孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバとアメリカ 国交正常化への交渉は消極的なトランプ政権のもとで停滞 キューバ側の不透明さも

2017-05-27 21:39:19 | ラテンアメリカ

(キューバ・ハバナ 5月1日のメーデーはお祭り気分 “ゲバラ”Tシャツは若者から高齢者まで幅広く人気とか。フィデル・カストロ関連グッズも「フィデルに反発していた若い世代の間に人気が高まっている」とのこと。【斉藤真紀子氏「キューバ倶楽部」http://cuba-club.net/mayday/より】)

【「もっと有利な取引」を求める“アンチ・オバマ”のトランプ大統領
オバマ前大統領のもとで、アメリカとの“歴史的和解”が実現したキューバですが、昨年11月にフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したのち、ほとんどキューバ関連ニュースを目にしません。

久しぶりに目にしたのが下記記事ですが、アメリカ国内のキューバ十関係強化を求める動きは“ないことはない”ようです。

****米超党派議員、キューバ渡航制限解除に向けた法案を再提出****
米上院の超党派グループは25日、キューバへの渡航制限の全面解除に向けた法案を再提出した。トランプ政権の対キューバ政策に不透明感があるなか、同法案は2015年の前回提出時を大幅に上回る共同提案者を集めた。

「キューバ渡航自由法」と呼ばれる同法案は15年に8人の超党派議員が提出したが、本会議で審議されることなく廃案となった。今回は共同提案者が55人に上った。

定員100人の上院で55人は過半数に当たるが、法案の審議を進めるには60人の賛成が必要となる。上院共和党の指導部が同法案の採決を認める兆候はこれまでのところない。

トランプ大統領は16年の大統領選で、オバマ前政権が進めてきたキューバとの国交正常化への取り組みを打ち切る可能性を示唆しており、就任後に対キューバ政策の見直しに着手した。

オバマ前大統領はキューバへの投資や渡航を巡る制限を緩和したため、キューバへの米国人訪問客が急増。ただ、公式には同国への観光旅行は認められていない。

渡航自由法共同提案者の共和党代表、ジェフ・フレーク上院議員は「われわれの渡航禁止令で不利益を被っているのはキューバ政府ではなく米国人だ」と強調。禁止令の解除は米国人の自由度を高めるとともにキューバの「急成長する企業活動や民間セクターに確実にメリットがある」と指摘した。

昨年のキューバへの米国人訪問客は74%増加。キューバのホテルや外食産業などだけでなく、キューバに進出している米国のクルーズ運航会社や航空会社にも恩恵が及んだ。【5月26日 ロイター】
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アメリカからキューバを訪れる観光客も上記記事にあるように増加しています。

****キューバ訪問者、早くも200万人 昨年より39日早く****
キューバ政府は3日、外国からの訪問者数が同日、200万人に達したと発表した。昨年より39日早い到達になったという。国営メディアが伝えた。2015年の国交回復以来、米国からの訪問者数が急増している。欧州や日本からの訪問者数も堅調に伸びているとみられ、観光ブームが続いている。
 
1~3月の統計では、特に米国からの訪問者数が前年同期比18%増と際立っている。米国の航空各社が定期便を復活させるなど、米国からキューバを訪問しやすくなっている。米政府は観光目的でのキューバ訪問を公式には認めていないが、実質的に観光目的の訪問者数が増えているようだ。
 
外国からキューバへの訪問者数は昨年初めて400万人を突破。今年は420万人を見込んでいる。足元では計画を上回るペースで訪問者数が増えている計算になる。【5月4日 日経】
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しかし、オバマ前政権の実績をすべて否定することに自分の存在理由を見出しているようなトランプ大統領は、イランとの核合意同様に、キューバとの国交正常化の取り組みにも従来から否定的な姿勢を示しています。

****トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取引」要求****
ドナルド・トランプ次期米大統領は28日、キューバとの国交正常化に向けた取り組みについて、キューバ政府が大幅な譲歩に踏み切らなければ打ち切る用意があると発言した。バラク・オバマ現政権が尽力してきた歴史的な和解が立ち消えになる可能性も出てきた。
 
25日にキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したことを受け、トランプ氏の上級顧問らは27日、キューバと「もっと有利な取引」を行うと約束した一方で、冷戦時代から対立を続ける両国の関係改善に与え得る影響については触れていなかった。
 
