
(【2015年05月26日 AFP】)
【広がるイスラム過激派の影響 それが強権支配正当化の理由にも】
正直なところ、中央アジアの国々は日本とはあまり馴染みがないこともあって、トルクメニスタンやタジキスタンと言われても、その地図上の位置も定かではありません。

(【2014年5月8日 赤旗】)
イメージとしては、ウズベキスタンはサマルカンドなど観光的スポットが多く、カザフスタンは広大な国土とウランなど豊富な資源を有し、キルギスはこの地域では比較的民主的な政治体制の国・・・・といったところでしょうか。
キルギス以外はいわゆる独裁的強権国家で、この地域を観光で旅行する際も何かと苦労が多いと聞きます。
その中央アジアでは最も民主的政治体制が進んでいるとされるキルギスで、8月30日、中国大使館が自爆テロの標的とされたことは、8月30日ブログ“キルギス 「中央アジア随一の民主国家」で自爆テロ 狙いはウイグル族を抑圧する中国か?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160830で取り上げました。
****<続報>キルギスの中国大使館襲撃事件、首謀はシリアのテロ組織****
2016年9月6日、キルギス当局は、先月末に首都ビシケクで起きた中国大使館襲撃事件について、容疑者5人を逮捕したことを明らかにした。環球時報が伝えた。(中略)
キルギス当局によると、襲撃事件はシリアに拠点を置くテロ組織が計画したもので、逮捕された5人のほか、4人がトルコにおり指名手配している。
同テロ組織のメンバーはキルギスのパスポートを所持しており、自爆テロを行ったのは中国からの独立を目指すイスラム主義組織「東トルキスタンイスラム運動」のメンバーだったという。海外メディアはキルギス当局が指名手配した4人について、トルコ政府に容疑者の資料提供を求めていると報じている。【9月7日 Record china】
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ウズベキスタンなど中央アジア諸国から「イスラム国」(IS)に数千人が参加したとも言われているように、イスラム過激派の影響が広がっていることは中央アジアに共通していますが、そのことが「政治混乱で過激派拡大の隙を与えてはならない」という、強権支配の正当化にも使われています。
【ウズベキスタン:後継者を指名していなかったカリモフ大統領死去】
そうした独裁国家のひとつウズベキスタンでは、今月初め25年以上強権政治を続けてきたカリモフ大統領が死去し、その後継者が注目されています。
****ウズベキスタン独裁者の死はグレート・ゲームの導火線か****
<25年以上強権政治を続けてきたウズベキスタンのカリモフ大統領が、後継指名のないまま死去した。緊張高まる中央アジアに日本ができることは何か>
中央アジアの雄、ウズベキスタンのカリモフ大統領が今月2日死去した。78歳。ソ連末期から独立後の25年以上、一貫して大統領の座にあった。その間、強権政治を欧米に非難されながらも、外交・経済両面での自立を旨として、新しい国家の形をつけ、人口3000万の大国として安定を維持してきた。
ウズベキスタンは人口と軍事力で、中央アジアで群を抜く。しかも、他の中央アジア4カ国のすべて、そして不安定なアフガニスタンにも接している。大統領の交代でこの国が不安定化すれば、中央アジアだけでなくロシアにも影響が及ぶだろう。
ウズベキスタンの憲法は、大統領が執務不能になった場合、上院議長が代行し、3カ月以内に大統領選を行うものと定めている。この国では以前から、地方ごとのクラン(氏族)の勢力・利権争いがある。継承争いで対立が先鋭化し、これに大統領の長女グルナラ、あるいは中国、ロシアが絡めば、情勢はしばし荒れ模様となり得る。
ウズベキスタンの北方、ロシアを挟んで日本の7倍の国土を持つ、石油大国カザフスタンの雲行きも怪しい。同国のナザルバエフ大統領も、ソ連崩壊以降ずっと権力の座にある。76歳と高齢なのに、後継候補が定まっていない。
彼が急死すれば、副首相を務める彼の長女ダリガも加わってカザフスタンで権力闘争が展開されるだろう。既に5月から国内でテロ・暴力事件が頻発。宗教過激派の犯行とされるものの、実態は闇の世界も関与しての利権、権力闘争とも言われる。(後略)【09月13日 河東哲夫氏 Newsweek】
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「グレート・ゲーム」は、第一次大戦前の中央アジアを舞台として、インド洋への南下を目指すロシア帝国と、それを阻止する大英帝国の間で繰り広げられた抗争ですが、現在は旧ソ連圏の盟主たらんとするロシアと、「一帯一路」(現代版シルクロード経済圏構想)でこの地域への影響力を強める中国が争う形となっています。
