(不発弾除去作業【9月6日 CNN】)
【ラオスに大量残存する不発弾 「米国にはその道義的責任がある」】
ラオスにはベトナム戦争中に米軍により投下されたクラスター爆弾の不発弾が大量に残存しており、子供や農作業従事者など、今も多くの犠牲者を出し続けていることは、2014年12月29日ブログ“ラオス クラスター爆弾の不発弾が今も大量に残る土地”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141229でも取り上げました。
ラオスは世界一の激しい爆撃を受けた国であり、9年間8分ごとに1回、シエンクアン県を中心としたラオス北部とホーチミンルートの通る南東部の県を中心に全土で200万トン、1人当たり1トン以上の爆弾が投下されました。
その多くは子爆弾をばらまくクラスター爆弾で、それら爆発物の30%は爆発せず、地上や地中にいつ爆発してもおかしくない状態で残り続けているのです。
1996年、国連は、ラオスの農村に残された不発弾は、約50万トンにも及ぶと推定しています。
1975年以降、ラオスの不発弾の犠牲者は、約1万3000人と見積もられています。また、被害者の50%以上が、見つけたボール状の子爆弾で遊ぶ子どもであるとも。
ラオス政府の不発弾撤去機関UXO-ラオが1996年から2007年12月までに除去した子爆弾の不発弾の数は、371,869個、この数字は、不発弾として残っていると推定される子爆弾全体のわずか0.47%にしかすぎません。【テラ・ルネッサンス http://www.terra-r.jp/activity_laos.htmlより】
不発弾の存在は多くの犠牲者を出し続けるだけでなく、当然ながら、不発弾の危険が残る土地利用を妨げ、農業など経済活動の足かせともなっています。
2015年1月1日ブログでは、“日米両政府は、1960~70年代のベトナム戦争の際、米軍がラオスに投下した爆弾の不発弾処理を共同で行う方針を固めた。 今年4月の日米首脳会談で合意した東南アジア支援の一環で、日本は、不発弾を処理する現地スタッフの人件費を一部負担する。”【2014年12月31日 読売】というニュースも紹介しました。
そのラオスで開催されている東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議出席のため、大量の爆弾を投下したアメリカのオバマ大統領がラオスを訪問しています。
****ラオスに残る大量の不発弾、米大統領が向き合う負の遺産****
ラオス北東部のシエンクアン県に住むイェイ・ヤンさんは、あの事故から2年もの間、外出することができなかった。「農作業はできず、友人にも会えなかった。私を見れば怖がるだろうから」と話すヤンさんは「生きていたくないと思った」とさえ言う。
米中央情報局(CIA)がベトナム戦争中にラオスで展開した、いわゆる「秘密戦争」の負の遺産。ラオス全土には8000万発の不発弾が残り、今も多くの住民の生活を破壊し続ける。オバマ大統領は米大統領として初めて同国を訪問し、6日に国民の前で演説する。
22歳だったヤンさんは、ごみを燃やしている時に爆弾が爆発して片方のまぶたと唇、片耳、腕の一部を吹き飛ばされ、上半身に大きな傷跡が残った。「爆発のあと2週間、意識を失った」「全身が激しい苦痛に襲われた。今でも常に痛みを感じる」と訴える。
CIAの作戦は、隣国ベトナムの供給路を断つのが狙いだった。同時に、ラオス北部の共産勢力と内戦を戦っていたラオス政府側を支援する狙いもあった。
米国は1964~73年にかけ、200万トン以上の爆弾を投下。史上最大級の規模の空爆だった。
投下されたのはほとんどが、大量の小型爆弾を放出するクラスター爆弾だった。不発弾の除去活動を行っている米非政府組織(NGO)によると、これまでに除去できた爆弾は1%にも満たない。
戦争終結後、不発弾によって死亡したり手足切断などの重傷を負ったりした人は2万人を超え、年間では約50人に上る。
うち40%前後は子どもが占める。爆弾はテニスボールほどの大きさで、「子どもがよく玩具と間違え、拾って投げたりして遊ぶ。それが爆発することがある」。同NGOの創設者でラオス出身のチャナパ・カンボンサさんはそう話す。
