孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  欧米からの批判が強まるチェチェンの同性愛者弾圧 同性愛者の居場所を奪う「同性愛宣伝禁止法」

2017-05-10 21:53:35 | ロシア

((2013年6月11日 モスクワ by Reuters 【2014年2月11日 「My temple」】)

チェチェンの同性愛者弾圧
ロシア・プーチン大統領は人権問題で欧米から批判を浴びることも少なくありませんが、そのロシアのなかにあってもイスラム教徒が多く、これまでロシア中央政府との衝突・テロが繰り返されてきた北カフカスのチェチェン共和国は、カディロフ首長が強権的な“力による支配”を貫徹することで“安定”を達成している地域で、さしものプーチン大統領もなかなか手を出せない特殊な地域でもあります。

そのチェチェンにおける同性愛者弾圧が国際的な問題となっています。

****同性愛者には「うそか死しかない」 チェチェン逃れた男性ら語る*****
イリヤさん(20)は憔悴しきっていた。軍服を着た男たちに殴られ、拷問されたロシア・チェチェン共和国から逃げ出したが、今も生命の危険を感じている。それもすべて、彼がゲイだからだ。「チェチェンでは、うそをつくか、死ぬかしか選択肢はない」
 
今は首都モスクワの端にある小さな家に、やはりチェチェンから逃れてきた他の5人と一緒に隠れ住んでいる。彼らは北カフカス地方のイスラム地域に位置するチェチェンで、同性愛者の男性を狙った残忍な迫害を当局が繰り広げていると語る。
 
AFPの取材に応じた男性らは全員、本名を明かすことを拒んだ。誰かに素性が知れ、見つけ出されることを恐れているからだ。「僕がゲイだということを親戚の誰かが知ったら、一瞬もためらわずに僕を殺すだろう」と、ノルチョさん(28)は述べた。「そうしなければ、家族の名誉を守らなかったといって、自分の方が殺されてしまう」
 
ロシア社会には一般的に同性愛への嫌悪感があるが、特に保守的なチェチェンでは同性愛はタブーとされ、死によって罰するべき不道徳とみなす家族が多く、問題は極めて深刻だ。
 
チェチェンを過去10年にわたり強権的な手法で統治してきたラムザン・カディロフ首長に対する批判的な姿勢で知られるロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータは3月下旬、チェチェンで男性同性愛者たちが一斉に検挙されているという衝撃的なニュースを伝えた。
 
この報道によると、チェチェン当局は同性愛者の男性100人以上を拘束し、家族に対し「汚名をすすぐ」ために彼らを殺せと呼び掛けたという。少なくとも2人が親族によって殺され、さらに1人が拷問の末に死亡したとされる。
 
ウラジーミル・プーチン大統領の熱烈な信奉者とされるカディロフ首長の統制下にあるチェチェンの治安当局は、首長の対抗勢力を襲撃したり拉致したりしているとして長らく人権団体などから非難されてきただけに、この疑惑は深刻に受け止められている。
 
この報道についての談話を求められたカディロフ首長の報道官は、チェチェンにはゲイの男性は「存在しない」ため、そのような懲罰的措置はあり得ないと断言した。
 
カディロフ首長自身も19日、「チェチェンに関する挑発的な記事が逮捕とやらについて報じている」と述べ、同性愛者男性らの一斉検挙を否定。さらに「口にすることでさえ恥ずかしい。逮捕だの殺人だのが起きていると報じられ、(犠牲者の一人の)名前まで載っている。だが、その人物は生きており、元気で自宅にいる」と反論した。(後略)【4月22日 AFP】
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欧米からの批判にプーチン大統領も調査支援表明するが・・・
“チェチェンにはゲイの男性は「存在しない」ため、そのような懲罰的措置はあり得ない”というのも、ふざけた言い様です。

このようなチェチェンの状況に、同性愛者の権利に敏感なアメリカでは批判が高まっています。

****チェチェン当局によるLGBT迫害疑惑、米政界が当局に調査求める****
ロシア・チェチェン共和国の当局が同性愛者の男性らを迫害し、拷問や殺害を行っていると報じられ、米国の国連大使や議員らが17日、チェチェン当局に対し調査を実施するよう求めた。
 
ニッキー・ヘイリー米国連大使は声明で、「チェチェンで性的指向によって拉致、拷問、殺人が行われていると報じられ、引き続き懸念している」と述べ、「事実なら、この人権侵害は看過できない」と表明した。
 
