
(汚職疑惑の渦中にあるものの、批判封じの強権姿勢を強めるナジブ首相 【3月1日 WSJ】
【巨額汚職疑惑の渦中にあるナジブ首相】
マレーシア・ナジブ首相が代表を務める政府系投資会社「1MDB」(ワン・マレーシア・デベロップメント)を舞台にした巨額汚職疑惑については、これまでも何回か取り上げてきました。
2015年9月17日ブログ「マレーシア 汚職疑惑の首相へ高まる批判 民族間の対立に飛び火する不安も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150917
2015年7月8日ブログ「マレーシア 与党は首相の汚職疑惑、野党は共闘崩壊 それぞれに困難に直面」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150708
2015年5月1日ブログ「マレーシアで進む宗教保守化と強権支配」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150501
など
その疑惑は、巨額負債(約1兆2100億円)やマネーロンダリング、首相親族の関与、更には首相自身への資金還流など多岐にわたっています。
そのひとつが、「1MDB」関連会社を通じ、ナジブ首相の個人口座に約7億ドル(約800億円)の不透明な資金が振り込まれた・・・というものですが、ナジブ首相側は、サウジアラビアの王族が寄付したものであり、「汚職」ではないという調査報告で幕引きを行っています。
****マレーシア首相資金疑惑 政府「サウジ王族寄付」****
マレーシアのナジブ首相が800億円余りの政治資金を不正に受け取ったとして疑惑を持たれている問題で、マレーシア政府は、振り込まれた金はすべてサウジアラビアの王族が寄付したものだという調査結果を発表し、「汚職を示す証拠はない」とする見解を示しました。
マレーシアのナジブ首相は、2013年に行われた総選挙の直前に、首相みずからが設立した政府系ファンドから、およそ7億ドル(日本円で800億円余り)の政治資金を不正に受けていた疑惑が持たれていて、国民や野党の間で退陣を求める声が上がっています。
この問題で、調査に当たってきたアパンディ司法長官は、26日、記者会見し、資金はすべてサウジアラビアの王族から寄付されたもので、首相側はこのうちおよそ730億円を使用しなかったため、総選挙が終わった3か月後に返却したと明らかにしました。
返却しなかった70億円については、何に使用されたのか明らかにしませんでした。
そのうえで、「汚職を示す証拠は見つからなかった」として、調査を打ち切る方針を示しました。
2013年の総選挙では、当初、ナジブ首相が率いる与党連合「国民戦線」の劣勢が伝えられていましたが、結果は与党側が勝利して、政権が維持されました。
今回の司法長官の発表に対し、野党議員は説明が不十分だとして、さらなる調査を求めていて、首相の疑惑を巡って一層批判が高まりそうです。【1月26日 NHK】
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また、「1MDB」に関係する複数の国有企業から総額40億ドル(約4800億円)が不正に流用された可能性については、銀行口座のあるスイスの検察当局も解明に動いています。
****4800億円、不正に流用か マレーシア国有企業から****
スイスの検察当局は29日、マレーシアの政府系ファンド「1MDB」に関係する複数の国有企業から総額40億ドル(約4800億円)が不正に流用された可能性があると発表した。
1MDBをめぐっては、マレーシアの司法長官が公金流用疑惑に揺れるナジブ首相の関与を否定するなど幕引きを急ぐが、疑惑追及の動きは収まりそうにない。
1MDBに関連する銀行口座がスイスにあることから、スイス検察が口座を凍結し、昨年8月から資金洗浄などの疑いで捜査を続けていた。検察の発表によると、1MDBの元職員2人を含む複数の人物が捜査の対象になっている。ナジブ首相も含まれているかは明らかにしていない。
2009年から13年にかけての1MDB周辺の取引のうち4件を捜査中。これまでにマレーシア政府の元職員、アラブ首長国連邦(UAE)の現職や元職員らが保有するスイスの銀行口座に1MDB絡みの不透明な資金が送金された事実を突き止めたという。
スイス検察は29日の発表文で「マレーシアの国有企業から資金が不正に流用されたことを示す重大な兆候をつかんだ」と指摘。「複雑な金融の仕組みを利用して(不正行為が)組織的に実行された」としている。
検察はマレーシアに捜査への協力を要請する方針も表明した。これに対し、マレーシアのアパンディ司法長官は30日、「我々は可能な限り追跡捜査し、スイス当局と協力していく」とのコメントを発表した。(後略)【1月31日 朝日】
