孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナに苦しむ「豊かな日本」の隠れた貧困 制度と現実運用のギャップも

2021-02-09 22:40:24 | 日本

(【2月9日 ロイター】政府備蓄米 新型コロナ禍で食事に困窮する者が増加 日本政府は備蓄米放出に踏み出したが・・・)

 

【新型コロナで急増する極貧層】

周知のように、新型コロナによって、貧困層はリモートなどの防御対策が難しい職種にについていること、居住環境の衛生上の問題などによって、健康上の被害を受けやすい立場にありますが、同時に、経済的にも失業や景気悪化の影響を被りやすい立場にあります。

 

****新型コロナで来年末までに1.5億人が極貧となる可能性=世銀****

世界銀行は7日、隔年リポート「貧困と繁栄の共有」を発表し、新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)により、2021年末までに1億5000万人が極度の貧困に陥る可能性があるとの見解を示した。そうなれば、過去3年以上にわたる貧困撲滅努力が無に帰すことになる。

リポートは、今年中に1日の生活費が1.90ドルを下回る極貧人口が8800万─1億1500万人増加すると推定。2021年には、その人口はさらに1億1100万から1億5000万人に膨れ上がる可能性があるとしている。

予想の通りになれば、今年極貧状態に陥る人口は世界全体の9.1─9.4%となり、2017年の9.2%とほぼ同水準となる。その場合、約20年間で初めて極貧率が上昇することになる。

2019年の極貧率は推定8.4%程度で、新型コロナウイルス感染拡大前には、2021年までに7.5%に低下すると予想されていた。

リポートは、迅速かつ持続的な政策が講じられなければ、2030年までに極貧率を3%に抑制する長期目標は達成不可能になるとみられるとした。

世銀のマルパス総裁は声明で、「新型コロナと世界的な景気後退(リセッション)により、世界人口の1.4%が極貧状態に陥る可能性がある」と指摘。「これは開発の進展と貧困撲滅における深刻な後退だ」と警告した。【2020年10月8日 ロイター】

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上記は昨年10月時点の記事ですが、その後のワクチン接種の開始などで、状況は好転したのでしょうか?

ワクチン自体が先進国間の争奪戦で、貧困層の多い途上国には十分に供給できない状況ですので、あまり期待はできないのかも。

 

【先進国・日本の相対的貧困層も更に困窮】

新興国途上国に多い絶対的貧困だけでなく、先進国にも存在する相対的貧困も新型コロナで状況は悪化しつつあります。

 

****先進国、コロナで広がる貧困****

(中略)

 ■世界の貧困人口、一転増加見通し 「最悪の場合、来年7.3億人」

貧困は新興国途上国だけの問題ではない。先進国でも格差が広がり、「相対的貧困」として問題になっている。

 

相対的貧困の状態にあたるのは、手取り収入を世帯人数で調整した等価可処分所得を高い順に並べた時に、中央の半分よりも低い額で暮らす人たちだ。困窮していることに気付かれず、支援が届きにくいことが多い。

 

「先進国クラブ」ともいわれる経済協力開発機構OECD、37カ国)の加盟国では、平均で11・7%(2016年)の人々が相対的貧困の状態にある。

 

厚生労働省によると、日本は平均よりも高い15・8%(18年)。シングルマザーなどひとり親世帯では48・2%に上っており、不安定な雇用にある人や女性など立場が弱い人ほど困窮している。

 

国際労働機関(ILO)は、新型コロナの影響で、今年の4~6月に世界で労働時間の17%(4億9500万人分のフルタイムの労働時間に相当)が失われたと推計。先進国を含む全ての地域で1~3割の減少となったとみる。

 

世界のフードバンク団体でつくるグローバル・フードバンキング・ネットワーク(本部・米国)が5月、世界44カ国にある47のフードバンク団体に実施した調査では、全団体で緊急支援の需要が増加しており、「91%以上増えた」と答えた団体が37%に上った。先進国でも英国やニュージーランドでは需要が8割以上増えていた。(中略)

 

貧困は飢餓につながるだけでなく、医療や教育を受けられない人が増えたり紛争のきっかけになったりもする。女性や立場の弱い人への影響が大きく、世代を超えて格差が固定化することも問題だ。

 

東京都立大の阿部彩教授(貧困・格差論)は「新型コロナの影響で先進国でも貧困率が上がることが危惧されている。日本では非正規雇用の人が雇い止めにあったり、労働時間が減らされたりして、賃金の差以上に格差が広がるだろう」と指摘する。

