孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  今月18日に下院選挙 焦点は与党「統一ロシア」の過半数確保

2016-09-11 22:07:13 | ロシア

(与党「統一ロシア」の下院選候補者を選ぶ「予備選挙」の会場となった学校で、投票箱に票を投じる市民=モスクワで5月22日、杉尾直哉撮影【8月5日 東京】)

与党「統一ロシア」は日本の自由民主党のような存在・・・とも
ロシアでは今月18日に下院の選挙が行われます。

与党「統一ロシア」は現在450議席中の238議席を占め、大統領職をプーチン氏に奉還したメドベージェフ首相が党首を務めています。

前回2011年選挙では腐敗・汚職批判などで議席を減らし、選挙後は「不正選挙」の抗議行動に直面しました。

「統一ロシア」は“プーチンのための官製政党”というイメージを個人的には抱いていましたが、下記ロシアメディア記事によれば、リベラルを含むいくつかのイデオロギー的潮流を包含した中産階級を代表する政党で、日本の自由民主党や、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)の統一会派のような政党・・・との見方もあるようです。

また、一般有権者の参加のもとで党の候補者を選ぶ予備選挙を行うなど、公開性にも配慮しているそうです。

****ロシアの政権党 2.0****
2011年の下院選挙は、与党「統一ロシア」にとってかつてない不成功に終わったが、この政権党は今年の選挙にはどう備えているのだろうか?
 
「統一ロシア」は、ロシアで最も高い支持率を誇り、また最も政権に近いが、創設以来初めて、経済が下降傾向にあるときに選挙に臨むことになる。選挙は9月だが、党幹部はもう今からいろいろ心配している。
 
統一ロシアは未だに、下院および地方議会で、過半数を占め続けているが、2011年の前回の選挙は、党にとって一つの転機となった。選挙の不正の糾弾、選挙結果発表後の街頭抗議行動、そして、野党勢力がかなりうまく宣伝したミーム「統一ロシアは詐欺師と泥棒の政党」などは、党のイメージに打撃を与えた。

2月5日、統一ロシア党は、来る選挙に向けての党大会の活動を開始した。大会で唱道されている主な理念は、国民的団結だ。国が強くなったのは、経済が申し分なかった時期ではなく、「我々が団結していた時だった」と、党首のドミトリー・メドベージェフ首相は演説で指摘した。

エリートのためのブランド
党が自分で作ったイメージで、党員は2011、2012年の抗議行動に遭う羽目となったが、このイメージは、長年にわたって出来てきたものだ。
 
統一ロシアは、2001年に、2つの政治運動、すなわち「統一」と「祖国・全ロシア」が統合されて生まれたが、この新党は、様々な地域のエリート集団の立場を中央の政策に近づけねばならなかった。だがその際、イデオロギーの統一は予期されていなかった。
 
「歴史的にこの党の枠内には、いくつかのイデオロギー的潮流が存在してきた。愛国的(保守的)なプラットフォームもあれば、中道左派のそれもあり、党内派閥のような様相を呈している」。こうロシアNOWに語るのは、社会経済政治研究所のアレクサンドル・ポジャロフ所長だ。
 
ロシアでは、最近15年間、リベラル政党が極めて脆弱であったことを考えると、統一ロシアは、リベラルな有権者の要望を満たしつつ、中道右派のかなりの部分もカバーしてきたことになる。「それはつまり、2000年代に生まれ、自らを大統領の支持者だとみなしている中流階級だ」。ポジャロフはこう説明する。

その意味では、統一ロシアは、ある単一の思想的路線をもった、典型的な政党ではあるまいが、日本の自由民主党や、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)の統一会派のような政党ではある――。こう指摘するのは、政治経済コミュニケーション・エージェンシーのドミトリー・オルロフ社長だ。
 
長年、統一ロシアの名簿が、地方では、知事や地方政府の閣僚に上位を占められてきたことで、「官僚の党」のレッテルが貼られることになった。

とはいえ、その成功の担保――つまり、プーチン大統領に近いこと(法的には、大統領は党と関係をもたないものの)――、そして、政権党ならではの、様々な行政的手段を駆使できる強みのおかげで、磐石の立場にあり続けてきた。 2007年には、プーチン大統領が党の比例代表名簿一位となり、得票率は過去最高の64,3%に達し、450議席中 315議席を占めた。

