
(【9月20日 AFP】)
【任期切れを控えて大統領選実施の動きなし 抗議集会の参加者と治安部隊が衝突】
アフリカ中央に位置する、広大な国土(日本の6倍強)と豊富な鉱物資源を有するコンゴ民主共和国(旧ザイール)。
この国を主に取り上げたこれまでのブログのタイトルを並べると・・・。
2008年11月13日ブログ“コンゴ 「反政府軍は強くて怖い。酔った政府軍はもっと恐ろしい。国連は何もしてくれない」”
2009年1月23日ブログ“ルワンダの虐殺から十余年、隣国コンゴで続くフツ・ツチの抗争”
2010年7月5日ブログ“コンゴ 独立50年「失われた半世紀」 第二次大戦以降の紛争で最多の犠牲者”
2011年6月25日ブログ“コンゴ 後を絶たない“集団レイプ”事件 毎日1100人以上の女性たちがレイプ被害”
2012年5月31日ブログ“コンゴ、武力衝突で増える避難民 国際刑事裁判所(ICC)を巡る動き”
2012年11月21日ブログ“コンゴ 武装勢力による混乱拡大 豊富な資源を有する最貧国 絶えない戦闘・病気・飢餓”
2013年2月28日ブログ“国連の紛争対応について ルワンダ大使「涙の訴え」 コンゴPKOで「平和強制部隊」”
2013年9月8日ブログ“コンゴ、中央アフリカ・・・アフリカ中央部で続く戦闘と混乱”
2013年11月8日ブログ“コンゴ:反政府武装勢力M23が降伏 中央アフリカ:忘れられた人道危機”
2015年12月18日ブログ“混迷を続ける中部アフリカ諸国・・・・中央アフリカ、コンゴ、ブルンジ”
タイトルを眺めただけで、コンゴが武装勢力が跋扈する紛争と混乱の続く国であることがわかります。
“コンゴも、特に東部では民族対立や地下資源をめぐる武装勢力の衝突で、多くの武装組織が跋扈する極めて不安定な状況が続いていおり、「失敗国家」「破綻国家」の代表例として挙げられることも多い国です。 地域社会を破壊する『兵器』としてレイプ・性暴力が横行していることで取り上げられることも。”【2015年12月18日ブログより再録】
ただ、ブログに取り上げる頻度が最近減っているようです。
単に私がニュースを見落としているのか、それとも、コンゴの状況が安定してきたのか、あるいは、国際的な関心が薄れたのか・・・
2番目の「安定してきた」という理由なら喜ばしいことですが、カビラ大統領が憲法規定を無視して“居座り”を狙っているのでは・・・という懸念が出ています。
****コンゴ、大統領辞任要求デモで50人以上死亡か****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)の首都キンシャサで19日、ジョゼフ・カビラ大統領の辞任を要求する抗議集会に参加しようとした人々と治安部隊が衝突し、デモの主催者側によると50人以上が死亡した。全国規模のデモ実施を訴えていた野党勢力は、反政府デモの拡大を呼び掛けている。
コンゴ政府はこの衝突の前にも、キンシャサで少なくとも17人が死亡したと発表しており、死者の数が増える恐れがあると警告していた。
野党勢力は発表した声明で「(反対派)連合は、現時点で50人の犠牲者が出たこと、警察と共和国防衛隊が実弾を発砲し、犠牲者が生まれたことを遺憾に思う」と述べ、さらに「今日の要求をひるむことなく訴え続けるために」20日に集結するよう訴えた。
19日に当局が中止した集会の目的は、2001年以降、政権を握っているカビラ大統領の辞任を要求するためのものだった。
対抗勢力の間には、カビラ大統領が今年12月20日までの任期を憲法に違反して延長するのではないかとの懸念が広がっている。【9月20日 AFP】
********************
現憲法では、大統領選挙は、任期満了の3週間以上前の実施を義務つけています。カビラ大統領の2期目の任期は今年12月19日で満了となりますが、選挙については今のところ何の発表もありません。憲法で3選は禁止されています。
“2001年に就任したカビラ大統領は今年12月に任期を終え、憲法の規定により次期大統領選には出馬できない。ところが憲法裁判所が5月、大統領選が行われるまで現大統領は暫定的に職にとどまることができるとの見解を表明。カビラ氏が大統領選の日程設定の動きを見せていないことで、権力居座りを懸念する野党が全国規模のデモを呼び掛けていた。”【9月20日 時事】
選挙管理委員会も予算不足などを理由に選挙を来年まで延期する意向を示しており、先延ばした大統領選が行われるまで暫定的に職にとどまり、その間に3選を可能とするような憲法改正を強引に推し進める・・・そんなシナリオが見えます。
