(2020年10月20日、中越国境の友誼間に中国人労働者900人以上が押し寄せた【2020年10月23日 大紀元】)
【世界中に存在する分離壁】
国境の壁建設ということでは、不法移民防止のためトランプ前大統領が進めたメキシコ国境沿いの壁建設がありますが、バイデン新政権は就任と同時にこのトランプ政策を象徴する計画を停止しました。
****バイデン米大統領、トランプ氏の移民規制を解除-国境の壁建設も停止****
バイデン米大統領は就任初日にトランプ前大統領の移民政策の巻き戻しに着手した。トランプ氏が導入し、物議を醸した措置の解除を積極的に進め、米国の新たな道筋を指し示す取り組みの一環となる。
大統領はまた、トランプ氏が推進したメキシコ国境の壁建設を停止するよう命じる布告を出した。
バイデン氏は大統領として初めて行う職務の1つとして、イスラム教徒が多数を占める一部諸国からの渡航・移民規制を解除する大統領布告に署名した。(中略)
さらに、トランプ前政権が活用した他の厳しい審査慣行の見直しを指示する一方で、旅行者のスクリーニング強化に向け外国政府との情報共有の拡充も命じた。
バイデン大統領は米国内の約1100万人の不法移民に米市民権獲得の道筋を開く移民法案を提示している。ホワイトハウスのサキ報道官は20日、大統領が既に法案テキストを議会に送付したと明らかにした。
同法案は、合法・違法を問わず移民の制限に取り組んできたトランプ前政権と著しい対照をなす。【1月21日Bloomberg】
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壁建設は移民政策の一部ですが、1月18日ブログ“中米ホンジュラスからアメリカを目指す移民キャラバン”でも取り上げたような難しい現実に直面しています。
ただ、「壁」でシャットアウトし、「壁」の外の世界には関知しないといったことで解決する話でもありませんので、全体的な方針としては、「壁」によって分断を力で固定化させる方向ではない対応策を探る方針は妥当と考えます。
一方で、「壁」は世界中に存在し、現在も増え続けているのが現実です。
****分離壁****
現存する分離壁の例としては、ベルファストの平和の壁、ホムスの分離壁、ヨルダン川西岸地区の分離壁、サンパウロの分離壁、南北キプロスのグリーンライン、ギリシャ・トルコ国境、メキシコ・アメリカ国境などが挙げられる。
またJulia Sonnevendは、2016年の著書Stories Without Borders: The Berlin Wall and the Making of a Global Iconic Eventの中で、シャルム・エル・シェイクの壁(エジプト)、リンバン国境(ブルネイ)、カザフスタン・ウズベキスタン国境壁、インド・バングラデシュ国境フェンス、アメリカ・メキシコ国境分離壁、サウジアラビア・イラク国境フェンス、ハンガリー・セルビア国境フェンスを挙げている。
また過去に存在し現存しない分離壁としては、ベルリンの壁、マジノ線、エルサレム地区壁が有名である。【ウィキペディア】
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【中国・ミャンマー国境の壁「南部の万里の長城」】
壁建設では「一日の長」と言うか、2000年、3000年の長があるのが、万里の長城を築いた中国。
あながち冗談でもなく、万里の長城みたいな歴史を「誇るべき歴史遺産」として有していれば、現代においても壁建設に対する抵抗感は少なく、むしろ正当化する方向にもなるでしょう。
最近目にした記事では、ミャンマー国境の「壁」
****中国、ミャンマー国境に有刺鉄線の「壁」建設中 既に3分の1が完成****
中国はミャンマーとの国境に2100キロに及ぶ有刺鉄線の「壁」を築いているようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が12月半ば、中国南部の雲南省で撮影された有刺鉄線のフェンスの写真を報じた。(中略)
中国の報道ではフェンスの建設は違法越境と新型コロナの感染防止とされているが、中国国内の反体制派の国外逃亡を防ぐ目的かもしれない。
雲南省に隣接するミャンマー側の国境地帯から配信されたとみられるツイッターの投稿によれば、フェンスは「南部の万里の長城」と命名され、2022年10月までの完成を目指し現時点で約660キロが完成したという。
RFAは、フェンスは中国の労働者がミャンマーに流出するのを防ぐためとする識者の見解を報じた。2020年10月には、同じ理由で中国がベトナムとの国境に「壁」を築く様子も報じられている。【2020年12月21日 Newsweek】
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高いところで約3メートルあり、有刺鉄線も付いているとか。
