(抗議行動も過激化しています。ベネズエラの首都カラカスで機動隊の車両に放火するデモ参加者(2017年5月3日撮影)【5月4日 AFP】)
【居座るマドゥロ政権、議会を無視する新憲法制定の動き】
南米ベネズエラで“チャベスなきチャベス路線”を続ける反米・急進左派マドゥロ政権の無理な価格統制やバラマキ、そして主要輸出品である原油の価格下落による経済破綻(物価上昇、食料・日用品・医薬品の品不足、通貨下落、財政逼迫)、また、そうした状況への国民不満を押さえつけての強権的な居座り、それに対する国民の退陣を求める抗議行動などについては、このブログでも再三取り上げてきました。
最近では、4月20日ブログ“ベネズエラ 大規模反政府デモで広がる混乱 強引な延命で国際的孤立を深めるマドゥロ政権”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170420
抗議行動側も決め手を欠くなかで状況は好転せず、行動は過激化し、犠牲者だけが増え続けています。
弾劾を求める国民投票も封じ込めて居座り続けるマドゥロ大統領は、新憲法制定による延命を図ろうとしています。
****ベネズエラ大統領、新憲法制定へ 野党反発、デモ激化も****
政治の混乱が続く南米ベネズエラのマドゥロ大統領が1日、「国を再建する」として新憲法制定に取りかかる考えを示し、憲法制定議会を招集する大統領令に署名した。
経済が急速に悪化し、大規模な反政府デモが連日繰り返されるなか、憲法を変えることで延命を図る狙いがあるとみられる。野党勢力は「民主主義の破壊だ」と強く反発しており、全土に広がる抗議デモがさらに激化する恐れがある。
マドゥロ氏は1日、新憲法制定の理由について「腐りきった議会の姿を変えることが必要だ」と演説。憲法制定議会を構成する500人のうち、約250人は労働者階級から選ばれると説明した。
新憲法の内容の詳細は不明だが、来年の大統領選の日程や、議会や司法の権限など現行憲法下の秩序に大きく影響する可能性がある。
2013年のチャベス前大統領の死去後、政権を引き継いだ反米・急進左派のマドゥロ政権では、無理な価格統制や、主要輸出品の原油の価格下落などで経済が急速に悪化。物不足で商店前には日常的に行列ができ、治安悪化も深刻化している。
15年の総選挙では、マドゥロ政権を支える与党は、野党連合に惨敗。これに対し、マドゥロ氏は、野党が多数を占める議会決議を無視したり、批判的な野党指導者を逮捕したりと強権的な姿勢を強めた。
3月下旬には、政権と近い最高裁が、議会の立法権を奪うという異例の判断を示した。国内外から批判を受け、判断は取り下げられたが、反政府デモが拡大。4月以降はほぼ連日のデモが起き、治安部隊との衝突や混乱で約30人が死亡している。
この日も、大統領選の前倒しや民主的手続きの尊重を求めるデモが各地で発生。議会のボルヘス議長は「国民をだます詐欺行為だ。憲法を使って、憲法そのものを壊そうとしている」と述べ、抗議の声を上げるよう国民に呼びかけた。【5月3日 朝日】
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“腐りきっている”のは議会ではなく、政権およびその統治システムの方だと誰しも思いますが、そういう常識が通用しないのが国家権力というものです。
マドゥロ大統領は支援者数千人を集めたメーデー集会で、新憲法制定の趣旨について、野党が支配する議会を経由しないで済むよう憲法を改正すると語っています。
アメリカやブラジルなど周辺南米諸国政府も、マドゥロ政権の強権的居座りは民主主義を浸食するものだと批判しており、野党側は大統領側の働きかけを拒否し、総選挙を求めています。
****ベネズエラ野党勢力、制憲議会招集に向けた協議をボイコット****
政情不安が続くベネズエラの野党勢力は、マドゥロ大統領が発表した制憲議会招集について協議する8日の会合をボイコットした。野党側は政治危機の解決に総選挙を求めている。
野党勢力が過半を占める議会のボルヘス議長は「(制憲議会は)大統領らが権力を維持するためのごまかしだ」と指摘。「この危機を解決する唯一の道は自由な選挙だ」と語った。