目指すは“隙間”を大きくすること
ところが、行政的手段を容易に駆使でき、それを濫用したせいで、2011年の下院選挙戦においては、統一ロシアは、あろうことか、政権にとってほとんど最悪の頭痛の種となった。抗議としての投票(「統一ロシア以外の政党に投票しよう」)により、共産党その他の野党は、かなりの票を獲得した。
 
だが、2016年の 下院選では、こういう抗議は起こるまい。その理由は、第一に、2011年選出の野党は、あれはいけない、これもいけないという禁止法案を大量に提出したことで目立ち、その結果、有権者の目から見ると、野党と与党の差はまったく消えてしまったからだ。調査によると、人々は「この連中はみんな与党さ」と言っている――。こう話すのは、政治調査国際研究所のエフゲニー・ミンチェンコ所長だ。

第二に、下院の野党は、実際のところ、議席の過半数を占めようなどとは考えておらず、選挙のニッチ(隙間)のなかで行動しているにすぎない。
 
「今日、ロシアでは、いわゆる1.5党体制ができている。つまり、主要な政党である与党と、それ以外の諸政党で、一定の社会的支持を得てはいるものの、与党よりも低い」。オルロフ氏はこう説明する。したがって、野党の戦いの意味は、過半数を占めることではなく、ニッチを広げることにあるという。

ロビーを出て
だから今年、統一ロシアが不正選挙に走ることはあるまい。クレムリンにとって、勝利は重要だが、絶対に何が何でもというわけでもない。「肝要なのは、現在の議席配分を維持すること。つまり、“愛国的コンセンサス”のある政党が選挙に勝つことだ」と、ミンチェンコ氏は言う。
 
統一ロシアは、連邦(全国)レベルでの公開プライマリーズ(一般有権者の参加のもとで党の候補者を選ぶ予備選挙)を初めて行ったが、これは、従来慣行となっていた楽屋裏での談合にかわり、公開性をアピールしたものだ。
 
2月5日の、統一ロシアの党大会で、党最高会議の委員の3分の1が刷新されたことが明らかになった。これは、党の“重鎮”を、社会のオピニオンリーダー(医師、俳優、作家、慈善家など)に替えようとする試みで、事実上、与党幹部の“再起動”がなされることになる。「これは、統一ロシアの進化の建設的プロセス。これにより、役人の党というイメージが払拭される」と、ポジャロフ氏は言う。
 
統一ロシアの支持率は、大統領のそれの反映ではあるが、現在の社会・経済状況は、大統領支持率には今のところ影響していない。「とはいえ、苛立ちを政権党にぶつける可能性はある。これが選挙戦でのリスクだ」。ロシア経済・国家行政アカデミー(RANHiGS)・社会科学研究所のエカテリーナ・シュリマン准教授はこう述べる。
 
こういう状況では、クレムリンにとっては、「全ロシア人民戦線」が支持する独立系の候補が重要になる。これは、プーチン大統領により2011年に創設された超党派の国民運動体で、与党そのものとはみなされないが、十分政権寄りとみられている。
 
統一ロシアの現在の支持率は約50%で、オルロフ氏の意見では、結局のところ、この党が下院のの議席を増やすチャンスもあるという。【2月22日 ロシアNOW】
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ひところは、プーチン大統領は「統一ロシア」を見限り、プーチン支持の超党派国民運動体「全ロシア人民戦線」に軸足を移すのでは・・・とも言われていましたが、現在のところは「全ロシア人民戦線」は独立系候補を推す形をとっているようです。

西側メディアでは“プーチン与党”というレッテルだけで見られている「統一ロシア」ですが、いろいろと試行錯誤もあるようです。

【“翼賛体制”とは言いつつも、プーチン大統領も与党てこ入れ

(【8月21日 東京】)

与党以外では「ロシア共産党」「公正ロシア」「ロシア自由民主党」の野党三党が存在していますが、いずれもプーチン支持で、事実上の“翼賛体制”が形成されています。

前回選挙での不正選挙批判もあって、今回は小選挙区制も併用される形で復活、比例代表での“足きり”得票率も7%から5%に引き下げられる「改革」が行われています。

前回選挙前後に低下した「統一ロシア」の支持率も、クリミア併合によるプーチン人気に支えられて回復しました。

****盤石 プーチン与党 来月18日、ロシア下院選****
ロシアの下院選(九月十八日投開票)まで一カ月を切った。二〇一四年三月のウクライナ南部クリミア半島併合以降、プーチン大統領の支持率は高止まりしたままで、与党統一ロシアが大幅に議席を減らした五年前の前回選とは雰囲気は様変わり。欧米の対ロ制裁などによる経済低迷の影響は限定的で、与党の勝利は盤石の様相だ。
 