“アフリカ諸国では大統領の任期制限を撤廃する動きが相次いでおり、カビラ氏も3選出馬を可能にする憲法改正を模索していた。”【9月20日 毎日】
なぜ、多くの権力者が権力の座に固執するのか・・・いつも感じる疑問ですが、おそらく権力を失うと、在職中に行ってきた数々の非道・不正を追及されかねないこと、権力から甘い汁を吸ってきた周辺取り巻き既得権益層の利害・・・そういったものが影響しているのでしょう。
コンゴは世界的にも有数の資源大国ですから、“甘い汁”も相当なものでしょう。レイプが横行するように、非道・不正も世界最悪レベルです。
【抗議行動への弾圧 国際的な人権監視グループの国外追放】
これまでも、選挙実施の遅れに対する抗議行動などは厳しく弾圧されてきました。
*****コンゴ民主共和国:歓迎したい民主派活動家の釈放*****
コンゴ民主共和国で、アムネスティが良心の囚人とよぶフレッド・バウマさんとイブ・マカンバラさんの2人を含む民主運動活動家4人が、釈放された。釈放は歓迎すべきだが、容疑は晴れていないため、再度拘束される恐れがある。
言論の自由が厳しく制限される同国では、4人の釈放は数少ない明るいニュースだ。彼らの逮捕は政治的意図に基づくものであり、起訴を取り下げて彼らの苦しみを完全に終わらせるべきだ。
バウマさんとマカンバラさんは、釈放されるまで死刑判決を受ける恐怖を味わった。2人は昨年3月、他の活動家26人とともに、首長に対する陰謀の企てなど複数の容疑で逮捕され、起訴された。
クリストファー・エンゴイさんも釈放された。ジャン・マリエ・カロンジさんは、8月27日に釈放された。いずれも、キンシャサのマカラ刑務所に勾留されていた。
選挙を控えて異論への容赦のない弾圧が続く中、活動家や政治的指導者らが、司法権力の手で投獄されてきた。
エンゴイさんは1月21日、選挙実施の遅れに対する抗議行動での人権侵害を監視していて、逮捕された。
刑務所に移される前の20日間、隔離拘禁された。民主化運動団体「第四勢力」を創設したカロンジさんは、昨年12月15日に逮捕され、4カ月以上、隔離拘禁された。
バウマさんとマカンバラさんは、アムネスティの良心の大使賞を受けたユース団体「変化のための闘い(LUCHA)」のメンバーだ。彼らは逮捕後、非公表の場所で、マカンバラさんは40日間、バウマさんは50日間取り調べを受け、家族や弁護との連絡を認められなかった。(後略)【9月8日 アムネスティ日本】
*********************
またカビラ政権は、国際的な人権監視グループの国外追放を進めてきています。
****コンゴ民主共和国:ヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員の国外追放****
労働許可の取消で明らかになる、言論の自由や人権モニタリングへの抑圧
コンゴ民主共和国政府は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級調査員1人が国内で調査を継続することを拒否した、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
弾圧が強まるなかで、アイダ・ソイヤー上級調査員の労働許可証が取り消されたのは、人権状況を明らかにする動きを抑圧し続けてきた同国政府の新たな試みといえる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ代表のケネス・ロスは、「労働許可の問題と装って、経験豊富なヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員の活動を禁じたコンゴ民主共和国政府の真意は、誰の目にも明らかだ」と指摘する。
「これは、ソイヤー調査員を国外に強制退去させただけの問題ではない。大統領任期の制限を支持する人びとへの、政府の非情な弾圧をレポートする動きに圧力をかけるという、恥知らずな試みだ。」(中略)
2015年1月以来、現職ジョゼフ・カビラ大統領の任期を延長しようとする動きに反対したり、異を唱える人びとに対し、政府が非情な一斉取締りを加えてきた。(中略)
これまでに、政府の治安部隊は恣意的に野党指導者や活動家を多数逮捕したり、平和的なデモ参加者に発砲したり、また野党勢力の抗議集会も禁じてきた。
更に、報道機関が閉鎖されたり、平和的な民主派の青年活動家たちがテロ行為の首謀で訴追され、野党の指導者たちが国内を自由に移動することも阻止されてきた。少なくとも14人の活動家および野党政治家が、ねつ造された罪状で投獄されたままだ。(中略)
