孤帆の遠影碧空に尽き

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ブラジル大統領選挙  事前予想に反して「ブラジルのトランプ」現職ボルソナロ大統“善戦”

2022-10-08 22:58:59 | ラテンアメリカ
(現職のボルソナーロ大統領(左)とルラ元大統領。両候補が決選投票に進んだ【10月3日 CNN】)

【“ルラ氏圧勝”予想に反して現職ボルソナロ大統“善戦” 決選投票に】
10月2日に行われたブラジル大統領選挙は、事実上、ルラ元大統領と現職ボルソナロ大統領の一騎打ちの様相になりましたが、(ルラ氏当選が既定事実のように語られていたにもかかわらず)周知のようにルラ元大統領(労働者党)48.4%、ボウソナロ大統領(自由党)43.2%と、ルラ氏がリードはしたものの過半数にはとどかず、30日に決選投票が行われることになっています。

国民的人気が非常に高いとされてきた左派ルラ氏は2003~2010年まで2期連続当選した元大統領で、汚職で逮捕されていましたが無罪が確定し出馬可能となりました。

極右のボウソナロ氏は経済優先、思ったことをはっきり言う姿が支持者には人気ですが、性的マイノリティや少数民族に関する差別主義的な発言も多く、人権軽視、新型コロナ対応にも消極的、アマゾン森林保護や気候変動にも後ろ向き・・・といったことで、“ブラジルのトランプ”とも呼ばれています。

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両者の政策をまとめると
ルーラ:社会保障重視、中絶合法化、南米諸国やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)との連携の再強化、国営企業の民営化反対。

ボウソナロ:国営企業の民営化、減税、中絶合法化反対、今の財務大臣をそのまま起用。先進国との関係を強める。
大きく異なるのは中絶の合法化と国営企業の民営化である。【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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直前の世論調査では、ルラ氏の支持率はボルソナロ氏に10ポイント以上の差をつけ、1回目の投票で決まるとの見通しも出ていましたので、“以外にも”ボルソナロ大統領が“善戦”した形となっています。

アメリカの“本家”トランプ前大統領も世論調査を上回る結果を出しており、改めて「世論調査の失敗」問題が表面化しています。

****ブラジル大統領選の各種世論調査、ルラ氏大勝との見誤りに波紋拡大****
2日のブラジル大統領選は複数の世論調査の事前予想を裏切って右派の現職ボルソナロ大統領が善戦し、第1回投票での左派ルラ元大統領勝利とはならず、両者の対決は30日の決選投票に持ち越されることになった。

2016年米大統領選や同年の英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票で保守派の強さを見誤った世論調査の「失敗」が再び繰り返された形だ。

事前の各種世論調査では、ルラ氏は7ポイントから最大17ポイントのリードと予想されていたが、蓋を開けると差は5ポイントの接戦だった。

世論調査会社アトラスインテルの責任者アンドレイ・ロマーニ氏は3日、ツイッターで、謝罪が必要だと表明。同社が9ポイント差を予想していたことに言及し、「われわれはこの食い違いに真摯に向き合わなければならない」とした。

17ポイント差と予想していた世論調査IPECは、この予想数字は決選投票に進む可能性はほとんどないことを示していたと認め、最後の最後に他の見込み薄の候補者からボルソナロ氏に乗り換える動きが出たと分析。世論調査の手法を分析し直しているとした。

政治分析のダルマ・ポリティカル・リスクの責任者、コレオマール・デソウザ氏によると、ボルソナロ氏は女性や少数派向けの発言で批判されることの多い右翼の人物で、支持者の多くは物議を醸すそうした人物を支持していることを世論調査に明かしたがらない。トランプ前米大統領が勝利した16年米大統領選にもあてはまった現象だ。

デソウザ氏はブラジル特有の事情も指摘する。コロナ禍の影響で同国では2010年を最後に国勢調査が実施されておらず、世論調査会社の母集団無作為層化抽出がやりにくかったという。移民の多いブラジル社会の変化は早く、例えば右寄りの福音派キリスト教徒の票は急激に伸長している。

