孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ドゥテルテ大統領の戒厳令 対象地域・期間も拡大の可能性 暴力の矛先も・・・

2017-05-24 23:18:34 | 東南アジア

(マルコス元大統領の英雄墓地への埋葬に抗議する人々【2016年8月15日 CNN】 2016年8月15日ブログ“フィリピン 故マルコス元大統領の英雄墓地埋葬を決定したドゥテルテ大統領 風化する歴史”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160815でも取り上げたように、ドゥテルテ大統領とマルコス氏は、経歴的にも、その考えでも重なるものがあります。)

仲裁裁定をネタに中国からカネを引き出すドゥテルテ大統領
フィリピン・ドゥテルテ大統領が中国への傾斜を強めていることは周知のところです。南シナ海問題については、中国の意に沿う形で交渉が進められています。

****中比が初の2国間協議 日米排除図る中国、実利狙うフィリピン****
中国とフィリピンは19日、中国貴州省貴陽で、南シナ海問題をめぐる2国間協議メカニズムの初会合を開いた。双方の衝突防止のほか海難救助やエネルギー開発分野などでの協力について意見交換したとみられる。ただ領有権問題の根本的な解決につながるかは不透明だ。
 
協議メカニズムは昨年10月、習近平国家主席とフィリピンのドゥテルテ大統領との首脳会談後に発表した共同声明に設置が盛り込まれた。今後、年2回のペースで定期的に開催される。(中略)
 
スカボロー礁(中国名・黄岩島)を実効支配するなど海洋進出を強める中国に対し、フィリピンのアキノ前政権は国際社会の圧力を求めて13年、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所に中国を提訴。昨年7月には中国の主権主張を全面否定する裁定が出された。
 
ただ昨年6月に就任したドゥテルテ大統領は同盟国の米国と距離を置き、中国との接近を図る姿勢に転換。同10月の中比首脳会談では仲裁裁定を持ち出さず、中国から総額約240億ドル(約2兆6千億円)相当の投資や融資を約束させた。

フィリピンは日米など国際社会の圧力排除を狙う中国の求めに応じて2国間協議に応じることで、中国側による投資の早期実施やエネルギー共同開発などの実利を求めるとみられる。【5月20日 産経】
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過去のフィリピンとアメリカの歴史、オバマ政権時代に麻薬対策としての“超法規的殺人”を人権問題として批判されたことへの不満など、アメリカへの強い不信感・嫌悪感が背景にあるようですが、やはり人権問題を重視するEUとの関係も拒絶するようです。

****フィリピンへの開発援助をEUが打ち切り 300億円相当、人権批判受け比政権が支援拒否****
欧州連合(EU)は17日、フィリピンに対して行ってきた開発援助を打ち切る声明を発表する。比の人権問題に対するEUからの批判にドゥテルテ政権が反発し、今後の援助受け入れを拒否したという。ロイター通信が、EUのジェッセン駐フィリピン大使の発言として伝えた。
 
比側の対応は、ドゥテルテ氏が15日、中国の習近平国家主席と会談し、インフラ建設向けの5億元(約80億円)など、大型開発援助を取り付けた直後の動き。
 
一方、比側が喪失するEUからの援助は約2億5千万ユーロ(約300億円)相当で、開発が遅れる南部のイスラム教徒居住地域支援などに使われる予定だった。

欧州議会は3月、「超法規的殺人」などで約9千人の死者を出している比政府の違法薬物撲滅政策などを批判する決議を採択。ドゥテルテ氏が反発していた。【5月18日 産経】
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人権などとうるさいことを言うアメリカ・EUに頼らなくても、中国がカネを出してくれるからかまわない・・・ということのようです。

****中国の高速鉄道が欲しい」と比大統領、「中国が助けてくれる」とも****
2017年5月12日、中国新聞網はフィリピンのドゥテルテ大統領が中国の支援による高速鉄道建設を望む姿勢を示したことを伝えた。(中略)

「私は中国の高速列車をフィリピンに持って帰り、人びとの外出をより便利にしたい。今の交通機関はノロノロで、高い技術を持つ高速列車はわれわれにはまだない。でも中国が助けてくれるだろう。両国が友好関係を維持し、誠意をもって接し、よい協力を展開すれば、中国はきっとフィリピンの発展を助けてくれる要素となる。中国の支援の下で、われわれも高速列車を持つことができる」としている。