ベネズエラ第2の都市であるマラカイボでは、約300人のデモ隊が「マドゥロは去れ」、「独裁にノーを」と叫び抗議活動を展開。治安部隊が催涙ガスで応酬した。【5月9日 ロイター】
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【火炎瓶が飛び交う抗議行動 ブラジルへの大量避難も】
抗議行動では、火炎瓶を投げつけるデモ隊参加者が火だるまになる惨事もおきています。
****機動隊とデモ隊が衝突、デモ参加者が火だるまに ベネズエラ****
改憲を目指す大統領の退陣を求めて多数の国民が連日デモを繰り広げているベネズエラで3日、催涙弾を発射する警察と火炎瓶を投げつけるデモ隊が衝突し、首都カラカスではデモ参加者が火だるまになる事態が発生した。
ベネズエラの反政府デモは1か月以上続いており、検察当局の発表によれば、これまでの死者は32人となっている。
検察当局によると、政府側がデモ隊に催涙ガスを発射したのはカラカス東端のラスメルセデス地区。
現場にいたAFP記者は、デモ参加者の少なくとも1人に火が燃え移った他、負傷者の中には野党議員2人も含まれていると述べている。火だるまとなった人物が死亡した男性かどうかは不明。
衝突が発生したのは、カラカス中心部にある庁舎群に向かっていたデモ隊の行進を機動隊が阻んだ後。市中心部ではニコラス・マドゥロ大統領が、多数の支持者の集会で演説を行っていた。【5月4日 AFP】
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抗議行動による死者は、検察当局ツイッターによれば、この40日間で38人に達したとのことです。【5月11日 AFPより】
生活費需品が欠乏するなかで、先住民が隣国ブラジルに大量避難するという動きも報じられています。
****ベネズエラ先住民、ブラジルへ大量避難 物不足などで****
政治や経済の混乱が続くベネズエラから多くの先住民が逃れてきているとして、隣国ブラジル北部の都市が緊急事態を宣言した。ベネズエラからは昨年だけで約20万人が出国したとされる。マドゥロ政権が強権的な姿勢を強めるなか、混乱が深まっている。
報道によると、ベネズエラと国境を接するアマゾナス州の州都マナウス市が緊急事態を宣言したのは今月4日。今年になってベネズエラ側の先住民族ワラオの約400人が町にたどり着き、橋の下やバスターミナルで暮らしているという。
物不足や治安の悪化から、2千キロ近い距離を移動してきた。ブラジルでは昨年も、ベネズエラ人が国境地帯に押し寄せた。物売りや物乞いをして暮らす人の中には子どもや高齢者も多いという。
ブラジルのメディア、グロボによると、ベネズエラ人のブラジルへの難民申請は、2012年の1件から昨年は3375件に急増。今年は5月初旬までに8200件を超えた。
米CNNスペイン語放送は専門家の話として、反米左派のチャベス大統領が誕生した1999年以降で約200万人が脱出したが、昨年は1年間で約20万人が出国したとしている。
同国では13年のチャベス氏の死去後、マドゥロ大統領が政権を継いだが、物不足で商店前には日常的に行列ができ、年率数百%のインフレや治安悪化が市民生活を直撃。4月以降、反政府デモが続き、40人近くが死亡している。【5月12日 朝日】
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【これまで以上の経済崩壊・混乱が予測されるベネズエラ経済の今後】
政権側が政権移譲とか路線転換をしようとしないベネズエラ経済の今後については、厳しい見方が一般的です。
政権の崩壊も予測されています。
****まるでソ連末期の経済破綻に向かうベネズエラ****
<独裁に傾くマドゥロ政権下で反政府デモと政治的混乱が続く。経済も破綻寸前の石油大国がたどるのはソ連と同じ末路>
南米の資源大国として、先進国の仲間入りも夢ではなかったベネズエラの経済が、今や破綻の危機に陥っている。膨大な石油資源を抱えていながらなぜこんなことになり、一体これからどうなるのか。
原因を分析し、先行きを予測するに当たっては1980年代後半のソ連経済の惨状が参考になりそうだ。むろん国民にとっても政権にとっても、決して明るい未来ではない。