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【ナジブ批判を強めるマハティール元首相】
マレーシアでは、これまで野党勢力をまとめてきたアンワル元副首相が、政治的な臭いが強い「同性愛行為の罪」で収監されて分裂状態に陥っています。
ナジブ首相追及は野党勢力も行っていますが、そうした野党勢力の状況もあって、ナジブ首相を追い込むまでには至っていません。
野党勢力に代ってナジブ首相追及を強めているのが、かつてマレーシアを率いて現在の繁栄に導いたマハティール元首相です。汚職問題の議論は、与党内の権力闘争的な色合いも濃くしています。
****当局の説明「謎だらけ」 マハティール氏****
ナジブ首相の資金疑惑をどう見ているのか。同じ最大与党・統一マレー国民組織(UMNO)に所属しながら、首相辞任を求めてきたマハティール元首相が27日、朝日新聞の単独インタビューに答えた。
――アパンディ司法長官はナジブ氏の資金受領に違法性がないと判断したが。
「疑惑の渦中にいるのは一国の首相だ。(首相に任命権がある)司法長官が一人で判断できるものではない。反汚職委員会の捜査結果をすべて開示し、裁判所の判断を仰ぐべきだ」
――首相の個人口座に送金したのはサウジアラビア王室との説明だった。
「政党ではなく、首相個人の口座に巨額の寄付金が振り込まれること自体が間違っている。王室の一体誰なのか、何のための寄付なのか。謎だらけだ」
――ナジブ首相は疑問に答えていないと。
「警察も司法長官も軍も首相の味方だ。首相を批判する人間は逮捕され、拘束される。国民はおびえている。もはや法や規律が正しく機能していない」
――首相の辞任は今後も求めるか。
「選挙以外で首相を辞めさせるのは難しい。次期総選挙でUMNOは確実に敗北するだろう」【同上】
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ナジブ首相批判を強めるマハティール元首相に対し、ナジブ首相側は2月、マハティール元首相の三男で、ケダ州の首相を務めるムクリズ・マハティール氏を更迭しました。
****資金疑惑批判の州首相を更迭 マレーシア首相****
マレーシアのナジブ首相は、マハティール元首相の三男で、同国北部ケダ州の首相を務めるムクリズ・マハティール氏(51)を更迭した。決定を受け入れたムクリズ氏が3日会見し、同日付での辞任を発表した。
ムクリズ氏は、最大与党・統一マレー国民組織(UMNO)の党幹部の一人。前回総選挙後の2013年5月に州首相に就任した。
同国の政府系ファンド「1MDB」から首相に不正に資金が流れたとする疑惑が昨年7月に浮上して以降、ムクリズ氏は父親と同様にナジブ氏の対応を批判していた。【2月4日 朝日】
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一方、マハティール元首相は2月29日、最大与党の統一マレー国民組織(UMNO)を離党すると明らかにしています。
与党を離れたマハティール元首相は、これまでの「政敵」を含む超党派でナジブ退陣を求める共闘を進めています。
ただ、ナジブ首相は議会内で多数を占める与党をおさえており、すぐに政権が揺らぐようなことはない・・・とも見られています。
****超党派で「反ナジブ」宣言 汚職疑惑追及強める マレーシア****
マレーシアのマハティール元首相が、政府系ファンド「1MDB」をめぐる汚職疑惑に揺れるナジブ首相を辞任に追い込む姿勢を強めている。
長年の政敵だった野党指導者や反政府活動家、一部与党議員らと4日に記者会見し、政権打倒で「共闘」を宣言。国民にも支持を呼びかけた。
「我々は、政党や組織の代表ではなく、国民としてここにいる」。マハティール氏は4日、こう訴え、与野党の参加者50人以上とともにナジブ氏の辞任を迫る「国民宣言」に署名した。
ナジブ氏の個人口座に入金されたとされる約7億ドル(約800億円)の公金流用疑惑をめぐっては、今年1月、司法長官が捜査の打ち切りを表明。入金を認めたナジブ氏も疑惑は否定し、幕引きを急ぐ。
政府は先月25日、ナジブ氏の汚職疑惑に触れた国内の一部ニュースサイトの閲覧を制限。政権批判を書き込んだソーシャルメディアサイトを閉鎖できるように法改正も検討するなど、強権姿勢を強める。
マハティール氏も、2度にわたって警察の事情聴取を受けた。これに対し、米国は2日、国務省報道官名で「表現の自由の尊重をマレーシア政府に促す」との声明を発表し、くぎを刺した。
かつてマハティール氏と対立し、同性愛の罪で収監中の野党指導者、アンワル氏も獄中から「マハティール氏支持」を表明した。
マハティール氏は先月29日、最大与党の統一マレー国民組織(UMNO)を離党。国民宣言を通じて国民の支持を取り付け、首相の不信任決議案の提出をめざす。
