祖国にいるとき同様、普段はそれぞれの民族や宗教ごとのバラバラで小さなコミュニティの中で暮らす。

活動家の彼にとってイベントを通じてそれらを結びつける試みは、あるいはこの小さな街の中に、今は名前すら持たない未来の母国の雛形を創造する試みなのだろうか...そんなことを考えながら、私の短い滞在最後の夜は更けていった。【11月2日 Newsweek】
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ティンザー・シュンレイ・イー氏に関する日本語報道はほとんどありませんが、英語版ウィキペディアによれば、“彼女はビルマの密林に避難し、反乱軍に加わり、銃器の使用訓練を受けた。 殺したくないと悟った彼女は、1ヶ月の訓練を終えて反乱軍の訓練キャンプを離れ、2022年半ばにタイに避難した。”ということで、武力闘争を行っている反政府勢力とは一線を画しているようです。

そいう平和主義も欧米に“受けがいい”理由のひとつでしょう。それで今の現実を変えられるのか・・・欧米だけでなくミャンマーの人々にどれだけ受入れられるのか・・・という問題はありますが。そのあたり、また情報があれば取り上げたいと思います。

なお、“すっかり世界から忘れられたミャンマー内戦”と形容してはいますが、アメリカもまったく忘れた訳ではないようで、アメリカ財務省は10月31日、ミャンマーで石油や天然ガスを扱う国営企業に対し、実権を握る軍の最大の外貨の獲得源になっているとして、制裁を科すと発表しました。アメリカ国民がこの国営企業に対して投資や貸し付けなどの金融サービスを提供することを禁止するとしています。【11月1日 NHKより】
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ミャンマー  サイクロン被害救済活動を阻害する国軍 タイ、実質国軍支援ともなる外相級会議開催

2023-06-19 22:38:50 | ミャンマー

(サイクロンで損壊した建物=5月16日日、ミャンマー西部ラカイン州【5月16日 共同】)

【スー・チー氏歳誕生日で「フラワー・デモ」 次男は「国軍支援の日本に失望」】
国軍による強権支配が続くミャンマーでは抗議活動も厳しく禁じられていますが、拘束されているアウン・サン・スー・チー氏の誕生日ということで「フラワー・デモ」も行われたようです。

****独房のスー・チー氏が78歳誕生日、解放求め各地で「フラワー・デモ」…花の売り子拘束****
ミャンマーの政党「国民民主連盟(NLD)」のトップで民主化の象徴であるアウン・サン・スー・チー氏が19日、78歳の誕生日を迎えた。軍による拘束からの解放を求め、各地でスー・チー氏が愛用する花の髪飾りをつける「フラワー・デモ」が行われた。

ミャンマーの独立系メディア「キット・ティット」などによると、最大都市ヤンゴンなどで市民が花を髪に飾ったり、手に持ったりして、スー・チー氏の「一刻も早い解放」を訴えた。治安当局は花を販売した複数の売り子を拘束し、花を押収した。

スー・チー氏は2021年2月1日のクーデター時に国軍に拘束され、汚職など複数の罪で有罪判決を言い渡された。刑期は計33年に上り、首都ネピドーの刑務所で独房に収監されている。担当弁護士も面会を許されておらず、健康状態が懸念されている。【6月19日 読売】
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イギリス在住の次男キム氏は、日本が「国軍を支援している」と失望を表明しています。

****スーチー氏次男、日本を批判 母の誕生日前にメッセージ****
クーデターで全権を掌握したミャンマー軍政によって収監されている民主派指導者アウンサンスーチー氏の次男、キム・エアリス氏が18日までに、ビデオメッセージを公表した。母親の解放を求めると同時に、日本が国軍を支援していると批判した。19日はスーチー氏の78歳の誕生日。

キム・エアリス氏は英国在住で、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)を通じて約6分のメッセージを公開。「世界でも最も民主的であるはずの日本やインドが、国軍を支援している」と指摘し「失望している」と語った。【6月18日 共同】
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なお、スー・チー氏と長男のと関係は、以前から不仲が噂されています。
スー・チー氏が大統領になれなかったのは、憲法改正で「国籍条項」が入れられたためですが、息子たちに「英国籍を離れてよ」とは言えない彼女の身上を見透かした措置とも言われていました。
スー・チー氏本人も「成人した息子たちを説得するつもりはない」と漏らしていました。

