(モスクワ中心部の反政府集会で警察に連行される野党指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏(3月26日) 【3月27日 BBC】)
【投票率、得票率いずれも70%台の達成を求めるプーチン大統領】
****来年のロシア大統領選、再選出馬めぐる発言は時期尚早=プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は15日、2018年に予定される同国の大統領選に再選を目指し出馬するかどうかについて発言することは時期尚早との考えを示した。
北京を訪問中のプーチン大統領は、再選出馬の可能性に関する質問に回答する時期は来たかと記者団から尋ねられ、まだその時期には至っていないと語った。【5月15日 ロイター】
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プーチン大統領は昨年9月1日のインタビューで自身の後継者像について「次のリーダーは十分若く、かつ円熟した人物でなければならない」と強調し、政権内の世代交代も進めています。
しかし、(昨年9月時点で取り沙汰された者はいますが)今の時点で有力後継者の名前を耳にしないということは、やはり4期目に向けて再選出馬するのでしょう。
そして再選を果たして4期目を全うすれば、メドベージェフ氏に大統領職を預けた首相時代も含めて実質24年の超長期政権となります。
実際、来年の投票日・再選に向けたいろいろな動きをすでに示しています。
****大統領選、来年3月18日か=クリミア編入の日―ロシア****
インタファクス通信によると、ロシア下院は19日、来年予定のロシア大統領選について、3月18日の実施を可能にする法案を第2読会(3段階の審議の2番目)で承認した。今後も審議は続くが、この日に実施される可能性が高まった。
ロシアは2014年3月18日にウクライナ南部クリミア半島の編入を宣言している。節目の日に大統領選を実施することで、国民の愛国心をあおり、プーチン大統領の再選につなげたい思惑がありそうだ。【5月19日 時事】
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他にも、各省庁による有力企業監視・報告体制を強化して、その情報を選挙運動に結び付けていくとか、評判の悪い地方の州知事や共和国首長の任期切れ前の辞職を認め、首をすげ替えることで選挙への悪影響を回避する措置も。
また、ロシア外務省は欧米との情報戦争に対処するため2月から海外の「フェイク(偽)ニュース」を摘発するサイトをホームページに開設していますが、大統領選でプーチン氏に不利な情報の流入を防ぐ狙いもあるとか。【3月10日 池田元博氏 日経ビジネスより】
ロシアではメドベージェフ首相の蓄財疑惑への若者らの抗議行動が広まっていること、その運動を主導しているのが反政権活動家として有名な弁護士、アレクセイ・ナワリヌイ氏であることは、4月27日ブログ“ロシア 「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170427でも取り上げました。
しかし、プーチン大統領の支持率は依然高く、政敵・ジャーナリスト・野党指導者など政権にとって“不都合な存在”は“手段を選ばない”やり方(抹殺・投獄を含め)で徹底的に抑えつけてきた結果、ナワリヌイ氏のような気になる存在はあるものの、プーチン氏の勝利を脅かすほどの存在もないように思われるのに、クリミア編入の日を投票日に設定して・・・というのは、ちょっと姑息というか、“せこ過ぎる”というか、なんでそこまでして・・・という違和感を感じました。
プーチン政権側が“せこ過ぎる”ほどの動きに出る背景としては、超長期政権となるだけに、欧米側につけこまれないような形で、つまり“不正を疑われず、高い投票率の選挙で圧勝することで、政権の「正統性」を示したい”というプーチン大統領の思惑があるようです。
他国の批判など気にもかけないといった“強い男”“マッチョ”のイメージが強いプーチン大統領は、選挙キャンペーンのための暇などないと公言し、2000年に政権に就いてから選挙活動らしきものを表向きはほとんど行わずにきましたが、実際にはいろいろと気にする細やかな神経の持ち主でもあるようです。(そうでなければ、超長期政権など維持できません)
****再選目指すプーチン陣営、自らが掘った落とし穴****
・・・・国内でのプーチン大統領の支持率は依然、8割を超える。大統領府などが特別に再選戦略を練らなくてもよさそうな状況だが、念には念をということのようだ。
ただし、ここにきて大統領府に重い難題がのしかかってきているという。プーチン大統領が再選の条件として、投票率、得票率いずれも70%台の達成を暗に求めているというのだ。
投票率、得票率の双方で「70%」が必要な理由
過去の大統領選でのプーチン氏の得票率は、2004年が71.31%、2012年は63.6%。投票率はそれぞれ64.39%、65.34%だった。
世論調査をみる限り、当時と比べてプーチン氏の支持率ははるかに高いが、支持する有権者がすべて投票所に足を運ぶとは限らない。ましてやプーチン氏の当選が事前に確実視される状況では、必然的に国民の関心も薄くなる。
