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(中国政府によって拘束、あるいは保護されているパンチェンラ・ラマ11世となるべきニマ氏は、4月25日で21歳になりました。写真はロンドンの中国大使館前での抗議行動 “flickr”より By Tibet Society
http://www.flickr.com/photos/tibetsociety/4554706306/)
【「最年少の政治犯」】
チベット問題のカギを握る人物は、言うまでもなくチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世です。
そのダライ・ラマ14世も高齢になっており、後継者をどうするのかが重要な問題となっています。
****ダライ・ラマ14世:75歳に インド北部で祝賀式典*****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は6日、75歳になった。亡命政府のあるインド北部ダラムサラで誕生日を祝う式典に参加したダライ・ラマは、亡命チベット人ら約2000人を前に「ありがとう」と短く感謝の言葉を述べた。
式典では来年3月の亡命議会選挙をもって退任するリンポチェ首相が、ダライ・ラマが中国から亡命するにいたった歴史を振り返り、「(誕生日は)世界中から祝福されている」と訴えた。
ダライ・ラマの後継を巡る問題は、議会選挙で新たな亡命政府が発足した後に議論が本格化する見込み。【7月7日 毎日】
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チベット仏教では、ダライ・ラマの転生についてはダライ・ラマに次ぐ重要の存在であるパンチェン・ラマが、パンチェン・ラマの転生についてはダライ・ラマが中心になってその転生者を探す慣わしになっています。
しかし、ダライ・ラマの転生者(生まれ変わり)を探すべきパンチェン・ラマに、中国政府が大胆に介入している事情は08年4月27日ブログ「チベット 消息不明のニマ氏(パンチェン・ラマ11世)19歳の誕生日」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080427)などでも取り上げたところです。
ダライ・ラマ14世から1995年にパンチェン・ラマの転生(生まれ変わり)と認定されたニマ少年(当時6歳)は、その発表の3日後、両親とともに中国政府により身柄を拘束され、以後消息は分かっていません。
ニマ少年は「最年少の政治犯」とも呼ばれていました。
中国政府は「ニマ少年が分離主義者に誘拐される危険があり、身の安全が脅かされているため両親の希望で拘束した」と発表しています。また、中国当局によれば、ニマ少年(すでに“少年”という年齢は過ぎましたが)の両親は国際的な著名人やメディアが少年の人生に入り込んで欲しくないと考えているそうで、ニマ少年も平和な生活を見知らぬものに邪魔されたくないと考えているそうです。
更に、中国政府は後に独自にギェンツェン・ノルブという6歳の少年をパンチェン・ラマ11世と認定しています。(どういう資格で中国政府がそうした転生者の認定が可能なのかはわかりませんが)
【「中央政府の承認がなければ違法だ」】
その中国政府が擁立したパンチェン・ラマ11世(ノルブ氏)の活動が最近活発になっています。
高齢になったダライ・ラマの死後、あるいは後継者選定をにらんだ中国側の意図があるように思えていたのですが、ちょうど同じ趣旨の記事がありました。
****中国:ダライ・ラマ後継、布石 ノルブ氏権威付け強化、「パンチェン・ラマ争い」攻勢*****
中国政府がチベット仏教第2の活仏、パンチェン・ラマ11世に認定したギャインツァイン・ノルブ氏(20)が宗教活動を活発化させている。中国から逃れてインドに亡命したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)の後継選びに向けた布石とみられる。
ノルブ氏はチベット自治区ラサのジョカン寺(大昭寺)で4日、00年3月に死去した中国仏教協会チベット支部会長のデジュッブ5世の転生(生まれ変わり)を選定する儀式を営んだ。チベット仏教で転生選びは極めて重要な儀式。ノルブ氏が実施したのは初めてだ。
これについて中国当局は、活仏転生に関する政府規定に従って行われたと強調。一方、ダライ・ラマは「ダライ・ラマ制度の存続を含めてチベットの民衆が決めるべきだ」と中国政府主導の転生選びをけん制していた。
中国政府によるノルブ氏の権威付けは今年に入って本格化していた。2月には初の公職である中国仏教教会副会長と国政助言機関の中国人民政治協商会議(政協)の全国委員に選出された。6月には歴代パンチェン・ラマが座主を務めたチベット自治区シガツェのタシルンポ寺で初説法を行った。
歴代パンチェン・ラマはダライ・ラマの死後に転生選びなどの宗教活動で重要な役割を果たしており、今回のノルブ氏の転生選定はダライ・ラマ14世の死後を視野に入れた権威付け、実績作りとみられている。
そもそもパンチェン・ラマ11世を巡っては、95年にダライ・ラマが別の少年、ゲドン・チョエキ・ニマ少年の転生認定を発表し、これに反発した中国政府がノルブ氏を立てて後継争いが続いてきた。
しかし、ニマ少年は現在も、中国当局の厳しい監視下で暮らしているとみられ、パンチェン・ラマ11世として活動するのは難しそうだ。ダライ・ラマ14世の転生選びでも同様の事態が懸念されている。
中国政府は6月末に一部外国メディアをチベット自治区に招いてタシルンポ寺も公開した。ダライ・ラマを含む活仏転生について、カク鵬・同自治区副主席が「中央政府の承認がなければ違法だ」と強調するなど後継争いを意識した発言が目立った。【7月8日 毎日】
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ノルブ氏が初説法を行ったタシルンポ寺は、1日、外国メディアにも公開されています。
****政府認定の正統性力説=パンチェン・ラマの寺院―チベット****
チベット仏教第2の高位者、パンチェン・ラマ11世(20)が座主を務める中国チベット自治区シガツェのタシルンポ寺が1日、外国メディアに公開された。11世は姿を現さなかったが、同寺管理委員会主任のニエンジャ師は「11世は教義にのっとって中央政府が認定し、僧侶も信者も皆、信奉している」と正統性をアピールした。
同師はチベット仏教最高指導者でインドに亡命しているダライ・ラマ14世(74)がパンチェン・ラマ11世に認定した別の男性について「中央政府の認定がなく、本物ではない」とし、消息も明かさなかった。「中央政府は歴代パンチェン・ラマと密接な関係を保ち、寺の修復にも多額の資金を提供している」と政府の支持を強調した。【7月1日 時事】
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中国政府のやり方は犯罪的と言えるほど強引であり、宗教権威を中央政府が認定するという論理も意味不明ですが、ポスト・ダライ・ラマに向けた中国政府の布石が着々と進んでいるようです。
【“チベットを担う若きリーダー” カルパマ17世】
なお、チベット側のポスト・ダライ・ラマ対策として、“チベットを担う若きリーダー”カギュ派の活仏カルパマ17世の存在があることは、09年3月5日ブログでも取り上げたところです。
ダライ・ラマの後継者をこれから探すにしても、成長してリーダーに育つまで二十年ほどの時間が必要です。
そこで、カギュ派の活仏カルパマ17世が摂政として、その間の実質的リーダーを担うという考えです。
ただ、ダライ・ラマはチベット仏教の最大宗派であるゲルク派の指導者ですが、カルパマ17世は宗派的にはライバル関係にあるカギュ派の活仏です。若く、人望・カリスマ性もあって、ダライ・ラマ亡き後のリーダーとも目されているカルパマ17世ですが、ライバル宗派という関係がどうなるかという問題があります。
中国政府側の対応が進むなかでは、そんなことを言っている場合ではないように思えるのですが。