(ヤンゴンで18日、警官隊の前でアウンサンスーチー氏の肖像を掲げる抗議デモの参加者=AP【2月23日 朝日】)
【国軍 「命を失う可能性がある」と警告 難しい抗議行動】
ミャンマーの国軍によるクーデターに対して、連日抗議行動が行われていること、22日にはゼネストが呼びかけられたことは報道のとおり。
(なお、国軍は、今回の動きは憲法に規定された緊急時の「権力移譲」であり、「クーデター」ではないとしており、国内メディアに対しても「クーデター」という表現を禁止しています。【2月23日 産経】)
****ミャンマーで最大デモ=弾圧に反発、ゼネスト決行****
国軍によるクーデターに対する抗議行動が続くミャンマーで22日、大規模なデモが行われた。インターネット交流サイト(SNS)を通じてゼネストが呼び掛けられ、スーパーなど多くの小売店が休業。治安部隊の発砲によるとみられる死傷者が相次ぐ事態に反発が強まる中、公務員や労働者も加わり、1日のクーデター後、最大のデモとなった。
地元メディアは、デモは数百万人規模との見方を伝えている。最大都市ヤンゴンでは、デモ隊が拘束されているアウン・サン・スー・チー氏の肖像や「(クーデターを主導した国軍の)ミン・アウン・フライン(総司令官)を決して受け入れない」と書かれたプラカードを掲げ、抗議の声を上げた。
マイクを握った女性教師は「恐れているのは職を失うことではない。国軍の独裁者によってねじ曲げられた歴史教育を強いられ、自尊心を失うことだ」と演説。衝突に備え、ヘルメットをかぶって参加した会社員の男性(28)は「撃たれるかもしれないと思うと怖い。それでも未来のために抗議する」と話した。【2月22日 時事】
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国民の抗議行動に対し、国軍は「命を失う可能性がある」と警告しています。
****ミャンマー全土で大規模デモ、軍は「命の危機」を警告****
クーデターによって国軍が権力を握ったミャンマーの各地で22日、大規模なデモが行われた。軍はデモ隊が治安部隊と対峙(たいじ)した場合には命を失う可能性があると警告していた。
ミャンマーでは2月1日の軍によるクーデター後、抗議デモが発生。20日には第2の都市マンダレーで警察がデモ隊に発砲し、少なくとも2人が死亡していた。こうした状況を受けて、活動家が歴史的なストライキを呼び掛けていた。
ミャンマーにいる写真家やSNSの画像によれば、22日には最大都市ヤンゴンやマンダレー、首都ネピドーなど全土で数万人がデモに参加した。
軍は21日夕、デモ隊に対して殺傷力の高い武器を使用する可能性を示唆していた。
最高意思決定機関の「連邦行政評議会」は21日夕、地元メディアを通じ、デモ参加者が特に若者について命を失うかもしれない対立の道へと駆り立てていると述べた。
21日夜から22日午前にかけてSNSに投稿された動画には、ヤンゴンでは一部の大使館へと続く道が有刺鉄線で封鎖されている様子が捉えられている。動画にはまた、警察や軍のものとみられる車両が市内を移動する様子が映っている。
デモ参加者は、2021年2月22日の日付にちなんだ「22222」ストライキで、全ての事業所や店舗に閉鎖を呼び掛け、すべての市民に参加を促した。【2月24日 CNN】
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ミャンマーでは、1988年3月から9月まで全土で大規模な民主化デモが起き、陸軍や治安部隊の弾圧で数千人が死亡した「歴史」があり、今回の軍の姿勢を単なる「脅し」と見ることはできません。
こうした国民に銃口を向けることをためらわない権力に相手にしたとき、国民の抗議活動は著しく制約されること、そして「平和的な抗議行動」というのが、たとえそれが何百万人規模であったとしても、どれほどの変化をもたらすものか疑問に思えることは、残念ながら現実の問題です。
【インドネシアの現実対応的な選挙実施案 結果的には国軍のクーデター容認にも 公正選挙の保証もなし】
国際的にも批判が高まり、アメリカ、イギリス、カナダが国軍の幹部に対し、資産凍結などの制裁を科すと発表しており、EUもこれに続く動きを見せています。
“EU、最後の手段でミャンマーに制裁も=ドイツ外相”【2月22日 ロイター】
ただ、2月18日ブログ“ミャンマー 国軍への抗議行動続く 蘇る「虐殺」の記憶 中国はどこまで国軍を支えるのか?”でも触れたように、中国の国軍支援という抜け道がある限り、こうした国際圧力にも限界があるように思えます。
アメリカ・欧州などは「制裁」という原則的対応、強硬な手段をためらいませんが、歴史的にも、経済的にも関係が深く、中国の影響力拡大を懸念する日本としては、一方的制裁ではなく仲介的役割を・・・といった議論も多々あります。しかし、それが結果的に軍政擁護につながることにもなりかねず、対応は容易ではありません。
日本以上に対応が難しいのが、ミャンマーを同じグループメンバーとするASEAN諸国でしょう。
