孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

難民・移民問題に揺れる欧州が昔から抱えるもひとつの異民族・異文化問題・・・「ロマ」

2016-03-04 22:07:01 | 欧州情勢

(2013年10月、「金髪の天使」として話題となった身元不明のロマ少女の本当の両親とされる母親のサシャ・ルセバさん(左)と父親のアタナス・ルセフさん 【2013 年 10 月 28 日 WSJ】)

バルカンで、カレーで・・・難民・移民で混乱する欧州社会
欧州に押し寄せる難民・移民問題は依然として混乱状態にあります。
現在、混乱の中心は「バルカンルート」上の関係国とギリシャの対立という形で表れています。

「バルカンルート」以外にも、英仏間のカレーでも混乱が起きていますし、政治的には受入国ドイツのメルケル首相の政治的苦境も深まっています。また、利害対立の表面化でEUの統合も揺らいでいます。

****増え続ける難民、欧州各地で衝突 国境フェンス破壊も****
ギリシャとマケドニアの国境で29日、大勢の難民が有刺鉄線のフェンスを突き破り、国境警備当局と衝突した。同地では増え続ける難民と流入を阻止しようとするバルカン諸国との間で緊張が高まり、暴動に発展する事態になっている。

一方、フランス北西部の港湾都市カレーでは同日、当局が「ジャングル」と呼ばれる難民キャンプの解体に乗り出し、衝突が起きた。

マケドニアと国境を接するギリシャのイドメニ村は、欧州西部を目指す難民の主要ルート上にある。国境フェンス前に集まった難民は大きな柱を使ってゲートを破壊し、当局は催涙弾やゴム弾で応酬した。

マケドニア内務省の報道官は、力づくでマケドニアに入国しようとした難民数千人を国境地帯で阻止したと説明している。国境はその後再び封鎖された。

イドメニ村にいる「国境なき医師団」の担当者によると、この衝突で子ども10人を含む23人が軽傷を負った。15人は催涙ガスによる呼吸器系の症状を訴え、7人は有刺鉄線で負傷、1人はゴム弾がかすめて軽傷を負ったという。

イドメニ村では国境を通過できる難民の数が減り、28日夜以降は1人も通過できなくなったため、絶望感が深まっていたという。同地の難民キャンプには、定員3000人の施設に7000人以上が滞在している。

この数日前、「バルカンルート」上に位置するオーストリア、スロベニア、クロアチア、セルビア、マケドニアの5カ国がウィーンで会合を開き、難民の流入数を減らすための国境管理強化で合意した。

これに対し、難民受け入れの分担を呼びかけた欧州連合(EU)の方針に反するとの批判が噴出。ギリシャにたどり着く難民は増え続ける一方で、このままでは危機的な状況に陥りかねないとの懸念が強まっている。

フランスのカレーでは当局が29日から難民キャンプの一部解体に乗り出した。同地に広がる難民キャンプには、英国への不法入国を目指す難民数千人が滞在していた。

野営施設を解体しようとする当局に対して難民側は投石で抵抗。当局は催涙ガスを使用した。

当局は衛生状態が良くないという理由で難民キャンプの南半分を解体する計画。北半分に暖房や照明設備を備えた輸送コンテナ製の宿泊施設を設置して数千人を移動させ、残る難民は別の場所に移動させる。

地元当局者によると、29日正午ごろまでに小屋やテントなど約30棟を解体した。現場にはソーシャルワーカーや難民支援団体の職員を守る目的で警官100人が出動している。

難民を移動させる作業には数週間かかる見通し。【3月1日 CNN】
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未だ解消できずにいる「ロマ」の問題
こうした混乱を見るとき、人権とか寛容といった価値観について世界的に見れば理解があると思われる欧州ではありますが、欧州が異なる民族・文化を受け入れることができるかという点については、やや悲観的な感じがします。