 

「コロナ禍で命を守るという言葉がよく使われるが、食料やライフラインは命を守ることそのものだ。緊急時のために、まずは平時のセーフティーネットを強化しなくてはいけない」【2020年10月18日 朝日】

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【日本の「見えにくい」貧困 権利を行使しづらい「非常に日本的な仕組み」も 直撃するコロナ禍】

日本は従前から、経済的格差が比較的小さい平等社会だと言われています。そのことは、日本が世界に誇るべき優れた点でしょう。

 

中国メディアも日本社会のそうした特性をしばしば指摘しています。

“どうして日本は、世界が羨むほど貧富の差が小さいの?”【2月5日 Searchina】が取り上げている中国ポータルサイト・百度の記事は、その背景として、教育、医療制度、農村・農業対策、各種福利厚生制度などを取り上げています。

 

しかし、そうした日本にあっても非正規雇用の拡大、ワークングプアやシングルマザーの増加など、厳しい経済環境に置かれる者は増加しており、新型コロナはそうした経済弱者に更に大きな試練をもたらしています。

 

最も先端的な事象としては、昨年の自殺者の増加にも、そうした新型コロナ禍に襲われた貧困層の実態が反映していると思われます。

 

****コロナ禍で見えてきた「豊かな日本」の隠れた貧困*****

新型コロナウイルスの感染拡大のため貧困に陥る日本人が増えている。そんな人々が東京で開かれた支援イベントに集まり、食料品を受け取った。

 

「仕事がない。まったくない」。列の中にいた男性がAFPの取材に答えてくれた。「ゆういちろう」とだけ名乗り、最近まで建築作業の仕事をしていたという。寒い冬の首都の路上に立ち、握り締めた小さなビニール袋には生活必需品が詰まっていた。

 

「(日本は)表面的には助けているようにはなっているかもしれないですけど、本当に困っている人は駅とか段ボールで寝ていたり、(数は)多いです」と言う。「マスコミには報道されていないけれど、だいぶ餓死して大変なことになっています」

 

世界第3位の経済大国・日本では、新型コロナウイルスの感染拡大ペースはこれまでのところは比較的穏やかだ。死者数は(2月1日時点で)およそ5800人、他国で行われているような厳格なロックダウン(都市封鎖)は実施されてこなかった。失業率も3%以下で、社会のセーフティーネットが盤石という評判のある日本は、コロナ禍の経済面での影響を難なく乗り切ると見られている。

 

しかし民間支援団体は、経済的に最大の弱者の困窮は続いていると指摘する。統計からは、高い不完全雇用率や低賃金の非正規雇用者の苦難をくみ取るのが難しい。

 

「コロナの影響で失業した人や、収入が減った人が増えている」と語るのは、反貧困NPO「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長だ。「その中で、もともとぎりぎりでやっていた人、ワーキングプア(働く貧困層)の人が直撃されている」

 

就業者の40%前後が、低賃金で契約を簡単に解除できる「非正規」の仕事に就いている。しかし、生活保護を受ける資格がある人々の中には、福祉制度を利用することへの抵抗感や偏見に悩まされている人が多数いる。

 

ゆういちろうさんは、役所をたらい回しにされた揚げ句、援助の対象となるのは子どものいる人だけだと告げられたと話した。

「大人は結構、ご飯を食べられてない人がいっぱいいます」

 

■「綱渡りの綱がコロナで切れた」

日本では、200万円以下の年収で生活する人が1000万人を超え、6人に1人は「相対的貧困」に該当する。これは、所得が国内の等価可処分所得(手取り収入などを世帯人数で割って調整したもの)の中央値の半分(貧困線)に満たない状態のことで、国の一般的な生活水準と比較したときの困窮者人口の割合を示す指標だ。

 

経済学者によると、過去6か月で50万人が失業している。その波及効果が国内に広がっていると市民団体は指摘する。

 

NPO法人「TENOHASHI」は、東京の副都心・池袋でホームレスの人々などに食事や衣類、寝袋の他、医療援助を提供している。

 同NPOの清野賢司代表理事は、すでに困窮していた人々は綱渡りの状態にいたが、コロナ禍で「その綱が切れた」と言う。

 

経済的苦境は、昨年末にかけて見られた自殺数の増加の一因と思われると専門家らは警告している。

日本では失業率が1%上昇すると、年間の自殺者がおよそ3000人増える、とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は指摘する。