公式のASEANの会議にミャンマーで実権を掌握している軍関係者の出席を認めることも、クーデターを容認したことにもなりますので、難しい話です。
さりとて、話をしないと事態も改善しないということで、水面下での接触も模索されているようです。
また、ASEAN内部で、国軍に対する「温度差」があるのも現実でしょう。そこをASEANとしてまとめていくことも必要になります。
本来なら、加盟国の民主化後退に対し、強い批判もあってしかるべきところですが、なかなかそうならないところがASEANのASEANたる所以でもあります。
****インドネシア、ミャンマー情勢で行動計画、ASEANに同調求める****
インドネシアがミャンマーの混乱を収拾するための行動計画を策定し、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に同調を求めていることが明らかになった。
関係筋によると、同計画はクーデターにより同国の実権を握っている国軍に新たな選挙実施の確約を求めるとともに、公平で幅広い参加が保証されるよう監視団を組成することなどを柱としている。
インドネシア政府高官はロイターに対し、行動計画は流血の事態を防ぎ、選挙を実施して勝者に政権を譲るという約束を軍事政権に守らせるための外交的な解決策であると指摘。同高官によると、計画では軍政とクーデターに反対する勢力の対話をASEANが仲介するよう求めている。
実権掌握後、ミャンマー国軍は再選挙の実施を約束しているが、その時期は明言していない。
同国内の抗議活動参加者や西側諸国は国軍側にアウン・サン・スー・チー国家顧問を直ちに解放し、昨年11月8日の選挙結果を認めるよう求めている。インドネシアによる行動計画はこうした要求を満たす内容にはなっていない。
インドネシア外務省の報道官は「(ルトノ外相が)ASEAN諸国の外相との協議から戻ったら発表があるだろう」と述べ、それ以上のコメントは控えた。
同行動計画について、インドネシア政府高官は複数のASEAN加盟国から強い支持を得ているとする一方、外交努力は簡単なものではないと指摘している。
別のインドネシア高官2人とある外交筋は、複数のASEAN加盟国とインド太平洋地域の国が「裏のルート」を通じてミャンマー軍政の一部と協議し、譲歩を促すとともに、さらなる流血を防ぐよう求めているとしている。
同高官らはミャンマーにASEAN特別首脳会議への参加を促すのは難しいと指摘。ミャンマーは同首脳会議でクーデターが議題になることを避けたいとみられ、譲歩案としてジャカルタのASEAN事務局で議題を明示しない首脳会議を提案することが考えられるという。【2月22日 ロイター】
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国軍が一応公言している選挙を、確実に、公正に実施させることで早期の「民政復帰」を促す・・・・確かに「現実的落としどころ」ではあるように思えますが、今回のクーデターを容認することにもなりますので、多くのミャンマー国民など国軍を批判する立場からは受け入れがたいものでしょう。
更に言えば、スー・チーの自由な選挙活動、与党NLDが「普通に」参加できる選挙を国軍が認めるはずもなく、インドネシアの提案は極めて形式的・建前的な対応にもなり、ますますミャンマー国民が求めるものから遠ざかり、限りなく国軍容認的なものにもなります。
****インドネシア外相が25日にミャンマー訪問予定、抗議の声も****
インドネシアのルトノ・マルスディ外相が25日にミャンマーを訪問予定であることが、ロイターが入手した政府文書で分かった。1日の軍事クーデター以来、外国の高官が同国を訪れるのは初めて。
23日付の交通省の文書によると、ルトノ外相は25日午前中に首都ネピドーに航空機で到着し、数時間後に出国する予定。当局者はこの文書が本物だと認めた。
ルトノ氏はミャンマー情勢に関する特別会議の開催を東南アジア諸国に呼び掛けている。関係筋によると、インドネシア政府はクーデターにより同国の実権を握っている国軍に新たな選挙実施の確約を求めるとともに、選挙で公平かつ幅広い参加が保証されるよう東南アジア諸国から監視団を派遣することを提案している。
だが、アウン・サン・スー・チー国家顧問の即時解放と昨年11月の選挙結果を認めるよう求めるミャンマー市民らはインドネシアの提案に反発。23日にはヤンゴンにあるインドネシア大使館の外に数百人が集まり、提案への抗議を表明した。
ミャンマーを拠点とする活動団体The Future Nation Allianceは、インドネシア外相の訪問は「軍事政権の承認に等しい」と指摘。「軍事政権との正式な意見交換のために高官を派遣するインドネシア政府に強く抗議し、非難する」と表明した。
インドネシア外務省報道官は、ルトノ氏は現在タイにいて、今後に他の国も訪れる可能性があると述べたが、具体的な国名は挙げなかった。【2月23日 ロイター】
