孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダンの「忘れられた紛争」 国内外への避難民は人口の20%、1000万人超

2024-08-01 23:09:46 | アフリカ

(チャドのスーダン難民は人道支援がなければ生きていけない【6月19日 国連WFP】)

【スーダンで続く「忘れられた紛争」】
2023年4月15日に始まったスーダンでの紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・は、パレスチナやウクライナでの戦争とは違って、それらの戦争に匹敵する犠牲者を出しながらもあまりメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」となっています。

「忘れられた」かどうかに関係なく、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

死者は推計で1万5千人にのぼるとされていますが、実際にはその10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。

メディア報道があまりないので詳細はわかりませんが、戦闘の方は相変わらず続いているようです。

****スーダン中部の村で虐殺か 準軍事組織が襲撃、「百人」死亡****
国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が続くアフリカ北東部スーダンの活動家団体は5日、中部ジャジーラ州の村をRSFが襲撃し、民間人を虐殺した疑いがあると発表した。2回の襲撃で約100人が殺害されたとしている。

RSFは声明で村周辺への攻撃を認めたものの、民間人殺害には触れなかった。

国軍とRSFの戦闘は昨年4月に始まり、1万5千人以上が死亡。停戦交渉は停滞し、収束の兆しは見えていない。ロイター通信によると、RSFは昨年12月に同州の州都ワドマダニを掌握後、州内で小さな村への襲撃を繰り返している。

団体はワドマダニを中心に活動する「ワドマダニ抵抗委員会」。【6月6日 共同】
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RSFは2000年代にスーダン西部ダルフールで、村々を焼き払い、人々を虐殺・強姦して「最悪の人道危機」と呼ばれる状況をもたらした民兵組織「ジャンジャウィード」が母体となっています。

RSFの集団殺害や略奪に対し、国軍は救援要請に応じなかったとも。【6月6日 時事より】

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、6月7日までに民間人への攻撃は1400件にのぼり、1万5550人が犠牲になったとのことです。

軍トップを狙った攻撃も報じられています。

****スーダン軍首脳暗殺未遂か 基地に攻撃、5人死亡 「即応支援部隊」と交戦中****
アフリカ・スーダンで準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との内戦を続ける国軍は31日、北東部の基地に無人機攻撃があり、5人が死亡したと発表した。

ロイター通信によると、基地では同日、軍トップのブルハン統治評議会議長が出席した式典が行われており、暗殺を狙った可能性がある。ブルハン氏は無事とみられる。

犯行声明は出ていない。RSF関係者はロイターに攻撃を否定した。停戦の仲介を目指す米政府は8月14日からスイスで開く協議に軍とRSFを招待しているが、激しい戦闘が続いており、双方が出席するかどうかは不透明だ。
AP通信によると、攻撃が行われたのは式典終了後だったという。

内戦は昨年4月に始まり、国内外の避難民は1000万人を超えた。国内では食料不足など深刻な人道危機も起きている。【7月31日 産経】
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上記記事によれば、一応今月14日からアメリカ主導の協議は予定されているようです。あまり期待はできないようですが。

【人口の20%に当たる1000万人以上が自宅を追われ国内外に避難】
こうした紛争が長期化するなかで、1万5千人、あるいはその10~15倍の犠牲者だけでなく、国内外に逃れた避難民は1千万人を超えています。

****内戦のスーダン、国民の20%が国内外に避難 食料危機も深刻化*****
国際移住機関(IOM)は16日、スーダンで昨年4月に内戦が始まって以来、人口の20%に当たる1000万人以上が自宅を追われたと明らかにした。世界最大の避難危機が悪化し続けている。

また、人口の半数が内戦で食料危機に直面し、人道支援が必要な状況で、その規模は世界最多だと指摘した。

内戦開始以来、220万人以上が国外に逃れ、約780万人が国内で避難している。このほか、過去の内戦で既に280万人が避難しているという。

国連の専門家らは、支援物資輸送が困難なダルフールを離れる最大の理由が暴力から食料危機に変わっていると指摘。

避難民の半数を占めるダルフールからの難民をチャドで訪問した世界保健機関(WHO)の担当者は「私が会った難民は全員、避難の理由に飢えを挙げた。アドレに到着したばかりの女性は、ダルフールで生産していた食料は全て戦闘員に奪われたと報告した」と述べた。【7月17日 ロイター】
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IOMによれば、避難民の半数は18歳未満の子どもとのことです。

【横行する性暴力】
こうした紛争につきものの性暴力も横行しています。

****スーダン内戦で性暴力横行 9歳から60歳の262人が被害 ヒューマン・ライツ・ウォッチが報告****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、内戦が続くアフリカ・スーダンで女性に対する性暴力が横行しているとする報告書をまとめました。被害者は9歳から60歳に及びます。

スーダンでは去年4月に、軍と準軍事組織「RSF」との戦闘が始まって以来、これまでに1万5000人以上が死亡し、人口の2割にあたる1000万人以上が避難を強いられています。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は29日、スーダンの医療従事者ら42人の証言をまとめた報告書を公表し、首都ハルツームなどでRSFによる性暴力が横行していると明かしました。

報告書によりますと、性暴力や集団暴行の被害者は9歳から60歳までの少女や女性たちで、戦闘が始まってから今年2月までの間で少なくとも262人にのぼります。

多くの女性が性暴力により深刻なけがを負っていて、少なくとも4人がけがが原因で亡くなったということです。

さらに、家族の前で繰り返し暴行された母子の被害や、性暴力により妊娠しても適切な医療処置が受けられず、人工妊娠中絶が叶わなかったケースなどが多数、報告されています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはRSFに申し立てを行ったものの適切な対応は取られなかったとしていて、「国際社会は、スーダンおよびスーダンからの難民を受け入れている近隣諸国への性暴力対策資金を増額すべきだ」と訴えています。【7月31日 TBS NEWS DIG】
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ノーベル平和賞を受賞したコンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師も指摘しているように、紛争においては「武器」としての性暴力が横行します。

****“戦場の武器”としての性暴力****
取材から浮かび上がってきたのは、個々の女性を痛めつけることに加えて、家庭を破壊し、地域社会を崩壊させる性暴力の卑劣さです。

武装グループは、性的な欲望を満たすこと以上に住民たちに恐怖を与え、屈服させるために女性たちを襲っています。銃や弾薬も使わずに、力を誇示する手段として、性暴力がまさに“戦場の武器”になっているのです。【NHK「“戦場の武器”性暴力の根絶を ノーベル平和賞で世界に訴え」】
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【チャドや南スーダンなど周辺国にも影響】
難民が周辺国に押し寄せることで、周辺国にもその影響が及びます。

****急速に深刻化する飢餓と物価高 スーダン周辺国の難民危機に対する取り組み****
チャド国境の町アドレの難民キャンプでは、祖国スーダンのポピュラーな民族音楽がスピーカーから繰り返し流れる中、アフマットさんが足踏みミシンに青い布を送り込んでいます。小さな木が、灼熱の太陽をかろうじて遮っています。

「このキャンプで私にできるのは仕立ての仕事だけです」曲に合わせて頭を揺らしながらこう話すのは35歳の縫製職人、アフマットさん(安全上の理由から名字は非公開)です。「持ち込まれた布をスーダンの民族衣装や、シャツ、ズボンに仕立てます」

アフマットさんが祖国を揺るがす紛争から逃れてチャドに避難したのは、この20年で2度目です。スーダンに平和が戻ることを願いつつも、当分は難しいのではないかとアフマットさんは考えています。
「私の子どもたちが学校に通えるよう、安定した国に住む必要があります」とアフマットさんは話します。

スーダン危機が長引く中、その影響は近隣諸国にも及んでいます。戦争により国外で暮らすことを余儀なくされた200万人を超えるスーダン避難民の半数以上が、チャドと南スーダンに住んでいますが、これらの国でも既に飢餓が深刻化しています。

この地域は8月まで雨季が続きます。道路がぬかるみ、人道支援物資の輸送が困難になるなど、食料不安のリスクが高まっています。

国連WFPは、拡大する食料不安に対応する中、非常に大きな課題に直面しています。例えばチャドでは、難民を含む200万人以上の人びとに、雨季の緊急支援を提供することを目指しています。しかし、資金が逼迫しており、特に南スーダンでは、最も深刻な飢餓の状態にある人への対応で精一杯の状況です。

国連WFPのチャド事務所代表のエンリコ・ポーシリは「リソースが限られている中、チャドで危機的状況にあるコミュニティー内で緊張が高まらないよう安定を維持するためには、適切な支援を遅滞なく広く届けることが非常に重要です。気候変動の打撃、安全保障、経済危機の影響が複合的に絡み合う中で、増大する人道ニーズを将来的に縮小していくためには、レジリエンスへの大規模な投資も必要です」と言います。

より大きな危機への食料支援
南スーダンではすでに約700万人が急性食料不安かそれ以上の深刻な飢餓の段階に直面しており、このうち70万人近くがスーダンから逃れてきた戦争避難民です。スーダンの東ダルフール州から避難してきたザハラさん一家のように、今も毎週何千人もの人が、飢えとトラウマを抱え、国境を越えて流入しています。

「3度目の空爆の後、避難しようと決めました」4児の母ザハラさんは、1歳2カ月の娘、ムーナちゃんを腕の中であやしながら言います。「国境にたどり着くまで2日かかりました。容器に入れた水と、子どもたちのためのビスケットを持って出ましたが、ようやく到着した時、子どもたちは本当にお腹をすかせていました」

それは幼いムーナちゃんにとって過酷な道のりでした。南スーダンの北西部にあるウェドウェイル難民居住地に着くと、ザハラさんはムーナちゃんを保健所に連れて行きました。そこでムーナちゃんは栄養不良と診断されました。

その後、国連WFPの栄養強化食品により体重が増え、再び遊べるようになりました。しかし、人があふれかえる難民キャンプでは、今後大雨となり、水系感染症が拡大する恐れがあります。

問題はそれだけではありません。スーダンでの戦闘で、南スーダンにとって非常に重要な石油の輸出が中断し、経済を大きく悪化させています。南スーダンポンドが60%急落し、食料や燃料の価格は高騰しています。

国連WFPの予測によると、同国の経済危機により、主食の入手が困難になり、さらに50万人の人びとが中程度から重度の飢餓に追い込まれる可能性があります。

「経済危機が起きる前は、子どもたちは1日2回食事ができていましたが、今は無理な状況です」首都ジュバでは、この町出身のメアリー・イケさんが、何か口にできるものを市場で買いながら、こう言います。「子どもたちは朝起きてから夜まで何も食べるものがありません。状況は悪くなるばかりです。子どもが6人いるので、食べさせるのも大変です」

2023年4月にスーダンの紛争が勃発して以来、国連WFPの南スーダン事務所はこれまでに国境を越えた戦争避難民55万7000人近くに支援を行い、現在も流入する人々の支援を続けています。しかし、多くの状況が重なっており、食料不安が最悪の状態に陥る危険性があります。

「南スーダンではすでに人道危機が長期化しており、状況は急速に悪化しています」国連WFPの南スーダン事務所代表のメアリー=エレン・マクグローティーは言います。「私たちが恐れているのは、スーダンの戦争による壊滅的な影響が続き、すでに急性食料不安の状態にある地域にさらに洪水の危機が迫り、飢餓と栄養不良がかつてない水準となることです」

さらに続けて、「深刻な飢餓と栄養不良の波を食い止めるためには、スーダンの停戦と南スーダンの社会的セーフティーネットの強化が必要です」と話しました。

難民が急増
チャドでも食料不安の危機が高まり、雨季が迫る中、事態はさらに悪化すると見られます。この時期、推定340万人のチャド人や難民が深刻な食料不安に直面すると予想され、気候変動の打撃、食料や燃料費の高騰、そして難民危機によって飢餓が深刻化しています。

この14カ月間に、およそ60万人のスーダン難民がこの乾燥したサヘル地域の国に流入し、既にアフリカで最も多くの難民を受け入れている国の一つであるチャドでは、亡命希望者の数が倍増しています。

そのほとんどは、難民によって形成されたチャド東部の39カ所の難民キャンプに住んでいます。縫製職人のアフマットさんのように、多くの人が飢えとトラウマの重荷を背負っています。

「スーダンでは非常に長い間、戦闘状態が続いています。2023年に勃発した戦闘は特に激しいものでした」と話すアフマットさんは、スーダンの西ダルフールの州都エル・ジェニーナ出身です。20年前、最初のダルフール紛争が勃発した時も、アフマットさんは10代でチャドに避難しました。

その後祖国に戻り、エル・ジェニーナで名を知られる仕立屋となりました。電動ミシンを数台、自家用車、そしてバイクを2台所有していました。ですが、攻撃ですべてを奪われ、工房も家も焼き払われました。

「ほとんどの人が家で襲われ、家財を盗まれました」とアフマットさんはエル・ジェニーナでともに暮らした人びとについて語ります。「チャドに向かう途中で多くの人が殺されました。道は多くの死体で覆い尽くされていました」

アフマットさんをはじめ、チャドに住む難民にとって人道支援は頼みの綱です。国連WFPなどの調査によると、多くの難民、そして受け入れ地域の住民が、食料消費レベルが低い、またはボーダーラインの水準にあります。子どもたちの半数近くが貧血に苦しんでいます。

「ここでの生活は楽ではありません」とアフマットさんは言います。
自分の子どもたち、そしてアフマットさんが仕事場にしている屋外の作業場の周りで遊んでいる子どもたちの将来を心配しています。
「私たちはアッラーの救いを待ち望んでいます」とアフマットさん。「いつか私たちの生活が改善する日が来ることを願います」【6月19日 国連WFP】
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ルワンダ  99%超の得票率で大統領選を勝利したカガメ氏は大虐殺復興の「英雄」か、「独裁者」か

2024-07-29 21:21:06 | アフリカ

(【7月14日 日経】)

【疑惑のベネズエラ・マドゥロ大統領の勝利 注目される今後の展開】
注目されていた南米・ベネズエラの大統領選挙は“予想通り”選挙管理委員会による“疑惑の結果発表”となっています。

****ベネズエラ大統領選、出口調査で野党有利も現職が勝利 周辺国が結果疑問視や抗議****
南米ベネズエラで行われた大統領選挙で、出口調査で野党の勝利が確実視されていたにもかかわらず、現職のマドゥロ大統領が勝利したことに対し、周辺国から懸念の声が上がっています。

ベネズエラで28日に行われた大統領選挙は、現職で反米左派のマドゥロ大統領(61)が得票率51%で勝利したと選挙管理委員会が発表しました。 事実上一騎打ちの相手だった野党のゴンサレス氏(74)は44%にとどまったということです。

一方、ベネズエラの調査会社が出した出口調査ではゴンザレス氏の得票率が65%で、マドゥロ氏は14%と予想されていました。

この選挙結果について周辺国の首脳らが相次いで懸念を示しています。

アメリカのブリンケン国務長官は29日、「国民の意思が反映されていないことを懸念している」と述べ、投票結果の詳細を公表するよう求めました。

また、チリのボリッチ大統領は「検証不可能な集計結果は認めない」と述べたほか、ペルーの外相は「ベネズエラ国民の意思の侵害を容認しない」と非難しています。

CNNによりますと、このほかアルゼンチンやグアテマラア、コスタリカなど複数の国の首脳が結果を疑問視する声を上げているということです。【7月29日 テレ朝news】
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もし、マドゥロ大統領が素直に負けを認めたら“サプライズ”でしたが、そういうサプライズは起きず、ここまでは予想された展開。

問題はここからどうなるのか?という話ですが、野党側の抗議行動、(政権側のコントロール下にあるとはされていますが)軍の反応、アメリカなどの関係国・周辺国の対応が注目されます。

【ジェノサイドを経験したアフリカ・ルワンダでは、復興の立役者カガメ大統領が99%超の得票率で勝利、4期目に】
一方、アフリカのルワンダでは7月15日に大統領選挙が行われ、現職カガメ大統領が99%以上の得票率で当選しています。

****カガメ氏勝利、4期目へ=ルワンダ大統領選****
アフリカ中部ルワンダで15日、大統領選の投票が行われ、16日時点の中間開票で現職カガメ氏(66)が99%以上を得票し、再選されることが確実となった。4期目となる。【7月17日 時事】 
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ルワンダでは1994年に起きた約100日間に及ぶ住民同士の凄惨なジェノサイドによって80万人が犠牲になったとされています。
以前から多数派フツと少数派ツチの対立はありましたが、それでもフツとツチは共存して暮らし、両者間の婚姻も普通に見られました。

しかし、1994年4月6日夜、フツ出身のジュベナール・ハビャリマナ大統領(当時)が乗った航空機が首都キガリ上空で撃墜されました。これをきっかけにフツ強硬派民兵組織などによるツチ大虐殺へとつながっていった・・・とされています。(このあたりの虐殺の実態については異論もあります)

****30年たった今も見つかる2千人の骨、殺りくをあおったラジオの教訓 80万人犠牲のルワンダ大虐殺、今も続く悲しみと希望****
今から30年前、アフリカ中央部の小国ルワンダで悲劇が起きた。この国で多数派を占める民族、フツ人主体の政府軍や民兵が1994年4月から7月までの約100日間で、少数派ツチ人と穏健派フツ人の殺りくを繰り広げたルワンダ大虐殺だ。

当時、権力を巡る争いなどが続いていたルワンダで惨劇の引き金となったのは、フツ人の大統領を乗せた航空機が何者かによって首都キガリで撃墜されたことだった。

国際社会の介入が遅れて被害は拡大し、犠牲者は約80万人に達した。(中略)

 ▽家の下に埋まっていた2千人
虐殺の追悼式典を前に訪れたルワンダ南部フエ。学校で子どもたちが打ち鳴らす太鼓の音色が心地よい丘陵地帯に、空き地がぽっかりと口を開けていた。殺りくの現場だったとは想像できないほど、周囲にはのどかな風景が広がる。そんな場所で虐殺の犠牲者の遺骨が見つかったのは、昨年10月のことだった。

遺骨を見つけたのは、住民に住宅の拡張工事を依頼された建設業者だった。バナナの木が生い茂る約50メートル四方の土地で作業を始めたところ、地中から人骨が出てきたのだ。

近隣住民によると、依頼主の女性は遺骨が埋まっていることを知っていたとみられ、口止めのために業者に金を支払おうとしたという。骨は女性の家の下からも見つかった。バナナの木は隠ぺい目的で植えられた可能性があり、地元警察は女性を含む複数人を逮捕した。女性の親族は虐殺への関与をほのめかしたという。

「言葉にならない。家族がここに埋められたかもしれない」
現場で出会った遺族は30年たってもなお生々しい虐殺の記憶に苦しんでいた。両親ときょうだい計8人の遺骨が見つからず、自らも九死に一生を得た生存者団体のメンバー、アリス・ニラバゲニさん(40)。現場の捜索作業などを統括し、この空き地で2060人の遺骨が発見されたと語った。