それは現在の中東や北アフリカ・アジアからの難民・移民問題だけでなく、何百年も前から欧州に存在する「ロマ」に対する差別・排斥問題を未だ解決できずにいるからです。

“ロマは、ジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。”【ウィキペディア】

ロマは、ルーマニア・ブルガリアなど中東欧を中心に広く欧州に暮らしています。
“欧州連合の行政府・欧州委員会によると、欧州に暮らすロマの人口は推定1000万~1200万人。 欧州評議会の各国別推計によると、ルーマニア185万人、ブルガリア75万人、スペイン72万5000人、ハンガリー70万人、スロバキア49万人、フランス40万人、ギリシャ26万5000人、チェコ22万5000人、イタリア14万人など”【同上】

ブルガリア、ルーマニア、スロバキア、マケドニアといった国では全人口の1割弱を占めています。

ロマの置かれている差別・貧困の状況、欧州各国における排斥などについては、これまでもブログで取り上げてきました。
(2013年8月24日“人権重視の欧州で続くロマ差別  ロマ分断の「壁」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130824 2013年10月24日“移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131024など)

ロマに対する差別が消えない大きな理由は、彼らの多くが社会に同化せず、物乞い・売春・スリなどの犯罪行為を行っている・・・という現実の一面にもあります。ただ、これは差別の結果でもあります。

ロマへの差別・蔑視が貧困を生み、貧困が犯罪行為を助長し、それがまた差別・蔑視を強くするという悪循環にあることは、多くの「差別の構造」と同じです。

そんなロマの置かれた窮状を伝える記事が。

****赤ちゃん売ります──貧困があおる人身売買 ブルガリア****
ブルガリアではこの15年間に貧しいロマ人コミュニティーで新生児売買が横行するようになった。困窮した親が人身売買業者を介し、養子縁組の法規が緩い隣国ギリシャで自分の赤ちゃんを売っている。

少数派で迫害の対象になることも多いロマ人の赤貧状態がこの傾向に拍車を掛けている。突如として赤ん坊を失った母親たちが口にする「説明」が、うのみにされることもなくなった。

ブルガリア南東部のさびれた村エクザルフ・アンティモボである女性はこう明かした。「イリヤナは妊娠中にギリシャに行き、1週間前に帰ってきた。おなかは膨らんでいないのに赤ちゃんはいない。ギリシャで死産したと説明している」。女性はいかにも事情に通じている様子で声を潜め「あの人が売ったのはこれで3人目よ」と語った。

この村はブルガス州ブルガス市に程近い。今世紀に入ってブルガス市のロマ人貧民街で始まったとされる新生児の売買は、ブルガリア東部のバルナ、アイトス、カルノバト、南東部のスリベン、また中部のカザンラクへと広がっていった。

ブルガリア検察当局が捜査した新生児の売買事件は昨年だけで27件。これらの事件では合わせて妊婦31人がギリシャに送られ新生児33人が売買されたという。

エクザルフ・アンティモボのロマ人村長サシュコ・イワノフ氏は、「住民の97%は読み書きができない」とため息をつく。

新生児の売り渡しは「社会から最も取り残された層だけでみられる極端な事例」であり、「貧困の極みに置かれたからこそ新生児が売られてきたのであり、またこれからも売られていく」と指摘している。

■命の値段
新生児を売り渡した母親には、新生児1人につき3500~7000レバ(約22万~44万円)が支払われる。仲介業者の取り分に比べればわずかな額だが、それでもブルガリアの平均月給が400ユーロ(約5万円)であることを考えれば大金だ。

ギリシャの法規制も問題を悪化させている。母親が公証人の面前でこの家族に自分の子どもを渡すという意思を表明しただけで養子縁組が成立してしまう。ただし、そこに金銭のやりとりが発生すれば違法となる。

ブルガリアのイバン・キルコフ検事によると、同国法の下で母親が罪に問われるのは単独で子どもの売買に関わった場合のみで、そういう事例はまれだという。事実、ブルガス州で過去5年間に乳児売買で有罪判決を受けたのは16人しかいない。

人身売買がブルガリアで一大ビジネスとなっていることは公式統計からも見て取れる。欧州連合(EU)はブルガリアの司法制度の弱さとまん延する腐敗を繰り返し批判している。