「『クリミアを(ウクライナに)返し、欧州の仲間入りを』と言う党もあるが、そうしたところで、わが国はフランスにはなれない。ウクライナのように国が荒れ果てるだけだ」
 
十八日、モスクワ市内で開かれた統一ロシアの党員集会。かつて大統領府長官も務めたソビャニン・モスクワ市長が演説で聴衆をあおる。参加者の中には「言葉より実行」と書かれたTシャツ姿が目についた。
 
クリミア併合後、プーチン氏の支持率は60%台から80%超へ急上昇。集会に参加した医師ガリーナさん(68)も「あれほど尊敬できる大統領はほかにいないわ」。レバダセンターが五月に行った世論調査でも、統一ロシア支持の理由は「大統領を支持しているから」が35%でトップだった。
 
大統領は選挙運動に直接参加はしないが、プーチン氏の威光が統一ロシアの原動力になっていることは確かだ。
 
ロシア下院で議席を有するのは、与党以外では「ロシア共産党」「公正ロシア」「ロシア自由民主党」の野党三党。しかし三党とも政権支持で、事実上の翼賛体制が続く。反政権政党も選挙に挑むが、支持率は伸び悩み、比例代表で議席獲得に必要な得票率5%の壁は高い。
 
政権は、不正が横行し抗議運動が起きた二〇一一年の前回議会選の教訓を踏まえ、選挙に民主的体裁を整えようと腐心する。不正疑惑の中枢とされた中央選挙管理委員長のチュロフ氏を三月、女性人権活動家として知られるパンフィロワ氏に交代。前回の倍となる十四党に登録を認めた。
 
ただ実際にどれだけ中身を伴うかは疑問符が付く。メディアのほとんどは政権の影響下にある。政治学者のマカルキン氏は「テレビで討論のテーマにするのは経済や年金、医療ではなく、外交問題。『どう国を守るのか』と言われれば、与党に対して反論の余地がない」と話す。【8月21日 東京】
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野党もプーチン支持の“翼賛体制”とは言いつつも、やはり与党が惨敗するような事態はプーチン大統領としても避けたいところです。次期大統領選挙へ向けた戦略にも影響します。

クリミア併合で支持が回復したとは言いましたが、最近の世論調査では厳しい数字も出ています。

****ロシア首相と休日=下院選前に与党てこ入れ―プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は10日、北西部ノブゴロド州のイリメニ湖を訪れ、休日を過ごした。20カ国・地域(G20)首脳会議などを終えての遅めの短い「夏休み」。メドベージェフ首相を同行させ、盟友関係をアピールした。
 
大統領選の前哨戦である下院選を18日に控え、首相が率いる政権与党・統一ロシアをてこ入れする狙いがあるとみられている。統一ロシアは最近、支持率が4割から3割に急落しており、大統領も危機感を抱いているもようだ。【9月11日 時事】 
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なお、「統一ロシア」の支持率について“8ポイント低下の31%”との厳しい数字を示した独立系世論調査機関は、人権・リベラル・政権批判勢力への抑圧姿勢を強めるプーチン政権のもとで、スパイと同義の「外国の代理人」に指定されています。政府系調査機関は与党「統一ロシア」の支持率を「41~45%」としているそうです。

****露法務省、独立系で定評がある世論調査機関を“スパイ”認定 閉鎖の危機 下院選への圧力か****
ロシア法務省は6日までに、独立系世論調査機関として定評がある「レバダ・センター」を、スパイと同義の「外国の代理人」に指定し、リストに掲載した。

指定団体は当局の厳しい統制を受けることになり、センター関係者は「閉鎖の危機だ」と訴えている。18日に実施予定の下院選を前にした当局の圧力ではないかとの見方が出ている。
 
ロシアでは2012年、国外から資金を受けて「政治活動」に携わる非政府組織(NGO)を「外国の代理人」に指定する新法が発効し、すでに140団体がリストに入っている。指定団体は収支報告などが厳格化され、公表する資料類に「外国の代理人」と明記することも義務づけられる。
 