 

特に経済的困難に直面しているのが女性たちだ。多くの女性は、小売り・飲食・宿泊業など、コロナの打撃を受けている業界で非正規雇用で働いている。

 

清野氏のNPOが援助している人々のうち、女性の割合は20%以下だという。だが、援助を望みながら踏み出せずにいる女性はもっと大勢いるとみている。福祉を受けると「子どもが胸を張って生きられなくなる」と感じる女性もいると清野氏は述べた。

 

■「非常に日本的な仕組み」

統計によると、公的な援助を申請する人の数は増えている。しかし、サポートセンター「もやい」の大西理事長によると、「恥ずかしさやスティグマ(不名誉)の問題」で多くの人が福祉制度の利用をためらっている。

 

日本の規則では、公的援助を受ける前に、親族による扶養が優先して行われるべきとされている。そのため、福祉の利用を申請すると、本人の親族にその旨が伝えられる。

「非常に日本的な仕組み」だと大西氏は断言。誰にでも福祉を利用する法的権利があるのに、社会がそれを認めるとは限らないのだと続けた。

 

日本の貧困レベルが先進国を含む他の国と比べてはるかに低いのは、専門家も指摘するところだ。だが、その統計は、食料と避難所を必要とする個人にとっては何の意味も持たない。

 

池袋で援助を受けていたある男性は、建設現場で得る月給が2万円を切り、手元の現金はあと1回の家賃で消えると話した。「路上(生活)はさすがに。今は寒いと思います」と匿名条件で語った。「(これから)どうするか。まだ、ちょっとはっきりしないです」 【2月4日 AFP】

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上記にもあるように、日本の貧困は「見えにくい」という特徴があります。

 

****貧しさ、見せない、見ない日本 ロバート・キャンベルさん(日本文学研究者)****

(中略)米国は「持てる者」と「持たざる者」がはっきり分かれた社会です。ただ、所得で住む地域が違って、近くにお金持ちがいなかったので格差は感じませんでした。

 

一方で、日本の貧困の特徴は「見えない」ことだと思います。私は日本に来て35年ほどになります。留学した福岡から1990年代に東京に引っ越した頃、メディアは「十分に食べられない子どもがいる」と伝えているのに、そんな子がどこに暮らしているのかわからないと強く感じました。

 

お金がないことを知られると、子どもが学校でいじめられたり、就職で不利になったりするのではないか。そんな不安を感じさせる社会空間で、人々は貧しさを見せないし、あえて見ないようにもしているのでしょう。

 

この春から、コロナ禍で人々の視界が少しずつ狭くなっているように感じます。生活が安定した人たちはいいかもしれませんが、何かあったら立ちゆかなくなる人もいます。そんな人たちの声が届かなくなり、存在がさらに見えなくなってしまうのではないかと危惧しています。【2020年10月18日 朝日】

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【「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」】

「見えにくい」だけに、行政に当たる者は「耳を澄まし、目を凝らす」必要がありますが、現実はその逆。

明らかに見えている問題すら「あえて見ないようにもしている」ようにも。

 

****コロナ禍で「1日1食」、増える困窮者 備蓄米開放も不十分****

 新型コロナウイルス禍の長期化で収入が減り、その日の食事にも困る人が増えている。支援団体が無償提供する食事の利用者はこの1年で倍増、日本政府は備蓄米の開放に動き出した。

 

それでも行政の動きはまだ鈍く、食を巡るこの国のセーフティネット(安全網)のぜい弱さがコロナであぶり出された格好だ。

<食糧支援の利用者、1月は高止まり>
都内の大学に通う4年生のあゆみさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は昨年の夏以降、1日1食の生活を続けている。

 

弟や妹の学費がかかる実家の負担を減らそうと、約10万円の自身の生活費はもともと飲食店でアルバイトをして賄ってきた。しかし、このコロナ禍で外食需要は激減、勤務先は閉店した。清掃のアルバイトを見つけたものの、できる限り切り詰めて生活している。

「飲食業で生活を賄う友人も多く、収入減で生活ぎりぎりとなっている例も少なくない」と、あゆみさんは話す。

こうした状況を受け、日本最大のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」は、複数の大学で食事の無償提供を始めた。あゆみさんたちも、月に1回利用できるようになったという。

