孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ封鎖緩和  なおも困難な生産活動の復興

2010-07-13 23:40:16 | 国際情勢

(昨年9月 ガザの果物店 イスラエルによる封鎖下でも「トンネル」密輸で商品は入ってきていたようです。
ただ、価格は高くなります。 “flickr”より By omar shala
http://www.flickr.com/photos/43575175@N03/4184947958/)

【搬入許可品リストから禁輸品リストへ】
パレスチナ・ガザ地区の経済封鎖を行ってきたイスラエルは、ガザ支援船団強襲事件への国際批判をかわすため、また、ネタニヤフ首相が訪米してオバマ大統領と会談するのに先立ち、イスラエルとしても努力していることをアピールする「手土産」として、6月20日、ガザ地区封鎖を一部緩和する措置を発表しました。

****イスラエル:ガザ封鎖緩和、民生品の搬入許可へ 首相発表*****
イスラエルのネタニヤフ首相は20日、07年6月以降続くパレスチナ自治区ガザ地区の封鎖を同日付で緩和すると発表した。武器や軍事用に転用可能な物資を除き、「すべての民生品」の搬入を許可するという。
首相府が声明を発表した。先月末、ガザへの支援物資を積んだ船団をイスラエル軍が急襲し、世界から厳しく批判されたのを受け、政府が17日、封鎖の一部緩和を決めていた。

これまでは、人道支援物資など約100品目の搬入許可品リスト(非公表)を定めていたが、今後は禁輸品リストを発表し、リストにない品目すべての搬入を認める。
搬入が強く望まれていたセメントなど建設資材は、国連による学校建設事業などに限って認められた。イスラエルの攻撃で破壊された街の再建につながるかは微妙だ。また、「(地区を実効支配するイスラム原理主義組織)ハマスが戦闘能力を高めることにつながる物資」の流入を阻止する方針に変わりはなく、海上からガザへ物資の直接搬入も認められなかった。

住民のガザ地区からの移動については「(治安)状況が改善すれば、出入りの方法を検討する」と述べるにとどまった。AP通信によると、ハマス幹部は発表を「詐欺」と非難。「農工業に必要な原材料やセメント、鉄などを搬入し、世界とガザの輸出入を再開する必要がある」として、封鎖の全面解除を求めた。【6月21日 毎日】
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民間住宅復興に必要なセメントなどの建設資材に制約が課せられている問題がありますが、これまでに比べれば「一歩前進」ではあるでしょう。
国際社会は、概ね今回の緩和を歓迎しています。

****ガザ封鎖緩和…米露、EU、国連が歓迎声明*****
中東和平を後押しする米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の4者は21日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザの封鎖緩和を発表したのを受け、「歓迎すべき進展」と評価する声明を発表した。
一方、イスラエルのバラク国防相は同日、国連本部で潘基文事務総長と会談した。レバノン当局が21日、ガザに向かう支援船の出港を許可したと指摘し、記者団に「無責任だ。暴力に結びつく摩擦が生じかねない」と批判した。【6月22日 読売】
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今回緩和によって、これまでエジプトからの「トンネル」経由の密輸入に頼っていた商品の価格は下落しているようです。
また、「トンネル」密輸業者は需要が減少して苦境に陥っているとも。
「トンネル」の掘削工事、「トンネル」経由の物品搬入に対してハマスは課税を行っており、ハマスの財政状況はこの「トンネル」課税で潤っているとも言われています。その意味で、今回緩和措置による「トンネル」物流の衰退は、ハマスにとっては痛手になるのかも知れません。

【入手困難な原材料】
イスラエル製消費財が流入するようになったのに対し、ガザの地元業者が必要とする原材料の入手は困難な状態が続いており、地元産業の生産活動復興にはつながっていない、むしろイスラエル製商品流入でますます困難になっているとも報じられています。
****ガザ地区:封鎖緩和されたが…ものづくりによる復興課題に****
イスラエルによる封鎖措置が緩和されたパレスチナ自治区ガザ地区を6~8日に訪れた。搬入される生活物資などの量は以前より約3割増加し、食料品が値下がりするなど一定の効果が見られるものの、「ガザの経済復興につながらない」との不満が渦巻いていた。

ガザ市内最大のスーパー「サッカ」では、コーンフレークやジャムなど食料品の小売価格が2~4割下がった。今後も搬入量が増える期待から、仕入れ価格が下がっており、共同経営者のサッカさん(25)は「1日ごとに仕入れて、在庫を抱えないようにしている」と話した。
ガザへの物資搬入をイスラエルと調整する自治政府の担当者によると、これまで搬入できるのは食料や医薬品に限られていたが、新たに家具や電化製品、文具なども対象となり、品目は約10倍に増えた。物価が下がったことに加え、商業分野の雇用が増加しており、今回の緩和を「前進」と評価する声が聞かれた。
    
