孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米中関係  中国は「競争相手」か、「敵対国」か? ゼロサムゲーム的な「覇権争い」か?

2021-02-25 23:29:02 | 国際情勢

((Dilok Klaisataporn/gettyimages)【2月15日 WEDGE Infinity】)

 

【「競争相手」と「敵対国」】

中国を「最も重大な競争相手」と呼び、共通の課題では協力を模索する「現実路線」を取りつつも、経済慣行、人権侵害、台湾問題なんどでは厳しい姿勢で臨むとする米バイデン大統領の対中国対応については、2月20日ブログ“アメリカ バイデン政権「America is back」 同盟関係重視で臨む「最も重大な競争相手」中国”でも取り上げました。

 

同時に、アメリカ国内には、北京五輪ボイコット論などに見られるように、これまで以上に中国に対する厳しい見方が増えていることも触れました。

 

そうした空気に共鳴するものでしょうか、CIA長官に指名されたバーンズ元国務副長官は、中国を「手ごわい独裁的な敵対国」と評しています。

 

*****「独裁的な敵対国」中国への対抗、米安全保障の鍵=CIA長官候補****

米中央情報局(CIA)長官に指名されたバーンズ元国務副長官(64)は24日、上院情報委員会の指名承認公聴会で、中国と競争し、中国の「敵対的で強奪的なリーダーシップ」に対抗することが米国の国家安全保障政策の鍵になると述べた。

バーンズ氏は、CIA長官に就任した際には「人々、パートナーシップ、中国、技術」の4分野が最優先課題になると説明した。

中国を「手ごわい独裁的な敵対国」と呼び、知的財産を盗み、国民を抑圧し、影響力を拡大し、米国でも影響力を強めているとした。

中国が米大学などを拠点に中国語の普及活動を行う「孔子学院」については、自分が大学の学長なら閉鎖するよう提言すると述べた。米議会では、孔子学院が中国政府の宣伝活動に使われているとの声が多い。

ロシア、北朝鮮、イランなどによる「身近な脅威」も続いていると指摘。気候変動や世界的な衛生上の問題、サイバー攻撃も大きなリスクだとした。ロシアに関しては、サイバー攻撃などの問題の判断をバイデン政権が行う計画だと説明した。

その上で、「敵対的で強奪的な中国のリーダーシップは、米国にとって最大の地政学的試練」だと強調した。

バーンズ氏は、民主・共和両政権下で国務省高官を務めた経験があり、議会の指名承認を問題なく得られる見通し。議会関係者によると、上院情報委員会は、今週後半か来週には指名承認の採決を行う予定。【2月25日 ロイター】

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バイデン大統領の言う「競争相手」と、バーンズ氏が使用した「敵対国」の間には明確な違いがあります。

 

****「中国は敵対国でも、敵国でもない」****

バイデン氏の外交演説に戻る。軍事外交専門家が注目しているのは、中国を「競争相手」(Competitor)と呼んでいる点だ。なぜ敵対者(Adversary)、敵(Enemy)ではないのか。

 

主要国の大使を務めたことのある元職業外交官K氏は筆者にこう指摘する。

 

「外交関連の文書、例えばスピーチには厳密な定義づけがある。これは同盟(Ally)、パートナー(Partner)などにも言える」

 

「Competitorとは、元々商売敵から来たものでライバル関係にある国同士のこと。これには敵対関係にある国同士のこともあるし、同盟関係にある国同士のこともある」「1980年代の日米は経済摩擦でComtetitorだった」

 

「これに対してAdversaryは、政治的、軍事的に意見が対立している国家同士で、相手を打ち負かしたいもの同士。ただ、妥協の余地も視野に入れている」

 

「Enemyは、極度の敵対関係、戦争寸前状態にある国同士で、武力御行使して相手を破壊、壊滅させたい関係だ」

 

「米国は『中国の脅威』を口にするが、バイデン氏もバイデン政権もまだ中国をAdversaryやEnemyとは見ていない」(後略)【2月20日 高濱 賛氏 「米国、2022年の北京冬季五輪をボイコットか」JB pressより】