今回の選挙直前の数週間で一部の世論調査がルラ氏のリード拡大と1回目投票での当選確定を示す結果になったことで、保守派有権者がびっくりし、他のより中道な候補者の支持をやめてボルソナロ氏支持に回った可能性もある。ルラ氏はこうした展開を警戒し、あえて直前の世論調査結果にコメントするのを避けてきたが、その甲斐はなかったようだ。

政治アナリストらによれば、ブラジルの保守派が、これはブラジル以外でも言えることだが、単純に世論調査会社を信頼していないようにみえることもある。

保守派が回答に応じないことで調査結果が保守派支持の候補者の強さを過小評価し、これが保守派有権者の世論調査への不信をさらに強めるという悪循環になっている可能性がある。

特にボルソナロ氏は4年間の任期中のほとんどで主要世論調査機関叩きを続けてきた。同氏の最側近も2日、支持者らに対し、決選投票までの期間の世論調査には一切応じず、調査結果も無視するよう呼びかけた。ツイッターで「世論調査会社は今回、不祥事をやらかした。犯罪的な誤りだ。一体何が起きたのか明らかにするには大がかりな捜査が必要だ」とたきつけた。【10月4日 ロイター】
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”支持者の多くは物議を醸すそうした人物を支持していることを世論調査に明かしたがらない”・・・そんな口にできないような人物を支持することは「どうなの?」とも言いたくなりますが・・・。

(ことの是非はともかく)自分たちにとって好都合な“本音”と称するものが、本来どうあるべきなのかといった議論を差しおいて優先する、現代の“民主主義”の様相を示しています。

【貧困層に支持される左派ルラ氏 両者バラマキも】
「ルラ氏は貧困層に人気がある傾向がある」とされていますが、実際、今回のルラ氏が票を獲得した地域と貧困層が多い地域はほぼ重なります。

****ブラジル大統領選には歴史や宗教も影響、30日の決戦に向けてヒートアップ****
(中略)ここで、ブラジル国外の人々が知るべきことは、「なぜこの地域に貧困層が多いのか」ということである。

これはブラジルの歴史が関係している。
ポルトガル植民地時代にサトウキビ栽培で栄えた北東部には、ポルトガル人によって多くのアフリカ人が奴隷として連れてこられた。やがてゴールドラッシュで人々が内陸へ流れ、首都はリオデジャネイロに遷都され、北東部はかつての経済的な勢いを失くしてしまう。また、首都から離れた北部の街は未だに開発が進まない地域が多く、約8割の住民が充分な衛生環境(水道水や下水処理の利用など)がない生活を余儀なくされている。

380年以上続いた奴隷制の影響は今も続いている。

ルーラ氏も貧困層の出身で12歳から働き始め、今回の大統領選の候補者で唯一学士号を持っていない。そんなルーラ氏は大統領就任中に新しい大学入試制度を作り、貧困層出身が大学に通えるように努めた。大学進学者は倍増し若者の未来は広がった。ルーラが汚職で逮捕されても熱狂的な支持者が多いのはこういうところにあると感じる。(後略)【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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一方のボルソナロ大統領も低所得層への切込みを狙っており、両者ともにバラマキ的な様相も。

****ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が個人・企業の債務免除打ち出す****
ブラジルのボルソナロ大統領は6日、一部の個人や企業に対する債務免除や、社会保障の財源として配当に課税する計画を打ち出した。30日の大統領選決選投票を前に支持率でルラ元大統領を追い上げており、選挙戦の争点を経済に移した。

ルラ氏もブラジルの消費者のための債務免除プログラムを提案している。

ボルソナロ氏は議会で、12月に期限切れとなる社会福祉関連制度を延長するため、収入40万レアル(7万7000ドル)以上のブラジル人が受け取る配当に課税することで下院議長と合意したと述べた。

同氏とルラ氏はともに、最貧困層に毎月600レアルを支給する制度を来年も継続すると公約しているが、どちらもその財源を明確にしていない。両候補とも財政ルールの変更を視野に入れている。