ウズベキスタンの後継者問題については、ミルジヨエフ首相を軸として進むと見られていますが、不透明性も。
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ミルジヨエフ首相が後継大統領になるとの観測が強いが、ウズベキスタンの独裁は、カリモフ氏のカリスマ性に依存するところが大きかった。(中略)
後任と目されるミルジヨエフ氏にはカリモフ氏のようなカリスマ性はない。また、ウズベキスタンの国家制度において、首相は主に経済を担当し、軍、秘密警察などの管轄は大統領に属している。
従って、ミルジヨエフ氏が軍と秘密警察を掌握できない可能性がある。その場合、ウズベキスタンが、タジキスタンやキルギスのような破綻国家にはならないとしても、国家の一部領域を実効支配できなくなる可能性が十分にある。【9月19日 佐藤優氏 産経】
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【親族への権限移譲を進める他の独裁国家】
他の中央アジア独裁国家では、ウズベキスタンを睨みながら、親族への権限移譲体制を進めています。
****中央アジアで進む大統領終身化、親族への権力委譲準備の動き****
旧ソ連の中央アジア各国で現職大統領が終身的に任期を継続できる制度を導入したり、大統領の親族が権力を継承しやすくしたりするなどの動きが顕著になっている。
中央アジアでは2日にウズベキスタンのカリモフ大統領が死去したが、各国はウズベクの権力委譲の推移を注視しつつ、自国内で混乱が起きる可能性を排除する狙いがあるとみられる。
カザフスタンでは16日、ナザルバエフ大統領(76)の長女ダリガ氏(53)が上院の国際関係・国防委員会トップに選出された。カザフでは大統領が死亡したり職務不能になったりした場合には上院議長が代行するため、今回の人事はダリガ氏への将来的な大統領権限の委譲に向けた準備との観測が出ている。ダリガ氏は副首相など重要ポストを歴任していたが、13日に大統領自らがダリガ氏を上院議員に任命していた。
また、トルクメニスタンでは14日、大統領任期を延長し、さらに70歳までだった大統領選出馬の年齢制限も撤廃する憲法改定が実施された。改定案はベルドイムハメドフ大統領(59)自身が率いる委員会がまとめたもので、同氏を事実上の終身大統領とするための動きだ。
タジキスタンでは5月、国民投票によりラフモン大統領(63)が無制限に大統領選に出馬できる憲法改定がなされ、大統領選の出馬年齢の下限も35歳から30歳に引き下げられた。ラフモン氏を終身大統領としつつ、必要に応じて2020年の次期大統領選に息子のルスタム氏(28)が立候補できるようにする措置とみられている。
央アジア情勢に詳しいカーネギー財団モスクワ・センターのマラシェンコ研究員は、「どの国も安定を望んでおり、(中東・北アフリカで11年に政権崩壊が相次いだ)『アラブの春』の再来を見たいとは思っていない」と指摘。
各国の動きは、将来の権力委譲時に起こりうる国家体制の不安定化を押さえ込む狙いがあるとの見方を示したうえで、指導者間の争いなどが起きれば「イスラム過激派につけいる隙を与えかねない」とも警告する。
そのうえでカザフを例に「ナザルバエフ氏は自身の死後、権力の分散化や政治・経済面での改革が必要だと認識している」とし、同様に大統領が独裁的な権力を維持してきたウズベキスタンの権力委譲がどのように進むかを注視していると分析する。【9月29日 産経】
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【長女への権限移譲を進めるカザフスタンでは、相次ぐテロも】
先ず、長女ダリガ氏への権限移譲を進める地域大国カザフスタンですが、カザフスタンでは今年6月5日、西部の工業都市アクトベで武装集団が内務省軍の駐屯地などを襲撃する事件が起き、軍人ら6人が死亡。
更に7月18日には最大都市アルマトイの中心部で自動小銃で武装した男が警察署を襲撃、警察官ら6人が死亡するというテロが起きており、イスラム過激派への警戒を強めています。
【タジク民族主義を進めるタジキスタンでは、大統領の終身化と長男への世襲へ】
タジキスタンは、ラフモン大統領の終身化と長男への世襲への道を開き、体制固めを狙っています。
****タジク国民投票、「終身大統領」に道筋 中央選管が暫定結果「賛成9割超えた」****
旧ソ連中央アジアのタジキスタンで22日、現職のラフモン大統領(63)が無制限に大統領選に出馬できるようにする憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、中央選管は23日、暫定結果として賛成が9割を超えたと発表した。1994年から大統領の座にあるラフモン氏が終身大統領になることに道を開く動き。