スー・チー氏の人生は、親子関係よりミャンマー国民を選択したような面もありますので・・・
次男とは2010年に10年ぶりに再開して喜びを示すなど、関係は良好なようです。

日本の(支持はしないものの)ミャンマー国軍との関係も一定に継続するという、欧米とは一線を画した独自の外交が、既存のODA継続などで、結果的に国軍に資金が流入するなど国軍を支える形にもなっていることは、これまでも取り上げてきたところです。

国軍と民主派武装勢力及び少数民族との戦闘が続くミャンマー情勢に関しては、大きな変化は報じられていませんが、これまでに市民6300人超が殺害されたとの報告も。

****ミャンマー、市民殺害6300人超=民間報告、反軍派も3割関与か****
ノルウェーの民間研究機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)は13日、ミャンマーでクーデターが起きた2021年2月以降、6300人以上の市民が殺害されたとする報告書をまとめた。

3割超は国軍への抵抗勢力が関与したと指摘し、「全ての当事者は市民の保護に向けて対話を始めるべきだ」と訴えている。

報告書は、ミャンマー語メディアのニュースのほか、人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」や国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)が公表したデータなどを基に集計。21年2月から22年9月末までの間に政治的理由で殺害された市民は少なくとも6337人に上り、「国際機関の報告よりも大幅に多い」とした。【6月13日 時事】
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国軍幹部が拘束中のスー・チー氏に民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとの現地報道も。

****軍幹部、スーチー氏と面会か ミャンマー、協力要請****
ミャンマーの複数の地元メディアは14日までに、クーデターで全権を掌握した国軍の幹部らが、首都ネピドーの刑務所に収監されている国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と面会したと報じた。

国軍と民主派の衝突が続いている現状を説明し、民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとしている。

独立系のインターネットメディア「イラワジ」や独立系放送局「ミッジマ」などが関係者の話として伝えた。【6月14日 共同】
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【サイクロン被害救済を阻害する国軍 かつて2008年にも】
戦闘状況以外で気になるニュースが。
ミャンマーは5月にサイクロンが上陸して大きな被害が出ていますが、その救援活動を国軍が阻害しているとのこと。救援物資を渡す際に被災者から高額の輸送費を徴収しているとも。

かつて、民政復帰以前の国軍支配時の2008年にも、サイクロン「ナルギス」による大被害に対し、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否し、国際批判を浴びたことが思い出されます。

****ミャンマー サイクロン上陸から1カ月 国軍が救援ボランティアを禁止、物資輸送費徴収に非難殺到****
6月8日、ミャンマーの国軍は、サイクロンで被災した人々への救援を担うNGOやボランティアの活動をすべて禁止するとの通達を出した。

大型サイクロン「モカ」がミャンマー南西部のラカイン州を襲ったのは5月14日。雨に加え、風速50メートルを超える風に晒され、多くの家が屋根を飛ばされ、倒壊。ライフラインもストップした。被災した人々は約540万人にのぼり、そこには約300万人の貧困層が含まれているといわれる。

それから約1ヵ月。食糧や水の救援は遅れ、ライフラインの復旧も進まない。背景にあるのは、救援を担うはずの国軍の問題だった。

サイクロンが襲った直後から、国連や世界各国は緊急救援の声をあげた。物資はヤンゴンに届きはじめたが、それを被災した人々に渡すスタッフにラカイン州までの移動許可を与えるのを、国軍は渋っているからだ。

過去に似たような例も…
(中略)被災したラカイン州は、国軍と敵対する少数民族のラカイン族の軍隊、アラカン軍が広いエリアを支配している。国軍は主要な街を抑えているにすぎない。

国軍はその現状が知られることを怖れ、国際援助組織が活動することで、抵抗勢力が活気づくことを警戒しているといわれる。

国軍がクーデターを起こす前までの10年間、ミャンマーは民政化の時代だった。それ以前も軍事政権だったが、今回のサイクロンと同じようなことが起きている。2008年、ミャンマーをサイクロン「ナルギス」が襲った。この時、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否している。

既得権を守るために孤立の道を進むのはミャンマーの軍事政権の特徴といえる。民主派を武力で弾圧する構造のなかで多くの国民が命を落とす。そして経済は低迷し、人々は仕事を失い、世界の最貧国に沈んでいく。今回のクーデターを起こした国軍トップのミンアウンラインは、「我々は少ない友好国とやっていくことに慣れている」とまでいっている。

被災民に「輸送費」を徴収…
軍事政権のこうした振る舞いは災害時の援助すら拒ませ、国民は歯を食いしばって生き延びなくてはならない。今回もその状況が繰り返されている。

「いや、以前よりひどい」というのは、ラカイン州の州都、シットウェ近郊に住むRさん(64)だ。救援を担う国軍は、物資を被災民に渡すとき、ヤンゴンからの輸送費を徴収しているのだという。

「物資といっても、米と、家の修繕用のトタンだけ。米は麻袋ひとつ、約5キロほどで輸送費500チャット(約335円)、トタンは1枚5,000チャット(約3,350円)を払わなくてはならないんです。以前はここまでひどくはなかった。被災した人は家もなくテント暮らし。5,000チャットなんて金があるわけがない」

5,000チャットは、ラカイン州では1日の給料に相当する額。しかしライフラインが断たれたいま、仕事はない。救援物資だけが頼りなのだが……。

国軍に対抗するアラカン軍が支配するエリアでは、救援物資の配給はアラカン軍やNGO、ボランティアが担っているが、もちろん輸送費など徴収していない。迫害されているイスラム教徒のロヒンギャの村にも配られている。

今回の国軍が発したNGOやボランティアの活動禁止通達は、この援助を断ち切ることが目的といわれる。

“蚊が困っている人の陰部を刺す”
6月1日から3日の予定で、中国の仲介によって、国軍とアラカン軍、ミャンマー民族民主同盟軍、クアン民族解放軍の間での会議の場が設けられた。しかし翌日の2日に早々に決裂。その直後から、ミャンマー北部では国軍と少数民族の軍隊との戦闘が再燃し、いままで以上の激しさだという。 

今回のラカイン州での国軍の通達はこの動きと無縁ではないと現地の人たちはいう。
国軍に対し、アラカン軍は、「蚊が困っている人の陰部を刺す」というラカイン州の諺を引用して抗議している。

6月1日からミャンマーでは新学期がはじまった。国軍は子供たちに学校へ行くように指示を出したが、被災地では学校の屋根が飛んだり倒壊したりといった状態だ。それでも国軍は登校を強要する。

被災民は皆で食糧をもち寄り、水害をまぬかれた米を分け合ってしのいでいる。サイクロンがもたらした天災はいま、人災にすり替わりつつある。【6月19日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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【タイ 実質国軍支援の外相級会議開催 ミャンマー対応でASEAN内部に足並みの乱れ】
ASEANはこれまでミャンマー国軍の弾圧を改善させようと取り組んできましたが、ASEAN内部に国軍に対する温度差もあって、これまで効果的な対応が取れていません。・・・と言うか、国軍側のASEANとの合意を無視した対応に打つ手がなく傍観している状態。

そのASEANは人道支援を入り口に国軍との関与を深めようともしており、サイクロン「モカ」上陸の翌日、5月15日に「支援の用意がある」との声明を発表、その後2375万円相当の物資を空輸しています。

ただ、国軍の上記のような支援そのものに後ろ向きな姿勢からすると、「人道支援を入り口に・・・」というのも難しそうな印象です。

ASEANはミャンマー問題に関して、暴力の即時停止などを求めた「5項目合意」をミャンマーが履行していないため、首脳会議や閣僚会議にミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官や国軍が指名した閣僚など「政治代表」の出席を認めていません。

そうした状況で、タイがミャンマー問題に関する非公式外相級会議を開催、ミャンマーからも国軍が任命したタンスエ外相が出席しています。ASEAN加盟国ではラオス、カンボジア、ブルネイ、ベトナムが参加。インド・中国も参加しています。

しかし、国軍に批判的なインドネシア・マレーシア・シンガポールなどは参加せず、ASEAN内部の足並みの乱れも表面化しています。

****ミャンマー情勢めぐりタイ主導でASEAN諸国など非公式会合  一部の国は参加見送り****
2年前の軍事クーデター以降、市民への弾圧や虐殺が続くミャンマー情勢をめぐり、隣国・タイの外務省は19日、ミャンマー軍幹部を招いた東南アジア諸国などによる非公式の外相級会合を開催しています。