政府はここ数カ月の間、国際機関関係者や人権状況を監視する人びとを強制的に退去させ、政府批判に対する弾圧を強めている。2014年10月には、同国にある国連合同人権事務所のスコット・キャンベル事務局長が国外追放された。キンサシャでの警察の取締りにおける略式処刑と強制失踪についての報告書を発表した後のことだった。
コンゴリサーチグループのジェイソン・スターンズ代表も、コンゴ東部ベニ地域での虐殺に関する報告書を発表した後の2016年4月に、国外退去を強制された。7月には国際団体グローバル・ウィットネスの調査員2人が、森林伐採の実態についての調査中に当局により国外追放された。
ロス代表は、「活動家を投獄し、国際的な人権監視グループを国から追放するのは、人権侵害に手を染める政府の常套手段である」と述べる。「コンゴ民主共和国政府は、すべての政治囚を釈放し、ソイヤー調査員を含む国内外の人権活動家による重要な活動の継続を許可し、人権状況の改善に真摯に取り組むべきだ。」【8月9日Human Rights Watch】
******************
【先進国も関与する“資源の呪い” 国際社会の対応もあるものの・・・】
なお、コンゴの止むことのない混乱は、ひとつには隣国ルワンダでジェノサイドを引き起こしたツチ・フツの対立が影響していますが、基本的にはこの国の地下に眠る膨大・多種な資源をめぐる政府・武装勢力・周辺国・欧米などを巻き込んだ争奪戦でしょう。
****ルワンダの発展に力を貸すアメリカの深謀遠慮****
・・・・20年前、虐殺を鎮めたカガメ将軍は、西の国境を越えてコンゴ東部へ逃亡するフツ族たちを追いかけた。逃亡したフツ族難民は、コンゴ(当時 ザイール)の大統領モブツと結びつく。
一方、カガメ率いるツチ族主体の新生ルワンダ(とウガンダ)は、コンゴ人のカビラが率いる現地の反政府組織(AFDL)と結びつき、クーデターでモブツを追い落とす(内戦その1)。
ところがその後、モブツの後に大統領の座に収まったカビラはルワンダ・ウガンダ勢力を国から追い出そうとする。そこで怒ったルワンダは、また別の反政府組織(RCD)と結びつき、内戦をけしかける。そのうちカビラは暗殺される(内戦その2)。
次の大統領(カビラの息子)もカガメ・ルワンダを敵視したために、ルワンダはさらなる反政府組織(M23)を支援してコンゴ政府に揺さぶりをかけ、内戦は今も続いている(内戦その3)。
こうしてルワンダは、手を変え品を変えコンゴに介入する。
その理由は、虐殺関係者やフツ族たちを深追いしているだけではない。コンゴに眠る資源を狙った欧米の後押しが大きい。
コンゴへの足掛かりがほしいアメリカは、背後でルワンダの「ツチ政権」と結びつき、当初はルワンダのコンゴ介入を黙認していた。アメリカがやっとルワンダのコンゴ介入を非難し、ルワンダへの援助を一部止めるようになったのは、ここ数年のことである。(後略)【9月3日 原口 侑子氏 JB Press】
********************
コンゴの鉱物資源については“銅、コバルト、ダイヤモンド、カドミウム、黄金、銀、亜鉛、マンガン、錫、ゲルマニウム、ウラン、ラジウム、ボーキサイト、鉄鉱石、石炭などを産する世界トップクラスの鉱産資源国であり、輸出の約9割を鉱産資源が占める。コバルトの埋蔵量は世界の約65%。かつてはウランの採掘も行われており、1945年に広島市に投下された原子爆弾の原料はベルギー領コンゴ国産であった。
一方、錫石(スズの鉱石)・ウォルフラマイト(タングステンの鉱石)・コルタン(タンタルの鉱石)・金は、北キヴ州で展開する紛争(キヴ紛争)の反政府武装組織(人民防衛国民会議、3月23日運動)の資金源とされている紛争鉱物であり、国内が不安定化する要因の一つとなっている。
また、ギニア湾沖に海底油田を擁しており、原油の輸出も盛んで同国の経済を支える重要な財源となっている。”【ウィキペディア】とのことで、アフリカ大地溝帯の活動が南部と東部にある膨大な鉱物資源を地表へ露出させ採掘可能にしたようです。
コンゴの場合は、資源の恵みというよりは、権益を求める争いを惹起する“資源の呪い”ともなっています。
国際社会において武装勢力の資金源となる“紛争鉱物”を締め出そうという動きはあるようですが、あまり効果をあげていないのが現実です。
****紛争鉱物、断てぬ世界 日米で規制の動きも調達元の特定困難 コンゴ東部ルポ****
「1時間だけ取材を許可する」。記者は6月、ある鉱山企業の幹部の案内で「紛争鉱物」の鉱山に入った。コンゴ民主共和国東部。詳しい場所を書かないのが条件だった。鉱山では10代前半の少年を含む男たちが、山の地肌を削ったり、地下に坑道を掘ったりして採掘を進めていた。