憲法改正案には大統領選の被選挙権を現在の35歳以上から30歳以上に引き下げる項目も盛り込まれた。ラフモン氏の長男の出馬を念頭に置いた動きとみられ、世襲体制の確立にも道筋を付けた格好だ。
旧ソ連最貧国とされるタジクは、ロシアなどからの出稼ぎ労働者の送金が国内総生産(GDP)の4割に達するが、ロシア経済の悪化で送金額が激減。昨年9月には国防次官が政権転覆を狙い武装蜂起したと伝えられるなど社会情勢も不安定化しており、ラフモン氏は権力基盤をさらに固め、国内の締め付けを図る狙いだ。【5月23日 産経】
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ラフモン大統領は“ロシア離れ”を進め、タジク民族主義で国をまとめようとしています。
****「理解不能」な言葉使った記者に罰金、タジキスタン****
中央アジアに位置し、旧ソ連の構成国だったタジキスタンでは、ロシア風のサンタクロースをテレビに登場させることが禁止され、子どもに外国名を付けることも禁じられたが、今度は「理解不能」な言葉を使用したジャーナリストに罰金が科されることになった。
タジキスタン政府の国語委員会を率いるガウハル・シャリフゾダ(Gavhar Sharifzoda)氏は1日、露インタファクス(Interfax)通信が伝えた談話の中で「ジャーナリストが素朴な読者や視聴者には理解できない言葉を、1日に10個も使う場合もある。国語の規範を甚だしく逸脱するものだ」と述べた。(中略)
人口800万人のタジキスタンでは、公用語のタジク語に対し、アフガニスタンで話されているペルシャ語やダリー語の影響が増しているとして当局が不満を表している。
タジキスタンでは旧ソ連時代に広く話されていたロシア語を「民族間のコミュニケーション」に使用する言語として憲法上で認めているが、公用語はタジク語だけとなっている。
内陸の貧困国タジキスタンで長年大統領の座にあるエモマリ・ラフモン氏は、愛国心を高めるためとして、2009年に公用語としてのロシア語の使用を廃止した。しかし、現在もタジク語の表記には、ロシア語のキリル文字の一種が使用されている。【8月2日 AFP】
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「理解不能」な言葉とは何でしょうか?「独裁」とか「強権支配」、あるいは「人権」「民主主義」とかいった類でしょうか?
【「中央アジアの北朝鮮」トルクメニスタン 天然ガス利益で「庶民の笑顔」も】
北朝鮮と並んで世界で最も抑圧的な国の一つとされているトルクメニスタンは、更に風変わりです。
****<トルクメニスタン>金色の大統領像…強まる個人崇拝****
中央アジアの資源国トルクメニスタンの首都アシガバートで5月下旬、ベルドイムハメドフ大統領(57)を顕彰する金色の巨大モニュメントが設置された。ロシア通信が報じた。
同国は閉鎖的で独裁的な体制から「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれる。ニヤゾフ初代大統領(2006年死去)時代と同様、07年に就任した2代目大統領、ベルドイムハメドフ氏の個人崇拝が強まっていることを示している。
「擁護者のモニュメント」と名付けられた記念碑には、白い岩山を模した高さ15メートルの大理石の台座の上に、高さ6メートルの金張りの騎馬像が載る。大統領は伝統衣装姿で再現され、馬は同国が誇る貴重なアハルテケ種だ。
トルクメニスタン議会は「国民の絶大な要望を受けて設置された」としている。首都中心部にはニヤゾフ氏の黄金像があったが、11年に郊外へ移された。
トルクメニスタンは埋蔵量世界4位の天然ガスを有し、「永世中立国」として多角的な資源外交を展開。ウクライナ危機後、ロシアへのエネルギー依存の打開を目指す欧州連合(EU)から新たなガス供給国の一つとして重視されている。【2015年6月1日 毎日】
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前任者のニヤゾフ氏はもっと風変わりで、「わが国固有の芸術でなく、国民にはわからない」などの理由でオペラやサーカスを禁止、また、「田舎の人は字が読めないから」と図書館も廃止しました。
ベルドイムハメドフ大統領はこれらを復活させていますから、やや常識の線にもどったとも言えます。
馬好きで有名なベルドイムハメドフ大統領は、2013年には自身が民族衣装で騎乗して出走していたレースで、トップでゴールした直後に落馬し救急車で搬送されたことも話題になりました。
“この日の出来事について、国営紙ニュートラル・トルクメニスタンはベルドイムハメドフ大統領の大きな写真6枚とともに大統領のレース優勝を4ページを費やして伝えているが、落馬については同紙だけでなくトルクメニスタンの国内メディアは一切触れていない。レースの様子はテレビで放映されたが、大統領のゴールの瞬間で映像は切れている。”【2013年5月3日 AFP】といったあたりに、この国の性質が示されています。