14年夏に原油相場の下落が始まってから、ベネズエラ経済は衰退の一途をたどってきた。原油価格はだいたい10年ごとに高騰と暴落を繰り返す。だから現在の原油安も当分続くだろう。
ソ連も、81年に始まった原油安で打撃を受けた。だがソ連崩壊後のロシアで改革派政治家として活躍した故エゴール・ガイダルの著書『ある帝国の崩壊』によれば、最悪だったのはそれ以前の経済政策だ。
石油の輸出で潤っていた当時のソ連政府は、この調子なら奇跡を起こせる、自分の国には経済学の法則など当てはまらないと信じた。そして見境なく歳出を膨張させた。先のことなど考えなかった。
今のベネズエラ政府はマルクス・レーニン主義を標榜してはいない。しかし愚かしい経済政策を進めているという点では当時のソ連指導部と大差ない。主食のパンや肉など基本物資の価格統制を維持し、そのために必要な巨額の補助金も石油収入で賄えると信じ切っていた。
3年前の夏以降、原油価格は半分以下の水準に下がった。そのため収入が減っても政府は手を打たず、原油の増産もしなかった。石油業界を牛耳る国営のベネズエラ石油公社(PDVSA)に増産能力がなかったからだ。それでも政府は財政赤字を解消する方向へ舵を切らず、80年代末のソ連と同じ愚行を続けて破滅に向かっている。
ソ連も、末期には財政赤字が急増していた。86年にはGDPの6%を超え、91年にはGDPの3分の1に達した。輸入品の支払いに充てる外貨準備が減ると紙幣を増刷して国庫の赤字を埋めたものだ。必然的にインフレが激しく高進した。
どうやらベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領も、ソ連と同じ財政・金融政策に固執しているようだ。もはや補助金支給の原資はない。しかも事態は悪化する一方だ。
迫るハイパーインフレ
このまま紙幣の増刷を続ければ、やがてハイパーインフレに襲われる。既にインフレ率は年700%とされ、月間50%以上と定義される公式のハイパーインフレに近づいている。
歴史的には、ハイパーインフレの事例は少ない。ジョンズ・ホプキンズ大学応用経済学教授のスティーブ・ハンキーによると、世界史上まだ56例しかなく、その半数が共産主義体制の崩壊に伴う現象だった。ソ連を構成していた15共和国の全てがソ連崩壊時に経験したという。
ハイパーインフレは国民の士気をくじく。いくら働いても意味はないと感じさせてしまう。稼いだ金額に見合う買い物ができないから、労働意欲が湧くはずもない。一方で目先の利く商人は、安全資産の商品や不動産の思惑買いに走る。
結果としてGDPは急激に縮小し、財政の安定が回復しない限り減少の一途をたどる。ソ連ではおそらく91年にGDPが10%ほど減り、ソ連崩壊にかけての88〜95年に原油生産は半減した。ベネズエラでも似たようなことが起きているようだ。
ソ連政府は通貨ルーブルの法定平価を非現実的に高く設定しようとした。闇レートの5倍くらいの高さだった。目的は、国民に「豊かさ」の錯覚を抱かせることにあった。だがそのためには食品などと同様に、外貨の購入に国費をつぎ込む必要があった。だから歳出が増えて財政赤字は膨張し、通貨の闇レートは急降下した。
やがて国民は闇レートこそ現実の相場だと思い知るようになる。91年12月、ついにソ連崩壊という時点で、ロシア人の月収は米ドル換算で平均6ドルという悲惨な状況だった。今のベネズエラもその方向に進んでいる。
ソ連では同時に対外債務も急増した。今のマドゥロ政権同様、可能な限り多くを可能な限り長期で借りた。貸し手は主として外国政府。ベネズエラの場合、最大の貸し手は中国だ。そして借金を返せない現実を認めず、少しずつ返済を続け、それだけ赤字を増やしている。
もちろんソ連との違いはある。ベネズエラは複数の共和国を抱える連邦国家ではない。愚かな経済政策を採用してはいるものの、共産主義を掲げてはいない。国内にはまともな野党勢力があり、教育水準の高いエリート層もいて、ソ連よりずっと開放性が高い。
それでもベネズエラはソ連経済と同じ末路をたどる恐れがある。仮にマドゥロが政策の不備を認めて方針転換を図ろうとすれば退陣を迫られる。おとなしく辞任はしないだろうから、危機は深まる一方だ。
平穏な政権交代が望めなければ、国民が力でマドゥロ政権を倒すか、大統領が国外へ逃亡する事態もあり得る。あるいは外貨準備を使い果たし、対外債務についてデフォルト(債務不履行)に陥る。つまり何も輸入できなくなり、通貨ボリバルはただの紙くずと化す。
