孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ難民  スー・チー氏拘束を歓迎? 密航ビジネスの実態

2021-02-02 23:28:22 | 難民・移民

(マレーシア・ランカウイ島沖で拿捕(だほ)された、ロヒンギャ難民を乗せているとみられる木造船【2020年7月21日 AFP】)

 

【ミャンマークーデターに対するロヒンギャ難民の二つの反応】

ミャンマーでの国軍によるクーデターは昨日も取り上げたところですが、国軍は少数民族ロヒンギャに対する殺害・放火・レイプ・暴行などのジェノサイド行為の当事者です。

 

一方、拘束されたスー・チー国家顧問兼外相はロヒンギャ問題の改善を国際社会から期待されていましたが、2019年11月11日、国連の国際司法裁判所(ICJ)に出廷し、ミャンマー国軍が少数民族ロヒンギャにジェノサイド(集団虐殺)を行ったとの訴えに「不完全で不正確だ」と反論、おおむね国軍を擁護する発言を行いました。

 

こうしたことを踏まえ、隣国バングラデシュに避難しているロヒンギャ難民は、今回クーデターをどのように見ているのか・・・この件に関して、全く正反対とも言えるようなふたつの記事が。

 

一つ目は、ジェノサイドの当事者である国軍が実権を掌握したことで、ますますミャンマーへの帰還が困難になることを懸念する声です。これは、容易に想像できる反応でしょう。

 

****クーデターで不安広がるバングラのロヒンギャ難民 ミャンマーへ帰還「一層困難に」****

ミャンマーで起きた軍事クーデターを受け、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが多数避難するバングラデシュの政府は1日、「我々はミャンマー政府と、ロヒンギャの自主的で安全で持続的な帰還のために取り組んできた。このプロセスが続くことを期待する」との声明を出した。

 

地元紙デーリー・スターによると、モメン外相は同紙に対して、「(ミャンマーは)1980年代や90年代も軍事政権だったが、ロヒンギャを帰還させることができた」と述べ、今回のクーデターによる影響は受けないと主張した。

 

だが、ロヒンギャの間では不安が広がっている模様だ。バングラ南東部コックスバザールにある難民キャンプに住むロヒンギャの男性は毎日新聞の電話取材に「クーデター以前からミャンマーに戻りたいと考えている難民はほとんどいなかったが、クーデターで帰還はより一層困難になった」と話した。

 

バングラとの国境に近いミャンマー西部マウンドーにいるロヒンギャの男性は、バングラのSIMカードを使用した携帯電話で取材に応じ「軍事政権下で再びロヒンギャへの取り締まりが厳しくなるとのうわさが出回っている。バングラに逃れることを考えている人もいる」と語った。

 

ミャンマーでは2017年、ロヒンギャの武装集団と治安部隊が衝突し、ロヒンギャ70万人以上がバングラに逃れた。ミャンマー、バングラ両政府は18年、難民の帰還開始で合意したが、難民の間ではミャンマー国内での安全への懸念が根強く、帰還作業は進んでいない。【2月2日 毎日】

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今までも故郷ラカイン州の治安状況には懸念がありましたが、虐殺の主犯が国家の実権を掌握したのですから、ラカイン州の治安状況が更に悪化することを難民らが不安視するのは当然でしょう。

 

一方で、全く違う視点から、今回クーデターを「歓迎」する声が上がっているとの報道も。

 

****スー・チー氏拘束に歓喜、ロヒンギャ難民キャンプ*****

3年前の激しい軍事弾圧で隣国バングラデシュへ逃れたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは1日、アウン・サン・スー・チー国家顧問が国軍に拘束されたことを喜んだ。

 

国連がジェノサイド(大量虐殺)の可能性を指摘している2017年8月の軍事弾圧の後、約74万人のロヒンギャがミャンマーのラカイン州からバングラデシュへ向かった。

 

当時、ミャンマーの事実上の政権トップだったスー・チー氏は、2019年に行われたロヒンギャに対する強姦や殺人などの残虐行為に関する国際刑事裁判所の公聴会で、国軍を擁護した。

 

スーチー氏拘束の知らせは、現在約100万人のロヒンギャが密集して暮らすバングラデシュの難民キャンプで瞬く間に広まった。

 

「私たちのすべての苦しみの原因は彼女だ。祝わない理由がない」。世界最大規模の難民キャンプ「クトゥパロン」の難民リーダー、ファリド・ウラーさんはAFPに語った。

 