「中央アジアの北朝鮮」は、お上にたてつかなければ安逸な生活が保証されてもいるようです。
****庶民の笑顔、幸せの尺度って・・・・オイルマネーで潤う独裁政権の国****
8月末に、中央アジアのトルクメニスタンを訪れた。
国土は日本の面積の約1・3倍。人口は約520万人。有史以来、ユーラシア大陸の遊牧民族がこの地を往来し、1991年、ソ連邦解体に伴い、独立した。
首都アシガバートは建設ラッシュに沸いていた。新しく整備された道路沿いには、近代的なビルが立ち並ぶ。天然ガスの確認埋蔵量は世界第4位であり、街はオイルマネーで潤っていた。
電気、ガス、水道代は無料。教育費もかからず、毎月120リットルのガソリンが運転手1人に配られる。郊外のバス停の待合室には誰もいないのに冷房が稼働し、夜は街中の照明が砂漠の中の都市をカラフルに彩る。
最近の市民のブームは自転車だ。健康促進のため、大統領が率先して自転車に乗り、大勢を引き連れてサイクリングするさまは、マスゲームにも見えた。
独裁政権が続くこの国は、民主化や報道の自由の尺度で、国際団体が北朝鮮と並びワースト上位に挙げる。しかし、少しずつ開放的な政策が取られ、国の印象も変わりつつある。
市場で出会った庶民の屈託のない笑顔に、影を見いだすことはできなかった。忙しそうに歩く東京やモスクワの人々の、眉間にしわを寄せる顔を思い出し、幸せの尺度は何なのかを考えさせられた。【2013年9月19日 産経】
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“庶民の笑顔”を呼ぶバラマキを可能としているのが天然ガスのもたらす利益です。
*****うごめく独裁国家・トルクメニスタン/中 資源輸出、日本に着目****
・・・・旧ソ連時代、トルクメニスタンのガスは全てロシア方面へ送られていた。ソ連崩壊直前に初代大統領となった故ニヤゾフ氏は対露依存脱却を模索。1997年にイラン向け、2009年には中国向けのパイプラインが開通した。
今や中国は最大のガス輸出先。一昨年には取引量が約260億立方メートルまで膨らみ、中国が国外から輸入するガスの4割強を占めるに至った。中国は東部レバプ州のガス田に権益も有し、約2000人の労働者らを送り込んでいる。中国留学も増えてきたという。
中国はロシアに代わる主役となったが、「大統領は過度な対中依存にも危機意識を持っている」と上月大使は指摘する。昨年末にアフガニスタン、パキスタンを経由してインドへ至る新ルート「TAPI」パイプラインを起工したのも、輸出先の多角化を図るためだ。(後略)【4月13日 毎日】
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2011年には、中国からの5000万元(約6億円)相当の無償援助の一環として、中国パソコン大手、聯想(レノボ)のノートブックPCが無償で小学1年生全員に提供されることも決定しています。
輸出先多角化として日本が注目されているとのことで、「今年9月から初・中等教育機関で日本語教育を始める」「日本から教員を招き、学生には日本留学させる」とのことです。
ただ、“ただ、ロシアの中央アジア専門家、マラシェンコ氏は「多角化は順調とは言えない」と指摘する。TAPIラインの建設にはアフガニスタン情勢や印パ関係の変動という大きなリスクがある。ガスの製品化も「売り先を十分に考えていない」(外交筋)のが実態。バラ色の展望が行き詰まる可能性も排除できない。”【同上】とも。
来年9月には、アジア・オリンピック評議会(OCA)が主催し、トルクメニスタンにとっては独立以来初の大規模な国際スポーツ大会も開催され、また、日本と中央アジア5カ国が2004年から続ける多国間外交の枠組みでも、今年初めて議長国として外相会合を主催するなど、部分的に開放政策も取られています。
ただし、不安定要素も。
****うごめく独裁国家・トルクメニスタン/下 開国、治安にリスク****
・・・・遊牧民族の流れをくむ部族間の不和も深刻だ。独立以来の2人の大統領は共に中南部が基盤のテケ族出身で、別の有力部族が暮らす東南部マルイ州で不満が高まっているとの情報もある。
マラシェンコ氏は「イスラム教、部族社会、エネルギー資源、独裁者といった要素はかつてのリビアによく似ている」と指摘。リビアでは11年の内戦でカダフィ政権が崩壊後、二つの政府が樹立され、混乱に乗じてISが実効支配地域の拡大を狙う。
安定の要となる天然ガスの価格低迷が続き、失業率の上昇が懸念される。独裁国家の近未来には暗雲が漂う。”【4月14日 毎日】
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経済が上手く回らなくなっても政権批判は一切許されないのが、こうした国の現実です。