しかし、独立調査機関ムルデカ・センターのイブラヒム・サフィアン所長は「与党内の切り崩しは難しく、ナジブ氏が辞任する可能性は低い」とみる。【3月6日 朝日】
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【政権側は批判封じの強権姿勢を強める】
批判に曝されるナジブ政権は、「表現の自由」を制限する強権的な防衛姿勢を強めています。
****マレーシア首相への突撃取材試みた豪TV記者ら2人が逮捕される 豪外相「言論弾圧」への懸念を表明****
マレーシアのナジブ首相に汚職疑惑を「突撃取材」したオーストラリアの記者らが現地の警察当局に一時逮捕され、出国禁止措置となった。
記者が所属する豪州公共放送、オーストラリア放送協会(ABC)が14日、伝えた。豪州のビショップ外相は「言論の自由に対する弾圧」への懸念を表明。同放送も警察の主張に根拠がないとし、早期の出国措置を求めている。
同放送によると、逮捕されたのは記者とカメラマンの2人。マレーシア・サラワク州の州都クチンで12日夜、モスク(イスラム礼拝所)を訪ねる途中のナジブ氏に、海外からの不透明な巨額資金授受について質問したところ、警護要員に取り囲まれた。
2人は拘束を解かれホテルにもどったところ、逮捕され警察署で6時間の尋問を受け、旅券を取り上げられたという。(後略)【3月14日 産経】
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****マレーシア 首相追及のネットメディアが閉鎖****
マレーシアでナジブ首相の選挙資金を巡る問題を追及していた大手インターネットメディアが、政府から国内でのアクセスを遮断されて閉鎖に追い込まれ、報道規制を強める政府に対して批判が強まりそうです。
マレーシアでは、ナジブ首相が3年前の総選挙の直前にサウジアラビアの王族から日本円にしておよそ800億円の寄付を受け取っていたことが発覚し、野党や国民の間からは、選挙資金を外国から受け取っていたのは問題だとして首相の退陣を求める声が上がっています。
国内のメディアもこの問題をたびたび取り上げ、追及する構えを見せていますが、これに対し、政府は報道規制を強めています。
このうち、インターネットの利用に関する法律に抵触したとして、政府から国内でのアクセスを遮断された大手インターネットメディア「マレーシア・インサイダー」は14日をもって閉鎖すると発表しました。
この中で、マレーシア・インサイダーは「かつてないほど透明性が求められているこの時期に事業を終了することになった」として首相の問題を追及するなかでの閉鎖に無念さをにじませました。
マレーシアでの報道規制を巡ってはアメリカ国務省のカービー報道官も今月、「強い懸念がある」と述べていてマレーシア政府に対し内外から批判が強まりそうです。【3月14日 NHK】
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3月6日ブログ「トルコ・ロシア・中国 封殺される政権批判」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160306でも触れたように、およそ政治権力というのは本能的に反対意見を示す存在を封殺したがるものですが、批判にさらされるような状況になると、その本能が牙をむきます。
【「複合民族国家」マレーシアで増加する外国人労働者】
「複合民族国家」マレーシアは、こうした汚職疑惑をめぐる政治問題のほかに、徐々に進行する全く別の問題(問題なのかどうかも含めて)も抱えています。
今回は詳しく取り上げるスペースもないので、とりあえず問題提起だけ。
****ついに労働者の過半が外国人になったマレーシア****
・・・・数年前までは「4人から5人に1人」だったのが、今では実に、「ほぼ2人に1人」が、外国人労働者が占めるまでになっており、すでにマレーシアは世界で最も外国人労働者の占める比率が高い国の1つになっている。
また、さらに驚くべきことに、マレーシア政府は今後3年間で、(ムスリム人の)バングラデッシュ人労働者を「合法的に150万人」、受け入れることを決めた。
これにより、多民族国家の人口構成比(マレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%)が1957年の英国からの独立以来、60年ぶりに修正されるという歴史的事態に陥る。
結果、外国人労働者総数は約800万人になり、中華系マレーシア人の人口をはるかに超え、マレーシアで「第2位の人口構成群」に躍り出る。(後略)【2月15日 末永 恵氏 JB Press】
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