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「競争相手」とは一定に平和的関係もあり得ますが、「敵対国」となると“打ち負かすべき相手”になります。

(バーンズ氏が実際にどういう言葉を使用したかは知りません)

 

【ゼロサムゲーム的な「覇権争い」の発想への批判も】

このバーンズ氏の発言には、中国側も反応しています。

 

****中国、米側に歩み寄り求める「ゼロサム思考捨てよ」****

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は25日の記者会見で、米中央情報局(CIA)長官に指名されたバーンズ元国務副長官が中国への対抗姿勢を鮮明にしたことに対し、「米国が、勝つか負けるかのゼロサム思考を捨て、客観的で理性的に中国や両国関係を取り扱うよう望む」と米側に歩み寄りを促した。

 

一方で、米中関係が悪化した原因については「米前政権が自身の政治的な必要性から、対中政策について甚だしく誤った判断を行い、各種の抑圧行為をとった」とトランプ前政権に責任を押し付けた。【2月25日 産経】

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中国側の「ゼロサム思考捨てよ」という主張は随所の出てくる以前からのものですが、たまたま今目についたものをあげれば、3年前の下記の言い分なども。

 

****米中の通商関係、ゼロサムゲームでない=中国外務省報道官****

トランプ米大統領が中国の知的財産権侵害を巡り、中国製品に制裁関税を課す可能性があるとのニュースについて、中国外務省の陸慷報道局長は14日、米中の通商関係は「ゼロサムゲーム」であるべきではないとの見解を示した。

 

同報道局長は定例記者会見で、中国は貿易に関する正当な権利を守るために強力な手段を取ると表明した。

 

関係筋によると、トランプ政権は中国製の情報技術(IT)や通信機器などに最大600億ドルの関税を課すことを検討している。

 

陸慷報道局長はまた、中国は米国務長官に指名されたポンペオ中央情報局(CIA)長官と両国間の問題に取り組むことを望むと述べた。【2018年3月14日 ロイター】

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「競争相手」か「敵対国」か

「ゼロサムゲームでない関係」か「打ち負かすべき相手」か あるいは「覇権を争う関係」か

 

****アメリカ混迷の根源。中国に「覇権」を奪われるという被害妄想の代償****

トランプ氏の大統領就任以来、中国に対する「敵愾心」を隠すことがなくなったアメリカ。その理由として中国の台頭が取り沙汰されますが、根本原因はもっと深いところにあるようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、なぜ米国社会の全てが中国を憎悪感情でしか捉えられなくなってしまったのか、その要因を考察しています。

 

米中はゼロサム関係ではない――米国はなぜ対中ヒステリーに走るのか

1月7日付毎日新聞で坂東賢治=専門編集委員が「米中はゼロサム関係か?」と題したコラムを書いていて、この設問の仕方は正しい。

 

設問それ自体に答えが含まれており、「米中対立激化で米政界やメディアには冷戦時代の米ソ関係のように中国の得点を米国の失点と見る『ゼロサム思考』が広がった。……〔が、この〕思考で米中どちらかの選択を迫るような手法は簡単には通用しまい」というのが結論である。

 

それはその通りだが、問題は、なぜ米国社会の上から下までが、中国を、ゼロか100か、敵か味方か、死ぬか生きるかといった極端な(思考と言うのも憚られる)激しい憎悪感情でしか捉えられなくなってしまったのかということで、それについてこのコラムは何も言及していない。

 

自分を見失ってしまった米国

私に言わせればその根本原因は、米国が、自らの衰弱を薄々は自覚しつつも、それを正面切っては認めたくないがゆえに、誰かが悪いというように他所に責任転嫁して束の間の安心を得ようとする、「対中ヒステリー」とも言うべき病的な集団心理に陥っていることにある。

 

このことは十分に予想されていたことである。今から16年前になるがINSIDERの2005年1月27日号は、以下の3つの文献(省略)を引用しつつ、「米国がなしうることは『唯一』も『超』も付かない、ただの『大国』の1つ(とは言っても最大の大国)になることを目指すことである」と指摘した。(中略)この課題設定が今尚できていないことが米国の混迷の根源である。(中略)