ヘイリー大使はさらに、「チェチェン当局は直ちにこうした疑惑を調査し、関与した者に責任を負わせ、今後、虐待が起きないよう措置を講じるべきだ」と主張した。
 
米民主・共和両党の議員からもチェチェン当局に対する非難の声が上がっている。民主党の上院外交委員会メンバーのベン・カーディン議員は、今回の疑惑を伝えたロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータの報道に言及し、「同性愛者の男性をはじめ数百人のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人々がチェンチェンの治安部隊によって身柄を拘束されて拷問を受け、少なくとも3人が死亡した」と指摘。さらに、「(チェチェンの)ラムザン・カディロフ首長がLGBTの人々に恐怖を与える状況をつくっている」と非難した。
 
チェチェンでは1990年代以降2度の独立紛争があったが、カディロフ首長の独裁的な体制下でおおむね平静を保っている。【4月18日 AFP】
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こうした報道・批判に対するこれまでのロシア政府の対応は「これらの告発は幽霊のようなもの」という極めて否定的・後ろ向きなものでした。

****チェチェンでの同性愛者虐待報道を否定、ロシア政府****
ロシア・チェチェン共和国で同性愛者らが虐待を受けていると報じられている問題で、ロシア政府は20日、事実関係は確認されておらず、メディアに対する「幽霊告発(実体のない告発)」こそ警察の捜査を受けるべきだと指摘した。
 
これに先立つ19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が同共和国のラムザン・カディロフ首長と会談。カディロフ氏は、同性愛者の男性らがチェチェンで身柄を拘束されたほか、名誉殺人を実行するよう促された家族がいるとの報道を「挑発的な記事」だと批判した。
 
また、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「現時点でこの情報が確認されたとの報告はない」と説明した。
 
同報道官は、報道各社が被害者を取材しているとの記者らの指摘に「法律違反があれば、市民は警察に行って届け出るというのが常識だ」と述べ、「(被害者は)どこにいる? 誰もいない……この人たちは誰なんだ? どこに住んでいる?」と反論。その上で「これらの告発は幽霊のようなもので、実在の人間と全く関わりがない」とし、「彼らは何を恐れているのか。保護下に置かれることが怖いのか?」と批判した。
 
なお、ロシア検察当局は17日、この事案について調査を行っていると表明した。(後略)【4月21日 AFP】
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しかし、欧米側はこのようなロシア政府の対応に納得せず、ドイツ・メルケル首相はプーチン大統領との会談で調査・保護を要請し、プーチン大統領もこれに応える形で調査を支援することを表明しています。

****チェチェン同性愛者迫害疑惑、ロ大統領が調査支援 独首相が要請****
ロシア・北カフカス地方のチェチェン共和国で男性同性愛者が迫害を受けていると報じられた問題で、同国のウラジーミル・プーチン大統領は5日、疑惑の正式な調査を後押しすると表明した。

プーチン氏は今週の独ロ首脳会談で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相からこの疑惑への対応を要請されていた。
 
会談後初めて同問題に言及したプーチン氏は、検事総長と内相と対し、同国のタチアナ・モスカルコワ人権オンブズマン(行政観察員)が担当する調査の補助を個人的に依頼する意向を表明。

モスカルコワ氏に対し、「同僚らが対応し、あなたを補助することを願う」と述べた。モスカルコワ氏は国内の人権侵害の調査を担っているが、プーチン氏に忠実な既存勢力の一部と広く見られている。
 
メルケル首相は2日にプーチン氏と開いた共同記者会見で、チェチェンの同性愛者をめぐる「非常に悪い報道」に言及し、プーチン氏に「彼の影響力を用いて、少数派の人権を保障する」よう要請したと述べていた。
 
プーチン大統領は、テレビ放映されたモスカルコワ氏との会話で、同疑惑について、北カフカスで「非伝統的な指向を持つ人々」(同性愛者を指すえん曲表現)に起きていることについての「うわさ」と表現した。
 
当局に対する批判的な姿勢で知られるロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータは3月、同性愛がタブー視されるチェチェンの当局が男性同性愛者たちを拘束して拷問を加えていると報道。
 