自身も捜索に加わったニラバゲニさん。「きっとこの中に家族がいるはず」と祈るような気持ちで掘り、土にまみれた骨を一つ一つ丁寧に洗った。だが身元の特定はほとんど進まず、家族の行方も分からないままだ。
全土で虐殺の嵐が吹き荒れていたとはいえ、なぜこの場所に2千人もの遺体が捨てられたのか。

ニラバゲニさんに問うと、「虐殺が起きた時、現場近くには民族を見分けるために検問所が設けられていた」と明かしてくれた。ツチ人を見つけ出すためにフツ人が作った検問所でツチ人が見とがめられて殺害されるたび、この場所に遺棄されたという。当時、ルワンダ国民の身分証には民族を記載する欄があり、たった1枚の紙切れが運命を分けた。

ニラバゲニさん自身は避難先のモスク(イスラム教礼拝所)に押し寄せた男らに暴行を加えられて気を失い、死んだと勘違いされ助かった。だが胸元に残る傷痕が今も生々しく惨劇を物語る。

一緒だった兄2人がなたで切りつけられて目の前で殺された光景が脳裏から離れず、話しながら嗚咽を漏らした。近隣にある大学で運転手をしていた父、優しかった母…安定した一家の幸せな生活は虐殺で破壊された。

近くにある地区の事務所に足を踏み入れると、薄暗い室内に整然と並ぶ大量の骨が目に飛び込んできた。子どもの骨もあり、鈍器で殴られて穴が開いたとみられる頭蓋骨が凶行を物語る。(中略)

虐殺後に就任したカガメ大統領はトップダウンで和解を推進し、加害者と被害者が同じ地区で暮らすことは珍しくない。30年の月日がたち、カガメ氏が追悼式典の演説で「75%近くの国民は35歳未満だ」と指摘したように、多くのルワンダ人にとって虐殺は直接の記憶ではなくなっている。

だが近年もルワンダ各地で遺骨が相次いで見つかり、当時の出来事が過去のものになったとは言えない状況が続く。

加害者についてどう思うかニラバゲニさんに尋ねると、遠くを見やって少し考えてからつぶやいた。「人間は時に動物のように見境がなくなる。彼らには自分がしたことを正直に話してほしい」(後略)【6月23日  47NEWS】
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国際社会にはこの虐殺を阻止できず傍観することになったことへの反省と悔恨があります。

虐殺開始から30年目となる今年4月7日に行われた式典で、カガメ大統領は「国際社会の蔑視もしくは臆病のため、われわれは皆見捨てられた」と国連など国際社会の対応を痛烈に批判しています。【4月8日 AFPより】

この虐殺の主体となったフツ系民兵組織を武力で一掃して実権を掌握したのが、当時ツチ系の反政府武装勢力を率いていたカガメ氏でした。

その後、カガメ氏は混乱の収束につとめ、ツチ・フツの和解、虐殺からの復興、崩壊した経済の立て直しをリードし、その指導力もあってルワンダは毎年7%ほどの成長を実現し、「アフリカの奇跡」とも称されています。

ただ、上記のような虐殺に関する「通説」とは異なる指摘もあります。
そもそもツチ・フツの緊張関係が高まったのは、カガメ氏率いるツチ系武装勢力による侵攻が起きてからであること、虐殺のきっかけとなったハビャリマナ大統領(当時)搭乗航空機撃墜はそのツチ系武装勢力によるものではなかったのかということ、虐殺はフツによるツチや一部フツに対してだけでなく、ツチ系武装勢力などツチによるフツ虐殺も多かったのではないかということ・・・等々、多くの疑問があります。

そのあたりの話には今回は立ち入りません。

【カガメ大統領 批判を許さず、政権存続のためには手段を選ばないという強権的・冷酷な一面も】
いずれにしても、虐殺を収束させ、復興をリードしてきたカガメ大統領が多くの国民から支持されているのは間違いないでしょうが、「99%超の得票率」と言われると、「そんなことってあり得るのか?」という疑問も。

従前よりカガメ大統領については、ルワンダを復興に導いた政策が大きな評価を得る一方、カガメ批判、政府批判を一切許さず、政権存続のためには手段を選ばないという強権的・冷酷な一面も指摘されています。5年前の下記記事でも・・・

*****大虐殺から25年、ルワンダに蔓延する「新たな恐怖」****
政敵の暗殺、ホームレス一掃…復興の立役者カガメ大統領の黒い噂

約80万人が犠牲になった「ルワンダ虐殺」から25年。復興政策を推し進め、目覚ましい経済発展に尽力したポール・カガメ大統領の手腕は国際的に高く評価されている。だが、その一方で政敵を次々と排除し、権力に固執する態度を危険視する向きもある。

「大虐殺」から「アフリカの奇跡」へ
1994年に起きた「ルワンダ虐殺」から今年で25年が過ぎた。(中略)悲しい歴史から四半世紀をへて、ルワンダは大きく変わった。アフリカのなかでは政情も安定しているほうで、2000年以降は平均7%の経済成長を続けている。この見事な復興は周辺国から「アフリカの奇跡」と称されている。

こうしたルワンダの「変貌」の立役者が2000年に大統領に就任したポール・カガメだ。
虐殺が起きた当時、反政府ゲリラ組織「ルワンダ愛国戦線 (RPF)」の幹部だったカガメは武力でルワンダ全土を制圧し、虐殺を終結させた。

1994年7月に新政権が発足すると、カガメは副大統領兼国防相に就任。身分証明書の民族名の記載を廃止したり、元兵士には民族に関係なく平等に社会復帰支援をしたりといった民族融和政策を積極的に推進した。

2000年には、20年以内に中所得国を目指す経済成長戦略「Vision2020」を掲げ、海外からの投資を積極的に呼び込んだ。近年は、アリババやファーウェイを誘致するなど、中国企業との結びつきを強めている。

貧困、医療、教育の改善にも力をいれるほか、女性の地位向上にも努める。ルワンダは女性議員の占める割合が64%と、世界で最も高い比率を誇る。

このようにルワンダを発展に導いたカガメの手腕は国際的に高く評価されているが、その一方で彼には常に黒い噂もつきまとう。

邪魔者は容赦なく排除
AP通信によれば、カガメは自身の支配体制を盤石のものにするため、厳しいメディア規制と言論統制を敷いているという。体制批判をしたメディアはただちにつぶされ、人権団体も市民グループも社会活動を自由におこなうことができない。

ルワンダを取材するイギリス人作家マイケル・ロングは、「ルワンダでは政権を批判する余地がまったくない。カガメの絶大な権力を受け入れるか、国を去るかのいずれだ」と話す。

ルワンダを美しい、理想的な国にするための強硬策は一般市民にも及んでいる。人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によれば、ルワンダではホームレスや屋台を営む人たち(多くが女性だ)が不当に逮捕され、密かに拘留されているという。

カガメは政敵も容赦なく排除する。民族融和を謳いながら、現政権の閣僚は彼と同じツチ系で固められている。

1998年にはカガメを痛烈に批判していた元内相のセス・センダションガが亡命先のナイロビで暗殺された。ルワンダ政府の仕業と見られているが、カガメはこれに対し「謝る気はない」とコメントしている。

2014年には対外情報機関の元トップで、数年前から南アフリカで亡命生活を送っていたパトリック・カレゲヤが、首都ヨハネスブルクのホテルで窒息死した状態で発見された。カガメは政府の関与を否定しているが、「祖国を裏切った者は報い受ける」と警告を発した。

2017年の大統領選でカガメは得票率98%で再選を果たし3期目に突入したが、その選挙の際には有力な対抗馬が投獄されている。カガメは「正当な手続きをしたまで」とコメントしたが、人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は、「国民の間にカガメに対する恐怖が蔓延している」と話す。

「罪悪感」で手を出せない西側
カガメのこうした独裁化を知りながらも、西側諸国は見て見ぬふりだ。その理由を、トルコメディア「TRTワールド」は、「西側にはルワンダの虐殺を止められなかった罪悪感があるからだ」と説明する。

当時、国連平和維持軍は国連憲章の制約を受けていたため、虐殺が起きてもただ傍観することしかできなかった。ソマリアの人道的介入で多数の死傷者を出したばかりのアメリカも、軍の派遣には消極的だった。

その結果、歴史的にも類のない規模の殺戮が起きた。罪の意識から、虐殺を制圧し、平和を復活させたカガメを西側は批判することができないというのだ。ルワンダ国民は政府の弾圧に対する恐怖から、声を上げることができない。上げたところで、カガメに変わる指導者がいるわけでもない。

当面、カガメの独裁化を阻むものはない。それどころか2015年に憲法が改正されたせいで、カガメは最長2034年まで大統領の座に君臨し続ける可能性がある。(後略)【2019年4月19日 クーリエ・ジャポン】
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そして5年後の今回も。

****ルワンダの大統領選「カガメ氏が4選」得票率は99%、無敵の大統領は英雄か独裁者か****
<虐殺を終わらせた現職のカガメ大統領が4選。経済成長の裏で民主的な投票ではあり得ない強権支配。ほかの候補者はたいてい失格、毎回、実質的に対抗馬はいない...>

ルワンダの大統領選が7月15日に行われ、現職のポール・カガメ大統領が4度目の当選を果たした。カガメの得票率は99%。対立相手のほとんどは立候補が認められず、事実上、不戦勝だった。

カガメは1994年、ツチ人主体の反政府組織「ルワンダ愛国戦線」を率いてフツ人の過激派に勝利し、ツチ人を中心に80万人以上が殺害されたジェノサイド(集団虐殺)を100日間で終結させた。

その後まもなく副大統領に就任し、2000年、前任者の辞任に伴い、議会によって大統領に選出された。

以来、カガメは選挙で連勝している。前回の17年の大統領選でも得票率は約99%で、これは民主的な投票ではあり得ないとの指摘もある。カガメを声高に批判する候補者はさまざまな理由でたいてい失格となるため、毎回、実質的に対抗馬はいない。

今回の選挙では、緑の党のフランク・ハビネザ党首と、元ジャーナリストで無所属のフィリップ・ンパイマナの2人が立候補を認められたが(両者は前回選挙にも出馬)、政治アナリストによれば、彼らには勝利するための資金と選挙運動手段がない。

ルワンダ国民にとってカガメは、民族分裂を終わらせたビジョナリーであり、独裁者だ。多くの国民は、電気、舗装道路といった重要な公共サービスへのアクセスが拡大するなど、カガメの下で実現した経済変革を称賛している。

カガメは汚職に関与した閣僚を罷免し、結果を出さない者には責任を追及してきた。国際団体トランスペアレンシー・インターナショナルによると、ルワンダはアフリカで最も汚職の少ない国の1つだ。

国民は権威主義を受け入れ、不安定さよりも効率性を求めていると専門家らはみている。ルワンダには報道の自由がなく、人権団体や反政府活動家は、カガメが国外で反体制派の暗殺を組織していると非難する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、17年の大統領選以降、少なくとも野党議員5人と反体制派やジャーナリスト4人が死亡、あるいは行方不明になっている。

援助が「テロの輸出」に
他国からの多額の援助にもかかわらず、ルワンダは依然として貧しく、マリやニジェールのような紛争に直面しているサハラ南縁諸国と同レベルだ。

国家予算の40%以上を援助に頼っており、外国援助の少なくとも一部は、近隣諸国への「テロの輸出」に使われているとも指摘されている。

コンゴ(旧ザイール)のフェリックス・チセケディ大統領は、ルワンダはコンゴに逃れた大量虐殺の加害者を捕らえることを口実に、民間人を虐殺し、コンゴの鉱物資源を略奪していると非難している。

アメリカと国連は、ルワンダがコンゴ東部の反政府勢力「M23」を支援していると主張している。国連の専門家による最新の報告書によると、M23を支援するルワンダ兵は3000〜4000人に上る。

安全保障の専門家が懸念するのは、ルワンダとコンゴ間の戦争と、「カガメ後」だ。ルワンダ政府は15年に憲法を改正し、カガメが最長で2034年まで大統領にとどまることを可能にした。

彼の下で民主主義制度が完全に損なわれていることを考えると、ポスト・カガメの時代は不安定さが増す恐れがある。【7月29日 Newsweek】
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おそらくカガメ批判をする候補の出馬を認めても、これまでの実績を考えればカガメ大統領が勝利すると思いますが、なぜそこまで批判封じ込めに走るのか・・・強権支配者の心理は理解しがたいところがあります。

“カガメ大統領は『日本経済新聞』記者による取材に対して「完璧な指導者などいない」「ルワンダにふさわしい統治をしている」と語り、強権的との批判は「気にしない」と述べている。”【ウィキペディア】
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ケニア  財政難対策の増税案で議会突入、死者20人超の混乱 マイクロファイナンスの問題も

2024-07-02 22:39:03 | アフリカ

(ケニア・ナイロビで、増税案に抗議して警察と対峙(たいじ)するデモ参加者(2024年6月25日撮影)【6月26日 AFP】)

【財政難対策の増税案で混乱】
東アフリカのケニアは民主主義政治においても、経済成長においても、“アフリカの優等生”と評されるような順調な状況にありましたが、その評価に綻びが生じたのが2007年の大統領選挙結果をめぐる暴動でした。

不正疑惑を感じさせる集計結果を受けて、候補者の出身部族の対立が絡んだ暴動に発展、1100人を超える死者を出す混乱となりました。

その後も、2017年8月の大統領選挙結果を最高裁が無効にし、やり直し選挙では野党候補がボイコットするなど混乱が続いています。

現大統領のルト氏は2022年選挙で当選しましたが、こときも野党対立候補は、選管委員の半数が疑義を呈しているなどとして、委員長が発表した選挙結果の受け入れを拒否しました。

このように政治的には不安定な面を抱えています。

経済的には、独立以来、資本主義体制を堅持し、東アフリカでは最も経済の発達した国とされています。工業化は他のアフリカ諸国と比べると進んでいる方で、特に製造業の発展が著しいとも。【ウィキペディアより】
2015年には中所得国入りを果たしています。

ただ、コロナの影響も受け、財政赤字額は依然として高いレベルにあり、公的債務の対GDP比は拡大し続けているという問題も。

****ケニア、全方位外交で債務不履行回避 経済・安保の要衝****
ケニアのルト大統領は日本経済新聞のインタビューで「デフォルト(債務不履行)はありえない」と強調した。

積極的な外交活動で知られるルト氏は財政面で依存度の高い中国だけでなく、西側諸国とも関係を構築する「全方位外交」でデフォルトを回避する狙い。ケニアは安全保障上の要衝で、西側諸国も不安定化を避けたい考えだ。

ケニアを巡ってはかねてデフォルトリスクがささやかれていた。国際通貨基金(IMF)は2020年、同国の債務リスクを「高い」に分類した。

ケニア国家統計局によると同国の公的債務は22年に約8兆ケニアシリング(7兆円超)。18年の2倍弱に膨らんだ。国内総生産(GDP)に占める比率は7割に上る。前政権下でのインフラ整備や、新型コロナウイルス禍での経済対策が財政を圧迫している。

高水準にあるエネルギー価格や通貨安、対外債務の増加などにより、足元では多くの新興国でデフォルトのリスクが高まっている。ルト氏は「私たちは他のすべての国と同じような場所にいる」と述べ、財政危機がケニアだけの問題ではないと訴えた。

懸念されているのが中国依存の高さだ。統計局によると、ケニアの2国間債務に占める中国の割合は22年に73%に上る。

首都ナイロビと東アフリカ最大規模の港湾都市モンバサをつなぐ鉄道が象徴的だ。中国から数十億ドルの融資を受けて建設したものの想定ほど利用が伸びなかった。過剰な債務を負わせてインフラの使用権を中国が握る「債務のワナ」だとの指摘が出ている。

1月には中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟を閣議決定した。日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐藤丈治ナイロビ事務所長は「デフォルトリスクが意識され資金調達の手段が狭まる中、中国は最後の頼りどころになってしまった」と分析する。

危機感もにじむ。ルト氏は「1つの借入先に依存するのは良くない」と強調する。「資金調達の手段を多様化する必要がある」と繰り返し、様々な国と関係を築く「全方位外交」で財政の立て直しを図る姿勢を示した。

実際にルト氏は22年9月の就任以降、欧米を中心に積極的な外交を展開してきた。ジェトロによると、外遊はこれまでに約50回に上るという。ルト氏は「IMFや世界銀行と素晴らしい関係を築いている」とも語る。

今回の訪日もこうした外交活動の一環だ。滞在中には岸田文雄首相と会談し、円建て債券「サムライ債」に関する覚書を交わした。

IMFによると、23年の実質GDP成長率は5%と比較的高水準にある。農業や観光が回復し前の年より0.2ポイント上昇した。

西側諸国にとってもケニアと中国の接近は避けたいものとみられる。

ルト氏自身が「私たちは多くの国と素晴らしい関係にある」という通り、アフリカの中では比較的民主的なケニアはもともと西側とのつながりが深く、企業のアフリカ進出の足がかりになってきた。欧州やアジアからのアクセスがいいモンバサ港を有すことから「東アフリカの玄関口」とも称され、安全保障上の重要性も高い。

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進する日本もインド太平洋とアフリカをつなぐ場所あるケニアを重要なパートナーと位置づける。今回の首脳会談で日本とケニアは防衛協力でも合意した。

ケニア情勢に詳しい京都大大学院の高橋基樹教授(アフリカ経済・開発援助)は「イエメンの親イラン武装組織フーシによる紅海での商船攻撃やスーダンの内戦など周辺の情勢が不安定になる中、ケニアの安保上の重要性はさらに増している」と指摘する。【2月11日 日経】
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財政問題に加えて、他国同様に物価高(前年比5%超)も進行しています。

上記のような厳しい財政事情を受けて、ルト大統領は増税案を発表しましたが、これが生活に苦しむ国民の怒りに火をつけました。

****ケニアでデモ隊が議会に突入、10人死亡か 火災発生で議員避難****
ケニアの首都ナイロビで25日、新たな税金を導入する法案に反対する数千人規模のデモ隊が議会に突入し、治安部隊と衝突した。

AP通信などによると、治安部隊は実弾を発砲し、これまでに少なくとも10人が死亡、50人が負傷したとの情報がある。議会の建物は一部で火災が起き、中にいた議員はトンネルを通じて避難したという。

英BBCなどによると、法案は日用品に新たに課税する内容で、当初はパンに16%、料理油に25%――などの税金を課す計画だった。生理用品や子供用のおむつなども値上がりが見込まれており、反発が強まっていた。

抗議デモを受け、議会は25日、パンへの課税を削除した法案を可決したが、デモはおさまっていない。施行にはルト大統領の署名が必要だという。

デモに参加した男性はロイター通信に対し「議会を閉鎖し、議員は全員、辞職するよう求める。新たな政府を樹立すべきだ」と話した。【6月25日 毎日】
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更に混乱は拡大。

****ケニアのデモ、死者23人に 国会突入、治安部隊発砲****
ケニアの首都ナイロビなどで25日に起きた反増税デモで、地元医師会は26日、治安部隊の発砲による死者が少なくとも23人に上り、約30人が負傷したと明らかにした。ロイター通信が報じた。ケニアでは市民が物価高騰にあえぎ、財政改善を目的とする政府の増税策に対する抗議活動が各地に広がった。