 

日本は、地域内でどのような地位と役割を得るかが大きな課題で、とりわけ台頭する中国と対抗的にバランスを取ろうとするのか、それとも中国の勢いに“乗り遅れまい”とするのかを選択しなければならないだろう……。

 

モラブチックが言うように、自らの「凋落に気付かず、偉大な国という夢想に取り憑かれ」「酔っ払いのような情緒不安定」に陥ってきた米国が、酔っ払いどころか「錯乱」したトランプを大統領に頂いたことでますます自分を見失い、悪いことのすべては中国のせいだと思い込むことで自分を慰めようとしてきたのがこの2年間ほどであった。

 

「冷戦終結」まで時計を戻さないと

米国のこの「対中ヒステリー」症状を直すには、時計を「冷戦終結」のところまで巻き戻さなければならない。(中略)

 

私がことあるごとに述べてきたとおり、冷戦の終わりとは、単にそれだけではなくて、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家と国家が重武装して武力で利害と領土を争い合うという野蛮な「国民国家」原理の終わりを意味していた。

 

国境に仕切られた「国民経済」を基礎として全国民を統合して国益を追求する近代主権国家=「国民国家」は、19世紀後半までに全欧州を覆い尽くしてきしみを立て始め、それが20世紀に入って2度にわたる世界規模の大量殺戮戦争となって爆発した。

 

最後はヒロシマ・ナガサキの悲劇にまで行き着いて、その熱戦のあまりに悲惨な結末に「もう熱戦はやめよう」ということにはなったものの、荒廃した欧州の西と東の辺境に出現した米国と旧ソ連という「国民国家」のお化けとも言うべき2大超大国は、地球を何十回も破壊してあり余るほどの核兵器を抱え込みながら、なお武力による国益追求という野蛮原理を捨てることが出来ずに冷戦を演じ続け、ついにその重みに耐えかねて「もう冷戦もやめよう」という合意に至ったのであった。

 

だから冷戦に勝ち負けなどあるはずもなく、米ソは共に、国家間戦争の時代は終わったのだという認識に立って、新しい協調的な国際秩序の原理を模索するのでなければならなかった。

 

ところが当時ブッシュ父が率いる米国は、冷戦終結を「米国の勝利」と錯覚し、旧ソ連が崩壊したことによって米国は“唯一超大国”になったという幻想に取り憑かれた。(中略)

 

冷戦が終わり、それと重なってウェストファリア条約以来の「国民国家」の時代が終わるということは、その「国民国家」のお化けとしての「超大国」による覇権システムもまた終わることになる。

 

米ソがそれぞれ核をはじめ軍事力を振りかざして君臨するというピラミッド型の国際秩序が崩れた廃墟から何が立ち現れるのかと言えば、熱戦と冷戦の合間に形作られてたちまち仮死状態に陥ってしまった国連の多国間協調主義のネットワーキング型組織論である。

 

ところが米国はそのように考えず、旧ソ連がそうしたように、自ら階段を降りて「超」の付かないただの「大国」になり下がることを拒絶した。

 

しかし、歴史はすでに超大国というものがなくなっていく新しい時代に入っているのだから、いくら“唯一超大国”として振る舞おうとしてもうまくいかず、ストレスに陥る。

 

それがブッシュの「単独行動主義」でありトランプの「米国第一主義」であるけれども、それは歴史の流れに逆行しているが故に、何の解決にもならない。

 

するとますます苛立ちが増して、中国が陰謀を企んで米国社会を混乱させ、それに乗じて“唯一超大国”の座を奪おうとしているのではないかという疑心暗鬼が募るのである。

 

覇権主義は、その本質においてすでに役目を終えていて、それは米国人の“唯一超大国”幻想や、日本人の日米同盟基軸にしがみつく“冷戦ノスタルジア”のような足のない幽霊としてしか存在していない。従って、中国が米国に代わって覇権国になるというのは取り越し苦労でしかない。

 