ボルソナロ氏は、政府系金融機関であるブラジル連邦貯蓄銀行が約400万人の個人と40万社の企業を対象に、債務の最大90%を免除すると説明した。【10月7日 ロイター】
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【ボルソナロ氏の与党・自由党勝利でアマゾン熱帯雨林保護政策は困難に】
今回の選挙は、アマゾン熱帯雨林の急速な破壊に歯止めをかけ、気候変動と自然破壊や野生動物の損失を抑制する重要な機会と国際的に受け止められていましたが、環境保護に消極的なボウソナロ大統領の“善戦”だけでなく、同時に行われた総選挙でもボルソナロ氏の与党・自由党が議席を伸ばし、今後の環境保護政策を困難にしています。

****ボルソナロ氏「健闘」、高まるアマゾン森林破壊の懸念****
ブラジル連邦警察の幹部だったアレクサンドレ・サライバ氏は昨年、アマゾンの森林違法伐採に対する国内最大規模の取締りを主導し、その後に降格された。それならば政治の舞台で国内の熱帯雨林を守りたいと、同氏は連邦議会下院議員選挙に立候補した。

だが、2日に行われた総選挙で議席獲得を目指したサライバ氏と3人の環境保護当局者は、いずれも敗北した。当選した候補の中には、ボルソナロ大統領の政権につながりがあり、環境保護政策を骨抜きにしたとして活動家から批判されている人物も複数いる。(中略)

総数513議席の下院選で最大の勝利を収めたのはボルソナロ氏の与党・自由党(PL)で、99議席を獲得した。ルラ氏の労働党(PT)は68議席だった。

さらに意外だったのは、ボルソナロ氏の自由党が連邦上院で改選27議席中13議席を獲得したことだ。ルラ氏の労働党は9議席にとどまった。

当選者の中には、ボルソナロ政権で副大統領を務めたハミルトン・モウラオ氏のほか、テレーザ・クリスティナ元農相など5人の閣僚が含まれている。

こうした当選者の多くは、アマゾンにおける農業や資源採掘拡大という森林破壊の拡大をもたらしたボルソナロ氏の政策を支持している。(中略)

ボルソナロ政権は、アマゾンをはじめとするブラジル国内の天然林地域における農場や牧場、鉱山の大規模な拡大を認めてきたが、ボルソナロ氏自身は、自らの環境政策について正当化を繰り返している。(中略)

<アマゾンの未来が懸かった決選投票>
とはいえ、政治専門家らは、環境政策を最終的に左右するのは大統領だとしている。大統領には、連邦議会が可決した法案に対する承認あるいは拒否の権限があるからだ。

ルラ氏はマニフェスト(政権公約)で、森林破壊を「ネット・ゼロ」にするという政策を掲げている。2日の投票日前に行われた最後の大統領候補者討論会で、ルラ氏は小規模な違法鉱山を禁止し、新規開拓の代わりに土壌劣化した牧場を農業向けに再生するという公約を打ち出した。

ボルソナロ氏は大統領在職中、先住民居住地域の新規承認を行わないという選挙公約を守った。また、こうした地域における鉱山開発を合法化する法案を提出した。不法占拠された公有地の民有地転換を拡大する法案も支持している。

ボルソナロ氏は再選を目指す中で、「環境保護と、万人のための持続可能で公正な経済成長」とのバランスを取るつもりだと述べている。

環境保護の専門家らは、ルラ氏が当選した場合に提案するであろう環境政策に連邦議会が抵抗する可能性があるとしつつ、大統領経験者であるルラ氏は優れた交渉スキルで知られており、自由党の中でも実利を重んじるメンバーも含め、中道派を味方に引き入れることができるだろうと分析しいる。(中略)

専門家や世論調査はルラ氏が当選する可能性が高いとしているが、サライバ氏は、ボルソナロ氏が勝つ可能性は排除できないとしている。

「恐らくルラ氏が勝つだろうが、絶対に確実とは思えない。議会選で極右の候補が収めた大勝利が、ボルソナロ候補の選挙戦に勢いを与えるだろう」とサライバ氏は言う。

ボルソナロ氏が勝てば、ブラジル領内のアマゾンの終焉につながる、とサライバ氏。「この政権は明らかに森林破壊の共犯者だ」と付け加えた。【10月8日 ロイター】
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今回の大統領選でもアマゾンの今後の行方は注目されているが、国民は環境問題よりも自分により近い問題解決を期待しているように感じる。

