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(多くの死傷者を出した08年5月の移民排斥運動 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/2523578806/)
【アフリカの一体感と移民排斥】
ネルソン・マンデラのもとで白人支配体制・アパルトヘイトを廃止に追い込み、アフリカ最大の新興国として経済発展を遂げる南アフリカ。
「ブラックダイヤモンド(黒いダイヤ)」と呼ばれる黒人中間層の台頭も著しいことが伝えられています。
もちろん、長年の人種対立がそう簡単に克服できる訳でもなく、いまだに富の相当部分が一部白人に握られている問題や、黒人優遇策の逆差別による貧困白人層の問題など、多くの課題が残されています。
また、教育や職業スキルを持つ黒人エリート層と、十分な教育機会を与えられなかったアパルトヘイト時代の後遺症を今も引きずる大多数の一般市民の間で、貧富の差が拡大するという黒人の間での格差拡大も大きな問題です。
そして、もう一つの問題が移民の問題です。
先のサッカー・ワールドカップ(W杯)では、「アフリカ人であることを祝おう」とのスローガンのもと、南アチームだけでなく、ガーナなど他のアフリカチームの応援で“アフリカ”としての一体感が大いに盛り上がったとも報じられていますが、一方で、南ア国内には周辺国からの移民を排斥する雰囲気も強くあります。
****南アフリカ:W杯「特需」去り、強まる移民排斥 マンデラ財団も懸念表明****
サッカー・ワールドカップ(W杯)が閉会したばかりの南アフリカで、「職を奪われる」などの理由から移民排斥の動きが高まっている。ズマ大統領が「安定と団結」を呼び掛けるなど沈静化を図っているが移民の不安は解消されていない。18日は人種を超えた融和を呼び掛けたマンデラ元大統領(92)の誕生日で、国連が昨年、「ネルソン・マンデラ国際デー」に制定した。ネルソン・マンデラ財団は一連の移民排斥の動きに懸念を表明している。
W杯決勝戦があった11日、西ケープ州で、南ア住民が移民を襲撃。ソマリア系移民が経営する商店が略奪に遭うなど約70人が地元警察署に避難した。周辺は失業率が約25%と高い。W杯期間限定の短期雇用が終了する不安から移民に暴力をふるったとみられる。
隣国ジンバブエからの移民には母国へ戻る現象も生じている。ジンバブエからは08年の大統領選を巡る混乱により大量の移民が流入している。
ズマ大統領はこのほどW杯成功で信頼を得た南アのイメージを損なうと強く非難。「外国籍住民を傷付けようとする邪悪な行為や計略を孤立させよう」との声明を出した。
南アでは元々、移民に対する暴力が横行していた。08年5~6月には巻き添えの南ア住民も含め、約60人が殺害され、約10万人の移民が一時的に住まいを追われた。今年1月にはムプマランガ州で行政サービス向上を求める抗議デモが暴徒化。移民らの店舗が襲撃された。
W杯期間中から移民への暴力は憂慮されておりネルソン・マンデラ財団は先月末、「憲法は外国人を含む市民の権利を保障している」との声明を出した。【7月19日 毎日】
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【安易な移民利用政策】
南アフリカの移民、特に経済崩壊したジンバブエからの移民については、先月NHKの番組で取り上げていました。
****アフリカンドリーム 第3回 移民パワーが未来を変える*****
サッカーW杯を前に盛り上がりを見せるアフリカ最大の経済大国、南アフリカ。いま、周辺諸国との大きな格差をエンジンに経済成長を加速させている。パスポートがなくても事実上自由に入国できる新たな制度を打ち出した結果、経済破綻した隣国ジンバブエの移民が大量に南アフリカに流れ込むようになった。「安くて良質」と言われるジンバブエの人材が急増し、さらなる経済の飛躍を遂げているのだ。しかし、その一方で、南アフリカの黒人たちの失業率が高まったため、過激な移民排斥運動も起きるようになり、治安がどんどん悪化している。
もともと多くの民族が共存し、国家という意識が薄かったアフリカ。最近、人や金・モノの国境を取り払い、大きな経済圏を作って共に成長を目指すという動きが加速している。番組では、国境を超えて入国してくるジンバブエ人移民を密着取材するとともに、彼らを取り込もうとする南アフリカの企業や大規模農場を取材。ボーダレス化の流れが社会をどう変えていくのか、見つめる。【NHK公式サイトより】
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国内の労働賃金の高騰を背景に、積極的にジンバブエなど周辺国からの移民を取り込み、その安価な労働力で経済発展を更に推し進めようとする政府の施策がうかがえる内容でしたが、こうした政策は、当然に国内貧困層との競合を招き、移民排斥を激化させます。
移民そのものを否定する考えはありませんが、南アフリカの場合、あまりにもそうした面への配慮なしに、単に安価な労働力を入手するという考えだけで移民を受け入れ、結果として移民排斥の問題を引き起こしているように見えます。
【日本もやがて直面する問題】
グローバル化にともない人の流れが激しくなるなかで、移民問題は多くの国を悩ます問題となっています。
欧州各国でも、経済危機で余裕を失っていることもあって、多くの国で移民への反発が強まっています。
日本は現在ほとんど門戸を開いていません。インドネシアやフィリピンからの看護・介護職の人材受け入れについても、高いハードルを設定して事実上日本への定着を拒否しているようにも見えます。
それでも、日系の移民との間での文化的軋轢や、不況の際の雇用停止などの問題は出ています。
今後、日本の労働人口は間違いなく減少します。
移民を本格的に受け入れる時代がやがて到来するのではないでしょうか。
問題は多々生じますが、異質なものを排除するという方向ではなく、なんとか折り合いをつけていく叡智を期待したいものです。