孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  立法会選挙での「本土派」躍進で注目される中国の今後の対応 香港では世代間ギャップも

2016-09-12 22:42:18 | 東アジア

(雨傘革命を率いた学生が主体となった新政党「香港衆志(デモシスト)」が送り出した候補者が当選(写真:AP/アフロ)【9月7日 日経ビジネス)】)

若者に広がる「反中国」意識の根深さを印象づけた
今月4日行われた香港立法会選挙は、香港の独自性を重視し、中国からの独立も視野に入れた主張をする「本土派」の参戦によって、そうした「本土派」が議席を獲得できるのか、また、中国と距離を置く勢力が民主化拡大を求める従来の「民主派」勢力と、より過激な「本土派」に分裂することで“共倒れ”ともなって、重要法案を否決できる「3分の1超」を獲得できないかもしれない・・・といった視点で注目されました。

(7月31日ブログ“香港立法会選挙 香港独立を掲げる「本土派」代表の立候補資格取り消しで波乱含みの展開”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160731

結果は周知のように、「本土派」も6議席を獲得し(独立をも選択肢とするとは言っても、各候補によって濃淡がありますので、メディアによって“「本土派」3議席、「自決派」3議席”とするなど、「本土派」の色分けが異なります)、既存の「民主派」と「本土派」の反中勢力合計では議席を伸ばして「3分の1超」を確保することになりました。

****香港民主派、3分の1維持 苦戦一転、立て直す 議会選****
4日投開票された香港の立法会(議会、定数70)選挙で、直前の世論調査で退潮が危ぶまれていた民主派が危機感をばねに議席を増やした。ただ、中国からの独立など過激な主張をする「本土派」も議席を獲得したことで、今後の混乱や中国との関係悪化が心配される事態にもなった。
 
香港メディアによると、親中派が現在より三つ減らして40議席にとどまったのに対し、民主派は30議席に増え、重要法案で否決権を持つ全体の3分の1を守った。

香港中心の立場で、独立も選択肢とする「青年新政」ら本土派は3議席をとり、「自決派」と呼ばれる雨傘運動の元リーダーらの政党「香港衆志」の羅冠聡さん(23)も史上最年少の当選者となった。
 
今回は行政長官選挙の民主化を求めた2014年の大規模デモ「雨傘運動」の後、初めての立法会選。中国側から提案された選挙制度改革法案を「ニセの普通選挙だ」と批判して跳ね返した民主派は、苦戦していた。
 
原因は、運動中からくすぶっていた民主派内の路線対立だ。大規模な抗議活動でも中国や香港政府から譲歩を引き出せず、中国との対話路線をとる既存の民主派に若者らが失望。中国からの独立も選択肢とする本土派が支持を広げ、民主派内で票を奪い合う構図になった。
 
だが、投票日直前、民主派内で支持率が低迷していた6人が「票の分散を防ぐ」として棄権を表明。市民の間にも危機感が広がった。結果的に投票率は前回から約5ポイント上昇し、香港返還以降で最高の58%を記録した。

 ■反中国、本土派3議席
「香港人の将来について議論していきたい。香港人は主権について議論する言論の自由がある」
当選した本土派「青年新政」の游ケイ禎さん(25)はそう語り、立法会で将来の香港のあり方について議論する意向を示した。
 
本土派に激しい不快感を示す中国政府の意向を受け、香港政府は今回、なりふり構わぬ措置をとった。選管は、「香港は中国の一部」などと定めた香港基本法を守るとの「確認書」への署名を候補者に迫り、独立などを訴えてきた本土派候補6人の立候補を取り消した。
 
それでも、3人が当選。若者に広がる「反中国」意識の根深さを印象づけた。
 
ただ、民主派内にも独立や暴力を容認する本土派への抵抗感は根強く、理念先行で具体的な政策が乏しい本土派が議会でできることも限られる。

中国政府の香港マカオ事務弁公室は5日、「選挙を利用して公の場で独立を訴えた組織がある。中国の憲法や基本法に反し、国家の安全に危険を及ぼすものだ」と警告した。
 
来年3月には香港トップを決める行政長官選挙があり、親中派の梁振英氏が再選されるかが当面の香港の政治課題。同7月には返還20周年も控えており、中国からの締め付けや管理が強まる時期に、民主派が力を発揮できるかが問われる。

