孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ならず者国家」ミャンマー軍事政権との付き合い方

2022-10-14 23:04:44 | ミャンマー
(外務省前でデモをする在日ミャンマー人の人たち=東京都千代田区で2022年8月19日【8月19日 毎日】)

【改善が見えないミャンマー情勢】
ミャンマー情勢については、9月21日ブログ“ミャンマーで弾圧を受けるロヒンギャの現状 ミャンマー国内では民主派・国軍戦闘で市民に犠牲も”で、北西部ザガイン地方域にある村の僧院学校が軍のヘリコプターから空爆を受けて児童11人が死亡した事件などを取り上げました。

その後も状況は好転していません。
国軍による軍事政権はスー・チー氏への罪状を積み重ねています。

****スーチー氏と豪人元経済顧問、公務秘密法違反罪で禁錮3年=関係筋****
9月29日 軍事政権下のミャンマーの裁判所は29日、国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と同氏の元経済顧問であるオーストラリア人のショーン・ターネル氏に公務秘密法違反の罪で禁錮3年の刑をそれぞれ言い渡した。(後略)【9月29日 ロイター】
*******************

どのような「国家機密」を漏らしたのかは明らかにされていません。
更に・・・

****アウンサンスーチー氏に新たに「禁錮3年」の判決 刑期は合わせて26年****
(中略)12日、ミャンマー国軍が設置した特別法廷は実業家の男性から合わせて55万ドル、日本円で約8000万円を受け取った汚職の罪でアウンサンスーチー氏に禁錮3年の判決を言い渡した。これまでに14の罪で有罪判決が下されていて、刑期は合わせて26年に上っている。

スーチー氏は去年2月のクーデター以降拘束が続いているが、関係者によると、この日の法廷で健康状態に問題はなかったという。スーチー氏は、訴追されている他の複数の容疑での裁判手続きもあり、拘束はさらに長期化する見通しだ。【10月12日 ABEMA Times】
******************

ミャンマーで抗議デモを撮影中に拘束された久保田徹さんについても、禁固刑が。

****ミャンマーの裁判所が久保田徹さんに有罪判決 扇動罪で禁錮3年、電子通信に関する罪で禁錮7年****
ミャンマーで抗議デモを撮影中に拘束されたドキュメンタリー制作者の久保田徹さんに対し、現地の裁判所は、扇動罪で禁錮3年、電子通信に関する罪で禁錮7年の有罪判決を言い渡しました。量刑は合わせて禁錮7年とみられます。

ドキュメンタリー制作者の久保田徹さんは今年7月、最大都市・ヤンゴンで軍への抗議デモを撮影して、治安当局に拘束されました。

その後、入国管理法違反や扇動罪などで訴追されていて、ミャンマー当局は、久保田さんはデモの場所や日時について、参加者と連絡を取っていたと主張していました。(中略)

久保田さんをめぐっては、他にも、観光ビザで入国し取材したとして、入国管理法違反でも裁判が続いています。
現地の日本大使館は早期の解放を求めていますが、拘束の長期化が懸念されています。【10月6日 日テレNEWS】
*******************

****ミャンマーで拘束の久保田さん、新たに禁錮3年 刑期計10年に****
クーデターで全権を握ったミャンマー国軍の統制下にある裁判所は12日、入国管理法違反の罪で、最大都市ヤンゴンで治安当局に拘束されたドキュメンタリー映像作家、久保田徹さんに禁錮3年の判決を言い渡した。久保田さんは既に電子通信に関する罪などで禁錮7年の実刑判決を受けている。刑期は合わせて10年になる見通し。

国軍は久保田さんが観光査証で入国したにも関わらず、取材活動をしていただけではなく、自らも国軍支配に反発する抗議デモに参加していたと主張している。【10月12日 産経】
*****************

一方、ユニセフによれば、激しさを増す国内の国軍・親軍事政権派民兵と民主派武装組織の間の戦闘で、家を追われる国内避難民は100万人を超えているとのこと。

****ミャンマー、クーデター以降の国内避難民100万人超に ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)によると、ミャンマーで昨年起きた軍事クーデター以降の国内避難民が100万人を超えた。

6日のユニセフ発表によると、民主化指導者アウンサンスーチー氏率いる政権を転覆させた昨年2月1日のクーデター以降、先月までに101万7000人が国内避難民となっている。

国内避難民の半数以上は、国軍・親軍事政権派民兵と民主派武装組織の間で激しい戦闘が行われている北西部ザガイン地域の住民だという。

同地域では先月も国軍が学校を攻撃し、少なくとも11人の児童が死亡した。軍は、潜伏していた民主派勢力を標的にしたものだと主張している。

国連人道問題調整事務所は、クーデター以降、ミャンマー全土で民家など1万2000棟以上が焼かれたり破壊されたりしたと推計している。

危機打開に向けた外交努力も停滞している。東南アジア諸国連合は昨年、軍事政権と民主派勢力の対話や人道支援提供の促進を目指すことなどで合意したが、軍事政権側はほとんど履行していない。 【10月9日 AFP】
********************

【国軍とASEANの関係も悪化】
上記記事最後にあるように、ASEANとミャンマー国軍の関係も悪化しています。

****ASEAN首脳会議不参加 ミャンマー国軍、反発か****
昨年2月のクーデターで実権を掌握したミャンマー国軍が、来月にカンボジアの首都プノンペンで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議や一連の定例首脳会合に参加しない方針を示したことが5日、ASEAN外交筋への取材で分かった。

外交筋によると、議長国のカンボジアが「非政治的な代表者」の派遣を求め、国軍側は反発した。国の代表者に当たらないと判断したとみられる。

ASEANのミャンマー問題特使を務めるカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相は8月、人道状況の改善などに進展がない限り、国軍側が主要会議に出席するのは難しいとの考えを表明した。【10月5日 共同】
********************

ASEANがミャンマーの和平実現に向けて国軍と合意した5項目がほとんど履行されておらず、ASEAN内部には11月のASEAN首脳会議までに合意を見直す必要があるとの声も出ていることは、前回ブログで取り上げたところ。

【ミャンマー関与で対応が分かれる欧米日ブランド】
こうした状況で、ミャンマーとの関係、距離の取り方に苦慮するのはASEANだけでなく、また関係国だけもなく、民間企業の同じです。

****軍政下ミャンマー製品、西側ブランドの対応二分****
H&MやZARA、ユニクロは調達を続ける一方、英テスコなどは撤退

欧米日の小売業者の間では、ミャンマー製の衣料品を購入するかどうかで対応の違いが鮮明になっている。同国は昨年、軍部によるクーデターが起きるまで、衣料品輸出国として世界屈指の急成長を遂げていた。

欧州のアパレル大手プライマークはミャンマー国内の25工場からレインコートやパーカなどの衣料品を購入していたが、先月、撤退を表明した。縫製労働者の安全性と権利を確保するのが困難なことを理由に挙げた。この決定は、アルディ・サウス・グループやC&A、テスコといった他の欧州小売り大手の撤退に続く動きだ。
 
これに対し、スウェーデンのアパレル大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)や、「ZARA(ザラ)」などを展開するスペインの同業インディテックス、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(ファストリ)などは残留している。

H&Mの広報担当者は、「ミャンマーとの貿易を継続すべきかどうかについて、相反する判断や異なる視点」があるとしつつも、同社は撤退する考えがないと述べた。H&Mは「ミャンマーの多くの人々が国際企業に頼って生計を立てている事実に留意している」と述べた。

インディテックスとファストリはコメントを控えた。インディテックスは7月、ミャンマーの供給業者と密接に協力し、人権の保護に注力していると述べた。

こうした議論の核心をなすのは、ミャンマーの低賃金を利用すると同時に同国の貧困層に役立つ雇用を維持するか、それとも労働者虐待(一部の労働者や権利団体は軍事政権下で悪化していると主張)を理由に同国から撤退するかという難しい選択だ。

このジレンマは、ビジネス全般でグローバル環境のリスクが増していることを浮き彫りにする。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻以降、多くの欧米企業がロシア事業の停止や閉鎖を決めている。

英人権団体エシカル・トレーディング・イニシアチブは、ミャンマーの縫製労働者3120人にインタビューを行い、9月に報告書を公表した。それによると、長時間労働や言語的・身体的・性的ハラスメント(嫌がらせ)といった労働法違反が疑われ、また労働者は不満を訴える手段がほとんどないと指摘された。

軍事政権は民主主義的な制度を抑え込もうと、労働組合の指導者を逮捕したり、労働者の権利促進を目指す企業や職業別組合、NGO(非政府組織)などを脅迫したりしているという。

ファストファッションのブランドは通常、衣料品工場を自ら建設・運営することはなく、独立した工場に発注している。それらの工場は大抵、アジアの発展途上国にあり、縫製労働者は1日わずか数ドルの報酬で雇われることもある。

相次ぐ産業災害を受け、各ブランドはここ数年、より詳細な検査を実施するなどして、下請け工場の安全性向上と労働基準の強化を推進している(2013年にはバングラデシュで複数の縫製工場が入った複合ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、1100人の労働者が死亡。ファストファッションの評判も傷ついた)。

ミャンマーでは、軍事クーデター以前からすでに労働者に賃金や退職手当が満額支払われない問題が生じていた。だが人権団体によると、国軍が権力を掌握した後の不安定で抑圧的な政治環境が状況をさらに悪化させたという。

今年9月には、元駐ミャンマー英国大使で、衣料品の国際ブランドなどの投資家に助言する非営利団体(NPO)「責任あるビジネスのためのミャンマー・センター(MCRB)」の代表を務めるビッキー・ボウマン氏が、入国管理法違反の罪に問われ、禁錮1年の判決を受けた。英国の外務・英連邦・開発省は、事件が解決するまでボウマン氏を支援し続けると述べた。

過去1年8カ月の間にノルウェーの通信会社テレノールや仏エネルギー大手トタルエナジーズ、米石油大手シェブロンなど、多くの企業がミャンマーからの撤退を決定した。

カーゴショーツやランニングシューズなどを販売するアルディ・サウスは、2021年9月に撤退を決めた。ビジネスの予測不能性や人権擁護の難しさが理由だという。欧州のファストファッションブランドC&Aもやはり政治情勢を理由に挙げた。英スーパー大手のテスコは、世界の労働組合の助言に従って撤退すると述べた。

一方で、アパレル大手は同国にとどまるべきだと主張する市民団体や労働者団体もある。軍事政権に利益をもたらす炭化水素や通信などの産業とは異なり、アパレル業界が同国に投じる多額の資金は、人件費やその他の生産コストに回されるからだという。

「もし彼らが購入をやめたら、最もしわ寄せを受けるのは衣料品業界の労働者だろう」。ミャンマーの労働組織である労働組合共同委員会(CCTU)のイェ・ナイン・ウィン事務局長はそう話す。

前出のエシカル・トレーディング・イニシアチブの報告書では、欧州ブランドが撤退した場合、失業するか収入が減少する労働者は32万人に上ると試算された。この報告書はブランドが残留すべきか撤退すべきかについては立場を明確にしなかった。

西側ブランドの一部はクーデター後、衣料品の購入を一時中止したが、数カ月後には再開した。国連の貿易統計によると、2022年上半期の欧州連合(EU)・米国・日本向けの衣料品輸出は、前年同期比で29%増、クーデター前年の20年比でも12%増だった。世界銀行によると、ミャンマー経済は19年比で13%のマイナス成長に落ち込んでいるが、衣料品の力強い回復はそれと好対照をなす。

世界銀行は7月の報告書で、2021~22年にミャンマーの通貨チャットが下落したことで、同国製衣料品の価格競争力が強まったと指摘。

ただ、チャット安は――クーデター以降、対米ドルで30%余り価値が下落した――、物価高騰を引き起こす要因ともなった。先月公表された国連開発計画(UNDP)の最新調査によると、就労中の縫製労働者の約半数が、物資不足のために食事の量が減ったと回答している。【10月6日 WSJ】
*********************

欧米ブランドのアパレル需要がミャンマー国内の労働者の雇用と生活を支える、撤退すればそれが失われる・・・悩ましい問題ですが、企業がその点をどこまで真剣に考慮しているかはやや疑問も。

企業が一番気にかけているのは、残留することで得られる経済的利益と、残留することで軍事政権支配に結果的に協力しているとの国内外からの批判・・・この両者の兼ね合いでしょう。

【「独自のパイプ」外交で軍事政権関与を続ける日本政府】
歴史的にも、経済的にもミャンマーと深いつながりがある日本はかつての軍政時代から、米欧とは一線を画した「独自のパイプ」を活かす関与外交を行ってきました。日本側には、そのことがミャンマー民主化を後押ししたとの自負もあるのでしょう。(スー・チー氏は旧軍政下の軟禁時から、日本の経済支援はミャンマー民主化のためにならないと否定的でしたが)

今回軍事政権にも欧米が制裁を発動したのに対し、日本政府はミャンマーへの新規ODAは当面、原則見合わせるが、制裁としては打ち出さないという微妙な対応。制裁を避けているのは、現地利権を中国に奪われるのを警戒してのこととも言われています。

日本は2019年度に1893億円を拠出するなど、ミャンマーにとって最大の援助国です。
確かに日本による新規ODAの原則停止は、米欧が課している国軍幹部らの資産凍結といった制裁と比べてもインパクトがあります。

首相官邸関係者は「ミャンマーにも米欧にも、強力なカードとしてアピールできる」と指摘。政権幹部も「外交上のレバレッジ(テコ)になる」と語っていました・・・・が、現実には「外交上のレバレッジ」「独自のパイプ」が発揮されて軍事政権の対応に改善が見られるという話も聞きません。

****日本ODAへの批判****
2021年2月1日のミャンマー国軍によるクーデターを機に、日本の外交姿勢に対してミャンマー国民の間で厳しい批判が巻き起こった。

欧米諸国が国軍やその関連企業に対して標的制裁)を発動したのに対し、日本は厳しい措置をとらず、むしろ「独自のパイプ」をいかして国軍幹部への働きかけを重視したからである。つまり、日本の姿勢はミャンマー国軍に宥和的過ぎるとの批判であった。

なかでも日本がミャンマーに供与しているODAについて、クーデター後も実施中の案件を継続し、完全には止めなかったことは厳しく批判された。さらに、ODAによる建設事業の一部が国軍関連企業に発注されていたことがわかると、ミャンマー国民の不信は増幅した。ミャンマー国民の批判や不信は、国軍関連企業とビジネスをしていた日本企業にも向けられた。

(少なくとも一部の)日本のODAや日本企業のビジネスは、ミャンマー国軍に資金を与えたのではないか。そして、その資金は武器購入に充てられ、クーデター後の市民弾圧に使われたのではないか。こうしたミャンマー国民の疑念は、そもそも10年前に日本が、国軍が依然として影響力をもつ政治体制であったミャンマーへのODA供与を再開したこと自体が間違っていたのではないか、という疑問まで生むに至っている。(後略)【2021年10月 工藤 年博氏「ミャンマー・クーデターが突きつける日本の政府開発援助(ODA)の課題」 JETRO】
***********************

既存のODAについては未だ継続している日本ですが、ODA事業はさまざまなビジネスを行う国軍を利する懸念がある他、建設される道路等のインフラが、国軍の軍事作戦に利用される恐れもあります。

いったん国軍支配のミャンマーに流入した資金・物資が、その後、提供した日本の意図とは異なる使われ方をする・・・というのは想像に難くないところです。

****国軍が兵士輸送に使用、日本寄贈の旅客船****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は10日、日本がミャンマーに供与した旅客船を、同国軍が西部ラカイン州での国軍兵士の移動などに使ったことが判明したと声明を発表した。  

輸送に使われた旅客船は「キサパナディ1」と「キサパナディ3」。日本の無償資金協力で2017年から順次、供与された計3隻のうちの2隻だ。船舶の供与は、地域住民の交通の利便性や航行安全の向上が目的とされていた。  

HRWによると、ラカイン州政府の運輸大臣が、国軍統制下にある運輸・通信省傘下の内陸水路運輸(IWT)の同州での担当部署に対し、州都シットウェ―ブティダウン間の航行を指示。9月14日に100人以上の兵士と物資を輸送したという。  

ラカイン州では、国軍と少数民族武装勢力アラカン軍(AA)との戦闘が激化している。HRWは、日本から支援目的で供与された船が軍事目的に使われたことで、日本が国軍に加担したことになると批判。日本政府は、あらゆる外交手段を駆使して国軍に圧力をかけるべきだと主張した。【10月13日 NNA】
********************

資金だけでなく「人」のつながりも。

****ミャンマーで死刑執行 日本はまだODAを続けるのか****
(中略)日本政府は死刑執行を非難する共同声明に加わったが、全般的なミャンマー軍への態度は曖昧だ。「軍との独自のパイプを維持する」と言い、いまだに士官候補生を防衛大学校に受け入れ、ODA案件を完全に停止していない。  

「留学している士官候補生にシビリアンコントロールを学ばせる」と言うが、軍という究極的上意下達組織において、彼らが戻ってから市民の迫害・殺害を拒否できるとは考えられない。また、日本は対ミャンマーODAにおいてトップドナーである。これを止めることは軍への大きな圧力となるはずである。【8月4日 NEWS SOCRA】
*******************

シビリアンコントロール云々は悪い冗談のようにも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする