
(7月20日 ベルリンを訪問したメイ首相 メルケル首相と“神経戦”というか“腹の探り合い”をやっている・・・そんなときに、突然日本から・・・・ 画像は【7月21日 毎日】)
【条件が満たされなければ日本企業はイギリスから撤退する・・・】
今朝の海外関係のTVニュースを観ていて、驚きました。
イギリス・BBCのニュース番組の一部ですが、中国・杭州で開催されているG20へのメイ首相の出席に関連して、当然ながらEU離脱に伴う関係国首脳のとの調整とか、最近ギクシャクしている中国との関係などのが取り上げられていましたが、それと並んで、と言うより“それ以上に”BBCが大きく取り上げていたのが、日本政府の“日本らしからぬ”強い警告に関するものでした。
イギリスのEU離脱で充分な条件が保証されなければ、日本企業は活動拠点をイギリスからEU域内に移す・・・と、日本政府が文書でイギリスに警告したという内容です。
スタジオに解説者まで呼んでこの話題を取り上げており、“日本らしからぬ”というのは、根回しも何もなく、いきなり文書で、しかもG20開催という時期に、日本政府が他国に先駆けて強い警告を出したのことが、外交にあってはいつも控えめな日本らしくない・・・ということのようです。
EU離脱に関して日本政府がイギリスに“警告”を突き付けるなんて、そんな話あっただろうか?・・・と確認してみたところ、関係省庁の局長らの会議でまとめた「要望書」のことのようです。日本国内では殆ど話題にもなっていない要望書です。
****現在の制度維持を 英のEU離脱受け要望まとめる****
政府は、イギリスのEU=ヨーロッパ連合からの離脱に備えた関係府省庁の会議を開き、日本企業が、これまでどおり経済活動が行えるよう関税率や通関手続きなど現在の制度をできるだけ維持することなどを求める、イギリスとEUへの要望事項をまとめました。
政府は総理大臣官邸で、イギリスがEUからの離脱を決めたことを受けた関係府省庁の局長らによる会議を開き、イギリスとEUへの要望事項をまとめました。
この中では「ヨーロッパには数多くの日系企業が進出しており、かなりの部分がイギリスに集中している。これらの企業は、欧州経済の発展に貢献しており、引き続き、自由な貿易・投資や円滑な金融取引を可能とする環境が保障された魅力ある地であり続けることが重要だ」としています。
そのうえで、日本企業がこれまでどおり経済活動が行えるよう関税率や通関手続き、国境を越えた投資や資金移動、それにイギリスとEUの規制や基準を現在のまま維持することを求めています。
また、万が一変更せざるをえない場合でも、十分な移行期間や周知期間を確保すべきだとしています。
会議の議長を務める萩生田官房副長官は「今後、G20=主要20か国などの首脳級・閣僚級の外交機会を最大限活用し、合わせて在外公館を通じて、イギリスおよびEUへの働きかけをお願いしたい」と述べました。【9月2日 *******************
****日系企業の負担回避を=政府、英とEUに要望****
政府は2日、英国の欧州連合(EU)離脱への対応を検討する関係省庁会議を首相官邸で開いた。英国を含む欧州に進出している日系企業に関税や通関手続きなど新たな負担がかからないよう求める要望書をまとめ、英政府とEU双方に提出することを決めた。
中国・杭州で4、5両日に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議には英国のメイ首相も出席する予定。萩生田光一官房副長官は検討会議の席上、「外交機会を最大限活用し、短時間でも日英首脳会談の場で正しく伝えたい」と述べ、要望書の内容を安倍晋三首相から直接伝達する方向で調整を進めることを明らかにした。
要望書は、英国とEUの間で行われる離脱交渉に関し、「現在のビジネス環境を維持し、急激な変化を緩和すること」が必要と指摘。市場の一体性維持や、制度を変更する場合の十分な移行・周知期間の確保などを求めた。【9月2日 時事】
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要望書内容については、「英国及びEUへの日本からのメッセージ」というタイトルで、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/euridatsu_taskforce/pdf/message.pdfに公表されています。
あくまでも「要望書」であり、“条件が満たされなければ日本企業はイギリスから撤退する・・・”云々といった刺激的文言はないようですが、“特に,多くの企業が,時には政府による誘致に応じる形で英国を欧州のゲートウェイとして積極的な投資を行い,EU全域にわたるバリューチェーンを構築してきた経緯に鑑み,英国に対して,こうした事実を真摯に受け止め,企業に対する悪影響を最小化するよう,責任ある対応を強くお願いしたい。”といった表現などは、イギリス政府に“勝手なことしやがって。責任とれよ!”と迫っているようにも。
【「物言わぬ日本」が、突如として世界で一番最初に英国に問題提起をしてきたことがショック】
“要望書の内容を安倍晋三首相から直接伝達する方向で調整を進める”とのことですが、実際にどのように処理されたのかは知りません。
BBCでは、日産やトヨタ、それに金融機関など日本企業は多くの雇用をイギリスで生んでおり、もしイギリスから撤退するとなると大きな影響が出る・・・・といった解説がなされていました。
ブレグジットについては、EU側はイギリスが離脱通告するまで事前交渉には応じないという立場をとっていますが、メイ首相とメルケル首相の間で会談が行われるほか、いろんなチャンネルで多くの水面下の交渉も行われていると思います。
いずれにしても、イギリス・EU双方に重大な影響を及ぼす問題で、かつ、まだ“落しどころ”がわからない状況だけに、いつ、どのような形で・・・と慎重に“神経戦”というか“腹の探り合い”が行われている・・・そんなときに、思いがけず海の向こう、極東からいきなり大砲の弾が飛んできてイギリスが驚いた・・・といったところのようです。
イギリス側の“反応”“驚き”については、ロンドン・シティーでの勤務経験もある松崎美子氏が自身のサイトで以下のように紹介しています。
イギリスメディアでは、、「日本からの脅し」「恐ろしい警告」「非常に強い口調で書かれた要求と警告」「前代未聞の警告」などという表現が使われているそうです。
****前代未聞の日本からの脅し****
中国でG20が開催されていますが、英国からはメイ首相がはじめてG20に参加します。そのG20に先駆け、日本政府が取った「前代未聞」の行動に英国中が驚いています。
*Japan's Unprecedented Warning To UK Over Brexit
今回の日本政府からの予想外の警告に対し、英国のほとんどのテレビや新聞での報道では、このタイトルが使われていました。
日本語に訳すと、「Brexitを巡り、日本から英国に向けた前代未聞の警告」
日本政府が作成した15ページに渡る問題の書類(英語版)の日本語版がないかと思い、日本の外務省のホームページを探してみたら、日本語のレポート がありました。
【英国及びEU双方への要望事項】
・ 現行の関税率や通関手続等の維持
・ 原産地規則の累積規定の導入
・ 英国籍・欧州大陸籍の労働者へのアクセスの維持
・ 金融単一免許制度を含む金融サービスの提供及び設立・開業に関する自由の維持
・ 国境を越えた投資・サービスやグループ企業間を含む資金移動の自由の維持
・ 情報保護の水準とデータ移転の自由の維持
・ 統一的な知財の保護
・ 英・EU間の規制・基準の維持(既に確立している相互承認や同等性の枠組みの維持を含
む。)
・ ユーロ決済センターの機能,欧州医薬品庁等の英国内EU機関の立地等の利便性確保
・EU研究開発予算へのアクセス,日EU共同研究開発への英国の関与
【英国のみに対する追加的要望事項】
・ 関税や税関手続等の負担の無い物品貿易の自由
・ 必要な技能を持つ労働者へのアクセスの維持
・ 外資参入に係る基本政策の維持
・ 投資促進策の実施
・ 独自のデータ保護法制を制定する際の情報保護の水準とデータ移転の自由の維持
・ 英国の独自規制・基準のEUの規制・基準との整合性の確保
・ 英国研究開発予算へのアクセス
【EUのみに対する追加的要望事項】
・ 単一免許制度に係る経過措置等の導入
*どうして、こんなに話題になっているのか?
「物言わぬ日本」が、突如として世界で一番最初に英国に問題提起をしてきたことが、最初のショックだったと思います。
英国はまだ、どういう形でEUから離脱するか、何も決まっていません。EU単一市場には残らず、他のつながり方を選択するというのが、現在一番あり得る形のようですが、それについても、まだ何も確固とした「概要」が出来上がっていません。
英国とEUとの間では、英国がEU基本条約50条(離脱の手続き)を行使しない限り、事前の話し合いは一切禁じられています。つまり、まだ話し合いは始まっておらず、個別の要求を英国にしてきた国は前例がないのです。
そこにきて、メイ首相と安倍首相は、公式会談(お互いの自己紹介)をまだやっていない+メイ首相にとって、はじめての国際舞台で、自分達の要求/手の内を見せてきた最初の国が日本だったのです。当然ですが英国政府も英国民も驚いています。
とにかく驚きのあまり、全ての英国の新聞とTV局が報道していました。それら全てをざっと読んでみたところ、「日本からの脅し」「恐ろしい警告」「非常に強い口調で書かれた要求と警告」「前代未聞の警告」などという表現が使われています。
ただし、個人的には、2国間の公式首脳会談をせずに、このような要求をしてくるということについては、タイミング的/内容に関してとっても驚きましたが、英国政府が日本政府からの警告を歓迎しないか?と言われれば、どうかな?と思いました。
海外の国が、Brexitについて、こういう要求をしてくるんだ.・・・それが分かったことは、良い面もあるのではないでしょうか?【松崎美子氏「ロンドンFX」http://londonfx.blog102.fc2.com/blog-entry-4893.html】
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非常に面白い話です。
イギリス側も驚いたでしょうが、イギリスの反応に日本側も驚いているのではないでしょうか。
安倍政権としては、今後ブレグジットの影響が日本に及んで経済状況が悪化したようなとき、野党・メディアから「何をやっていたのだ!」と非難されないように、形だけでも早めに対応をとったほうがいい・・・というぐらいの気持ちだったのではないでしょうか。
“空気を読まない”唐突な対応だったようですが、「物言わぬ日本」がはっきりと主張するというのは、いいことではないでしょうか。
ブレグジットの影響はイギリス・EUだけでなく、当然にイギリスで活動する日本企業にも及びますので、言いたいことは言わないと。まあ、その伝え方はいろいろあるでしょうが。
イギリス国内の反応については、こちらにも。http://stumbleon.blog.fc2.com/blog-entry-1917.html
「EUに指図されたくないと言ってたら、日本から指図を受けることになるとはね。」など。