とくにプーチン氏が憂慮しているのが昨年9月の下院選だ。結果そのものは政権与党の「統一ロシア」が大勝し、全議席の4分の3以上を確保した。しかし国民の関心は総じて薄く、投票率が47.88%と低迷したからだ。
いくら憲法改正によって合法化されたとはいえ、次の大統領選で当選すればプーチン氏にとって通算で4期目となる。4期目を全うすれば、首相時代も含めて実質24年の長期政権となる。
ただでさえ、「皇帝」「独裁者」などと海外で皮肉られるプーチン氏にとって、国際社会で自らの正統性を誇示するには高い投票率と得票率が欠かせないというわけだ。
プーチン陣営が正統性にこだわる背景には、2012年3月の前回の大統領選での苦い経験もある。
前年末に実施された下院選で、票の水増しなど与党側による様々な不正行為が発覚。「公正な選挙」を求める大規模な抗議行動が各地でわき起こった。その直後の大統領選だっただけに、「やはり不正行為があったのは……」との疑念が内外で根強く残った。二の舞いは避けたいはずだ。
なるべく公正な方法で、投票率や得票率をどうやって高めるか。ひとつは、本命を揺るがす存在ではないが、国民の注目が集まるような著名人を候補者として擁立することだ。前回の大統領選では、NBAのプロバスケットボールチーム「ブルックリン・ネッツ」のオーナーとしても知られる大富豪の実業家のミハイル・プロホロフ氏が、クレムリン承認のもとで出馬した経緯がある。
大統領府はすでに、下院で議席をもつロシア共産党などに適当な若手候補がいないかを打診したがみつからず、結果的に常連候補者であるジュガノフ党首らの出馬を容認する方向という。(後略)【3月10日 池田元博氏 日経ビジネス】
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対立候補、それも話題を呼びそうな人物をプーチン陣営の側が探す・・・というのは“滑稽な”民主主義ですが、ロシア政治の現実です。
当然、今回は前出のアレクセイ・ナワリヌイ氏という選挙戦を盛り上げる“話題の人物”がいますが、政権がコントロールできなくなる恐れがあります。
“世論調査機関レバダセンターによると、国民の38%がデモを支持し、67%が高官の汚職はプーチン個人に責任があると考えている。さらに注目すべきは、10%が来年の大統領選でナワリヌイに投票するつもりだと答えている点だ。”【5月23日号 Newsweek日本語版】
“選挙戦でプーチン批判を大展開されれば、政権側のシナリオが大きく狂う恐れがある。
実はナワリヌイ氏に対しては、ロシア中部キーロフの裁判所が先月、地元の国営木材加工企業から資金を横領したとして、横領罪で執行猶予付き5年の有罪判決を言い渡している。政権側はこれを理由に、結局は同氏の大統領選出馬を阻むのではないかとの観測が現状では根強い。”【3月10日 池田元博氏 日経ビジネス】
投票率を高めてくれる話題性は必要ですが、あまりに“反プーチン”をアピールするような人物も“不可”です。
では、どうするか・・・ということで、ガスプロムやロスネフチといった国営企業などを総動員すること、投票所の数を大幅に増やしたり、住民登録していない場所での有権者の投票を容易にしたりすることができないかの検討、大統領選の投票日に合わせて、地域ごとに住民の関心の高いテーマで住民投票を実施させる案・・・なども浮上しているとか。
“海外からみればプーチン氏の超長期政権がほぼ確実視され、世界を見渡しても最も無風の選挙となりそうなロシアの次期大統領選だが、「正統性」という意外な落とし穴に苦慮しているのが実情のようだ”【同上】
【「ロシアのドナルド・トランプ」とも言われるナワリヌイ氏】
政権への抗議行動として最近報じられているものに、当局による古いアパートの取り壊しへの抗議行動がありますが、これにもアレクセイ・ナワリヌイ氏は参加しているようです。
****<ロシア>古アパート取り壊し モスクワで3万人が抗議デモ****
モスクワ市当局が1950〜70年代に建てられた古いアパート約4500軒の取り壊しを計画していることに対し、計画の中止を訴える抗議デモが14日、モスクワのサハロフ通りで開かれた。約3万人が参加し、「当局の横暴を許すな」と批判した。
取り壊しの対象となっているのは「フルシチョフ住宅」と呼ばれる5階建てのアパート。ソ連時代に安価な住居を広く市民に提供するために建てられたアパートだ。しかし、モスクワのソビャーニン市長は「安全上の理由」から取り壊し、近代的な高層ビルに建て替えることを計画。プーチン大統領は今年2月、了承した。
5階建て住宅の住民は「移転」の通知を受けてから2カ月以内に移転に同意しなければならない。住み慣れた場所からの移転を余儀なくされ、人々の怒りが爆発した。
この日、デモに参加した人々は「ソビャーニンは辞めろ」「モスクワに手を出すな」などと叫び、気勢を上げた。ソビャーニン市長は大統領府長官を経て2010年にモスクワ市長に就任したプーチン大統領の側近。「プーチンは泥棒だ」と大統領を批判するシュプレヒコールも上がった。