いずれにせよ、マドゥロ政権は長続きしない。多くの国民が辛酸をなめる事態を回避するための対策を講じないまま、遠からず権力の座を追われる。
後継政権が登場したところで選択肢は少ない。極端な経済危機に対しては政策の選択肢などほとんどないものだ。大事なのは予算の均衡を実現すること。短期的に税収増は望めないから、歳出を削減する。決め手は物価補助金の撤廃だ。対外援助も切れば、政府の収支は均衡するかもしれない。
為替レートも変動制であれペッグ制であれ、市場に適合させるべきだ。外貨準備も回復させなければならない。そのために迅速に対応できる唯一の国際機関はIMFだ。
ただしIMFの要請に従ってベネズエラ政府がマクロ経済改革に応じることが条件となる。加えて国際社会の協力を得て、債務のリストラに取り組むことも必要だ。
ソ連の状況は、ベネズエラよりずっと困難だった。15の共和国がそれぞれ独立し、独自の通貨を持つ必要があった。それにしても、財政を安定させるまでに費やした7年の歳月は長過ぎた。新生ロシアが苦しいときに、西側諸国は支援を出し渋った。だからその後のロシアは西側から離反していった。
ベネズエラ改革は抜本的かつ迅速であるべきだし、欧米諸国は全面的に財政支援をするべきだ。マドゥロ政権の崩壊は決してきれい事では済まない。だが避けられるものでもない。
政治的な見通しはなかなか立てにくいとしても、深刻な経済危機の行く末は火を見るよりも明らかだ。次の政権が迅速に、正しい政策を実行できるかどうか。時間は限られている。【5月16日号 Newsweek日本語版】
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“マドゥロ政権は長続きしない”かどうかは不透明です。マドゥロ大統領個人の退陣による首のすげ替えで、体制自体は維持される・・・というシナリオもあります。
ベネスエラの今後を左右するファクターは、中国がどこまで資金的に支援を続けるのか、あるいは、どこかで見放すのか・・・という点です。
【デモ隊の「糞便瓶」に対し、政府高官は「化学兵器」と非難】
ところで、抗議行動で火炎瓶などが使われていることは前出のとおりですが、「糞便瓶」も登場したようです。
****火炎瓶ならぬ「糞便瓶」投げ警察に対抗、ベネズエラ反政府デモ****
ニコラス・マドゥロ大統領の退陣を求めるデモが続いている南米ベネズエラで10日、デモ隊が火炎瓶ならぬ「糞(ふん)便瓶」を警官隊に投げ付けるという文字通りの「汚い」抗議に打って出た。
デモ参加者の一人はAFPの取材に、「火炎瓶やペレット銃など何を使っても鎮圧される。何かを投げるとしたら、もうこれしかない」と述べ、茶色の液体が入った瓶を見せた。
火炎瓶(モロトフカクテル)と幼児語のうんち(プープー)をもじって「プープートフ爆弾と呼んでいる」という。(後略)【5月11日 AFP】
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糞便を武器に使うというのは古来からある方法ではありますが、投げる方も相当のリスクがありそうです。
警官隊へのダメージも大きいようで、「糞便瓶」について政府高官は、デモ隊が「化学兵器」を使っていると非難しているとか。
****糞便入りの瓶は「化学兵器」、ベネズエラ高官がデモ隊を非難****
ベネズエラで、ニコラス・マドゥロ大統領の退陣を求めるデモ隊が排泄物の入った瓶を機動隊に投げつけたことについて、政府高官は「化学兵器」を使っていると非難した。
(中略)この攻撃について、マリアリ・バルデス司法監察官は10日、国営テレビで「あれは生化学兵器だ」と述べた。
「生化学兵器の使用は完全に犯罪に分類され、厳罰の対象だ」とバルデス氏は語り、さらに「化学兵器の使用は重大な結果を招く。今回の場合は人や動物の糞便を指すが、水と混ざり、深刻な汚染を引き起こす」と指摘。病気の原因にもなると批判した。(後略)【5月12日 AFP】
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「化学兵器」と断じることで、鎮圧行動をエスカレートさせようという意図でしょうか?