近隣のバルカリ難民キャンプのリーダー、モハマド・ユスフさんは、「彼女が最後の希望だったのに、私たちの窮状を無視し、ロヒンギャに対するジェノサイドを支持した」と語った。

 

ナヤパラ難民キャンプに暮らすミルザ・ガリブさんは、ノーベル平和賞受賞者のスー・チー氏に「正義の裁き」が下されたと歓迎し、特別な祈りをささげたロヒンギャもいたとAFPに語った。「難民キャンプ当局の許可が出ていたら、何千人ものロヒンギャが(スー・チー氏の拘束を)祝って行進をする姿がみられたはずだ」

 

強い影響力を持つ「ロヒンギャ学生連盟」の広報を担当するマウン・チョー・ミン氏は、スー・チー氏の拘束を受けて、ロヒンギャのミャンマー帰還への期待が高まっていると述べた。

 

「選挙で選ばれた政府とは異なり、この国軍(の政権)が持続するためには国際的な支援が必要だ。だから、彼らが国際的な圧力を軽減するために、ロヒンギャ問題を重視することを期待している」と語った

【2月2日 AFP】

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これは、やや意外な反応です。

もちろん「彼女が最後の希望だったのに・・・」というのはわかりますし、積極的に救いの手を差し伸べなかったのも事実ですが、彼女が虐殺を命じた訳でもありませんので・・・

 

少なくとも「スー・チー氏の拘束を受けて、ロヒンギャのミャンマー帰還への期待が高まっている」というのは誤った認識であり、前出記事にあるように、帰還は一層困難になったのが現実でしょう。

 

【劣悪な難民キャンプでコロナ感染が少ない理由は?】

ロヒンギャ難民に関する話題を2件。

 

ひとつはコロナ関係。

劣悪な衛生環境にありますので、さぞかし感染が・・・と思いきや、感染者がなぜか非常に少ないということで、WHOなどによる調査も始まったとか。

 

****手洗えないのに…難民キャンプのロヒンギャ、低い感染率****

キャンプで暮らす難民たちは新型コロナウイルスに感染しにくい?――。ミャンマーでの迫害から逃れ、バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプで生活するイスラム教徒ロヒンギャのコロナ感染者が、周辺の地元住民と比べてかなり少ないことがわかった。世界保健機関(WHO)などが実態の調査に乗り出している。

 

キャンプには、竹や防水シートでつくった簡易な家がひしめきあう。約85万人のロヒンギャは、配給に頼る貴重な水を感染予防のための手洗いに使えていない。

 

キャンプ内のロヒンギャからは、昨年5月に初の感染者を確認。爆発的な感染拡大が懸念され、WHOはその後の3カ月でキャンプ内のロヒンギャの9割が感染する可能性もあるとみて、国連機関やNGOが隔離施設の建設などを急いでいた。

 

ところが、WHOによると、昨年12月13日時点で感染が判明したロヒンギャは363人で、検査を受けた人に占める感染者の割合は1・8%。キャンプ外の地元住民が12%だったのに比べると、少なかった。

 

ロヒンギャの感染が少ない理由は何か」。実態を調べるため、バングラデシュ政府やWHO、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが大がかりな調査に乗り出した。

 

PCRは検査時点での感染の有無しかわからないことから、過去のいずれかの時点で感染していたことを示す抗体検査を実施することで、キャンプ内のロヒンギャの感染割合を調べるという。

 

ただ、WHOはキャンプ内の感染者が少ない理由として、難民のうち52%が17歳以下と年齢層が若いため症状が軽く、検査に至らなかった可能性をあげる。

 

また、バングラデシュ政府はベンガル湾の島に難民10万人を移住させる計画を打ち出していたことから、ロヒンギャには「感染すれば無人島に移送されて隔離される」とのうわさが広がったこともあり、感染しても適切に報告されていないのではないかとみている。さらに、流行初期に必要な人に十分な検査ができていなかった可能性も考えられるという。【1月5日 朝日】

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「感染すれば無人島に移送されて隔離される」ことを懸念して報告がなされない、逃げてしまう・・・という話はありますが、検査を受けた者の陽性率が1.8%というのは確かに低いですね・・・。

 

【密航ビジネスの実態】

故郷にも帰れない、キャンプからも出られない・・・という「出口」のない生活を強いられるなかでは、当然に下記のような話も出てきます。

 

****ロヒンギャ難民数百人がキャンプから失踪、密航か インドネシア****

インドネシアにある難民キャンプに暮らしていた、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ数百人の消息が分からなくなっている。関係者らや情報筋が27日、明らかにした。隣国マレーシアに密航した可能性があるという。

 

