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(6月26日 ソウル 街頭の大型スクリーンでW杯・ウルグアイ戦を観戦する親子 「断固たる措置」を取る姿勢を示した李大統領ですが、韓国国内では北朝鮮との緊張の高まりを望まない声が強いとも報じられています。6月の統一地方選挙でも与党は敗北しています。
“flickr”より By redhawk1700 http://www.flickr.com/photos/redhawk1700/4737982674/)
【直接の名指しは避ける議長声明】
韓国の哨戒艦天安(チョンアン)沈没事件については、先月26日のカナダ・ムスコカでの主要8カ国首脳会議(G8サミット)の首脳宣言では、「合同調査団は北朝鮮に責任があると結論を出し、その文脈で攻撃を非難。事件の説明責任を追及する韓国を支持」としていますが、当然ながら中国はこのG8には加わっていません。
国連の安全保障理事会では、北朝鮮を名指しした強い非難を求める日米韓に対し、北朝鮮を追い詰めることで朝鮮半島の不安定化を懸念する中国が慎重姿勢を崩さず、1カ月以上が経過、協議は足踏みしていました。
そうしたなか「北朝鮮へのメッセージを早く出すべきだ」との機運が強まり、安全保障理事会は8日、中国に配慮して決議より弱い議長声明とし、「事件に無関係だ」と訴える北朝鮮の主張にも触れ、北朝鮮名指しは避ける形で「沈没を招いた攻撃」を非難する議長声明で合意しました。
“11項目からなる声明は、まず「哨戒艦沈没につながった攻撃を非難する」としたものの、攻撃の主体は明示せず北朝鮮を名指しする表現は避けた。その一方で、事件を北朝鮮の攻撃と結論づけた、韓国などの合同調査団の調査結果に言及し、安保理として「深い懸念」を表明、間接的表現ながら北朝鮮を非難した。
また、事件に関して「無関係」とする北朝鮮の主張についても「留意する」との表現で触れ、最低限のバランスをとった。問題の平和的解決の重要性も強調、北朝鮮を刺激するような強い対応に難色を示してきた中国への配慮を示した。” 【7月10日 産経】
【韓国・アメリカ 歓迎姿勢】
今回議長声明について韓国外交通商省は9日、「大きな意義がある」と歓迎声明を発表しています。
韓国メディアは「満足できる水準」との外交消息筋の話の一方で、北朝鮮名指しを避け、また、決議ではなく議長声明となったことについて、「国内的な期待には及ばない」と失望の声も伝えています。
表現が玉虫色になったり、両論併記になったりするのは外交文書の常です。
中国の強い抵抗があるなかでの合意であることを考えると、また、国内的に一定の成果を示す必要がある時期にきていることからも、間接的ながらも北朝鮮による攻撃を示唆する形で決着できたことで、韓国政府としては“ほっとしている”のが本音ではないでしょうか。
ライス米国連大使は「間違えようのない北朝鮮非難のメッセージとなった」「明確で適切な対応だ」と評価しています。クリントン米国務長官も歓迎のコメントを出しています。
****韓国艦沈没:国連議長声明採択 クリントン長官が歓迎声明****
クリントン米国務長官は9日、国連安全保障理事会で韓国の哨戒艦天安(チョンアン)沈没事件に関する議長声明が採択されたことについて、「北朝鮮の無責任で挑発的な行動は、平和と安全に対する脅威であり、容認できないとの明確なメッセージだ」と歓迎するコメントを発表した。
また、北朝鮮への対応をめぐり韓国と協議するため、月内に訪韓する意向を明らかにした。韓国側との連帯を強める狙いがあるとみられる。
クリントン長官は、「北朝鮮が抜本的に態度を変更しなければ、朝鮮半島を巡る問題の平和解決はない」と指摘し、6カ国協議の合意に基づく核放棄を北朝鮮に迫った。
議長声明は、北朝鮮への名指しの非難を避けているが、ホワイトハウスのハマー報道官は「北朝鮮が沈没に責任を持つとの国際調査団の結論を支持したもの」と指摘し、議長声明は北朝鮮による攻撃と認定しているとの解釈を示した。【7月10日】
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【北朝鮮 硬軟織り交ぜたシグナル】
北朝鮮は、「威嚇」と「対話」の硬軟織り交ぜたシグナルを国際社会に送っています。
****哨戒艦撃沈 北「威嚇」と「対話」 議長声明採択、韓国政府は歓迎****
・・・・北朝鮮は国連大使を通じ、「朝鮮半島はいつ暴発してもおかしくない」と威嚇する一方で、核問題をめぐる6カ国協議を通じた対話姿勢も示唆するなど、硬軟織り交ぜたシグナルを国際社会に送った。
北朝鮮の申善虎国連大使は哨戒艦撃沈事件での議長声明採択の後、国連安保理の議場に現れ、まずは「拙速な議論の結果、誤った結論に達してしまった」と国連批判を展開した。
その一方で、「議長声明は、朝鮮戦争休戦協定に依存する朝鮮半島の平和がいかに脆弱(ぜいじゃく)なものかを浮き彫りにした。われわれは今後、引き続き6カ国協議を通じて平和協定の締結と半島の非核化を追求していく」と、むしろ対話を求める姿勢を示唆した。
北朝鮮は今回、安保理が自国を非難したり、関与を疑ったりするような文書を採択した場合、軍事力で対応すると警告していた。
こうした中、米朝将官級会談の北朝鮮側団長は9日、哨戒艦事件をめぐり米軍が求めていた同会談の開催に向けて、関連問題協議のための大佐級実務接触を13日に板門店で行うことを米軍側に提案した。ラヂオプレス(RP)が朝鮮中央放送の報道として伝えた。
今回の北朝鮮の対応を受けて、中断したままの6カ国協議再開などに向けた動きが出てくる可能性も取りざたされている。