これは明日食べるものもままならない家庭が多いという理由だけでなく、日本の22.5倍にあたる広大なブラジルの物理的な問題もあるだろう。

ブラジル南部からアマゾン熱帯地域までは、日本~カンボジア間ほどの距離がある。
アマゾンの問題だけではない。このブラジルの大きさは国民が1つの問題に立ち向かうことの難しさを表している。【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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【懸念される決選投票後のボルソナロ氏陣営の対応】
今後の決戦投票については“ルーラ氏、ボウソナロ氏共にアンチが多いため、2日の大統領選で獲得している数字は殆ど動かないのではと予想されている”【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】という状況で、第1回投票で敗退した3位、4位候補の動向が重要になります。

****ブラジル大統領選、3位候補が決選投票でルラ氏支持表明****
2日のブラジル大統領選第1回投票で3位の得票率だったテベト上院議員は5日、決選投票でルラ元大統領を支持すると表明した。

30日の決選投票で対決するルラ氏と現職のボルソナロ大統領はともに支持拡大に向けて各方面への働きかけを続けており、テベト氏の支持獲得はルラ氏にとって大きな追い風だ。

テベト氏は、ルラ氏がブラジルの民主主義と憲法を守る決意を示しているとの理由から、ボルソナロ氏ではなくルラ氏を応援すると発言した。ただテベト氏の支持者がどこまで呼びかけに応じるかは分からない。

ルラ氏は4日に第1回投票で4位だったゴメス元財務相とゴメス氏が率いる民主労働党の支持も取り付けた。

第1回投票の得票率はテベト氏とゴメス氏の合計が7%、ルラ氏は勝利確定の過半数をわずかに届かない48.4%。ボルソナロ氏は43.2%だったが、事前の各種調査で示された支持率を大きく上回り、陣営内では期待が広がっている。【10月6日 ロイター】
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単純な足し算では、ルラ氏の勝利ということになりますが・・・“支持者がどこまで呼びかけに応じるかは分からない”ということもありますし、ルラ氏圧勝の予想で投票所に行かなかった有権者の行動も影響します。

仮に、ルラ氏勝利の結果になった場合、ボルソナロ氏陣営がどう出るのかも懸念されています。

****敗北しても“トランプ流”??****
では、仮にボルソナロ氏が敗北した場合、ボルソナロ氏陣営はどう出るのか。

ボルソナロ氏はメディアに対し、「結果を受け入れる」と発言しているが、その言葉を鵜呑みにすることはできないとの見方が多い。ブラジルで導入されている「電子投票」について、選挙戦が始まってから突然、「改ざんされる可能性がある」と一方的に主張をしたからだ。

これは、2020年の大統領選で郵便投票が「集計に不正がある」と主張し、今も「選挙が盗まれた」と訴えるトランプ氏の主張と似ている。

ボルソナロ氏の対応次第では、熱狂的な支持者が大規模デモに出る可能性は十分にある。筆者が取材した支援者はいずれも「現時点でルラ氏優勢と伝える世論調査も、メディアによるフェイクニュースだ」と話しているほどだ。この点も、トランプ氏のそれと酷似している。

さらに、実業家数名が作ったSNSでは、ボルソナロ氏が負けた場合、クーデターを指示するようなやりとりがあったことから、何かの動きがあるのではと危惧する向きもある。

「選挙は不正だ」と主張するトランプ氏支持者たちによるワシントンDCでの議会襲撃事件は、人命が失われただけでなく、民主主義の根本の否定にほかならず、個人的にショックを受けた。政策や発言がトランプ流だったとしても、あの事件の再現だけは、ブラジルで起きないことを願うばかりだ。【10月1日 FNNプライムオンライン】
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上記はルラ氏圧勝予想時点の話ですが、もし僅差の勝負となると・・・・
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