だがトランプ氏はその翌日、ツイッターに「キューバが自国民、キューバ系米国民、米国全体に対してより良い取引をしようという気がないのなら、私はその取引を終わりにする」と投稿し、対キューバで強硬姿勢を取る構えを示した。

これについてホワイトハウスは、キューバとの関係改善を決めた現政権の方針を擁護。ジョシュ・アーネスト大統領報道官は、オバマ政権が関係改善に乗り出したことにより「キューバ国民にとって大きな利益をもたらした」だけでなく、「米国民にとっても大きな利益をもたらした」と強調した。【2016年11月29日 AFP】
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「アンチ・オバマ」を行動の基本軸としているトランプ大統領ですが、現実面に配慮して豹変することもまた、彼の特徴です。

観光客増加にみられるように“現実”はすでに関係改善の方向で動き出しています。おそらく、企業の投資などの交渉も水面下で多々行われていると思います。

したがって、単に「アンチ・オバマ」だけで、この流れをせき止めるのは難しいように思われます。

もっとも、アメリカは多くのキューバ亡命者を抱えており、キューバ現政権に対する見方・考えは多様なものがあり、その点から今後のアメリカ・キューバ関係に紆余曲折があることも予想されます。

現実問題としては、トランプ大統領は内外ともに困難な問題を抱えており、“キューバどころではない”ということで、キューバ問題への対応の優先順位があまり高くないことも想像されます。

個人的には、ようやく入口に立った“歴史的和解”がご破算にならないことを願っています。

構造改革の難しさに直面するキューバ 今後の政治体制の不透明さも アメリカの空白を狙うロシア・中国
経済苦境にあるキューバ側の現状については、最近の情報がほとんどないのでよくわかりませんが、通貨問題に絡む国営企業の扱いで改革が難しいことが指摘されています。

また、アメリカ・トランプ政権がキューバとの関係改善から手を引くなら、代わりにロシア・中国が・・・という国際的な動きもあるようです。

****トランプ大統領誕生後、キューバと米国の関係進展が停滞。軍部は中ロの接近を危惧****
米国の16人の退役軍人高官が国家の安全の為に、トランプ政権の誕生以来中断しているキューバとの関係進展を継続するようにホワイトハウスに陳情したという事実がスペインでは4月21日付の『EL PAIS』が明らかにした。

それは書簡の形で大統領補佐官H.R.マックマスター陸軍中将に送られたものだ。その中で、彼ら軍人は<「米国政府が経済的そして政治的に繋がりをもたないとなると、その空白を埋めるべく、米国に対抗するロシア、中国、その他の国が接近を早めようとすることは疑いのないことだ」>と表明したとしている。
 
更に、彼らが指摘しているの<「カリブ海におけるキューバのポジションは米国に非常に近く、テロリズム、国境のコントロール、麻薬取り締まり、環境保全などの面において同盟国となってしかるべき国であり、戦略的にも非常に重要な価値をもっている」>ということである。

更に、<「キューバとの関係回復を完成させることは、米国のラテンアメリカとの繋がりを再構築するのに役立ち、と同時に敵を孤立させることが出来る」>と言及しているという。

トランプ大統領以降、キューバとの関係は再停止
トランプ大統領が誕生して以来、キューバとは如何なる交渉も持たれていないのが現状である。
 
彼ら軍人は大統領補佐官が同じ軍人であるということから、共通した概念を持っていると判断してこの書簡を送ったようである。しかも、国防総省のマティス国防長官とマックマスター大統領補佐官のコンビが米国の軍事外交をリードするようになっており、トランプ大統領自身の発言力は低下していると憶測されるようになっている。

一方、ホワイトハウスの見解は、オバマ前大統領が対キューバとの関係で合意したことなどを現在照査しているところであり、キューバの件はトランプ大統領にとって早急に対処するべき案件ではないと判断している、という回答をしている。

厳しいキューバの国内事情
キューバの国内事情は厳しい状況にある。GDPで3%以上の経済成長が必要であるが、それに至るには程遠い成長しかしていない。しかも、キューバにとって一番必要な外国からの投資が少ないという問題を抱えている。
 
ベネズエラが経済的に潤っていた時には、同国から安価な原油が国内消費さらに、それを再輸出できるまでの量の供給を受けていたが、現在その供給量も急激に減少している。それを補うべくロシアから安価な原油の提供を依頼しているが、その反応はまだ具体化されていない。
 
しかも、トランプ大統領やキューバ2世議員らが要求しているキューバの社会改革が容易ではないという事情もある。それが、トランプ大統領をして両国の関係進展に消極的である理由となっているのだ。
 