採択された議長声明について、韓国の外交専門家などの間では、北朝鮮を実質的に糾弾するなど韓国の立場がかなり反映されたと評価する声が上がる一方、北朝鮮の関与が明示されなかったことなどへの批判も出ている。【7月10日 産経】
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北朝鮮の申善虎国連大使は「事件がわが国と関係がないことがはっきりした。わが国の外交の偉大な勝利だ」と述べて声明を歓迎する姿勢を示し、6か国協議に今後も参加していくと述べています。
【中国 「新しい時代が幕を開けた」】
中国の反応については微妙です。
【読売】は、「思惑通りに決着した」との中朝関係筋の評価を伝えています。
****中国、思惑通りの決着で安堵…安保理議長声明****
中国は、韓国哨戒艦沈没事件を巡る安保理の議長声明に、北朝鮮に対する直接的な非難が盛り込まれなかったことに「思惑通りに決着した」(中朝関係筋)と安堵している。
直接の非難は北朝鮮の暴発につながりかねないと警戒してきたためで、今後は経済支援を拡大して北朝鮮の体制を支えつつ、中断している6か国協議の再開も目指す構えだ。
中国は、同事件を巡る安保理での議論で、誰が事件を引き起こしたか明確にしないように働きかけてきた。今回の沈没事件は、昨年5月に北朝鮮が自ら公表した核実験と異なり、北朝鮮は関与を認めておらず、金正日総書記も今年5月に胡錦濤国家主席と会談した際、直接関与を否定した。
これを受けて中国は「北朝鮮の攻撃と断定、非難する決議や声明には賛同しない」(同筋)方針を固めた。韓国の主張を受け入れて北朝鮮を刺激すれば、再度の核実験や武力衝突などを招き、半島情勢がさらに不安定になると懸念したためで、中国は韓国の調査結果について、一貫して「検討中」(中国外務省)として判断を先送りし、議長声明案の文言でも、ロシアと協力して北朝鮮に配慮する文言を盛り込ませた。
今回の議長声明が北朝鮮の攻撃と断定しなかったことで、中国は国際社会の非難を受けずに北朝鮮への経済支援を拡大できると踏んでおり、今後より積極的な経済支援を進めていくとみられる。【7月9日 読売】
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一方、名指しではないものの、間接的表現で北朝鮮を非難する声明を受け入れたことについて、「苦渋の譲歩」「悩みに悩んだ末の決断」との報道もあります。
****中国、苦渋の譲歩 哨戒艦撃沈、安保理声明*****
韓国哨戒艦撃沈事件をめぐる国連安保理の協議がようやく決着した。北朝鮮の友好国である中国は、朝鮮戦争以来の「血の友誼(ゆうぎ)」を優先させるか、大国としての責任ある態度を国際社会にアピールすべきかでジレンマに陥っていたが、名指しではなく間接的表現で北朝鮮を非難する声明を受け入れた。
今回、中国の態度は想像以上にかたくなだった。
「北朝鮮の金正日総書記は中国の胡錦濤国家主席に直接、『やっていない』と伝えている。つまり(共産国家では最も重い意味を持つ)党対党のやりとりが行われたということ。中国が理屈を超えた拒絶反応を示したのも、そんな背景があるのではないか」。ある国連外交筋はこう推測する。
韓国、北朝鮮双方からの聴取を経ても中国の姿勢は軟化せず、先月下旬には「最高首脳レベルでの政治判断がなければ話は前に進まない」との嘆きが聞こえるようになった。
その停滞に風穴を開けたのは、ひとつは主要8カ国首脳会議(G8サミット)での首脳宣言。間接的ながら国際社会として北朝鮮を非難し、G8に加わっていない大国である中国に圧力をかける形となった。
中国は、対イラン追加制裁決議では欧米と協調するなど、国際社会で責任ある大国の役割を演じようとする意欲を隠していない。「だがチベット、ウイグル、台湾、そして北朝鮮など、自らに直結する問題では全く違う姿勢をとる」と、ある外交筋は説明する。
そうした中国の姿勢が、他国の艦艇を撃沈しても非難声明にしかならないという北朝鮮問題の複雑さの根底にあるが、一方で今回、中国が最終的に行った譲歩も小さなものではなかった。
外交筋は「中国にとって、悩みに悩んだ末の決断だった」と指摘する。中国の李保東国連大使は採択後、記者会見の場には立たず、歩きながら記者団に対し「新しい時代が幕を開けたといえるのではないか。状況は正しい方向に進んでいると思う」などと述べつつ議場を去っていった。【7月10日 産経】
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「新しい時代が幕を開けたといえるのではないか。状況は正しい方向に進んでいると思う」という発言は、額面どおりにとれば、今後の中国の対応に期待がもてるものです。
なお、北朝鮮への対抗措置として計画した韓国とアメリカの潜水艦などに対する合同訓練については、北京など華北地区の「玄関口」にあたる黄海での訓練であることから、中国側は敏感に反応、強く反対しています。
また、アメリカ財務省は8日、外国為替報告書を議会に提出し、焦点となっていた中国の人民元については「依然として過小評価されている」と指摘しながらも、アメリカ議会で要求が強まっていた「為替操作国」の認定は見送りました。
国連安保理でのイラン追加制裁決議も絡んで先延ばしになっていた報告書ですが、今回の「為替操作国」認定見送りにも、国連安保理での北朝鮮問題の協議が影響しているのではないでしょうか。
逆に言えば、中国にとって人民元為替レートの問題は、外交における大きな制約にもなっています。