同紙によると、チェチェン当局は計100人以上の男性同性愛者を拘束した他、親族に対して同性愛者の殺害を呼び掛けており、これまでに少なくとも2人が親族に殺害され、1人が拷問により死亡。この報道は国際的スキャンダルを引き起こした。【5月6日 AFP】
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伝統的価値観に回帰するロシアの「同性愛宣伝禁止法」】
こうした「うわさ」に対するプーチン大統領の調査支援表明がどれだけの実効性をもつのかは、はなはだ疑問です。

それは一つには、相手が前述のようなロシアにおいて特殊な立場にあるカディロフ首長であるためですが、もう一つには、同性愛に関しては、ロシア自体が非常に否定的な対応をとっている国であるためでもあります。

2014年2月7日に行われたソチオリンピック開会式に日本の安倍首相は何事もなく参加しましたが、世界中の多くの国の首脳は開会式をボイコットしました。それは、2013年6月にロシアで制定された「同性愛宣伝禁止法」への抗議の意思表示でした。

****プーチン大統領「ただし子供には近づくな」発言に欧米から反発 日本の対応は****
同性愛者に関するロシアのプーチン大統領の発言をめぐって、各国首脳がソチオリンピックの開会式出席を見送る中、安倍首相はロシア訪問の方向で調整している。どのような背景があるのだろうか。

■「同性愛者も安心していい。ただし……」
ロシアの「同性愛宣伝禁止法」とは、同性愛など「非伝統的な性的関係」を未成年者に知らしめる行為を禁止した法律で、2013年6月に制定された。

この法律は制定以来、同性愛者の権利を侵害していると欧米諸国から批難を浴びてきた。同時に、オリンピック開催中の同性愛者の待遇も不安視されてきた。

これに対してプーチン大統領は、1月17日に開かれたオリンピック運営ボランティアとの会合の中で、「我々の法律は、同性愛や小児性愛を未成年に向けて宣伝するプロパガンダを禁止しているのであり、同性愛者や小児性愛者を逮捕したり懲罰を与えたりしているのではない。そこを強調したい」と述べ、批難を退けた。イギリス紙のガーディアンが伝えた。

続けてプーチン大統領は、「ソチオリンピックではあらゆる差別は排除される。同性愛者も安心してリラックスしていい」と述べた上で、「ただし、子供たちには近づかないでほしい」と話した。

■欧米諸国からは批難の声
この発言に対して、欧米からは「同性愛と小児性愛を一緒くたにしている」という指摘や「まるで同性愛者が子供たちを獲物にしているかのような発言」という批判が見られる。

さらにアメリカのCNNは、ネットの掲示板を利用して同性愛者を誘拐しては暴行を加えるなどの活動を行っているグループについて報じ、2013年の法律制定以降、ロシアでこれらの動きが活発になっていると指摘。「同性愛者も安心していい」というプーチン大統領の発言の信憑性に疑問を投げかけた。

■欧米諸国の首脳が不参加を表明 日本は?
こういったロシアの同性愛者に対する政策に反発し、アメリカのオバマ大統領やイギリスのキャメロン首相をはじめとする欧米の首脳たちが、2月7日に開催される開会式への不参加を表明している。

一方、安倍晋三首相は、開会式出席の方向で調整している。北方領土問題解決のためにはプーチン大統領との関係強化が必要との考えだ。会談が実現すれば、2012年の就任以来5度目の首脳会談となる。【2014年01月18日 伊吹早織氏 The Huffington Post】
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安倍首相がソチ五輪開会式に参加したのは、上記のような北方領土問題解決云々もありますが、基本的に同性愛者の人権に関する意識が日本と欧米では異なることが大きいでしょう。

当時ロシアはG8に入っていましたが、G8の中で性的少数者の権利を保障する法律が一切存在しないのはロシアと日本であるとのことです。

****ソチ五輪の何がヤバいか(前編)―ロシアと同性愛禁止法とナチスドイツ****
●ロシアで成立した同性愛禁止法 
2013年初夏、ロシア議会において反対者ゼロで一つの法律が成立しました。日本のメディアでは「同性愛宣伝禁止法」と呼ばれています。

その内容は、「未成年者に対して非伝統的な性的関係を助長するような情報を宣伝することを禁止する」というものです。漠然としていて具体的にどういった行為が禁止されるのかよくわからないという意味では、最近日本で成立した特定秘密保護法と少し似ているかもしれません。

具体的には、公の場で同性愛を異性愛同様に価値あるものとして語ったり、魅力的に描いたりすることが禁止されるため、性的少数者をテーマにしたパレード・映画・ポスター・雑誌・書籍・映画・健康相談などが処罰対象になり得るとされています。

公の場で自分のセクシュアリティをカミングアウトすることさえ処罰される可能性があり、同性愛を「普通」や「生まれつき」と語ることができなくなります。結局のところこの「同性愛の宣伝」を禁止する法律は、わかりやすく言えば同性愛者の居場所を社会からなくす「同性愛禁止法」なのです。

ここ半年ちょっとの間でのこの法律によって実際に処罰された有名なケースをいくつか紹介しておきます。

ケース1:18年間勤務していた中学校を同性愛者であるという理由で解雇された教師のインタビュー記事を新聞に掲載した編集者。

ケース2:自分の性的な指向についての悩みをもつ子供たちの相談を受け付けるwebサイトの製作者。

ケース3:「同性愛は生まれつき」と書かれた紙を持って外を歩いた人。

ケース4:一人で街角でこの法律に抗議した14歳の女の子。

ケース5:性的少数者に関するドキュメンタリー映像の製作者。

プーチン大統領がこのような法律を成立させた背景には、同性愛者を嫌悪するロシア正教会や保守層の支持を取り付けたいという狙いがあります。

難しい言い方をするなら、プーチンは旧ソ連の社会主義イデオロギー亡き後のイデオロギー的空白を、国家主義と反米主義(反旧西側諸国主義)によって満たそうとしています。

そして世界的な同性愛者権利擁護の流れを、旧西側諸国の道徳的退廃の象徴として描き、ロシアの伝統的価値観を侵略する敵とみなして攻撃することで、ロシア国内の不満の矛先が政府に向かないようにそらしていると言えます。

●多発する性的少数者へのヘイトクライム
しかしながらロシアに住む性的少数者にとって深刻な問題なのは、同性愛禁止法によって処罰されるリスク自体というよりもむしろ、このような法律によってますます加速する「性的少数者は社会に存在すべきではない」という空気の増大です。

例えば全ロシア世論調査センターによると、同性婚への反対は2005年には59%だったのが2013年には86%に増加しています。

そして何より、性的少数者に直接的な暴力が向けられる、残酷な事件がロシアでは多発しています。(中略)
 
国家がこのような多発するヘイトクライムを、止めようとするどころかますます扇動しているのが今のロシアなのです。ヘイトクライムの被害を警察に相談しても、「同性愛者であるなら暴力を受けても仕方がない」などと返答される例が後を絶ちません。

そしてテレビをつければ人気俳優やテレビのアナウンサーらが、「同性愛者を生きたままオーブンに放り込め。」「同性愛者を埋めろ。」「同性愛宣伝禁止法では不十分だ。ホモ禁止法を作れ。」という旨の発言を平気で行っています。こういった発言に対して、海外から批判の声がでることはあっても、ロシア国内からはほとんどありません。

また先日、ソチの市長であるパホーモフは「私の街には同性愛者は1人もいない」と公の場で語りました。しかしソチは人口34万人の街であり、統計的に言えば少なく見積もっても1万人は性的少数者がいると考えるのが自然です。実際にはゲイクラブもあります。

しかしこの市長ひとりが例外的な考え方をしているのではなく、最近のロシア国内でのアンケート調査によると、ほとんど全ての者が「同性愛者の知り合いは一人もいない」と回答しています。

言うまでもなくそのことは、ロシアの性的少数者が社会の偏見と弾圧によって閉じ込められていることを意味しています。こんな国でいったい誰が、自分は性的少数者であると友達や家族に気軽に伝えることができるでしょうか。(後略)【2014年2月11日 「My temple」 http://yasuj.tumblr.com/post/76255767009/%E3%82%BD%E3%83%81%E4%BA%94%E8%BC%AA%E3%81%AE%E4%BD%95%E3%81%8C%E3%83%A4%E3%83%90%E3%81%84%E3%81%8B%E5%89%8D%E7%B7%A8%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%A8%E5%90%8C%E6%80%A7%E6%84%9B%E7%A6%81%E6%AD%A2%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84
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最近では、ゲイのキャラクターが登場するディズニーの実写版『美女と野獣』が“16禁”に指定されたことも話題にもなりました。
そんなお国柄のロシアですから、プーチン大統領は欧米からの批判よりは、カディロフ首長の拘束・拷問・殺害の方にシンパシーを感じるのではないでしょうか。
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