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新たな選挙実施案という実質的に国軍の行動を容認する結果ともなるインドネシア対応には、ミャンマー・ヤンゴンにあるインドネシア大使館の前で数百人規模の抗議活動が行われる事態にも。
こうした批判を考慮したものか、インドネシア外相のミャンマー訪問は中止されました。
****インドネシア外相がミャンマー訪問見送り、現地デモ継続****
インドネシア外務省の報道官は24日、ルトノ外相がミャンマー訪問を見送ると発表した。外相は今月初めにミャンマーで起きた軍事クーデターを受け、国軍トップと会談する予定だった。
報道官は記者向けブリーフィングで「現状と東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国の意見を踏まえると、現在はミャンマー訪問に理想的な時期ではない」と説明した。(後略)【2月24日 ロイター】
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そもそも、軍事政権時代のミャンマーのASEAN加盟を認めるかどうかもいろいろ議論があったところで、1997年のASEAN加盟を半ば強引に推し進めたのが、当時の議長国だったインドネシア・スハルト政権でした。
以来、スー・チー氏を自宅軟禁したミャンマー軍事政権はASEANのなかにあっても問題の多い存在でしたが、ASEANの内政不干渉という原則のもとで容認されてきました。
その後の民主化で、ようやくメンバーとしての資格も整ったように思えたのですが、今回のクーデターで再びその扱いが難しくなりました。
もっとも、ASEANは体制の異なる国の集合体ですし、軍事クーデターもミャンマーだけでなく、タイなどでも起きていますし、これまでのような緩い組織として今後も行くのであれば、そうした問題は致命的なものとはならないのでしょう。
しかし、今後結びつきを強めてEUのような共同体に・・・ということであれば、内政不干渉で体制の違いに関与しないということでは済まされないでしょう。
【日本ネット民の冷たい反応も】
ちなみに、日本社会のミャンマー問題への反応は、非常に冷淡なものもありました。
****ミャンマー人に「帰国しろ」悲しんだ留学生は日本語で…****
世界中で非難の声が上がるミャンマー国軍によるクーデターとアウンサンスーチー氏の拘束。ところが、大阪在住のミャンマー人が抗議集会を開いたところ、ネットでは誹謗(ひぼう)中傷混じりの批判が起きた。
これに心を痛めた一人のミャンマー人女性が日本語でメッセージをつづると、今度は好意的な反響となってツイッターで拡散した。反発を応援へと変えてみせた、メッセージに込めた思いとは――。
「日本に迷惑かけるな。全員帰国しろ」「ミャンマーの問題なので自分たちで解決してください」
日本在住のミャンマー人が東京や大阪などで抗議集会を開いたことが報道されると、ツイッターでは日本人のユーザーからこんな批判が相次いだ。新型コロナウイルス感染への心配を理由に挙げる声もあったが、単なる誹謗中傷の投稿も少なくなかった。
抗議集会に参加したミャンマーからの留学生ウィンさん(22)はこうした反応に悲しんだ。というのも、自分もミャンマーにいる家族と一時、連絡が取れなくなるなど、祖国の緊迫感を身近に感じていたからだ。国軍がSNSの利用制限や集会の妨害に乗り出していた。
「日本で暮らすミャンマー人は不安でいっぱい。人数は多くはないけれど、自分の国のためにできることをしたい」。ウィンさんは、集会に参加したそんな思いを日本人に知って欲しかった。集会では参加者がマスクの着用や消毒を徹底しており、日本人の誤解も解いておきたかった。
ウィンさんは意を決し、手書きの日本語でメッセージをつづり、ツイッターに投稿した。
コロナ禍の中、多くの人が集まったことをわびた上で、「自分の国の平和と夢のために頑張って生きるためなのです。現在、ミャンマーで起きている事件は、もはや国内では解決できない問題となっています」と訴えた。
するとネットの「風向き」は変わった。「ミャンマーだけの問題じゃないよ。国は違うけど、同じ地球のなかま、平和をねがっているよ」「皆さんが申し訳なく思うことなんてひとつもありません」
好意的な反応が寄せられるようになり、投稿は3万5千の「いいね」を集め、1万4千以上リツイートされた。
子どものころ見た「暗黒の時代」
(中略)
ウィンさんはこの春から日本の大学に入り、ビジネスについて学ぶ予定だ。将来は父のように物づくりの会社を起こし、日本とミャンマーとの貿易にも貢献したいとの夢を描く。
だが、そんな矢先にクーデターが起きた。不安な思いを抱えながらも、日本人にこう呼びかける。「国軍が支配する国では正常なビジネスはできません。ミャンマーの若者は、夢へ向かう翼を奪われたような気持ちなんです。私たちミャンマー人だけの力ではどうにもならないんです。どうか『日本と関係ない』と考えず、ミャンマーの危機に関心を持ってください」【2月23日 朝日】
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