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(インドとパキスタン、インドと中国が領有権を争うカシミール地方 【9月18日 毎日】)
【印パ関係・南アジアの混乱を招くパキスタンの「テロ支援国家」体質】
イスラム教を国教とするパキスタンと、多民族・多宗教を国是とする(モディ政権のヒンズー至上主義で、やや怪しいところもありますが)インドは、独立時の経緯もある「宿敵」関係、それも核保有国同士のホットな対立関係にあります。
これまでも3回に及ぶ印パ戦争のほか、領有権をめぐるカシミール地方をめぐる小競り合いは絶えず、また、パキスタンの影響下にある組織によるテロなども頻発しています。
両国は、そうした緊張状態と、対話を模索する時期を繰り返しています。
対立の舞台ともなっているインドが実効支配するカシミール地方では18日、インドの支配に対する武装闘争が始まった1989年までさかのぼっても犠牲者が最も多いものの一つとされる事件が起きています。
*****<インド軍>宿営地襲撃され兵士17人死亡 カシミール州*****
インド北部ジャム・カシミール州ウリで18日早朝、武装集団4人がインド軍の宿営地を襲撃し、軍などによると、少なくとも兵士17人が死亡、35人が負傷した。武装集団は約5時間後、全員射殺された。
軍当局者はパキスタンを拠点とするイスラム過激派「ジャイシェ・ムハンマド」が越境して攻撃を実行したとの見方を示した。
カシミール地方はインドとパキスタンが領有権を争う係争地。インドはたびたびパキスタンからの「越境テロ」を非難し対策を求めていた。今回の事件を機にこうした声が高まるのは必至で、印パ関係がいっそう険悪化する恐れがある。
地元メディアなどによると、現場は印パの実効支配線から約40キロ離れた丘陵部。武装集団は午前5時半ごろ宿営地に侵入し、軍部隊と銃撃戦になった。手投げ弾によるとみられる爆発もあり、兵士の宿舎に引火したという。
カシミール地方でのテロ攻撃では、2014年12月に軍の拠点が襲撃され兵士ら11人が死亡して以来の被害規模で、地元メディアは「過去10年で最悪の攻撃」と報じた。
事件を受け、シン内相は18日からの米露訪問を延期し、緊急の対策会議を開催。モディ首相はツイッターで「卑劣な攻撃の背後にいる者を処罰せずにはおかない」と非難した。
ジャム・カシミール州では7月以降、インドの実効支配に対する抗議デモが続いており、治安部隊との衝突でこれまでに約80人が死亡した。パキスタンはインドの対応を「非人道的」と非難し、印パ関係悪化の一因となっていた。【9月18日 毎日】
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記事にもあるように、カシミール地方ではこのところ外出禁止令が施行されるような不穏な情勢が続いていました。
****カシミール混乱、死者60人超す 独立過激派の指導者殺害から1カ月半・・・・外出禁止令、携帯使用制限も****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド支配地域で、分離・独立派の指導者が治安部隊に殺害されたことに反発する市民と治安部隊の衝突による混乱が長期化している。
PTI通信などによれば、21日までの約1カ月半で市民や警官を含む64人が死亡し、数千人が負傷した。
抗議行動を抑え込むためのインド政府による外出禁止令や携帯電話の使用制限が続き、市民生活は大きな影響を受けている。
混乱の発端は、7月8日に分離・独立派イスラム過激組織ヒズブル・ムジャヒディンの若手指導者ブルハン・ワニ幹部が治安部隊に殺害された事件だ。
ワニ幹部はインターネット上にインド支配を批判する写真や画像を載せ、若年層から大きな支持を受けていたため、治安部隊への反発が拡大した。ワニ幹部の葬儀には約5万人が集まったとされ、治安部隊への投石などが相次ぐようになった。
インド支配地域である印ジャム・カシミール州の州都スリナガルなどでは21日も外出禁止令が続き、商店やガソリンスタンドは閉鎖されたままだ。市民の移動も制限されている。携帯電話は20日に一部の通話が回復したが、インターネット通信が遮断されている。
カシミール地方ではイスラム教徒が多数派を占め、分離・独立派市民と、治安部隊との衝突に加え、過激組織によるテロがこれまでも頻発してきた。インドはパキスタンをテロを支援していると非難している。
