
(15日、ミャンマー・ネピドーの議会でアウン・サン・スー・チー氏(右)と並んで歩くティン・チョー次期大統領(AP=共同)【3月29日 共同】)
【外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポストを兼務】
憲法上の制約により大統領を当面断念したミャンマーのスー・チー氏ですが、閣僚ポストについてはいろいろ報じられていたように、結局、外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポスト兼任する形で「大統領よりも上に立つ」存在として、明日30日に新政権をスタートさせるようです。
****スー・チー氏主導の新政権発足へ=30日大統領就任式―ミャンマー****
昨年11月のミャンマー総選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首(70)の側近、ティン・チョー氏(69)の大統領就任式が30日、首都ネピドーの国会で行われ、NLD主導の新政権が発足する。
息子2人が外国籍のため憲法の規定で大統領になれないスー・チー氏は新政権で、外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポストを兼務。事実上の最高指導者として政権を指揮する。
30日は大統領と2人の副大統領、スー・チー氏ら18人の閣僚の就任式が行われ、ティン・チョー氏が国会で演説する予定。【3月29日 時事】
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大統領や国軍総司令官らで構成する国防治安評議会のメンバーにもなれる外相、重視する福祉や教育に影響力を持ち、首脳会談で大統領と同席する大統領府相に加え、内政の要となる電力供給・教育を抑えた形ですが、教育、電力エネルギー相ポストについては、適任者が見つかるまでの一時的なものとの見方もあるようです。
なお、国防、内務、国境の3閣僚については、ミンアウンフライン国軍最高司令官が指名した者となります。
****<ミャンマー>スーチー氏、4閣僚兼務か 内政・外交で実権****
・・・・外国籍の息子を持つスーチー氏は憲法上、大統領資格がない。外相は国家の最高意思決定機関「国防治安評議会」にスーチー氏が参画できる唯一のポストで、当初から有力視されていた。
政権運営には絶大な政治権限を保持する国軍の協力が欠かせない。評議会は大統領以下11人で構成されるが、最高司令官など国軍関係者が過半数の6人を占める。スーチー氏は「民主化」改革に向け、評議会などの場を通じ、国軍と連携する道を選択した。
スーチー氏は、入閣すれば議員を失職する。だが国会内で先に、任意グループ「国会調整チーム」(議員5人、官僚3人の計8人)を結成し代表に就任。こうしたグループを通じ国会にも足場を確保し、国政運営とつなぐ意向のようだ。
スーチー氏は既に、法案の妥当性を検証する国会の重要委員会のトップに盟友のシュエマン前下院議長を任命した。議席の4分の1を国軍最高司令官指名の軍人議員が占める中、スーチー氏が「民主化への核心」として位置づける憲法の改正には全議員の4分の3超の賛成が必要で、最高司令官が事実上の拒否権を握る。
スーチー氏は国軍に一定の影響力を持つシュエマン氏を据えることで、改憲への方策を模索したい考えのようだ。
スーチー氏は入閣に伴い、NLD議長として党務を指揮できなくなる。このため、入閣せずに文字通り大統領を超越した立場で国政と党務の全般に臨むのでは、との見方もあった。
◇モラル低下、教育を重視
また国会は21日、新大統領に就任するティンチョー氏が提案した省庁の再編案を可決した。現在の31に対し、民族問題省を新設して計21に統合する。6人いた大統領府相も1人に集約。スーチー氏が大統領府相を兼務すれば、首脳会談などでティンチョー氏と同席することが可能だ。
スーチー氏は以前から「教育レベル向上がこの国の発展に不可欠だ」と強調してきた。1962年のクーデター以降、半世紀に及んだ事実上の軍政下、教育やモラルの著しい低下を招き、構造的な汚職体質につながったと認識しているからだ。教育相として大胆な教育改革は必至だろう。
電力エネルギー相ポスト兼務も事実なら、サプライズとみられる。ただ、テインセイン政権下で停止された中国主導の水力発電用の大規模ダム開発「ミッソン計画」をどうするか、新政権は待ったなしで決断を迫られる。