昨年初めにコロナの感染が拡大し始めてから、この1年で日本社会は様変わりした。コンサートやスポーツ競技など大型イベントは次々と中止に追い込まれ、飲食業や観光業は利用客が激減。

 

帝国データバンクによると、コロナに関連した倒産は1年間で1000件に達した。生活困窮者は以前から増えつつあったものの、コロナ禍で職を失ったり収入が減り、その日の食事にさえ困る家庭や人々が急増した。

東京の足立区では生活資金の相談に区役所を訪れる住民が増え、昨年末12月にはおよそ400件、前年比3割増の問い合わせが舞い込んだ。

 

生活保護の条件には当てはまらないまでも、生活に不安のある人々が相談に訪れているという。区内のハローワークでは飲食や旅行業界で働いていた求職者が増え、失業給付の申請件数は昨年秋に前年比約2割程度、11都府県に緊急事態宣言が再発令された今年1月には同3割程度それぞれ増加した。

セカンドハーベスト・ジャパンによると、個人向けの無償提供件数はコロナ前の2倍以上に増えた。昨春に増えた後、夏はいったん減少したが、昨年の秋以降は増加傾向となり、今年1月は高止まりしている。

政策提言担当マネジャーの芝田雄司氏は「昨年夏ごろまでは政府の特別定額給付金の効果もあったようだが、その後に生活資金が底をついた人たちが増えたと思われる」と話す。非正規就業者やひとり親世帯などに加えて、正社員も残業代がなくなり、4人家族で生活するために食費だけでも節約したいといった事情の人も訪れているという。

<備蓄米開放、1日分にも満たず>
政府も動いている。しかし、就労支援や給付金という制度はあっても、食事ができないというすぐ目の前にある危機に対処する正式な枠組みは、子ども向けとしては存在するが、成人向けにはない。

農林水産省は昨年5月、政府備蓄米の一部を無償提供し始めた。これまで食育用として学校給食向けには交付していたが、コロナ禍を受けて提供対象を広げた。

ところが、その量は1つの支援団体につき年間60キロ、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供するコメの1日分にも満たなかった。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる。

転売などを防ぐ必要があるとして、炊飯で提供する原則も維持したため、使い勝手が悪いとの批判が相次いだ。そこで今年2月、子どものいる低所得家庭に食材を届ける民間支援団体(こども宅食など)を対象に加え、新たに1団体につき年間300キロまで提供することにした。精米を供給することも可能になった。

ただし、こうした備蓄米提供の目的はあくまで「食育」。ごはん食の重要性を子どもに理解してもらうためであって、生活に苦しむ大人はこの安全網には引っかからない。

 

厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、いわゆる貧困層に当たる人々の割合は人口の15.4%を占めている。およそ1900万人に上るとみられ、直近の所得に当てはめると、日本人の平均可処分所得の半分である「貧困線」にも満たない年間127万円未満の所得しかない世帯だ。

セカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン最高経営責任者(CEO)は、「およそ2000万人弱が貧困線以下で生活している実態がある中で、備蓄米の放出を1団体年間300キロという量は侮辱行為だ」と、さらなる放出を求めている。「この国では備蓄米は相当な量だ」と主張する。

<不十分な食の安全網>
一方で、農水省は「備蓄米の交付条件の緩和は難しい」(穀物課)とする。備蓄米はもともと、不作に備えるための制度として作られた。十分に流通している中で備蓄米を大量に提供すると、市場に影響を与える恐れがあると説明する。また、今回の備蓄米提供は「食育」のためであり、貧困対策として実施しているものではないと話す。

困窮者対策を担う厚生労働省も、「現物支給という形での支援は行っていない」(社会・援護局)とする。あくまで地域の実情に応じた困窮者対策として、自治体単位で相談窓口の設置や就労サポートという形の後方支援にとどまる。

米国では、政府の低所得者向け食料補助対策として「フードスタンプ制度」がある。米農務省によると、20年末時点で全人口の1割以上に当たる3570万人程度が受給する。(中略)それでも、その日の食料に事欠く人たちの公的なセーフティネットとなっている。

日本には生活保護という最後の安全網はあるものの、その利用のハードルは高い。緊急避難的に「その日の食事」に困った場合の駆け込み寺は、もっぱらフードバンクやNGO(非政府組織)など民間任せとなっており、公的な「食の安全網」は十分とは言えない状況だ。

「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」と、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトンCEOは指摘する。【2月9日 ロイター】

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血が通った行政・政治にはほど遠い実態があります。

 

 

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