さらに、中国との関係の未来について同大統領は「経済のみならず、ほかの分野でも強固な関係を築くことができるだろう」と大きな自信と期待を示した。【5月12日 Record China】
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なんだか、仲裁裁定を持ち出さない見返りに、望めば中国がなんでもかなえてくれる・・・といった、一種の“ゆすり・たかり”のようにも・・・。

一方で、フィリピン国内向けもあって、南シナ海での主権主張の姿勢は崩していないようです。

****ドゥテルテ比大統領、対中で「面従腹背」? 南シナ海で実効支配強化****
フィリピンが南シナ海の実効支配の強化を着々と進めている。ドゥテルテ政権は中国からの経済支援を引き出す狙いから、中国の南シナ海に対する主権主張を全面否定した国連海洋法条約に基づく仲裁裁定を棚上げした。外交では対中融和姿勢を継続する一方、中国の力による現状変更に対抗すべく、主権を堅持する姿勢は崩していない。
 
現地メディアによると、フィリピン国軍は11日、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島にある、フィリピンが実効支配するパグアサ(英語名・ティトウ)島で建築資材の搬入を始めたと発表した。ロレンザーナ国防相が先月21日、同島を視察し、滑走路の補修や電力関係の施設の建設計画を表明していた。
 
同島には、軍関係者約120人と一般住民約200人が居住。ドゥテルテ大統領は、6月12日の独立記念日に訪問して国旗を立てる意向をいったんは示したが、中国の反発で中止すると態度を変えた。
 
ただドゥテルテ氏は、同諸島にあるパグアサ島などを含む環礁の保護強化を4月に国軍に命令。中国の反発にも、この指示は撤回していない。海軍は雨期に入る7月を前に同島への資材運搬を終了させる予定だ。
 
また、ピニョル農相は11日、フィリピンが領有権を主張するルソン島北東沖の「ベンハム隆起」について、名称を「フィリピン隆起」へ変更する案をドゥテルテ氏が承認したと発表した。

周辺海域は排他的経済水域(EEZ)だと主張し、他国による海底資源探査の活動を禁止した上で、浅瀬に建造物を構築し違法漁業の取り締まりを行う意向も示した。(後略)【5月15日 産経】
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仲裁裁定をネタに、中国から最大の利益を引き出すべくうまく立ち回るつもりのようですが、いつか虎の尾を踏むことになるかも・・・

中国・習近平主席も甘い顔ばかりも見せていられないということで、例の“戦争”発言(「私(ドゥテルテ大統領)が、『南シナ海はわれわれのものであり、石油採掘を行うつもりだ』と伝えたところ、習主席は、『その話を無理に進めれば戦争になる』と答えた」)も。

ただ、ドゥテルテ大統領がペラペラしゃべってしまうとは習近平主席も思っていなかったのでは。
口の軽さも、大統領発言の火消しに周辺が追われるというのも、アメリカ・トランプ政権と酷似しています。

フィリピンのカエタノ外相は、ドゥテルテ大統領と中国の習近平国家主席の会談について、脅しや警告はなく率直かつ友好的な協議が行われたと説明しています。

中国外務省の華春瑩報道官は22日に会見を行い、ドゥテルテ大統領の“戦争”発言に直接触れることは避けつつ、「友好的な話し合いを通じ、平和的に問題を解決できるようフィリピンと協力して取り組む」と述べています。

フィリピン司法は“戦争”発言に反発していますが、中国への反発というより、超法規的殺人などを推し進めるドゥテルテ大統領への反発があるのでは・・・と思われます。

****フィリピン最高裁判事、国連への提訴要求=中国主席の警告めぐり****
2017年5月20日、フィリピンのアントニオ・カルピオ最高裁判事は、フィリピン政府に対し、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による「戦争」警告を国連に提訴すべきだと訴えた。米自由アジア放送(RFA)の中国語ニュースサイトが伝えた。(後略)【5月21日 Record China】
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ロシアからも
ドゥテルテ大統領は、中国と天秤にかけるようにロシアとも接近を図っており、ロシアからも軍事支援を引出しています。なかなかの“取引”上手です。

****ドゥテルテ比大統領「信頼できるのはロシアと中国だけ」 露・中への傾斜鮮明化「軍事同盟も排除せず****
フィリピンのドゥテルテ大統領は25日のプーチン・ロシア大統領との会談に先立ち行われた露メディアとのインタビューで、ロシア・中国との「軍事同盟」も辞さないかのような発言をし、信頼できるのはこの両国だけだなどと言い切ってみせた。一方で米国には激しい批判を展開した。
 