“中国国内の反体制派の国外逃亡を防ぐ目的”“中国の労働者がミャンマーに流出するのを防ぐため”以外にも、“両国の国境地域では違法薬物を含む密貿易が常態化しており、中国が対策に本腰を入れたとの見方もできる。”【1月14日 産経】といった指摘も
設置に際し、事前にミャンマー側に通告はなかったとのことで、ミャンマー側は反発しています。
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両国は1961年の協定で、双方の摩擦を回避する目的などから国境から10メートル以内に構造物を設けることを禁じている。
一方的に国境線を設定される可能性もあることから、ミャンマー政府は「恒久的なフェンスは認められない」などと反発している。ミャンマー外交筋によると、両国は月内に協議の場を設けるという。
両国関係は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた資本投下で緊密化しており、双方を鉄道や高速道路で結ぶ「中国・ミャンマー経済回廊」構想が計画されている。イラワジは、フェンス設置による関係の悪化が「中国の拡張計画にも影響を与えることになるだろう」と分析している。【上記産経】
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ミャンマーのクーデター、軍事政権成立で、また事情が変わってくるのかも。
【かつては緩かった中国・ベトナム国境管理】
前出【Newsweek】記事最後にあるように、中国はベトナム国境でも壁を建設しています。
中国とベトナムの国境に関しては、2018年7月に国境にかかるアジア第一の滝「徳天瀑布」を中国側から観光した際に、実際の様子を目にしたこともあります。
上記写真は滝に至る遊歩道の様子。
“中国 貴州・広西2018 水迸り、大地起つ・・・・(12)中国・ベトナム国境にかかる壮大な「徳天瀑布」”
川の対岸はベトナム領ですが、川沿いの中国側遊歩道には、ベトナム側から船で中国側にやってきて商売をする人々が大勢。おそらく柵を乗り越えると不法侵入で問題になりますので、柵の外から営業しているのでしょう。
商品には酒・タバコや、ベトナム側の土産物みたいなものもが多かったような。
ネット情報によれば、ベトナム側の村に行ける道もあるようですが、(密入国ですから)トラブルになると困りますので行っていません。
宿泊したホテルも国境沿いにあって、ホテル近くの高台からベトナム側見渡せます。
“中国 貴州・広西2018 水迸り、大地起つ・・・・(13)のどかな「明仕田園」とローカルフード”
川向うがベトナム領で、建物は入国管理事務所的なもののようです。
赤い鳥居のようなものが国境ゲート(往来を遮るものはありませんが)
眺めている間にも、往来する人が。
中国・ベトナム双方の地元住民なら、国境線から一定の距離以内であれば自由に出入りできるとも聞きましたが、正確なところは知りません。
全体の印象としては、国境管理は“緩い”というイメージでした。
そうしたベトナムとの国境に壁が建設されています。
【逆転した人の流れ 今では中国からベトナムへ】
中国国境沿いの労働者の流れと言うと、「世界の工場」たる中国側への流入を想像しますが、現状は逆のようです。
壁は、中国からベトナムへの「密出国」を防止するためのものとか。
****ベトナムへの「密出国」防ぎたい中国、国境に壁建設****
中国のベトナムいじめが始まったらしい。
2020年、ベトナムはGDP成長率で東アジア・太平洋地域の中で最高の2.8%に達し、中国のGDP成長率2.3%を抜いて、世界最高水準のプラス成長になった。それに伴い、中国とベトナムの間では、新たな軋み音が漏れ聞こえてきた。
中国政府が、ベトナムとの国境に、コンクリートと鉄筋で出来た高さ2メートルの「壁」を、数百キロメートルにわたって建設しているという。
ベトナム国境の税関に押し寄せた中国人技術者たち
中国が「壁」を築いた場所は、中国南部の広西チワン族自治区とベトナム北部アンニン省の国境都市モンカイを結ぶ、通称「友誼関」(友情の関所)と呼ばれている小さな国境税関だ。
国境とはいえ、川ひとつ隔てただけの山岳道路なので、地元住民たちは簡単な手続きをするだけで、三日間の通行証を発行してもらえるし、ときには顔パスで、行商人が徒歩で行き来していたのだが、そこに突然、「壁」を作って厳重な通行規制を敷いたことで騒動になった。
独立系経済メディアの「財新」によると、2020年10月20日、「友誼関」に900人の中国人技術者が押し寄せた。彼らはベトナムに移転した中国企業と台湾企業に採用された証明書を持っていたため、混乱の後にようやくベトナム入国を許可された。