 ■過激主張、背景に閉塞感
倉田徹・立教大法学部准教授(香港政治)の話 

過激な主張をする本土派が議席を得た背景には、若者の間に広がる閉塞(へいそく)感が大きい。雨傘運動が挫折し、民主的な普通選挙実現の道筋が描けなくなった。書店関係者の失踪事件などで「一国二制度」への危機感も高まっている。

中国大陸との経済的融合は進んだようにみえるが、実際には中国企業や大陸出身者が優遇され、香港の若者は職探しに苦労している。現実の可能性を閉ざされた悲観や絶望が、実現不可能にみえる「理想」に若者を走らせている。

 ■政治の混乱続く可能性
蔡子強・香港中文大学高級講師の話 

香港返還以降で、自決や独立が初めて争点になった立法会選挙だった。「一国二制度」で高度な自治が認められているはずなのに、中国や香港の政府が「一国」を押しつけ、市民の強い反感を買った結果だ。

香港生まれの若い世代は、祖父母や親の世代と違って中国への思い入れが薄く、強大になった中国を覇権的だと感じている。

本土派の政策はつたなく、独立を支持する市民は多くないが、中国が強硬な政策を続け、香港人の声を無視する限り、政治の混乱が続く可能性がある。【9月6日 朝日】
*******************

当然ながら、この結果に中国政府は強く反発しています。

****中国政府「香港独立は違法、断固反対」=香港議会選受け談話発表****
2016年9月5日、中国政府で香港問題を担当する国務院香港マカオ事務弁公室は、4日に投票が行われた香港の議会に当たる立法会の選挙について談話を発表し、「選挙期間中、ごく一部の団体や候補者が選挙という場を利用して『香港独立』を公然と吹聴していたことに、当局は注意を払ってきた」とした上で、「『香港独立』は、『中華人民共和国憲法』および『中華人民共和国香港特別行政区基本法』に違反しており、立法会の内外でのいかなる形式の『香港独立』活動にも断固反対する」と非難した。英BBCが伝えた。(後略)【9月6日 Record China】
********************

ただ、まだ選挙後の日も浅いこともあって、中国側のそれ以上の目だった動きもないようです。

懸念される世代間のギャップの一層の顕在化
香港内部の動きも、まだこれから・・・といったところです。
香港の独立を主張したことを理由に選挙管理委員会から立候補を認められなかった陳浩天氏が、立候補する予定だった選挙区の選挙のやり直しを求める申し立てを裁判所に行ったことぐらいでしょうか。

ただ、来年3月には香港トップを決める行政長官選挙があり、7月には返還20周年を迎えるという日程において、中国側の締め付け強化と、それに反発する「本土派」を支えた若者世代の対立が、今後更に激しくなると思われます。

香港内部においても、“自由を奪われる若者は、その鬱憤が独立欲求へと代わり、団塊世代は保守的になって世代間ギャップが拡大する”という世代間のギャップも一層顕在化してきます。

****香港議会、「独立派議員誕生」が意味するもの****
民主派の分裂
香港の自由を維持すべく、民主派が一致団結すべきなのだが、昨年あたりから、民主派が求める方向性の違いから分裂し始めている。
 
一国二制度を堅持する穏健な民主派が中心だが、暴動を起こして自らの意見を主張する過激な民主派が登場。また、香港は中国から独立すべきという考えを持つ独立派が支持を集め始めた。背景には、急速に中国化が進む香港において、何も行動を起こさなければよりその速度が速まるという焦りがある。

香港では年に何度か大規模なデモが行われる機会がある。中でも規模が大きいのは6月4日と7月1日に行われるデモだ。
 
6月4日は天安門事件の追悼集会が中心で、7月1日は中国への返還を記念した祝日に行われる。天安門事件の追悼集会では集会の参加者が減少し、香港の民主派支持者の中にも、急速な中国化に対する「諦め」に近いものを感じた。
 