インドネシア北部沿岸ロクスマウェにある仮設キャンプには、昨年6〜9月に約400人のロヒンギャ難民が到着したが、今週には112人に減っている。

 

地元当局も国連も、消息不明者らの所在を確認できていない。マラッカ海峡を渡ってマレーシア入りするために、密航業者に依頼した懸念が持たれている。(中略)

 

(難民発生以来)大勢の難民が密航業者に金を払い、バングラデシュからインドネシアやマレーシアに渡っている。

 

当局によると最近では、ロクスマウェのキャンプにいたロヒンギャ難民少なくとも18人と密航業者12人以上が、同地から南方へ数百キロ離れたマレーシアに不法入国する際の主な起点となっているメダンで逮捕されたという。 【1月29日 AFP】

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インドネシアやマレーシアに密航と言っても、このコロナ禍ではおいそれと不法入国者を受け入れている訳でもありません。難民が目指すマレーシアに運よく上陸できても、“マレーシア:ロヒンギャ難民を海に戻す残虐な方針”【2020年6月19日 アムネスティ国際ニュース】とか、“不法入国のロヒンギャ難民をむち打ち刑へ 人権団体、マレーシアに廃止要求”【2020年7月21日 AFP】という現実が待っています。

 

また、密航ビジネスそのものが、極めて危険で犯罪的なものであることは言うまでもありません。

 

****夢を売り、暴力と恐喝で支配 ロヒンギャ密航ビジネス****

バングラデシュにある世界最大の難民キャンプで、有刺鉄線が張り巡らされた検問所を三輪タクシーがやすやすと通り抜けて行く。その運転手らは、海上の恐喝団や腐敗した警察、麻薬密売組織の親玉などが関与する密航ネットワークの末端を担っている。  

 

三輪タクシーには、何人かの若い男女と子どもらの小グループが乗っていた。国籍を持たないイスラム系少数民族ロヒンギャの難民だ。彼らはバングラデシュの掘っ立て小屋のキャンプに同胞と一緒に押し込められている惨めな暮らしから、脱出したいと望んでいる。  

 

エナムル・ハサンさん(19)もその中の一人だった。今年初め、三輪タクシーに乗って海岸に連れて行かれ、そこから小さな船でベンガル湾に停泊していた大型漁船まで運ばれた。船にはマレーシア行きを望むロヒンギャ数百人が乗っていた。 

 

「学業を修めて、家族を貧困から救うために稼ぐチャンスがあると言われた」。ハサンさんにそう約束したのは、キャンプの中にいた密航組織の手先だ。そしてハサンさんは海上で6週間、船の乗組員らに殴られるのを耐え、人が死ぬのを見た。  

 

今年、バングラデシュとインドネシアには、海上を何か月もさまよった何百人ものロヒンギャ難民が漂着した。AFPでは密航ネットワークに対する徹底調査のため、ハサンさんをはじめとする数十人のロヒンギャ難民や密航に関わった漁師、警察、役人、共同体の指導者や援助活動家らを取材した。  

 

調査で明らかになったのは、高度化され進化し続ける数百万ドル(数億円)規模の密航ビジネスの実態であり、そこで同じロヒンギャの共同体の一員が重要な役割を担っていることだ。  

 

さらにこうした密航ネットワークには、1000人を乗せることができるタイ船籍の複数の漁船と衛星電話、小型補給船の小船団、そしてバングラデシュの難民キャンプをはじめとする東南アジア各地の腐敗した役人らも不可欠となっている。  

 

インドネシアを拠点とする難民の権利擁護団体「Geutanyoe財団」の共同創設者イスカンダル・デワンタラ氏は、「これは人道を隠れみのにした一大ビジネスです」と訴える。 

 

■新婦  

仏教徒が多数派を占めるミャンマーでは、イスラム教徒であるロヒンギャは市民として認められず、何十年にもわたって迫害に耐えてきた。そうした中、陸海路での国外への密航ルートは以前から存在していた。  

 

ロヒンギャが主に目指すのは、比較的裕福なイスラム教国マレーシアだ。現在、10万人以上のロヒンギャが難民として登録され、マレーシア社会の底辺で生きているが、仕事をすることは許されていない。そのためロヒンギャの男性らは仕方なく違法の建設現場や低賃金の職に就いている。  

 

(中略)権利擁護団体や女性の体験者らによると、密航の需要に拍車をかけているのは、マレーシアにいるロヒンギャ男性だ。彼らは密航業者に金を支払って、自らの家族やあっせんで結婚した新婦を呼び寄せようとする。  

 

