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(2月17日 コソボ独立2周年を祝う人々 “flickr”より By Ivan S. Abrams
http://www.flickr.com/photos/trainplanepro/4365949500/)
【没交渉状態にある両国の関係再構築に向けた試金石】
コソボがセルビアからの一方的独立を宣言してから2年半が経過します。
めまぐるしく移り変わる世界にあって、遠いヨーロッパでの出来事でもあるコソボ独立はすでに“過去の話”というのが正直な印象ですが、セルビアはいまだコソボの独立を認めていません。
そのコソボ独立に関する国際司法裁判所の判断が下されるそうです。
****コソボ:一方的な「独立」、国際司法裁が合法性判断へ*****
コソボによるセルビアからの一方的な「独立」の合法性について、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が22日、初めて判断を下す。08年2月の独立宣言から約2年半。既成事実を盾に独立を維持する構えのコソボに対し、セルビアは外交圧力によって独立の引き延ばしを図る方針。ICJの判断は、没交渉状態にある両国の関係再構築に向けた試金石になる。
「コソボの独立はいまや不可逆的であり、(是非についての)交渉は必要ない」。先に最大の同盟国・米国を訪問したコソボのサチ首相は、ICJの判断を前にこう語った。これまでに欧米や日本など69カ国から国家承認を取り付けた自信が背景にある。
コソボは住民の多数派がイスラム教徒のアルバニア系だが、第2次大戦後は旧ユーゴスラビア連邦の中で、セルビア正教を中心とするセルビア共和国の一自治州だった。90年代末からのセルビア人武装勢力と激しい武力紛争を経て、北大西洋条約機構(NATO)軍の軍事支援で独立に至った経緯がある。
一方、セルビアにとって、中世セルビア王国の中心地だったコソボは不可分な地とされる。セルビアのイエレミッチ外相は「一方的な独立宣言を認めない方針は変わらない」と断言した上で、交渉による妥協の必要性にも言及。ICJの判断を受け、独立問題が再び国連総会の場で協議される機会を利用し、外交圧力によってコソボから妥協を引き出す考えを示した。
コソボも交渉には反対していない。だが、コソボの法的地位自体を議題にするよう求めるセルビアに対し、コソボ側は独立を認めた上での技術的問題を話し合うべきだと主張。両者の見解は平行線をたどっている。
ただ、両者とも欧州連合(EU)加盟による経済再建と外資増加を強く期待している点では共通している。関係改善なしにEU加盟は困難なことから、ICJの判断が新たな外交交渉を後押しする可能性も指摘されている。【7月22日 毎日】
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「コソボの独立はいまや不可逆的であり」というのはもっともなことで、今更IJCが「独立は違法」と判断してもどうにもならないし、事態はますます混乱するだけ・・・という感があります。
「独立は合法」との判断がでれば、セルビアが方針を変更して、独立を認めたうえでの両国間の交渉に入るというのであれば意味がありますが。
【“コソボの独立宣言自体は事実行為”】
今回のICJの判断は、そもそもセルビアが求めたものです。
2008年10月8日、国連総会は、セルビアが提出した、「コソボ暫定自治政府による一方的独立宣言の国際法上の合法性如何。」との諮問内容のICJ勧告的意見を要請する旨の決議を採択しました。
これを受け、ICJは、この問題について国連及びその加盟国が陳述書を提出することが可能とし、その提出期限を2009年4月17日に決定しました。
日本政府もコソボ独立を支持・正当化する陳述書を提出しています。
“コソボの独立宣言自体は事実行為であり、これを規律する国際法はないと解されること、また、コソボの分離独立については、国連を中心とする国際社会の深い継続的関与に特徴付けられた特殊性にかんがみ正当化され得るものであり、関連の国連安保理決議を含め、国際法に照らしても問題はないと考えられる”というのが、日本政府の陳述書骨子です。【外務省ホームページより】
【「欧州最貧国」】
今更逆戻りはできませんし、独立当時の民族対立・相互不信・憎悪・暴力を考えると、独立もやむを得ない選択であったと個人的には考えていますが、独立を果たしたコソボの内情は厳しいものがあります。
冒頭記事には“欧米や日本など69カ国から国家承認を取り付けた自信”とありますが、逆に言えば、いまだそれだけの国からの承認しか得ていないとも言えます。
****経済深刻、進まぬ国家承認=独立宣言から2年-コソボ****
旧ユーゴスラビアのコソボがセルビアからの独立を宣言してから(2月)17日で2年となった。依然として汚職、犯罪など課題は尽きず、国家づくりは難航。国際社会からの国家承認も進まない上、経済は外国からの支援に頼ったままで、「欧州最貧国」から抜け出す道筋は見えてこない。