計画停止は「民主化」改革に向けたテインセイン大統領の英断とも称された。だがミャンマーの最重要国でもある隣国・中国との関係や、経済発展に欠かせない電力の慢性的な不足という事情を考慮しつつ、スーチー氏が問題の矢面に立つ覚悟かもしれない。
教育、電力エネルギー相ポストについては、適任者が見つかるまでの一時的なものとの見方もある。
一方、地元メディアによると、先の総選挙で野党に転落した「連邦団結発展党(USDP)」に対し、二つの閣僚ポストを与えたとみられる。労働・移民相と宗教・文化相だ。この国の最難関問題の一つ、少数派イスラム教徒(ロヒンギャ)問題と向き合うポストである。
民政移管以降、反イスラムと仏教至上主義の機運が高まる中、スーチー氏はこの難しい問題については静観してきた。一歩距離を置きたい、との思惑もほの見える。【3月22日 毎日】
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【イスラム教徒問題は敬遠? 少数民族問題には意欲】
労働・移民相と宗教・文化相をUSPDに割り振った思惑が、上記のように、少数派イスラム教徒(ロヒンギャ)問題という「難問」から“一歩距離を置きたい”ということであれば、敢えて火中の栗は拾わないという現実的と言えば現実的ではありますが、やや残念な感もあります。
この「難問」を前進させられるのはスー・チー氏しかいないのですが・・・・・まあ、真意はわかりませんが。
もうひとつの課題、少数民族問題については、スー・チー氏は1月の独立記念日に「新政権の最優先の責務は和平の実現だ」と明言し、イニシャティブをとる意欲を見せています。
ただ、単に政府と少数民族の対立というだけでなく、少数民間での対立などもあって、事態は複雑です。
また、少数民族と和平には国軍の協力が不可欠です。
****少数民族、絶えぬ衝突 武装組織の戦闘、避難民生む****
仏像が並ぶお堂で、生徒ら約50人が英語の授業を受けている。ミャンマー北東部シャン州チャウメー。町を一望できる丘の上の僧院で、戦火の村を逃れてきた少数民族のシャンとパラウンの人たちが避難生活を送っていた。
2月7日、村にいたシャンの武装組織シャン州復興評議会(RCSS)の部隊に、パラウンのタアン民族解放軍(TNLA)が攻撃を仕掛けた。村はシャンが大半だが、パラウンの集落と隣接する。RCSSが昨年12月に部隊を村に駐屯させたことに、TNLAが反発したとみられている。(中略)
1948年に英国から独立以来、ミャンマーでは民族をめぐり内戦が続いてきたが、戦闘は自治拡大や権利擁護を訴える少数民族の武装組織と政府軍の間で主に起きてきた。RCSSとTNLAも対政府軍で共闘してきたが、昨年12月に初めて衝突。2月に戦火が広がり、5千人以上が避難した。
TNLAは「政府軍がRCSSを支援している」と主張する。TNLAは昨年2月、同じシャン州の少数民族コーカンの武装勢力に加勢して政府軍を攻撃した。このとき、少なくとも数百人の犠牲を出した政府軍は、TNLAに妥協しない姿勢を崩さない。(中略)
2011年に就任したテインセイン現大統領は、全少数民族との全国停戦をめざした。だが、シャン州では、RCSSは昨年10月に全国停戦協定の署名に応じ、合法組織と認められた一方、TNLAは排除された。全土で協定に加わったのは、政府が呼びかけた15組織のうち8組織にとどまった。
■和平、軍の協力不可欠
今月末に新政権を発足させる国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は1月の独立記念日に「新政権の最優先の責務は和平の実現だ」と明言。すべての武装組織を停戦協定に加える意向を示した。
ティンチョー次期大統領は、和平や辺境地域の開発を担う「民族省」の新設を決めた。スーチー氏は中央政府に権限が集まる現在の体制を改め、少数民族も求める「真の連邦制」を早期に実現したい考えも示す。
和平には、軍の協力が不可欠だ。だが、軍にTNLAのような敵対する組織との停戦交渉を認めさせることは、容易ではない。
軍は国会の4分の1の議席を持つなど政治介入の手段を持つが、続く紛争がそれを正当化している側面も否めない。ミンアウンフライン最高司令官は、恒久和平が実現するまでは軍の政治関与が必要との立場だ。
さらに、今回のような武装組織間の戦闘が問題を複雑にする。「シャン対パラウンという少数民族同士の対立に結びつきかねない」(シャン州のサイトゥンウィン州議会議員)からだ。
■国勢調査、今後火種に?