マレーシア当局は頻繁(ひんぱん)に船を追い返している。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を恐れて、ますます難民の受け入れを拒否している。だがAFPの集計によると、今年は3隻の船で500人近いロヒンギャがマレーシアに到着した。  

 

6月以降、インドネシア北部にも過去5年間で最多のロヒンギャ約400人が上陸している。全員、目的地は隣国マレーシアだ。  

 

一方、洋上で暴力や飢え、脱水症状などで死亡したとみられるロヒンギャは数百人に上るとみられる。バングラデシュに戻った船もある。  

 

インドネシアに到着した船に乗っていたロヒンギャの多くは女性だった。その一人、ジャヌーさん(18)はインドネシア・アチェ州沿岸の町、ロクスマウェの仮設キャンプでAFPの取材に応じた。  

 

ジャヌーさんは家族の仲介によって、マレーシアにいるロヒンギャ男性の労働者と結婚すると明かした。「キャンプで2年間待ちましたが、危険を冒したかいがありました」とジャヌーさん。何人も成し遂げた例があるように、自分もマレーシアへ行く方法を見つけられるかもしれないと語った。 

 

■脱出  

バングラデシュの難民キャンプ脱出は、2000ドル(約20万円)相当の前金の支払いで始まる。支払いはマレーシアにいる夫や親類が、携帯電話からネットバンキングのアプリを使って行うことが多い。前金を払うと難民本人に電話がかかってくるが、通常は知らない人物からだ。  

 

マレーシアにいるロヒンギャ男性と、ビデオチャットアプリを通じて結婚したジュレカ・ベグムさん(20)は、「数日後に電話がかかってきて、男性にキャンプの中央食品市場にある三輪タクシー乗り場に行くよう指示されました」と語った。  

 

密航業者に雇われた三輪タクシーの運転手らは難民を連れて、有刺鉄線が張り巡らされたいくつかの検問所を通る。治安部隊は通常、賄賂を受け取り、通行を許す。  

 

AFP記者が海岸沿いに確認した数か所の出発地点までは、三輪タクシーで数時間かかる。そうした港からは夜になると数千隻の漁船が漁に出る。  

 

ロヒンギャの人々は定員10人余りの小型船がいっぱいになるのを待ってから、はるか沖合の大型船に連れて行かれる。時に1000人の収容が可能な2階建ての大型船のこともある。ひとたびマレーシアに向かい始めると、小型船が定期的に食料や水を運んで来る。  

 

AFPが取材したロヒンギャの人々は、約4000キロ離れたマレーシアに到着するのは、1週間後だと言われたと語った。だが実際には、首尾よくいっても数か月かかる。  

 

インドネシアに到着した難民らの話によると、船上では暴力や虐待があり、食料の配給は飢えるほど少なく、船上の難民を人質にとって親類からさらに金を脅し取る行為もあった。つまりは身代金を要求する脅迫で、親類が追加で支払った何人かは最終目的地に向かう小さな船に移されたという。  

 

9月に上陸したアスモット・ウラーさん(21)は、密航業者らは「親類が払わなかったり、それ以上払えなかったりすると、いつも船の上の難民を殴っていました」と語った。  

 

モハンマド・ニザームさん(25)は金がないために、マレーシア行きの小型船に乗せられはしなかったという。「彼ら(密航業者)は前もって合意していた金額から、さらに多く要求してきました。けれど私の両親は払えなかったのです」とニザームさん。「余分に払えば、マレーシアに(真っすぐ)行かせてもらえるのです」  

 

当局によると、定員1000人の船1隻で、密航業者は最大300万ドル(約3億円)を稼げるという。(中略)

 

■同情心と欲  

バングラデシュの難民キャンプ内でロヒンギャを密航ネットワークへの関与に駆り立てているのは、同情心と絶望感、そして欲が混じり合った複雑な感情のようだ。このネットワークはまた薬物の違法取引ともつながっている。 

 

この地域は東南アジアで人気がある「ヤーバー」と呼ばれる安価なメタンフェタミンの中心的な生産地として知られている。(中略)

 

だがバングラデシュのコックスバザールで密航に関与する他のロヒンギャは、自分たちは道徳的義務からやっていると語った。  

 

三輪タクシーで検問所を通り、小型船に乗せるまでを受け持っているモハンマド・タヘルさん(34)は、「これは共同体の福祉活動であって、犯罪ではありません」と語った。「この地獄から出たいと願う人がいれば、良識ある兄弟として、出口を示してあげるのが自分の義務だと思っています」(後略) 【2020年12月26日 AFP】

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