そのひとつがキューバの兌換ペソとペソ・クバノという2つの通貨が存在している問題である。兌換ペソは外人による使用が対象になっている通貨で、ペソ・クバノはキューバ人が日常使う通貨である。

その2つの通貨の価値は1ドルが24対1となっている。即ち、仮にキューバ人がドルを手に入れようとすれば24倍の対価を払わねばならなくなっている。外人対象の乗り物などは兌換ペソで割高になっている。

この二つの価値の差を利用して国営企業は成り立っているのである。
 
仮に、これを一つに統一しようとすれば、<6割の国営企業が成り立たなくなり、200万人の官僚の職場が消滅する>とされている。

また、2018年にラウル・カストロは評議会議長のポストを辞任することは既に表明しているが、その後のキューバがどのような政治を展開するか未知数である。

虎視眈々と狙うロシアと中国
米国のライバルとして、キューバに関心を示しているのがロシアである。ロシアにとって関心があるのはキューバに再度軍事基地を設けることである。

ロシアはキューバを始め、ベトナム、シンガポールなどに軍事基地を設けたいとしている。キューバに以前あった基地はレーダーによる傍受基地であったが、ソ連の崩壊に伴い、ロシアは2002年にそれを撤去させた。
 
米国との国交が復活した現在、キューバ政府がロシアの軍事基地の建設を許すとは思えない。しかし、今後のトランプ政権の対キューバ外交に新たな展開が見られなくなると、キューバはロシアを頼るようになる可能性は十分にある。

そうなると、ロシアがキューバと軍事面で強化を図ろうとする可能性が生まれるかもしれない。その前触れとも思わせるように、2014年にロシア連邦安全保障会議とキューバ国家安全防衛委員会との間での協力が合意された。
 
中国はつい最近までキューバに対しては他のラテンアメリカ諸国と比較して、中国からの投資は相対的に少なかった。

しかし、ラテンアメリカのブラジルとアルゼンチンが中国とロシア寄りから欧米寄りに外交を展開して来ており、中国もラテンアメリカにおける戦略の見直しが迫られている。

その一貫として、キューバとの取引進展も一つのテーマとなっている。昨年、安倍首相がキューバを訪問した後、直ぐに李首相もキューバを訪問している。そして、中国はインフラ開発や医療分野での協力を約束している。中国の場合、まだ軍事面での関係強化はこれから始まるところである。
 
トランプ大統領の対キューバ政治外交が今後どのように展開されるか不明であるが、米国の企業関係者は、国交が復活して以来、それでも前進を続けている。

米国の300万社を会員に持つ商工会議所会頭のトーマス・J.・ドナヒューは2月にキューバを訪問し、ラウル・カストロ評議会議長と会談している。
 
同様に、ミシシッピー州のヒル・ブライアント知事も観光、農業、食料の輸出をテーマに2月にキューバを訪問。コロラド州の州知事やウイリアム・タッド・コクラン上院議員らも同国を訪問している。

キューバの命運を握るのは、果たしてどの国になるのか?【4月26日 白石和幸氏 ハーバー・ビジネス・オンライン】
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ラウル・カストロ後の政治状況の不透明さが上記記事でも指摘されていますが、それに関連して下記のような発言も。

****キューバの議長後任「サプライズあるかも」 娘が発言 ****
018年2月での引退を表明しているキューバのカストロ国家評議会議長の後任について、同議長の娘であるマリエラ・カストロさんは3日、首都ハバナで「サプライズ(驚き)があるかも」と話した。AP通信などが伝えた。
 
現在までカストロ議長は後任に関して明らかにしておらず、公式な決定もない。ただ政権ナンバー2のディアスカネル国家評議会第1副議長が有力な後継者とみられている。
 
マリエラさんは「自身は候補者にはなりたくない」としたうえで、「キューバ国民すべてが候補者だ」と話した。具体的な候補者名には言及しなかった。マリエラさんは年末にも政権交代の手続きが始まるとの見方も示した。【5月4日 日経】
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どういう“サプライズ”なのか、まったくわかりません。

いずれにしても、キューバ側もカストロ後の政治体制が固まらないと、アメリカとの交渉も進まない・・・という状況にあるようにも思えます。

トランプ政権、キューバ側双方の事情で、政府間の交渉はしばらくはあまり目立った動きはないだろう・・・というところでしょうか。
コメント (1)
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