孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン 戦闘・飢餓、更にコレラ感染拡大で世界最悪の人道危機が深刻化

2017-05-26 22:38:29 | 中東情勢

(コレラ感染拡大になす術もないイエメンの人々【5月25日 Pars Today】)

止まない戦闘:サウジアラビア・イランの代理戦争、イスラム過激派への米軍の空爆
先日サウジアラビアを訪問したトランプ米大統領はサウジアラビアへの大量の武器売却で合意し、サウジアラビアを中核とするイラン包囲網の形成をアピールしました。

そのサウジアラビアとイランの代理戦争状態にあるのがイエメンです。

中東最貧国イエメンでは「反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派」と「ハディ暫定大統領派及び軍事支援するサウジアラビア」との内戦が続いています。

フーシ派は宗教的にはシーア派の一派ということで、イランが後押ししていると言われ、スンニ派地域大国であるサウジアラビア対シーア派盟主イランの代理戦争とも見られています。

サウジアラビア主導の周辺アラブ諸国連合軍が空爆を始めた2015年3月以降、多数の民間人を含む1万人以上が死亡し、総人口約2700万人の1割を超す300万人が難民・避難民となっています。

戦況の方は、中部の要衝タイズをめぐる攻防などが中心になっていますが、サウジアラビアが主導するアラブ連合が空爆等の大規模介入している割には進展が遅く、南部アデンを抑えた政府軍・サウジアラビアの北上に対し、首都サヌアなど北部を抑えるフーシ派が頑強な抵抗を続けています。

政府軍の攻撃にはスンニ派民兵も参加していますが、民兵に対する政府の統制が十分でないことによる混乱(支配地域で民兵勢力が勝手な行動をとっているなど)も生じているようです。

フーシ派はトランプ米大統領のサウジアラビア訪問をけん制するように、サウジアラビアの首都リヤドへ向けたミサイル攻撃なども行っています。

****サウジ、首都狙うミサイル迎撃=イエメンのシーア派組織が発射****
イエメンからの報道によると、同国のイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」は19日、隣国サウジアラビアの首都リヤドに向けて弾道ミサイル1発を発射したが、迎撃された。トランプ米大統領は20日、就任後初の外遊でリヤドを訪れる予定。
 
ロイター通信はフーシ派系メディアの情報として、発射されたのは「ブルカン1」ミサイルだと伝えた。サウジ主導の有志連合はサウジのメディアに、リヤドの西約200キロでミサイルを撃ち落としたと明らかにした。迎撃したのは砂漠地帯で、人的被害はなかったという。【5月20日 時事】
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現地では明日27日から断食月ラマダンに入ることで、国連のイエメン特別代表が22日に首都サヌアに到着し、ラマダン休戦を模索していますが、戦闘は激しさを増しています。

しかも、国連のイエメン特別代表が銃撃を受けるという事態も。

****イエメン情勢(国連代表の暗殺未遂?等****
・・・・国連のイエメン特別代表は22日サナアに到着しましたが、かれがVIPを出たところか(または彼の車列)に対して銃撃があり、イエメン外務省は、hothy連合の暗殺未遂だとして、これを非難したとのことです。

イエメン外務省は、この野蛮な行為に対してはhothyグループとサーレハ陣営に全責任があるとした由。

この事件に対しては、hothy連合からの声明等はなさそうですが、国連代表の到着に先立ち、hothy連合報道官は、国連には実行力もなく、中立でもなく、彼との会談は無意味であるとの声明を出していた由(後略)【5月23日 「中東の窓」】
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こうした状況で、ラマダン休戦が実現するのかは不透明です。

イエメンの混乱は、上記のフーシ派・サレハ支持勢力対暫定政府軍・サウジアラビアの戦闘だけでなく、この混乱・政治空白に乗じる形でアルカイダ系イスラム過激派が勢力を拡大していることで更に深刻なものになっています。

このアルカイダ系イスラム過激派に対しては米軍が激しい空爆を行っています。

****イエメン空爆70回超える=米軍****
米国防総省のデービス報道部長は3日の記者会見で、米軍によるイエメンでの空爆が2月末以降で70回を超えたと明らかにした。テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が標的。先週から新たに20回前後の空爆を加えた。
 
イエメンでは内戦に乗じ、南部を中心にAQAPが勢力を伸長。トランプ米政権は発足後、掃討作戦を強化している。【4月4日 時事】 
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一方、シリア・イラクで劣勢に立つ「イスラム国(IS)」にとっては、混乱が続くイエメンは同様の状況のリビアとともに恰好の流出先とも見られています。

IS戦闘員がイエメンに流入すれば、これまでライバル関係にあったアルカイダとISの“合体”という悪夢が現実のものとなるのでは・・・とも懸念されています。

****悪夢のシナリオが現実に、ISとアルカイダが合体も****
トランプ政権は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を進める一方で、ISのライバルである国際テロ組織アルカイダへの攻撃を激化させている。

特にイエメンでは過去最大の空爆回数に及んでいるが、追い詰められたISとアルカイダが合体という悪夢のシナリオが現実味を帯びてきた。

急襲作戦失敗の批判封じ込め
米軍の今回のイエメンでの空爆は3月2日から始まった。目標はイエメン南部アビヤン、シャブワ、バイダ3県のアルカイダ系分派「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の拠点で、無人機と爆撃機による攻撃がほぼ1週間連続で続いている。(中略)

しかしトランプ政権がここまで今、イエメンの空爆を激化させているのは1月の急襲作戦の失敗を挽回し、作戦への批判を封じ込めることが最大の理由との見方が強い。(中略)

生き残りを優先 
米国は現在、シリアとイラクではISに対する壊滅作戦も推進、ISの幹部が彼らの首都であるシリア・ラッカから逃げ出していると伝えられている。しかし最高指導者バグダディの消息はようとして分かっていない。
 
ベイルートの過激派ウオッチャーは「今後ISがさらに追い詰められた時、悪夢のシナリオが現実味を帯びてくる。

それはISが米国に対抗するためアルカイダと合体することだ」と指摘する。ISの組織が瓦解する中、路線の違いを棚上げにして生き残りを優先するという選択肢は十分あり得るものだろう。
 
とりわけ、イエメンのAQAPの幹部らにはISとの合体論者も多いといわれている。ISのイラクの拠点モスルやラッカに滅びの足音が迫る中、逃げ出したISの戦闘員がイエメンに流れ込み、AQAPに合流することになれば、世界の最貧国に過激派の一大聖域が生まれることになるだろう。【3月13日 WEDGE】
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飢餓の進行で世界最悪の人道危機へ
フーシ派・サレハ支持勢力対暫定政府軍・サウジアラビアの激しい戦闘、アルカイダ系イスラム過激派の浸透、それに対する米軍の空爆、IS戦闘員流入の危険・・・これだけでも十二分に悲惨な状況ですが、そうした混乱によって深刻な飢餓が進行していることは、これまでも取り上げてきました。

****飢きん寸前のイエメン~救命は時間との闘い~****
イエメンでは止まぬ紛争により世界最悪レベルの飢餓の危機が発生しており、700万人近くが、次の食事すらいつどこで食べられるのかわからず、食糧支援に頼るしかないという絶望的な状態にいます。

栄養不良に陥った子どもはおよそ220万人に上ります。そのうち50万人は深刻な栄養不良で、直ちに支援や専門的な治療を受けなければ死に至る緊急事態に陥っています。(後略)【4月28日 国連WFP】
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追い打ちをかけるコレラ感染拡大
イエメンは急速に世界最悪の“人道危機”に陥りつつあります。しかも、災い・不幸はそうした混乱状態にある地域を選んでさらに追い打ちをかけます。

戦闘・飢餓で衛生環境・栄養状態が悪化したイエメンではコレラ感染が拡大し、子供を中心に多くの犠牲者を出しています。

****イエメン、コレラ感染の疑い2万3500人 死者242人に****
世界保健機関(WHO)は19日、内戦状態にあるイエメンで流行しているコレラによって過去3週間で242人が死亡し、さらに感染が疑われる例が2万3500人近くに上っていると発表した。
 
WHOによると、全人口の3分の2が飢餓に瀕するイエメンでは、18日だけでコレラの死亡者数が20人を数え、さらにコレラに感染したとみられるケースが3460例に上ったという。
 
WHOのイエメン担当代表は、スイス・ジュネーブに集まった報道陣に対して電話で取材に応じ、「再発したコレラの流行の速度はこれまでに例を見ない」と述べ、今年末までに同国内で25万人が感染する可能性があると警鐘を鳴らした。
 