少数派をめぐっては、31年ぶりに行われた国勢調査の結果も、新政権下で対立の火種になる心配がある。
テインセイン政権は14年に調査を実施。人口がそれまでの推計より約1千万少ない約5100万人だったことは明らかにした。だが、民族と宗教に関するデータの公表は先送りにしたまま、政権を明け渡す。
今年1月、少数民族クキを自称する人たちがヤンゴンで記者会見し、公表を求めた。クキは政府が認める135の民族に含まれていない。指導者のネーコーラルさん(42)は「5万人はいると思う。政府に認めてもらうためにも正確な人口を知りたい」と訴える。
だが、政府の担当者は2月、地元メディアに「慎重に検討すべきだ。平和と安定に影響を及ぼしかねない」と説明。公表の時期を明確にしなかった。
ミャンマーでは12年以降、民族や宗教に絡む衝突が起き、多数派の仏教徒の間で反イスラム感情が高まる。急進的な仏教僧らのグループは「ミャンマーがイスラム化するおそれがある」と不安をあおる。
イスラム教徒は前回(83年)の国勢調査をもとに4%と推計されるが、「もっと多い可能性がある」(NGO「国際危機グループ」)。
結果次第では、人口の9割とされてきた仏教徒が危機感を強め、少数派を排除する動きに出かねない。新政権は難しい対応を迫られる。【3月24日 朝日】
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【国軍は協調と牽制の両睨み】
国軍の協力が不可欠ということですが、スー・チー新政権に対する国軍のミン・アウン・フライン総司令官の発言は、牽制と協調の両側面があります。
どちらを重視するかで報道見出しも変わってきます。現段階では両睨みで事態を静観するということでしょう。
****「政治で指導的役割」=国軍総司令官が演説―ミャンマー****
ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官は27日、首都ネピドーで開かれた国軍記念日の式典で演説し、「国軍は国政の指導的役割に参画しなければならない」と述べ、アウン・サン・スー・チー党首の国民民主連盟(NLD)主導の新政権発足後も、国軍が引き続き政治に関与する必要があると強調した。
総司令官はまた、「民主化における二つの主たる障害は、法の支配に従わないことと武力紛争だ。これらは混乱した民主主義につながりかねない」と語った。スー・チー氏の大統領就任を阻んでいる憲法条項の改正などをめぐってNLDをけん制する狙いがあるとみられる。
この日の式典にはスー・チー氏もティン・チョー次期大統領も出席しなかった。【3月27日 時事】
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****ミャンマー国軍最高司令官、新政権と協調姿勢示す****
ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官は27日、首都ネピドーであった国軍記念日の式典で、「軍は国の平和と発展のために政府と協力しなければならない」と述べた。アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)による新政権とも協調する姿勢を示したとみられる。
ミンアウンフライン氏は、少数民族武装組織の活動などが「民主主義を混乱に陥れかねない」と指摘。「軍が国の治安を維持しなければならない」と述べ、その存在意義も強調した。
昨年の演説では「改革は急すぎると動揺を生む」などと、軍政下で制定された憲法の改正によるさらなる民主化を求めるスーチー氏らを牽制(けんせい)する発言が目立った。だが、今回は間近に迫った政権交代を意識した模様だ。【3月27日 朝日】
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【人材の面での不安は?】
新政権は、これまで政務を担当した経験がない者が閣僚に起用されていますので、やや不安を残すところもあります。
****ミャンマー次期財務相、自身の「博士号」が偽物と判明****
ミャンマーの新内閣で財務相に指名されたチョー・ウィン氏(68)は23日、自らの「博士号」が偽物であり、インターネットユーザーらにパキスタンを拠点とした詐欺グループの被害者の一人であると指摘されたことを受け、「衝撃を受けている」と語った。