一方、7月1日のデモでは独立を主張する人たちの台頭を感じさせられた。
 
香港島の中心都市の1つである銅鑼灣(コーズウェイベイ)。デモ隊が歩く中、歩みを止めて歩行者に無言で訴えかける一団がいた。サングラスをかけてマスクをし、素性が分かりにくい格好をしながら、手には英国統治時代の香港の旗を持つ。中には「香港独立」と書かれたプラカードを掲げる者もいた。
 
参加者の男性(21歳)は、「中国政府はもちろん、今の香港政府にも自分たちの将来を任せることはできない。自分たちの未来は自分たちで創る。そのためには独立こそ最善の道だ」と熱く語る。

深まる世代間対立の溝
社会学者で香港中文大学講師の張彧暋(チョー・イクマン)氏は今回の選挙を次のように分析する。
 
「香港の民主化は既に不可能という状況に陥り、今は自由はおろか、法の統治まで危険に晒されている。若者の尊厳が損なわれ、その奪回に向けた動きは独立要求となって『公民ナショナリズム』にひた走る。
ただ、団塊世代または中流階層は生活保守主義のため、中立名目でも実際権威化に移動する。本土派や若者の要求に、民主派もなかなか意識せず思惟が麻痺する」
 
自由を奪われる若者は、その鬱憤が独立欲求へと代わり、団塊世代は保守的になって世代間ギャップが拡大するという。
 
本土派を含む民主派が30議席を確保して一定の存在感を示した形にはなった。だが、それぞれが目指す「香港の姿」は異なる。世代間の対立が深まる中では、香港が置かれている厳しい立ち位置に変化をもたらすのは、難しそうだ。【9月7日 日経ビジネス】
**********************

中国側の締め付け強化で、生活保守主義が強まることも
中国側の対応については、言論統制強化への懸念があります。

****香港の「反中独立派」が中国を揺さぶり始めた****
中国政府は約束を守るのか、守らないのか
中国はこれに対し、強硬な手段で統制を強めてくる可能性が高い。

過去に実例がある。2015年秋に香港の一書店の店主以下数名を中国に拉致した事件であった。同書店が中国に批判的な書籍を販売したことが理由だと言われている。中国は中国内での厳しい言論統制を香港においても実行しようとしたのだ。

香港の新聞は今のところ中国内ほど厳しい規制下におかれておらず、『明報』など一部の新聞は比較的中立の立場を維持している。しかし、今後の状況次第では統制が強化される恐れがある。そうなると香港住民の権利はまたしても踏みにじられることになるのではないか。

中国政府が強硬な言論統制によって中国批判と民主化要求を封じ込めようとすれば反発も大きくなるだろう。また、民主化運動の影響は特定の都市や地方にとどまらず、他の地方にも、また国際的にも広がっていく。

しかも、香港で起こっていることを見て中国はルールや約束を守らないという印象を持つ人が増えるのではないか。中国が香港にどのように接するかは中国の内政問題だが、中国が約束を守るか否かは国際社会が見ている。【9月12日 東洋経済online】
*******************

ただ、あまり露骨な締め付け・介入は反中国感情を刺激するだけだ・・・ということぐらいは中国も承知しているでしょうから、まずは経済的な締め付け強化が行われるのではないでしょうか。

中国経済に依存する香港にあって、中国側の締め付けで経済的に苦境に立たされると、“団塊世代または中流階層は生活保守主義のため、中立名目でも実際権威化に移動する”ことになります。若者らの“夢”の非現実性への風当たりも強まるでしょう。

「一国二制度」の香港に比べたら、「一つの中国」で綱引きが行われている台湾は遥かに中国との距離があります。
それでも中国経済への依存という点では似たような状況にもあり、独立志向の強い民進党・蔡英文政権誕生にともなう中国側の締め付けで、台湾内に政権への不満も出ているようです。