さらに同代表は、人道活動の従事者らも国内の一部地域に入ることができず、感染が疑われる例は、先の数字をはるかに上回る場合もあり得ると指摘している。
 
コレラは高い伝染性を持つ細菌感染症で、汚染された食物や水を介して感染する。

さらにイエメンでは、イランが後押しするイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」と、サウジアラビアが支援する政府側との戦闘の激化により、ここ2年で機能している医療機関が半分以下となっている。【5月19日 AFP】
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上述のような戦闘・飢餓の混乱状態にありますので、記事にもあるように、現在把握されている感染状況が実態のごく一部に過ぎないのではとも懸念されます。

犠牲者・感染者数は拡大しています。

****国連が、イエメンでの前例のないコレラの蔓延拡大に警告****
国連が、イエメンでの前例のないコレラの急速な蔓延拡大に警告すると共に、「イエメンでのコレラ感染者は3万6000人に達していることを明らかにしました。

ロシアアルヤウム・テレビが25日木曜、報じたところによりますと、国連のマクゴールドリック・イエメン担当人道調整官は、声明の中で、「イエメンは現在、同国の歴史上最大規模のコレラの流行に直面しており、この病気に瀕している人々は、2年以上にわたるサウジアラビアのイエメン攻撃の影響に苦しんでいる」と語りました。

また、「この数週間で、イエメンの各病院は3万5500人のコレラ感染者を確認しており、この病気により、これまでに少なくとも361人が死亡している」と述べました。(後略)【Pars Today】
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今後については、“数百人どころか数千人の犠牲者が出る可能性”といった、深刻な予測もなされています。

****イエメンで1日に子ども600人以上がコレラの疑いと診断****
イエメンは、4月末以降、昨年10月に続き、再びコレラ流行の危機に直面しています。

これまで、イエメンでは、1日に平均1,000件以上のコレラと疑われる症例が報告されており、うち3人に2人が15歳未満の子どもです。

セーブ・ザ・チルドレン イエメン事務所のスタッフは、現在のペースでいくと6月末までにコレラが疑われる症例は6万5,000件以上にのぼると予想され、爆発的な大流行になるだろうと警鐘を鳴らします。

4月末のコレラの発生から最初の3週間で、コレラおよび急性水様性下痢症の流行により、すでに少なくとも242人が犠牲になっており、これは前回の流行時の同じ期間の20倍以上の犠牲者です。

あまりにも感染拡大の速度が速く、十分な対応ができない中で、感染拡大を抑えきれなくなっています。

もし、7月の雨期の始まりまでに、コレラや急性水様性下痢症の拡大を抑止できなければ、数百人どころか数千人の犠牲者が出る可能性があります。

イエメンには220万人の栄養不良の子どもがいます。すでに、5歳未満の子どもが10分に1人の割合で予防可能な原因によって犠牲になっています。栄養不良により体の弱った子どもは、コレラおよび急性水様性下痢症に対して最も脆弱な状態にあります。

この速い感染拡大と時を同じくして、現在も続く紛争により、保健医療システムや衛生施設、公共インフラが崩壊寸前となっています。

首都サヌアの清掃作業員は、数ヶ月にわたる賃金未払いに対してストライキを行っており、通りにはゴミがあふれ、大雨で洪水が発生した際には、放置されたゴミにより上水道が汚染されました。

そして、今、再び雨期が迫っています。また、現在も続く空爆や砲撃により破壊された下水道もあります。

イエメン国内の保健医療施設の半数以上が機能しておらず、人口の3分の2に当たる1,400万人が安全な飲み水を手に入れることができません。(後略)【5月25日 PR TIMES】
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無力で、関心すら示さない国際社会
何とも“悲惨”としか言いようのない事態ですが、こうした事態に日本を含めた国際社会が無力なことが残念です。

アメリカも“世界の警察官”ではないにせよ、世界で一番影響力を有する国家であり、混乱の当事者たるサウジアラビアに軍事支援を行っている国であり、アメリカ自身が空爆を行っているという立場にあり、その指導者が“取引”やパワーゲームにしか関心がなく、イエメンで進行する人道危機への関心が全く見られないというのも甚だ残念なことです。

本来は、“ラマダン休戦”というより、“飢餓・コレラ対策休戦”を一刻も早く実現すべき状況なのですが・・・・。
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