米国務省は2015年版の人身売買に関する報告書で、「ブルガリアは依然としてEUにおける人身売買の最大の供給源の一つとなっている」と指摘している。

司法の機能不全を目の当たりにした幼稚園園長のマリア・イバノバさんは非政府組織(NGO)のラブノベーシエと協力して、乳児売買禁止を訴える草の根運動に着手した。

当初、園児の母親らと直接この問題について話し合おうとしたところ「敵意をむき出しにして」反発を受けたため、現在は地元の園児や児童向けの啓発活動を行い「きょうだいが売られることは異常なこと」だと教えている。

ブレスレットやシールを配り、ロマ人の園児らの多くがそれを身に着けているという。そこには「わたしは売り物じゃない」というメッセージが記されている。【3月2日 AFP】
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ブルガリアのロマの赤ちゃんがギリシャを舞台に人身売買される・・・という話は、2013年10月にも「金髪の天使」として大きな話題となりました。(2013年10月24日“移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131024

大きな話題となったのは、ロマが金髪の白人少女を誘拐した・・・と当初疑われたからであり、そこにはすでにロマへの根深い差別・蔑視が存在しています。

****ロマ人夫婦を誘拐罪で起訴、血縁ない「金髪の天使」と暮らす****
ギリシャ中部にある少数民族ロマの居住キャンプで血縁関係のない白人少女と共に暮らしていたロマ人夫婦が21日、この少女を誘拐した罪で起訴された。

「金髪の天使」の愛称で呼ばれるこの少女については、これまでに行方不明児童の親から数千件に及ぶ問い合わせが寄せられている。

弁護士によると、起訴されたロマの男(39)とその妻(40)は、同国中部ラリッサの裁判所によって勾留が命じられた。有罪になれば禁錮10~20年が科される。

警察は16日、同国中部の町ファルサラで、「マリア」と呼ばれる緑色の目をした金髪の少女を発見。DNA鑑定により少女と夫婦とは血縁関係がないことが確認され、夫婦は逮捕されていた。

少女の年齢は当初4歳と伝えられていたが、現在少女を保護している同国の慈善団体「スマイル・オブ・ザ・チャイルド」の代表が地元メディアに語ったところによると、歯科検診の結果、実際の年齢は5~6歳とみられることが分かったという。

警察は少女が誕生直後に誘拐された可能性があるとみているが、夫婦は、実母のブルガリア人女性が少女を育てられないために手放したと主張している。

■不法な養子あっせんがはびこるギリシャ
出生率が低い上、養子縁組の手続きが煩雑なギリシャでは、不法な養子あっせんがまん延しており、中には児童が人身売買されるケースもある。

国営アテネ通信が21日に伝えた警察のデータによると、仲介者は児童1人当たり1万5000~2万ユーロ(約200万~270万円)を請求するのが相場になっているという。

また、ブルガリアに暮らす貧しいロマ家庭に対しては、人身売買組織が男児に3000ユーロ(約40万円)、女児には2500ユーロ(約36万円)の支払いを持ち掛けることもあるとされる。(後略)【10月22日 AFP】
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結局、この「金髪の天使」の本当の両親は、DNA鑑定の結果、ブルガリアの貧しい村に9人の子供と暮らす、同じロマの夫婦であることが確定しました。

なぜ、ブルガリアのロマ夫婦がこの少女(マリア)を手放したのか・・・については詳しい事情はわかりませんが、ロマの置かれている窮状を考えればおおよその推察は可能です。

****身元不明のロマ少女、実の両親はブルガリアに****
・・・・マリア(話題となった「金髪の天使」)さんの両親とその子供たちは、ブルガリアの首都ソフィアの東280キロメートルにある町ニコラエボの郊外の荒れ果てた家で暮らしている。

この町のロマ地区には約2000人が住んでおり、そのほとんどは職もなく、みすぼらしい家で極端に貧しい生活を送っている。

両親の子供の1人で14歳になるミンカさんは2部屋のぼろぼろの家の前に立って、マリアさんの写真をテレビで見たとし、彼女が自分の妹だと思ったと話した。ミンカさんは「あの子がとても好きだ。私にすごく似ている。家に戻ってほしい。みんなで彼女の面倒を見る。私は母親を助けられる」と語った。