****中国人観光客戻って!」台湾で観光業者ら2万人が初めてのデモ 独立志向の蔡政権のせい****
民主進歩党政権の発足による中国人観光客の減少を受け、台湾の観光業者が12日、対応策を求めるデモを台北市内で行い、主催者発表で約2万人が参加した。
 
デモは、旅行会社や宿泊業、観光バス業者やガイドなどの組合11団体が実施。観光業者のデモは台湾初といい、参加者は「仕事が必要だ」などと訴えた。
 
中国からの観光客は、中国国民党の馬英九前政権が2008年に解禁して急成長し、昨年は約420万人が訪れた。だが、独立志向の強い民進党が政権奪還を決めて以降、減少傾向に転換。内政部移民署(入国管理局に相当)によると、8月の人数は前年同期比39%減となった。
 
行政院(内閣)は今月に入り、今年の中国人観光客は前年比65〜67万人減で、観光収入の減少は360億台湾元(約1160億円)と推計。300億台湾元の低利融資などの対応策を発表した。

だが、1〜7月の訪台客の約4割が中国からと依存度は高く、当局は東南アジアなどの市場開拓の必要性を訴えている。【9月12日 産経】
****************

香港と台湾の共鳴・共振
一方、中国側の対応次第では、ともに中国への反発を強める香港と台湾が、共鳴・共振してその動きを加速させることも考えられます。

****<台湾・香港関係>強まる政治的つながり、中国大陸からの影響上回る=台湾学者****
中央警察大学(桃園市)国境警察学科の王智盛・助理教授は8日、4日に投開票が行われた香港の立法会(議会)選挙に関する座談会で、ここ2年間に台湾と香港の政治において生まれた「連動効果」は、中国大陸が(1997年の香港返還以降)20年近くをかけて生み出してきた影響力よりも大きいと語った。

王氏は、2014年3月に台湾で起きた「ひまわり学生運動」から、同年9月に始まった香港「雨傘運動」、その後の台湾の選挙までの一連の流れについて、台湾と香港は互いに助け合い補い合って発展する関係にあると指摘。

また、中国大陸は香港を「一国二制度」のモデルケースとし、台湾にも影響を与えようとしてきたが、立法院(国会)を占拠するなどしたひまわり学生運動の手法を、香港の民主派が取り入れようとする「今日の台湾は明日の香港」というスローガンによって、その幻想はすでに崩れ去っていると述べた。

台湾では、2014年11月の統一地方選挙で、中国大陸との融和路線をとった当時の与党、国民党が大敗。今年1月の総統・立法委員(国会議員)選挙では、台湾独立志向を持つ民進党が勝利し、2008年以来8年ぶりの政権交代が実現している。

一方、雨傘運動以降初となる今回の立法会選では、香港独立も視野に入れる「本土派」が新たに議席を獲得するなど、政治面においては台湾と香港双方で若者を中心に「中国大陸離れ」が起きている。【9月10日 フォーカス台湾】
*********************

失策続きの習外交 反省が必要なところだが・・・・
香港・台湾が今後どういう方向に動くかは、中国の対応によります。

ここ1年程の中国・習近平政権の外交政策は、台湾・香港の“中国離れ”を招き、北朝鮮を抑えられなかったことで蜜月関係にあった韓国をアメリカ・日本の側に追いやり、南シナ海では仲裁裁判所の判断で防戦に追われ(フィリピンの反米親中政権誕生でかろうじて持ちこたえていますが)・・・・と、失策続きです。

中南海での権力闘争においても、こうした外交失敗は反習近平派の攻めどころともなっていると思われます。

本来の話で言えば、韓国や日本などはともかく、同じ中華系民族である香港や台湾から、なぜこうも嫌われるのか・・・ということを深く考える必要があることころですが、そうした反省がないところが中国の限界でもあります。

「中国が巨大になれば、当然に香港・台湾は中国になびくはずだ」「なびかないのは、間違った思想、外国勢力に動かされているせいだ」という発想ではなかなか・・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする