孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

西アフリカ・ブルキナファソとマリに見る“抜け出すためにはトゲのある枝でもつかむしかない”現実

2022-10-01 22:38:07 | アフリカ
(10年続くイスラム過激派との戦闘でマリは、疲弊している。これまでに40万人が戦火で家を追われ、バマコの郊外にも、そうした人たちが身を寄せる避難民キャンプが出来ていた。人々は、ビニールシートや木材で、簡単な小屋を作って暮らしている。【7月11日 NHK】)

【ブルキナファソ 1月に続いて今年2回目のクーデター 理由はいずれも治安問題】
西アフリカ・ブルキナファソで1月に続いて、今年2回目の軍によるクーデターが報じられています。

****ブルキナ反乱兵、軍政指導者の解任発表*****
西アフリカ・ブルキナファソで9月30日、反乱兵グループが、軍事政権を率いるポールアンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐の解任を発表した。ダミバ中佐は今年1月のクーデターで政権を掌握していた。

15人前後の反乱兵は国営テレビで声明を読み上げ、同中佐の解任を発表。同日深夜からの国境閉鎖と憲法の停止、政府の解散を宣言し、新たな政権トップにイブラヒム・トラオレ大尉が就くとした。

同国政府はこれに先立ち、軍内で「内部危機」が生じていると認めていた。目撃者がAFPに語ったところによると、大統領府や軍事政権の本部周辺では銃声も聞かれた。 【10月1日 AFP】
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ブルキナファソ、隣国マリ、あるいはチャド、ナイジェリア、スーダンなど西アフリカ、サハラ砂漠南縁部に広がるサヘル諸国ではイスラム過激派の活動が活発で、これにいかに対応するかが喫緊の課題となっています。

今回追放されたダミバ氏も、1月のクーデターの際には理由として治安状況の悪化などを挙げていましたが、今回、トラオレ氏もクーデターの理由に、ダミバ政権が国内のイスラム過激派を抑え込めず治安が悪化していることなどを挙げています。

【人々がクーデターに「世直し」を託し、支持する風潮】
力による政権奪取「クーデター」という行為は、選挙による民主主義を最大に重視する日本や欧米的価値観からすれば「許されざる行為」と認識されますが、貧困・不正・イスラム過激派による治安悪化に苦しむ現地住民にとっては、また別の認識があります。

わずか3か月ほど以前の下記記事の「クーデター」とは、1月のダミバ氏によるクーデターのことです。

****民衆の喝采浴びる軍のクーデター、格差・汚職横行する西アフリカの「世直し」か****
(中略)クーデターとは「非合法的手段に訴えて政権を奪うこと」(広辞苑)だ。反クーデター派を武力で抑え込むため、ミャンマーをはじめ深刻な人権侵害や社会の不安定につながることが多い。ところが西アフリカでは様相が異なる。人々がクーデターに「世直し」を託し、支持する風潮があるのだ。

違法な反乱軍 国民が拍手喝采
サハラ砂漠の南に位置するブルキナファソで1月、軍の一部が反乱を起こしカボレ政権を倒した。その約1か月後の2月下旬、首都ワガドゥグを訪ねた。

至る所で銃を持つ兵士が監視の目を光らせ、恐怖の中で人々は沈黙を余儀なくされる――。そんなイメージとは裏腹に中国製バイクが走り回る街はとても明るく、政府機関を守る衛兵も随分とリラックスした雰囲気で任務に就いていた。

「多くの人たちがクーデターを支持している」。そう語ったのは地元記者ジャンポール・オウェドラゴ氏(42)だ。反乱軍が権力掌握を宣言すると、クーデターを支持する大勢の人々が街頭に繰り出したという。

若手軍人の決起で権力の座を追われたロシュ・カボレ氏(65)は2015年、大統領選で初当選し、20年には再選も果たした。政権側は反乱軍を非難し、「民主主義の危機」だと叫んだ。それでもクーデターへの反対の輪は広がらなかった。

選挙で選ばれた指導者が民衆に見放されて、違法なクーデターを決行した勢力が喝采を浴びる――。これが現実だった。

西アフリカ 大きな格差、汚職横行
西アフリカの多くの国では、選挙は行われても国民の要望や不満を政党が吸い上げて民意をまとめ、与党と野党が競い合って政策の実現を目指す民主主義はあまり機能していないと指摘される。

一握りのエリートとそれ以外の大多数との所得や教育の格差も大きい。識字率は低く、ブルキナファソでは4割程度だ。汚職も横行し、そもそも民主主義が育つ土壌が不十分だ。

カボレ政権で文化芸術観光相を務めたタヒル・バリー氏(46)は「選挙をしても勝つのは(有権者を買収できる)金持ちだけだ。欧米と我が国では状況が違い過ぎる」と嘆息する。

西アフリカの国々は保健や教育、所得の水準が低く、近年はイスラム過激派の流入で治安が悪化する。

こうした困難の克服に取り組み、その成果を人々に実感させるのは容易でない。政権打倒の動きが高まれば、不満を募らせる人々の支持が集まりやすい。【6月17日 読売】
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この記事のわずか3か月後には、“民衆の喝采を浴びた”ダミバ氏の一派が追放される事態に。

【「私たちを助けようともしない人たちに、とやかく言われたくはありません」】
その暴力の連鎖の不毛性を糾弾するのはたやすいことですが、現地で暮らす民衆からすれば、民主主義云々より、貧困・不正・暴力の現実をすぐにでも改善してくれる統治者を渇望しているという現実があります。

数日前、NHKのTV番組で西アフリカ・マリでロシアの民間軍事会社が活動しており、そのマリやブルキナファソでは旧宗主国フランスに代わってロシアとの関係が強まっていることを取り上げていました。

その番組のなかで、ブルキナファソの(今回追放されたダミバ政権の)外相の言葉が非常に印象的でした。

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取材班 「ロシアとの関係強化を求める声が増えていますが、そうした声にどう応えますか?」

ブルキナファソ暫定政府 オリビア・ルアンバ外相
「ブルキナファソは、すべての国と友好関係にあるので、優遇する国はありません。関係は、どの国も良好です。ロシアを西側諸国と比べたがる人もいますが、私たちを助けようともしない人たちに、とやかく言われたくはありません。この苦境から抜け出すためには、トゲのある枝でもつかむしかないのです」
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取材班の質問は、国内における人権問題や、ウクライナ侵攻などで、民主主義という価値観ではとかく問題が多いロシアと関係を深めることを問題視する・・・・そういう前提・認識のもとでの問いかけでしょう。

それに対する外相の回答は痛烈でした。
“助けようともしない人たちに、とやかく言われたくはない”・・・・しばしば取り上げる、旧タリバン政権のバーミヤン大仏破壊の際の主張をも思い出します。

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

イスラム過激派のすさまじい暴力、市民生活の破壊という“苦境”から抜け出すため、ブルキナファソは今年2回目のクーデターという“トゲのある枝”をつかんだ・・・ということです。その評価は難しいものがあります。

【隣国マリではロシアの民間軍事会社が暗躍 強まるロシアの存在感】
ブルキナファソの隣国マリでは、やはりクーデターによって実権を掌握した政権と旧宗主国フランスの関係が悪化、フランス軍はイスラム過激派掃討が完了しないなかで撤退。
政権はロシアとの関係を強め、前出のようにロシアの民間軍事会社がイスラム過激派との戦いに従事しています。

****フランス軍がマリから撤退完了 ロシアの影響高まる懸念も****
フランス大統領府は、イスラム過激派武装勢力の掃討作戦の拠点となっていたアフリカ西部マリから、「軍の撤退が完了した」と発表しました。

西アフリカのマリでは、イスラム過激派武装勢力が急速に勢力を拡大したのを受け、2013年、旧宗主国のフランスがマリ政府の要請に応じる形で軍事介入しました。

しかし、2020年以降、二度のクーデターによって政権を掌握したマリ暫定政府との関係が悪化。今年2月、マクロン大統領が軍の撤退を表明し、フランス大統領府は15日、撤退の完了を発表しました。

フランス大統領府は「引き続きサヘル地域などでテロとの戦いに尽力する」としていますが、マリでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」が展開しているとされ、ロシアの影響力が拡大しているという指摘もあります。【8月16日 TBS NEWS DIG】
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****ロシア傭兵部隊ワグネル、アフリカ資源国で暗躍****
マリの鉱物資源を狙い、6件の虐殺に関与したとの疑惑

アフリカ西部マリ共和国の暫定政権の指導者たちは今月、首都バマコの空港に集まり、新たな後援者であるクレムリン(ロシア大統領府)からの届け物を歓呼して迎えた。

マリ国営テレビで流れた記念式典の映像を見ると、滑走路の北端に攻撃機がずらりと並んでいる。ジハーディスト(聖戦主義者)との10年来の戦争の最前線に投入されるロシア製ジェット戦闘機や武装ヘリコプターなどだ。

また視界には入らないが、滑走路の南端にはクレムリンとつながりがある民間軍事会社ワグネル・グループの基地があり、その規模は拡大している。現金および利益を生む可能性がある資源の採掘権と引き換えに、ワグネルはマリに約1000人の雇い兵を派遣した。

「これらの軍装備品は、わが国の防衛・治安部隊の軍事活動を強化するためにできることは何でもやるというわれわれの決意の表れだ」と2020年のクーデターで政権を奪取したアシミ・ゴイタ大佐は語る。(中略)

ロシアの常備軍は、ウクライナ戦争で泥沼にはまり込んでいる。一方、ロシアの軍事外交は、弱小ながら資源の豊富な国々により深く根を下ろし、際限なく関与を広げている。

ワグネルの雇い兵たちは今年、マリ軍と共に、同国中部と北部の州に配置されている。今年3月以降、ロシアが送り込んだ戦闘員は少なくとも6件の大量虐殺の疑いがある事件に関与した、と生存者や西側当局者のほか、国連関係者や人権擁護団体などは話す。そのため数万人の住民が国境を越えてモーリタニアに脱出する事態となった。

マリ軍と「白い肌の」戦闘員による統合部隊は、モーリタニア国境近くの農牧民たちを襲撃し、そのうち数十人を処刑した、とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した国連調査官による非公開の報告書に記されている。

この襲撃はジハーディストに対する軍事作戦の一環だったが、実際には戦闘は起きず、農牧民は武器を持っていなかったと生存者はWSJとのインタビューで語った。

ワグネルは複数のケースで、マリ南西部や中部の資源豊かな地域を偵察するため、雇い兵に先行して地質学者を派遣していた。西側の安全保障当局者はそう話し、タイミングからすると、ワグネルはジハーディストの活動地域から兵力を用いて住民を追い出し、探鉱や採掘のアクセスを確保したのではないかと続けた。

「マリは重要な天然資源と弱い政府を基盤とする国だ。ロシアはワグネルを通じてサービスを提供し、アクセスを手に入れられる」。米シンクタンク、ワシントン近東政策研究所のロシア担当研究員、アンナ・ボルシュチェフスカヤ氏はそう述べた。(中略)

孤立を深めるプーチン氏は権力を誇示し、収入を増やすため、政府外の同盟国ネットワークを活用しようとするが、マリはそれに協力するアフリカ諸国の一つだ。ワグネルは現在、マリやシリア、スーダン、中央アフリカ共和国に進出している。アフリカ大陸に駐留する人員は推定5000人。米軍が展開する約6000人の軍隊および支援要員とほぼ同規模だ。

ワグネルを率いるのは、クレムリンとケータリング契約を結び、「プーチンの料理人」と異名を取る実業家エフゲニー・プリゴジン氏。米政府や欧州理事会によれば、ワグネルは遠く離れた紛争地域でロシアの影響力を行使し、収入源を確保する重要なツールになっており、両者とも制裁対象としている。

ウクライナ軍事情報機関によると、同国の戦場ではワグネルの雇い兵はこの地域を受け持つロシア軍部隊の全体的な指揮の下で活動し、ロシア軍の兵たん部門に組み込まれている。

プリゴジン氏は、ウクライナのロシア占領地域で何度も写真を撮られているほか、ロシアの刑務所を回って新兵の勧誘を行っている。最近、ロシアで最高の勲章「ロシアの英雄」を授与された。
 
クレムリンはワグネルとは何のつながりもないと話すが、ロシア公式メディアにはここ数カ月、ウクライナでのワグネルの英雄的な功績についてのルポがあふれている。

プリゴジン氏はワグネルとの関係を繰り返し否定。WSJの質問に対して最近、「何も知らない」と書面で回答した。
同社は表立ってクレムリンを巻き込むことなく、同盟国に手厚い軍事支援を提供している。

プリゴジン氏とワグネルの雇い兵は定期的にロシア軍用機でアフリカに向かっている、と西側に亡命したロシア空軍の元通信将校グレブ・イリソフ氏や西側の安全保障当局者は明かした。

米財務省によると、マリでは、ワグネルは鉱山会社や政治コンサルタントを含む幅広い事業のネットワークへとひそかに進化し、金抽出サービスや政治運動への助言、ソーシャルメディアの偽情報発信などを手がけているという。【8月24日 WSJ】
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ロシア・プーチン政権にとっては、ワグネルのような民間軍事会社は、手続きにのっとって動かす必要がある正規の軍とは異なり、いかようにでも動かせる便利な存在です。しかも秘密裏に。
更に、どんなに犠牲者が出てても「戦死者」として公表する必要もありません。

ロシアがマリのようなアフリカ諸国と接近するのは単に資源確保の観点だけでなく、西側の制裁を受けるロシアとしては国際的孤立を避ける抜け道ともなります。

****ロシア“強行”に非難 その裏で“友好国”拡大?****
ウクライナの東部や南部の支配地域では、「住民投票」だとする活動が強行され、プーチン政権は今後、一方的な併合に向けた手続きを始めるものと見られています。

これに対し、日本時間の28日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、ウクライナや欧米各国からロシアへの非難が相次ぎました。

しかし、世界は反ロシアで一枚岩になっているとは言い切れない現状もあります。その象徴的な場所がアフリカです。

3月に行われた、国連総会でのロシア非難決議の結果です。アフリカだけで見ると反対、棄権、欠席が合わせて26か国と、およそ半分が非難決議に同調せず、ロシアに配慮するかのような動きを見せたのです。(後略)【9月28日 NHK】
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ワグネルのような民間軍事会社は、正規軍に求められる様々な制約を無視して軍事行動を行うことが多く、そのあたりの“目的達成のためには手段を選ばない”性格が、強権支配政権と親和性がいいようです。

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ワグネル元隊員 マラット・ガビドゥリン氏 「(ワグネルは)実質、ロシア政府が作った、傭兵部隊です。軍とは違って、兵役に就いているわけではないので、法律や軍の規定には縛られません。派遣された場所で戦うだけの"便利な道具"なのです」

軍の規律に縛られないワグネルは、目的達成のためには手段を選ばないとし、そのため強権的な政権に歓迎されるといいます。

マラット・ガビドゥリン氏 「ワグネルは犠牲をいとわず、前進してたたきつぶし、すべてを踏みつぶすのです。アフリカのリーダーは、軍事クーデターで権力の座についた人たちが少なくありません。困難な問題でも手段を選ばず解決するワグネルのやり方に共感しているのです」【同上】
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【“目的達成のためには手段を選ばない”行動によって市民犠牲も】
しかし、その“目的達成のためには手段を選ばない”行動によって市民に犠牲が出ることもよく知られるところです。

****マリ軍と「外国人」部隊、市民50人殺害 ロシア関与か****
マリ中部で4月、政府軍と「外国人」部隊による軍事作戦で女性と子どもを含む民間人少なくとも50人が殺害され、数百人が拘束されていたことが、国連の平和維持活動が8月31日に公表した報告書で明らかになった。

マリ当局は、この主張についてこれまでに反応していない。マリ軍はイスラム過激派と対立しており、ロシアの支援を受けている。

国連マリ多面的統合安定化ミッションの暴力と人権侵害に関する四半期報告書によると、マリ軍は4月19日、「外国人兵士を伴い」ホンボリで一掃作戦を行った。その数日前には、マリ軍の車列が道端に仕掛けられた爆弾による攻撃を受けていた。

「少なくとも民間人50人(女性1人、子ども1人を含む)が殺害され、500人以上が拘束された」としている。拘束された人のうち、数十人を除くほとんどは解放された。2人が拷問で死亡したという。
報告書は外国人兵士の素性について言及していない。

複数の情報筋は事件当時、マリ軍に配属されている「ロシア人アドバイザー」が爆弾攻撃で殺害されたと話していた。

2020年に権力を掌握したマリ軍事政権は、軍の教育係としてロシアの専門家を招聘(しょうへい)した。
西側諸国は、この教育係は親ロシア大統領府の民間軍事会社「ワグネル」の傭兵(ようへい)だとしている

マリ軍は一掃作戦から3日後の4月22日、ホンボリ地区で大規模な治安維持作戦を行い、「襲撃犯」18人を殺害、611人を拘束したと発表していた。 【9月1日 AFP】
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こういう話についても、ロシア・プーチン政権は「ワグネル? 傭兵? そんなもの知らない。ロシアとは関係ない」と言い逃れできる“便利な道具”です。

ただ、当事国政権にとっては、「この苦境から抜け出すためには、トゲのある枝でもつかむしかない」ということにも。
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