ナイロビでは暴徒化した若者が封鎖を突破して国会に突入。敷地内の建物が燃えて議員らが避難を余儀なくされた。抗議活動は、ルト大統領の地盤を含む大半の自治体で起きた。

アフリカでは比較的政情が安定しているケニアでの国会突入は異例。米国を始めとする各国が相次いで懸念を表明した。【6月26日 共同】
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混乱を受けて、ルト大統領は増税案を撤回することを明らかにしています。

****ケニア大統領、抗議拡大で増税法案撤回へ****
ケニアのルト大統領は26日、全国的な抗議活動の拡大を受け、議会で可決された増税法案に署名しないと明らかにした。法案は撤回される見通し。【6月26日 共同】
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ルト大統領が増税法案を撤回した後も混乱はおさまらず、27日も首都ナイロビ近郊ではデモ隊と警察との衝突で少なくとも2人が死亡したほか、ケニア西部ホマベイでは警察がデモ隊に発砲する事態となっています。

その後は混乱のニュースは目にしていませんので、それなりにおさまってきているのでしょう。

【生活苦の若者らを更に追い込むマイクロファイナンスの実態】
この混乱の背景にある若者らの生活苦を、銀行ローンを使えないような貧困層向けの無担保小口融資“マイクロファイナンス”という別視点からとらえたのが下記記事。

****ケニアで若者の怒りが爆発 反増税デモの背景「マイクロファイナンスの闇」とは?****
<貧困層に公正な「成功の機会」を与えるはずのマイクロファイナンスが、民間業者によって短期・高金利の「略奪的な貸し付け」に。若者たちの首を絞めている──>

経済不安に揺れるケニアで6月25日、増税を含む財政法案に抗議して数千人のデモ隊が議会を襲撃。ウィリアム・ルト大統領は法案を撤回した。

しかし、今回の騒動の根本的な原因は、しばらく前からくすぶっていた。ケニアの若者は、自分たちに不利な経済的・金融的インフラの中で生きていくのに必死なのだ。

その顕著な例が、貧困層向けの小口融資であるマイクロファイナンスだ。

ケニア南部の海岸の町ウクンダでは、安定した仕事はなかなか望めない。29歳で独身のサミュエルはボダボダ(バイクタクシー)で勝負しようと決めた。

4カ月をかけて資金をため、2022年7月に中国製バイクを購入した。1058ドルのうち10%の頭金を払い、残りはフィンテック(IT技術を使った金融サービス)業者でローンを組んだ。手数料が170ドル。12カ月払いで月利4%、年利にすると48%。利息だけで450ドルを超えた。

ボダボダの運転手の収入は1日4~8ドル。1年間、休みなしで働いた。週29ドルの返済に加えて、家賃、食費、電話代、ガソリン代、さらには家族への仕送り。何とか食いつないでローンを完済し、バイクは自分のものになった。

サミュエルのように幸運な人は決して多くない。34歳で3児の父のジュマは、23年2月にサミュエルと同じフィンテック業者と契約して同じ種類のバイクを購入した。

生活費がかかるジュマは、月利6.6%、年利79.2%の18カ月ローンを組まざるを得なかった。返済総額はバイクの価格の2倍近くになる。家計が重くのしかかり、すぐに返済が滞りそうになった。

ケニアでは近年、民間業者のマイクロファイナンスが普及しており、貧困者の多くが似たような苦境に直面している。

若者の失業率は67%と高く、このような融資は、生活費を稼ぐために小規模ビジネスに参入する際の、簡単だがリスクの高い手法になっている。

そして、略奪的な貸し付けを含む金融システムに対する不満が、生活費の高騰で大きな打撃を受けている若者をデモへと駆り立てた。

経済の安定を目指すグローバルサウス全域に、こうした融資の罠が張り巡らされている。マイクロファイナンスの慣行は、かつて多くの慈善家や投資家が期待したように個人に力を与えるどころか、略奪的になっていった。

略奪される社会の弱者
1990年代にマイクロファイナンスが広まり始めた当初は、少額を低金利で貸し出す仕組みだった。しかし近年は、広く利用できるマイクロクレジットの大半が、民間のフィンテック業者による短期で高金利の融資だ。

経済的に安定していない個人に融資することで負うリスクにより、貸し手は高い金利を正当化できると主張する。だが、借り手は莫大な利息が上積みされ、返済が追い付かずに破綻してもローンが残る。

これは必然的な結果ではない。ケニア政府も国際社会も、略奪的な貸し付けを取り締まる手段を持っている。適切な政策によって、マイクロファイナンスの本来の目的どおり、公正な成功の機会を与えられれば経済発展の原動力になり得る人々を保護できるはずだ。

グローバルサウスでは多くの民間のマイクロファイナンスが、イタリアの経済学者リサ・クロサトとルチア・ダッラ・ペッレグリナの言う「理不尽な高利貸し」になっている。「高利貸し契約の本質を知らない借り手に、過大な金利を課している」のだ。

ただし、ケニアの貧困者が契約の結末を理解しているとしても、選択肢はほとんどない。全額を前払いすることは不可能だ。

また、ケニアは近隣諸国に比べて金融セクターが発展しているとはいえ、多くの人にとって銀行融資は手が届かない。銀行口座を持っているのは全成人の半数、クレジットカード保有者は6%、デビットカード保有者は22%、住宅ローンを組めるのはわずか11%だ(いずれも推定)。

略奪的な融資に対し、ケニア政府が辛うじて手綱を締めたと言えるのは、22年3月にデジタル融資市場の規制を強化する新しい法律を可決したことだ。業界はケニア中央銀行の管轄下に置かれ、デジタル金融業者とその商品の認可と登録を標準化する枠組みが導入された。

正しい方向に一歩進んだのは確かだが、この法律には金利や手数料の規制がなく、略奪的なデジタル融資の抑制にはつながらなかった。高利貸しの具体的な防止策を導入できなかったのは、個人だけでなく国の中長期的成長と安定にとっても問題だ。

略奪的貸し付けの影響は懐具合を超えて、広範に及ぶ。最低限の生活もままならない状況に借り手を閉じ込め、ひいては教育、結婚、子育ての機会や健康を奪いかねない。

さらにケニア中央銀行は昨年12月、一部の金融業者が新法の抜け穴を悪用し、適切な監督を受けずに無許可で営業していると述べた。そうした業者の中には、バイク用ローンや資産担保融資を提供する大手5社も含まれていた。
民間に代わって融資を行おうと、政府も努力している。

ルトは22年の大統領選で、野心はあるが仕事に恵まれない若者を支援すると公約。大統領に就任すると速やかに、経済を底辺から刺激するという触れ込みで「ハスラー・ファンド」を設立した。今後5年間で約3億8700万ドルを個人や中小企業の経営者に融資するプログラムだ。

ルトの取り組みを一部のアナリストは高く評価し、民間業者は金利の引き下げを迫られるはずだと予想する。一方で若者層にはメリットが少なく、経済刺激策としての効果は限定的だとする声もある。

取り組みがケニア経済に与える影響はまだ見えない。だが返済期間が短く、対象が正式に登録された事業に限られるなどの制約があるため、若者にとってハスラーの小規模事業者向けローンは民間業者の代わりにはなりにくい。

公式サイトによれば、ハスラーの融資実績は約5万4000件の事業に総額およそ138万ドルと伸び悩んでいる。利用者の大半が選ぶのは個人向け融資で、こちらは約4億800万ドルをおよそ2300万人に貸し、借り手は急な出費や生活費に役立てている。

バイクタクシー業を営むサミュエルとジュマにとって、ハスラーの小規模事業者向け融資は選択肢になかった。彼らは多くのケニア人と同様に、金利は格段に高いが返済期間の長い民間業者を利用した。

2人が金を借りたフィンテック企業ワトゥ・クレジットは2015年の創業で、ウェブサイトにはアフリカ7カ国で「融資実績150万件以上」の文字が躍る。ワトゥも、同じくバイク用ローンを提供するモゴも、融資の条件は似たり寄ったりだ。

どちらもケニア中央銀行に名指しで無許可営業を批判された大手。借り手に無理のない借り入れを促すツールやトレーニングを提供しているが、効果の程は不明だ。

求められるのは法整備
マイクロファイナンスには人々に本物のチャンスを与える力がある。金融セクターが未発達のグローバルサウスで個人事業主をサポートするのがマイクロファイナンスのコンセプトであり、政策次第では経済成長の原動力になる。

政府と国際社会は略奪的貸し付けで身動きが取れなくなった人々を保護するために、規制を設ける必要がある。
国内法が功を奏した例もある。アメリカでは45の州と首都ワシントンが反略奪的貸し付け法を導入し、金利に上限を定めた。

国際レベルでは民間の融資が開発目標を損なうのを防ぐため、世界銀行や米国際開発金融公社(DFC)がもっと積極的に動くべきだ。

例えば世界銀行グループの国際金融公社(IFC)はマイクロファイナンスに数十億ドルを拠出してきた。出資先はハイリスクなプロジェクトを支えるマイクロファイナンスだが、そうしたサービスが悪質な融資を行っていないかどうかの確認には一層の努力が求められる。

高利貸しを取り締まる法律は、経済をより持続可能な形で成長させ、より公正で安定した社会を実現するために必要な保護をケニアに与える。

法整備が整わない限り、サミュエルやジュマのような若者は苦境から抜け出せない。彼らは金融業者、つまりは市場に運命を委ねた。政府や国際機関、銀行はそうした人々の信頼にそろそろ行動で応えるベきだろう。
必要なのは貧困層への増税ではなく市民の成功を後押しする公正な環境づくりだ。【7月2日 Newsweek】
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本来、マイクロファイナンスはバングラデシュのユヌス氏(ノーベル賞受賞)がグラミン銀行として広めた取組です。「施しは貧困の解決にはならない」とする同氏は、農村の主婦などに牛を飼ったり、小売り店舗を営む少額資金を貸付けて起業をうながすことで貧困からの脱出を支援しました。

単に貸すだけでなく、経営観念を教え、確実な返済を促し、そのためには連帯責任制度も。

ユヌシ氏のような明確な目的意識がある指導者や組織が行っている状況では、貧困からの脱出手段として機能するマイクロファイナンスですが、仕組みが拡散するなかで、ケニアのような単なる貧困層向けの「理不尽な高利貸し」と化す危険も。

この問題は、以前から、各地で見られる現象で、2012年3月19日ブログ“アフガニスタン 米兵住民殺害事件による情勢流動化 女性教育とマイクロファイナンス”でも取り上げました。

ユヌス氏とは政治的対立もあったバングラデシュのハシナ首相はマイクロファイナンスを「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」と批判しています。 活かすも殺すも運用・管理次第でしょう。
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南アフリカ 与党過半数を失い白人政党と連立 グローバルサウス外交にも変化が

2024-06-16 23:10:03 | アフリカ

(南アフリカ大統領に再任されて笑顔を見せるシリル・ラマポーザ氏(14日、ケープタウン)【6月15日 BBC】 

【グローバルサウス 大国による紛争を批判 したたかな天秤外交も】
****したたかなグローバルサウスの外交 覇権争い続ける米・中・露に落胆 対立を逆手にとった天秤外交も****
今日、ウクライナや中東では戦争が続き、台湾では依然として軍事的な潜在的脅威が漂っている。しかし、それらをよく見ると、どれでも大国が絡んでいる。

ウクライナではロシアが戦争の当事者となり、米国などがウクライナを背後で支援している。中東ではイスラエルによるガザ地区への容赦のない攻撃が続き、米国はネタニヤフ政権に不満を募らせながらもイスラエル支持に立場を維持している。台湾では米中が紛争の当事者となる可能性が非常に高い。

こういった状況に、ASEANやインド、アフリカや中南米などグローバルサウスの国々はどう感じているのだろうか。

グローバサウスは、本来世界のあらゆる問題でリーダーシップを発揮すべき大国が争い合い、むしろ途上国の経済成長の阻害要因になっていることに強い不満を抱いている。

そういった声は相次いで聞かれる。たとえば、最近シンガポールで開催されたアジア安全保障会議、通称シャングリラ・ダイアローグの席で、インドネシア次期大統領であるプラボウォ国防相は、米中対立など地政学的な緊張の高まりにグローバルサウスは幻滅しており、大国は人類の共通の利益のために責任を持って行動するべきだとの認識を示した。

プラボウォ国防相は昨年の同会議でも、米中対立を皮肉交じりに新冷戦と呼び、大国間対立の激化に強い警戒感を滲ませ、フィリピンのガルベス国防相も昨年のシャングリラ・ダイアローグで同様の見解を示した。

東南アジアの国々だけではない。グローバルサウスの盟主を自認するインドのモディ首相は2022年9月、ウズベキスタンで開催された上海協力機構の会議に合わせてプーチン大統領と会談し、今は戦争する時代ではないとウクライナ侵攻を明確に否定した。

インドは伝統的に全方位外交を展開し、どの陣営とも癒着しない非同盟主義を貫くが、モディ政権もクアッドで日米豪との関係を重視する一方、エネルギー分野などではロシアとの関係を維持している。これも大国間競争とは一線を画す、それに不満を覚えるインドの現状と言えるだろう・

また、ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年9月、国連総会の一般教書演説で講演し、諸外国が対ロシアで一致団結する重要性を示したが、グローバルサウスの国々の外交官たちの欠席、空席が目立った。

一昨年、ゼレンスキー大統領はビデオ演説だったが、その時は外交官たちの間でスタンディングオベーションが起きたことから、この1年で“ウクライナ熱”が大きく冷え込んだことが考えられる。

グローバルサウスが大国の争いに強い不満を抱いていることは確かだが、反対にそれを巧みに利用し、実利を得ようとする思惑も見え隠れする。

今日、米中は如何にグローバルサウスを自らの陣営に引き込むかで競争を展開しているが、グローバルサウスからするとそれを天秤にかけることができる。

要は、中国に接近する姿勢を米国に示すことで米国から譲歩や支援を獲得し、反対に米国に接近する姿勢を中国に見せることで見返りを得ようという行動が可能だ。今後、こういった天秤外交を強化するケースがグローバルサウスの中から増えてくる可能性がある。【6月16日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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【南ア アパルトヘイト廃止以来国政を担ってきた与党が過半数を失い白人政党と連立】
インドなどとともにグローバルサウスのリーダー国を自認してきた国の一つが南アフリカですが、大きな帰路に立っています。

故マンデラ元大統領の指導でアパルトヘイトを克服し、以来、国民の圧倒的信頼を受けて南アフリカ政治を牽引してきた与党「アフリカ民族会議」(ANC)は、汚職・腐敗、失業、電力不足、治安悪化といった問題を解決できず、その偉大な政治遺産を次第に食いつぶし、5月29日に行われた総選挙ではついに過半数を失いました。

****南ア大統領、主要政党に協力呼びかけ 与党過半数割れで連立協議念頭*****
南アフリカのラマポーザ大統領は、下院総選挙で与党「アフリカ民族会議」(ANC)の過半数議席割れが2日に確定したことを受け、連立協議を念頭に主要政党へ向けて積極的な協力を呼びかけた。

最終的な開票結果によると、ANCの得票率は前回2019年選挙時の57.5%から40.2%に低下し、それに伴って議席数は下院定数400のうち159と、従来の230を大きく減らして過半数に届かなくなる。かつて故マンデラ元大統領に率いられて30年にわたって政権を担ってきた同党としては、最悪の結果となった。

背景には高い失業率や大きな格差、頻発する停電などを巡る国民の怒りや不満があるとみられている。

ANCは第1党の座を維持したものの、政権継続のためには連立相手を探す必要がある。こうした中でラマポーザ氏は「南ア国民は彼らが投票した各政党に対して共通項を見つけ出し、意見の違いを克服して、国民全員のためになるよう協調することを期待している。それが国民の声だ。今こそ政治家全てが国家を第一に考える時だ」と発言した。

選挙結果を踏まえてANCの指導部は4日に会合を開き、今後の基本方針を決める見通し。

外部でラマポーザ氏退任の観測も出ているが、ANC幹部や支持母体の労組は同氏の続投を支持する姿勢を示している。

一方、第2党で白人主体の「民主同盟」(DA)のジョン・スティーンハイセン党首は、他党と政権協議を行うための専門チームを発足させたと明らかにした。

企業や海外投資家らは、ANCとDAの連立政権がより好ましいとの見方をしている。ANCを離脱したズマ前大統領が率いる「民族の槍」(MK)や、急進的な「経済開放の闘士」(EEF)が連立に加われば、政治や経済の混乱が懸念されるためだ。【6月3日 ロイター】
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結局、第2党で白人主体の「民主同盟」(DA)との連立によるラマポーザ大統領続投が決まりました。

*****ラマポーザ大統領が続投、連立政権樹立で合意 南アフリカ*****
南アフリカで5月29日に行われた総選挙で、30年前のアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃以来初めて過半数議席を失った与党「アフリカ民族会議(ANC)」が、野党との連立で合意した。それに伴い、14日の議会投票で、ANCを率いる現職のシリル・ラマポーザ大統領の再任が決まった。

ANCは、第2党となった中道右派「民主同盟(DA)」や複数の小規模政党と連立を組む。

ラマポーザ大統領は勝利演説で、新しい連立政権の誕生を称え、有権者は各指導者が「我が国のすべての人々のために行動し、連携する」ことを期待していると述べた。

先月末の総選挙で、ANCは30年ぶりに議会の過半数を失った。得票率はANCが40%、続いてDAが22%だった。この数週間、ANCがどこと連立を組むのか憶測を呼んでいた。
ANCのフィキレ・ムバルラ幹事長は、連立合意は「注目すべき一歩」だと述べた。

連立政権の樹立によって、2018年の激しい権力闘争の末にジェイコブ・ズマ氏に代わり大統領とANCトップに就任したラマポーザ氏は、権力を維持できることとなった。
ラマポーザ氏は今後、DAのメンバーを含め、閣僚ポストの割り当てを決定する。

複数政党の連立合意には、ANCを離党したメンバーが立ち上げた2政党は参加していない。有権者が求める経済改革を連立政権が実現できなかった場合は、こうした政党への支持が増える見通し。ただ、多くの国民は今回の前例のない大連立が成功することを望んでいると、世論調査は示している。(中略)

前例のない連立
数十年にわたりライバル関係にある、中道右派のDAとANCの連立は前例がない。

マンデラ元大統領のもと、ANCは人種差別的な政策、アパルトヘイトに反対する運動を主導し、南アフリカ初の民主的な選挙で勝利を収めた。

DAに批判的な人々は、DAがアパルトヘイト時代に築き上げた、少数派の白人による経済的特権を守ろうとしていると非難している。DA側はこれを否定している。

DAのジョン・スティーンハイセン党首は、14日遅くにケープタウンで議員を前に演説し、「今日は我が国にとって歴史的な日だ。新たな章の始まりだと、私は思う」と述べた。

国民議会(下院)はANCから議長を任命し、DAは副議長ポストを得た。

連立合意後に演説した党首の中には、2013年にANCを離党して「経済的解放の闘士」(EFF)を立ち上げたジュリアス・マレマ党首も含まれる。

マレマ氏はEFFは「南アフリカ国民の結果と声」を受け入れるとしつつ、「我々は、南アフリカの経済と生産手段に対する白人の独占力を強化するための、この政略的な連立には同意しない」と述べた。【6月15日 BBC】
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「理念」としては、黒人の地位向上を求めてきた黒人政党ANCと、白人の利益を代表するDAが連立して国勢を行うというのは“あるべき姿”と見ることも可能ですが、現実問題としては、依然として大きく残存する人種的な経済格差を前にして、黒人政党と白人政党が一体となって政策を遂行できるのかは、非常に難しいところです。

ただ、その取り組みに失敗すれば、急進的な黒人の地位向上を求めるズマ前大統領の政党「民族の槍」(MK)やマレマ氏の「経済的解放の闘士」(EFF)が更に台頭し、南ア政治・経済は不安定化することが予想されます。

【欧米寄りのDAとの連立で、グローバルサウス外交にも変化が】
連立を組む以上、外交面でもANCはDAに妥協することが必要で、これまで南アがとってきたグローバルサウスのリーダー国という役回りも難しくなるでしょう。

****ロシア包囲網に加わらず中立の南アフリカ、連立政権でグローバル・サウス外交に岐路****
南アフリカ国民議会は14日、シリル・ラマポーザ大統領の続投を決めた。アパルトヘイト(人種隔離政策)と闘った与党アフリカ民族会議(ANC)と、白人らが支持基盤の民主同盟(DA)との初の連立政権が誕生する。
 
(中略)最大野党DAは、ポピュリズムや過激な黒人優遇策を掲げる野党との連立を拒否。ANCは、ビジネス界に支持基盤があり、現実路線のDAとの連立を選んだ。少数政党も加わる見込みだ。
 
連立によって外交政策は転換を余儀なくされそうだ。ロシアのウクライナ侵略を巡っては中立路線を維持し、米欧主導の対露包囲網に加わっていない。

侵略後も中露と軍事演習を行うなど盟友関係を絶たず、新興5か国(BRICS)首脳会議では、中露が米欧への対抗軸として掲げる多国間主義に同調している。

DAはロシアに批判的で、ビジネス環境の向上を重視するため欧米寄りだ。中立路線の維持は難しくなる。
 
アパルトヘイト闘争を経て民主主義を勝ち取った南アに信頼を寄せる国は多く、南アはグローバル・サウス外交で主導的な役割を果たしてきたが外交の表舞台から遠のきそうだ。
 
「白人の任命、リーダーシップに対する反発は根強く、党内の対立は深い」(ノースウェスト大のアンドレ・ドゥベンヘイガー教授)として連立の行方を危惧する声がある。

特にANC内で横行する汚職にDAがメスを入れようとすれば政権内の対立は不可避となる。経済を巡ってもリベラル重視のDAと社会主義的な左派路線が根底にあるANCには隔たりがある。
 
ラマポーザ氏は「我が国の命運にとって歴史的な分岐点だ。我々は団結せねばならない」と強調した。【6月16日 読売】
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ラマポーザ大統領にとっては極めて難しい連立ですが、前述のように失敗すると南アは一気に不安定化する危険があります。
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ナイジェリア  将来への期待と現状の混沌が織りなす光と影

2024-06-01 22:47:30 | アフリカ

(【5月31日 TBS NEWS DIG】)

【アフリカ最大の人口・経済 成長が期待される将来】
アフリカの国々は、今後の経済成長の可能性というポジティブな側面と、現在の貧困・格差・紛争というネガティブな側面が同居していますが、アフリカ最大の人口・経済を誇るナイジェリアもその両面を抱える典型的な国です。

****世界のなかで「ナイジェリア」ほど有望な国はないと言える理由****
ナイジェリアに対して、どのようなイメージを持っているだろうか。日本からは遠く、ニュースを耳にすることも少ないので、「アフリカの国だということは知っているけど……」という人も多いだろう。

しかし資産管理のサポートなどを行うBeograd Consulting Group(ベオグラード コンサルティング グループ)埜嵜雅治CEOは「世界を見渡してもナイジェリアほど魅力的な投資対象はない」という。その真意について伺った。

アフリカ54ヵ国で最もGDPが高い国、ナイジェリア
――資産管理のサポートなどを行っている御社は、最近ナイジェリアに注目していると伺いました。なぜなのでしょうか。

昨今、中国や欧州によるアフリカへの投資が活発になっているニュースをよく聞くので、その流れだと思われがちですが、事情は少々異なります。

私たちは世界中の金融商品を取り扱い、国際税務のアドバイスや資産管理のサポートをしていますが、投資対象を探す際のポイントは大変シンプルで「リターンが見込めるかどうか」です。そのような観点で投資対象を探していたところ、目に留まったのがナイジェリアでした。

ここ十数年のナイジェリアの平均株価に注目すると、2008~2009年、リーマンショックの影響で急落しました。その後、先進国はどこもリーマンショック前の価格を更新しています。しかしナイジェリアの平均株価はリーマンショック前のピーク時と比較して、半分程度にしか回復していなかったのです。

ここでナイジェリアのアフリカにおけるポジションを確認しておきましょう。アフリカで最もGDPの大きな国はナイジェリアです。多くの方は南アフリカだと想像するでしょうが、アフリカにある54ヵ国のなかで最も経済規模が大きいのはナイジェリアなのです。

またアフリカ西部の15ヵ国からなる「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」の中心国でもありますし、55ヵ国が加盟する「アフリカ連合(AU)」での存在感も増しています。ちなみにコロナ禍で導入が先送りになりましたが、ECOWASではEUにおけるユーロのように、共通通貨「ECO」の導入が予定されています。

このようにアフリカの中心国であるナイジェリアの経済成長率は、2016年のマイナス成長を経て、2017年からは年々、上昇しています。それにも関わらず、株価が低迷しているわけです。ナイジェリアという国に注目するには、十分すぎる条件ではないでしょうか。

30年後「ナイジェリアの人口」が4億人に達するワケ
――初めの着眼点は、「株式の割安感」ということですね。しかしいくら平均株価が安くても、値上がりが期待できないと投資対象としては難しいと思いますが、御社はどこに注目したのでしょうか。

現時点で人口が多く、この先も増え続ける可能性が高い、というのは大きな判断材料でした。内需が拡大し、経済成長が見込めますから。

ナイジェリアはアフリカで最も人口の多い国です。2000年に日本と同程度の約1億2000万人の人口だったのが、20年で7000万人ほど増えました。2050年には人口が4億人に達し、世界第3位になるといわれています。

なぜここまで人口が増えるのか。多くの方は「生まれてくる子どもの数が多いから」と思われるでしょうが、それだけでは大幅な人口増とはなりません。さらに注目すべきは「5歳未満の死亡率の低下」です。

元々ナイジェリアの出生率は高かったのですが、一方で5歳未満の死亡率も高い水準にありました。先進国では考えにくいですが、下痢が原因で多くの乳児が亡くなっていたのです。しかし経済成長と共にインフラが整備され、医療も進歩したことで、5歳未満の死亡率は2000年以前に比べて半分程度にまで低下しました。

経済成長が続けば、出生率も下がります。それは多くの先進国が経験したことで、ナイジェリアでも同じです。このまま経済成長が続けば、出生率は頭打ちになるでしょう。しかし先進国に比べると死亡率はまだまだ低下の余地があります。それに伴い、人口も加速度的に増加していくというわけです。

ビジネス上でもナイジェリアのアドバンテージは大きい
――30年後には、ナイジェリアは中国やインドに続く、人口大国になるわけですね。

そうです。アフリカ全体の人口は30年後に25億人に達するといわれています。世界の4人に1人はアフリカの人という時代になるのです。さらにアフリカの人の5、6人に1人はナイジェリア人を占めるようになります。これだけでもナイジェリアの影響力は計り知れません。

さらに注目すべきは、ナイジェリアの公用語は英語だということです。これはイギリスによる植民地時代の影響によりますが、「公用語=英語」は、今後ナイジェリアが経済成長を続けていくために、大きな武器になると考えます。

日本人であれば「言葉の壁によってビジネスがうまくいかない」という場面は容易に想像できるでしょう。しかしナイジェリアには、“言葉の壁”がないのです。これから成長が期待されるアフリカでビジネスをしたい海外企業は多いでしょう。その際、公用語が英語で経済規模が大きいナイジェリアは第一候補になるはずです。もちろんナイジェリアの企業が海外に進出する際も、言葉の障壁は低く、大きなアドバンテージになるでしょう。

現在、ナイジェリアの株価は低迷していますが、30年後には4億人を超える人口を抱える英語が通じる国となる……。株式市場の回復には時間を要するかもしれません。しかし長期的な視点でみたとき、ナイジェリアに注目しない理由は見当たらないのです。【2021年2月25日 幻冬舎GOLD ONLINE】
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【イスラム過激派「ボコ・ハラム」のテロ 様々な武装集団による誘拐ビジネス】
しかし、ナイジェリアがイスラム過激派「ボコ・ハラム」に代表される深刻な治安問題を抱えていることも周知のところです。

今では、「ボコ・ハラム」に限らず、多くの武装部ループ・犯罪集団が拉致をビジネスとしているような感もあります。

****拉致された生徒ら130人超解放 ナイジェリア****
ナイジェリア・カドゥナ州クリガで今月7日に拉致されていた多数の児童・生徒のうち130人超が24日、無事解放された。当局と軍が明かした。

軍は早朝に救出作戦が行われ、生徒らを解放したと発表したが、詳細は公表していない。
軍の広報官は、ほこりまみれの制服を着た生徒らがバスに乗っている写真を公開。「救出された人質計137人の内訳は女子が76人、男子が61人。ザムファラ州で助け出された。今後、カドゥナ州に引き渡される」と述べた。また「人質全員が救出された」としている。
 
教員や住民らは当初、「盗賊団」と呼ばれる武装集団がバイクに乗って学校を襲撃し、8〜15歳の児童・生徒約280人を拉致したとしていた。

ナイジェリアでは拉致された人数と解放された人数が合わないことがたびたびある。初期情報が錯綜(さくそう)していたり、襲撃を逃れ行方不明になっていた被害者が戻ってきたりするケースもある。

ただ、今回のように大きな齟齬(そご)が生じた原因については不明。
 
軍広報官は、作戦は「続行中」だとするとともに、負傷した兵士は出なかったと述べた。

ナイジェリア北西部および中北部では「盗賊団」などによる集落への襲撃や、身代金目当ての集団拉致が相次いでいる。先週末にもカドゥナ州で2件の襲撃事件があり、計100人以上が拉致された。 【3月25日 AFP】
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おそらく水面下で「盗賊団」への何らかの支払いがなされたのではないでしょうか・・・。
ナイジェリアでは去年、暴力撲滅などを訴えたティヌブ大統領が就任しましたが、目立った治安改善にはつながっておらず、国内で非難の声があがっています。

更に5月にも。

****武装集団が10人殺害、160人拉致 集団誘拐後を絶たず ナイジェリア*****
ナイジェリア北中部ニジェール州の村が武装集団に襲撃されて10人が殺害され、子どもを含む160人が拉致された。地元当局者は27日、イスラム過激派「ボコ・ハラム」の関与が疑われるとCNNに語った。

首都アブジャに隣接するニジェール州ではここ数年、武装集団が身代金目的で住民を集団拉致する事件が頻発している。

地元当局者によると、同州クチ村に対する襲撃は現地時間の24日午後5時半ごろから始まり、25日午前4時ごろまで続いた。

バイクに乗ってやって来た300人ほどの武装集団は何時間も村に居座ったといい、「あの日は一日中雨が降っていたので、彼らは火を起こして暖を取った」「料理してお茶をいれ、即席めんやスパゲティを作った」と当局者は話す。
武装集団に抵抗しようとして圧倒され、殺害された住民もいたという。

軍による救出作業はまだ始まっていないと地元当局者は言い、「きのう(26日)警察が来て立ち去った。それだけだ」と説明。「クチ村が襲撃されたのは1度や2度じゃない。これで5度目だ」と憤る。

アムネスティ・インターナショナルが26日にX(旧ツイッター)に投稿した情報によると、武装集団は2021年以来、何度もクチ村を襲撃し、女性に対する性的暴行を繰り返しているという。ナイジェリア政府は武装集団を野放し状態にしたまま、生命を守ることができずにいるとアムネスティは指摘する。

ニジェール州では2カ月前にも市場が武装集団に襲撃され、21人が殺害される事件が起きたばかりだった。
隣接するカドゥナ州でも3月に武装集団が生徒少なくとも137人を誘拐し、身代金を要求する事件が発生。生徒はその後、全員が無事解放された。【5月28日 CNN】
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武装集団はやりたい放題で、警察・軍の対応はほとんど機能していないようです。

【南部デルタ地帯の石油産出地域で盗まれる原油 暗躍する原油ゲリラ その背景にあるものは・・・】
ナイジェリアには北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の対立、イスラム過激派「ボコ・ハラム」のテロ活動、それに触発されたような武装集団による「誘拐ビジネス」の蔓延・・・といった問題に加えて、ニジェール川河口の“ニジェール・デル”と呼ばれる南部の油田地帯の分離独立運動・反政府運動・治安悪化の問題もあります。

下記は2007年のブログ記事です。

****原油価格とナイジェリア “ビアフラの悲劇”の記憶****
(中略)
ナイジェリア南部の油田地帯はニジェール川河口の“ニジェール・デルタ”と呼ばれる地域。
250以上の言語を話す40以上の民族が住むと言われています。

アフリカの大国ナイジェリアの政治的実権は北部出身者で占められていること、年間数百億ドルもの石油利益があるにも関わらず南部地域住民の3分の2は1日1ドルの貧困線以下の暮らしを余儀なくさせられていること、石油開発で環境破壊が進行していることなどから、このニジェール・デルタでは激しい反政府活動が続いています。

ニジェール・デルタ地域はかつての“ビアフラ戦争”(この地域先住民のイボ族の独立をめぐる戦い)の舞台と重なります。

1967年ですから今からもう40年前になります。
今と同様の部族対立(イギリス植民地時代にイボ族はイギリスと関係を深め植民地支配機構の一部となったため、他民族からは“黒い白人”とも呼ばれたそうです。)、石油資源を巡る争いからナイジェリア南東部地域イボ族が独立を宣言します。

ビアフラを支援するフランス、ナイジェリアを支援するイギリス・ソ連という大国の石油がらみの思惑のなかで、戦闘は武器援助によってエスカレート、結局ナイジェリア側の勝利、ビアフラの消滅で終わりました。

この戦争で包囲されたビアフラでは、200万人ともいわれる餓死者をだす惨劇がおこりました。
200万人・・・自分のことでないと人間は極めて冷淡ですから、私も“200万人”と簡単に書きますが、当時の惨状を少しでも想像すると気が遠くなるような数字です。

やせ細っておなかだけが異様に膨らんだ子供の写真が当時報道され、人々の関心を呼んだ記憶があります。私が中学1年の頃でしょうか。

しかし、結局国際社会は戦闘を小銃・こん棒から戦車・戦闘機にエスカレートさせることはあっても、この惨劇を止めることはありませんでした。

激しい反政府活動が続くこのエリアでは外国人・多国籍企業の石油施設関係者を狙った拉致事件が頻発しており、5月1日から6月初旬の1ヶ月だけで50人の外国人が拉致されているそうです。

もともとが複雑な民族構成のエリアである上に、単なる金銭目的の武装誘拐組織も加わって、無数の武装組織があり現在の混乱を呼んでいるようです。

イギリス政府も英国人に対し同地域からの退去を勧告しています。
今年5月にはパイプライン破壊も行われており、当分このエリアの、ひいては原油供給の不安定は続きそうです。【2007年7月7日ブログ】
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“複雑な民族構成のエリアである上に、単なる金銭目的の武装誘拐組織も加わって、無数の武装組織があり現在の混乱を呼んでいる"・・・・現状は2007年当時と大差ないようです。

****「今世紀最悪の環境破壊」ナイジェリア“原油戦争” の闇 須賀川記者がジャングルで“原油ゲリラ”に接触 裸足や素手で違法精製【news23】****
「今世紀最悪の環境破壊」ともいわれるアフリカ・ナイジェリアの原油問題。アフリカでも最大規模の原油生産量を誇る国ですが、今、その原油が盗まれ続けています。ジャングルで原油を盗む“原油ゲリラに”23ジャーナリストの須賀川記者が接触しました。

違法精製所の取り締まりに同行…“茶番”ともいえる摘発劇
川の一面を隙間なく覆う油の膜。“生命のゆりかご”ともいわれるマングローブの森があったはずの中州は、黒く汚染された土があらわになり、生き物の影はありません。(中略)

2億人以上の人口を抱え、アフリカ最大規模の原油生産量と経済規模を誇るナイジェリア。しかし、採掘されたほとんどの原油は、シェルやシェブロンなど海外の石油メジャーによって買われ、輸出されています。

わずかにある国内の石油精製所はほとんど機能しておらず、燃料のほとんどは輸入に頼っているため、多くの人は、違法に精製された安価で劣悪なガソリンなどを買い求めるのです。(中略)

こうしたガソリンなどを作る違法精製所の取り締まりに同行しました。現場に到着すると、すでに手錠をかけられた、作業員とみられる2人の男性がいました。(中略)

ただ、“摘発”には不自然な様子も…(中略)“摘発ツアー”は、最終目的地の貯蔵施設に向かいます。すると、1時間ほど前に逮捕されていたはずの男性2人が現れ、司令官の指示に従って、手錠が外れた状態で油の汲み出しを始めたのです。(中略)
「(Q.先ほど言っていた『根絶』『犯罪者』は具体的に誰を指す)犯人たちは21歳〜22歳で、彼らは誰かに送り込まれたのでしょう」 何十年と続く“原油窃盗”。その「誰か」の正体は、いまだに分からないのでしょうか。

摘発ツアーが終わったあと目を向けると、逮捕された男性2人は釈放され、村に戻っていくところでした。茶番ともいえる摘発劇。ただ、森の中では多くの違法精製所が今も稼働し、原油が盗まれ続けていることも事実です。
夜、私たちは摘発を免れている精製所を目指し、ジャングル奥深くに向かいました。

「飢えている」「生き延びるためにリスクを冒す」原油ゲリラは語る
(中略)ジャングルの中を移動して1時間ほど。突如として開けた場所で、それは行われていました。女性が黒い液体を炎に投げ込み、巨大な炎が立ち上ります。原油を盗む“原油ゲリラ”です。

須賀川拓 記者 「火にくべられている巨大なドラム缶の中に原油が入っているんです。原油を火でたくことによって、蒸留されるんです」

原油ゲリラは、北海道と同等の大きさのデルタ地帯に張り巡らされた石油会社のパイプラインに穴をあけ、盗んだ原油を火にくべてガソリンやディーゼルを抽出します。

精製所の数は当局も把握できておらず、現地の報道によると、過去12年に約2000億円換算の原油が盗まれたということです。

須賀川拓 記者 「これがタンクだそうです。中で沸騰してるんじゃないか?すごい音がしてる。足元に垂れまくっているんだけど、(原油ゲリラは)裸足なんだよ。めちゃくちゃ危ない。しかも素手だし」(中略)

「(Q.危険ですね)本当に危険だ」 「(Q.違法だと理解しているのか?)もちろんさ」 「(Q.違法だと分かっていて、なぜ続けるのか?)飢えているからだ。生き延びるためにリスクを冒してきた」

沿岸パトロールをしていた元ナイジェリア軍兵士、上官から「タンカーを見なかったことにしろ」
小川彩佳キャスター: 「飢えている」「生き延びるため」という言葉がありましたが、豊かな資源の恩恵はナイジェリアの人たちに広く行き渡っていないということですね。なぜ、資源を使えない状況になっているのでしょうか。

須賀川拓 記者:原油ゲリラの男性は「政府が得ている莫大な利益は私たちにはまったくおりてこない。だからこそ私たちは、この犯罪に手を染めるしかないんだ」とはっきり言っていました。

実際、違法精製所は夜に作業をするので、夜の空を照らし出すわけです。ジャングルで炎が立ち上ればすぐに場所を把握できるので、当局も摘発しようと思えばすぐにできるはずです。

こうした状況がもう何十年も続いていることから、権力構造のかなり上層部にいる人間が見て見ぬふりをしている、何らかの見返りを持って見逃していると考えないと、整合性が取れないわけです。

しかも、これは氷山の一角のさらにその一部だと感じるエピソードもありました。私はナイジェリア軍の元兵士で海軍のいわゆる沿岸パトロールを指導していた立場の人物に取材することができました。

そのナイジェリア軍の元兵士によると、10年ほど前、沿岸の大きな油田・油井(オイルディグ)に国籍不明の巨大なタンカーが横付けし、原油を満載して、また沖に消えていったそうです。これを上官に報告しようとしたところ、上官から「お前はあのタンカーを見なかったことにしろ」と言われたといいます。

巨大なタンカーが運行でき、海軍の沿岸警備体制すらもすり抜ける、もしくは目の前を通過しても摘発することができないという状況です。どれだけの闇、腐敗があるのか考えると、気が遠くなるような思いでした。【5月31日 TBS NEWS DIG】
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ナイジェリアの抱える最大の問題は、「ボコ・ハラム」でも南部デルタの原油ゲリラでもなく、そうした諸問題を生み出す温床となっている政府の腐敗・非効率にあるようです。
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ジンバブエ  インフレ対応に苦慮 金本位制の新通貨発行

2024-05-14 23:01:32 | アフリカ

(アフリカ南部のジンバブエの銀行に、長蛇の列ができていた。目的は、新通貨への交換だ。【5月14日 テレ朝news】)

【かつて天文学的ハイパーインフレ 未だ安定せず2023年の物価上昇率は154%】
アフリカ南部のジンバブエ・・・形式的には私も行ったことがある・・・昨年10月に南アフリカをツアー観光した際に、ビクトリアの滝観光のためにジンバブエに入国し、2泊しました。・・・・もちろん、こうしたツアー観光の常でホテルと滝を往復しただけで、現地の暮らしぶりなどとは全く無縁。

ジンバブエで連想するのは、ムガベ前大統領時代の天文学的ハイパーインフレーション。インフレ率は2008年には5000億%を超えたとも言われていますが、数字は資料によって様々。もうこういう状態では貨幣・価格そのものが意味をなさない状況ではないでしょうか。

****ジンバブエドルとは?壮絶なインフレで廃止された通貨の歴史を分かりやすく解説!****
(中略)
ジンバブエとは
ジンバブエの正式な名称は、ジンバブエ共和国。アフリカ大陸の南部に位置しています。隣接する国は、南アフリカ共和国・ザンビア・ボツワナ・モザンビーク。国土の面積は日本より少しだけ大きく、38.6万平方キロメートルです。

2019年における人口は1,465万人で、ショナ族・ンデベレ族・白人といった民族で構成されています。経済の規模を示すGNI(国民総所得)は2019年で、204億米ドル(約2兆2,000億円)。おもな輸出品は、貴金属・タバコ・鉱石・ニッケル・鉄などとなっています。

近代の歴史についても振り返ってみましょう。ジンバブエは1980年に、ジンバブエ共和国として英国から独立しました。このときはムガベ首相が就任しており、1987年からはムガベ大統領となります。ムガベ大統領は6選され、2017年に事実上のクーデターが起こるまで大統領の座についていました。

その後2018年には総選挙が実施され、ムナンガグワ大統領が就任し、現在に至っています。「猛烈なインフレ」と言われる状況は、2000年から2009年の間に発生しています。

ジンバブエの通貨事情
ジンバブエにおける通貨の状況は、少し複雑です。現在ジンバブエの法定通貨となっているのは、2019年6月に導入された「RTGSドル」。これを新しいジンバブエドルと呼ぶこともあるようです。

最初のジンバブエドルは、1980年に導入されました。その後、激しいインフレにともなって、通貨の桁数を切り捨てる「デノミネーション」が数回おこなわれています。この旧ジンバブエドルは、2015年に通貨としての廃止が決定されました。公式の廃止は2015年ですが、2009年には事実上、流通が停止されています。

2009年1月に導入されたのは、複数外貨制。おもに米ドル、南アフリカランドが使われるようになりました。さらに2014年1月からは、日本円、中国元、豪ドル、インド・ルピーが新たに法定通貨として導入されます。2016年には、ジンバブエ国内だけで流通するボンド紙幣も導入されました。

2019年にはRTGSドルを唯一の法定通貨としましたが、紙幣不足を補うため、2020年に米ドルが再導入されることになります。(中略)

ジンバブエドルが廃止されるまで
ジンバブエドルは、2000年頃から激しいインフレーションを起こし、ついにはハイパーインフレーションという状況になりました。最終的には2009年に流通停止となり、2015年には通貨としての廃止に至ります。インフレやハイパーインフレの意味を確認しながら、ジンバブエドルのたどった歴史をくわしくみていきましょう。

ハイパーインフレの始まり
ジンバブエドルが最初に発行されたのは、1980年のこと。当初の交換レートは、1米ドル=0.68ジンバブエドルでした。英国から独立して以来、ジンバブエのムガベ大統領は、旧支配層に対する弾圧的な政策を実施していました。2000年には、白人が所有する土地を強制収用する法律を制定し、結果として農業の崩壊を招いています。これにより物の供給が不足することになり、ハイパーインフレの要因となりました。

激しい物価上昇のなか、ジンバブエ準備銀行は通貨の供給を減らしませんでした。公務員や兵士への給与を上げるため、政府が支払いに必要な通貨の発行を命じていたようです。これもインフレを加速させる要因と言えるでしょう。

また弾圧的な政策がつづくことで、富裕層が海外へ脱出し、治安も悪化しました。その結果、ジンバブエドルの為替市場での価値が下がり、輸入する際の値段が上がったことも物価上昇につながっています。

ジンバブエドルが廃止されるまでの流れ
ジンバブエにおけるインフレ率を、公式発表でみてみましょう。2000年が56%で、2003年には385%、2006年に1,281%を記録し、2008年には355,000%と発表されています。しかし実際にはこれよりはるかに高い数字だったようです。2008年における非公式の報告では「6月のインフレ率は1,120万%に達した」「7月のインフレ率は2億3,100万%」などとなっています。

こうしたハイパーインフレの状況では、物の値段が短期間に数10倍、数100倍…、と上昇します。物の価格を表示するのが、困難な状況です。これに対応するため、新しいジンバブエドルの発行と、デノミネーションが繰り返されました。デノミネーションとは、通貨単位を切り上げたり切り下げたりすることで、ジンバブエでは切り下げがおこなわれています。

2006年に2番目のジンバブエドルが発行されたときは、デノミネーションにより3桁の切り捨てが実施されました。2008年のデノミネーションでは、10桁が切り捨てられ、100億ジンバブエドルと新1ジンバブエドルが交換されることになりました。これが3番目のジンバブエドルになります。

それでもインフレは収まらず、2009年1月には100兆(100trillion)ジンバブエドル紙幣が発行されています。その直後の2009年2月に、12桁を切り捨てた4番目のジンバブエドルが発行されました。

2009年1月からは複数外貨制を導入し、米ドルと南アフリカランドが使用されるようになります。2009年2月に政府は、公務員給与を米ドルで支払うと発表し、ジンバブエドルの流通は事実上停止となりました。

2015年にはジンバブエドルの廃止が公式に決定され、同年の9月までに回収を終えています。自国の通貨は放棄しなければなりませんでしたが、外貨を使用することでハイパーインフレは終息しました。(中略)

ジンバブエの現在(筆者注:この記事がかかれた2021年当時の状況です)
2019年6月、ジンバブエ中央銀行は暫定通貨RTGSドルを唯一の法定通貨として指定しました。しかし2020年3月には、インフレによる紙幣不足への対策として米ドルも再導入しています。

ムガベ政権が終わった後、ムナンガグワ大統領が経済改革を進めていますが、外貨不足やロックダウンの実施などにはばまれているようです。

インフレについても燃料価格の高騰などから、2019年8月にインフレ率が前年同月比300%を超えたと言われています。2020年の経済成長率もマイナスで、経済が不安定な状況はまだつづきそうです。【2021年10月10日 楽天 みんなのマネ活】
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2008年当時の狂気のようなハイパーインフレーションは終息したものの、依然として高率のインフレが続いており、国連経済社会局が1月4日に発表した報告書「2024年の世界経済情勢と展望」によると、ジンバブエの2023年の物価上昇率は154%、24年予測は86%となっており、いずれもアフリカにおいて内戦が続くスーダンに次に高い数字となっています。(1月12日 JETRO“2023年のアフリカの物価上昇率は18.3%、2024年は14.5%との予測”より)

【模索する政府 対応に苦慮する国民】
政府もいろいろと模索はしたようです。 2022年には金貨を発行。

****ジンバブエ、インフレ抑制策で金貨導入****
ジンバブエは25日、インフレ抑制と米ドル依存の緩和を目的に、金貨を導入した。有名なビクトリアの滝にちなんで「モシ・オア・トゥニャ(雷鳴とどろく水煙)」と命名された金貨は、純度91.7%(22金)で重さ約31.1グラム。銀行が国際金相場で販売する。

シリアルナンバー入りの金貨は換金でき、国際取引も可能だ。1枚当たりの価値は22日時点で1725ドル(約23万5000円)相当。購入者は証明書付きで現物を所有するほか、銀行の金庫に預けることもできる。

政府は、インフレが急進しジンバブエ・ドルの下落が止まらない中で、金貨導入は経済へのてこ入れになると主張している。

金貨の鋳造枚数は不明。ジンバブエは金の主要産地で、材料には地元産の金を使用する。

ジンバブエの(2022年)6月のインフレ率は191.6%で、米ジョンズ・ホプキンス大学のスティーブ・ハンケ教授(応用経済学)によれば、公式数値で世界最悪の水準だ。ジンバブエ・ドルへの信頼は非常に低く、商品やサービスの価格設定はほぼ米ドルが基準となっている。

ただし、専門家は金貨導入の効果には懐疑的だ。経済学者のプロスパー・チタンバラ氏は「マクロ経済を安定させるという点で大きな効果はないだろう」とAFPに語り、ほとんどのジンバブエ国民は非常に貧しく、金貨を購入する余裕はないと指摘した。

同じく経済学者のギフト・ムガノ氏も、暗号資産(仮想通貨)が普及する中での金貨導入について「金で取引していた19世紀に逆戻りしているようだ」と一蹴。「わが国はもっとデジタル金融やデジタル通貨に注力する必要がある」と述べた。 【2022年7月25日 AFP】
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しかし状況は改善せず。

****「100兆ドル札」のジンバブエ、お釣りはゆで卵?****
ハイパーインフレが新たな段階に

ある日の午後、ルテンド・マニョワさんはジンバブエの首都ハラレにある人気のファストフード店でチキンとフライドポテト、ソフトドリンクを注文した。代金3.5米ドル(約460円)を支払うのに5ドル札を差し出すと、レジ係からお釣りの代わりに、店の名前と次回の購入時に使える金額が記された紙を3枚渡された。

かつて100兆ドル札をこの世にもたらしたジンバブエで、通貨の機能不全が新たな段階に入っている。小額通貨の不足で事業者が独自の「紙幣」――顧客が今後の買い物の支払いに使える紙片(手書きのこともある)――の発行を始めた。釣り銭分としてジュースやペン、チーズなど現物を渡すところもある。

こうした苦肉の策を生んだのが20年にわたる通貨管理の失敗だ。(後略)【2023年3月29日 WSJ】
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【新通貨ジンバブエ・ゴールド 金本位制採用 世界第2位の金埋蔵量、ただし金密輸が横行】
そして政府は今年4月、金を裏付けとしたジンバブエの新通貨ジンバブエ・ゴールドを発行しましたが、切り替えの発表が数日前だったため大混乱を招いたようです。

****新通貨ジンバブエ・ゴールド、波乱のスタート 旧通貨は無価値に****
金を裏付けとしたジンバブエの新通貨ジンバブエ・ゴールドが今週、波乱のスタートを切った。店舗は米ドルでの支払いしか受け付けず、銀行の前には困惑した人々が預金を引き出そうと長蛇の列を作っている。

旧通貨ジンバブエ・ドルが過去1年間で暴落し、高インフレに見舞われた同国は8日、新通貨の運用を開始した。だが、切り替えの発表が数日前だったため、多くの国民は準備ができていなかった。

大半の銀行は9日、新通貨に移行するためにシステムをオフラインにした。そのため首都ハラレでは、預金を引き出そうとする多くの人が銀行の前に何時間も並ぶ事態が起きた。

通貨切り替えによって、すでに価値がほとんどなかった旧通貨は、一夜にして完全に無価値となった。ハラレ郊外のカンブズマの路上では、子どもたちが旧紙幣の束で遊んでいた。中心部のビジネス街では路上に旧紙幣が捨てられていたが、誰も拾おうとしなかった。

一方、現時点では新通貨を入手することは不可能だ。 中央銀行は6日、新紙幣は印刷中で4月30日までは用意できないと発表した。

ハラレの公共交通機関は旧通貨での支払いを拒否しており、料金を平時の短距離料金の2倍に当たる一律1米ドルに設定しているため、足止めを食らった人もいた。

多くの店舗や屋台も同様に米ドルでの支払いしか受け付けず、硬貨が不足しているため、釣り銭の代わりにビスケットやキャンディーを渡している。

ハラレで商店を営むジュリアス・ムザさんはAFPに対し、客が旧通貨を「捨てる」ために急に店に殺到していることに気付き、取り扱いをやめたと語った。 【4月10日 AFP】
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切り替えの発表が数日前、しかも新紙幣は印刷中で月末までは用意できない・・・信じ難い対応ですが、かつてのハイパーインフレーションの経験に比べれば物の数ではない・・・でしょうか。

金を裏付けとした新通貨ジンバブエ・ゴールド・・・金本位制の復活です。
日本でも戦前の激動の昭和に、金解禁めぐる(金貨及び金地金の輸出許可制を廃止して金本位制に復帰すること)を激しい政策論争がありました。

世界的には、かつて金と交換できた米ドルの金交換停止が1971年に発表され、世界を震撼させました。ニクソン訪中宣言に続く第2次ニクソンショック(あるいはドルショック)と呼ばれたものです。

そうした「歴史」の世界の話にもなりつつあった金本位制を採用するというのは・・・

****国民混乱「バスでケンカ」も ハイパーインフレで経済崩壊…ジンバブエ“新通貨”流通****
かつて100兆という額面の紙幣が発行されるなど、ハイパーインフレに苦しんだジンバブエで、新たな通貨の流通が始まった。長く続く通貨危機の解決につながるのか?(中略)

新通貨の導入で混乱も
銀行を訪れた人「通勤のバスでは、通貨の変更で人々がケンカしたり叫んだりしていました」
新通貨の導入で混乱する人々。その背景には、迷走する経済政策があった。

長年の経済破綻状況…国民からは不安の声
(中略)
ムナンガグワ大統領 「経済を回復させ、若者の雇用を確保することで国民の貧困を減らしていく」
ムナンガグワ大統領は経済政策を次々と打ち出し、2022年には金貨を法定通貨にする試みも行ってきた。 今回の「ジンバブエ・ゴールド」も、こうした経済政策の一環なのだ。

ジンバブエ中央銀行総裁 「通貨が安定することで、日々の大きな価格変動が確実に起こらなくなります」

しかし、国民からは長年の経済破綻状況から不安の声が上がっている。
銀行を訪れた人 「お金の価値が分からない。銀行に価値を聞いても、分からないといわれました」

新通貨はインフレ防ぐこと可能だが…経済成長停滞する恐れも
新たに導入された通貨「ジンバブエ・ゴールド」には、これまでとは大きく違う特徴があるようだ。 AP通信によると、ジンバブエ・ゴールドは「金本位制」を採用しているという。

金本位制とは、政府や中央銀行などが保有している金といつでも交換できることを保証することで、その通貨の価値を担保するというものだ。

これにより通貨の価値は安定し、インフレを防ぐことができるというメリットがある。

一方で、金の保有量で発行できる通貨の上限が決まるため、十分な量の通貨を発行できず、経済成長が停滞する恐れもある。 そのため、現在ではほとんどの国が、金本位制を採用していない。

ジンバブエ・ゴールドに金本位制を採用した背景
そうしたなかでも、ジンバブエ・ゴールドに金本位制を採用した背景には、ジンバブエが資源大国であることが大きいようだ。

在仏ジンバブエ大使館のホームページによると、アフリカ大陸の南部に位置するジンバブエには豊富な鉱山資源が眠っていて、特に金は1平方キロあたりの埋蔵量が世界2位。確認埋蔵量(=現在の技術で回収可能とされる埋蔵量)は1300万トンに達するということだ。

多くの金を国外へ密輸
一方で、埋蔵量に見合った金を国が獲得できていない現状もある。  AP通信によると、ジンバブエの2021年の金産出量はおよそ30トンだったという。

実は、採掘業者らは金を中央銀行に売却することが定められているにもかかわらず、アメリカドルを得るために、多くの金を国外へ密輸しているという。 その量は、年間の産出量を超えるおよそ36トンに上るという。

一貫性がないように見える政府のジンバブエ・ゴールドへの対応
こうした背景もあってか、政府のジンバブエ・ゴールドへの対応は一貫性がないように見える。
政府は、企業にジンバブエ・ゴールドのみの使用を命じ、違反した場合は罰則も設けているという。

その一方で、一部の政府機関ではアメリカドルのみを受け入れているという。そのため、南アフリカの経済学の専門家は「政府が最初にジンバブエ・ゴールドを受け入れなければ、国民が続くことはない」と指摘している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年5月14日放送分より)【5月14日 テレ朝news】
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世界第2位の金埋蔵量というのが話のミソのようですが、その金も実際に国庫におさまって意味があるもの。ジンバブエの場合はどうでしょうか・・・・結局保有する金が不足してジンバブエ・ゴールド発行も大きく制約され、米ドル経済が続く、あるいは、新通貨金交換で大きな混乱が生じるということになるような感も。
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南アフリカ  初の全人種選挙から30年 与党ANCは劣化した政治・経済・社会を立て直せるか

2024-04-27 22:10:09 | アフリカ

(初の全人種選挙から30年を記念する式典の会場で、南アフリカの国旗を振る子どもたち=27日、首都プレトリア【4月27日 共同】)

【初の全人種選挙から30年】
南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)の苦難を乗り越えて、1994年に初めて全人種参加選挙が行われました。それから30年・・・

****南ア、初の全人種選挙から30年 差別根絶へ誓い新た****
1990年代前半までアパルトヘイト(人種隔離)が行われていた南アフリカで、94年に初の全人種参加選挙が実施されてから30年となった。首都プレトリアで27日、記念式典が行われ、ラマポーザ大統領は「今なお社会に存在するさまざまな不平等を乗り越えなければならない」と述べて、差別根絶へ向け誓いを新たにした。

南アでは第2次大戦後、白人支配体制下で異人種間の結婚を禁じるなど人種差別の制度化が進んだ。解放闘争や国際的非難を受けて、91年にアパルトヘイトの根幹法が全廃された。94年の選挙でアフリカ民族会議(ANC)が圧勝して故マンデラ氏が初の黒人大統領に就任し、白人支配は終わった。【4月27日 共同】
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差別は制度上撤廃され、ネルソン・マンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)の政権が続く30年で経済成長もありました。 しかし、この30年で進行した「影」の面もあります・・・

****“民主化30年”を迎える南アフリカ****
南アフリカは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから2024年で30年という節目の年を迎えます。かつてマンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)は、この間一貫して政権を担ってきましたが、汚職や内部対立が絶えません。(中略)

ANCのもとで、一部で黒人の生活水準の向上や、経済成長があった一方で、「格差の拡大」や「汚職の蔓延」、さらに、「犯罪の横行」などが課題になっているからです。  

私(別府正一郎キャスター)は1月に帰国し、この番組を担当し始めるまで4年半駐在していましたが、犯罪は常に警戒していました。

たとえば、強盗に車が奪われる犯罪も起きていますので、街なかを運転する時は、後ろをつけられていないかを警戒していました。つけられているなと思ったら、スピードをあげたり、大通りに出たりしました。

また、役場での手続きで、賄賂を要求されるようなこともあり、閉口したこともありました。  

1994年の就任演説で、マンデラ氏は、全ての人種が平和的に共存する「虹の国」を打ち立てようと呼びかけました。しかし、ANCの長期政権のもとで、さまざまな問題が噴き出しているのが現状です。「虹の国」の理想の実現に向けた、南アフリカは大きな試練に直面しています。【2023年12月6日 NHK「キャッチ!世界のトップニュース」】
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【5月総選挙では与党過半数割れ予測も】
南アフリカでは、全人種参加選挙から30年の節目にあたる今年5月総選挙が行われます。
マンデラ氏以来、一貫して南アを率いてきた与党ANC(アフリカ民族会議)の支持は低下傾向にあり、今回選挙では過半数割れの予測もあります。

****南ア、5月29日に総選挙 与党過半数割れの予想も****
南アフリカ大統領府は20日、5月29日に総選挙と地方選を実施すると発表した。

計画停電や公共サービスの低下、高失業率への不満が高まる中、ラマポーザ大統領(71)が党首を務める与党アフリカ民族会議(ANC)が1994年以来初めて議会の過半数を失うとの予測も出ている。

総選挙と地方選の後、国民議会(下院)が新大統領を選出する。

ラマポーザ大統領は2期目を目指すが、経済成長率の押し上げに苦慮している。

大統領府は声明で「2024年の選挙は南アフリカが自由と民主主義の30年を祝う時期と重なる」とし、「民主主義におけるこの重要かつ歴史的な節目に全面的に参加するよう」有権者に呼びかけた。【2月21日 ロイター】
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ANCの政治はズマ前大統領時代に大きく劣化しました。現在のラマポーザ大統領は故マンデラ氏が自身の後任にと考えていた人物でもあり、ANCそして南ア立て直しの“切り札”的な存在です。
言い換えると、ラマポーザ大統領でダメなら、もはや後がない・・・とも。

【南ア経済 民間企業活用で立ち直りの兆しも 懸念される与党敗北の政治混乱】
南アフリカ経済には民間企業の活用などで立ち直りの兆しもあるようですが、これまで国政を担ってきたANCが過半数を割り込み、急進的主張の政治勢力の影響が強まると再び混迷に陥る不安もあります。

****【混迷極める南アフリカに光】南アはラマポーサ大統領の堅実さで立て直すことができるか****
フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのデビッド・ピリングが、3月12日付け同紙掲載の論説‘The bullish case for South Africa’で、長年の悪いニュースの後、南アは短期・中期的には楽観できる理由もあると述べている。主要点は次の通り。
*   *   *
(FT論説要旨)
ここ数年、南アからのニュースは停電、慢性失業、国家汚職、犯罪、哀れな経済成長、ランド(通貨)の下落という悪いものばかりがここ数年続いてきた。更に、5月予定の選挙でアフリカ民族会議(ANC)の得票が50%を切る可能性があるとの見方が加わり、選挙後の政治的不安定につき様々な憶測が出ている。

しかし、短・中期的には注目すべき話がある。最初の良いニュースは、経済・産業の足枷となってきた電力危機が改善され始めたことだ。

2022年、ラマポーサ(大統領)は、再生可能エネルギーへの転換に反対する石炭ロビーや民間を信用しないANCの双方と話をつけ、民間発電業者に対する発電量制限を一挙に撤廃した。その結果、約10ギガワットの安価な太陽光、風力発電が徐々に導入されることになった。これにより、民間企業からの国家電力公社(Eskom)への需要が軽減され、配電網への電力供給が増加する。

同じことは、運輸・物流部門にも見られる。鉄道・港湾公社トランスネットも、エスコムと同様深刻な危機にあった。送電線や線路の盗難が横行、貨物の輸送ができなかった。

アフリカ最大の港ダーバン等も同様だった。23年11月には、約7万個のコンテナを積んだ79隻が海岸沿いで貨物処理の順番を待っていた。23年、輸送遅延のため南アの石炭輸出量は1993年以来最低の5000万トンに低下した。これも最悪の事態は過ぎるかもしれない。今月、トランスネットは遂に新最高経営責任者(CEO)にフィリップスを、エスコムもCEOにマラコネを任命した。

重要なことに、トランスネットも民間企業に目を向けている。フィリピン企業の国際コンテナ・ターミナル・サービスは、労働組合との雇用保全合意に達し、ダーバン港を運営することになった。政府は、民間企業による自社リースの機関車をトランスネットの鉄道で運行することを認めようと検討している。

第三の前向きのニュースは、2月の予算だ。選挙が数カ月先にあるが、大きなバラマキ予算はなかった。財務省は支出抑制に成功した。数年前には債務の爆発が懸念されていた。スタンダード銀行によれば、債務はGDPの約75%程度に抑えられている。

最後に、5月の選挙は一部の予測ほど劇的ではない可能性が高くなった。ANCは農村地域では強い支持があり、全得票率が40%台にまで落ちることはなく、45%以上を確保するだろう。

また野党の分裂も助けになる。そうであれば、ANCは小さな連立パートナーと組んで国を統治できる。副大統領ジュリアス・マレマや彼の急進的な経済自由戦士党が主導権を握ることはない。
*   *   *
(論評)
南アフリカがすべき3つのこと
上記の論説でピリングは、南アの状況は最近幾つかの点で好転しているという。南アは、本来もっと立派な国であるべきだ。

ここ10年余、特にズマが大統領になった辺り(09~18年)から、一部急進黒人勢力等による政治の私物化、汚職の蔓延などと、それらの必然の結果としての経済低迷に見舞われた。ズマの後に大統領になったラマポーザも、やや期待外れのように見えた。

問題が余りに大きかったこともあろう。与党の既得権益勢力が強すぎたこともある。しかし、ラマポーザはしっかりした政治家だ。(中略)

目下注視すべき南アの最大の課題は、第一に上述の経済、第二に5月29日の議会選挙(大統領は議員から互選)、第三は外交、特に対米関係の軋みである。

ズマ政権以後の南ア政治の劣化は、甚だしい。与党ANCの劣化は激しく、ここ数年、与党ANCは過半数を失う可能性が指摘されてきた。

94年の新生南ア誕生後ANCは一貫して単独で統治してきた。次は連立政権になるかもしれないと言われる(最近の世論調査でANCは50%を切る)。しかし、良い連立相手がいるのか。

ズマは12月、新党「MK党」(9月結党)への参加を表明した。新党名は、60年代にマンデラが結成したANCの反アパルトヘイト闘争実力部隊の名前に因む(新党は必要によっては暴力に訴えると述べている)。

ANCは、この新党の選挙参加登録取り消しを選挙裁判所に求めたが、3月26日裁判所はこれを却下した。この新党も波乱要因になるかもしれない。ズマ出身の雄州クワズルナタールでは強いだろう(後略)【4月26日 WEDGE】
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ズマ前大統領については、以下のようにも。
“前大統領のズマ氏が率いる「民族の槍」(MK)の動向にも注目が集まっている。MKは元ANCメンバーにより2023年12月に結成された新党で、ズマ氏の根強い支持基盤であるクワズール・ナタール州を中心に得票すると予想される。

ズマ氏は過去の有罪判決を理由に立候補不可とされていた。しかし、4月2日に選挙裁判所が立候補者リストに加えることを支持する判決を出したことを受け、4月12日、IEC(独立選挙管理委員会)は同氏の立候補は不可であることを憲法裁判所に緊急提訴しており、憲法裁判所の判断が待たれている。”【4月23日 JETRO】

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西アフリカ  軍事政権、米仏の撤退、露の影響拡大の流れ 「民主主義のとりで」を守ったセネガル

2024-04-25 23:29:04 | アフリカ

(アメリカ軍の駐留に抗議するニジェールの人々【4月23日 Newsweek】)

【マリ、ブルキナファソ、ニジェールで相次いだ仏軍撤退 ニジェールでは米軍も 強化される露との関係】
かつてフランスの植民地だった西アフリカでは、ここ数年軍事クーデターに伴う似たような流れが相次いで起きています。

イスラム過激派の台頭・治安悪化、軍事クーデターによる軍部の権力奪取、軍を駐留して過激派掃討にあたっていた旧宗主国フランスとの関係悪化、間隙を縫うように軍事政権との関係を強化する民間軍事会社ワグネルを先兵とするロシア、そして最終的には駐留フランス軍の撤退、ロシアの影響力の更なる拡大・・・・という流れです。

マリでは20年のクーデターで軍部が権力を握ると、旧宗主国フランスとの関係が悪化し、ワグネルと軍部の関係が強化されました。暫定軍事政権が反仏、反国連の動きを強めるなか、22年にはフランス軍が撤退。23年6月末には国連平和維持部隊(PKO)の撤退も決まりました。

ブルキナファソでも同様の流れで、2022年に軍事クーデターが起き、フランス軍は23年2月までに撤退しています。

ニジェールでは、23年7月のクーデターでフランス寄りの大統領が排除され、23年9月にマクロン大統領はフランス軍撤退を表明しています。

フランス軍撤退の空白を埋めているのは武器支援などで軍事政権との関係を強化するロシア(ワグネル解体後はロシアの直接介入)ですが、フランスに続きアメリカも撤退を余儀なくされ、ロシアの影響力は更に強化される見通しです。

****米軍がニジェールから撤収へ アフリカの過激派監視拠点 ロシアは軍事顧問派遣、強まる影響力****
西アフリカのニジェールに駐留する米軍が撤収する見通しとなった。米国務省が24日、米軍撤退についてニジェール側と協議すると発表した。周辺地域の情勢不安定化に拍車がかかるとの懸念が出ている。

ニジェールでは、マリやブルキナファソに続いて昨年7月、クーデターで軍部が実権を掌握した。3カ国はいずれもフランスの旧植民地で、ロシアの影響力浸透が目立っている。(中略)

ロイター通信によると、ニジェール軍部は今年3月に米軍との駐留協定を取り消す意向を示していた。旧宗主国フランスも軍を駐留させてきたが、クーデター後の昨年末に撤収した。

ニジェールは親欧米のバズム大統領がクーデターで排除されるまでは、米仏がアフリカのイスラム過激派の動向を監視する要衝だった。米軍は1000人超の要員を配置し、中部アガデス近郊の空軍基地で無人機(ドローン)による監視活動を行っている。

一方、ニジェールのメディアによると、露国防省が派遣した軍事顧問らが今月10日、現地に到着した。ニジェールの軍部と露政府は最近、関係強化を盛り込んだ協定を締結したとされ、ロシアがニジェールに対空ミサイルを供与するとの観測も出ている。

ロシアはかつて、民間軍事会社ワグネルを先兵にアフリカ諸国の取り込みを図り、偽情報を拡散して親露感情をあおってきたと指摘される。

ワグネルのトップ、プリゴジン氏は搭乗していたジェット機が墜落して昨年8月に死亡し、露政府が地盤を引き継いだ可能性がある。ニジェールは原子力発電で使用されるウランの世界屈指の生産国として知られる。

ロイターによると、アフリカ西部や中部ではこの4年間に8回のクーデターが起きた。ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡した。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカーイダ系の組織が勢力を広げているもようだ。【4月25日 産経】
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フランス軍の相次ぐ撤退の背景には、アフリカ諸国からすれば、フランスの植民地宗主国時代と同じような尊大な態度によって地元住民・軍部との間に軋轢があったともされていますが、西側的に見れば、人権や民主主義に関する価値観の違いもあってのことでしょう。

アメリカとの間でも似たような“上から目線”への反発という感情的対立もあるようです。
また、フランス・アメリカが撤退するなかで、ロシアだけでなく中国やイランの影もチラついているようです。

****ジェールで反米加速...接近するのは「あの国」*****
<米政府高官の「尊大な態度」を理由の1つに米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが勃発>
西アフリカのニジェールの首都ニアメーで4月13日と14日、米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが行われた。

昨年7月のクーデターで権力を掌握したニジェールの軍事政権は、3月にアメリカとの軍事協定破棄を表明。その理由の1つとして軍報道官は、ロシアやイランとの関係について自分たちをたしなめようとした米政府高官の「尊大な態度」を挙げていた。

ニジェールは昨年、旧宗主国フランスの大使と軍隊を追放し、EUとの不法移民対策の協定も破棄している。

イスラム過激派との戦いを続けるニジェールが距離を縮めているのがロシアだ。今回のデモ直前の10日には、昨年12月に合意した防衛協定に基づき、ロシアの対空防衛システムがニジェールに到着した。

アメリカにさらなる打撃を与えたのは、軍政トップが駐ニジェール中国大使と会談したこと。ニジェール指導部はイラン政府高官とも会合を重ねている。米国務省は19日、ついに米軍の撤退で同国と合意した。【4月23日 Newsweek】
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3月には、ニジェールに埋蔵されているウランを巡り、軍事政権がイランによるアクセスの容認をひそかに検討しているとされたことで軍事政権とアメリカが対立、軍事政権はアメリカとの対テロ同盟を解消しています。

“米国のカート・キャンベル国務副長官が最近、ワシントンでニジェールの暫定首相と会談した際、ロシアへの接近や民政移管の道筋を示していないことに対し、「賛同できない」と伝えた。”【4月23日 読売】とのことですが、軍事政権からすれば、「余計なお世話だ。黙って支援してくれるロシアの方がずっとマシだ」ということなのでしょう。

【イスラム過激派の暗躍】
“ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡”・・・ブルキナファソでは2月に村が襲撃されて170人が殺害されるような事態も。

****ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人殺害 検察「処刑された」 イスラム過激派が関与か****
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃され、およそ170人が殺害されました。イスラム過激派が関与した可能性があり、検察当局は、「処刑」されたとしています。

AFP通信などによりますと、ブルキナファソ北部のヤテンガ県で先月25日、3つの村が襲撃され、およそ170人が「処刑」されたと現地の検察当局が発表しました。目撃者の話では、死者のうち、数十人が女性や子どもだったということです。

村を襲撃した集団についてはわかっておらず、ブルキナファソの検察当局は、目撃情報を集めるなど捜査を進めています。

ブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返され、およそ2万人が死亡。200万人以上が避難を余儀なくされるなど治安の悪化が深刻になっています。【3月4日 日テレNEWS】
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現地では欧米的な人権・民主主義を重視する価値観とは全く異なる現状もあります。ただ、だからといって人権侵害・非民主的政治を容認していいという話でもありませんが。

【セネガル 選挙による民主的な政権交代が実現 守られた「民主主義のとりで」】
西アフリカでマリ、ブルキナファソ、ニジェールでの上記のような軍事クーデター、ロシアとの接近、米仏との関係悪化という流れがあるなかで、同じ西アフリカのセネガルの大統領選挙が混乱し、実施が延期されるなど、西側が事態を憂慮していました。

結果的には、選挙による政権交代が実現し、西側からすれば“「民主主義のとりで」が守られた”ということにもなっています。

****延期されたセネガル大統領選で野党のファイ氏が当選、政権交代へ****
延期により混乱の中で3月24日に行われたセネガル大統領選で、野党の労働・論理・博愛のためのセネガル・アフリカ愛国党(PASTEF)候補のバシル・ジョマイ・ファイ氏が243万4,751票(得票率54.28%)を獲得し、当選した。

29日に憲法評議会の承認を受け、4月2日に大統領に就任した。12年間政権を握っていたマッキー・サル前大統領の後継者の与党連合(ベンノ・ボック・ヤーカール、BBY)候補のアマドゥ・バ氏の得票数は160万5,086票(得票率35.79%)で、ファイ氏に大きく引き離された。

今回の選挙を巡っては、2月3日にサル大統領(当時)が選挙の無期限延期を発表するなど、異例の事態に国内で緊張が高まり、国際社会も憂慮を示していたが、憲法評議会は同15日、無期限延期に関する大統領令は違憲との判断を示し、憲法にのっとって選挙日程を再調整するよう当局へ要請していた。

その後、サル氏のイニシアチブで開催された国民対話の結果、第1回投票を6月2日に実施し、サル氏の任期については憲法が定める4月2日から延長すると提言されたが、憲法評議会はこれらの提案を却下し、選挙を4月2日までに行うことと、大統領の任期延長は認められないことを通達した。

これを受け、サル氏と憲法評議会は3月24日に投票を実施することで合意し、今回の選挙実施に至った。

選挙に敗れたバ氏はファイ氏に電話で当選を祝福するとともに、セネガルの民主主義の成熟さと活力が世界に示されたと述べ、サル前大統領もまた、大統領選挙の円滑な運営を賞賛し、ファイ氏の当選を祝福した。

ファイ氏は投票翌日、記者会見で演説を行い、国内外の有権者の信頼に謝辞を述べるとともに、自由で民主的かつ透明性のある選挙を実現したサル前大統領の采配を祝した。

ファイ氏はまた、PASTEFの規約に基づき、2022年10月から務めていた党の事務総長職を辞任することを表明した。セネガルでは、大統領が党首を兼任することが長きにわたって批判されてきたことから、この決定は透明性と妥当性を示す決意として、権力集中との決別の象徴と受け止められている。

また、今後の政権運営では、誠実さと透明性をもって、あらゆるレベルで汚職と闘うことを約束するとともに、目下の課題として、(1)国民和解、(2)制度の再建、(3)生活費の大幅削減、(4)公共政策を巡る対話という取り組みを掲げた。(後略)【4月5日 JETRO】
***********************

マリ、ブルキナファソ、ニジェールで起きた流れのなかで、セネガルは西側の民主主義陣営にとって西アフリカにおける「民主主義のとりで」のような存在でもありましたが、当初の告示日前日だった2月3日にサル氏が選挙の「無期限延期」を宣言し、首都ダカールではデモ隊と治安部隊が衝突、政府は携帯電話の通信を遮断するなどの強硬措置をとるなど事態が混乱し、西側は成り行きを憂慮していました。

セネガルでなんとか民主的な政権交代が実現できたのは、憲法評議会の毅然とした対応があったからだと思われます。

【西アフリカなどのサブサハラとその他の地域の格差拡大 政情不安や気候変動】
しかし、西アフリカを含む、サハラ以南の「サブサハラ」諸国の経済状況は政情不安や気候変動の影響もあって芳しくありません。

****サハラ以南アフリカ、他地域と所得格差が拡大=IMF****
国際通貨基金(IMF)は19日、サブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカ地域が緩慢な経済回復を背景に、所得改善で他地域にさらに後れを取っていると指摘。地政学的状況や政情不安、気候変動によるリスクを挙げた。

IMFは地域経済見通しで「人口増加を考慮すると世界の他地域との所得格差は拡大している」とした。

他の途上国は2000年以降、一人当たりの実質所得が3倍以上に増えたが、サブサハラ地域の伸びは75%にとどまったとした。先進国は35%増えた。

ただ、IMFのアベベ・セラシー・アフリカ局長によると、足元では地域諸国の3分の2で改善ペースが加速するなど、前向きな動きもある。

IMFはまた、同地域の多くの諸国で経済環境が今年に入り緩和し始め、コートジボワール、ベナン、ケニアが外貨建て国債を発行したと指摘。インフレ率の中央値は1年前の10%近くから2月には6%に低下した。

しかし、政情不安は高まりつつあるとし、軍政を敷くブルキナファソ、マリ、ニジェールが西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を脱退し、地域全体で今年、18の選挙が行われることに言及した。

干ばつやサイクロン、洪水の被害も地域の苦境を増大させていると指摘した。【4月22日 ロイター】
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【ガーナ・コートジボワール 主力産物カカオが壊滅的な被害】
西アフリカのガーナやコートジボワールの主力農産物であるチョコレート原料のカカオが壊滅的な打撃を受けているとの報告もあります。原因は気候変動の影響もありますが、それ以外に違法な金採掘の横行、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なっているとも指摘されています。

****西アフリカのカカオ大国「終わりの始まり」か、生産が壊滅的落ち込み****
彼女のカカオ農園は有毒物質で汚染され、赤茶色に染まった水たまりが点在していた。違法な金採掘業者が残したものだ。農園の所有者ジャネット・ジャムフィさん(52)は、この荒れ果てた風景に心が折れかけている。

ガーナ西部にあるこの27ヘクタールの農地には、昨年まで6000本近いカカオの木が植えられていたが、残っているのは12本に満たない。(中略)

西アフリカのガーナと隣国コートジボワールは長い間カカオの供給量が世界全体の60%超を占める「カカオ大国」だった。しかし今シーズンは収穫量が壊滅的に落ち込んでいる。(中略)

ロイターが農家、専門家、業界関係者など20人余りに取材したところ、ガーナのカカオ生産の落ち込みは違法な金採掘の横行、気候変動、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なったことが分かってきた。

ロイターが独占入手した2018年以降のデータによると、ガーナの政府機関「ココア委員会(COCOBOD)」は最悪の場合59万ヘクタールの農園が、最終的にカカオを枯死させる「カカオ膨梢ウイルス」に感染していると推定している。

ガーナのカカオ栽培地は現在約138万ヘクタールだが、COCOBODによるとこの数字には、まだ収穫はあるが既にカカオ膨梢ウイルスに感染した木も含まれる。

トロピカル・リサーチ・サービスのカカオ専門家、スティーブ・ウォータリッジ氏は「生産は長期的な減少傾向にある」とした上で、「臨界点に達しなければ、収穫量がガーナで20年ぶり、コートジボワールで8年ぶりの水準にまで落ち込むことはなかった」と述べた。

専門家は、ガーナの収穫量急減は簡単には解決不可能な問題で、市場に衝撃を与えており、西アフリカ諸国がカカオ市場を牛耳っていた時代の「終わりの始まり」になるかもしれないと指摘する。(後略)【3月30日 ロイター】
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【モバイルマネー取引の拡大という意外な面も】
やや意外な印象もあるのは、西アフリカはモバイルマネー取引(携帯電話やタブレットなどのモバイル装置を使って実行可能な 金融取引あるいは金融サービス)が進んでいるという話です。

****サブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額、前年比12%増の9,120億ドル****
モバイルコミュニケーションに係る世界的な業界団体GSMAは4月に「モバイルマネーに関する産業動向レポート2024」を発表した。

同報告書によると、2023年のサブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額は前年比12%増の9,120億ドル、取引件数は前年比28%増の620億件、登録アカウント件数は19%増の8億3,500万件だった。1回当たりの取引額は小さいものの、モバイルマネーの利用は増加傾向だ。

地域別にみると、西アフリカでのアカウント開設が多く、2023年のアクティブな新規アカウント数の3分の1以上が西アフリカだった。特にナイジェリア、ガーナ、セネガルでの増加が成長を牽引したという。

モバイルマネーによる国際送金についても、西アフリカが成長を牽引し、アフリカ全体では前年比約33%増の290億ドルだった。(後略)【4月25日 JETRO】
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全くの憶測ですが、西アフリカ地域では銀行システムが十分に普及・利用されていないことが背景にあるのではないでしょうか。

いずれにしても、モバイルマネーのような新技術を利用することによって地域経済が活性化されるのであれば、歓迎すべき話でしょう。

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スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力

2024-03-29 23:09:18 | アフリカ

(【3月21日 BBC】 RSFのある大物とされる人物の投稿動画)

【「ラマダン停戦」も実現せず? ダルフール地方と首都ハルツーム周辺を抑えるRSF】
スーダンでは、昨年4月15日、国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

“国連によると、戦闘により1万4000人以上が死亡し、安全を求めて国内で避難した人は約630万人、近隣国に逃れた人は約170万人に上る。”【後出 3月9日 毎日】

多大な犠牲者にもかかわらず、昨日ブログでも触れた国際社会の関心・注目が低い「忘れられた紛争」のひとつとなっており、最新の戦闘状況に関しては情報を目にしていませんが、今月始めの段階では「ラマダン停戦」が議論されていました。

****スーダン戦闘、ラマダン中の停止求める 国連安保理が決議案採択****
国連安全保障理事会は8日、アフリカ北東部スーダンで昨年4月から戦闘を続ける軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して、イスラム教のラマダン(断食月)期間中の「敵対的行為の停止」を求める決議案を採択した。

国連によると、総人口の半分近くにあたる約2500万人が命の危険にさらされており支援を必要としている。
ラマダンは10日ごろからの約1カ月間。実際に戦闘停止につながるかどうかは不透明だ。

英国が提出し、日本や米国など14カ国が賛成、ロシアは棄権した。英国の代表は、決議に従ってスーダン軍とRSFの双方に銃を下ろすように求め、戦闘停止中に「信頼関係を築き、対話を通じた解決」を訴えた。

ロシアの代表は、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に対する「即時停戦」を盛り込んだ決議案は、米国が阻んで安保理で採択できていないと指摘。「偽善的だ」と批判した。(後略)【3月9日 毎日】
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別にロシアを支持はしませんが、アメリカのパレスチナ・ガザでの対応とその他の紛争での停戦を求める対応に「二重基準」があるとの主張は一理あります。

“即応支援部隊(RSF)は土曜日、国連安全保障理事会によるイスラム教の聖月ラマダン(断食月)の敵対行為停止要請を歓迎した。”【3月11日 ARAB NEWS】とのことでしたが、停戦実現については“グテーレス事務総長は「どのようにすべきか悩んでいる」と述べた。”【同上】とのことでした。

その後、停戦が実現したという情報は目にしていませんので、結局、戦闘が続いていると推測されます。

戦況については、かなり古い情報になりますが、昨年11月段階では準軍事組織RSFがダルフール地方を制圧しつつあると報じられていました。

準軍事組織RSFは、かつてダルフール地方でアフリカ系住民数十万人が死亡、200万人以上が自宅を追われ“世界最悪の人道危機”とも呼ばれた悲劇を惹起したアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」を前身とする組織です。

****スーダン内戦の新局面か****
スーダンでは、(23年)4月15日に国軍(SAF)と準軍事組織RSFの間で内戦が勃発して以降、和平に向けた出口が見えない状況が続いている。

西部のダルフール地域で激しい戦闘が続いてきたが、12日付けファイナンシャルタイムズは、ここ数週間の間に、RSFがスーダン第2の都市ニャラやダルフール地域を広く制圧したと報じた。

これに伴って、住民に対する残虐行為が広くなされた模様である。EUのボレル外相は12日のコミュニケで、ダルフールにおいて2日間で1000人以上が殺害されたとして、「RSFによって、アフリカ系エスニック集団マサリット(Masalit)に対する民族浄化」があったと発表した。

ダルフールでは、2003年にも特定のエスニック集団に対する残虐行為が大規模になされ、国際刑事裁判所(ICC)の捜査へと発展した。今回も類似した状況に至っている。

RSFの首領モハメド・ハムダン・ダガロ(通称ヘメティ)は、ダルフールのアラブ系エスニック集団リゼイガト(Rizeigat)の出身である。

内戦の中でRSFが制圧領域を広げていく際に、アフリカ系エスニック集団を放逐する目的で、残虐行為が広がったとみられる。EUはICCを通じて、責任の所在を問う構えである(12日付ルモンド)。

スーダン内戦において、RSFがダルフールを、SAFがそれ以外の国土を制圧する構図が固まれば、隣国のリビアと同様の状況になる。

リビアでは、首都トリポリを中心とする西部を押さえる暫定政権派と、ベンガジを中心とする東部を押さえるリビア国軍(LNA)派とが国土を分割している。そして、LNAを率いるハフタル将軍はヘメティと同盟関係にあり、いずれもロシアのワグネルを利用してきた(12日付FT)。

RSFがアラブ系ネットワークを通じて西アフリカ諸国から人材や資源を集めていることは従来から指摘されているが、ワグネルを介したリビアから中央アフリカに至るネットワークも重要性を増すかもしれない。【2023年11月14日 武内進一氏 現代アフリカ地位研究センター】
********************:

今年3月段階には、これまで国軍が支配的だった首都ハルツーム周辺でも、一部地域で準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)が主導権を握りつつあるとの情報も。

【「忘れられた」と言いつつも、水面下では多くの国が関与して「代理戦争」の様相も ロシア・ワグネル、更にはウクライナも】
「忘れられた」というのは各国の公の立場、メディア報道においての話で、水面下では多くの国が様々な利害からスーダンに関与しています。

戦闘が止まないこと、装備で国軍に劣るはずの準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)がここまで戦闘を継続できていることの背景には、それぞれ外国の支援をうけており、一種の「代理戦争」状態にもなっていることが指摘されています。

国軍側はイランからドローンなどの提供をうけていると報じられています。
準軍事組織RSFの方は、アラブ首長国連邦(UAE)から武器支援を受けたとWSJが以前報じていました。更に、上記記事でも出てくるロシアの民間軍事会社ワグネルの支援をうけていました。

RSFは金鉱山開発に関わっているとされ、その資金がワグネルに流れていたと思われます。ワグネル解体後も、ロシアはこの権益を引き継ぐ形で関与を継続しているとも推測されます。

そうした形でロシアに流れる資金はウクライナでにの戦争に使われますので、ウクライナがこの資金のながれを絶ちたい思惑でスーダンに関与する・・・という事態にも。

****ワグネルが支援するスーダン準軍事組織への攻撃、背後にウクライナの特殊部隊か 「公算大きい」と軍情報筋**** 
東アフリカのスーダンの首都近くでロシアの民間軍事会社ワグネルの支援を受ける民兵に対しドローン(無人機)と地上作戦による攻撃が相次いで行われた事案で、攻撃の背後にウクライナの特殊部隊がいる公算が大きいことが分かった。CNNの調査で明らかになった。これを受け、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が本来の前線を越えて広がったとの見方が出ている。

CNNの取材に答えたウクライナ軍の情報筋は、当該の作戦を「非スーダン軍」の活動と形容。ウクライナ政府が攻撃の背後にいるのかとの問いに対しては、「ウクライナ軍の特殊部隊によるものである公算が大きい」とだけ答えた。作戦ではスーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して一連の攻撃が加えられた。(中略)

CNNは一連の攻撃におけるウクライナの関与を独自に確認できなかった。ただ入手した動画の映像からは、ウクライナによるドローン攻撃と思われる特徴が見て取れる。(後略)【2023年9月20日 CNN】
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【戦闘の実態 ドローン使用 ネット遮断 深刻化する飢え 「2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている」】
他の紛争同様に、スーダンの戦争でもドローンが活用されています。

“(国際関係専門家の)K’achola氏はドローン攻撃が人権問題に重大な影響を与えることも指摘し、ドローンが戦闘員と非戦闘員を区別できないことを強調する。

「子供や高齢者を含む罪のない一般市民がこのような攻撃で犠牲になる可能性が、すでに悲惨なスーダンの状況をさらに複雑なものにします」と彼は付け加えた。

スーダンでの紛争が見せたのは、戦争が進化するという性質で、ドローンは世界中の軍事戦略でますます大きな役割を担うようになる。”【2023年6月18日 ARAB NEWS「スーダンのドローン戦争:形勢を変えられるか?」】

戦闘による被害状況については定かな数字はなく、“国連によると、戦闘により1万4000人以上が死亡”と言われていますが、実際は犠牲者は遥かに多い可能性があります。

ダルフールの“一つの都市だけで”RSFによって1万~1万5000人が殺害されたとも報告されています。

****1都市で1万5000人死亡 準軍事組織がアフリカ系襲撃―スーダン****
内戦状態が続くスーダンの西ダルフール州ジェネイナで2023年、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による暴力で1万~1万5000人が殺害されたとする年次報告書を国連の独立監視団が19日までにまとめた。報告書は安全保障理事会に提出された。

中東で「地殻変動」 紛争生んだ2023年
スーダンでは昨年4月、正規軍とRSFの衝突が発生。国連は同国全土でこれまでに約1万2000人が死亡したと推定していたが、監視団の報告書はこれを上回る犠牲者が出た恐れがあることを示した。

報告書は、昨年4~6月にジェネイナで「激しい暴力行為」が発生したと指摘。RSFおよび同組織と連携するアラブ系民兵が、アフリカ系のマサリットと呼ばれる人々に攻撃を加えたとし、「戦争犯罪と人道に対する罪に該当する可能性がある」と非難した。【1月20日 時事】
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食糧不足も深刻で、“2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている”(国境なき医師団)という状況。国連は緊急支援を要請しています。

****ネット接続遮断、数百万人が飢餓に直面 国連がスーダン緊急支援を要請****
国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突が続く東アフリカのスーダンで、インターネット接続が遮断された。同国では10カ月近く続く戦闘で数千人が死亡、数百万人が家を追われている。

インターネット監視団体ネットブロックスは7日、スーダンでネット接続障害が起きていることを確認し、大手接続業者が3社ともサービスを停止していると伝えた。

スーダン外務省は、ネット接続障害の責任はRSFにあるとして非難した。RSFは現時点で公には責任を否定していない。

国連によると、現地の人たちは衝突を逃れることができず、差し迫った人道支援を必要としている。国連は、スーダンの緊急人道支援のために41億ドル(約6100億円)の拠出を要請。

同国の人口の半分に当たる約2500万人が支援や保護を必要とする状況にあり、数百万人が飢え、戦争によって住む家を追われていると指摘した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は共同で、1470万人の人道支援のために27億ドル、近隣5カ国の難民支援のために14億ドルの拠出を求めている。

国連のマーティン・グリフィス緊急援助調整官は「10カ月に及ぶ紛争のために、スーダンの人たちは安全も、住む家も、生活の糧も、ほぼ全てを奪われた」と述べ、昨年集まった額は求めた額の半分にも満たなかったと言い添えた。

RSFは8日、近隣国や国際社会に対して緊急援助を要請し、スーダンの市民が「真の飢餓の可能性に直面している」と訴えた。

国境なき医師団によると、スーダンの北ダルフールにある避難民キャンプでは、2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としているという。【2月9日 CNN】
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なお、ネットが遮断されると、生活を支えてきた電子送金もできなくなります。

アリ・モハメド駐日スーダン大使は以下のように「忘れられた紛争」の悲劇を訴えています。

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スーダンとウクライナの人道的状況と対応について、米国在住のスーダン人活動家たちが行った痛切な比較によると、スーダンの状況は深刻であり、支援を必要としている人の数と国内避難民の数は、ウクライナの367万人に対し、後者は900万人を超えている。死亡者数は12,000人以上で、両国とも同程度である。

ウクライナに提供された援助は770億米ドルにのぼるが、スーダンにはわずか8億4000万ドルである。【3月12日 ARAB NEWS「静かな苦しみが明らかに: 忘れられたスーダンの人道危機に光を当てる」】
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【戦争と復讐の武器として使われる性暴力】
犠牲者数、飢餓だけでなく戦闘被害の実態を見ると更に悲惨な様相も見えてきます。
前出記事で1万~1万5000人が殺害されたとも報じられている西ダルフール州ジェネイナで活動する日本人看護師の報告です。

*****指切られた少女、頭撃たれた少年…スーダンで活動の看護師「支援を」****
紛争で人道危機が続くアフリカ北東部スーダンで、国際医療NGO「国境なき医師団(MSF)」が現地派遣した神奈川県厚木市在住の看護師・佐藤太一郎さん(37)が治療活動を行っている。

佐藤さんは26日にオンラインで現地の状況を報告。「家事ができないように指を切られた少女など、言葉にして伝えるのも苦しい被害を受けた人たちがいる。心の傷を負う子どもらも多い。国際社会の支援が必須だ」と強調した。

佐藤さんは県内出身で東海大看護学科卒。同大医学部付属病院高度救命救急センターなどで勤務し2020年にMFSに参加した。23年4〜10月にチャドでスーダン難民を治療し24年1月からスーダン西ダルフール州ジェネイナで活動する。(中略)

ジェネイナでは地域唯一の機能する公立病院を支援する。「子どもや母親らは退院しても家に帰れない。食べ物も仕事もないから」という。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で眠れない、しゃべれない子や性的暴力の被害女性らにさまざまなケアが必要で「紛争が終わっても長期的な対処がいる」と佐藤さんは強調した。【3月29日 毎日】
********************

ドローン使用による人権問題も提起されていますが、それはそれとして、ドローンより恐ろしいのは「人間」です。
スーダンに限らず、この種の戦闘では性的暴力が兵器として利用されます。

****内戦続くスーダンで相次ぐ性暴力被害、背景にはかつての民族紛争も****
昨年4月以来、国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」による内戦が続いているスーダンで、多くの女性が性的暴力の被害にあっている。

RSFは現在、西部ダルフールの広大な地域だけでなく、首都の南側の地域も掌握している。ダルフールは、アフリカ系とアラブ系のさまざまなコミュニティー間の暴力で、長年にわたって混乱している。

ダルフールから隣国チャドに逃れた女性たちはBBCに対し、RSFの戦闘員に、時には何度もレイプされたと語った。

スーダンとチャドの国境で女性たちを支援している団体は、こうした被害がアフリカ系の女性に集中していると指摘。戦闘員たちが紛争や報復の武器として、性暴力を使っていると非難している

・・・・・・・・・・・・・・・・・
19歳のアミナさんは昨日自分が妊娠していると知りました。数分後には人工妊娠中絶を始めます。
家族には絶対知られたくないと思っています。

「スーダンではこういうことが起こります。私は結婚していませんし、ある事件を除けば性交渉の経験はありませんでした。」

アミナというのは仮名です。住んでいる街で起きた戦闘から逃げ出そうとしてつかまりました。数日にわたって拘束され、繰り返し強姦されたと言います。

「誰にも言いませんでしたし、誰にも知られたくなかった。」

アミナさんのような女性が受けている性暴力がスーダンでの紛争の特徴となっていると国連は指摘しています。戦争の武器として使われているのです。(中略)

スーダン全土で女性たちが内戦中に暴力の犠牲になっています。この内戦は多くの死者を出した民族間紛争の再燃でもあります。

20年間にダルフール地方でジェノサイド(集団虐殺)だとの批判の中、黒人コミュニティーの30万人が殺されたと国連は述べています。

現在の紛争で起きている女性に対する暴力の大半は準軍事組織(RSF)とその協力者によるものとみられています。
RSFのある大物はインターネットに投稿された動画で、戦闘員には女性を襲う権利があるとし、その理由を語っています。

「レイプだろうが、レイプでなかろうが、お前たちの娘や少女を犯すのは「目には目を」の原理だ。これが我々の国で、我々の権利で、我々はそれを行使した。」

批難の多くは虚偽だとRSFはBBCに述べました。そうした事態が起きたときは部隊が責任を持っているとも。

しかしザハラさんは、ダルフールでは黒人女性が狙われていると言います。
「なぜならレイプは家族や社会に影響を与えるからです。彼らはレイプを復讐の武器として使っています。」

今回の紛争では性暴力が蔓延しています。しかしこうした話題はタブーとされ、大きな恥や烙印を伴います。つまり声を上げたり治療を求めたりする人は被害者のほんの一部に過ぎないということです。

紛争がもたらした残虐行為の代償を普通の女性たちが払わされています。終わりが見えない中、さらに多くの人々が沈黙のうちに苦しむことになるかもしれません。

BBCニュースのマーシー・ジュマがチャドとスーダンの国境からお伝えしました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
【3月21日 BBC】
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西アフリカ  イスラム過激派対策でロシアに接近 ワグネルの利権継承を目論むロシア

2024-03-07 22:00:04 | アフリカ

(【3月2日 NHK】 ブルキナファソの首都ワガドゥグの街中、壁に描かれたプーチン大統領)

【「過激」・特殊なものでもなく、もっと一般的なものとしての暴力・・・との印象】
西アフリカの地域大国ナイジェリアと言えば、経済的重要性の高まりの一方で、イスラム過激派「ボコ・ハラム」がすぐに思い浮かぶように治安状態はよくありません。
「ボコ・ハラム」だけでなく敵対関係にあるIS系過激派も活発に活動しています。

****武装集団襲撃で50人拉致 ナイジェリア、過激派か****
ナイジェリア北東部で4日、武装集団が湖の周辺でまき集めをしていた住民を襲撃し、50人を拉致した。ほとんどが女性。イスラム過激派の犯行とみられる。ロイター通信が6日報じた。

現場はチャドやカメルーンとの国境近くで、過激派組織「イスラム国」(IS)系のグループが活動する地域。逃亡した女性はロイターに、被害者はチャドに連行されたと話した。

ナイジェリア北東部ではIS系に加え、敵対関係にある過激派ボコ・ハラムもテロを続け、多数の住民が家を追われた。4日に拉致された人々は避難民キャンプで暮らしていた。【3月7日 共同】
***************

こうした武装勢力を一般的に「過激派」という言葉で呼んでいますが、下記のような部族間抗争が絶えない現状を考えると、この地域では武力行使や殺害などの暴力は日本や欧米で考えるような「過激」・特殊なものでもなく、もっと一般的なものなのかもしれない・・・という印象も。

****ナイジェリアで武装集団による襲撃…少なくとも140人死亡 干ばつや洪水で土地など奪い合いか****
アフリカ・ナイジェリアの中部で今月(23年12月)23日と24日、武装集団による襲撃事件があり、少なくとも140人が死亡しました。気候変動によって干ばつや洪水などが起き、人々の間で土地など奪い合いが起きているとみられています。

ナイジェリア中部・プラトー州の集落で今月23日と24日、武装集団による襲撃事件があり、ロイター通信などによりますと、少なくとも140人が死亡、300人がケガをしたということです。

この州では、イスラム教徒の遊牧民とキリスト教徒の農民との間で衝突がたびたび起きていて、今年5月には100人以上が死亡する衝突が起きていました。

ロイター通信は専門家などの話として、気候変動によって干ばつや洪水などが起き、住む場所を失った遊牧民と農民との間で土地や資源の奪い合いが起きているとの見方を伝えています。

こうした事態に国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、「ナイジェリア当局はこの地域で頻繁に起こる致命的な襲撃を止めることができていない」と非難するとともに、「これらの攻撃について、公平で効果的に調査する必要がある」と迅速な対応を求めました。【23年12月27日 日テレNEWS】
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暴力が一般的なもの・・・と書きましたが、それはこの地域の人々が野蛮云々という話ではなく、その背景には、そうでもしないと生きていけない厳しさ・貧困、それにたいする政治対応の不十分さなどがあってのことでしょう。

ナイジェリアに隣接するニジェール、マリ、ブルキナファソもイスラム過激派の跋扈という状況は同じです。

****ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人殺害 検察「処刑された」 イスラム過激派が関与か***
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃され、およそ170人が殺害されました。イスラム過激派が関与した可能性があり、検察当局は、「処刑」されたとしています。

AFP通信などによりますと、ブルキナファソ北部のヤテンガ県で先月25日、3つの村が襲撃され、およそ170人が「処刑」されたと現地の検察当局が発表しました。

目撃者の話では、死者のうち、数十人が女性や子どもだったということです。
村を襲撃した集団についてはわかっておらず、ブルキナファソの検察当局は、目撃情報を集めるなど捜査を進めています。

ブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返され、およそ2万人が死亡。200万人以上が避難を余儀なくされるなど治安の悪化が深刻になっています。【3月4日 日テレNEWS】
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“ブルキナファソでは2022年に軍によるクーデターが2回起きたほか、過激派組織「イスラム国」の影響を受けたとみられる武装勢力などが反発を強めていて、現在の暫定政府も国土の半分近くを掌握できずにいるとも伝えられています。”【3月4日 テレ朝news】

日本や欧米で50人が拉致されたり、170人が殺害処刑されたりすれば大騒ぎですが、西アフリカでの出来事となると上記のような簡単なニュースの扱いです。

口にはしなくても“この地域では暴力が一般的なもの”という認識が前提にあるのでしょう。

【過激派対策をフランスに代えてロシアに頼る西アフリカ軍事政権】
しかし、現地の住民、何とか過激派を掃討しようとしている現地政府(政府軍自身の暴力の問題もありますが)にとっては、それではすみません。

ブルキナファソではもともと旧宗主国のフランスが強い影響力を持っていましたが、おととし、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立すると、フランスとの関係が悪化し、駐留していたフランス軍の部隊が去年、撤退しました。

旧フランス植民地のニジェール・マリも同様です。これらの国がフランスに代えて頼っているのがロシア。

****ロシア、ニジェール軍政と軍事協力で合意=国防省****
ロシア国防省は16日、昨年のクーデター以来軍政が支配しているニジェールと軍事面で協力を進めることで合意したと明らかにした。

ロシアの通信各社によると、国防次官2人がこの日、ニジェールのモディ国防相と会談した。

ロシア国防省は「防衛部門における両国間の関係構築の重要性が指摘され、地域安定に向け共同の行動を強化することで一致した」と説明。またニジェール軍の「戦闘態勢強化」に向け対話を継続するとした。ただ、計画の詳細は明らかにしていない。

ニジェールでは2023年7月に軍によるクーデターが発生。バズム大統領の警護隊トップを務めていたアブドゥラハマネ・チアニ将軍が大統領を追放し、新国家元首に就任した。

さらに、軍政はフランス軍を追放し、欧州連合(EU)との安全保障協定を破棄。西側の間では、同地域がロシアによる進出の足掛かりになる可能性があると懸念されている。【1月17日 ロイター】
*********************

軍事クデター政権でもあるニジェール・マリ・ブルキナファソの西アフリカ3ヶ国は西アフリカ諸国経済共同体からも離脱して独自の路線をとろうとしています。名目はより徹底したテロ・過激派対策です。

****
ニジェールなど3か国 西アフリカ共同体の即時離脱を発表****
西アフリカ・ニジェールの軍事政権は、隣国のマリやブルキナファソとともに、周辺国で作る共同体から即時離脱すると発表しました。

ニジェールの軍事政権の報道官は28日、国営テレビで共同声明を読み上げ、隣国のマリ、ブルキナファソとともにECOWAS=西アフリカ諸国経済共同体を即時離脱すると発表しました。

ニジェールでは去年7月、軍によるクーデターが発生して欧米寄りの大統領が排除されたほか、2020年にはマリで、2022年にはブルキナファソでもクーデターが起きて軍が政権を掌握しています。

これらの国々ではイスラム過激派のテロが頻発するなど治安が不安定で、声明ではECOWASが「テロや情勢不安との戦いにおいて、3か国を支援することに失敗した」と非難しています。

また軍事政権発足以降はいずれもロシアへの接近が指摘されていて、マリではロシアの民間軍事会社「ワグネル」が派遣されているとみられています。

一方、ECOWASは声明で、「3か国から正式な通知を受けていない」と明かし、「交渉による解決策を見出せるよう取り組む」としています。【1月29日 TBS NEWS DIG】
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【ワグネルの利権を引き継ぐロシア】
ロシア側の受け皿になっていたが民間軍事会社ワグネルですが、「プリゴジンの乱」で解体しました。しかし、ロシアとしては「アフリカ部隊」を創設して、ワグネルがこの地域で築いた利権をそのまま引き継ぐ考えです。
ニジェール・マリ・ブルキナファソにとっても民間軍事会社からロシア公認の組織への変更は基本的には歓迎でしょう。

****ロシア アフリカで準軍事組織立ち上げ 政府主導で利権確保も****
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の死亡から半年余りとなる中、ロシア政府はワグネルが活動を広げてきたアフリカで、国防省傘下の新たな準軍事組織を立ち上げ、現地での活動や利権の確保などに政府主導で乗り出す動きを見せています。

ロシアはアフリカで、これまで民間軍事会社ワグネルを通じて、リビアやスーダン、マリ、中央アフリカなど紛争やクーデターによって国内情勢が不安定な国々に影響力を拡大してきました。

ワグネルが戦闘員を派遣する一方で、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権のアフリカ戦略と密接に結び付きながら暗躍してきたと指摘されています。

しかし、ワグネルの創設者、プリゴジン氏が去年6月に武装反乱を起こし、その2か月後に搭乗していた自家用ジェット機が墜落して死亡する事態となり、アフリカでのロシアの動向が注目されていました。

ロシア政府は去年秋ごろに、ワグネルに代わって国防省の傘下に位置づける「アフリカ部隊」と呼ばれる新たな準軍事組織を立ち上げ、アフリカでの活動や利権を引き継ごうとしていると指摘されています。

アフリカ部隊はマリやリビアですでに活動を開始したとみられているほか、ことし1月には、西アフリカのブルキナファソにおよそ100人の部隊を派遣したと発表しています。

アフリカ部隊は去年12月の時点で、指揮官を含む構成員のうち、およそ半分がワグネルの元メンバーだとみずから公表しています。

一方で、新たな人員の獲得に力を入れていて、SNS上には、「高額な給与」や「医療費などの給付」をうたって人材を募集する広告が頻繁に投稿されています。

アメリカのメディア、ブルームバーグはロシア国防省の関係者の話として、アフリカ部隊は最大で2万人の要員を確保しようとしていると伝えています。

ロシアとしては政情不安が続くアフリカ諸国などに対し、民間軍事会社を間に挟んだ関与から、政府主導のより直接的な関与へと切り替え、影響力を広げていこうとしているとみられます。

専門家“ワグネルが築き上げた利権乗っ取ろうとしている”
 ロシアのアフリカでの活動に詳しい専門家は、ロシア政府はアフリカでワグネルが築き上げてきた軍事的、経済的な利権やネットワークを乗っ取ろうとしていると指摘しています。

日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ロシアの政府と軍が、アフリカに展開していたワグネルの乗っ取りを本気で進めていることが明らかになってきている。民間軍事会社が主導するのではなく、政府が主導することで軍事や情報、それに経済などの活動をより一体化して展開していこうとしているようにみえる」と指摘しました。

その理由について、「ロシアが国家としてアフリカの紛争に介入することは、さまざまなリスクがあるものの、アフリカの少なからぬ国には親ロシアの体制ができていて、金鉱山などからの利益をウクライナでの戦争の軍資金にも充てられている。リスクを上回る利益を見いだしているといえる」と分析しています。

また、小林主任研究員は、テロや治安の悪化に悩むアフリカ諸国にとってもロシアは頼れるパートナーになっているとする一方で、「ロシアが国家として関与することになれば、アフリカの国としてはプーチン政権からお墨付きを得たととらえて、人権侵害につながる活動をちゅうちょしなくなるおそれがある」と述べて、テロ対策の名のもとに市民への抑圧や暴力が助長されるおそれがあると指摘します。

アフリカでは2020年以降、かつてフランスの植民地だった西アフリカの国々などでクーデターが連鎖的に起きていて、その周辺でも政治情勢が不安定となる国が増えています。

小林主任研究員は「西側諸国がクーデターを起こしたり、強権化した国を排除しようとしたりすればするほど、彼らはロシアに近づいていく。そうした国々への関与と対話を継続し、ロシアの介入をはねのける努力を続けていくことが必要となっている」と述べ、日本や欧米などの各国や国際機関がアフリカに関与し続けることが重要だと強調しました。

ロシアとの関係 急速に深めるブルキナファソは
このところ、ロシアとの関係を急速に深めている国の一つが西アフリカのブルキナファソです。

サハラ砂漠の南側のサヘル地域にある内陸国で、人口はおよそ2200万です。 もともと旧宗主国のフランスが強い影響力を持っていましたが、おととし、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立すると、フランスとの関係が悪化し、駐留していたフランス軍の部隊が去年、撤退しました。

代わってブルキナファソ政府が接近したのがロシアです。

去年7月にロシアで開かれたアフリカ諸国との首脳会議では、プーチン大統領とブルキナファソのトラオレ暫定大統領が個別に会談を行い、安全保障や食料問題などでの協力を確認しています。

その後、双方の政府や軍の高官が往来を重ね、ことし1月には、ロシア国防省傘下の準軍事組織「アフリカ部隊」の隊員、およそ100人がブルキナファソに到着し、政府軍の兵士の訓練などを行っています。

先月、NHKの取材班がブルキナファソの首都ワガドゥグを訪れたところ、街のあちこちにロシアの国旗が掲げられ、国をあげてロシアの支援を歓迎している様子がうかがえました。

日中は強い日ざしが照りつけ、気温が40度近くになりますが、日が暮れて暑さが和らぐと、街の広場に連日、ロシアを支持する若者たちが集まります。

若者たちはスマートフォンを使ってSNSの動画中継をしながら、ロシアとの連携がいかに重要かについて主張を展開していました。

参加者の1人は「ロシアからの武器が私たちの国に実際に輸入されてきています。まさに互恵的でウィンウィンの関係です。フランスなどこれまでのパートナーは不誠実で、問題が多かったのです」と話していました。
ブルキナファソの人々がロシアの軍事支援に期待を寄せる最大の理由が治安の深刻な悪化です。

ブルキナファソでは2015年ごろからイスラム過激派が活動を活発化させ、テロや襲撃事件が頻発しています。

世界各地の武力紛争のデータを集計している非営利調査団体ACLEDによりますと、去年1年間でおよそ8500人が殺害されたということです。

また、住む家を追われて国内で避難している人も200万人を超えています。

ワガドゥグの郊外で避難生活を続けているベレム・アダマさん(37)は、ことし1月に住んでいた村が過激派に包囲されました。

すぐ近くの集落が襲われ、村人が殺されたり家に火をつけられたりしたため、家族を連れて着の身着のままで村を離れたといいます。

アダマさんには3人の妻と15人の子どもがいますが、避難場所では、時々入る日雇いの仕事以外に収入はなく、食料を確保するのにも苦労しています。 そのため、大人は1日1食ほどで我慢し、子どもになるべく多く食べさせるようにしているということです。

アダマさんは「家畜の牛やバイクもすべて村に残し、せめて命だけでも守ろうとここに逃げてきました。ロシアがテロリストとの戦いを支援し、皆が早く自分の村に戻れるようになってほしいです」と話していました。

安全保障の専門家で、トラオレ暫定大統領のアドバイザーも務めているサミュエル・カルクームド氏は「ロシアとの協力関係は非常に重要で、われわれの軍はそのおかげで高性能の武器を備え、よりよい訓練も受け、テロと戦えるようになっている」とロシアとの関係を高く評価しています。

一方で、マリや中央アフリカなどの周辺の国では、ロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊が市民の殺害に関与したなどと指摘されていることについては、「テロとの戦いにおいては、残虐な行為が行われることも、その国の人々が支持しているのであれば、仕方ない場合もある。ただ、われわれが協力しているのはよう兵部隊ではなく、ロシア政府と軍なのです。それが政府の方針です」と話していました。【3月2日 NHK】
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