一方、パキスタン政府は、混乱を「インド政府による露骨な人権侵害」(外務省報道官)と非難。国連安全保障理事会の決議に基づき、カシミール地方の帰属を住民投票で決めるべきだとする従来の主張を強調して、領有権争いを有利に進めようとしている。【8月21日 毎日】
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パキスタンからすれば、イスラム教徒のための国を建国したという独立の主旨からして、イスラム教徒が多いカシミール地方の領有は譲れないところですが、インドにしてもイスラム教徒が多いからという理由で分離すると、こちらも多民族・多宗教の国是に反することになり、どちらも「譲れない」争いを繰り返してきました。
お互いの主張、部外者にはわかりづらい事情はあるにしても、今回の襲撃もパキスタンに拠点を置くイスラム過激派組織「ジャイシェ・ムハンマド」が関与したとされるように、パキスタン側の過激派組織への関与が状況を悪化させる大きな要因です。
インドのシン内相は「パキスタンがテロとテロ集団を継続的かつ直接に支援していること」に失望していると表明しています。
パキスタン(直接には国軍、特に軍統合情報局ISIの関与でしょうが、そうした事態を黙認し続ける政府も同罪です)は、インド支配カシミール地方での過激派のテロ活動だけでなく、再三取り上げてきたように、アフガニスタンのタリバンなどのイスラム過激派への支援も行ってきました。
「テロ支援国家」とも思えるパキスタンのイスラム過激派への関与がなかりせば、さぞや南アジアの情勢はのどけからまし・・・とも思うのですが。
【中国を意識して日米に接近するモディ政権 ただ、温度差も】
インドはパキスタンとだけでなく、カシミール地方も含めて、中国とも領土問題を抱えており、こちらもしばしば小競り合いを繰り返しています。
****インドが中印国境周辺で米国と軍事演習、中国の反発は必至****
2016年9月12日、環球時報によると、インドと米国の陸軍が9月14日から27日の日程で、インドにおいて合同軍事演習を行う。
インド最大の通信社プレス・トラスト・オブ・インディアによると、演習はインド北部のウッタラーカンド州で行われるが、中国との国境から100キロほどしか離れておらず、3カ月前にインド海軍の艦艇が南シナ海を航行した際と同様に、中国側からの反発は必至とみられている。
米国とインドの合同軍事演習は今回で12回目。今回は山間部における対テロ作戦を中心とした演習内容だという。【9月13日 Record China】
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伝統的にインドは非同盟の全方位外交をとってきましたが、最近は中国のインド洋進出を受けて、これを牽制すべくアメリカ・日本への接近を強めています。
****モディ印首相、「非同盟」と距離か 首脳会議欠席 日米との連携反映****
インド政府は14日、ベネズエラで17日に始まる非同盟諸国首脳会議に、モディ首相ではなくアンサリ副大統領が出席すると発表した。
インドは、東西冷戦時にいかなる軍事ブロックにも加わらず中立主義を目指した会議の創設メンバー国で、実権を持つ首相が出席しないのは、本格政権としては初めて。
冷戦が終結し、中国の軍事的脅威が高まる中で、安全保障や経済で米国や日本との関係を強化するモディ氏の外交姿勢を反映した決定となった。(中略)
一方、モディ首相は、全方位外交から一歩踏み出し、中国に対抗するため、日米との協力を深化。米印海上共同訓練「マラバール」への日本の正式参加が決まり、日本の救難飛行艇「US2」の輸入へ向けた協議が進んでいる。
オバマ米大統領はインドを「主要な防衛パートナー」とみなし、米印は先月、両国軍の後方支援協力の覚書に調印。モディ氏には、安全保障での協力を経済発展につなげたいとの思いもある。(後略)【9月15日 産経】
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なお、今回の非同盟諸国首脳会議をパスしたのはインド・モディ首相だけではないようで、首脳級出席者は前回イランの35人に対し、今回は15人にとどまっています。
その背景には、国際社会から見限られつつあるベネズエラ・マドゥロ政権の主催ということもあるようです。今マドゥロ政権と仲良くしてもいい話はありませんので。