ロシアでは来年3月に想定される大統領選挙へ向け、反政府デモが相次いでいる。この日のデモには、3月26日の大規模な反政府デモを主導した野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏も参加した。5階建てアパート取り壊し問題は、新たな反政府運動に発展する可能性がある。
ロシア通信によると、モスクワ市当局は将来的には計約8000軒(居住者総数は約160万人)のフルシチョフ住宅の取り壊しを計画しているという。【5月15日 毎日】
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ナワリヌイ氏については、前出のように、2月に横領罪で執行猶予付き懲役5年の有罪判決を受け、5月初めには中部キーロフ州の裁判所が2月の判決を支持するとの決定を下したということで、大統領選に出馬できるかどうかが危ぶまれています。(12月にロシア中央選挙管理委員会が、その立候補の可否を判断するようです)
また、露骨な妨害も受けています。
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シベリア西部トムスクでは、ナワリヌイの選挙ボランティアがアパートから出ることができなかった。何者かに自宅ドアを断熱材で塞がれ、車のタイヤも切り裂かれたからだ。
ナワリヌイ自身、ボディーガードを雇ったものの何度か襲撃を受けている。昨年5月にはロシア南部で愛国者集団のコサックと思われる人々に襲われた。今年3月には選挙活動中に緑の液体をスプレーされ、4月下旬にもモスクワで何者かに顔に緑の液体をかけられた。そのため右目は失明の危機にある。【5月23日号 Newsweek日本語版】
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不正疑惑追及で名をあげたナワリヌイ氏ですが、その政治姿勢はトランプ氏やルペン氏に近いものがあるようです。
****プーチンを脅かす満身創痍の男****
孤立主義と反移民の主張
ナワリヌイ本人は「ロシアのドナルド・トランプ」と言われることが気に入らないが、はっきりと孤立主義と反移民の立場を取る。
「われわれは欧米と素晴らしい関係を築くだろう」と彼は最近、支持者に語った。「しかし私の外交政策はロシアから始まる。まずは道路を造り、その後で軍事力について心配する。国民の年金額と最低賃金を引き上げてから、(シリアの)アサド政権を支援する」
ナワリヌイは12年まで、モスクワで毎年行われるナショナリストと極右の示威行動「ロシア行進」の常連だった。13年にはチェチェン人追放を求めるデモを支持し、北カフカスや中央アジア出身者への侮蔑発言もした。
ここ数年は反移民の発言を抑え、リベラル派の大幅な支持を得ている。それでも、ナワリヌイが反プーチンだとしても支持なんてしない、と話す人々もいる。
「彼の汚職告発は重要な仕事だが、その政策はナショナリストのポピュリズムに基づく」と、有力なHIV活動家のアーニャ・サランは言う。「彼を支持する人たちは、やけくそでそうしているのだと思う」【5月23日号 Newsweek日本語版】
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【プーチン大統領による“管理選挙”】
ナワリヌイ氏以上に“反プーチン”を明確に示している人物としては、10年間投獄されていた元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏もいます。
****プーチン大統領に「うんざり」=不出馬求め市民ら書簡―ロシア****
ロシアの首都モスクワなどで29日、反プーチン政権の政治団体「開かれたロシア」の呼び掛けで、プーチン大統領宛てに来年3月の大統領選不出馬を求める書簡を提出する活動が展開された。「うんざりだ」のスローガンの下、モスクワの受付施設では書簡を手に多くの市民が列をつくった。
書簡を出した女性タマーラさん(55)は「プーチン大統領は自国のことを顧みず、世界を敵に回して戦争を行っている」と批判。経済低迷は大統領の責任だと述べ、「多くの国民が国外に移住している。もしプーチン氏がもう1期続けるなら、私も移住を考える」と語った。「開かれたロシア」の関係者によれば、モスクワでは1000人以上が書簡を提出した。
「開かれたロシア」は元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏が創設した団体。同氏はプーチン大統領と対立して2003年に逮捕され、13年に恩赦で釈放後は国外で事実上の亡命生活を送っている。
モスクワ中心部にある大統領宛て書簡の受付施設の周辺は警官隊が配備され、警戒態勢が敷かれたが、大きな混乱はなかった。ただ、人権団体によれば、サンクトペテルブルクで100人以上が拘束された。【4月30日 時事】
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ホドルコフスキー氏は、大統領選挙に出られるものなら出るのでしょうが、“釈放後は国外で事実上の亡命生活を送っている”身ですから、それも難しいでしょう。
なんだかんだで、プーチン大統領がコントロールする形で選挙は行われるのでしょうが、その結果、プーチン氏が投票率、得票率いずれも70%台の達成できるか・・・という、あまり“面白くない”選挙になりそうです。