幹部によると、鉱山の広さは約10平方キロ。希少金属タンタルを含む鉱石コルタンを年100トン以上採掘できる。国内では1キロあたり35ドル(約3500円)だが、東南アジアに持って行けば350ドル(約3万5千円)で売れるという。
朝日新聞の現地助手は3月と5月、武装勢力が支配する別の鉱山で、多数の子どもたちが働かされている様子などを確認している。今回、取材に応じた鉱山の幹部は「武装勢力もカネが必要。資源がカネになる限り、彼らも採掘をやめない」と述べた。
「この国の紛争は、資源の支配権をめぐる経済戦争だ。先進諸国は電子機器に不可欠な紛争鉱物を輸入することで、紛争の長期化に加担している」。東部ブカブで紛争で傷ついた女性たちの救済に取り組み、毎年ノーベル平和賞候補にあがる産婦人科医ドニ・ムクウェゲ氏(61)は、紛争鉱物が武装勢力の資金源になっていると訴えてきた。
国際社会は動いた。米国では2010年、タンタル、タングステン、スズ、金を紛争鉱物と規定し、流通に関する条項を含む米金融規制改革法が成立。上場企業に対し、自社製品に使われるこれらの鉱物の原産国などを調べ、公表するよう義務づけた。
しかし、精密機器には数千の部品が使われており部品の仕入れ先も世界中に広がる。米政府の15年の報告書によると、対象の約1300社のうち「(コンゴなどの)対象地域から紛争鉱物を調達していない」と答えたのは24%。「対象地域から調達していた」としたのは4%で「わからなかった」と答えた企業は67%だった。
日本でも電子メーカーなどで作る「電子情報技術産業協会」(JEITA)が11年、「責任ある鉱物調達検討会」を立ち上げ、対応に乗り出したが、15年の調査では約8割の企業が「すべての製錬所や精製所を特定することには困難がある」と回答した。
JEITAの山崎昌宏氏は「武装勢力の資金源となる鉱物は使わないという世界的な流れがあり、日本企業も説明責任を果たそうと困難さに向き合っているのが実情だ」と話す。
日本政府が主導する第6回アフリカ開発会議(TICAD6)が27日、ケニアのナイロビで開幕する。紛争鉱物について、日本もさらなる対応を求められる可能性がある。【8月24日 朝日】
******************
また、紛争・武力衝突についても、国際社会として座視している訳でもなく、国連PKOは2013年、“平和強制”を任務とする介入旅団を派遣しています。2013年当時の情報では、“平和強制部隊はコンゴ東部国境地帯の武装解除などが目的で、既存のコンゴPKOの一部となる。3個歩兵大隊、特殊部隊の1個中隊や砲兵隊で構成され、攻撃ヘリも拡充。コンゴ国軍とは別に単独でも攻撃作戦を行える権限を持つ。”【2013年2月28日 読売】とのことでした。
****PKO拡大、近づく危険 コンゴ民主共和国に「介入旅団」****
・・・・強力な部隊が不可欠だ――。国連安全保障理事会は13年、PKOの「例外」として介入旅団の設置を決めた。任務は「武装勢力の無害化」「攻撃作戦」と明記された。住民や国連への攻撃を待つ必要はない。
このPKO「コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)」のトップ、マーティン・コブラー事務総長特別代表は「無害化とは、最終的に武装勢力(の脅威)を消すということだ。投降に応じなければ、攻撃を加える。これが基本方針だ」と言い切った。
拡大するPKOは、新たな課題にも直面している。その一つが、テロ組織などとの「非対称戦」にどう対処するかだ。
「PKOは非対称戦に向いているか? 私はノーと答える」
(2015年)6月の国連安保理。西アフリカ・マリに展開するPKOのマイケル・ロレスゴールド軍事司令官が訴えた。
ロレスゴールド氏が今春赴任したマリでは、アルカイダ系武装勢力が、PKO隊員を狙った仕掛け爆弾(IED)や自爆攻撃を繰り返す。世界で最も危険な任地になっている。
ロレスゴールド氏の訴えは、対テロの前線に部隊を出しておいて、十分な訓練も施さない安保理への不満とも受け止められた。
PKOに詳しいジョージ・ワシントン大のポール・ウィリアムズ准教授は「マリやコンゴの部隊は、維持する平和があると想定できない地域に出ている。コンゴの介入旅団は殺傷的な武力行使を認められており、平和『維持』ではなく、住民を標的にする武装勢力に対する平和『強制』の任務になっている」と話す。【2015年10月24日 朝日】
******************
テロ組織などとの「非対称戦」も問題でしょうが、最大の問題は政府・国軍が“まとも”かどうか・・・という点ではないでしょうか。