貧しい農家は不発弾の残る地で耕作するしかなく、爆発に巻き込まれることも多い。
5日にベトナムに到着したオバマ大統領は、3日間の日程でラオスを訪問する。「国民はこの問題に関するアメリカ大統領の言葉を聞きたいと願い、米国がここでしたことを認めてほしいと願っている」とカンボンサさんは言う。
米政府高官が6日までにCNNに明らかにしたところによれば、同大統領は不発弾処理に関連する費用として9000万ドル(約93億円)の追加拠出を表明する見通しだという。
ラオスでは広大な土地が不発弾のために耕作できない状態にあり、貧困がはびこり、経済発展を阻む要因にもなっている。栄養失調による発育不良の影響は子どもの40%に及ぶという。
米国務省のケリー長官は今年1月にラオスを訪問し、「飢えという課題に直接対応する」と表明した。ここ数年で米国からラオスへの援助額も増えている。
しかし短期的なプロジェクトでは問題は解決できないとカンボンサさんさんは指摘する。オバマ大統領の退任後も米国の援助が続くことを望むと語り、「米国にはその道義的責任がある」と強調した。
30歳になったヤンさんは、3人の子どもの父親になった。事故に遭った時は婚約していて仕事もあったが、今は定職に就くことはできず、家計は妻の収入と、非営利組織からの援助が支える。「自分の子どもたちも被害者にならないか、そしてどうしたら子どもを育てていけるのか、不安に思う」と打ち明けた。【9月6日 CNN】
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アメリカが抱える課題は広島・長崎だけではありません。ベトナム戦争の負の遺産は、ベトナムに散布された枯葉剤の問題もあります。
【オスロ条約発効で使用が制約されたクラスター爆弾】
不発弾を大量に残すクラスター爆弾については、2010年8月にクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)が発効しています。
今年8月時点で100カ国が批准し、これまでに申告されている備蓄量の9割以上に相当する親爆弾140万発が処分されていますが、大量生産国である米露や、2015年に使用が確認されたシリアとイエメンも批准していません。
****<クラスター爆弾>死傷97%は民間人 内戦の中東で突出****
クラスター爆弾の全面禁止を訴える非政府組織(NGO)「クラスター爆弾連合」は1日に発表した報告書で、クラスター爆弾による2015年の死傷者は少なくとも417人に上り、その97%が民間人だと明らかにした。
内戦が続く中東のシリアとイエメンでの被害が突出しており、使用の即時停止を求めている。
クラスター爆弾は不発弾が多く、子どもを含む民間人にも多くの被害を出す。報告書によると、248人の死傷が確認されたシリアでは、ロシアが軍事介入した昨年9月以降にクラスター爆弾による攻撃が増加した。
報告書はロシア軍が使用した「有力な証拠」があると主張しているが、ロシア側は使用を認めていない。
シリアでは12年以降少なくとも13種類のクラスター爆弾の使用が確認されたという。製造国はロシア、旧ソ連とエジプトだった。
一方、イエメンでも15年4月から今年3月にかけてサウジアラビア主導の連合軍によるクラスター爆弾の攻撃が19回あり、104人が死傷した。サウジ軍はうち1件の攻撃を認めている。
イエメンで使用された爆弾は7種類で米国、英国、ブラジル製だった。
イエメンでは昨年3月以降、首都サヌアなどを実効支配するイスラム教シーア派武装組織フーシと、連合軍の支援を受けるハディ政権派との内戦が続いている。
また旧ソ連構成国のアゼルバイジャンとアルメニアが領有権を争うナゴルノカラバフ自治州でも、今年4月にクラスター爆弾が使用された疑いが強まっている。
クラスター爆弾は、親爆弾の容器を空中で分解させて内蔵する子爆弾を広範囲にまき散らし、不発弾などで子どもを含む民間人に多くの被害を出す。
15年はアフガニスタン、レバノン、カンボジアなど少なくとも8カ国でも過去の攻撃でまかれた不発弾による死傷者が確認された。(後略)【9月2日 毎日】