日本は、安倍首相とモディ首相が馬が合うということもあって、南シナ海問題もあってインドとの関係を強めていますが、当然ながら中国は反撥しています。
****中国外務省「日本のたくらみにはあきれ返る」=インドに廉価で武器輸出を推進、南シナ海問題で中国をけん制―中国メディア****
2016年9月13日、中国外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は、南シナ海問題におけるインドの中国に対する発言権を強めるため、日本がインドに対し廉価で武器装備の売り込みを進めているとする報道について、「そうした公明正大とは言えない販売協力のたくらみにはあきれ返る」と述べた。新華社が伝えた。
インド英字紙ザ・タイムズ・オブ・インディアは、「日本政府はインドに対し、16億ドル(約1600億円)相当の武器装備の売り込みを進めており、武器価格についてできる限り融通しようとしている」とし、「その狙いは、日印の安全保障分野での関係強化を行うことで、南シナ海問題におけるインドの中国に対する発言権を強めることだ」と報じていた。
華報道官は、「この報道を注意している」とした上で、「われわれは防衛協力を含む正常な協力に関しては異議を唱えない。だが協力を売り込むようなたくらみは公明正大とは言えず、あきれ返る」と述べた。【9月14日 Record China】
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“日本がインドに対し廉価で武器装備の売り込みを進めている”というのは、救難飛行艇US2のことでしょうか。
「US2」は、海上自衛隊の「そうりゅう」型通常動力潜水艦と並んで、世界水準の高品質を誇る日本の防衛システムのひとつとされています。
もっとも、その「高品質」は製造における日本の「職人技」に加え、日本の操縦、運用における極めて高度な技術あっての話であり、信頼性の怪しいローカルメイドを組み込んだ機体をインド軍が管理・運用するとなると、事故多発でトラブルのもとにも・・・・・という懸念もあるようです。
話をインドにもどすと、アメリカ・日本に接近とは言いつつも、インドとしても中国を過度に刺激するのは避けたいという思いもあります。
****米印、安保で急接近=「同盟」には温度差も****
冷戦期に対立していた米印両国が、安全保障分野で急速に距離を縮めつつある。今やインドにとって米国は重要な武器供給国で、米国にとってもインドは対中戦略の要。(4月)12日の国防相会談では、戦闘機の共同生産など新分野での協力も模索した。
だが、「米陣営の一員」と見られることを警戒するインドには、一定の距離を保ちたい思惑も透けて見え、関係強化を図る米国との温度差は残っている。
◇「戦略的握手」
旧ソ連時代から武器供給をロシアに依存していたインドは近年、軍備刷新を急いでいる。これに伴い米国の2010〜14年の対印武器輸出総額は、05〜09年に比べ15倍に増加。両国は空母を含む武器の設計・生産でも連携する方針で、米高官は「他の同盟国とも共有しない機密技術をインドに提供する」と話す。
ソフト面でも、米印は日本を交えて大規模な合同海上演習「マラバール」を毎年開催している。国防相会談では、インド洋などでの民間船舶の航行情報を共有し、海洋監視で協力する意向を確認。カーター国防長官は米印関係の進展を「戦略的握手」と表現した。
◇中国の脅威
非同盟の方針を貫いてきたインドが米国に近づく背景には、中国の存在がある。中国はパキスタンやスリランカなどで港湾開発に着手し、インド洋進出の拠点づくりを進める。インド海軍関係者は「二つの方面に目を向けている。中国とパキスタンの脅威だ」と語り、中国の動きに神経をとがらせていることを認めた。
だが、米印の接近には限界があると指摘する見方も根強い。
米国は04年以降、後方支援協定(LSA)の締結をインドに働き掛けてきた。LSAは、米国が日本など同盟国との間で結ぶ「物品役務相互提供協定」(ACSA)と同様、補給などのために互いの基地を利用できるようにする取り決めだ。
これに対しインドは、軍事同盟に準ずるものだとして協定締結を渋り、覚書への「格下げ」を求めた。背景には、中国を過度に刺激することは避けたいとの計算もある。外交専門家は「インドは『握手』に応じつつ、『アームズレングス』(手が届く一定の距離)を保ち続けるだろう」と予想する。【4月12日 時事】