イタル・タス通信が22日に配信したインタビューでドゥテルテ氏は、対米関係について「われわれは地政学的バランスを維持するために米国から武器を購入してきた。しかし米国は“人権”など、自分たちの求めるものをわれわれに押しつけてきた」と述べ、そのような態度への反発から、同国からはもう武器を購入しないことにしたなどと発言。

その一方で、「われわれはロシアと同様に、武装した反乱集団と戦っている」と述べ、ロシアから偵察用機器や小型武器、さらにヘリコプターなどを購入する考えを表明した。
 
プーチン露大統領との首脳会談でドゥテルテ氏は軍事技術面での幅広い協力で合意する見通しだが、露メディアによると歴史的に米国の勢力圏にあったフィリピンが、ロシアとそのような合意をするのは初めてだという。
 
一方で、過去にロシアや中国と軍事同盟を結ぶ可能性に言及したことについて聞かれたドゥテルテ氏は、世界は極めて危険な状況にあるとし、「(露中との)軍事同盟も排除しない」と改めて発言。そのうえで、世界で信頼できるのは「ロシアと中国だけだ」と言い切ってみせた。
 
対米関係をめぐっては、ドゥテルテ氏は米国が「われわれに援助を示しながら、命令を下す」のをやめるべきだと主張。トランプ米大統領の就任式への招待を断ったのは「ロシアに来るからだった」と述べた。
 
一方でトランプ氏をめぐっては、「ときおり私の行動を肯定的に評価している。意見が一致している」などと表明。またトランプ氏が、議会により権限が制限されているためにさまざまな困難に直面していると述べるなど、トランプ氏を“気遣う”かのような姿勢もみせた。【5月23日 産経】
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似た者同士のドゥテルテ大統領とトランプ大統領
アメリカはともかく、トランプ大統領個人とは、非常に馬が合うようです。

****トランプ氏、フィリピン大統領の薬物犯罪捜査を評価=NYT****
トランプ米大統領は、4月29日にフィリピンのドゥテルテ大統領と行った電話会談で、「薬物犯罪の問題で素晴らしい仕事をしている」としてドゥテルテ氏を評価した。米紙ニューヨ−ク・タイムズ(NYT)が会談の議事録を引用して報じた。

議事録は、フィリピン外務省の米州部門が23日に「機密」扱いで回覧した。

NYTによると、ワシントンの米政権高官は議事録について、電話会談の内容を正確に描写したものだと確認した。

フィリピンでは、昨年6月30日のドゥテルテ大統領就任以降、薬物犯罪捜査に絡み9000人近くが殺害されている。

NYTによれば、トランプ大統領は会談でドゥテルテ氏に対し「薬物問題に関する素晴らしい仕事のことを聞いており、祝意を伝えたい」と述べたという。【5月24日 ロイター】
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警官による恣意的な殺人、素性の知れない集団による殺人を含めて9000人近くが殺害されていることのどこが“素晴らしい仕事”なのか? ドゥテルテ大統領がどういう対中国政策をとろうとかまいませんが(日本にとって不都合でも、フィリピンが決める問題です)、“素晴らしい仕事”に関しては、ドゥテルテ大統領もトランプ大統領も全く受け入れられません。このあたりの感覚が、トランプ氏だけでなく、ドゥテルテ大統領が中国・ロシアに親近感を感じる所以でしょう。

****フィリピン「麻薬戦争」 殺害、制御できぬ政権****
「麻薬戦争」を進めるドゥテルテ政権下のフィリピンで、麻薬犯罪に関わったとされる市民が、警官や正体不明の犯人に殺される事件が後を絶たない。政府は「国家主導の殺人ではない」と強調するが、異常な殺人が続く状況を制御できていない。
 
麻薬犯罪の撲滅を掲げるドゥテルテ大統領の就任後、警察は、麻薬関与が疑われる人の自宅訪問捜査を続けてきた。容疑者が抵抗した場合、殺害しても警官の責任は問われないとされる。フィリピン政府によると、昨年7月から今年3月末までに2692人が警官に殺害された。
 
だが、警官による不正が次々と発覚した。今年1月には「麻薬犯罪に関与した」と偽って韓国人男性を連行し、警察本部内で殺害。遺族に身代金を要求していたことが分かり、警察による麻薬捜査を1カ月停止する事態に発展した。
 
正体不明の犯人による殺人も止まらない。顔を隠したバイクの2人組が銃で殺害し、逃走する手口が多い。警察は昨年7月から11月に報告された殺人事件のうち、約2千件が「麻薬戦争に便乗した個人的な殺人だった」と報告。麻薬戦争が悪用されている状況が明らかにされた。
 