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アメリカ・ロシアや紛争当事国が参加していないということで、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)が無意味だったか・・・と言えば、そういうことではないでしょう。
禁止条約の存在、その背景としての国際世論は、参加していない国々にとっても、その使用を大きく制約することになります。
シリアやイエメンで使われたということがニュースになるということは、それだけ使用が制約されていることの裏返しでしょう。
そういう国際圧力から使用が減少し、アメリカで唯一クラスター爆弾製造を継続していたメーカーが今週、製造中止の方針を発表しています。
****クラスター爆弾、米唯一のメーカーが製造中止 受注減少で****
殺傷能力が高く一般市民が多数犠牲となることから世界の大半の国々で使用が禁止されているクラスター爆弾の製造を、米国で唯一継続していたメーカーが今週、製造中止の方針を発表した。
米ロードアイランド州に本社を置く航空宇宙企業テキストロンは先月30日、クラスター爆弾「センサー・フューズド・ウエポン(SFW)」の製造を今後は行わないとひそかに発表していた。製造中止の理由として、販売数の落ち込みを挙げている。(後略)【9月2日 AFP】
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【紛争地では、たる爆弾や化学兵器も】
クラスター爆弾の使用は限定的となりましたが、シリアではドラム缶などの円筒状の容器に石油類と殺傷用の金属片を詰めた、民間人を含む無差別攻撃的な「たる爆弾」と呼ばれる焼夷弾が政府軍によってよく使用されています。
更には化学兵器も。
****<シリア>化学兵器、2件は政府軍使用 国連が初認定****
◇化学兵器使用調査報告書を発表
国連と化学兵器禁止機関(OPCW)は30日、シリアの化学兵器使用調査報告書を発表し、2014〜15年に起きた9件の化学兵器攻撃のうち、少なくとも2件はシリア政府軍が攻撃したと結論づけた。
シリア内戦をめぐり、国連機関が化学兵器の使用者を特定したのは初めて。1997年発効の化学兵器禁止条約に違反していることは明白で、アサド政権に対する国際的な圧力が強まるのは必至だ。
報告書はさらに、過激派組織「イスラム国」(IS)のマスタードガス使用を確認した。ISの化学兵器攻撃はイラクで報告されていたが、シリアでの確認は初めてとなる。(中略)
報告書は国連安保理で発表された後、公開された。米国のパワー国連大使は、「我々はアサド政権の化学兵器使用の証拠を提出してきたが、初めて独立機関が公的に使用を確認した。画期的な報告書だ」と評価し、安保理が一致してアサド政権に責任をとるよう求めるべきだと述べた。
一方、アサド政権を支持するロシアのチュルキン国連大使は「銃から煙が出ているが、銃に指紋はついていない」と述べ、報告書の内容は「決定的」ではないとの見方を示した。
化学兵器禁止条約は1997年に発効し、シリア(2013年加盟)も含めた192カ国が加盟。また、安保理は13年9月、シリアに化学兵器の使用、開発、生産、備蓄などを禁じ、保有する化学兵器を廃棄しない場合は制裁することで合意した。
さらに安保理は15年8月、シリアで引き続き化学兵器が使用されていることを非難する決議を採択。シリアで化学兵器を使用した者を特定するため、国連とOPCWの共同調査メカニズム(JIM)の設立に合意していた。【8月31日 毎日】
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「銃から煙が出ているが、銃に指紋はついていない」・・・ふざけた言いぐさですが、こういう論理がまかり通るのが現実世界でもあります。
こうした問題が多い旧来の兵器が使用される一方で、兵器の世界では、AIを駆使したロボット兵器の開発・実用化も進んでいます。そのあたりの話は、長くなるので別機会に。
もっとも、“非人道的兵器”ということについては、核爆弾や毒ガスで殺されるのと、自動小銃で“普通に”殺されるのと、どこが違うのか?・・・という基本的な疑問もあります。とにかく戦争・紛争をなくすことが一番であることは言うまでもないことです。