彼らの就職先は、ベトナムに移転した深圳の「立迅精密」に400人、南寧の「富桂精密(富士康)」に205人、「ベトナム電池科学技術」に85人、中国資本の「德利(越南)」に27人等。こうした企業の多くがベトナムで工場を建設して間もない時期だから、「技術者」というより、むしろ部品の組み立て作業を担う熟練労働者たちだったのではないか。
しかし、突然の通行規制を知らなかった広西省の行商人の中には、通行証の不備などで通行を許可されず、「友誼関」周辺の路上にビニールシートを敷いて寝泊まりする者も多数にのぼった。「おかげで、ビニールシートの値段が千元に跳ね上がった」という。
中国とベトナムは建前の上では、今も社会主義体制の兄弟国家だ。日頃から、ベトナムは中国との外交に細心の注意を払い、少しでもトラブルがあると、即座に解決するため頻繁に対話を心がけてきた。それなのに、中国はなぜ「友誼」(友情)に背くような「壁」を建設したのだろうか。
激増する中国の対ベトナム投資
ひとつには、ベトナムが中国の推し進める国家戦略「一帯一路」計画に対して、口では賛成しながら、実際には消極的であることだ。
東南アジアの国々の中で、これまで中国の資金援助を受けていない唯一の国であり、中国が二国間協定を結ぼうと提案しても、ベトナムはなかなか応じようとしない国なのだ。
今年に入って、中国が海上警備を担う海警局に武器使用を認める「海警法」を新たに制定すると、ベトナム外務省は1月31日、いち早く声明を発表して、「緊張を高める行動を自制するべきだ」と、中国を諫めた。
ベトナムは、スプラトリー諸島(中国名、西沙群島)の領有権を巡って長年中国と対立し、ベトナム漁船がたびたび中国海警局の艦船に拿捕されたり、威嚇されたりしている現状を踏まえた声明だった。
中国にしてみれば、ベトナムは言うことを聞かず、まことに扱いにくい国だと考えたとしても、不思議はないだろう。
さらに、ここ数年、米中経済戦争のあおりを受けて、各国が中国からベトナムへ投資先を転換させている中で、とりわけ中国からの投資が急拡大した。
2019年、中国の対ベトナム投資額は174%増加し、なかでも新規投資額は前年同期比で411.1%も増加した。ベトナムの安い労働賃金を求めて移転してくる中国企業は後を絶たない。その結果として、ベトナムでは労働力不足が深刻になった。
その一方、中国では、コロナウイルスの感染拡大で中国国内の企業が倒産し、失業した労働者たちが急増。彼らは合法違法を問わず、活況を呈する地続きのベトナムへ職を求めて続々とやってくるようになった。
ベトナムに移転した中国企業の中には、「(密入国でも)自力でたどり着いたら、採用してやる」と口約束する企業もあり、とくに高度な技術をもつ人材は引っ張りだこだとされる。
中国政府は、「壁」を建設した目的を、コロナウイルスの感染拡大を防止するためだとして、現代版「万里の長城」だと自画自賛しているが、実際のところ、中国から密出国する中国人を食い止めることが目的なのは明らかだ。
ほんの数年で逆転した「密出国」の流れ
ベトナムと中国の国境線は1400キロメートル以上あり、険しい山岳地帯の国境線はこれまで曖昧なままだった。かつてはアヘン栽培の「ゴールデン・トライアングル」として広く知られ、麻薬取引、誘拐、売春、人身売買、出稼ぎ者の密出国などを手がける闇組織が支配する「無法地帯」だった。
彼らが手配する密出国は、主としてベトナムから中国へ向けて行われていた。
(中略)闇組織は、こうした出稼ぎ者や売春目的の人身売買の販路として、ベトナムから広西省東興市を経て、広東省の東莞市、中山市、佛山市などの地方都市を結び、さらには香港、マカオに至る闇ルートを形成していたとされる。
「壁」で人の流れを果たして断ち切れるのか
ところで、人は、往々にして経済成長に向かって流れるのが、世の常である。
ひと昔前には、ベトナムから経済繁栄した中国へ向かっていた出稼ぎ労働者の流れは、今や経済成長著しいベトナムへ向かって、中国から出稼ぎ労働者が流れている。まさに人の流れの「逆転現象」が起こっているのである。
中国が築いた「壁」ひとつで、この流れを断ち切るのは、かなり難しそうだ。
だが、今後、ベトナムの労働力不足がさらに深刻化し、工場生産に支障をきたせば、ベトナム経済が頭打ちになることは目に見えている。
「壁」の建設は、言うことを聞かないベトナムに対して、中国が「からめ手」で脅かすために思いついた具体的な方法だろう。
ひょっとして、昔から「万里の長城」はただのコケ脅しで、無用の長物だと言われ続けてきたことを、もう忘れてしまったのか。【2月11日 譚 璐美氏 JB Press】
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ちなみに、下記記事にある国境都市モンカイは沿岸部で、私が観光した内陸部「徳天瀑布」とは直線距離で180kmぐらい離れています。
“コンクリートと鉄筋で出来た高さ2メートルの「壁」を、数百キロメートルにわたって建設している”ということであれば、ひょっとしたら「徳天瀑布」周辺も変化しているのかも・・・・。