孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ東部の止まない戦闘 政府・親露派双方とも苦しい状況 わかりづらい実態

2017-05-14 21:31:11 | 欧州情勢

(ウクライナ東部の戦闘地域アウディーフカを歩くウクライナ兵(2017年4月3日撮影)【5月14日 AFP】)

止まない戦闘、5月に入ってからだけでも、ウクライナ政府側の死者は14人
約1万人の死者を出したウクライナ東部の紛争に関しては、2015年2月に和平合意(ミンスク2)が締結され、大規模な戦闘は停止していますが、昨年末から2月初めにかけて状況は悪化し、その後も小規模な衝突は断続的に続いているようです。

****ウクライナ東部で親ロ派攻撃、民間人4人死亡 首都では音楽祭開催****
ウクライナ政府高官は13日、戦闘の続く同国東部で「ロシアの占領軍」が民間人4人を殺害したと述べた。一方、同国首都キエフでは同日、欧州国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン」の決勝が行われ、ポルトガル代表が優勝した。
 
ウクライナ政府が任命した同国東部ドネツク州の知事はフェイスブックに、「ロシア占領軍が(ドネツク州)アウディーフカの住宅地域を攻撃した」「女性3人と男性1人が死亡した」と投稿した。
 
アウディーフカは、親ロシア派の事実上の首都ドネツク郊外でウクライナ政府軍が掌握する都市。今回の攻撃により、今月これまでのウクライナ政府側の兵士および民間人の死者は14人に増えた。
 
内戦下にあるドネツクから約500キロ離れた首都キエフでは13日、42か国からの参加者が競う歌謡祭「ユーロビジョン」が開かれ、ポルトガル代表のサルバドル・ソブラさん(27)が優勝した。【5月14日 AFP】
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欧州国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン」にはポロシェンコ大統領も出席予定でしたが、事態を重く見た大統領は、音楽祭出席を急きょキャンセルしています。

同音楽祭については、“ロシアは今回、車椅子の歌姫として知られる女性歌手ユリヤ・サモイロワさん(28)を代表に決めた。だが、ウクライナ当局は、サモイロワさんがロシア編入後のクリミアで演奏したことを非難。本人は「問題と思わない」と出場に意欲を示したが、入国禁止となり、ロシアのテレビ局は放送をボイコットした。”【5月14日 時事】というように、ウクライナ・ロシアの間で政治問題化していました。

国際司法裁判所、ロシアの親露派勢力への支援を認定せず
ウクライナ・ロシアの間の綱引きということに関しては、ウクライナ政府がロシアの親露派勢力への支援停止やクリミア半島で先住民族クリミア・タタール人への政治的・文化的な抑圧の即時停止などを求めた訴訟の公判が19日、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)で開かれました。

****<国際司法裁判所>ウクライナ紛争の露支援を「証拠不十分****
 ◇ロシア「ウクライナ側主張は支持されず」と歓迎の論評発表
ウクライナ紛争を巡り、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は19日、ウクライナ政府が求めていた「ロシアによる親露派勢力支援の認定」を「証拠不十分」として退ける決定を出した。

これを受け、ロシア外務省は20日、「(ロシアによる)『侵略』や『占領』といったウクライナ側の主張は支持されなかった」と歓迎する論評を発表した。

一方、ICJはウクライナ側の訴えを一部認め、ロシアが2014年に一方的に自国領に編入したクリミア半島で「先住民族クリミア・タタール人を人種差別している」と認定。

ロシア側にクリミア・タタール人の民族組織「メジュリス」の活動制限を停止し、ウクライナ語による教育機会を与えるよう求める仮保全措置を命じた。
 
露外務省は20日の論評でこうした命令の内容に触れつつ、「裁判所がクリミアの地位を審理の対象とせず、(ロシア側の主張を支持する)原則的な姿勢を貫いた点が重要だ」と強調した。
 
ロシアは「メジュリス」を「反露的団体」として弾圧し、メジュリスの指導者ムスタファ・ジェミレフ前議長のクリミア訪問を阻止するなどしてきた。

ウクライナのクリムキン外相は19日、ツイッターで「ロシアは人種差別を即刻停止すべきだ。国際司法裁の命令の実現へ向け、我々は取り組んでいく」と表明した。メジュリスの扱いを巡り、ウクライナとロシアの間で対立が深まる可能性がある。【4月20日 毎日】
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ウクライナ東部の紛争については、ロシア政府は「わが国は紛争当事者ではない」との基本的立場であり、国際司法の場でロシアのこうした主張を崩そうとしたウクライナ政府の試みはうまくいかなかったようです。

EU、ウクライナに短期のビザ免除を決定
一方、東部での戦闘、ロシアとの深刻な対立を抱えるウクライナを支えてきた欧米ですが、EUとしては、あまり深入りしてロシアとの対立を域内に持ち込みたくない・・・という本音もあるように見受けられます。(別に、上記の国際司法裁判所の判断が、そうしたEU側の意向を忖度したものだ・・・という話ではありませんが)

ただ、かねてよりウクライナ政府が求めていたビザに関しては、その求めに応じています。

****ウクライナにビザ免除=EU****
欧州連合(EU)の閣僚理事会は11日、ウクライナからの90日以内の短期渡航者に対し、ビザを免除すると決定した。ビザ免除は、EUとの関係強化を望むウクライナ側が強く求めていた。
 
商用、観光などが対象で、長期滞在にはビザが必要となる。アイルランドと英国への入国は、法制度の関係で対象外。
 
EU議長国マルタのアベーラ内務・国家安全相は「ウクライナの人々とEUとの絆の強化につながる重要な前進だ」と強調した。【5月11日 時事】 
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この件に関しては“ただし、協定が成立しても、ウクライナ国民がビザなしでEU圏で就業することはできず、この点に関しウクライナ国民がきちんと理解しているのかという疑問もある。もっとも、正規ではなく、非合法な形で、EUに出稼ぎに出るウクライナ国民は増えるかもしれない。”【5月12日 服部倫卓氏 「ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪」】とも。

ウクライナ政府、“東部経済封鎖”の苦しい決断
こうした紛争がくすぶり続ける状況で、観光業も痛手を受けているクリミア、過激な民族主義が台頭するウクライナ双方とも、苦しい状態にあることは、3月19日ブログ「ウクライナ クリミア併合から3年 双方の苦しい現状 トランプ“取引”不発でロシアも強硬姿勢」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170319でも取り上げたところです。

ウクライナ・ポロシェンコ政権は国内の民族主義的動きに押される形で、経済的には自分のクビを絞めかねない、事実上の東部経済封鎖に踏み切っています。

****ウクライナ政権、東部経済の支配めぐり親露派と対立激化 「国家分割の動き」指摘も**** 
ウクライナ経済の核である東部の産業基盤をめぐり、現地を実効支配する親ロシア派武装勢力とウクライナ政府の対立が激化している。

親露派が企業を接収する動きを強める一方、ポロシェンコ政権は東部との流通網を遮断すると表明した。対立の出口が一向に見えないなか、ウクライナ本土と東部の分離がさらに加速するとの懸念が強まっている。
 
ウクライナ東部は鉄鋼や機械、石炭など重工業の集積地で、親露派が支配するドネツク、ルガンスク両州は同国経済の約15%の規模を占めるとされる。そのため2014年の危機発生以降も、現地の財閥系企業は他地域との通商活動を継続していたのが実態だ。
 
しかし親露派勢力は2月、支配地域の企業を「“国有化”する」と一方的に宣言。親露派の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領も親露派支配地域との自由往来を容認するなど、ウクライナ東部をロシアの経済圏に取り込む姿勢を鮮明にしていた。
 
そのようななかポロシェンコ氏は3月15日、「接収された企業と通商関係を維持することはできない」とし、親露派地域との流通網を遮断すると発表。事実上、東部の経済封鎖に踏み切った。
 
有力政治専門家のフェセンコ氏は、東部との間で不透明なビジネスが継続されている実態に、国民の不満が急速に強まっていたと指摘。さらに、一部の政治勢力が勝手に東部との輸送網を遮断する動きを進めており、混乱の拡大を防ぐためにポロシェンコ政権が「公式に封鎖を宣言」する必要があったと語った。
 
ただ東部との通商断絶についてウクライナ国立銀行(中央銀行)は、自国の経済成長率を約1・5%押し下げると試算するなど、回復が見えかけていた経済に大きな打撃となるのは必至。

キエフのコンサルティング企業代表、ベレゾベツ氏は、「企業活動が停止することで新たに失業者となった人々が、東部の親露派に加わりかねない」とも警告する。
 
ロシアのラブロフ外相はポロシェンコ氏の決定を「常識にも人間の良識にも反する」と批判したが、フェセンコ氏は「事態はロシア、ウクライナ双方が発展させた」と主張。その上で一連の出来事は、ウクライナ本土から東部を「事実上分割する動きだ」との見方を示した。【4月3日 産経】
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東部の経済封鎖は、ウクライナ政府にとって経済的に大きな打撃であるだけでなく、政治的にも親露派の東部支配を認めたようなことにもなります。