隣の家のストヤン・トドロフさんは、彼とその妻の毎日の生活が苦しいことを語り、ブルガリアの当局はロマを助けてくれないし、来るのは「票が欲しい選挙の前日だけだ」と話した。

また、「われわれがどれほど惨めな生活をしているか見てほしい」とし、「何年か前に1人の男が近所で殺されたが、誰も気にしなかった。今日は1人の少女のために大勢の人が集まっている」と、欧州各地から押し寄せた記者たちを指し示した。

その上でトドロフさんは「われわれには自分たちの子供の面倒を見るためのお金がないというのが本当のところだ」と話した。(後略)【2013 年 10 月 28 日 WSJ】
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最も多くのロマが暮らし、フランス・サルコジ政権がフランス内のロマを強制送還しようとしたルーマニアにおけるロマの状況については以下のとおりです。

****各国のロマ・・・・ルーマニア****
ルーマニアにおけるロマに対しての差別は根深く、結婚、就職、就学、転居などありとあらゆる方面にて行われている。しかしその起源はいずれの説も根拠を欠いたものが多く、現在でも定説は無い。

ルーマニア国内のロマ支援組織の多くは19世紀半ばまで約600年間続いた奴隷時代にその根源があると主張している。

それによると『1800年代の法典はロマを「生まれながらの奴隷」と規定し、ルーマニアの一般市民との結婚を認めなかった。

そして、奴隷解放後も根深い差別の下でロマの土地所有や教育は進まなかった。都市周辺部に追いやられたロマは独自の文化や慣習を固守する閉鎖的な社会を築き、差別を増幅させる悪循環につながった』とされている。

その一方で、当時そのような法典が公布及び施行された記録が残されておらず、法典自体も見つかっていないため、この説は根拠に乏しいとする見解も存在する。

ロマを「生まれながらの奴隷」と規定した法典はロマ支援組織が差別の根拠として捏造したもので、奴隷時代の始まりとされる13世紀以前から、既に習慣という形でルーマニアでのロマ差別は存在していた、という見解を支持しているルーマニア国外のロマ支援組織やロマ研究者は多い。

21世紀に入った現在、ルーマニアでのロマ問題は拡大の一途をたどっている。EU諸国からのロマの強制送還により、ロマ人口が増加しているのである。

ルーマニアにおいて、ロマは自己申告に基づく国勢調査では50万人だが、出自を隠している人も含めると150万人に達すると言われる。

ルーマニアの身分証明書には民族記入欄が無いため、ロマであることを隠し社会に同化する人も少なくない。

2002年の調査では、ロマの進学率が極度に低いことが明らかになっており、高卒以上は全体の46.8%に対し、ロマは6.3%、全く教育を受けていない無就学者の割合は、ロマだけで34.3%にも上るのに対し、少数民族を含むルーマニア全体では5.6%にとどまっている。

これらの問題に対してルーマニア政府は、「国内にロマはいないため、ロマに対する差別問題は存在しない」としてロマの存在自体を否定している。

つまり、ルーマニア国内にロマが存在しない以上、ロマに対しての差別は存在しえず、ロマ差別はあくまでもルーマニアでは架空の存在でしかない、というのが政府の見解となっている。

このため、国内におけるロマ問題への対策をルーマニア政府は何一つ行っていない。さらに、国内外からのロマ対策を要求する声に対しても何の反応も示していない。

この結果、ルーマニアでのロマ問題は解決のめどは立っておらず、逆にロマ差別自体がルーマニア人ならびに国家ルーマニアとしてのアイデンティティになっていることは否定できなくなっている。

1991年にはブカレスト近郊のボランタン村でロマの家100軒が数百名の暴徒に襲われ、焼き討ちに遭う事件が起きている。【ウィキペディア】
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「国内にロマはいないため、ロマに対する差別問題は存在しない」・・・・これでは、何百年たっても問題は改善しないでしょう。
また、そういう国にロマを強制送還することで、自国の「安心で豊かな社会」を守ろうとする欧州各国も同罪です。

こうしたロマに対する欧州の対応を見るとき、現在の難民・移民問題についても悲観的な感じを抱かざるを得ません。
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