「これは大量殺害であり、人道に対する罪だ」。4月下旬にフィリピン人弁護士が、国際刑事裁判所(ICC)に捜査開始を求める訴状を提出した。
 
その直後の今月5日、国連人権理事会に出席したカエタノ上院議員(現外相)は、「超法規的殺人はあるが、国家が殺害を支援しているわけではない」と主張した。
 
ただ、真の問題は国が殺害を指示したかどうかではない。麻薬戦争の名の下、市民が裁判手続きを経ないで殺害される異常な事態を、政府がまったく制御できていないことだ。
 
麻薬戦争は、治安改善につながるとの期待があることも事実だ。だがフィリピンの民間団体が18歳以上の1200人に聞いた調査では、7割以上の人が「自分も犠牲になるのでは」と恐怖を感じていた。【5月22日 朝日】
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【「マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになるかもしれない」】
“超法規的殺人”を黙認(おそらく、推奨・支持)しているドゥテルテ大統領はミンダナオ島などに戒厳令を発令しました。

****ドゥテルテ大統領、南部に戒厳令 IS忠誠の勢力と交戦****
フィリピンのドゥテルテ大統領は23日、南部ミンダナオ島全土と、バシラン島を含むスールー諸島に戒厳令を宣言した。同地域はイスラム系武装勢力の活動拠点で、ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市では同日、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を示すマウテグループと政府側の交戦が続いている。
 
ロシアを訪問中のアベリヤ大統領報道官がモスクワで会見し、明らかにした。戒厳令は暴動などが起きた際に憲法で認められた措置で、司法権や行政権などが一時的に軍の管理下に移行する。期間は60日。ドゥテルテ大統領はロシア訪問を切り上げ、24日帰国する。
 
会見に出席したロレンザーナ比国防相によると、マラウィ市には過激派組織アブサヤフのハピロン幹部のアジトがあり、国軍と国家警察が23日に逮捕に向かっていた。これに抵抗する15人のマウテのメンバーや支持者が政府側に発砲し、衝突したとみている。この交戦で警官1人と兵士2人が死亡、8人がけがをした。
 
マウテは市刑務所や教会に火をつけており、現地メディアには、刑務所などが燃え、町にISの黒い旗が掲げられる様子を写した写真が掲載されている。
 
マウテは反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)の元メンバーが参加するとされ、昨年9月のダバオ市の夜市の爆発事件や、同11月にマラウィ市でドゥテルテ大統領警備の先遣隊の車両が爆発した事件への関与が指摘されている。【5月24日 朝日】
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大統領は、ミンダナオ島に近く、観光地として有名なセブ島もある中部ビサヤ地方などに「対象地域を拡大する決断をするかもしれない」と語っています。

更には、“フィリピンのドゥテルテ大統領は24日、過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威が国内に広がった場合、全土に戒厳令を敷くことも排除しないと述べた。”【5月24日 ロイター】とも。

期間についても、長期にわたる可能性にも言及しています。

****フィリピン大統領、南部ミンダナオに戒厳令 1年続く可能性に言及****
・・・・大統領は24日、この戒厳令は1年続くこともあり得ると述べ、フェルナンド・マルコス独裁政権が出した戒厳令と似たものになる可能性を警告した。
 
フィリピンの憲法では、反乱や侵略があった場合に戒厳令を最長60日間適用できるとしている。エルネスト・アベリャ大統領報道官も23日、今回の戒厳令の期間は60日間だと説明していた。
 
ところが、ドゥテルテ大統領はロシア訪問を切り上げてフィリピンに帰国する直前に撮影された動画で、戒厳令は1年続く可能性もあると警告。国民は1986年の「ピープルパワー(People Power)革命」で打倒されるまで20年間続いたマルコス政権下で戒厳令を経験していると指摘した上で、「マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになるかもしれない」と述べた。(後略)【5月24日 AFP】
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国民への弾圧・強権的支配も“マルコス大統領の措置と何ら変わらないものになる”恐れも。そのとき超法規的殺人の対象は麻薬取引関係者だけではなくなります。

ドゥテルテ大統領が手にする戒厳令下の絶対的権力で、フィリピンが抱える貧富の格差、汚職・腐敗などの問題が解決されることを期待する向きもあろうかと思いますが、絶対的権力を手にした者の犯す過ちは歴史が繰り返し証明しています。フィリピンでもマルコス大統領の過去があります。

ちなみに、ドゥテルテ大統領は国内に根強い反対のあるなか、マルコス氏の“英雄墓地”への埋葬を断行しています。
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