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また、インドは原子力技術の面でも、「原子力供給国グループ(NSG)」への正式加盟問題で中国の理解・協力を必要としています。
****インド、原子力供給国グループ加盟で中国と「実質的協議」****
インド外務省は、中国と13日に、48カ国が加盟する国際組織「原子力供給国グループ(NSG)」への正式加盟について「実質的な」協議を行ったと明らかにした。
モディ首相は、公害度の高い化石燃料への依存度を下げるため、ロシアや米国、フランスとの合弁で原子力発電所を建設する数十億ドル規模の構想を支援したい考えで、NSG加盟を目指している。しかし、中国が事実上拒否権を発動する格好となっており、加盟は実現していない。
インドは2008年にNSGから規制適用の例外扱い措置を受け、核関連技術の移転などを認められたが、決定事項への投票権はない。
協議は先に両国外相間で合意していたもので、インドが中国の代表団を迎える形で行われた。
インド外務省は声明で「協議は率直かつ現実的、また実質的だった」と述べ、さらに話し合いを行っていくと付け加えた。(後略)【9月14日 ロイター】
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【周辺国へのインドの「インドの覇権主義外交」】
なお、“中国の進出を牽制すべく・・・”と言いますが、インドも関係国への影響力強化を図る「覇権主義」傾向がある点では、中国と似たり寄ったりです。
****インド外交「アメとムチ」 経済関係を深め囲い込み ****
インドが「アメとムチ」の周辺国外交を鮮明にしている。南アジアを自国の影響圏として外交・経済面の結びつきを強める一方で、中国に接近する国には圧力をかける。だが、したたかな周辺国では首脳の北京詣でが相次いでいる。
「2年で600メガワットの電力をネパールに提供できる」。モディ首相は2月の首脳会談後、ネパールのオリ首相にこう語った。印東部とネパールの間に開通した送電網によって、ネパールは2017年末にピーク時に不足する電力の7割を賄える。ネパールで水力発電所の建設が進めば、逆にインドはネパールから電力を輸入できるという。
ヒマラヤの小国ネパールにとってインドは頼れる隣国にみえるが、実は「インドの覇権主義外交」(外交専門家)の一環という。
オリ氏の訪印はインドによる経済封鎖の解除が目的だった。昨年9月に公布されたネパールの新憲法にインド系住民が反発。国境を封鎖した。インドは封鎖を容認し、燃料供給を止めた。ネパールの震災復興も滞った。オリ氏は中国からの代替調達を断念。憲法を改正したうえで訪印し、燃料供給の再開を頼んだ。
「モディ氏がスリランカと協議している」。ガドカリ道路交通・高速道路相は、インドとスリランカを橋やトンネルでつなぐ構想を明らかにした。事業費は2000億ルピー(約3300億円)程度に上るという。
スリランカでは昨年1月の大統領選で、親中派の現職ラジャパクサ氏が、有力な地盤を持たないシリセナ氏に敗れた。中国の潜水艦を入港させるなど対中接近が目立ったラジャパクサ氏を「米印があからさまに追い落とした」とされた。インドはスリランカを橋やトンネルで結んで「地続き」にし、離反を抑える。
インドは昨年、バングラデシュ、ブータン、ネパールと車両や人の往来の自由化で合意した。ネール大のコンダパリ教授は「モディ氏は周辺国との(外交・経済の)統合を狙っている」と言う。
だが、周辺国は経済・軍事の両面でインドに勝る中国との関係を深め、遠心力は強まっている。
ネパールのオリ氏は3月、北京で李克強首相と会談し、鉄道網を自国まで延ばすよう提案した。李氏は前向きだったという。スリランカのウィクラマシンハ首相は7日、北京で李克強首相と会談する。交渉中の自由貿易協定(FTA)関連など10項目以上の合意をめざしている。
2014年の政権発足以来、モディ氏は表面上、中国との良好な関係を維持している。ただ、水面下では対中警戒レベルを引き上げたとされる。【4月7日 日経】
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ネパールでは親中的なオリ首相が辞任に追い込まれ、新首相のダハル氏(ネパール共産党毛沢東主義派)はインド重視の姿勢を見せています。