東部親露派、「未承認国家に可能性はない」】
苦しいのはウクライナ東部も同様です。

****親露派支配の都市 物価数倍、支援頼る人も****
中心市街地に「英雄」や「国家元首」の看板が飾られ、鉄道駅では「月給1万5000ルーブル(約3万円)の契約兵」を募集する声が響いた。2月下旬、ウクライナ東部の工業都市ドネツク。

2014年春以降、親ロシア派武装勢力が東部を支配し、二つの未承認国家「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」を自称する。ロシアのプーチン政権がウクライナ抑止のため支える「かいらい勢力」だ。
 
物価は数倍になり人道支援物資に頼る住民も多い。ドネツク大に通う男子学生、コンスタンチンさん(18)は「未承認国家に可能性はない。ロシアに行けばチャンスがあるかも」と冷静に話した。
 「
双方とも疲れている」。「ドネツク人民共和国・国防省副司令官」の親露派幹部バスリン氏は苦境を認めた。一方「(親露派地域の高度な自治を認める)ウクライナ連邦化の改憲が無ければ、戦争は続く」とも述べた。
 
ロシアの戦略目標はウクライナの欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟阻止とみられる。連邦化が実現した場合に親露政権を立てる狙いも見える。1989年に終結した東西冷戦後に失った欧米との「緩衝地帯」を再設定する試みだ。
 
ロシアの「勢力圏」だった旧東欧諸国などは次々とEU、NATOに加盟。ジョージア(グルジア)やウクライナでは親欧米政権が誕生してきた。ロシアには「悪夢」だった。
 
特にウクライナはロシアに重要性が高い。帝政時代の17世紀に大部分を支配下に収め、文化的に近い「弟分」と扱う。総人口約4500万人のうち2割はロシア系。その離反は政経両面で死活問題だ。ウクライナ東部紛争で、ロシアは大衆扇動や覆面部隊などあらゆる手段を駆使した「ハイブリッド(複合)戦争」を展開。犠牲者数は約1万人に及ぶ。
 
一方、ウクライナは米国に頼りたい。だが首脳会談はいまだ実現しない。ティモシェンコ元首相率いる野党「祖国」幹部のタラシュク元外相は『米国を世界最強に』というトランプ政権なら、ロシアの侵略的な動きを阻止する」と期待。殺傷兵器供与もあると見る。だが軍事専門家のミフネンコ氏は「自力で踏ん張るしかなくなる」と正反対の見方を示す。
 
トランプ米大統領は対露関係改善を志向する。ただ4月上旬にはロシアが支援するシリアのアサド政権軍を、化学兵器を使用したと断定してミサイル攻撃。ウクライナを巡る対露制裁も維持する。ウクライナ外務省のベシュタ政治局次長は「米国がロシアに強い姿勢を保つよう説得を続ける」と強調した。
 
ドネツクと約100キロ南の政府側支配都市マリウポリを結ぶ幹線国道。連日数十〜数百台の検問待ち車列ができる。砲声が断続的に響くが、多くの人は慣れた様子だ。両都市は行き来に従来の倍の片道4時間は要する。それでも物資買い出しや行政手続きのため、親露派地域住民が危険を冒して移動する。
 
マリウポリでは昨夏結婚手続きを1カ月から1時間に短縮した行政サービスが始まり、約900組が利用。ドネツク近郊から来たマクシムさん(28)とオリガさん(23)は「(政府側地域への)移住は難しい。早く平和になって」と語る。大国の思惑のはざまで、普通の人々が過酷な生活を強いられている。【5月12日 毎日】
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ロシアとしては、今の不安定な状態を維持して(できれば、親露派地域の高度な自治を認める政治枠組みを作って)、ウクライナのEU、NATO加盟を阻止できれば一応の目的を達成したことになり、それ以上の問題を拡大・深刻化するウクライナ東部併合といったことは考えていないでしょう。

多くを欧米に期待できないウクライナ・ポロシェンコ政権は「自力で踏ん張るしかない」ところです。

部外者にはわかりづらい東部分断の実態
それにしても、激しい戦闘の一方で、親露派実行支配地域の財閥系企業がウクライナ他地域との通商活動を継続してきたこととか、政府側支配都市マリウポリへ物資買い出しや行政手続きのため、親露派地域住民が危険を冒して移動する・・・といった関係は、単純に前線を挟んで砲弾を撃ちあっている状態でもなく、その実態はよくわからないことが多々あります。
コメント (2)
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