ロイター通信によると、イタリアの駐コソボ大使は「国際社会が援助を続けるだけでは経済問題は解決しない。支援依存の悪循環から脱却する必要がある」と述べ、コソボに自立を促した。しかし、輸出額は輸入額のわずか10分の1。失業率は40%に達しており、展望は一向に開けない。
一方、セルビアやロシアは独立を認めず、国家承認した国は国連加盟国の3分の1にすぎない65カ国。過去1年間に承認した国は11カ国にとどまり、国際社会入りを目指すコソボにとって痛手となっている。ヒセニ外相は「未承認国は、国際司法裁判所が独立の合法性に関する判断を示すのを待っている」との見方を示している。【2月17日 時事】
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「未承認国は、国際司法裁判所が独立の合法性に関する判断を示すのを待っている」ということで、ICJの合法判断があれば、承認国は増加するでしょう。
もっとも、ICJは“事実行為”たる国家独立について、“合法”“違法”という明確な判断を出せるのでしょうか?(こうしてブログを書いている間にも、判断内容の報道が流れるのでは・・・という段階ですが、今のところはまだ何も報じられてはいないようです。)
【民族和解に向けて】
重要なのは、当地においていまだ民族間の不信・憎悪が収まっておらず、暴力行為もなくなっていないことです。
****コソボ:セルビア系帰還者に発砲も 家族殺害の恨みなお*****
セルビアから独立して約2年半を経たコソボで、少数派セルビア系難民などの帰還に対し、多数派アルバニア系住民の反発が続いている。両者とも悲惨な衝突の記憶はぬぐい難く、民族和解の第一歩となる難民帰還への道はなお険しい。「コソボ独立」の合法性に関する国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)の22日の初判断を前に、現地を訪ねた。【ザルチ(コソボ西部)で樋口直樹】
首都プリシュティナから西へ車で1時間余り。のどかな農村ザルチに入ると、セルビア系帰還者のテント群が現れた。背後には、戦時中に焼き打ちされた民家の廃虚。壁には新しい弾痕が刻まれていた。道路の入り口にはパトカーが止められ、数人の警官が目を光らせている。
「夜中に突然、自動小銃のようなもので撃たれた。その前にはここから出て行くよう何度も抗議され、投石もあった」。ここで暮らす22家族の代表デルレビッチ・ネボシャさん(45)は、4月から5月にかけて続発した地元アルバニア系住民の抗議行動と、これに続く投石、銃撃事件を言葉少なく振り返った。
セルビア・メディアによると、コソボからのセルビア人勢力排除を狙った北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆(99年3~6月)などでコソボを離れ、難民登録しているセルビア系住民は約20万人(09年8月現在)。ネボシャさんらは今年3月末、避難先のセルビアなどから帰還した。
村を出たのは99年6月。「アルバニア系住民に何をされるか分からない」という恐怖感からだったが、「どうしても生まれ故郷に戻りたい」と、帰還に踏み切ったという。
だが、地元のアルバニア系住民も同じ恐怖を味わってきた。セルビア系帰還者の仮設テントから数十メートル離れた場所で暮らすベック・カルマンディさん(53)は、セルビア支配下の98年夏、セルビア人警官から「ここはセルビア人の国。すぐに出て行け」と脅迫され、99年5月まで別の村で避難生活を送った。
この間、カルマンディさんは自分の母親と妻、当時8歳だった息子、さらにいとこまでセルビア人武装勢力に殺され、自分も足を撃たれて不自由な生活を強いられたという。「暴力には反対だ。でも、私はセルビア人と一緒に暮らすことはできない」と唇をかんだ。
紛争発生前の村の人口は約1400人。NATO空爆を受けた旧ユーゴスラビア軍の撤退に伴い、セルビア系住民のほとんどが流出したため、現人口は最大で800人程度にとどまっているという。【7月20日 毎日】
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暴力の嵐を経験したセルビア系・アルバニア系両住民の心の傷を癒すには、2年半ではなくもっと長い数十年という年月が必要なのかも。
今回のICJ判断・・・というよりは、それに対するセルビア・コソボ両国の反応が、セルビア系・アルバニア系両住民融和に向けた長い道のりの「始まり」の入り口を開くものであってもらいたいものです。
(P.S.)
先ほど入ったニュースによれば、ICJはコソボ独立を認めたそうです。
****コソボ独立「国際法に違反せず」 国際司法裁が判断****
2010年7月22日(木)23:28
国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)は22日、2008年2月のコソボによるセルビアからの独立宣言が「国際法に違反しない」との判断を示した。判断は法的拘束力のない「勧告的意見」だが、独立を合法と認めたことで、コソボが国際社会で独立国家として承認されることに道が開かれた。【共同】
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