チョー・ウィン氏は、アウン・サン・スー・チー氏が党首を務める与党・国民民主連盟(NLD)の内閣の閣僚として22日に指名された18人のうちの1人で、NLDから選ばれた6人の閣僚のうちの1人。同内閣は今月末に発足する。
閣僚の正式発表は今週後半になる見通しだが、地元メディアは流出した閣僚名簿を大々的に報じており、キャリア官僚でNLDの経済委員会の顧問を務めるチョー・ウィン氏の財務相指名が明らかになった。指名直後にNLDが公表したチョー・ウィン氏の履歴書によると、同氏は米国にあるとされた「ブルックリン・パーク大学(Brooklyn Park University)」で博士号を取得したことになっている。
だが、このブルックリンパーク大学は、パキスタンを拠点とする詐欺グループがつくった大量の偽のオンライン組織のうちの1つだった。この事実にソーシャルメディアのユーザーがすぐに気付き、指摘した。
チョー・ウィン氏はAFPの取材に「私は、年を取ってからこの偽のオンライン大学で勉強したことを率直に認める」と語った一方、財務相職を辞退する考えはないと述べた。
博士号が偽造だったことに気付いたのは、22日の指名後にフェイスブック(Facebook)上でこの話題が広まった後だったという。「本当につらい」と今の気持ちを語った。【3月23日 AFP】
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最終的にウィン氏がどうなったのかは知りません。
【スー・チー氏に求められる透明性】
今後「大統領よりも上に立つ」存在として政権を牽引するスー・チー氏ですが、そういう公式な立場を超えた権力を行使するだけに「透明性」が問題となります。
****<ミャンマー>スーチー氏、メディアと摩擦 短い声明を時々****
◇会見にも取材にも応じず
ミャンマーで与党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏(70)が昨年11月の総選挙以降、「メディア規制」を強めている。短い声明を時々出すだけで、会見にも取材にも応じない。
「政権移行の微妙な時期だ」(党幹部)と釈明するが「透明性」の重要さを訴えてきたスーチー氏の姿勢に、メディアは困惑しつつも「(4月に)新政権が発足すれば変わるのか」と注視する。
「政権や政策になぜ透明性が重要か。透明性が高まれば何が正しく、何が間違っているかが分かるからです」。地元紙ミャンマー・タイムズは今年1月、スーチー氏のそんな発言を引き合いに、メディアへの「口を閉ざして距離を置く政策」を批判した。
この政策はスーチー氏の側近ティンチョー氏が15日に新大統領に選出されても変わらない。なぜ彼なのか、スーチー氏はNLD国会議員に「忠誠心」などと理由を説明しても、国民やメディアには語らない。
スーチー氏が「情報の一元化」を目指していることは明らかだ。
スーチー氏は2月の国会開会を前に、NLD重鎮で報道官の一人だったニャンウィン氏がメディアに議長人事をリークしたことに激怒。NLDは声明で「情報漏えいは容赦しない」とし「スーチー氏だけが(政策や政権移行についてメディアに)語る権限がある」と表明した。
その後、スーチー氏は大統領選出プロセスが始まるのを前に年下の党幹部を自分以外の「唯一の報道官」に任命。なおも個別取材に応じる党重鎮たちの口封じを図った。
大統領選を巡っては臆測報道が続いた。ティンチョー氏当選後には、同名の別人の写真が報じられるなど誤報も相次いだ。当初伝えられた「スーチー氏の運転手」という経歴は「運転したことがある」に修正されたが、NLDの反発に一部メディアは「基本的な情報さえ公表しないからだ」と応酬する始末だ。(中略)
「重要なことは全て私が決める」と公言するスーチー氏。それは選挙で示された「国民の意思」だと言うが、メディアは「国民の代表」として情報の公開と透明性を迫る。両者のせめぎ合いが続く。【3月22日 毎日】
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重要なことが、彼女の胸のうちと、密室での国軍との協議で決まるとしたら、やはり「民主的」とは言い難いでしょう。