タイ外務省関係者によりますと、ミャンマー軍事政権とASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国などによる非公式の会合は、19日に観光都市・パタヤで始まりました。

カンボジアやラオスに加え、インド・中国など合わせて8か国が参加し、ミャンマー軍事政権からは新たに外相に任命されたタンスエ氏らが出席しているとみられます。

タイ外務省は18日に発表した声明で、「対話は平和的な解決策を模索する外交の基本的な要件」としたうえで、会合の目的は「ミャンマー情勢の解決に向けたASEANの取り組みを支援することだ」としています。

ただ、今年のASEAN議長国を務めるインドネシアをはじめ、一部の国は参加を見送っていて、ミャンマー軍事政権に融和的な姿勢を保つタイなどが主導する会合の意義について懐疑的な見方が広がっているとみられます。【6月19日 TBS NEWS DIG】
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外相が参加したのは、タイとミャンマー、ラオスとのこと。

参加国を見ると、かねてより国軍に宥和的なタイや中国の影響力が強いカンボジア・ラオス・・・ということで、実質的に国軍支援会議のような色彩も感じます。

タイは自国政権が軍事クーデターによって成立した経緯、軍部の影響力が極めて強い性格から、以前からミャンマー国軍には宥和的な姿勢を見せています。

タイのドーン外相はメディアに「タイは(ASEANの)他の国とは違い、ミャンマーと2400キロの国境を接している。危機が一刻も早く終わることを望む」と会合を呼びかけた理由を語っています。

中国は例によって利権拡大を目論み、ミャンマー国軍との関係を深めています。
しかし、そうした中国にミャンマー国民からは厳しい視線も。

****軍政に甘い中国にミャンマー国民が激怒...全土で抗議デモが勃発****
<民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ>

ミャンマー軍事政権と中国の接近に、ミャンマー国民の不満が渦巻いている。

タイを拠点にするミャンマー情報メディア・イラワジによれば、5月初めに中国の秦剛(チン・カン)外相がミャンマーを訪問した際に全土で抗議デモが勃発。「ファシスト犯罪者への支援をやめろ」といった横断幕が掲げられ、各地で中国国旗が燃やされた。

デモを主導した反政府勢力は、中国政府が軍事政権への支援を続けるのなら、国外でも反中国デモを展開すると語っている。

軍事クーデターが勃発した2021年2月からしばらくの間、中国は政権と一定の距離を保っていた。だが、やがてミャンマー経由でインド洋に至る鉄道網などの実利を優先して態度を変え、軍事政権への関与を深めてきた。

軍事政権が崩壊する兆しがない以上、中国の判断は合理的かもしれない。だがミャンマー国民の反中感情の高まりを考えると、民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ。【6月5日 Newsweek】
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一方、国軍に批判的なシンガポールの外相はワシントンでブリンケン米国務長官と会談し、民主派勢力への関与を確認しています。ただ、「改善の兆候が見られない」との見解も。

****米シンガポール外相会談、悲観的なミャンマー情勢認識を共有****
シンガポールのバラクリシュナン外相は、ミャンマーの政治情勢は2021年の軍事クーデター以来改善の兆候が見られないとの見解を示した。ワシントンでブリンケン米国務長官と会談した後に述べた。

シンガポールが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)はクーデター以降、ミャンマー軍政がハイレベル会合に出席するのを禁止している。

バラクリシュナン氏は記者会見で、情勢に進展がないことはミャンマー軍政高官とかかわる時期ではないことを意味するが、現在ASEAN議長国のインドネシアはミャンマーの「広範囲なステークホルダー」と接触していると述べ、クーデター反対派との協議に言及した。

その上で「最終的には全勢力が交渉の座に着く必要がある。どのくらい時間がかかるかは分からない。前回ミャンマーで一定の民主主義が実現するまで25年かかっている。そこまで長引かないよう望む」と述べたが、依然「悲観的」だと付け加えた。

一方、ブリンケン氏も同調し、米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援すると言明。「われわれ全員が軍政への適正な圧力をかけ続けるとともに、反対派の関与方法を模索していくことが重要」と述べた。【6月19日 ロイター】
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“米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援する”とは言うものの、すでにタイが別方向に走りだしており、ASEANがミャンマー国軍に対し、統一的・強力な対応をとることは無理なようです。
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