一方、「ガザに入ってくるのは消費財のみ。結局はイスラエル企業がもうかるだけだ」と怒りをぶちまけるのは、パレスチナ工業会のエルハイク会長だ。原材料を入れて生産活動を立て直さない限り、現金流出が続き、地域経済は崩壊する。実際、エジプト国境のトンネル密輸品などで細々と衣料、家具、炭酸飲料を製造していた工場が、イスラエル製品の流入で廃業に追い込まれたという。(中略)

イスラエル政府は、イスラム原理主義組織ハマスが武器庫などの建築に使うとして民間事業用の建築資材搬入を認めていない。自ら建築資材会社を経営するエルハイク会長は、「イスラエルが主張する『ハマス』には根拠がなく、ガザの経済破壊が狙いだ。実際、登録業者が国際機関の事業のために輸入した資材の最終使途は、きちんと管理・報告している」と主張する。失業率がほぼ5割にのぼるガザでの雇用確保には、民間住宅の再建事業が不可欠だという。【7月11日 毎日】
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【輸出ストップは変わらず】
原材料の生地や糸などは一応輸入できる形にはなったと思われますが、実際何がどれだけガザ地区へ入ってくるのかは、今後の運用次第でしょう。
仮に原材料の制約がクリアされたとしても、もうひとつ問題があります。
今回緩和は、ガザ地区からの輸出については何もふれていません。
作っても輸出できないとなると、生産活動は回復しません。

カザ境界が封鎖された07年6月以降の3年間で、ガザから商品を積んで出たトラックの総数は300台に満たないそうで、これは封鎖前の4日分程度にすぎないそうです。
こうした輸出のストップで、ガザにある工場の9割以上が操業停止か、最低限生産能力での稼働に陥っています。
長い経済封鎖によって、ガザ地区住民の購買力は低下しており、生活費需品の購入で精一杯なため、生産品の販路をガザ地区内に求めるのも困難な状況です。【7月14日 Newsweekより】
イスラエルによる「生かさず、殺さず」といったガザ地区への対応は、一部緩和以降も続いています。

【アメリカ、直接交渉支持へ】ところで、オバマ大統領への「手土産」が功を奏したのか、アメリカはイスラエル・ネタニヤフ首相の主張するパレスチナとの直接交渉入りを支持しました。その後、オバマ大統領は、直接交渉を渋るパレスチナ自治政府アッバス議長への圧力を強めているようです。

****米大統領、パレスチナ議長に交渉受諾迫る?*****
米ホワイトハウスによると、オバマ大統領は9日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と電話で会談し、米国が仲介するパレスチナとイスラエルの間接和平交渉を直接交渉に進展させる方策を協議した。
今月6日、ネタニヤフ・イスラエル首相と会談したオバマ大統領は、今年9月までに直接交渉を再開させる意向を示し、首相もこれに同意したが、議長側は、将来のパレスチナ国家の首都とみる東エルサレムでの入植活動をイスラエルが完全凍結しない限り、直接交渉には参加しないと主張している。
大統領は電話で、パレスチナ国家樹立にはイスラエルとの直接交渉が不可欠と強調して、議長に交渉受諾を迫った模様だ。【7月10日 読売】
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直接交渉はもともとイスラエルが望んでいた形です。
“オバマ大統領が中東和平で「秋には直接交渉に移行したい」との意向を示したのも(ネタニヤフ)首相の意向に沿うものだ。イスラエルは、直接交渉の方がオバマ政権からの圧力を受けにくく自国に有利だと見ている。さらに、直接交渉を始めてしまえば、9月下旬の入植地建設の凍結期限を延長しなくていいと考えているからだ。”【7月7日 毎日】

以前、ガザ侵攻に対する国連人権理事会でのイスラエル非難決議について、アッバス議長はアメリカからの要請を受け入れて延期に同意するという失態を犯したこともあります。この時はハマスやファタハ内部からも「イスラエル追及を自制した」との批判を受け、釈明に追われることになり、結局、延期同意を撤回しましたが、議長の信頼は大きく傷つきました。
イスラエル支が入植活動の部分的・一時的停止措置の延長は行わないとしているなかでの直接交渉入りは、パレスチナ内部から大きな批判にまたさらされることが懸念されます。

コメント
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