「多国間主義」の本当の意味

米国にも、日本の菅義偉首相を含む親米保守派の中にも、「多国間主義」を口にする人がいる。

 

しかし、これまで述べたような米国=“唯一超大国”幻想をきちんと清算しないままこの語を用いると、引き続き世界の中心である米国のバイデン政権が(トランプとは違って)同盟国との協調を重んじ、それらを糾合して中国の脅威に立ち向かうというような意味にすり替わってしまう。これでは、形を変えた冷戦型の敵対的同盟と何ら変わりがない。

 

そうではなくて、覇権なき多国間主義の時代とは、国際的などんな問題領域でも中国をルール作りに参加させない限り適正な解決策は生まれないと覚悟することなのである。(中略)

 

見落とされがちなのは、中国が世界の新しいルールを作りたい(少なくともルールの書き換えに参加したい)と考えていることだ。「中国はテーブルの上座に座ることを臨むようになった」と、ブルッキングス研究所中国研究センターの李成=上級研究員は言う。「グローバルな制度や組織の主要な設計者でありたいと考えている」。

 

IMFや世界銀行など既存の国際機関は、アメリカに率いられた一握りの国によってつくられた。このような国際機関の政策には、アメリカ的な価値観が色濃く反映されてきた。

 

中国の国際的な影響力がまだ小さかった頃は、中国の指導者は既存の制度に不満があっても我慢して受け入れてきた。……しかし中国が世界で力を増すにつれて……国際システムをもっと中国に有利なものにつくり替えることで、体制存続の可能性を高めようと考えるようになった。

 

皮肉なことに、アメリカ政府はしばしば、中国が国際社会の運営に十分に関わろうとしないと批判する。しかしほとんどの場合、中国は自国の意向を反映せずにつくられたシステムへの参加を求められている。そういうシステムは欧米に有利なようにできていると、中国は思っているのだ……。

 

「ニューズウィーク」誌(2010年3月31日号の特集「『中国ルール』が世界を支配する日」)のタイトルだけを見ると、中国が米国中心の戦後秩序を破壊して自分のルールを世界に押し付けようとしているのかと思えてしまうが、記事の中身を読むと、このように、世界第2から第1の経済大国となりつつある中国も国際ルールの変革に参加する権利があり、米国にとってもそれは認めて受け入れるのが当たり前だという特集の趣旨が理解できる。

 

その通りで、例えば同誌が挙げている例の1つは、米国主導で戦後作られた国際通貨基金(IMF)は、トップの専務理事は欧州人か米国人、それを支える副専務理事は長く欧州人、米国人、日本人の3人体制で来たが、2011年からこれに中国人を加えた4人体制に改まった。これは中国を組み込むことで既存の国際システムを発展させた好例と言える。(中略)

 

安倍・菅両政権はもちろん多国間主義の意味など理解していない。そのため、米国の誤った歴史認識に基づく嫌中感情の膨張に安易に同化して、TPPを反中国の材料にしようとしたり、中国の「一帯一路」構想に徒らに反発したり、「自由で開かれたインド太平洋」構想で中国を軍事的な包囲網に絡めとろうとしたりしていて、基本的に対中「ゼロサム思考」で突き進むようにも見えるが、そうかと言って中国を全面的に戦う覚悟もありそうにない。

 

この中途半端は、米国には背けないが中国ともそこそこうまくやっていきたいという中途半端な無戦略心理から来ているので、それを克服するには、まず米国発の対中ヒステリーの根本原因から考え直さなければならない。【1月13日 高野孟氏 MAG2NEWS】

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素人考えでも、互いに相手を打ち負かそうとした米ソ冷戦と、経済的に互いに相手を必要としているアメリカ・日本と中国の関係が、基本的なところで異なることはわかります。

 

さはさりながら、中国の民主主義や人権に対する考え方には価値観の違いがあり、隣国として拡張主義的傾向は看過できないということもあって・・・・どのように対応すべきかという話になります。

 

個人的には明確な「結論」は持ち合わせていませんが、上記のような指摘も踏まえながら考えていかねばならない・・・ということで。

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