レバダ・センターは03年、国営機関から独立した社会学者らが設立。与党「統一ロシア」の支持率が39%から31%に低下したことを最近、公表したばかりだった。選挙監視を行うNGO「ゴロス」も「代理人」に指定されている。
 
モスクワでは11年12月、下院選の「不正」に抗議する大規模デモが発生。翌年発足した第3次プーチン政権は、こうした事態の再発を警戒し、NGOや反政権派への抑圧を強めた。【9月6日 産経】
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本当に与党支持率が31%程度ということになると、議席の大きな変化もあるのではないでしょうか。
特に地方では、格差への不満は共産党が受け皿になっているようです。

若手育成に乗り出したプーチン大統領
「統一ロシア」党首のメドベージェフ首相は、最近殆どその名前を目にすることはないような存在になっています。プーチン大統領が首相を解任するのでは・・・といった話もありましたが、今回選挙で与党が伸び悩めば首相再選はないでしょう。与党勝利でも、人事刷新に取り組むプーチン大統領のリストには入らないのではないでしょうか。

首相交代はもちろん、プーチン大統領自身の次回大統領選挙への出馬も、今後の若手の育成次第といったところです。

****<ロシア>プーチン大統領「次は若い指導者に****
ロシアのプーチン大統領(63)は自身の後継者像について「次のリーダーは十分若く、かつ円熟した人物でなければならない」と強調した。米ブルームバーグとの1日のインタビューで語った。露大統領府が5日、全文を公開した。
 
プーチン氏は最近、政権内の世代交代を進めており、将来の権力移行に備えている模様だ。インタビューでは2018年の次期大統領選への出馬について「まだ決めていない」と述べた。
 
プーチン氏は8月、最側近のセルゲイ・イワノフ氏(63)を大統領府長官から解任し、若手のアントン・ワイノ氏(44)に代えた。昨年8月のヤクーニン・ロシア鉄道社長(68)解任を皮切りに、自身と同世代や年長の盟友を次々引退させている。
 
一方、今年7月には4知事を更迭し、治安機関幹部らを臨時代理に当てた。プーチン氏はインタビューで「意欲と潜在力があると私が見た人物には働いてもらう」と述べた。次世代の政権エリート養成の動きとの見方を追認した形だ。【9月5日 毎日】
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今回の選挙を受けて若手抜擢が更に進むと思われますが、後継者が育たなければ自身が出馬・・・ということになるのでしょう。

選挙制度改正でリベラル系野党にも可能性?】
貧富の格差、官僚主義、腐敗・汚職など長期政権のひずみは小さくありませんが、クリミア併合で現体制は国民からの圧倒的な信任を得ています。

****支持率8割の大統領、前面に****
地方部で目立つ長期政権のゆがみ。にもかかわらず、プーチン大統領の支持率はウクライナ南部のクリミア併合直後に8割を超え、その後の経済危機に見舞われてもほとんど下がっていない。なぜなのか。
 
「ここ2年は経済が停滞しているとは言え、プーチン政権になってから人々の暮らし向きが良くなったことは事実だ。多くの人はそれを大統領の功績だと感じている。そしてなにより、クリミア(の併合)が大きかった」(中略)
 
与党「統一ロシア」は選挙向け広告にプーチン大統領の発言を使っている。「官僚党」のイメージを打ち消し、「大統領の党」を強調する戦略だ。
 
また地方部では、インテリ好みのリベラル系野党の人気は低い。ルイシコフ氏自身が認めるように「(格差是正を訴える)共産党が不満の受け皿になっている」のが実態だ。【8月30日 朝日】
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プーチン政権の政敵弾圧や上記のようなプーチン人気のもとで、いわゆるリベラル系の政治勢力は力を失っていますが、小選挙区制の復活で、大政党所属でなくても地元で人気が高ければ当選の可能性があります。

また、比例代表の足切りラインの引き下げで、著名な文化人や人権活動家を擁するリベラル系野党「ヤブロコ」にも議席獲得の可能性があるとの見方もあるようです。【8月30日 朝日より】
もっとも、前出【8月21日 東京】では、“反政権政党も選挙に挑むが、支持率は伸び悩み、比例代表で議席獲得に必要な得票率5%の壁は高い”とも。
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